進路だより「ほっぷ・すてっぷ・じゃんぷ 第25号」 - 富山県立高志支援学校

進路だより
ほっぷ・すてっぷ・じゃんぷ
平成22年 7月20日発行
在学中に力を伸ばすには
第25号
富山県立高志支援学校
校長
石黒
治美
「一人一人のニーズに応じた適切な進路指導」という事をいろんな機会
に耳にされると思います。昨年度の卒業生進路状況を見ても、高等部では
在宅で生活介護事業所を利用している人から作業所へ通所している人ま
で、中学部では本校高等部や県立高等学校への進学など多岐にわたってい
ます。
本人や家族の希望や実態と受け入れ先の条件が交錯する中、誰もが「あ
あ、もっと早く進路について考えていれば良かった」と思いながらも、限
られた時間の中で最も適切と思われた選択をしたものと思います。しかし、卒業後の進路先として
本当に「適切」だったのか、移行が円滑に進んでいるのか等は、これから問われるところです。
さて、本校では学校教育目標にある「もてる力を十分に生かして、必要な支援の下に自立的な生
活を営もうとする児童生徒」の育成を目指し、日々の学習を尐人数で行っています。尐人数指導で
は、安全確保や健康保持を確実に図れますがそれだけではありません。一人一人の小さな発信をも
逃さず、学習を着実に積み重ね、大切なこの時期にしっかりと力を伸ばしていく、つまり、生活に
必要な知識や技能、コミュケーション能力を養い、基本的な学力を確実に定着させるためなのです。
しかし物事には表裏があり、ともすれば生活全般に甘えが出たり、依存傾向を指摘されたりもし
ます。
「学校ではできるのに体験施設へ行ったらできない」とか、
「学校ではできるのに校外のテス
トは・・」ということが時折あります。これは、自分の力がどれだけ学校の外で通用するのかを確か
めてこなかったからです。一歩飛躍するには反省が必要です。常に課題を新たにしながら学習を積
み重ねることで本当の力がつきます。
各学部では交流学習や各種の体験学習が設定され、特別支援学校以外の教育環境に接したり、卒
業後の就業先や施設等での生活を体験したりしています。学校で得た力が十分発揮できるかどうか
を確かめる良い機会であると同時に、厳しさを実感する場ともなります。他を知ることは自分を知
ることであり、自分を知ってもらうことが世界を広げることにつながります。
保護者の皆様におかれましては、児童生徒がどういう体験や交流をし、どんな成果や課題が見つ
かったのかを是非一緒に振り返っていただき、ご意見をお寄せいただければ幸いです。制度や法律
が次々と変わり、卒業後の進路について心配は尽きませんが、最新情報を集めて現実を直視し、支
援環境が整った本校在学中にしっかりとした力をつけることが、より適切な進路選択につながるも
のと思います。
第1回
就業(生活)体験
報告
今年度の第1回就業(生活)体験が6月7日(月)~18日(金)まで実施され、高等部2・3
年生の4名が体験を行いました。2年生にとっては初めての体験であり、3年生にとっては新たな
る決意をもって臨んだ体験となりました。生徒たちはそれぞれに「自分のできることは自分でする」
「ねばり強く頑張る」「集中して取り組む」など、目標をしっかりもって臨み、全員無事に体験を
終えることができました。体験の様子を一部紹介します。
今回の体験先
あけぼの福祉作業所 (糸魚川市)
高志福祉作業センター(富山市)
つくしの家といで (高岡市)
まごころ (魚津市)
くろべ工房 (黒部市)
高志福祉作業センター
初日からタオルたたみの作業を行いまし
た。タオルを重ねるときに角を合わせたり、
両手でしわを伸ばしたりすることが難しかっ
たけれど、職員の方が丁
寧に教えてくださった
ので次第に作業にも慣
れ、集中して取り組むこ
とができました。
まごころ
パソコンやネームランドを使って、利用者
の名簿やネームシートを作りました。パソコ
ンは、久しぶりにエクセルを使ったので、忘
れているところもあり、もう一度、使い方を
練習したいと思いました。
ネームシートは、たくさん
の数をうまく作ることがで
き、達成感がありました。
あけぼの福祉作業所
アクリルモップづくりでは、毛糸を同じ長
さにそろえて結ぶように気をつけたり、引っ
張るときに緩くならないよう力を入れたりし
て、何度も確認しながら3本完成させること
ができました。
利用者の方との会話にも
慣れ、楽しく過ごすこと
ができました。
つくしの家
といで
キーボード演奏に合わせて鈴を鳴らした
り、外で利用者の方と水運びリレーをした
りしました。環境にも慣れ、
自分から職員の方に近づいて
行って話し掛けたり、入浴体
験を行ったりして、職員や利用
者の方と一緒に楽みながら活動
に参加することができました。
くろべ工房
くろべ工房では、パン販売やクッキーの袋
詰め等の作業に取り組みました。3日間の体
験を通して、心を込めて仕事をすることの大
切さを学びました。
また、今回は、滑川
駅から生地駅までJR
を利用して通所しまし
た。
本校のホームページに「進路のページ」があります。ここ2~3 年の本校高等部の卒
業生が利用している施設・事業所のホームページにリンクできるようにしました。卒業
後の生活を考えるきっかけにしてみませんか? ぜひ、のぞいてみてください。
「進路のページ」・・・・http://www.tym.ed.jp/sc375/shinro/shinro.html
第1回 進路学習会 を行いました
演題 「一人一人の命は輝いている」
6月30日(水)に地域活動支援センター「あかりハウス」の施設長である田中ひ
さこ氏をお招きし、
「一人一人の命は輝いている」というテーマで講演をしていただ
きました。作業所を作りたいと思った気持ちや、どのように作業所を立ち上げ、運営
しているか、また、親として今できることなど、施設長として、また障害をもつ子の母としてという二
つの立場からのお話を聞くことができました。
●長男の子育て(在学時代)
・長男は難治のてんかんのほか、知的障害も併せもつ。
・てんかん発作が多く、学校選びに悩んだ。医療の対応
が可能な学校を選びたかったができなかった。
・小学部1年生の時に静岡県の病院に入院することにな
り、静岡東養護学校の訪問教育を受ける。この時期に
てんかんについていろいろと学んだ。
・在学中は、子どもが話せない分、親が代弁してやるの
がよいと考え、学校でいろいろなことを話すよう心掛 ●作業所を作りたいと思った親の気持ち
けた。
・重度の重複障害とてんかん発作を併せもつ子
どもの卒業後の居場所がなかった。
・毎朝自分の家から出かけ、夕方帰ってくると
いう当然の日常ができなくなった。
●あかりハウスが目指した作業所のイメージ
・作業が十分できない人達が通える場所がなん
・作業ができるかできないかは問わない
としても欲しかった。
・障害の種別を原則として問わない
そこで 障害の重い子供でも「毎日」通える場所を作
・保護者の負担をできるだけ軽減する
りたい!と思った。そのために、長男が高等
・親はできるだけ運営にかかわらない
部時代には県庁の障害福祉課へよく足を運
・医療機関と連携したい
び、作業所について教えてもらった。
●あかりハウスの歩み
平成 8 年 卒業の翌年に自宅でクッキーを作り、学校や病院で売って資金作りを開
始。
(昔、めひの野園でお手伝いをしていたときにクッキー作りを学んだ)
平成 9 年 富山市安養坊の一軒家で利用者 2 名でオープン。
菓子製造業許可取得
平成 10 年 利用者 5 名となり、小規模作業所※としての補助金要件を満たし、補助金
申請をする
平成 11 年 「心身障害者共同作業所あかりハウス」8 名でスタート
全国共同作業所連絡会加盟
現在地へ移転
平成 13 年 療育室増築
平成 14 年 第二あかりハウスとして地域ふれあいルーム「喫茶あかり」オープン
平成 16 年 富山県社会就労センター協議会加盟
平成 19 年 特定非営利活動法人認可
地域活動支援センター※※あかりハウス・地域活動支援センター第二あか
りハウス発足
※小規模作業所とは・・・
・障害者が通所して生活訓練や、職業訓練を受ける場所で無認可の施設である。
※※地域活動支援センターとは・・・
・
「地域活動支援センター」とは、障害者自立支援法における「地域生活支援事業」の一つで、創作
活動または、生産活動の機会の提供、社会との交流の促進等の便宜を図るものである。Ⅰ~Ⅲの3
類型がある。あかりハウスはⅢ型である。
●あかりハウスでの生活
≪1日の流れ≫
9:00~9:30
9:40~
9:50~12:00
12:00~13:00
13:00~13:15
13:15~15:15
15:15~15:30
15:30~15:45
16:00~
通所開始
朝礼
作業
昼食
後片付け 歯みがき
作業
休憩 おやつ
掃除・帰りの準備
終礼 退所
≪作業内容≫
お菓子作り(クッキー、マドレーヌ、チョコレートケーキ、アップ
ルパイなど)
、袋詰め、ラベル貼り、販売、配達、喫茶「あかり」
など
≪お給料≫
作業工賃 1日700円
(1 時間 100 円+1日 100 円)
◆遅刻すると、減額されます◆
ボーナス 年 3 回
年額 26,000 円(前年度実績)
●学校生活を振り返って今、思うこと
息子に障害があり、心配ばかりだったが、小学部から高等部までの12年間の間にたくさんの先生方
にかかわってもらった。今もいろいろな機関でいろいろな人に支えてもらっていて、とてもありがたい。
感謝の気持ちと同時に、頑張ってきてよかったと思っている。
●あかりハウスのこれからの課題
来年度、地域活動支援センターから、新事業へ展開する予定である。その準備として、トイレを増や
す、水道を使いやすくする、事務所を広げるなどを行っている。障害者自立支援法に基づく事業展開と
して、就労継続B型、生活介護に移行していく。そうすることで、就労継続の人たちには尐しでも就労
できる機会を増やし、また生活介護の利用者には、より充実した支援をしていきたいと考えている。
●親としてできること
≪兄弟の心のケア≫自分の子育ての反省点を1つ挙げるならば、障害をもつ子にとらわれすぎて、兄弟
姉妹がなおざりになってしまったことがある。上の子には「元気なんだからそれでいい」と思ってしま
い、寂しい思いをさせてしまった。2人以上お子さんをおもちの方はそれぞれのお子さんに、同じよう
にかかわってあげてほしい。
≪手帳について≫20歳になると、障害基礎年金をもらう。月に1級は8万円ほど、2級は7万円ほど
である。しかし、福祉サービス等を利用すると、最終的に本人には1万5千円くらいしか残らない。療
育手帳Bや身体障害者手帳3級しか持っていない人は、金額が尐ないか、または年金支給要件を満たさ
ないことが多い。学校に在籍している間に、手帳の級を上げたり、いろいろな手帳を取得したりするほ
うがよい。また、手続きの際に子供の状態を軽く言いったところ、実態に相当しない手帳をもらい、ほ
とんど支援が受けられず、生活が苦しくなった人もいる。障害者手帳を申請する際には事実に基づいて、
特にできないことは「できない」としっかりと伝えることが大切である。
講演の後にはあかりハ
ウスのおいしいクッキー
●最後に
やマドレーヌなどの販売
健常者も障害者も、生活するために働いて、そして働くからこそ家庭が安定
がありました。
する。人と人とがかかわって生きることが大事である。そうするなかで、障害の
ある人がない人と同じようなレベルで生活できるようになることが大切であり、そう
いう社会になってほしいと願っている。そのためにも、保護者には自分たちの思いや
要望を声を大にして社会に訴える役目があるのではないだろうか。
進路学習会に参加された保護者の皆様からの感想
・内容が具体的で分かりやすかったです。
・障害をもつ子の母の立場としての話が参考になりました。子供の将来、
兄弟について・・・、これから考えていきたいと思いました。
・あかりハウス設立までの話が聞けて、よかったです。
・自分もお母さん仲間と協力して、何かやりたいと思っていました。
自分のイメージしていたことと同じ内容だったので、今後、詳しく話を聞きたいと思いました。
・親子とも、行動していくことが大切だと思いました。
・役所では教えてくれないことが聞けてよかったです。