カーフノート No.47 人工乳の嗜好性 はじめに 離乳前の子牛を経済的に飼養するには、子牛が人工乳を早い時期から積極的に摂取するようにす ることが重要です。人工乳の摂取開始や、その後のルーメンの発達には、人工乳の嗜好性が大きな 影響を及ぼします。 人工乳の良し悪しを言うときに、「嗜好性が高い」、「選択性が高い」あるいは「摂取量が多い」など と言いますが、これらの用語を区別して使う必要があります。嗜好性が高いとは、その飼料はおい しいという絶対的な評価です。選択性とは、いくつかの飼料のうちどれが好まれるかという相対的 な評価です。選択性を調べる試験は、2 種類以上の飼料を用意して子牛に選択させて行います。こ のとき、最も多く摂取したもの 、あるいは、子牛が最初に選択したものを選択性が高いとします。 ある飼料の嗜好性と選択性の評価が一致しないことが起こります。極端に言えば、まずくても食べ られる飼料と、腐って食べられそうもない飼料とでは、前者の方が選択性は高くなります。一方、 おいしい飼料と、それよりもっとおいしい別の飼料を並べたら、後者の方が選択性は高くなります。 選択性試験で選択性が低いと判断された飼料であっても、その飼料だけしか子牛に与えない場合に は、その子牛には十分においしくて、摂取量が多くなることがあります。 人工乳の嗜好性には多くの要因が関与しており、主なものは以下のとおりです。 風味添加物:嗜好性と摂取量を改善するために人工乳に添加します。一般に糖蜜が使われて います。糖蜜は、ペレット成型時に添加したり、ペレットと穀類を混合した飼料(textured feed)に吹きかけます。乾燥させた糖蜜を使うこともあります。糖蜜の代用品(商品名 Ruma-Sweet)も市販されています。 人工乳に対する糖蜜の適正添加量は、まだ明確になってはいません。飼料工場では、糖蜜の 添加量が多すぎると、例えば飼料袋の中身が冷えたときに固まってしまうなど、取り扱い性 が劣化してしまうので、少量を(人工乳中 5~7%)添加しています。大規模な子牛育成専 業所では、経費を抑えるため、ペレットと穀類を用いて人工乳を自家配合しており、多量の (人工乳中 10%)糖蜜を添加することがあります。このような場合、糖蜜が過剰にならぬ よう注意せねばなりません。糖蜜はルーメン内で急速に発酵するので、子牛が多量の人工乳 (1kg/日以上)を摂取している時期には、糖蜜を多量に添加した人工乳を与えてはいけませ ん。糖蜜の成分含量は、1989 年版 NRC 乳牛飼養標準によると、乾物率は 75%であり、以 下乾物中含量で、CP5.8%、TDN72%、カルシウム 1.0%、リン 0.1%、カリウム 3.8%、マ グネシウム 0.4%です。糖蜜を使用するときには、成分だけではなく、ルーメン内での糖蜜 の発酵速度を考慮することが重要です。大量の糖蜜がルーメン内で急速に発酵すると、ルー メンの pH が急激に低下することがあるので、人工乳への糖蜜添加は適切に行いましょう。 Calf Notes.com © 2001 by Dr. Jim Quigley 翻訳:道立根釧農業試験場 子牛研究会 Page 1 重要なのは、飼料原料でも添加剤でも、それを使うことによって摂取量が向上する効果が、 嗜好性が高くなることによって発現したのか、それとも、発育が良くなることによって発現 したのかを区別することです。例えば、可消化蛋白質含量の高い飼料原料(加熱大豆粕な ど)には、嗜好性を改善する効果はないけれども、子牛の成長を速めて摂取量を増やすので、 食欲を増進させる効果があります。健康な子牛は、病気の子牛よりも人工乳の摂取量が多く なります。人工乳に添加する風味添加物はい 飼料原料が人工乳の嗜好性に及ぼす効果 ろいろものが研究されており、選択性を高め 飼料原料 効果 るもの、嗜好性を高めるもの、あるいは、摂 重炭酸ナトリウム(1%以上) 取量を増加させて発育を向上するものなどが 油脂類(3%以上) 明らかになってきています。風味添加物を子 大豆、綿実殻 イオノフォア 牛に給与する場合には、研究データを見て、 酵母培地 効果を確認してください。 糖蜜 大豆粕 トウモロコシ ビートパルプ ナタネ粕 尿素 -- 飼料の形態:子牛は、ペレットと穀類を混合 した飼料(穀類は全粒でも加工処理したもの でも可)に対する嗜好性がもっとも高いこと が示されています。ペレットのみでも嗜好性 は高く、ペレットのみの方が嗜好性はもっと も高いとする研究もあります。ペレットと穀類を混合したもの、ペレットのみ、どちらの形 態であっても、子牛は十分量を摂取します。これらに比べ、粉状の形態のものは選択性が低 くなります。粉状の形態のものは埃っぽいので、嗜好性も低くなります。 ペレットの品質と粒の大きさ:前記のように、子牛は粒の小さなものは食べたがらず、その 嗜好性は低くなります。このため、ペレットを与えた場合でも、その品質や粒の大きさによ って、子牛の摂取量や成長に悪影響を及ぼすことがあります。 原料の構成:人工乳を構成する飼料原料によって、嗜好性や摂取量が大きく変わることがあ ります。右上の表は、飼料原料が人工乳の嗜好性に及ぼす効果を一般化して示したものです。 当然、実際の効果は、人工乳中の該当原料と他の原料の構成割合によって大きく変わります。 例えば、重炭酸ナトリウムは、嗜好性を高める効果と、逆に嗜好性を低下させる効果を示す ことがあります。このような相反する効果が出るのは、人工乳中の該当原料の構成割合が関 係しています。 人工乳の嗜好性は、その良し悪しを判断する唯一の指標です。人工乳は、嗜好性が高いのはもち ろんのこと、子牛の成長に必要な栄養を供給するものでなければなりません。さらに、人工乳の給 与にあたっては、新鮮で清浄なものを使用し、生後8週間は自由摂取できるようにします。自由に飲 水できるようにすると、人工乳の摂取量は増加します。適切な人工乳給与によってルーメンの発達 が促進され、より早期の離乳が可能となり、子牛育成部門の経済性は高くなります。 Written by Dr. Jim Quigley (28 December 1998). €2001 by Dr. Jim Quigley Calf Notes.com (http://www.calfnotes.com) Calf Notes.com © 2001 by Dr. Jim Quigley 翻訳:道立根釧農業試験場 子牛研究会 Page 2
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