NN2211-1326 治験の標題: 健常日本人成人男子を対象とした NNC 90-1170 の単回皮下投与後の安全性、忍容性、薬物動態及び薬 力学的作用の検討: -逐次用量漸増群法による 1 施設無作為割り付けプラセボ対照二重盲検試験- 治験責任医師: 治験責任医師 1 名 治験実施施設: 日本の 1 施設 公表文献(引用文献): なし 治験期間: 開発のフェーズ: 2002 年 12 月 17 日(最初の被験者の最初の来院) 第 I 相臨床試験 ~2003 年 3 月 28 日(最後の被験者の最後の来院) 目的: 主要目的 • 健康日本人成人男性被験者を対象として、逐次用量漸増方式による 5 用量(2.5 ~17.5 µg/kg)のリ ラグルチド単回皮下投与後の安全性及び忍容性を検討する。 副次的目的 • リラグルチド単回皮下投与後の薬物動態を検討する。 • インスリン、グルコース及びグルカゴン濃度に対するリラグルチドの作用を検討する。 治験方法: 健康日本人成人男性を対象とした、逐次用量漸増方式を用いた、群内無作為割り付け、プラセボ対 照、二重盲検法による 5 用量のリラグルチド単回投与試験。各群 8 例(リラグルチド:6 例、プラセ ボ:2 例)からなる 4 群から構成され、被験者に対し、リラグルチド(2.5、5、10 及び 15 µg/kg)又は プラセボを朝食後に単回皮下投与した。計画されていた 17.5 µg/kg の投与は行われなかった。治験薬の 投与にはノボペン®III を用いた。被験者は Day 0 から Day 4(投与後 72 時間まで)の間、治験実施医療 機関に滞在した。Day 1 の 7~21 日後に事後検査を実施した。 被験者数(計画時及び解析時): 40 例(5 群、各群 8 例)の健康日本人男性〔年齢 20~45 歳、BMI(kg/m2)18~27〕の登録が計画され た。全体で 92 例の被験者がスクリーニングされた。4 用量までの結果から、消化管系の有害事象の発 現により、15 µg/kg が健康日本人成人男性における単回投与後の最大耐用量であることが示唆され、計 画されていた 17.5 µg/kg の投与を中止した。このため、無作為割り付けされ治験を完了したのは 32 例 であった。17.5 µg/kg の投与の中止により、60 例の被験者はスクリーニングを受けたが本治験には組み 入れられなかった。本治験では、これらの被験者をスクリーニング不適格例として取り扱った。な お、被験者の補充は行わなかった。 診断及び主要な組入れ基準: 年齢 20 歳以上 45 歳以下、BMI(kg/m2)18.0 以上 27.0 以下の健康成人男性 被験薬、用量及び投与方法、ロット番号: リラグルチド(NNC 90-1170)5 mg/mL、1.5 mL ペンフィル®カートリッジ、皮下投与、ロット番号: LLDP007 対照薬、用量及び投与方法、ロット番号: リラグルチドプラセボ、1.5 mL ペンフィル®カートリッジ、皮下投与、ロット番号:LLDP005 投与期間: 単回皮下投与 評価基準: 薬物動態 投与後 72 時間の血漿中リラグルチド濃度プロファイルより、以下の薬物動態エンドポイントを算出し た。血漿中リラグルチド濃度は酵素免疫吸着測定法(ELISA)を用いて測定した。 - 投与後 0~無限大時間における血漿中リラグルチド濃度推移曲線下面積(Area under the concentration curve)、AUC0-inf - 最高血漿中リラグルチド濃度、Cmax 最高血漿中リラグルチド濃度到達時間、tmax 消失速度定数、λZ 平均滞留時間、Mean Residence Time(MRT) 消失半減期、t1/2 クリアランス、CL/F 分布容積、Vz/F 薬力学的作用 薬力学的作用に関するエンドポイントは以下の通りであった。 - リラグルチド投与後 0~11 時間における平均グルコース濃度、AUC0-11(glucose)/11 時間 - リラグルチド投与後 11~24 時間における平均グルコース濃度、AUC11-24(glucose)/13 時間 - リラグルチド投与後 0~11 時間における平均グルカゴン濃度、AUC0-11(glucagons)/11 時間 - リラグルチド投与後 11~24 時間における平均グルカゴン濃度、AUC11-24(glucagons)/13 時間 - リラグルチド投与後 0~11 時間における平均インスリン濃度、AUC0-11(insulin)/11 時間 - リラグルチド投与後 11~24 時間における平均インスリン濃度、AUC11-24(insulin)/13 時間 安全性 以下のパラメータに基づき安全性について評価した。 - 身体検査 - 体重 - バイタルサイン(血圧及び脈拍) - 12 誘導心電図(ECG) - 臨床検査〔血液学的検査、血液生化学的検査(空腹時血糖値を含む)及び尿検査〕 - 投与後 3、6、9、12 及び 72 時間の血糖値 - 有害事象 統計手法: 被験者背景(年齢、身長、体重、BMI)及びバイタルサイン(脈拍、血圧)は、例数 N、平均、最小 値、中央値、最大値及び標準偏差を含む基礎統計量で要約した。薬物動態パラメータ(t1/2 及び CL/F を除く)及び薬力学的パラメータならびに血液学的及び生化学的検査の測定値についても、基礎統計 量で要約した。さらに、薬物動態パラメータ(AUC0-inf、Cmax、MRT、CL/F、VZ/F、t1/2 及び λZ)及び薬 力学的パラメータについては幾何平均及び CV%も算出した。尿検査は、例数 N 及び割合%を含む頻度 分布とした。薬物動態パラメータのうち AUC0-inf、Cmax、λZ、MRT 及び VZ/F は、統計解析にあたり対 数変換を行った。その他の薬物動態パラメータは対数変換を行わなかった。t1/2 及び CL/F に関する推 測はそれぞれ λZ 及び AUC に関する推測と等価であるため、これらのパラメータに関する統計解析は 行わなかった。薬物動態エンドポイントの解析モデルでは、各被験者の反応は、全平均、用量(固定 効果:カテゴリー変数)及び確率誤差の和とした。薬物動態パラメータについて分散分析(ANOVA) を実施し、各投与量群の平均値の点推定値及び 95%信頼区間を算出した。対数変換したパラメータの 信頼区間は、元のスケールに逆変換した。tmax は、基礎統計量で提示し、それ以上の解析は行わなかっ た。薬物動態パラメータのうち、AUC0-inf 及び Cmax については、log(パラメータ)を応答変数とし、 log(用量)を説明変数とした回帰分析を行い、用量比例性の検討を行った。回帰直線の勾配の点推定 値及び 95 %信頼区間を算出した。 薬力学的エンドポイントの統計解析は、グルカゴン、グルコース及びインスリンの平均値に基づい た。薬力学的エンドポイントの解析モデルでは、各被験者の反応は、全平均、用量(固定効果:カテ ゴリー変数)、群(固定効果)、ベースライン(共変量)及び確率誤差の和とした。統計解析は、薬 物動態パラメータと同様に、対数変換した値について共分散分析(ANCOVA)を行った。 臨床検査値については、ベースラインからの変化量について、Jonckheere-Terpstra 検定(傾向検定)を 用いてノンパラメトリックに用量反応関係を検討した。 すべての解析において、有意水準は両側 5%とし、多重性は考慮しなかった。 被験者背景: 被験者の年齢(平均±SD、以下同様)は 22.1±1.7 歳(範囲:20~27 歳)、BMI(kg/m2)は 21.1±1.4 (範囲:19.0~24.2)であった。重大な併発疾患を有する被験者はいなかった。 薬物動態及び薬力学的作用の結果: 薬物動態 リラグルチド単回皮下投与後の薬物動態パラメータを以下に示した。 tmax AUC0-inf t1/2 CL/F Cmax 投与量 統計量 (pmol/L) (h) (h) (L/h/kg) (h⋅pmol/L) (µg/kg) 2.5 3,129.0 7.51 a 64,005.2 10.13 0.01070 平均 834.6 11,724.3 0.81 0.00185 標準偏差 a 5 4,857.8 11.00 134,242.7 11.03 0.01002 平均 720.6 14,563.8 1.18 0.00105 標準偏差 a 10 12,267.3 10.00 295,248.0 11.35 0.00961 平均 2,601.8 74,748.6 0.87 0.00281 標準偏差 a 15 18,378.0 10.00 447,940.0 10.88 0.00921 平均 2,937.9 83,133.1 0.90 0.00181 標準偏差 a 中央値 • VZ/F (L/kg) 0.1573 0.0363 0.1590 0.0175 0.1558 0.0380 0.1440 0.0270 λZ (1/h) 0.06865 0.00504 0.06335 0.00676 0.06135 0.00497 0.06402 0.00527 MRT (h) 19.32 1.94 22.27 2.60 21.18 2.59 21.23 2.94 血漿中リラグルチド濃度は、リラグルチド投与被験者では投与後 0.5~72 時間まで定量下限値を超 えていたが、プラセボ投与被験者ではすべての測定時点において定量下限値未満であった。 • リラグルチドの吸収は比較的緩徐であり、すべての投与量において血漿中濃度は投与後 7.5~11 時 間(中央値)に Cmax に到達した。 • すべての投与量において、消失半減期(t1/2)は約 10~11 時間であった。 • 2.5~15 µg/kg の用量範囲において、AUC0-inf 及び Cmax は投与量に応じて増大し、tmax、CL/F、 VZ/F、t1/2、λZ 及び MRT はほぼ一定であった。 薬力学的作用 • 15 µg/kg 投与被験者 6 例のうち、2 例では胃腸障害に分類される有害事象のために摂取した食事量 が非常に少なかった。薬力学的作用の解析には、これらの 2 例を除く残りの 4 例のデータを用い た。 • リラグルチドを投与後 11 時間に摂取した食事によるインスリン分泌は、15 µg/kg 群で少なかった が、AUC11-24/13 の ANCOVA 解析において用量の効果は認められなかった。また、AUC0-11/11(空 腹時)においても用量の効果は認められなかった。 • 投与後 11 時間の食事によるグルコース濃度のピークは、用量依存的に減少し、AUC11-24/13 の ANCOVA 解析においても有意な用量の効果が認められた(P=0.0104)。投与後 11 時間までの空腹 時の AUC0-11/11 では、15 µg/kg 群の平均値はその他の値に比較して低かったが、用量の効果は認め られなかった。 • 食後の平均グルカゴン濃度は、10 及び 15 µg/kg で顕著に低下した。AUC11-24/13 は ANCOVA 解析 により、投与量ごとに統計学的に有意な差が認められた(P<0.001)。10 及び 15 µg/kg 群の AUC011/11(空腹時)はプラセボや低用量と比較すると顕著に低く、用量反応の傾向が示された (P=0.0601)。 安全性の結果: • 32 例の被験者のうち、4 例(12.5%)が 9 件の有害事象(TEAE)を報告した(2.5 µg/kg のリラグル チドの投与を受けた 1 例 2 件、15 µg/kg のリラグルチドの投与を受けた 3 例 7 件)。すべての有害 事象は軽度であり、治療することなく回復した。有害事象の発現による中止例はなく、致死的、重 篤又は臨床的に問題となる有害事象は報告されなかった。 • 2.5~15 µg/kgのリラグルチドが皮下投与されたが、10 µg/kg までの忍容性は良好であった。15 µg/kg 投与被験者では 6 例中 3 例が、胃腸障害に分類される軽度の有害事象(悪心及び/又は嘔 吐、治験薬との因果関係が「あり」)を報告した。以上の結果に基づき、Trial Safety Review Group の提案により最高用量(17.5 µg/kg)の投与は中止された。 • リラグルチド投与被験者では、プラセボ投与被験者に比較して、総コレステロール及びリン(P) がより減少する傾向が認められ、Day 1(ベースライン)から Day 4 までの変化量及びベースライ ンから来院 3(事後検査)までの変化量において、投与量群間で統計学的有意差又は有意差の傾向 がみられた。また、マグネシウム及びアルブミンは、Day 4 においてベースラインからの投与量依 存的な減少が認められた。検討した用量範囲内では、来院 3 における pH 値の変化量に統計学的有 意差の傾向がみられた。血液学的検査、血液生化学的検査及び尿検査において、JonckheereTerpstra の両側検定で投与量依存的な変化はみられなかった。臨床検査値に臨床的に問題となる異 常が認められた被験者はなく、臨床検査に関する有害事象も報告されなかった。安全性評価項目と した血糖値の結果から、低血糖及び高血糖は示唆されなかった。 • バイタルサイン(収縮期/拡張期血圧及び脈拍)は、治験薬投与後 8~12 時間後に低値を示す傾向 がみられたが、投与量依存的な変化はなかった。 • 心電図に問題となる所見は認められなかった。 • 治験薬投与後の体重はベースラインと比較して減少したが、用量やリラグルチド投与との関連は示 唆されなかった。 結論: • 健康日本人成人男性において、2.5~10 µg/kg のリラグルチド投与後の忍容性は良好であった。15 µg/kg 投与後では、6 例中 3 例に胃腸障害に分類される軽度の有害事象(悪心及び嘔吐)が報告さ れており、2.5~10 µg/kg のリラグルチド投与に比し忍容性は低かった。以上の結果に基づき、15 µg/kg が健康日本人男性における単回投与後の最大耐用量であることが示唆された。 • 有害事象の発現により治験を中止した被験者はいなかった。また、死亡、重篤な有害事象及びその 他の臨床的に問題となるような有害事象の報告はなかった。治験期間中に報告されたすべての有害 事象は、治療を行うことなく回復した。 • リラグルチド投与被験者では、投与量依存的ではないが、プラセボ投与被験者に比較して、総コレ ステロール及び P の減少が認められた。プラセボ投与群を含め検討した投与量範囲内では、血液学 的検査、血液生化学的検査及び尿検査において、Day 1(ベースライン)から Day 4 まで又は来院 3 までの変化量に、投与量群間で統計学的有意差の傾向がみられる項目があったが、臨床検査項目に おいて、特に安全性に問題となる所見は認められなかった。 • バイタルサイン及び心電図に投与量依存的な変化はみられなかった。 • 全体として、リラグルチドの安全性プロファイルは過去の試験からの報告と一致しており、特に安 全性に問題となる所見は認められなかった。 • リラグルチドの吸収は比較的緩徐であり、すべての投与量において血漿中濃度は投与後 7.5~11 時 間(中央値)に Cmax に到達した。消失半減期(t1/2)は約 10~11 時間であった。2.5~15 µg/kg の範 囲において、AUC0-inf 及び Cmax は投与量に応じて増大し、tmax、CL/F、VZ/F、t1/2、λZ 及び MRT はほ ぼ一定であった。 • 健康日本人被験者における薬物動態の結果は、健康コーカシアン被験者の結果(NN2211-1149)と 一致していた。 • 本治験の主要な薬力学的作用の結果として、AUC11-24 を指標とした食後血糖値の用量依存的な減少 が認められた。本治験で検討された投与量範囲内では、リラグルチド単回投与による健康日本人被 験者における薬力学的影響は、食後グルカゴン濃度にわずかに認められたが、食後インスリン濃度 にはほとんどみられなかった。リラグルチドの薬力学的作用は、日本人 2 型糖尿病患者においてさ らに検討する必要がある。 本治験は、ヘルシンキ宣言の精神及び GCP に関する ICH ガイドラインを遵守して実施された。
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