国内で専業メーカーとして生体電極を一貫生産ものづくりの技術と精神を

経営
談話室
Vol.119
株式会社アイ・メデックス
代表取締役社長
市田 信七
いち だ しん しち
国内で専業メーカーとして生体電極を一貫生産
ものづくりの技術と精神を、
千葉から世界へ
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夢シティちば 2013年 6月号
心臓疾患の検査・治療からスポーツ科学
まで、幅広い分野で利用されている心電図
検査用の生体電極。その国産化を目指し、
技術力を培ってきた株式会社アイ・メデック
スは、今年3月に千葉産業人クラブ主催の
千葉県最優秀社長賞(知事賞)
を受賞しま
した。積極的な事業展開を進める市田信
七社長にお話を伺いました。
会社外観。この地に根付いて20年以上、着実な歩みを遂げている。社員20名、全スタッフ
合わせて70名で支える。
開発商品の数々。
「どこにもないなら、作ってしまおう!」の精神で
好きなものづくりの現場へ
もともと化学薬品を扱う商社に営
業マンとして入社しましたが、もの
づくりの方が好きだったんです。私
が社会人となった高度成長期は次々
に新しい化学製品が生まれ、シリコー
ンや接着剤など、今では一般的になっ
たあらゆる素材が登場した時代でし
た。様々な業界に顔を出してそれら
を販売するうちに、全く違う業界同
士の製品をそれぞれに紹介していく
ことで“隙間”が見えてきました。
「こ
こに足りないものは、あれを使える
のでは」
「なければ、こうすれば作れ
る」と考え、工場の生産ラインで必要
な機械や生産管理システムまで作る
ようになり、多くの工場に出入りす
ることでさらにアイデアが生まれて
きました。それがものづくりへの第
一歩でした。仕事というより個人的
に引き受けていたんです。経営者が
自由で新しい考えの持ち主だったの
でアイデアも取り入れてくれ、恵ま
れた環境でした。
独立し、製品開発に励む日々
やがてバブルが崩壊し、会社がも
のづくりから撤退。商社専門へと業
種転換することになりました。なら
ばと平成4年、43歳のときに脱サラ
して会社を立ち上げ、家内と2人で
元である化学メーカー㈱クラレさん
より生産中止の通知があったことか
ら、ただちに技術供与及び設備の購
スタートしました。
入をお願いし、内製化が実現しました。
独立にあたり、家族はすんなり理
その後本格的に心電計用電極の開発
解してくれ、それまで一緒に仕事を
に取り組むことになりました。
してきた業界の皆さんも「応援する
ニッチ市場※2に特化していく中で、
よ」と 言 っ てくださるなど、温 かく 「やはり心電用電極は輸入品が安い、
支えていただけたのはありがたかっ
全て輸入品に切り替えたい」というお
たですね。もちろん、大変でしたが、 話を客先よりいただきました。
やりたいことはたくさんありました。 我々も経営存続のため、国内海外
まず当時としてめずらしかった無機
を問わず大手メーカーが生産しない
エレクトロルミネッセンス
(EL)※1の
更にニッチな市場に特化した製品開
製品化を手がけたいと考え、アメリ
発を余儀なくされて最初に開発を目
カの会社から原料粉を輸入し化学品
指したのが、1カ月間位使用できる
メーカーの知り合いにインク化を頼
電極と長時間皮膚面に貼付しても被
むなど、仲間に助けられながらの開
れずらい貼付テープでした。
発でした。作り手として個人的にお
願いし、融通し合って開発を進めて
いましたね。完成したら相互に助か
る製品で、皆さん協力的でした。た
だ開発にあたり、名のある一部上場
会社と我々が肩を並べて取り組むこ
とは正直、厳しかったです。
医療機器業界への挑戦と転機
当社が最初に手がけた医療機器は
心電計装置でトップメーカーのフク
ダ電子さんの部品組み立てをする下
請から始めました。その後心電計検
査で使うウレタンゲルの製造依頼を
いただき、平成7年、創業時の佐倉
市から花見川区三角町に会社も移し、
試行錯誤の上ようやく製品化しまし
たが、同時期にアクリルゲルの製造
〈株式会社アイ・メデックス〉
所 在 地:千葉市花見川区宇那谷町 1504-6
業務内容:銀 / 塩化銀電極の設計・開発、医療
機器の製造・販売、導電性ゲルの製造・
販売、スクリーン印刷・ラベル印刷
http://www.imedex.co.jp/
いちだ しんしち
1949(昭和24)年、
北海道生まれ。平成4年、
化学薬品の商社から独立し、
アイ・メデックスを
創業し、生体電極製造を開始。平成24年、初
の自社ブランド製品「マイローデ」
を発売し、
「第
1回千葉ものづくり認定製品」に認定された。
※1…無機エレクトロルミネッセンス(Inorganic Electro-Luminescence、IEL、無機EL)
とは、無機化合物の蛍光体に電圧を印加すると起こる真性エ
レクトロルミネッセンス。現在の使用用途としては携帯電話のバックライトなど。
※2…ニッチ市場(にっちしじょう)
とは、規模の大きくない特定の顧客層に焦点が絞られたマーケットのこと。
夢シティちば 2013年 6月号
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※my rode…「第1回千葉ものづくり認定製品」に認定された、初の自
社ブランド製品。rodeは電極の意。「マラソンや水泳などでは心拍数を
上げずにスピードを出せる選手が好記録を出し、登山家の三浦雄一郎
さんも心拍数110をキープして歩くと一番鍛えられるとおっしゃっています。
それほど、人間にとって心拍数って大事なものなんですよ」
(市田社長)
幅広い分野で活躍するオリジナル製品
大ヒット製品、そして宇宙へ
初の自社ブランド製品の誕生
その頃、フクダ電子さんの開発担
当者からの依頼で、ホルター心電計
用の電極がほしいという要望があり、
生産数も少ないとのことでしたから、
以前より温めていた構想の製品を採
算度外視で作ってみたんです。我々
の作った電極と、フクダ電子さんが
作った小型ホルター心電計をセット
したら、なんと爆発的ヒットとなり
ました。
2年後には、汗にも強く装着した
まま入浴もできる防水電極へと発展。
近年では、宇宙飛行士が無重力状態
の中で装着し続け、心電図を測定し
ています。
ある日、テレビを観ていたら宇宙
服を脱ぐシーンが映って「あっうち
の製品を貼ってる!」と嬉しくなり
ましたね。
会社員時代から世の中の流れにあっ
た製品を見極め、しかも簡単に製造でき
るという視点で開発を続けてきましたが、
最初は全く相手にされないこともありまし
た。いまでもありますが(笑)
。しかし景
気が悪化する中、当社へは医療分野に
進出を図る中小の製造機メーカーさんか
ら電極の問合せが絶えませんでした。そ
こで思い切ってうちのオリジナルと呼べる
製品を作ろうと考え、誕生したのが初の
自社ブランド製品「マイローデ」※です。
これが驚くほど幅広い分野で利用でき
る製品となりました。心臓疾患の検査だ
けでなく、病気の早期発見など予防医療、
また急増する在宅医療など医師不在の
介護の場や、スポーツのトレーニング中に
心拍数を計測するといったニーズに応え
るものとなったのです。電極を同じ形に
して製造工程をシンプルにし、安価に
生産できるよう工夫をしました。今後、さ
らに多くの方々が気軽に使えるよう、ど
んどん新しい製品を開発・販売
していきます。
受賞後、新たな一歩へ
お陰様で「マイローデ」は
「第1回千葉ものづくり認定
製品」に認定され、また今年
3月には私が千葉県最優秀
企業経営者表彰を受賞(写真
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夢シティちば 2013年 6月号
左 )したことでさらに 反 響 をいただ
き、遠方からの引き合いが増えました。
実は「マイローデ」のヒットは想定外
で、私たちとしてはこの次の製品で
狙っていこう! と考えていたんです。
すでに社内では次の製品開発に向け
て実験を重ねていますが、詳細はま
だ内緒です(笑)
。
今後も医療機器の分野で開発を続
けていきますが、8割方が輸入品で
ある現状から、千葉産・千葉発の医
療機器で巻き返し、逆に海外に向け
て発信していきたいですね。
市田社長
Q&A
Q 1日の平均的なスケジュールは?
朝6時起床。犬の散歩、朝食、洗濯後、
徒歩にて出社。
Q よく読む新聞は?
業界紙、日経新聞。
Q
仕事以外でハマっていることは?
Q
座右の銘(好きな言葉)は?
ハマるほどではありませんが、ゴルフ
と旅行。海外旅行では普段読めない長
編小説を読むのを楽しみにしています。
「運・鈍・根」
運は鈍でなければつかめません。利口
ぶると運は逃げてしまいます。鈍を守
るには根がなければなりません。
Q とっておきのストレス解消法は?
好きな昔の音楽を聴くことで、若いこ
ろのファイトが湧いてきます。
Q「やる気の源」は?
新製品を開発してお客様よりお褒めの
言葉をいただいたときが最高にやる気
が起きます。