本文ファイル - NAOSITE - 長崎大学

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
R-Se-H,R-Se-RおよびR-Se-Se-R(R=CH3,C2H5)のRaman,IR,NMRなら
びに構造
Author(s)
浜田, 圭之助; 森下, 浩史
Citation
長崎大学教育学部自然科学研究報告. vol.28, p.41-49; 1977
Issue Date
1977-02-28
URL
http://hdl.handle.net/10069/32785
Right
This document is downloaded at: 2014-10-30T00:39:22Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
m
長崎大学教育学部自然科学研究報告第28号41-49 (1977)
R-Se-H, R-Se-RおよびR-Se-Se-R (R=CH3 ,C2H5)
のRaman, IR, NMRならびに構造
浜田圭之助,森下浩史
(昭和51年10月31日受理)
The Raman, IR, and NMR Spectra and the Structures
of R-Se-H, R-Se-R and R-Se-Se-R (R=CH3 , C2H5)
Keinosuke HAMADA and Hirofumi MORISHITA
Faculty of Education, Nagasaki University, Nagasaki 852
Abstract
The previous literature have assigned the spectra of R-Se-H, R-Se-R, and R-Se-Se-R on the basis of Cs, C2v, and C2v (or C2) symmetry, respectively. These symmetries
for
the
molecules
seem
to
be
lower
than
those
derived
from
the
present
authors′
spectra. In the previous literature, rotation-vibrational band contours of one fundamental
would wrongly be taken as plural fundamentals. Such false ones would cause a molecule
to be of lower symmetry. In addition, it strongly supports D3d for CH3-Se-CH3 and
CH3-Se-Se-CH3 that the rule of mutual exclusion holds between Raman and IR frequenlitting in NMR. C2H5and C2H5-Se-Se-C2H5 seem to be of non-rigid D3d.
概要
これまでの論文の殆んどのものがR-Se-H, R-Se-RおよびR-Se-Se-Rの振動スペクトル
を,それぞれCs, Cs2vおよびC21,(or C2)対称で説明しているOすなわち折線形!Se\を持つと
いうことである。これ等の対称は,現著者の得たスペクトルから考えられる対称より,低いよ
うに思われる。その原因としては,これまでの論文では,気相における一つの基準振動の回転一
振動スペクトルが,あたかも複数の基準振動であるかの如く見倣されている。このような誤っ
た基準振動の帰属は当然のことながら,分子が実際より低い対称を持つと見誤らせるほずであ
る。ラマソ・赤外の交互禁制が成立することや,例えばC2H5-Se-C2H9のNMRスべクト
*1)第24回有機金属化学討論会にて発表京都会館昭和51年10月13日
42
浜 田 圭之助・森 下 浩 史
ルが,C2H5X(X=ハロゲン)のものと非常によく似ていることは,内部回転を伴うnon−rigid
1)3¢と考えざるを得ない。
序
論
折線形/Se\の場合R−Se−HはC・対称であるが,直線形一Se一の場合C3・対称である・
R−Se−Rについては折線形の場合C、。対称であるが,直線形の場合1)3¢対称である。CH3−Se−H
について考えられば,それぞれの既約表現は次の通りであり
c、18Aノ(R,ρ:1R)+4A”(R:ZR)
C3.;4A1(R,ρ:IR)+4E(R:1R)
CH3−Se−CH3の既約表現は
C2。;7A1(R,ρ;1R)+4ハ2(R)+6B1(R;IR)+4B2(R;1R)
Z)3¢13A、,(R,ρ)+1君1。(加・.)+3ハ2馳(IR)+3Eg(R)+4E畠(IR)
である。これ等既約表現を見るとぎ,それぞれの対称から予想できるスベクトルは,それぞれの
特徴を有する。CH3−Se−HとCH3−Se−CH3のスベクトルを比較するとき,折線形/Se\であ
れば前者はC、後者は()2.で,C2,.の・42パンド以外すべてのバンドはラマン・赤外の一致を
見る。一方,直線形一Se一の場合前者はC3”で,すべてのラマン・赤外バンドは一致するのに対
し,後者のD3dではラマン・赤外の交互禁制が成立する。すなわち直線形一Se一の場合CH3一
一Se−HとCH3−Se−CH3の振動スペクトルは顕著な相違を示すはずである。したがって振動スペ
クトルに基づき,構造を決定することは比較的容易なはずである。このためR−Se−H,R−Se一
一R,R−Se−Se−Rの振動スペクトルを比較検討した。その結果,これまでの文献の得たスペクト
ルも,現著者の得たスペクトルも全く同じであるにもかかわらず,帰属の相違する理由は,そ
の一つは回転一振動スペクトルが無視されていたこと・その二には量子論的にsp3混成のみにこ
だわっていたためであることが判明した。
実
験
試料CH3−Se−HL2),CH3−Se−CH33・4)CH3−Se−Se−CH33・5),C2H5−Se−H6・7),C2H5−Se−C2H58・9)
およびC2H5−Se−Se−C2H510・11)はそれぞれの文献に従って,あるいは変形法によって合成し,
蒸留により精製した。
ラマンスペクトルは気相測定は困難であるので,液相でJEOL JRS−SIB型分光光度計(Ar・,
4880A:He−Ne,6328A)で測定した。赤外スペクトル測定にはShimadzu IR−450型分光計
(光学物質,KRS−5)を使用した。回転一振動スペクトルを得るため,できるだけ気相で測定
したが,低蒸気圧物質は溶液で測定した・ NMRスペクトルはJEOL JNM PS−100型分光
計で測定した。
結果およぴ考察
1 CH3−Se−HおよびC2H:5−Se−H
CH3−X−Hタイプ分子は現著者2)以外,殆んどの研究者がC、に帰属している*2)。現著者2)の
*2)論文(2)の中の引用論文
R−Se−H,R−Se−RおよびR−Se−Se−R(R=CH3,C2H5)のRaman,IR,NMRならびに構造 43
測定したスペクトルは,Fig.1に示す様にスペクトルが非常に簡単で,到底C・選択則に基づ
いては説明できない。また平行タイプ赤外パソド(気相にて測定)は,三回回転軸を持つ分子の
特徴であるpQR枝を示し,そのP−R分離値は23cm}1で,C3。構造のパラメータ12)より計
算した値13)24.3cm−1とよく一致する。さらにCH3−Se−HのスペクトルはCH3−C≡N(C3η)
やCH3Cl(C3.)のスペクトルと極めて良い対応を示している2)。これ等分子の場合,垂直タイ
プパソドは強,弱,弱の繰り返しを示している。このこともまた,三回回転軸を有する証拠で
ある。C、と見られた大きな原因は,これら一つの基準振動の回転一振動スペクトルを,複数
の基準振動と見あやまったことによる。
C2H5−Se−Hの場合,直線形一Se一であってもCH2基が存在するため,C3。対称とはなり
得ないと思われる。しかしFig.1に示す振動スペクトルは,C・撰択則*3)では到底説明できな
い程簡単であるし,CH2に由来する振動バソドを除けば,CH3−Se−Hのスペクトルに極めて
強い対応を示す。すなわち,分子内回転を伴なうnon−rigid C3・であるとすれば,得られたスペ
クトルは説明できる。
CH3−X−H2・14)およびC2H5−X−H15)タイプ分子の,プ・トンNMRスペクトルはすでに発表
した。後者の場合低磁場側のCH2基のシグナルがquartetに,高磁場側のCH3基のシグナ
ルがtripletに分裂していて分裂間隔が等しいことは,CH:3基の三つのプ・トンがCH2のプ
・トソに対して等価であり,CH2基の二つのプ・トソがCH3基のプ・トンに対して等価であ
ることを示している。このことはCH2基がCH3基に対して,自由に回転している場合にのみ可
能である16一・)。 このことは先に振動スペクトルから帰属した,non−rigid C3,構造を強く支持
するものである。しかしながら一方ではC2H5−X−Hをエタソ誘導体と考え,分子回転のpo−
tential barrierが低いため,平衡にある回転異性体が平均化され,等間隔のCH2基のquartet,
CH3基のtripletが現われるとする説もある16陶a)。しかしCH3−CH2−X−CH2−CH3では,分子
が1inearであるとする以外:NMRスペクトルは説明できない。しかもslow rotation,つまり
rotational isomersを示すスペクトルは未だ得られていない*4)。
2 CH3−Se−CH3およびC2H5−Se−C2H5
現著者がCH3−Se−CH3をjD3dに,C2H5−Se−C2H5をnonイigid Z)3dに帰属している以外,
殆んどすべての論文は前者をC,。に,後者をC2・あるいはC2に帰属している*5)。その理由は
前(1)項に述べたところと同じく,回転一振動スペクトルの複数の基準振動への誤認と,sp3
混成軌道一点張りで,sp、二方性混成軌道が理論上可能であるのに,これをとり入れようとし
ない偏見である。
CH3−Se−CH3と同タイプ分子CI3SiOSiC13は,現著者を含め若干の研究者が.D3α16−D・17)あ
るいはD3ぬ18)であるとしているが,大部分はC2”であるとしている*6)。しかしこ』に,このタ
*3)CH3−CH2−S−H, Cε ;13A’(R,ρ :IR) 十 8/1”(R :IR)
CH3Y−S−H(Y=CH2),C3。:5!11(R,ρ:IR)十5E(R:IR)
*4)存在を如何なる方法でも検出していない思考上のrotational isomersを持ち出し,振動スペクトル,
NMRスペクトル両者が証明している1inear−C−C−Se−Hを否定するのであるから,実証を重んず
る自然科学の観点に矛盾すること甚だしい。さらにrotational isomersをよ,rotationが存在しない場
合にのみ存在が可能である。しかるにこれまでSlOw rOtatiOnの場合には,rOtatiOnal iSOmerSが存在
するとしているのは,大きな矛盾であるQ
*5)論文4−a)の引用文献多数
*6)論文16−b)中の引用文献多数
"JFEl
44
3000 2500 200015001000 500 cm l
Fig .
l Raman and IR spectra of R-Se-H, R-Se-R and R-Se-Se-R (R=CH8, C2H5)
*) citcd from the literature
R−Se−H,R−Se−RおよびR−Se−Se−R(R=CH3,C2H5)のRaman,IR,NMRならびに構造 45
イプの分子をC2。に帰属した一つの原因であるところの,回転一振動不ペクトルの誤認を裏付
ける興味深い報告がある。すなわち気相でのCl3SiOSiC1319)およびF3SiOSiF320一α)は02,構
造であるが,凝縮相では構造のdrasticなchangeが起って,1inear−O一構造となるというの
である。 しかしながらこれは構造の変化ではなく,回転一振動スペクトルの誤認に基づくもの
である。すなわち気相では回転一振動スペクトルの出現のため*7),これを複数の基準振動と見
たため低対称のC2,と見誤り,凝縮相では回転一振動スペクトルの消失のため,高対称構造へ
の変化が起ったと見たのである。同タイプ分子SiH30SiH321),CH3−X−CH3(X寓0,CH2,
:NH)22),CH3−Hg−CH323)およびCF3−Hg−CF324)はZ)3¢であると報告されている。特にIinear
Br−Se−Br基が存在すると述べている論文25・26)すらあるのに,1inear−Se一はあり得ないとす
る,一部のかたくなな態度はうなづけない。
C2H5−Se−C2H5についてはすでに,non−rigid D3dであることを詳しく述べている9)。本分子
がrigid分子であるなら,その最高の対称はc2,かc2鳥で,既約表現は次の通りである。
C2。 :12/11(R,ρ;IR)十8ハ2(R)十11B1(R;IR)十8B2(R;IR)
C2ん :11Ag(R,ρ)十9A秘(IR)十7Bg(R)十12B%(1R)
これに対してCH2基を一つの回転体と考えた,D3¢の既約表現を次に示す。
Z)3¢:4五1σ(R,ρ)+1ん鉱(加o)+4孟2拐(皿)+4Eg(R)+5E%(IR)
Fig.1に示されているようにスペクトルは非常に簡単で,CH2に由来するバンドを除き,ラ
マソ・赤外の交互禁制が成立している。したがってnon−rigid D3αと断ぜざるを得ない。この
構造は次にのべるNMRスペクトルによっても支持される。
CH3−Se−CH3のプ・トンのNMRスペクトルは唯一本のバソドのみ示す。これは6個のプ
ロトソが全く等価であることを示す。 したがってCH3基の分子内回転を考慮すれば説明がつ
く。この際linear−Se一であれば勿論,bent/Se\でもCH3基の内部回転は可能であり,こ
のNMRスペクトルの説明はできる,とするのがbent/Se\を主張する研究者の論拠であ
る。一方C2H5−Se−C2H5のNMRスペクトルは,C2H5−Se−Hのものと全く同じ形である。
C2H5−Se−Hの場合エタソ誘導体と考えても,分子内自由回転を考慮してスペクトルの説明はで
きたが, C2H5−Se−C2H5の場合CH2の分子内自由回転は, 機械的(構造的)に不可能であ
る。このタイプの分子にも回転異性体の存在が唱えられているが*3),回転異性体は分子内回転
がrestrictされてはじめて存在するのであって4),分子内で自由回転が起っていれば,回転異
性体はあり得ないのである。事実,回転異性体は上記の誤認*8)によるもの以外には認められ
ていない。
3 CH3−Se−Se−CH3およびC2H5−Se−Se−C2H5
CH3−Se−Se−CH35)に対する可能な構造は,D3α,D3π,C2厄,σ2,,C2およびC・である。これ
までの文献*9)ではこのタイプの分子は,σ2.あるいはC2であると報告されている。しかしな
がら現著者の得た振動スペクトルは,スペクトルが簡単で,ラマソ・赤外の交互禁制が成立し
ている。したがって次の既約表現の示すように,本分子はD3d構造であろう。
D3d :4Alg(R,ρ)十1/11u(ガηαc)十3!12鴨(ノR)十4Eg(R)十4E脳(1R)
*7)Cl3SiOSiCl3やF3SiOSiCl3の如く慣性能率が大きくなると,回転一振動スペクトルは出現し難いも
のであるが,論文㈲,⑳の場合,長行路セルを使用しているので,回転一振動スペクトルを得たの
であろう。
*8)た父レC−Se−Cのバソドが,少しはなれて複数本存在するという理由のみによっているが,すでに
のべたように,回転一振動スペクトルの複数の基準振動への誤認に他ならない。
*9)文献(5)の引用論文。
46
浜田圭之助・森下浩
史
CH3
CH3−Se−Se−CH3
TMS
CH3
CH3−S6−CH3一
せMS
CH3−Se。H
巴r
3H
CH3
C2H5−Se−H 3H
CH2
2H
TMS
SeH・
CH3
SeH
TMS
C2H5−Se−C2H5 3H
C2Hl5−Se−C2H5
CH3
CH3
2H
llCH2
TMS
T》s
C2H5−Se−Se−C2H5 3H
CH3
2H
CH2
TMS.
7.0 8.0 9.0 10。0 11.0τ(PPm)
/
Fig。2100MHz proton NMR spectra of R−Se−H,R−Se−R,and R−Se−Se−R(R=CH3,C2H5)
Form of Vibratlon
Al
(p) 2922vs
6s CH3 (in pllasc)
(p) 1268s
(p) 1285m
ni l_ ni l
V C-C- So
Tort ion
(p) 578vs
(p_) 288vs [
IR
J
ni l
S
nil
?.
nil
,
( {
[( )230m]
vs CH3(out of pllasc)
[-:・In:r{: (ll) 2940vs
6s CH3(out of phasc)
(ll) 1270S
va C-C-Sc
nil
va C-Se- (Sc) -C
ni l
l(1)cD
(p) 585vs
[ (p) 278ml
da CH3
a
(Il) 2928vs
(l[) 1272s
nil
(li) 894vs
(d)
3003mr --EE
(d)1420m
v;t CH 3
do
nil
(1!) 912s
U
(d) 2995m
II
O
(d) 1425w
Eg pr CH 3
(?) 898m
(d) 178nnsh
bcncl C-Sc-Se-C
bcnd C-C r Sc-H)
ni I 'i
vaCH3
nil
nil
nil
ni l
ni l
-
bend C-Se-C
bcnd C-C
-
ni I ni l
O
(i) 3015vs
iLl( )1430vs
Pr CH3
::
( ) 600rn
-
( a CH3
Eu
Raman
(p) 2923vs
vs So-Se (1/s Sc-H)
A2u
Ramall I R
cf
CH 3 -So-CH 3
vs CH3 (in pllasc)
vs C- So- (C)
AIL[
CH 3 - Sc- Sc-CH 3
'
(J_) 1438vs
S
(i) 62Sw
r.L) 958m
nil
:l
nil
(p) 2870s
(
) 2890s
( )
(d) 2955wsh
(p) 2864m
( )
( )1375w
(
) 1378m
(?) 1373w
(d) 96Sw
(
) 967w
(d) 960m
(
(
) 2864s
) 29S3s
) 1374s
:
:
U
ht+
¥y
(; .
Table 1
(
) 958vs
Symmetry species , selection rules and frequency assignments of vibrations of R-Se-H, R-Se-R and R-Se-Se-R (R = CH3 ' C2H5)
rl
48
浜 田 圭之助・森 下 浩 史
Z:)3瓦 :4!11’(R,ρ)十1!11”(づπα‘)十3A2”(ZR)十4E躍(R)十4E’(R:IR)
C2た :8Ag(R,ρ)十7A駄(ZR)十5Bg(R)十4B髄(IR)
C2” :8A1(R,メ》:IR)十5A2(R)十4B1(R:IR)十7B2(R:IR)
C2ゴ3A(R,ρ:IR)+11B(R:IR)
C1 :24・4(R,ρ:IR)
本分子が低対称分子と見なされた理由は,R−Se−HおよびR−Se−Rの場合と同じである。
C2H5−Se−Se−C2H5の振動スペクトルは,Fig.1に示すように極めて簡単で,CH2基に由来
するバソドを除けば,ラマソ・赤外の交互禁制が成立している。またC2H5−Se−C2H5のスペク
トルと極めて良い対応を示している。 したがってCH3−Y−Se−Se−Y−CH3(Y=CH2)と考えた
場合,jD3αの示す既約表現
Z)3α :5Alg(R,メ》)十1A1葛(∫ηα(ン)十4/12鴨(IR)十5Eσ(R)十5E秘く1R)
に最もよく合致す。勿論これにCH2基に由来する振動スペクトルが加わる。
CH3−Se−Se−CH3のNMRは唯一本のパンドを示し,C2H5−Se−Se−C2H5のそれはC2H5−Se−H,
C2H5−Se−C2H5と同じく,一つのquartetと一つのtripletを示す。何れも先に述べたように
分子内の自由回転に基づき説明できる。
細部になお,若干のバソドの帰属,polarizationstate等に疑点も残るが,一応,表1にスペ
クトルの帰属をまとめた。
結
論
R−Se−H:,R−Se−RおよびR−Se−Se−R共に, これまではbent/Se\あるいはbent
C/C\Se/と考られていたが,今回の研究はりすべて1inear−Se一,1inearC−C−Se一で
あることが分った。そして折線形と見倣されていた理由,すなわち振動一回転スペクトルめ誤
認,:およびsp3混成のみを可能とする偏見(これはH20のbent/0\に根拠をおくものであ
るが)についても触れた。またはっきりと1inear−Se一とする文献もあることも述べた。なお
ヤ ノ
Cと同族のPbに1inear−Pb一をもつ化合物があることを述ぺている文献27・28)もあること
を付け加えておく。更にNMRスペクトルもR−Se−Hに対してはC3.,R−Se−RおよびR−Se一
一Se−Rに対してはD3¢であることを示していて,振動スペクトルの示すところと完全に一致し
ているo
以上のように従来主張されてきた低対称構造は,あらゆる角度から否定され,また低対称構
造に基づきNMRスペクトルが説明されているが,未だ何れの手段によってもその低対称構造
は確認されていない。その低対称構造である回転異性体が,分子内回転により平均化されると
いうことは,実証を重んずる自然科学に於ては,異例の発言と言わざるを得ない。
References
1)G,E.Cotes,」.Cんε撹.500.,2839(1953)
2)K.Hamada and H.Mor圭shita,S‘ぎ.BπJJ.Fα6、E4πc,Nα9α5αたJ U物。,27,33(1976)
3)M.L.Birdand F.Challenger,」.Ch吻.50‘,,570(1942)
4−a)K.Hamada and H.Morishita,S‘づ.B膨ZZ,.Fαc.Eぬo.2〉α9α5αゐゴひ刀伽.,26,49(1976)
一b)K.Hamada and H.Morishita,助顔ro5coρy Lε甜.,9(11),743(1976)
R-Se-H , R-Se-R
s J
)
R-Se-Se-R (R=CH3 , C2H5) q) Raman , IR, NMR t
)
c ;
49
5) K . Hamada and H. Morishita, Sci. Bull. Fac. Educ. Nagasaki Univ., 27, 27 (1976)
6) K .Hamada and H. Morishita, ibid, 28 (1977) , in press
7) K . Hamada and H. Morishita, Sci. Bull. Eac. Educ. Nagasaki Univ. , 28 (1977), in press
8) K . Hamada and H. Morishita, modified method of Ref. -3)
9) K . Hamada and H.Morishita, Sci. Bull. Eac. Educ. Nagasaki Univ. , 27, 61 (1976)
10) K . Hamada and H.Morishita, ibid, 27, 61 (1976)
11) K . Hamada and H. Morishita, Sci. Bull. Fac. Educ. Nagasaki Univ. , 28(1977), in press
12) T. Shimanouchi , IKOZO Kagaku Shiryo" Shokabo Publishing Co. (1966) Tokyo
13) S. L. Gerhard and D. M. Dennison, Phys. Rev., 43, 197 (1933)
14) K . Hamada and H. Morishita, Jap. J. Appl. Phys. , 15, 748 (1976)
15) K . Hamada and H. Morishita. Sci. Bull. Fac. Educ. Nagasaki Univ., 27, 45 (1976)
16-a) J . A . Pople , W. G. Schneider and H. J . Bernstein , I High-Resolution Nuclear Magnetic
Resonancen. McGraw-Hill Co., N . Y. (1959) pp. 94, 377 379
-b) K . Hamada, J. Fluorine Chem. , 7, 385 (1976)
17) T. F. Tenisheva and Lazarev, Izv. Akad. Nouk, SSSR, Neor. Mat. , 4, 1952 (1968)
18) J. R. Durig and K. L. Hellams, Inorg. Chem., 8, 944 (1969)
19) J. R. Durig. M. J. Flanagan and V. F. Kalasinsky, J. Mol. Stauct., 27, 241 (1975)
20) J. R. Durig, V. F. Kalasinsky and M. J. Flanagan, Inorg. Chem., 14, 2839 (1975)
21) R. C. Lord, D. W. Robinson and W. C. Schumb, J. Amer. Chem. Soc., 78, 1327 (1956)
22) K. Hamada and H.Morishita, Z. Phys. Chem., N. F., 97, 295 (1975)
23) L. A. Woodward, Spectrochim. Acta, 19, 1963 (1963)
24) A. J. Downs,. J. Chem. Soc., 5273 (1965)
25) D. J. Williams and K. J. Wynne, Inorg. Chem. , 15, 1449 (1976)
26) G. C. Hayward and J. P. Hendra, J. Chem. Soc., A1760 (1969)
27) R. J. H. Clark, A. G. Davies and R. J. Puddephatt, J. Amer. Chem. Soc., 90, 6923 (1968)
28) Y. Kawasaki and M. Aritomi, J. Organometal. Chem., 104, 39 (1975)