平成 18 年度 学位論文 Riemann-Roch の定理について 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教科・領域教育専攻 自然系コース M 0 5 2 3 9 I 糟 谷 仁 志 目次 0章 序 2 1章 準備 6 1.1 可換環論の基本事項 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 1.2 べき有限次線型変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 1.3 微分加群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 1.4 完全体上有限生成な体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 アフィン多様体 23 2章 2.1 アフィン代数的集合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 2.2 既約な代数的集合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27 2.3 Hilbert の零点定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 2.4 アフィン多様体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33 2.5 有理関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39 2.6 アフィン多様体の次元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46 2.7 非特異アフィン多様体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50 射影多様体 58 3.1 射影代数的集合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59 3.2 有理関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 67 3.3 アフィン多様体と射影多様体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 74 3.4 射と射影変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 90 非特異射影曲線 96 3章 4章 4.1 離散付値環 4.2 近似定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 101 4.3 因子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 103 4.4 Riemann の定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 114 5章 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Riemann-Roch の定理 97 118 5.1 Riemann-Roch の定理の暫定版 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 119 5.2 関数体の微分加群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 123 5.3 留数定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 131 5.4 Riemann-Roch の定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 147 付録 A Krull の標高定理の証明 158 参考文献 163 0章 序 本論文の目的は Riemann-Roch の定理を証明することである. Riemann-Roch の定 理は Riemann が 1857 年に証明した不等式 (D) ≥ deg D + 1 − g を G.Roch が Crelle 誌に発表した論文 (1863 年) で等式として完成したものである. 定理 (Riemann-Roch) 非特異射影曲線 V 上の任意の因子 D に対して次の等式が 成り立つ. ただし KV は V の標準因子, g は V の種数, (D) は線型空間 L(D) の次 元である. (D) − (KV − D) = deg D + 1 − g Riemann-Roch の定理は元来 Riemann 面の位相的な量である種数 g を, 代数的な量 と関連づけたものである. その後, 1929 年に一般の代数曲線に対して証明され, 1950 年に Hirzebruch により n 次元多様体に拡張された後, さらなる一般化が Grothendieck によっ てなされている. この論文では非特異射影曲線の場合の Riemann-Roch の定理を証明す る. なお Roch は G¨ ottingen 大学で Riemann の講義を聴講したが, 共同研究をしたわけ ではないようである. また Riemann-Roch の定理という呼び方は M.Noether と A.Brill の 共著の論文 (1874 年) でそのように引用されたことが端緒とされている. 代数的閉体 k 上の非特異射影曲線とは, 射影空間 Pn (k) 内にある, 特異点を持たない 1 次元射影多様体のことであり, 非特異射影曲線 V 上の因子とは, V の有限個の点の形 式的な整数係数 1 次結合をいう. 因子 D の係数の和を次数といい deg D と表す. 因子自 体は非特異射影曲線に限らず一般の集合上でも定義できるが, Riemann-Roch の定理で曲 線 V の性質を反映しているのは (D) と KV と種数 g である. V が非特異であることか ら各点 P での局所環 OP (V ) は離散付値環となり, 有理関数体 k(V ) に離散付値 ordP を 定める. V 上の有理関数 f の極と零点が有限個であることより有理関数 f から主因子 div(f ) = ordP (f ) P P ∈V 2 0. 序 3 が定まる. これより有理関数体 k(V ) の k 線型部分空間 L(D) = {f | div(f ) + D ≥ 0} ∪ {0} が得られ, その次元 (D) が有限であることが導かれる. 一方 k(V ) の微分加群が 1 次元 k(V ) 線型空間であることが示され, その生成元から標準因子 KV が定まる. Riemann が 示した不等式から deg D − (D) + 1 が D によらず上に有界であることがわかり, その最 大値として V の種数 g が定義される. 最大値との差が L(KV − D) の次元に一致する, す なわち (KV − D) = g − deg D + (D) − 1 が成り立つというのが Riemann-Roch の定理である. 本論文では 1 章で準備, 2 章でアフィン多様体の基本事項, 3 章で射影多様体の基本事 項を説明し, 4 章で Riemann の定理, 5 章で Riemann-Roch の定理を証明する. 以下, 各章 の概要について述べる. 1章では, 後章で必要となる可換環論の基本事項, 5 章で必要となる, べき有限次線型 変換, 微分加群などについて説明し, 最後に完全体上有限生成な体が高々超越次数+1 個の 元で生成されることを証明する. この事実は2章でアフィン曲線上の特異点が高々有限個 であることを証明する際に必要となる. 2章では, アフィン多様体の基本事項について述べる. アフィン代数的集合およびア フィン多様体, Hilbert の零点定理などについて述べた後, アフィン代数的集合と根基イデ アルが1対1に対応することを示す. このときアフィン多様体に素イデアルが対応するの でその座標環は整域となり, 分数体として有理関数体が定まる. 1 点で定義される有理関 数全体が局所環をなすことを示した後, 有理関数体の k 上の超越次数として多様体の次元 を定義し, 1 次元アフィン多様体としてアフィン曲線を定義する. アフィン曲線上の有理 関数の極と零点が有限個であることは 3 章で利用され, 4章で主因子を定義するときの根 拠を与える. またアフィン多様体の特異・非特異性を局所環から代数的に定義し, アフィ ン曲線上の特異点が高々有限個であることを証明する. 3章では, 射影多様体の基本事項について述べる. 斉次イデアルの零点集合として射 影代数的集合を定義し, アフィン空間の場合と同様に既約な射影代数的集合として射影多 様体を定義する. 射影零点定理を証明した後, 空でない射影代数的集合と, X0 , ..., Xn と 異なる斉次な根基イデアルとが1対1に対応すること, この対応において射影多様体と素 イデアルが対応することを証明する. さらに射影多様体の斉次座標環を定義し, その分数 体の元で分母と分子が同次数の斉次元であるもの全体のなす部分体として有理関数体を 0. 序 4 定義する. 有理関数の極全体が真の射影代数的集合になることを示した後, 射影多様体全 体で正則な有理関数が定数に限ることを証明する. 有理関数体の k 上の超越次数を射影 多様体の次元と定め, 1 次元射影多様体を射影曲線と定義する. アフィン多様体の場合と 同様に 1 点における局所環の極大イデアルをその平方で割った剰余空間の次元が多様体の 次元に一致しない点を特異点と定義し, 非特異射影多様体の概念を導入する. アフィン多 様体と射影多様体とを結ぶ概念として, 多項式の斉次化, 非斉次化を定義し, イデアルおよ び代数的集合の斉次化, 非斉次化とその相互関係について考察する. 特にアフィン代数的 集合と, その既約成分が斉次座標のある成分を 0 にすることがないような射影代数的集合 との間に斉次化・非斉次化による1対1対応が存在すること, この対応でアフィン多様体 と射影多様体が対応し, それぞれの関数体が同型になることなどを証明する. 4章では, Riemann-Roch の定理の原型ともいえる Riemann の定理を証明する. 非 特異射影曲線 V 上の点 P での局所環 OP (V ) が離散付値環であることから, 有理関数体 k(V ) に離散付値 ordP が定まる. この離散付値に関して「与えられた有限個の有理関数 との差の, 与えられた有限個の点における離散付値の値が, 与えられた整数以上になるよ うな有理関数が存在する」という近似定理を証明する. また非特異射影曲線上の有限個の 点の形式的な整数係数 1 次結合として因子を定義し, 有理関数の極と零点が有限個である ことを証明した後, 有理関数から主因子が定まることを導く. さらに因子 D に対して線型 空間 L(D) を定義し, その次元 (D) が有限であることを証明する. 定数でない有理関数 f で生成される部分体の有理関数体における余次元が, f の零点 P すべてに渡る ordP (f ) の和, および f の極 Q すべてに渡る −ordQ (f ) の和に一致することを示し, f から定ま る主因子 div(f ) の次数が 0 であることを導く. 最後に, それまでに得られた結果を基に Riemann の定理を証明する. 5章では, 非特異射影曲線についての Riemann-Roch の定理を証明する. 関数体 k(V ) の直積環 P ∈V k(V ) の部分環 AV , および因子 D = P nP P から定まる AV の k 線型 部分空間 AV (D) = {(fP ) ∈ AV | ordP (fP ) ≥ −nP } を導入し, k 線型空間 I(D) = AV /(AV (D) + k(V )) の次元 i(D) が有限で Riemann-Roch の定理の暫定版 (D) − i(D) = deg D + 1 − g が成り立つことを証明する. 次に非特異射影曲線 V の有理関数体 k(V ) の微分加群 Ω(k(V )) が 1 次元 k(V ) 線型空間であることを示した後, 有理関数の局所パラメータに関するロー ラン展開の主要部から有理微分の留数を定義し, 留数が局所パラメータによらず定まるこ とを示す. さらに有理微分 f dg の点 P における留数と k(V ) のべき有限次線型変換 [πf, g] 0. 序 5 のトレースが一致することを利用して留数の総和が 0 になるという留数定理を証明する. 留数定理を用いて 0 でない有理微分が因子を定めること, これらの因子が線型同値を除い て一意に定まることなどから標準因子 KV を定義する. 最後に AV /k(V ) の双対空間の部 分空間 JV を考察することにより I(D) の双対空間が L(KV − D) と k 線型同型であると いう双対定理を証明し, Riemann-Roch の定理を導く. なお本論文の主たる参考文献は [2] である. ここで, その著者に敬意を表する. 最後に, 本論文の作成にあたり多大なご指導, ご助言をいただいた松山廣先生, そして 数学教室の諸先生方に心から厚く感謝の意を表する. 1 章 準備 1章では, 後章で必要となる可換環論の基本事項, 5 章で必要となる, べき有限 次線型変換, 微分加群などについて説明し, 最後に完全体上有限生成な体が高々 超越次数+1 個の元で生成されることを証明する. この事実は2章でアフィン 曲線上の特異点が高々有限個であることを証明する際に必要となる. なお, 参考文献 [3] にあるような線型代数学の内容, 参考文献 [4, 5] にあるよう な群・環・体の基本事項は既知とする. また参考文献 [5] にあるような可換環 論の基本事項も既知とするが, 特に重要と思える定理については §1.1 にまとめ ておいた. この章を通じて k は体, k[X1 , ..., Xn ] は k 上の n 変数多項式環を 表す. 1.1 可換環論の基本事項 この節で述べる可換環論の諸定理の証明については参考文献 [4, 5] などを参照 されたい. 定理 1.1 ([5, 定理 7.2],[4, 問 6.7]) k が無限体のとき, 任意の (a1 , ..., an ) ∈ k n に対 して F (a1 , ..., an ) = 0 となる多項式 F (X1 , ..., Xn ) ∈ k[X1 , ..., Xn ] は零多項式のみで ある. 定理 1.2 ([4, 例題 23.5]) 多項式 F ∈ k[X1 , ..., Xn ] が既約多項式であることと, F の 生成するイデアル F が素イデアルであることとは同値である. 定理 1.3 ([4, 例題 22.5]) R を可換環, I を R のイデアルとする. 自然な準同型 R → R/I により, I を含む R のイデアルと R/I のイデアルが1対1に対応する. 定理 1.3 の対応で, 素イデアルは素イデアルに, 極大イデアルは極大イデアルに, 根基イデ アルは根基イデアルに, それぞれ対応することを注意しておく. 6 1. 準備 7 補題 1.4 ([5, 定理 30.6]) R を整域, S を R の部分環とする. R が有限 S 加群であ るとき, すなわち有限個の元 u1 , ..., un ∈ R により R = Su1 + · · · + Sun と表されると き次が成り立つ. (1) R は S 上整である. (2) R が体であることと S が体であることは同値である. 定理 1.5 (Hilbert の基底定理, [5, 定理 28.3],[4, 定理 29.11]) ネーター環 R 上の n 変数多項式環 R[X1 , ..., Xn ] はネーター環である. 特に体 k 上の n 変数多項式環 k[X1 , ..., Xn ] はネーター環である. 定理 1.6 ([5, p.183, 系]) 任意の a1 , ..., an ∈ k に対して X1 − a1 , ..., Xn − an は k[X1 , ..., Xn ] の極大イデアルである. 逆に k が代数的閉体のときは k[X1 , ..., Xn ] の極 大イデアル M は適当な a1 , ..., an ∈ k により M = X1 − a1 , ..., Xn − an と表される. 次の中山の補題は一般の非可換環で成り立つがこの論文では可換環に対してのみ適用す る (定理 2.38, 4.1, 5.10). 定理 1.7 (中山の補題, [4, 定理 31.3]) M を可換環 R 上有限生成加群とする. S ⊆ M が S + J(R)M = M を満たせば S = M が成り立つ. ただし, S は S で生成さ れた M の R 部分加群, J(R) は R の根基 (極大イデアルすべての共通部分) である. 1.2 べき有限次線型変換 V を体 k 上の線型空間, θ を V の線型変換とする. ある自然数 n に対して dimk θn (V ) < ∞ が成り立つとき, θ はべき有限次であるという. dimk θn (V ) < ∞ のとき, θ は剰余空間 θn (V )/θn+1 (V ) に零写像として作用するので, θ|θn (V ) と θ|θn+1 (V ) のトレースは一致する. すなわち Tr(θ|θn (V ) ) = Tr(θ|θn+1 (V ) ) が成り立つ. 従って Tr(θ|θn (V ) ) は dimk θn (V ) < ∞ となる n の選び方によらず一定であ る. この値を TrV (θ) と表すことにする. 以下, べき有限次線型変換の基本事項について述 べる. 次の定理が成り立つことは明らかであろう. 1. 準備 8 定理 1.8 V が有限次線型空間のとき, V の任意の線型変換 θ はべき有限次で, TrV (θ) は通常のトレース Tr(θ) と一致する. 定理 1.9 線型空間 V のべき零な線型変換 θ はべき有限次で TrV (θ) = 0 である. Proof ある自然数 n が存在して θn (V ) = 0 となることから導かれる. 定理 1.10 θ が線型空間 V のべき有限次線型変換, W が θ 不変な V の部分空間のと き, θ|W , θ|V /W はべき有限次で, 次の等式が成り立つ. TrV (θ) = TrW (θ) + TrV /W (θ) Proof θn (V ) が有限次であるとする. このとき θn (W ) ⊆ θn (V ) より θn (W ) は有限次である. 従って θ|W はべき有限次である. また θn (V /W ) = (θn (V ) + W )/W θn (V )/(θn (V ) ∩ W ) であるから θn (V /W ) も有限次, 従って θ|V /W はべき有限次である. 次に TrW (θ) = Tr(θ|θn (W ) ), TrV /W (θ) = Tr(θ|θn (V /W ) ) = Tr(θ|θn (V )/(θn (V )∩W ) ) であるが, θ が (θn (V ) ∩ W ) /θn (W ) にべき零に作用することから Tr(θ|θn (V )∩W ) = Tr(θ|θn (W ) ) が成り立つ. 従って TrW (θ)+TrV /W (θ) = Tr(θ|θn (V )∩W )+Tr(θ|θn (V )/(θn (V )∩W ) ) = Tr(θ|θn (V ) ) = TrV (θ) が得られる. V の有限次部分空間 W が θ 不変で, ある θn (V ) を含むとき, θ は剰余空間 W/θn (V ) に べき零に作用するので, 定理 1.9, 定理 1.10 より次の定理が得られる. 定理 1.11 θ を線型空間 V のべき有限次線型変換とする. V の有限次部分空間 W が θ 不変で, ある θn (V ) を含むとき TrV (θ) = TrW (θ) が成り立つ. 1. 準備 9 定理 1.12 θ1 , ..., θn は線型空間 V の線型変換で, ある自然数 N が存在して, {1, ..., n} から N 個選んでできる任意の重複順列 i1 , ..., iN に対して dimk θi1 θi2 · · · θiN (V ) < ∞ であるとする. このとき θ1 , ..., θn , i θi はべき有限次で次が成り立つ. = θi TrV i TrV (θi ) i Proof 任意の 1 ≤ j ≤ n に対して, i1 = · · · = iN = j とおけば dimk θjN (V ) < ∞ が得られる. ゆえに θ1 , ..., θn はべき有限次である. 一方 N θi (V ) = i θi1 θi2 · · · θiN (V ) ⊆ i1 ,...,iN θi1 θi2 · · · θiN (V ) i1 ,...,iN は有限次元空間有限個の和であるから有限次である. よって i θi もべき有限 次である. 次に θi1 θi2 · · · θiN (V ) W = i1 ,...,iN とおけば, W は θ1 , ..., θn により不変である. 従って定理 1.11 より TrV θi i = TrW θi i = TrW (θi ) = i TrV (θi ) i が成り立つ. 補題 1.13 θ を線型空間 V のべき有限次線型変換とすると, ある自然数 N に対し て θN (V ) = θN +1 (V ) = · · · が成り立つ. Proof 仮定より θn (V ) が有限次となるような自然数 n がある. ここで dimk θn (V ) ≥ dimk θn+1 (V ) ≥ dimk θn+2 (V ) ≥ · · · に注意すると, ある N に対して dimk θN (V ) = dimk θN +1 (V ) となる. このと き θN (V ) = θN +1 (V ) = · · · が成り立つ. 定理 1.14 ϕ, ψ は線型空間 V の線型変換で ϕψ がべき有限次であるとする. このとき ψϕ もべき有限次で TrV (ϕψ) = TrV (ψϕ) が成り立つ. 1. 準備 10 Proof (ϕψ)n (V ) が有限次であるとすると (ψϕ)n+1 (V ) = ψ((ϕψ)n )ϕ(V ) ⊆ ψ(ϕψ)n (V ) より (ψϕ)n+1 (V ) も有限次となる. 従って ψϕ もべき有限次である. 補題 1.13 より, ある自然数 N に対して (ϕψ)N (V ) = (ϕψ)N +1 (V ) = · · · , (ψϕ)N (V ) = (ψϕ)N +1 (V ) = · · · が成り立つ. W = (ϕψ)N (V ), W = (ψϕ)N (V ) とおくと ϕψ は W の線型自 己同型, ψϕ は W の線型自己同型である. ここで ψ:W →W , ϕ:W →W であり, ϕψ, ψϕ が線型自己同型であるから, ψ, ϕ も線型同型である. r = dimk W = dimk W とおき, e1 , ..., er を W の基底, e1 , ..., er を W の基底とし ψ(e1 ) . .. = ψ(er ) a11 . . . a1r e1 .. . . . ... . .. . ar1 . . . arr er (aij ∈ k) b11 . . . b1r .. . . . . .. . br1 . . . brr (bij ∈ k) ϕ(e1 ) . .. = ϕ(er ) e1 .. . en とおく. このとき ϕψ の基底 e1 , ..., er に関する行列, および ψϕ の基底 e1 , ..., er に関する行列は, それぞれ a11 . . . a1r b11 . . . b1r . . .. . . ... ... . . . ... , br1 . . . brr ar1 . . . arr a11 . . . a1r b11 . . . b1r . . .. . . ... ... . . . ... ar1 . . . arr br1 . . . brr であるので ϕψ と ψϕ のトレースは一致する. 注意 ϕ, ψ がべき有限次であっても ϕ + ψ がべき有限次であるとは限らない. 例えば Wi を 2 次元空間, ϕi , ψi をある基底に関して, それぞれ る線型変換とする. ϕ= ∞ i=1 ϕi , ψ = 0 1 0 0 , ϕi , ψi はべき零であるが, ϕi + ψi は正則である. ∞ i=1 0 0 1 0 V = で表され ∞ i=1 Wi , ψi とすれば ϕ, ψ はべき有限次であるが, ϕ + ψ はべき有限次 1. 準備 11 でない. 部分空間の関係 ≺ 体 k 上の線型空間 V の部分空間 B, C が dimk (B + C)/C < ∞ を満たすとき B ≺ C と表す. これは dimk B/(B ∩ C) < ∞ が成り立つことと同値である (定理 1.15, (2)). B ≺ C かつ C ≺ B のとき B ∼ C と表す. 明らかに C ⊆ B のとき C ≺ B が成り立つ. 従って, 任意の B に対して 0 ≺ B が成り立つ. また B ∼ 0 であることと B が有限次で あることとは同値である. 定理 1.15 体 k 上の線型空間 V の部分空間 B, C, D に対して次が成り立つ. (1) B ≺ C かつ C ≺ D ならば B ≺ D である. (2) B ≺ C ならば B ≺ B ∩ C かつ B + C ∼ C である. (3) B ≺ C ならば V の任意の線型変換 ϕ に対して ϕ(B) ≺ ϕ(C) である. Proof (1) B ≺ C かつ C ≺ D であると仮定すると, B/(B ∩C), C/(C ∩D) は有限次である. 次の2つの準同型 入射 自然な準同型 B ∩ C −−−−> C −−−−−−> C C ∩D の合成の核は B ∩ C ∩ D であるから, (B ∩ C)/(B ∩ C ∩ D) は C/(C ∩ D) の部 分空間と見なせる. ゆえに (B ∩ C)/(B ∩ C ∩ D) は有限次である. B/(B ∩ C), (B ∩ C)/(B ∩ C ∩ D) が有限次であるから B/(B ∩ C ∩ D), 従って B/(B ∩ D) も有限次である. よって B ≺ D が成り立つ. (2) B ≺ C ならば dimk (B + C)/C < ∞ であるから dimk dimk (B + C) + C B+C = dimk <∞ ⇒ B+C ≺C C C B+B∩C B B+C = dimk = dimk <∞ ⇒ B ≺B∩C B∩C B∩C C が成り立つ. 1. 準備 (3) 12 次の2つの全射準同型 ϕ 自然な準同型 B + C −−−> ϕ(B) + ϕ(C) −−−−−−−−−> ϕ(B) + ϕ(C) ϕ(C) の合成の核が C を含むので (ϕ(B) + ϕ(C))/ϕ(C) は (B + C)/C の剰余空間 と見なせるから, 有限次である. 従って ϕ(B) ≺ ϕ(C) が成り立つ. 定理 1.16 体 k 上の線型空間 V の部分空間 B に対して, V の線型変換 ϕ1 , ..., ϕn が ϕi (V ) ≺ B かつ ϕi (B) ∼ 0 を満たすならば, 任意の i, j に対して dimk ϕi ϕj (V ) < ∞, および dimk ( i ϕi )2 (V ) < ∞ が成り立つ. 特に ϕi , i ϕi はべき有限次で次の等式が 成り立つ. TrV ϕi TrV (ϕi ) = i i Proof 次の2つの全射線型写像 ϕj 自然準同型 ϕi (V ) −−−−> ϕj ϕi (V ) −−−−−−−−> ϕj ϕi (V )/(ϕj ϕi (V ) ∩ ϕj (B)) の合成の核が ϕi (V ) ∩ B を含むので, 全射線型写像 ϕi (V )/(ϕi (V ) ∩ B)−−−−−−−−> ϕj ϕi (V )/(ϕj ϕi (V ) ∩ ϕj (B)) が得られる. 仮定より ϕi (V )/(ϕi (V )∩B) は有限次であるから ϕj ϕi (V )/(ϕj ϕi (V )∩ ϕj (B)) は有限次である. また ϕj (B) も有限次であるから ϕj ϕi (V ) が有限次 である. j = i とすることにより ϕi がべき有限次であることがわかる. また 2 ϕi (V ) ⊆ i より i ϕj ϕi (V ) i,j ϕi もべき有限次である. W = i,j ϕj ϕi (V ) とおくと, W は 有限次, かつ ϕi 不変で, ϕ2i (V ) ⊆ W であるから定理 1.11 より TrV (ϕi ) = TrW (ϕi ) が 成り立つ. 同様に ( i ϕi )2 (V ) ⊆ W であるから TrV ( i ϕi ) = TrW ( 成り立つ. 以上から W が有限次であることに注意すれば TrV ϕi i が得られる. = TrW ϕi i = TrW (ϕi ) = i TrV (ϕi ) i i ϕi ) が 1. 準備 13 定理 1.17 体 k 上の線型空間 V の部分空間 B に対して, V の線型変換 ϕ, ψ が次の (1), (2) のいずれかを満たすとする. (1) ϕ(V ) ≺ B, ϕ(B) ∼ 0, ψ(B) ≺ B (2) ϕ(V ) ≺ B, ψ(B) ∼ 0 このとき次が成り立つ. ただし [ϕ, ψ] = ϕψ − ψϕ である. (i) ϕψ(V ) ≺ B, ϕψ(B) ∼ 0, ψϕ(V ) ≺ B, ψϕ(B) ∼ 0 (ii) dimk (ϕψ)2 (V ) < ∞, dimk (ψϕ)2 (V ) < ∞, dimk [ϕ, ψ]2 (V ) < ∞ が成り立つ. 特 に ϕψ, ψϕ, [ϕ, ψ] はべき有限次で, TrV ([ϕ, ψ]) = 0 である. Proof (1) ⇒(i). ϕψ(V ) ≺ ϕ(V ), ϕ(V ) ≺ B であるから, 定理 1.15, (1) より ϕψ(V ) ≺ B が得られる. また ψ(B) ≺ B に定理 1.15, (3) を適用し て ϕψ(B) ≺ ϕ(B) となるが, これと ϕ(B) ∼ 0 より ϕψ(B) ≺ 0 となるの で, ϕψ(B) ∼ 0 が得られる. 次に ϕ(V ) ≺ B より, ψϕ(V ) ≺ ψ(B) と なり, ψ(B) ≺ B であるから ψϕ(V ) ≺ B を得る. 最後に ϕ(B) ∼ 0 か ら ψϕ(B) ∼ ψ(0) = 0 が得られる. (2) ⇒(i). ϕψ(V ) ≺ B は上と同様に ϕ(V ) ≺ B から得られる. ψ(B) ∼ 0 より ϕψ(B) ∼ 0 が得られる. また ϕ(V ) ≺ B から ψϕ(V ) ≺ ψ(B) となり, ψ(B) ≺ 0 より ψϕ(V ) ≺ 0 となる. ψϕ(V ) が有限次であるので, ψϕ(V ) ≺ B, ψϕ(B) ∼ 0 が成り立つ. (i) ⇒(ii). n = 2 とし, ϕ1 を ϕψ, ϕ2 を −ψϕ に置き換えれば, 定理 1.16 の仮 定を満たすので dimk (ϕψ)2 (V ) < ∞, dimk (ψϕ)2 (V ) < ∞, dimk [ϕ, ψ]2 (V ) < ∞ が導かれる. 特に ϕψ, −ψϕ, [ϕ, ψ] はべき有限次で TrV ([ϕ, ψ]) = TrV (ϕψ) − TrV (ψϕ) が成り立つ. また定理 1.14 を適用すれば TrV ([ϕ, ψ]) = 0 を得る. 1. 準備 14 補題 1.18 V を体 K 上の線型空間, k を K の部分体とする. B を k 線型空間 V の部 分空間, f, g, h ∈ K × を V の k 線型変換と見なして, f (B) ≺ B, g(B) ≺ B, h(B) ≺ B であるとする. このとき次が成り立つ. dimk B + h(B) <∞ B ∩ f1 (B) ∩ f1g (B) Proof 仮定より dimk (B + h(B))/B < ∞ である. また f, g は V の k 線型自 己同型であるから f (B) ≺ B ⇒ B ≺ および 1 (B) f 1 1 1 (B) ≺ (B) g(B) ≺ B ⇒ B ≺ (B) ⇒ g f fg が成り立つ. 従って B + h(B) , B B , B ∩ f1 (B) 1 (B) f 1 (B) ∩ f1g (B) f は有限次元となる. ここで2つの全射準同型 入射 自然な準同型 1 1 B ∩ (B) −−−−> (B) −−−−−−−> f f の合成の核が B ∩ f1 (B) ∩ 1 (B) fg であるので 1 (B) f 1 (B) ∩ f1g (B) f B∩ f1 (B) 1 B∩ f (B)∩ f1g (B) 分空間と見なせる. ゆえに B ∩ f1 (B) B ∩ f1 (B) ∩ 1 (B) fg も有限次元であり, 上述のことと合わせて dimk が得られる. B + h(B) <∞ B ∩ f1 (B) ∩ f1g (B) は 1 (B) f 1 1 (B)∩ (B) f fg の部 1. 準備 15 補題 1.19 V を体 K 上の線型空間, k を K の部分体とする. B を k 線型空間 V の 部分空間, f, g, f , g ∈ K を V の k 線型変換と見なして, f (B) ≺ B, g(B) ≺ B, f (B) ≺ B, g (B) ≺ B であるとする. このとき任意の k 線型な射影 π : V → B, π : V → B に対して, dimk [πf, g](B +g(B)) < ∞, および dimk [πf, g][π f , g ](V ) < ∞ が成り立つ. Proof f, g, f , g の1つが 0 ならば [πf, g][π f , g ] = 0 となるので補題の主 張が成り立つ. 従って, 以下 f, g, f , g ∈ K × であるとする. [π f , g ](V ) ⊆ B + g (B) であり, 補題 1.18 より dimk B + g (B) <∞ B ∩ f1 (B) ∩ f1g (B) が成り立つ. また, 任意の x ∈ B ∩ f1 (B) ∩ 1 (B) fg に対して f g(x), f (x) ∈ B, f g = gf であることに注意すれば [πf, g](x) = πf g(x) − gπf (x) = f g(x) − gf (x) = 0 が成り立つ. よって [πf, g] B ∩ 1 1 (B) ∩ (B) f fg =0 であるから dimk [πf, g](B + g (B)) < ∞ を得る. [π f , g ](V ) ⊆ B + g (B) であったから dimk [πf, g][π f , g ](V ) < ∞ も成り立つ. 定理 1.20 V を体 K 上の線型空間, k を K の部分体とする. B を k 線型空間 V の 部分空間, f, g ∈ K を V の k 線型変換と見なして, f (B) ≺ B, g(B) ≺ B であるとす る. このとき任意の k 線型な射影 π : V → B に対して dimk [πf, g]2 (V ) < ∞ が成り 立つ. 特に [πf, g] はべき有限次である. また TrV ([πf, g]) は射影 π の選び方によらず 一定である. Proof f = 0 または g = 0 ならば射影 π の選び方によらず [πf, g] = 0 とな り, 定理の主張が成り立つ. 従って, 以下 f, g ∈ K × とする. f = f , g = g , 1. 準備 16 π = π として補題 1.19 を適用すると dimk [πf, g]2 (V ) < ∞ が得られる. 特に [πf, g] はべき有限次である. 次に π も k 線型な B への射影であるとし, ϕ1 = [πf, g], ϕ2 = [π f, g] と おく. このとき ϕ1 (V ) = [πf, g](V ) ⊆ B + g(B) ≺ B ⇒ ϕ1 (V ) ≺ B が成り立つ. また ϕ1 (B) ⊆ ϕ1 (B + g(B)) であるが, 補題 1.19 の証明と同様に ϕ1 B ∩ 1 1 (B) ∩ (B) f fg = 0 かつ dimk B + g(B) <∞ B ∩ f1 (B) ∩ f1g (B) より dimk ϕ1 (B) < ∞ を得る. よって ϕ1 (B) ∼ 0 が成り立つ. 同様にし て ϕ2 (V ) ≺ B, ϕ2 (B) ∼ 0 も導かれるので, 定理 1.16 より TrV (ϕ1 − ϕ2 ) = TrV (ϕ1 ) − TrV (ϕ2 ) となるので TrV ([(π − π )f, g]) = TrV ([πf, g]) − TrV ([π f, g]) が得られる. TrV ([(π − π )f, g]) = 0 を示せばよいのであるが, まず ϕ = (π − π )f , ψ = g として, 定理 1.17 の条件 (1) が満たされることを示そう. ϕ(V ) = (π − π )f (V ) ⊆ B ⇒ ϕ(V ) ≺ B が成り立つ. さらに x∈ 1 (B) ⇒ f (x) ∈ B f ⇒ ϕ(x) = (π − π )f (x) = 0 となるので f1 (B) ⊆ Ker(ϕ) が成り立つ. これより 1 B (B) ⊆ Ker(ϕ), dimk <∞ ⇒ f B ∩ f1 (B) dimk ϕ(B) < ∞ 1. 準備 17 となるので ϕ(B) ∼ 0 が成り立つ. 仮定より ψ(B) = g(B) ≺ B も成り立つの で条件 (1) が満たされる. ゆえに定理 1.17 を適用して TrV ([(π − π )f, g]) = 0 を得る. これと前述の結果 TrV ([(π − π )f, g]) = TrV ([πf, g]) − TrV ([π f, g]) を合わせると TrV ([πf, g]) = TrV ([π f, g]) が得られる. すなわち TrV ([πf, g]) は π の選び方によらない. 1.3 微分加群 以下, R は単位元 1 を含む可換な k 代数とする. 対応 k a → a · 1 ∈ R によ り k は R に含まれていると見なす. R から R 加群 M への k 線型写像 D : R → M が次の条件を満たすとき, R から M へ の k 導分という. D(xy) = xD(y) + yD(x) (∀x, y ∈ R) (1.1) 定理 1.21 R 加群 M への k 導分 D は次を満たす. (1) a ∈ k のとき D(a) = 0 である. (2) 整数 m ≥ 0 と x ∈ R に対して D(xm ) = mxm−1 D(x) が成り立つ. (3) F (X1 , ..., Xn ) ∈ k[X1 , ..., Xn ] と x1 , ..., xn ∈ R に対して次が成り立つ. ただし FXi は多項式 F の Xi に関する代数的偏微分を表す. n D (F (x1 , ..., xn )) = FXi (x1 , ..., xn )D(xi ) i=1 Proof (1) D(1) = D(1 · 1) = 1 · D(1) + 1 · D(1) より D(1) = 0 となる. D が k 線 型写像であることから D(a) = aD(1) = 0 が得られる. (2) m についての帰納法で示す. m = 0 のときは (1) より成り立つ. 以下 1. 準備 18 m ≥ 1 として m − 1 以下では成り立つと仮定する. 式 (1.1) より D(xm ) = D(x · xm−1 ) = xD(xm−1 ) + xm−1 D(x) = x · (m − 1)xm−2 D(x) + xm−1 D(x) = mxm−1 D(x) となるので, m のときも成り立つことが示された. (3) D および代数的偏微分が k 線型写像であること, F (X1 , ..., Xn ) が単項 式の k 係数1次結合として表されることから, F (X1 , ..., Xn ) が単項式の 場合に示せばよい. F (X1 , ..., Xn ) = X1m1 · · · Xnmn とおくと n mn 1 D(xm 1 · · · xn ) = i=1 n = i=1 n = mn 1 xm 1 · · · xn i D(xm i ) i xm i mn 1 xm 1 · · · xn i −1 mi xm D(xi ) i i xm i FXi (x1 , ..., xn )D(xi ) i=1 となり, (3) が示された. R を添数集合とする記号 er (r ∈ R) を導入し, それらを基底とする 自由 R 加群を ⊕r∈R Rer とする. このとき次式で定まる剰余加群を Ωk (R) と表し, R の微分加群という. ただし S ⊆ ⊕r∈R Rer に対して S は S で生成される R 部分加群を表す. ⊕r∈R Rer {er+s − er − es , ear − aer , ers − res − ser | r, s ∈ R, a ∈ k} 明らかに Ωk (R) は R 加群として, er の属する類 er (r ∈ R) で生成される. 定理 1.22 写像 dR : R r → er ∈ Ωk (R) は k 導分である. Proof r, s ∈ R, a, b ∈ k に対して, Ωk (R) における関係式 er+s = er + es , ear = aer , ers = res + ser を用いれば dR (ar + bs) = ear+bs = ear + ebs = aer + bes = adR (r) + bdR (s) (1.2) 1. 準備 19 dR (rs) = ers = res + ser = rdR (s) + sdR (r) となるので dR は k 導分である. R 定理 1.23 任意の R 加群 M と k 導分 D : R → M に対して, 右の図式を可換 dR D Ωk (R) ϕ にする R 準同型 ϕ : Ωk (R) → M が唯 M 一つ存在する. Proof まず存在を示す. ⊕r∈R Rer は自由 R 加群であるから R 準同型 ϕ : ⊕r∈R Rer → M で ϕ (er ) = D(r) を満たすものが唯一つ存在する. ここで r, s ∈ R に対して ϕ (er+s ) = D(r + s) = D(r) + D(s) = ϕ (er ) + ϕ (es ) より er+s − er − es は ϕ の核に含まれる. 同様にして ers − res − ser , ear − aer (r, s ∈ R, a ∈ k) も ϕ の 核に含まれることがわかる. ゆえに ϕ の核は Ωk (R) の定義式 (1.2) の分母を含むこととなり, R 準同型 ϕ : Ωk (R) → M を誘導する. ϕ の定め 方から ϕ ◦ dR (r) = ϕ (er ) = D(r) (r ∈ R) となるので ϕ ◦ dR = D が成り立つ. 次に一意性を示す. R 準同型 ψ : Ωk (R) → M も ψ ◦ dR = D を満たすと仮定すると D(r) = ϕ ◦ dR (r) = ψ ◦ dR (r) ⇒ ϕ(er ) = ψ(er ) となり, er の全体が Ωk (R) を生成することから ϕ = ψ が得られる. 定理 1.24 R 加群 Ω と k 導分 d : R → Ω が次の条件を満たすならば R 加群として Ω Ωk (R) が成り立つ. 任意の R 加群 M と k 導分 D : R → M に対して, 右の図式を可 R D Ω ϕ 換にする R 準同型 ϕ : Ω → M が唯一つ存在する. d M 1. 準備 20 Proof 条件より dR = ϕd を満たす R 準 同型 ϕ : Ω → Ωk (R) が存在する. また定理 1.23 より d = ψdR を満 たす R 準同型 ψ : Ωk (R) → Ω が 存在する. R dR d Ω ϕ ψ Ωk (R) このとき dR = ϕψdR となるが, 定理 1.23 よりこのような ϕψ はただ一つであ るから ϕψ = idΩk (R) となる. 同様に ψϕ = idΩ が得られるので ψ, ϕ はそれぞ れ R 同型である. 従って Ω Ωk (R) が成り立つ. dR (R) が上の定理の条件を満たすことに注意すれば次の系が得られる. 系 1.25 Ωk (R) は R 加群として dR (R) で生成される. 1.4 完全体上有限生成な体 ここでは完全体 k 上有限生成な体 K が k 上の有理関数体の有限次分離拡大 であること, 従って高々 tr.degk K + 1 個の元で生成されることを示す. ここ で tr.degk K は K の k 上の超越次数を表す. また k 自身も 0 変数有理関数 体と見なす. 完全体とは任意の代数拡大が分離拡大である体のことであり, 標数 0 の体, 有限体, 代数 的閉体などは完全体である ([4, §36]). また標数 p > 0 の体 k が完全体であるための条件 は k = k p が成り立つことである ([4, 定理 36.14]). ここで k p = {ap | a ∈ k} である. 定理 1.26 K が完全体 k 上有限生成な体であるとき, k 上代数的独立な元 x1 , ..., xn ∈ K が存在して K は k(x1 , ..., xn ) 上有限次分離拡大となる. Proof k の標数が 0 のときは x1 , ..., xn として K の超越基をとれば, K/k(x1 , ..., xn ) は有限次分離拡大となる. 従って以下 k の標数は p > 0 であると仮定する. K が k 上 y1 , ..., ym で生成されたとし, m に関する帰納法で示す. m = 0 のと きは明らかに成り立つ. m = 1 のときも y1 が k 上代数的であれば k が完全 体であることから K は k の有限次分離拡大であり, y1 が k 上超越的であれ ば K は k 上の 1 変数有理関数体となり, いずれの場合も定理の主張が成り立 1. 準備 21 つ. 従って, 以下 m ≥ 2 とし, m − 1 個以下の元で生成される k の拡大体につ いては定理の主張が成り立っているとする. y1 , ..., ym の中の m − 1 個の元で k 上代数的従属であるものが存在したとする. 適当に番号を付け替えて y1 , ..., ym−1 が k 上代数的従属であったとする. この とき tr.degk k(y1 , ..., ym−1 ) ≤ m − 2 である. 帰納法の仮定から k(y1 , ..., ym−1 ) に k 上代数的独立な元 z1 , ..., zr が存在して, k(y1 , ..., ym−1 ) は k(z1 , ..., zr ) 上有限次分離拡大, 従って単拡大 k(z1 , ..., zr )(z) となる. 一方 r ≤ m − 2 より k(z1 , ..., zr , ym ) に帰納法の仮定を適用すると, k(z1 , ..., zr , ym ) に k 上代 数的独立な元 x1 , ..., xn が存在して k(z1 , ..., zr , ym ) は k(x1 , ..., xn ) 上有限次 分離拡大となる. z は k(z1 , ..., zr , ym ) 上分離的であるから k(z1 , ..., zr , ym , z) が k(x1 , ..., xn ) 上有限次分離拡大となる. ここで k(z1 , ..., zr , ym , z) = k(z1 , ..., zr , z, ym ) = k(y1 , ..., ym−1 , ym ) = K より, K が k(x1 , ..., xn ) 上有限次分離拡大となり, この場合は定理の主張が成 り立つ. 以下 y1 , ..., ym の中の m − 1 個の元はすべて k 上代数的独立であるとする. y1 , ..., ym が k 上代数的独立であれば K 自身が k 上の有理関数体となるの で, y1 , ..., ym は k 上代数的従属である. 従って, ある 0 でない既約多項 式 F ∈ k[X1 , ..., Xm ] が存在して F (y1 , ..., ym ) = 0 となる. ここで F におけ る各項の Xi の次数がすべて p の倍数であれば, k = k p であることから im p ai1 ,...,im (X1i1 · · · Xm ) F (X1 , ..., Xm ) = i1 ,...,im im p bpi1 ,...,im (X1i1 · · · Xm ) = i1 ,...,im p bi1 ,...,im X1i1 = im · · · Xm i1 ,...,im となり F の既約性に反する. ゆえにある変数 Xj の次数の中に p の倍数でな いものがある. 適当に番号を付け替えて変数 Xm の次数の中に p の倍数でな いものがあるとしてよい. このとき ym は k(y1 , .., ym−1 ) 上分離的となる. よっ て K = k(y1 , .., ym ) は k(y1 , .., ym−1 ) 上有限次分離的となり, 定理が証明され た. 1. 準備 22 定理の x1 , ..., xn は K の k 上の超越基となるので n = tr.degk K である. また有限次分 離拡大は単拡大である ([4, 定理 36.13]). これより次の定理が成り立つ. 定理 1.27 K が完全体 k 上有限生成な体であるとき, K は高々 tr.degk K + 1 個の元 で生成される. 2 章 アフィン多様体 2章では, アフィン多様体の基本事項について述べる. §2.1, §2.2, §2.3 では, アフィ ン代数的集合およびアフィン多様体, Hilbert の零点定理などについて述べた後, アフィン 代数的集合と根基イデアルが1対1に対応することを示す. §2.4 では, アフィン多様体の 座標環が整域であることから, その分数体として有理関数体を定義し, k 上有限生成な任 意の整域を座標環とするアフィン多様体が一意に定まることを示す. §2.5 では, 有理関数 の極全体が代数的集合になること, 1 点で定義される有理関数全体が局所環をなすことな どを示し, §2.6 では有理関数体の k 上の超越次数として多様体の次元を定義し, 1 次元ア フィン多様体としてアフィン曲線を定義する. アフィン曲線上の有理関数の極と零点が有 限個であることは 3 章で利用され, 4章で主因子を定義するときの根拠を与える. §2.7 で はアフィン多様体の特異・非特異性を局所環から代数的に定義し, アフィン曲線上の特異 点が高々有限個であることを証明する. k は 1 章同様, 体を表す. また §2.3 以降は代数的閉体であるとする. 2.1 アフィン代数的集合 An (k) = {(a1 , ..., an ) | a1 , ..., an ∈ k} を n 次元アフィン空間という. 1 次元アフィン 空間 A1 (k) をアフィン直線, 2 次元アフィン空間 A2 (k) をアフィン平面などと呼ぶ. また An (k) の元を An (k) の点と呼ぶ. 多項式 F ∈ k[X1 , ..., Xn ] と点 A = (a1 , ..., an ) ∈ An (k) に対して F (A) = F (a1 , ..., an ) と定める. F (A) = 0 を満たす点 A ∈ An (k) を F の零点という. S ⊆ k[X1 , ..., Xn ] に対 して, An (k) の部分集合 V(S) を V(S) := {A ∈ An (k) | 任意の F ∈ S に対して F (A) = 0} と定め, アフィン代数的集合という. 混同のおそれがない限り, アフィン代数的集合を単 23 2. アフィン多様体 24 に代数的集合という. V は次のような写像と見なせる. S → V(S) ∈ {An (k) の部分集合 } V : {k[X1 , ..., Xn ] の部分集合 } V は次の (1)∼(5) を満たす. ただし S, T ⊆ k[X1 , ..., Xn ] とする. (1) S ⊆ T ならば V(S) ⊇ V(T ) である. (2) V(∅) = V({0}) = An (k), V({1}) = V(k[X1 , ..., Xn ]) = ∅ (3) V(S) = V( S ). ここで S は S で生成される k[X1 , ..., Xn ] のイデアルを表す. (4) k[X1 , ..., Xn ] のイデアルの族 {Iλ }λ∈Λ に対して, V Iλ = λ∈Λ V(Iλ ) である. λ∈Λ (5) V(S) ∪ V(T ) = V({F G | F ∈ S, G ∈ T }) = V( S ∩ T ) (∵) (1), (2) は明らかである. (3) については S = ∅ のときは ∅ = {0} となるの で, (2) より成り立つ. S = ∅ のときも S が次式で与えられることから導かれる. S = {G1 F1 + · · · + Gn Fn | Gi ∈ R, Fi ∈ S} (4) 任意の β ∈ Λ に対して 立つ. これより λ∈Λ Iλ V( ⊇ Iβ であるから V( Iλ ) ⊆ λ∈Λ を得る. 次に A ∈ β∈Λ V(Iβ ) λ∈Λ Iλ ) ⊆ V(Iβ ) が成り V(Iβ ) β∈Λ とすると, 任意の F ∈ λ∈Λ Iλ に対して, ある β ∈ Λ が存在して F ∈ Iβ となるが, A ∈ V(Iβ ) であるから F (A) = 0 が成り立つ. ゆえ に A ∈ V( λ∈Λ Iλ ) となる. よって V( λ∈A Iλ ) ⊇ λ∈A V(Iλ ) となり, (4) が示さ れた. (5) U = {F G | F ∈ S, G ∈ T } とおくと U ⊆ S ∩ T が成り立つ. 従って V(U ) ⊇ V( S ∩ T ) が得られる. 一方 S ∩ T ⊆ S , S ∩ T ⊆ T であるから V( S ∩ T ) ⊇ V( S ) ∪ V( T ) 2. アフィン多様体 25 となるので V(U ) ⊇ V( S ∩ T ) ⊇ V( S ) ∪ V( T ) が成り立つ. 従って V(U ) ⊆ V( S ) ∪ V( T ), すなわち V(U ) ⊆ V(S) ∪ V(T ) を示 せば求める等式が得られる. そのためには A ∈ V(U ) − V(S) に対して A ∈ V(T ) が 成り立つことを示せばよい. A ∈ / V(S) ならば F (A) = 0 となる F ∈ S が存在する. 任意の G ∈ T に対して F G ∈ U かつ A ∈ V(U ) より, F (A)G(A) = (F G)(A) = 0 となり, G(A) = 0 を得る. 以上から A ∈ V(T ) となるので (5) が示された. アフィン空間 An (k) の部分集合 V に対して I(V ) := {F ∈ k[X1 , ..., Xn ] | 任意の A ∈ V に対して F (A) = 0} と定義すると,I(V ) は k[X1 , ..., Xn ] のイデアルになる. I(V ) を V のイデアルという. I は次のような写像と見なせる. I : {An (k) の部分集合 } V → I(V ) ∈ {k[X1 ..., Xn ] のイデアル } V, I について次の (1)∼(9) が成り立つ. ただし V, W ⊆ An (k) とする. (1) V ⊆ W ならば I(V ) ⊇ I(W ) である. (2) I(V ∪ W ) = I(V ) ∩ I(W ), I(V ∩ W ) ⊇ I(V ) + I(W ) (3) I(∅) = k[X1 , ..., Xn ] (4) k が無限体であるならば I(An (k)) = 0 である. (5) A = (a1 , ..., an ) ∈ An (k) に対して I({A}) = X1 − a1 , ..., Xn − an である. (6) S ⊆ k[X1 , ..., Xn ] に対して I(V(S)) ⊇ S, V(I(V(S))) = V(S) である. (7) V(I(W )) ⊇ W , I(V(I(W ))) = I(W ) (8) V が代数的集合であるならば V = V(I(V )) である. (9) I がある集合のイデアルであるならば I = I(V(I)) である. (∵) (1)∼(3) は明らかである. また定理 1.1 より (4) が導かれる. (5) I({A}) ⊇ X1 − a1 , ..., Xn − an は明らかである. 逆に F ∈ I({A}) とする. い ま F を X1 の多項式とみて X1 − a1 で割ると余りは X1 を含まない多項式である. 2. アフィン多様体 26 同様に X2 − a2 , ..., Xn − an で順に割ると n F = (Xi − ai )Gi + b (Gi ∈ k[X1 , ..., Xn ], b ∈ k) i=1 と表される. このとき F (A) = 0 より b = 0 である. よって F ∈ X1 −a1 , ..., Xn −an となるので (5) が示された. (6), (7) I(V(S)) ⊇ S, V(I(W )) ⊇ W は明らかである. I(V(S)) ⊇ S よ り V(I(V(S))) ⊆ V(S) が成り立つ. 次に V(I(W )) ⊇ W で W = V(S) とお くと V(I(V(S))) ⊇ V(S) となるので V(I(V(S))) = V(S) が得られる. 最後に V(I(W )) ⊇ W より I(V(I(W ))) ⊆ I(W ) となるが, I(V(S)) ⊇ S で S = I(W ) と おけば I(V(I(W ))) ⊇ I(W ) となるので I(V(I(W ))) = I(W ) を得る. (8), (9) V が代数的集合ならば V = V(S) と表されるので (6) より (8) が導かれ る. また I がある集合のイデアルならば I = I(W ) と表されるので (7) より (9) が導 かれる. 定理 2.1 An (K) の部分集合 V に対して, V のイデアル I(V ) は根基イデアルである. Proof I(V ) = I(V ) を示せばよい. 根基イデアルの定義より I(V ) ⊆ が成り立つ. 逆に F ∈ I(V ) I(V ) とすると, ある自然数 m が存在して F m ∈ I(V ) となるので, 任意の A ∈ V に対して (F m )(A) = (F (A))m = 0 より F (A) = 0 が得られる. ゆえに F ∈ I(V ) となり I(V ) = I(V ) が示された. p.25 の (8) および定理 2.1 から I は An (k) の代数的集合全体から k[X1 , ..., Xn ] の根基イ デアル全体への単射であることがわかる. これより次の定理が得られる. 定理 2.2 An (k) の代数的集合 V, W に対して次が成り立つ. V =W ⇐⇒ I(V ) = I(W ) 定理 2.3 An (k) の代数的集合は有限個の多項式の共通零点集合に等しい. Proof V を代数的集合とすると, あるイデアル I ⊆ k[X1 , ..., Xn ] により V = V(I) と表される. 一方, Hilbert の基底定理 (定理 1.5) より I = F1 , ..., Fr (Fi ∈ k[X1 , ..., Xn ]) と表されるので p.24, (4) より r V = V(I) = V(F1 , ..., Fr ) = V(Fi ) i=1 2. アフィン多様体 27 が成り立つ. 2.2 既約な代数的集合 An (k) の代数的集合 V が可約であるとは, 次の条件を満たす代数的集合 V1 , V2 が存 在するときにいう. V = V1 ∪ V2 , V1 , V2 V また代数的集合 (= ∅) が可約でないとき既約であるという. 定理 2.4 代数的集合 V = ∅ に対して次は同値である. (1) V は既約である. (2) 代数的集合 V1 , V2 が V ⊆ V1 ∪ V2 を満たすならば V ⊆ V1 または V ⊆ V2 である. Proof (1) ⇒ (2) V が既約であるとする. 代数的集合 V1 , V2 が V ⊆ V1 ∪ V2 を満たすならば V = (V ∩ V1 ) ∪ (V ∩ V2 ) が成り立つ. p.24, (4) より V ∩ V1 , V ∩ V2 は代数的集合であるから V = V ∩ V1 または V = V ∩ V2 となる. よって V ⊆ V1 または V ⊆ V2 が成り立つ. (2) ⇒ (1) V が可約であると仮定すると, ある代数的集合 U1 , U2 が存在して V = U1 ∪ U2 かつ U1 V, U2 V となるが, 仮定より V ⊆ U1 または V ⊆ U2 となるので V = U1 または V = U2 が得られ矛盾が生じる. よって V は既約である. p.24, (5) より代数的集合の和は代数的集合となるので, 上の定理を繰り返し用いることに より次の定理が得られる. 定理 2.5 既約な代数的集合 V および代数的集合 Vi (i = 1, ..., m) が V ⊆ V1 ∪· · ·∪Vm を満たすならば V ⊆ Vi となる Vi が存在する. 補題 2.6 代数的集合 V ⊆ An (k) および F, G ∈ k[X1 , ..., Xn ] が F G ∈ I(V ) を満たす ならば V ⊆ V(F G) = V(F ) ∪ V(G) が成り立つ. 2. アフィン多様体 28 Proof V = ∅ のときは明らかに成り立つので V = ∅ の場合について証明す る. A ∈ V とすると F G ∈ I(V ) より (F G)(A) = 0 となるので A ∈ V(F G) が成り立つ. これより V ⊆ V(F G) が得られる. V(F G) = V(F ) ∪ V(G) は p.24, (5) より導かれる. 定理 2.7 An (k) の代数的集合 V について次は同値である. (1) V は既約である. (2) I(V ) は k[X1 , ..., Xn ] の素イデアルである. Proof (1) ⇒ (2) V は既約であるから V = ∅, 従って定理 2.2 により, I(V ) = I(∅) = k[X1 , ..., Xn ] である. F, G ∈ k[X1 , ..., Xn ] が F G ∈ I(V ) を満たすと する. このとき補題 2.6 より V ⊆ V(F ) ∪ V(G) が成り立つ. 定理 2.4 よ り V ⊆ V(F ) または V ⊆ V(G) となる. V ⊆ V(F ) ならば F ∈ I(V ), V ⊆ V(G) ならば G ∈ I(V ) となるので V は素イデアルである. (2) ⇒ (1) I(V ) が素イデアルであるから I(V ) = k[X1 , ..., Xn ] となるので定 理 2.2 より V = ∅ である. 次に V が可約であると仮定して矛盾を導く. 代数 的集合 V1 , V2 が存在して V = V1 ∪ V2 , V1 V, V2 V (2.1) が成り立つことから I(V1 ) I(V ), I(V2 ) I(V ) が成り立つ. F ∈ I(V1 ) − I(V ), G ∈ I(V2 ) − I(V ) となる F, G を選ぶと V(F G) = V(F ) ∪ V(G) ⊇ V1 ∪ V2 = V が得られる. 従って F G ∈ I(V ) となるので I(V ) が素イデアルであったこと に矛盾する. 定理 2.8 An (k) の任意の代数的集合 V = ∅ に対して, V = V1 ∪ · · · ∪ Vm となる既約 な代数的集合 V1 , ..., Vm が存在する. さらに条件 “ 任意の i = j に対して Vi 満たすような代数的集合 V1 , ..., Vm は一意に定まる. Vj ” を 2. アフィン多様体 29 Proof 有限個の既約な代数的集合の和として表すことができない代数的集合 V = ∅ が存在したと仮定する. このとき V は既約でないから V = V1 ∪ V1 , V = V1 , V = V1 となる代数的集合 V1 , V1 が存在する. V1 , V1 がともに有限個の既約な代数 的集合の和であれば V 自身が有限個の既約な代数的集合の和となるから, V1 または V1 のいずれかは有限個の既約な代数的集合の和として表すことができ ない. 一般性を失うことなく V1 が有限個の既約な代数的集合の和でないとし てよい. このとき V1 は既約ではないから, V1 = V2 ∪ V2 , V1 = V2 , V1 = V2 となる代数的集合 V2 , V2 が存在する. 上と同様にして V2 が有限個の既約な 代数的集合の和でないとしてよいので V2 = V3 ∪ V3 , V2 = V3 , V2 = V3 となる代数的集合 V3 , V3 が存在する. 以下, この議論を繰り返して代数的集合 の無限列 V V1 V2 ······ Vm ······ が得られ, 対応するイデアルの列 I(V ) I(V1 ) I(V2 ) ······ I(Vm ) ······ から k[X1 , ..., Xn ] がネーター環であることへの矛盾が生じる. 以上で, 任意の 代数的集合 (= ∅) が有限個の既約な代数的集合の和として表されることが示 された. 次に既約な代数的集合 V1 , ..., Vm , W1 , ..., W が存在して V = V1 ∪ · · · ∪ Vm = W1 ∪ · · · ∪ W , Vi Vj , W i Wj (i = j) を満たすとする. このとき任意の i に対して V i ⊆ V = W1 ∪ · · · ∪ W であるから, 定理 2.5 より Vi ⊆ Wh となる h ∈ {1, ..., } が存在する. この h 2. アフィン多様体 30 に対して Wh ⊆ V = V1 ∪ · · · ∪ Vm であるから, Wh ⊆ Vj となる j ∈ {1, ..., m} が存在する. このとき Vi ⊆ Vj と なるが, 仮定より i = j でなければならないので Vi = Wh が成り立つ. 以上 で任意の i に対して Vi = Wh となる h の存在が示された. 同様にして任意の Wi に対して Wi = Vh となる h ∈ {1, ..., m} が存在するので, m = であり, W1 , ..., W は V1 , ..., Vm を並び換えたものであることがわかる. 定理 2.8 により An (k) の任意の代数的集合 V = ∅ に対して, V = V1 ∪ · · · ∪ Vm , Vi Vj (i = j) となる既約な代数的集合 V1 , ..., Vm が一意的に存在する. V1 , ..., Vm を V の既約成分と いう. 2.3 Hilbert の零点定理 この節以降は特に断わらない限り, k は代数的閉体を表すものとする. 定理 2.9 (Hilbert の弱零点定理) 多項式環 k[X1 , ..., Xn ] の真のイデアル I に対して, V(I) = ∅ が成り立つ. Proof M を I を含む k[X1 , ..., Xn ] の極大イデアルとする. k が代数的閉体 であるから定理 1.6 により M = X1 − a1 , ..., Xn − an , a1 , ..., an ∈ k と表されるので, V(M ) = {(a1 , ..., an )} となる. 一方 V(I) ⊇ V(M ) = {(a1 , ..., an )} であるから V(I) = ∅ が成り立つ. 定理 2.10 (Hilbert の零点定理) 多項式環 k[X1 , ..., Xn ] の任意のイデアル I に対し √ て, I(V(I)) = I が成り立つ. 2. アフィン多様体 Proof 31 I = k[X1 , ..., Xn ] のときは V(I) = V(k[X1 , ..., Xn ]) = ∅ であるから I(V(I)) = I(∅) = k[X1 , ..., Xn ] = k[X1 , ..., Xn ] √ k[X1 , ..., Xn ] であるとする. I(V(I)) ⊇ I は √ 明らかであるから I(V(I)) ⊆ I を示せばよい. F ∈ I(V(I)), F = 0 を より成り立つので, 以下 I 任意に選ぶ. k[X1 , ..., Xn ] はネーター環であるから, I = F1 , ..., Fr とな る F1 , ..., Fr ∈ k[X1 , ..., Xn ] が存在する. 多項式環 k[X1 , ..., Xn+1 ] のイデアル J = F1 , ..., Fr , F Xn+1 − 1 に対して V(J) = ∅ を示そう. いま V(J) = ∅ と 仮定し, (a1 , ..., an , an+1 ) ∈ V(J) であるとすると F1 (a1 , ..., an ) = · · · = Fr (a1 , ..., an ) = an+1 F (a1 , ..., an ) − 1 = 0 が成り立つ. このとき (a1 , ..., an ) ∈ V(I) であるが, F ∈ I(V(I)) であるか ら F (a1 , ..., an ) = 0 となる. これより 0 = an+1 F (a1 , ..., an ) − 1 = 0 − 1 = −1 となり矛盾が生じる. よって V(J) = ∅ が成り立つ. Hilbert の弱零点定理 (定 理 2.9) より J = k[X1 , ..., Xn+1 ], 従って 1 ∈ J であるから, r 1= Fi Gi + (F Xn+1 − 1)H, Gi , H ∈ k[X1 , ..., Xn , Xn+1 ] i=1 と表される. この等式の右辺を k[X1 , ..., Xn ] の分数体 k(X1 , ..., Xn ) 上の変数 Xn+1 の多項式と見なして Xn+1 に 1 F ∈ k(X1 , ..., Xn ) を代入すると r 1= Fi Gi (X1 , ..., Xn , i=1 1 ) F が成り立つ. 上式の両辺に, すべての F N Gi (X1 , ..., Xn , F1 ) が k[X1 , ..., Xn ] に 含まれるような F N をかけると r FN = Fi F N Gi (X1 , ..., Xn , i=1 となるので F ∈ √ 1 )∈I F I が成り立つ. よって I(V(I)) ⊆ √ I が示された. 2. アフィン多様体 32 定理 2.11 k[X1 , ..., Xn ] の根基イデアル I に対して I(V(I)) = I が成り立つ. 特に次 の写像 I は全単射であり, 逆写像は V である. I : {An (k) の代数的集合 } V → I(V ) ∈ {k[X1 ..., Xn ] の根基イデアル } V : {k[X1 ..., Xn ] の根基イデアル } S → V(S) ∈ {An (k) の代数的集合 } Proof I が根基イデアルのとき Hilbert の零点定理 (定理 2.10) より I(V(I)) = √ I = I が成り立つ. これより写像 I が全射であることがわかる. 単射であるこ とは定理 2.2 で示したので, I は全単射である. また p.25, (8) より V(I(V )) = V となるので I−1 = V が成り立つ. 定理 2.7 より, V が既約な代数的集合であることと I(V ) が素イデアルであることは同値 であるから, I は次の全単射を誘導する. I : {An (k) の既約な代数的集合 } −→ {k[X1 ..., Xn ] の素イデアル } また k が代数的閉体であるから, 定理 1.6 より極大イデアル M は M = X1 −a1 , ..., Xn −an と表されるので, I は次の全単射も誘導する. I : An (k) (a1 , ..., an ) → X1 − a1 , ..., Xn − an ∈ {k[X1 ..., Xn ] の極大イデアル } 以上を次の定理にまとめておく. 定理 2.12 定理 2.11 の全単射 I は次の 2 つの全単射を誘導する. I : {An (k) の既約な代数的集合 } −→ {k[X1 ..., Xn ] の素イデアル } I : An (k) (a1 , ..., an ) → X1 − a1 , ..., Xn − an ∈ {k[X1 ..., Xn ] の極大イデアル } 定理 2.13 k[X1 , ..., Xn ] の真のイデアル I に対して, 次を満たす素イデアル P1 , ..., Pm が一意に存在する. √ I = P1 ∩ · · · ∩ Pm , Pi Pj (i = j) Proof I が真のイデアルであることから V = V(I) = ∅ である. このとき定 理 2.8 より V = V1 ∪ · · · ∪ Vm , Vi Vj (i = j) 2. アフィン多様体 33 を満たす既約な代数的集合 V1 , ..., Vm が一意に存在する. 写像 I を施すと I(V ) = I(V1 ) ∩ · · · ∩ I(Vm ), I(Vi ) I(Vj ) (i = j) が得られる. I(Vi ) = Pi とおけば Pi は素イデアルで √ I = P1 ∩ · · · ∩ Pm , Pi Pj (i = j) Qi Qj (i = j) を満たす. 次に素イデアル Qi で √ I = Q1 ∩ · · · ∩ Q , を満たすものがあったとする. 写像 V を施すと √ V = V( I) = V(Q1 ) ∪ · · · ∪ V(Q ), V(Qi ) V(Qj ) (i = j) が得られる. V(Qi ) は既約な代数的集合であるから定理 2.8 より = m で, 適 当に番号を付け替えると V(Qi ) = Vi となる. このとき I (V(Qi )) = I(Vi ) =⇒ Qi = Pi となるので一意性が示された. 2.4 アフィン多様体 An (k) の既約な代数的集合をアフィン閉部分多様体, アフィン多様体, または単に閉部分 多様体という. この論文では閉部分多様体と呼ぶことにする. 既約多項式 F ∈ k[X1 , ..., Xn ] により V = V(F ) と表される V を超曲面という. F は素イデアルであるから超曲面は 閉部分多様体である. A2 (k) の超曲面を平面曲線, A3 (k) の超曲面を曲面という. 代数的集合 V に対して剰余環 O(V ) := k[X1 , ..., Xn ]/I(V ) を V の座標環という. V が閉部分多様体のとき O(V ) は整域である. 写像 f : V → k が代数的集合 V 上の多項式関数であるとは, 任意の (a1 , ..., an ) ∈ V 2. アフィン多様体 34 に対して f (a1 , ..., an ) = F (a1 , ..., an ) となる多項式 F ∈ k[X1 , ..., Xn ] が存在するときにいう. f を F で定まる多項式関数とい う. V 上の多項式関数全体を P(V ) と表すことにする. 代数的集合 V から k への写像全体はよく知られているように可換環の構造を持ち, 多項式関数全体 P(V ) はその部分環である. また多項式を多項式関数に対応させる写像 k[X1 , ..., Xn ] F → f ∈ P(V ) は k 代数としての全射準同型であり, その核は I(V ) である. これより次の定理を得る. な お, 以下において k 代数としての準同型, 同型をそれぞれ k 準同型, k 同型という. 定理 2.14 代数的集合 V 上の多項式関数全体のなす環 P(V ) と V の座標環 O(V ) は k 同型である. An (k) の閉部分多様体 V, W に対して W ⊆ V であるとき W は V の閉部分多様体であ るという. 閉部分多様体 V と代数的集合 W ⊆ V に対して IV (W ) := {F¯ ∈ O(V ) | 任意の A ∈ W に対して F (A) = 0} を V における W のイデアルという. また閉部分多様体 V と O(V ) のイデアル I に対 して VV (I) := {A ∈ V | 任意のF¯ ∈ I に対して F (A) = 0} と定義する. 自然な準同型 π : k[X1 , ..., Xn ] → O(V ) により π(I(W )) = IV (W ), が成り立つ. また定理 2.14 より O(V ) V(π −1 (I)) = VV (I) P(V ) であるから, O(V ) と P(V ) を同一視し IV (W ) = {f ∈ O(V ) | 任意の A ∈ W に対して f (A) = 0} VV (I) = {A ∈ V | 任意の f ∈ I に対して f (A) = 0} のように見なすことがある. 定理 2.11 の全単射 I は V に含まれる代数的集合 W を I(V ) を含む根基イデアル I(W ) に対応させる. I(W ) は自然に O(V ) の根基イデアルと見なせるので I は次の全単射を 2. アフィン多様体 35 誘導する. I : {V に含まれる代数的集合 } −→ {O(V ) の根基イデアル } I が閉部分多様体を素イデアルに, 1 点を極大イデアルに移すことに注意すれば次の定理 を得る. ただし 1 点からなる集合は 1 点と同一視する. 定理 2.15 定理 2.11 の全単射 I は次の 3 つの全単射を誘導する. I : {V に含まれる代数的集合 } −→ I : {V に含まれる閉部分多様体 } −→ I: V −→ {O(V ) の根基イデアル } {O(V ) の素イデアル } {O(V ) の極大イデアル } 定理 2.16 V を An (k) の閉部分多様体, W を V の閉部分多様体とする. このとき 次の写像は上への k 準同型であり, k 同型 O(V )/IV (W ) P(V ) Proof f O(W ) を導く. −→ f |W ∈ P(W ) f |W が W の多項式関数であること, および (f + g)|W = f |W + g|W , (f g)|W = (f |W )(g|W ) は明らかである. また a ∈ k による定数関数 a ∈ P(V ) に対して a|W は a に よる W 上の定数関数であるので, この対応は k の元を不変にする. さらに, g ∈ P(W ) が多項式 F から定まるとき, F から定まる V 上の多項式関数 f の W への制限 f |W が g に一致するので, この対応は上への k 準同型である. P(∗) と O(∗) の同一視をすると, この準同型の核が IV (W ) であることも容易 に確認できる. よって準同型定理より O(V )/IV (W ) O(W ) が得られる. An (k) の閉部分多様体 V と Am (k) の閉部分多様体 W に対して写像 ϕ : V → W が多項 式写像であるとは, T1 , ..., Tm ∈ k[X1 , ..., Xn ] が存在して, 任意の A ∈ V に対して ϕ(A) = (T1 (A), ..., Tm (A)) が成り立つときにいう. ϕ を T = (T1 , ..., Tm ) が定める多項式写像ということもある. ま た多項式写像 ϕ : V → W が同型写像であるとは, 多項式写像 ψ : W → V が存在して ϕψ = idW , ψϕ = idV 2. アフィン多様体 36 であるときにいう. ただし idW , idV はそれぞれ W , V の恒等写像である. 定理 2.17 V を An (k) の閉部分多様体, W を Am (k) の閉部分多様体とし, ϕ : V → W を多項式写像とする. 多項式関数 f ∈ P(W ) に対して ϕ∗ (f ) : V → k を ϕ∗ (f )(A) = (f ϕ)(A) = f (ϕ(A)) (A ∈ V ) と定めると, ϕ∗ (f ) は V 上の多項式関数である. Proof ϕ は多項式写像であるから, 任意の A ∈ V に対して ϕ(A) = (T1 (A), ..., Tm (A)) となる T1 , ..., Tm ∈ k[X1 , ..., Xn ] が存在する. また f は W 上の多項式関数で あるから, 任意の B ∈ W に対して F (B) = f (B) となる F ∈ k[X1 , ..., Xm ] が 存在する. このとき任意の A ∈ V に対して ϕ∗ (f )(A) = f (T1 (A), ..., Tm (A)) = F (T1 (A), ..., Tm (A)) = (F (T1 , ..., Tm ))(A) が成り立つ. ここで F (T1 , ..., Tm ) = F (T1 (X1 , .., Xn ), ..., Tm (X1 , ..., Xn )) ∈ k[X1 , ..., Xn ] であるから ϕ∗ (f ) ∈ P(V ) となる. ϕ∗ (f ) ∈ P(V ) を ϕ による f の引き戻しという. 定理 2.18 V を An (k) の閉部分多様体, W を Am (k) の閉部分多様体, ϕ : V → W を多項式写像とする. 多項式関数 f ∈ P(W ) に, ϕ による引き戻しを対応させる写 像 ϕ∗ : P(W ) f −→ ϕ∗ (f ) ∈ P(V ) は k 準同型である. Proof f, g ∈ P(W ) に対して ϕ∗ (f + g) = ϕ∗ (f ) + ϕ∗ (g), ϕ∗ (f g) = ϕ∗ (f )ϕ∗ (g) は容易に確かめることができる. また c ∈ k による W の定数関数が, c によ る V の定数関数に対応するので, ϕ∗ は k 準同型である. k 準同型 ϕ∗ : P(W ) → P(V ) を ϕ による引き戻し写像という. 同一視 P(V ) P(W ) O(V ), O(W ) により ϕ∗ : O(W ) → O(V ) と見なすことができる. 恒等写像 idV による 引き戻し写像 id∗ : O(V ) → O(V ) が恒等写像であることは明らかである. 2. アフィン多様体 37 定理 2.19 V ⊆ An (k), W ⊆ Am (k), U ⊆ A (k) を閉部分多様体とする. このとき多項 式写像 ϕ : V → W, ψ : W → U に対して合成写像 ψϕ も多項式写像で (ψϕ)∗ = ϕ∗ ψ ∗ が成り立つ. Proof ψϕ が多項式写像であることは明らかである. 任意の f ∈ P(U ) に対 して (ϕ∗ ψ ∗ )(f ) = ϕ∗ (ψ ∗ (f )) = ϕ∗ (f ψ) = (f ψ)ϕ = f (ψϕ) = (ψϕ)∗ (f ) となるので (ψϕ)∗ = ϕ∗ ψ ∗ が成り立つ. 定理 2.20 V ⊆ An (k), W ⊆ Am (k) をそれぞれ閉部分多様体とするとき次の写像は全 単射である. Φ : {V → W | 多項式写像 } ϕ → ϕ∗ ∈ {O(W ) → O(V ) | k 準同型 } また ϕ が同型写像である条件は ϕ∗ が k 同型となることである. Proof まず Φ が全射であることを示す. O(V ) = k[X1 , ..., Xn ]/I(V ), O(W ) = k[Y1 , ..., Ym ]/I(W ) とおき, k 準同型 α : O(W ) → O(V ) を任意に選ぶ. Yi ∈ O(W ) に対し て α(Yi ) = Ti とおく. T1 , ..., Tm ∈ k[X1 , ..., Xn ] である. Ti から定まる多項 式写像 ϕ を ϕ = (T1 , ..., Tm ) : V A −→ ϕ(A) = (T1 (A), ..., Tm (A)) ∈ Am (k) とする. 任意の G ∈ I(W ) に対して, G(Y1 , ..., Ym ) = 0 であり, α は k 準同型 であるから G(T1 , ..., Tm ) = α(G(Y1 , ..., Ym )) = α(0) = 0 より G(T1 (A), ..., Tm (A)) = 0 となる. G ∈ I(W ) は任意であったから ϕ(A) = (T1 (A), ..., Tm (A)) ∈ V(I(W )) = W が成り立つ. ゆえに ϕ は V から W への多項式写像である. ϕ による引き戻 し写像 ϕ∗ は ϕ∗ (Yi ) = Yi · ϕ = Ti = α(Yi ) 2. アフィン多様体 38 を満たすので, Yi が O(W ) を生成することに注意すれば ϕ∗ = α であること がわかる. ゆえに Φ は全射である. 次に Φ が単射であることを示す. ϕ1 , ϕ2 を V から W への異なる多項式写 像とする. このときある A ∈ V に対して ϕ1 (A) = ϕ2 (A) である. ϕ1 (A) に対 応する O(W ) の極大イデアルを M とすると IV (M ) は ϕ1 (A) のみからなる ので, ある f ∈ M が存在して f (ϕ2 (A)) = 0 となる. このとき ϕ∗1 (f )(A) = f (ϕ1 (A)) = 0, ϕ∗2 (f )(A) = f (ϕ2 (A)) = 0 =⇒ ϕ∗1 = ϕ∗2 となるので Φ は単射である. 以上で Φ が全単射であることが示された. 後半の主張について, まず ϕ : V → W を同型写像とすると, 多項式写像 ψ : W → V が存在して ψϕ = idV , ϕψ = idW が成り立つ. このとき ϕ∗ ψ ∗ = (ψϕ)∗ = (idV )∗ = idO(V ) , ψ ∗ ϕ∗ = (ϕψ)∗ = (idW )∗ = idO(W ) となるので ϕ∗ は k 同型である. 最後に ϕ∗ : O(W ) → O(V ) が k 同型であると仮定する. Φ が全射であるか ら ϕ∗ の逆写像は多項式写像 ψ : W → V の引き戻し写像 ψ ∗ : O(V ) → O(W ) として得られ ψ ∗ ϕ∗ = (ϕψ)∗ = idO(W ) , ϕ∗ ψ ∗ = (ψϕ)∗ = idO(V ) が成り立つ. ここで Φ は単射であり, (idV )∗ = idO(V ) , (idW )∗ = idO(W ) であるから ϕψ = idW , が成り立つ. 従って ϕ は同型写像である. ψϕ = idV 2. アフィン多様体 39 定理 2.21 k 上有限生成な整域 R に対して, R O(V ) (k 同型 ) を満たす An (k) の 閉部分多様体 V が同型を除いて一意に存在する. Proof R が k 上 n 個の元で生成されるとすると, 全射準同型 k[X1 , ..., Xn ] → R が存在する. この核を I とおくと, I は素イデアルで k 同型 k[X1 , ..., Xn ]/I R が得られる. R は単位元を含むので I は真のイデアルで, V(I) は An (k) の 閉部分多様体となり, O(V ) = k[X1 , ..., Xn ]/I V の一意性については, O(V ) R が成り立つ. O(V ) となる閉部分多様体 V があるとする と, 定理 2.20 より同型な多項式写像 V → V が存在することになるので, V と V は同型である. 2.5 有理関数 閉部分多様体 V ⊆ An (k) の座標環 O(V ) の分数体を V の関数体といい, k(V ) で表 す. また k(V ) の元を V 上の有理関数という. k(V ) = g g, h ∈ O(V ), h = 0 h 有理関数 f が点 A ∈ V で定義されるとは, ある g, h ∈ O(V ), h(A) = 0, が存在して f= g , h と表されるときにいう. f が定義されない V の点を f の極という. A で定義される有 理関数全体を OA (V ) := {f ∈ k(V ) | f は A で定義される } とおく. f ∈ OA (V ) のとき, 点 A での f の値 f (A) を f (A) = g(A) h(A) (h(A) = 0) で定義する. これは well-defined である. なぜならば f= g h (h (A) = 0) 2. アフィン多様体 40 とすると, 分数体の定義から gh = hg となり g(A) g (A) = h(A) h (A) が成り立つからである. f (A) = 0 のとき A を f の零点という. A を零点に持つ有理関 数全体を mA (V ) := {f ∈ OA (V ) | f (A) = 0} とおく. さらに V 上の有理関数 f ∈ k(V ) に対して ¯ ∈ O(V )} Jf := {H ∈ k[X1 , . . . , Xn ] | Hf Zf := {f の極 }, ¯ ∈ O(V ) = k[X1 , ..., Xn ]/I(V ) である. とおく. ここで H 定理 2.22 有理関数 f = 0 の零点は 1 f の極である. Proof A が f の零点のとき f= g , h h(A) = 0, g(A) = 0 となる g, h ∈ O(V ) が存在する. f = 0 より ないとすると 1 h = , f g 1 f = 0 であるが, A が 1 f の極で g (A) = 0 となる g , h ∈ O(V ) が存在する. このとき f= g g = h h =⇒ g(A)h (A) − h(A)g (A) = −h(A)g (A) = 0 となり矛盾が生じる. よって A は f の極が 1 f 1 f の極である. の零点になるとは限らない. 例えば閉部分多様体 A2 (k) 上の有理関数 f = は原点 (0, 0) を極に持つが, 原点は 1 f の極でもある. 一般に f の極は ずれかである. 補題 2.23 V(Jf ) = Zf である. 特に Zf は代数的集合である. Proof A ∈ V(Jf ) とする. 任意の f= g h (g, h ∈ O(V ), h = 0) 1 f y x の零点か極のい 2. アフィン多様体 41 ¯ となる多項式 H は Hf ¯ ∈ O(V ) を満たすので Jf なる表示に対して, h = H の元である. A ∈ V(Jf ) であるから h(A) = H(A) = 0 となる. 従って f は A で定義できず, A ∈ Zf が成り立つ. 逆に A ∈ Zf とする. このとき 任意の H ∈ Jf に対して, H ∈ I(V ) のときは明らかに H(A) = 0 であり, H ∈ I(V ) のときは g f = ¯, H g ∈ O(V ) と表されるので, f が A で定義されないことから H(A) = 0 となる. よって A ∈ V(Jf ) が成り立つ. 以上で V(Jf ) = Zf が示された. 定理 2.24 f を閉部分多様体 V ⊆ An (k) 上の有理関数とすると Zf V が成り立つ. Proof f は f = hg , g, h ∈ O(V ), h = 0 と表される. h = 0 より h はある点 A ∈ V で h(A) = 0 となる. このとき f は A で定義されるので A ∈ Zf が成 り立つ. よって Zf V が示された. 定理 2.25 V ⊆ An (k) を閉部分多様体とすると次が成り立つ. O(V ) = OA (V ) A∈V Proof O(V ) の元は V のすべての点で定義されるので O(V ) ⊆ が成り立つ. 逆に f ∈ A∈V OA (V ) OA (V ) とすると, V(Jf ) = Zf = ∅ であるから, 定理 2.9 より Jf = k[X1 , ..., Xn ] となる. これより f = ¯ 1 · f ∈ O(V ) が得られ る. よって O(V ) ⊇ A∈V A∈V OA (V ) も成り立つ. 以上で定理が証明された. 定理 2.26 V ⊆ An (k) を閉部分多様体, A ∈ V とする. このとき f ∈ OA (V ) に対し て次の (1), (2) は同値である. (1) f は可逆である. (2) f (A) = 0 である. 特に mA (V ) = OA (V ) − OA (V )× が成り立つ. Proof (1) ⇒ (2) f ∈ OA (V ) が可逆であるとすると, ある g ∈ OA (V ) が 存在して f g = 1 が成り立つ. このとき (f g)(A) = 1(A) = 1 であるから f (A) = 0 が成り立つ. 2. アフィン多様体 (2) ⇒ (1) 42 f (A) = 0 とする. f ∈ OA (V ) であるから f= g , h h(A) = 0 となる g, h ∈ O(V ) が存在する. f (A) = 0 より g(A) = 0 となるから, g = 0 でもあるので有理関数 が A で定義され, 従って h g h g ∈ OA (V ) が成り立つ. これが f の逆元であること が容易に確かめられるので f は可逆である. f ∈ OA (V ) について f ∈ mA (V ) ⇔ f (A) = 0 ⇔ f が可逆でない ⇔ f ∈ OA (V ) − OA (V )× であるから mA (V ) = OA (V ) − OA (V )× が成り立つ. 可換環 R の非可逆元全体 M がイデアルをなすとき R を局所環という. このとき M は R の唯一つの極大イデアルである. 詳細は参考文献 [4, §25.2], [5, 定理 25.1] を参照され たい. 定理 2.27 V ⊆ An (k) を閉部分多様体, A ∈ V とする. このとき OA (V ) は局所環で ある. Proof mA (V ) は OA (V ) のイデアルであり, 定理 2.26 より mA (V ) = OA (V ) − OA (V )× が成り立つ. 真のイデアルは可逆元を含まないので, すべてが mA (V ) に含ま れる. 従って mA (V ) は OA (V ) の非可逆元全体と一致するので, OA (V ) は局 所環である. OA (V ) を V の点 A での局所環という. 定理 2.28 V ⊆ An (k) を閉部分多様体, A ∈ V とし, mA = {f ∈ O(V ) | F (A) = 0} とおくと次が成り立つ. (1) O(V )/mA k であり, mA は O(V ) の極大イデアルである. (2) OA (V ) は O(V ) の mA における局所化と同型である. 2. アフィン多様体 Proof (1) 準同型 ϕA : O(V ) るから O(V )/mA (2) 43 f → f (A) ∈ k は全射で, その核が mA であ k が成り立つ. 特に mA は O(V ) の極大イデアルである. O(V ) が整域であることから, O(V ) の mA における局所化の元と OA (V ) の元が自然に1対1に対応し, 同型を導く. 一般に整域 R の積閉集合 S ( 0) による局所化 S −1 R は R の分数体に含まれる次の部分 整域に同型である. r | r ∈ R, s ∈ S s また S と交わらない R の素イデアル I に対して S −1 I ∩ R = I が成り立つ. 従って入射 R → S −1 R と自然準同型 S −1 R → S −1 R/S −1 I の合成の核が I に一致するので R/I は S −1 R/S −1 I の部分整域と見なすことができる. 特に I が R の極大イデアルのときは任 意の s ∈ S に対して Rs + I = R が成り立つので同型 R/I S −1 R/S −1 I が得られる. 以上から OA (V ) を O(V ) の mA に おける局所化と同一視することができる. また次の環同型が成り立つ. O(V )/mA OA (V )/mA (V ) k (2.2) 同様に, 任意の f ∈ O(V ) − mA に対して f + mA 2 = O(V ) が成り立つことから次の環同型が得られる. O(V )/mA 2 OA (V )/mA (V )2 これより O(V ) 加群としての次の同型が得られる. mA /mA 2 mA (V )/mA (V )2 (2.3) 定理 2.29 閉部分多様体 V ⊆ An (k), 点 A ∈ V に対して OA (V ) はネーター局所整域 である. Proof OA (V ) は定理 2.27 より局所環であり, k(V ) の部分環であることから 整域である. また, ネーター環 O(V ) の局所化であるからネーター環でもある ([4, 問 29.10]). よって OA (V ) はネーター局所整域である. 2. アフィン多様体 44 V ⊆ An (k), W ⊆ Am (k) を閉部分多様体, ϕ : V → W を多項式写像とする. A ∈ V , h ∈ O(W ) − mϕ(A) のとき ϕ∗ (h)(A) = h(ϕ(A)) = 0 である. 従って Oϕ(A) (W ) の元 f= を ϕ∗ で移した g , h g, h ∈ O(W ), h(ϕ(A)) = 0 ϕ∗ (g) は OA (V ) の元となる. ここで ϕ∗A を ϕ∗ (h) ϕ∗A : Oϕ(A) (W ) g h −→ ϕ∗ (g) ∈ OA (V ) ϕ∗ (h) と定めると, ϕ∗ : O(W ) → O(V ) が k 準同型であることから, ϕ∗A が well-defined である こと, k 準同型であることが確かめられる. また Oϕ(A) (W ) の元が O(W ) の元の商とし て表されることから, k 準同型 ψ : Oϕ(A) (W ) → OA (V ) で ψ|O(W ) = ϕ∗ となるものが ϕ∗A に限ることがわかる. 定理 2.30 V ⊆ An (k) を閉部分多様体, F ∈ k[X1 , . . . , Xn ] − I(V ), f = F¯ ∈ O(V ) と する. このとき次が成り立つ. (1) V = V(I(V ) ∪ {Xn+1 F − 1}) は An+1 (k) の閉部分多様体である. (2) O(V )f O(V ) である. ただし O(V )f は積閉集合 {f m }m=0,1,2,... による O(V ) の局所化である. (3) Oϕ(A) (V ) OA (V ) (k 同型) である. ただし A ∈ V , ϕ : V (a1 , ..., an+1 ) → (a1 , ..., an ) ∈ V は多項式写像である. Proof (1) O(V )f は有理関数体 k(V ) の部分整域であり, O(V ) に 1 f を添 加して得られる. すなわち O(V )f = O(V )[ f1 ] である. 準同型 O(V )[Xn+1 ] G(Xn+1 ) −→ G 1 f ∈ O(V )f は全射準同型であり, その核が単項イデアル f Xn+1 − 1 であることは容易に 確かめられる. ここで準同型 k[X1 , ..., Xn ] → O(V ) から生じる全射準同型 k[X1 , ..., Xn ][Xn+1 ] → O(V )[Xn+1 ] 2. アフィン多様体 45 との合成 k[X1 , ..., Xn ][Xn+1 ] → O(V )[Xn+1 ] → O(V )f は全射準同型 i Gi (X1 , ..., Xn )Xn+1 → k[X1 , ..., Xn ][Xn+1 ] i Gi i 1 f i ∈ O(V )f となり, その核は I = I(V ), Xn+1 F − 1 = I(V )k[X1 , . . . , Xn , Xn+1 ] + Xn+1 F − 1 である. 準同型定理から k[X1 , . . . , Xn , Xn+1 ]/I O(V )f が成り立つので I は素イデアルであり, V = V(I) は閉部分多様体である. (2) 上で定めた I は素イデアルであるから, I(V ) = √ I = I が成り立つ. 従って (1) で示したことから O(V ) = k[X1 , ..., Xn+1 ]/I O(V )f が成り立つ. このとき次の写像 ψ が全単射であることを注意しておく (矢印の 向きに注意). i Gi (X1 , ..., Xn )Xn+1 ←− ψ : O(V ) i (3) Gi i 1 f i ∈ O(V )f (2.4) A ∈ V とすると, 定理の前に説明したように多項式写像 ϕ:V a1 , . . . , an , 1 f (a1 , . . . , an ) −→ (a1 , . . . , an ) ∈ V から生じる k 準同型 ϕ∗ : O(V ) → O(V ) は k 準同型 ϕ∗A : OA (V ) ←− Oϕ(A) (V ) を誘導する. ϕ(A) ∈ V − VV (f ) より O(V )f ⊆ Oϕ(A) (V ) となるので ϕ∗A は k 準同型 O(V )f → OA (V ) を引き起こすが, 任意の g ∈ O(V )f に対して 2. アフィン多様体 46 ϕ∗A (g) = ψ(g) が容易に確かめられる. 従って ϕ∗A : O(V ) ←− O(V )f は k 同型である. これより ϕ∗A は分数体の同型 k(V ) 前の説明と同様にして OA (V ) 2.6 k(V ) を導き, 定理の Oϕ(A) (V ) が得られる. アフィン多様体の次元 閉部分多様体 V ⊆ An (k) の次元 dim V を dim V := tr.degk k(V ) と定義する. dim V = 1 のときアフィン曲線, dim V = 2 のときアフィン曲面という. ま た k ⊆ R である 整域 R に対して R の分数体の k 上の超越次数を tr.degk R と表す. 定理 2.31 An (k) の閉部分多様体 V に対して次の (1) と (2) は同値である. (1) V は 1 点集合である. (2) dim V = 0 Proof (1) ⇒ (2) V = {(a1 , ..., an )} のとき定理 2.12 より I(V ) = X1 − a1 , ..., Xn − an となり k(V ) = k[X1 ..., Xn ]/I(V ) (2) ⇒ (1) k となるので tr.degk k(V ) = 0 が成り立つ. k が代数的閉体であることに注意すると dim V = 0 ⇔ tr.degk k(V ) = 0 ⇔ k(V )/k は代数拡大である ⇔ k(V ) = k が成り立つので I(V ) は k[X1 , ..., xn ] の極大イデアルとなる. 従って定理 2.12 より V は 1 点集合である. 定理 2.32 An (k) の曲線 V に対して, W からなる. V を満たす代数的集合 W は有限個の点 2. アフィン多様体 47 Proof W = ∅ のときは明らかであるから, W V, W = ∅ とする. このとき 定理 2.8 より W = W1 ∪ · · · ∪ Wm となる既約な代数的集合 W1 , . . . , Wm が存 在する. 従って W が既約な代数的集合の場合に示せばよい. W V であるから IV (V ) IV (W ) が成り立つ. 従って IV (W ) に 0 でない 元 f が存在する. いま f が k 上代数的であると仮定すると, k(f )/k は代数拡 大となる. k は代数的閉体であるから k(f ) = k となる. 従って f ∈ k より, f は定数となるが, これは f が W の上で 0, V のある点 A に対して f (A) = 0 となることに矛盾する. よって f ∈ O(V ) は k 上超越的である. dim V = 1 であることから, k(V )/k(f ) は代数拡大である. 任意に g ∈ O(V ), g = 0 を選ぶと, f, g は k 上代数的従属であるから F (f, g) = 0 となる多項式 F ∈ k[X1 , X2 ], F = 0 が存在する. このような多項式の中で次数が最小のもの を選び, 改めて F とおき F (X1 , X2 ) = F0 (X2 ) + F1 (X2 )X1 + · · · + Fd (X2 )X1d とする. F0 (X2 ) = 0 ならば F (X1 , X2 ) = X1 (F1 (X2 ) + · · · + Fd (X2 )X1d−1 ) = X1 G1 (X1 , X2 ) となるが, F (f, g) = f G1 (f, g) = 0, f = 0 かつ O(V ) が整域であることか ら G1 (f, g) = 0 となる. F = 0 より G1 = 0 となり, deg G1 < deg F より F の選び方に矛盾する. 従って F0 (X2 ) = 0 が成り立つ. これより F (0, X2 ) = 0 であることがわかる. 一方 f ∈ IV (W ) であるから 0 = F (f, g) ≡ F (0, g) mod IV (W ) が成り立つ. ゆえに g¯ ∈ O(V )/IV (W ) = O(W ) は k 上代数的である. g は任 意であったから O(W ) は k の代数拡大となり O(W ) = k が得られる. よって 定理 2.31 より W は 1 点集合となり, 定理が証明された. 定理 2.33 An (k) の曲線 V に対して, V 上の 有理関数 f = 0 の極および零点は有限 個である. Proof 補題 2.23, 定理 2.24 より f の極全体のなす集合 Zf は Zf V を満た す代数的集合である. よって定理 2.32 より Zf は有限集合である. 一方 f の 零点全体のなす集合は定理 2.22 から 限集合である. 1 f の極全体のなす集合に含まれるので有 2. アフィン多様体 48 An (k) は閉部分多様体であり, I(An (k)) = 0 であるから O(An (k)) = k[X1 , . . . , Xn ]/ 0 = k[X1 , . . . , Xn ] となり, k(An (k)) = k(X1 , . . . , Xn ) が成り立つ. 従って dim An (k) = n, すなわち An (k) は n 次元多様体である. 定理 2.34 既約多項式 F ∈ k[X1 , ..., Xn ] に対して, V(F ) は An (k) の n − 1 次元閉部 分多様体である. Proof F は素イデアルであるから, V = V(F ) とおくと V は閉部分多 様体である. 以下 dim V = n − 1 であることを示す. k(X1 , ..., Xn ) の元と 見て F は k 上超越的であるから, 適当に番号を付けかえて F, X2 , ..., Xn が k(X1 , ..., Xn ) の k 上の超越基になるようにできる. このとき k(X1 , ..., Xn ) は k(F, X2 , ..., Xn ) 上代数的であるから k[X1 , ..., Xn ] も k[F, X2 , ..., Xn ] 上代数的 である. 従って k[X1 , ..., Xn ]/ F は k[F, X2 , ..., Xn ]/ F 上代数的である. ゆ えに tr.degk k[X1 , ..., Xn ]/ F = tr.degk k[F, X2 , ..., Xn ]/ F となるので k[F, X2 , ..., Xn ]/ F k[X2 , ..., Xn ] に注意すれば dim V = tr.degk k[X1 , ..., Xn ]/ F = n − 1 が得られる. 定理 2.35 An (k) の n − 1 次元閉部分多様体 V に対して V = V(F ) となる既約多項 式 F ∈ k[X1 , . . . , Xn ] が存在する. Proof V が閉部分多様体であることから I(V ) は k[X1 , ..., Xn ] の素イデアル である. また dim V = n − 1 < n = dim An (k) より V 理 2.2 より I(V ) An (k) となるので定 I(An (k)) = 0 が得られる. I(V ) の 0 でない多項式は既約 多項式に分解され, I(V ) が素イデアルであることから, 1つの既約多項式 F が I(V ) に含まれる. F は素イデアルであるから O(F ) = k[X1 , . . . , Xn ]/ F は整域で, 定理 2.34 より dim V(F ) = n − 1 が成り立つ. ϕ : O(F ) = k[X1 , ..., Xn ]/ F F ⊆ I(V ) より自然な全射準同型 −→ O(V ) = k[X1 , ..., Xn ]/I(V ) 2. アフィン多様体 49 が存在する. ϕ が同型であることを示せば F = I(V ) となり, V = V(F ) が 導かれる. dim V = n − 1 より k 上代数的独立な元 y1 , . . . , yn−1 ∈ O(V ) が存在する. ϕ が全射であることから ϕ(z1 ) = y1 , . . . , ϕ(zn−1 ) = yn−1 となる z1 , . . . , zn−1 ∈ O(F ) が存在する. いま z1 , . . . , zn−1 が k 上代数的従 属であると仮定すると, n − 1 変数多項式 G ∈ k[Y1 , ..., Yn−1 ] が存在して G(z1 , ..., zn−1 ) = 0 となる. このとき ϕ(G(z1 , ..., zn−1 )) = G(y1 , ..., yn−1 ) = 0 となるが, これは y1 , . . . , yn−1 が k 上代数的独立であったことに矛盾する. 従って z1 , . . . , zn−1 は k 上代数的独立である. ここで Ker(ϕ) = 0 と仮定する と, 0 でない z ∈ Ker(ϕ) が存在する. 整域 O(F ) の分数体を k(F ) とする と k(F )/k(z1 , . . . , zn−1 ) は代数拡大であるから z は k(z1 , . . . , zn−1 ) 上代数的 である. よって H(z1 , . . . , zn−1 , z) = 0 となる多項式 H ∈ k[Y1 , . . . , Yn ], H = 0 が存在する. H としてこのような多項 式の中で次数最小のものを選んでおく. H を z で整理して H(z1 , . . . , zn−1 , z) = H0 (z1 , . . . , zn−1 )+H1 (z1 , . . . , zn−1 )z+· · ·+Hd (z1 , . . . , zn−1 )z d とする. H0 (z1 , . . . , zn−1 ) = 0 と仮定すると, z1 , . . . , zn−1 が k 上代数的独 立であったことから H0 (Y1 , . . . , Yn−1 ) = 0 となり, H が Yn の倍数となる. O(F ) が整域であることに注意すれば H より次数の小さい H ∗ = H/Yn = 0 が H ∗ (z1 , . . . , zn−1 , z) = 0 を満たすことになり, H の選び方に矛盾する. 従っ て H0 (z1 , . . . , zn−1 ) = 0 が成り立つ. このとき ϕ(H(z1 , . . . , zn−1 , z)) = H(y1 , . . . , yn−1 , 0) = H0 (y1 , . . . , yn−1 ) = 0 となるが, これは y1 , . . . , yn−1 が代数的独立であったことに矛盾する. 以上で Ker(ϕ) = 0 であること, 従って ϕ が同型であることが示された. 2. アフィン多様体 2.7 50 非特異アフィン多様体 閉部分多様体 V ⊆ An (k) と点 A ∈ V に対して, 定理 2.28 で示したように mA = {f ∈ O(V ) | f (A) = 0} は O(V ) の極大イデアルである. 特に V = An (k) のときは nA = {G ∈ k[X1 , . . . , Xn ] | G(A) = 0} と表すことにする. O(V ) のイデアル mA , mA 2 を O(V ) 部分加群と見なすと, その剰余 加群 mA /mA 2 は O(V ) 加群であり, k ⊆ O(V ) より k 線型空間とも見なすことができる. ここで dimk mA /mA 2 = dim V が成り立つとき, V は点 A で非特異であるという. V が点 A で非特異でないとき, V は 点 A で特異であるといい, このとき点 A を V の特異点という. またすべての点で非特異 であるとき V は非特異であるという. V が非特異であるかどうかは V の座標環 O(V ) のみから定まる性質である. 定理 2.36 An (k) の閉部分多様体 V と点 A ∈ V に対して dimk mA /mA 2 ≥ dim V が 成り立つ. 定理 2.36 の証明には次の定理 2.37, 2.38 を必要とする. 証明については付録 A を参照され たい. ただし閉部分多様体 Z が閉部分多様体 V に含まれるとき codimV Z := max {r | Z = Z1 ··· Zr V, Zi は閉部分多様体 } とおく. 定理 2.37 閉部分多様体 Z が閉部分多様体 V に含まれるとき次が成り立つ. codimV Z = dim V − dim Z 定理 2.38 (Krull の標高定理) V ⊆ An (k) を閉部分多様体, f1 , ..., fr ∈ O(V ) と し, VV (f1 , ..., fr ) が空でないとする. このとき VV (f1 , ..., fr ) の既約成分 Z について codimV Z ≤ r が成り立つ. 2. アフィン多様体 51 mA = (f1 , ..., fm ) とし, f1 , ..., fr を mA /mA 2 の k 基底とす 定理 2.36 の証明 ると mA /mA 2 は O(V ) 加群として f1 , ..., fr で生成される. このとき V の A で の局所環 OA (V ) の極大イデアル mA (V ) に対して mA /mA 2 mA (V )/mA (V )2 2 より, mA (V )/mA (V ) も OA (V ) 加群として f1 , ..., fr で生成される. OA (V ) の根基 (極大イデアルすべての共通部分) が mA (V ) に一致するから, 中山の補 題 (定理 1.7) が適用できて, OA (V ) 加群として mA (V ) = OA (V )f1 + · · · + OA (V )fr + mA (V )2 = OA (V )f1 + · · · + OA (V )fr が成り立つ. 従って fj ∈ O(V ) f1 fr + · · · + O(V ) , g g j = r + 1, ..., m. となる g ∈ O(V ), g(A) = 0 が存在する. これより (V − VV (g)) ∩ VV (f1 , ..., fr ) = {A} が閉部分多様体となるので, VV (f1 , ..., fr ) は {A} と VV (g) に含まれる既約 成分に分解できる. 特に {A} は VV (f1 , ..., fr ) の既約成分である. 定理 2.37, 2.38 を適用すると dim V = dim V − dim {A} = codimV {A} ≤ r = dimk mA /mA 2 が成り立つ. 補題 2.39 An (k) の閉部分多様体 V と点 A = (a1 , . . . , an ) ∈ V に対して, nA /nA 2 は X1 − a1 , . . . , Xn − an を基底とする n 次元 k 線型空間である. ただし Xi − ai は nA /nA 2 における Xi − ai の剰余類を表す. Proof A = (0, . . . , 0) の場合も同様にして証明できるので A = (0, . . . , 0) として証明する. nA = (X1 , . . . , Xn ) であるから nA は O(An (k)) 加群とし て X1 , . . . , Xn で生成される. 従って nA の元 F は F = (c1 + c1 X1 + · · · )X1 + · · · + (cn + cn Xn + · · · )Xn と表されるので F ≡ c1 X1 + · · · + cn Xn (mod nA 2 ) (ci , ci ∈ k) 2. アフィン多様体 52 となり, nA /nA 2 が k 線型空間として X1 , ..., Xn で生成されることがわかる. 一方 nA 2 は次数が 2 以上の多項式からなるイデアルであるから c1 X1 + · · · + cn Xn ∈ nA =⇒ c1 = · · · = cn = 0 が成り立つ. ゆえに X1 , ..., Xn は nA /nA 2 の基底である. 定理 2.40 V ⊆ An (k) を閉部分多様体, I(V ) = F1 , . . . , Fr , Fi ∈ k[X1 , . . . , Xn ] とす る. このとき V の点 A = (a1 , . . . , an ) について次が成り立つ. (1) 自然な準同型 ϕ : O(An (k)) → O(V ) が誘導する k 線型写像 ϕ¯ : nA /nA 2 G(X1 , . . . , Xn ) → G(x1 , . . . , xn ) ∈ mA /mA 2 (xi = ϕ(Xi )) の核 Ker(ϕ) ¯ は次式で与えられる. n n Ker(ϕ) ¯ = j=1 (2) dimk mA /mA 2 = n − rank ∂F1 ∂Fr (A)Xj − aj , . . . , (A)Xj − aj ∂Xj ∂X j j=1 ∂Fi (A) ∂Xj i,j Proof A = (0, . . . , 0) として証明する. (1) ϕ(nA ) = mA , ϕ(nA 2 ) = mA 2 となるので ϕ は k 線型写像 ϕ¯ : nA /nA 2 → mA /mA 2 を誘導する. ϕ−1 (mA 2 ) = I(V ) + nA 2 であることから Ker(ϕ) ¯ = (I(V ) + nA 2 )/nA 2 が成り立つ. 従って Ker(ϕ) ¯ は F1 , ..., Fr で生成される部分空間である. ゆえに n Fi ≡ j=1 ∂Fi (A)Xj (mod nA 2 ) ∂Xj を示せば定理が証明されたことになる. nA は 1 次以上の多項式全体, nA 2 は 2 次以上の多項式全体であるから, Fi ∈ I(V ) ⊆ nA より n cij Xj + Gi Fi = j=1 (cij ∈ k, Gi ∈ nA 2 ) 2. アフィン多様体 53 と表される. よって ∂Gi ∂Xj に定数項がないことに注意すれば ∂Fi ∂Gi (A) = cij + (A) = cij ∂Xj ∂Xj となる. 従って n Fi = j=1 ∂Fi (A) Xj + Gi ≡ ∂Xj n j=1 ∂Fi (A) Xj (mod nA 2 ) ∂Xj が示された. (2) k 線型写像 ϕ¯ : nA /nA 2 → mA /mA 2 が全射であることから dimk mA /mA 2 + dimk Ker(ϕ) ¯ = dimk nA /nA 2 が成り立つ. さらに (1) より n Ker(ϕ) ¯ = j=1 n ∂Fr ∂F1 (A)Xj , . . . , (A)Xj ∂Xj ∂X j j=1 であるから, X1 , ..., Xn が nA /nA 2 の基底であることに注意すれば dimk Ker(ϕ) ¯ = rank ∂Fi (A) ∂Xj となるので dimk mA /mA 2 = n − rank i,j ∂Fi (A) ∂Xj i,j が成り立つ. 定理 2.40 から次の定理が得られる. 定理 2.41 V ⊆ An (k) を閉部分多様体, I(V ) = F1 , . . . , Fr , Fi ∈ k[X1 , . . . , Xn ] とす る. このとき V の点 A = (a1 , . . . , an ) について次の (1) と (2) は同値である. (1) V が 点 A で非特異である. (2) rank ∂Fi (A) ∂Xj i,j = n − dim V 2. アフィン多様体 54 系 2.42 定理 2.41 と同じ条件の下で次の (1)’ と (2)’ は同値である. (1)’ 点 A が特異点である. (2)’ rank ∂Fi (A) ∂Xj i,j < n − dim V Proof 定理 2.41 より 点 A が V の特異点 ⇐⇒ rank ∂Fi (A) ∂Xj = n − dim V i,j が成り立つ. 一方, 定理 2.36, 2.40 より ∂Fi (A) ∂Xj dimk mA /mA 2 = n − rank となるので ∂Fi (A) ∂Xj rank ≥ dim V i,j ≤ n − dim V i,j が成り立つ. 従って 点 A が V の特異点 ⇐⇒ rank ∂Fi (A) ∂Xj < n − dim V i,j が成り立つ. 定理 2.43 閉部分多様体 V ⊆ An (k) の特異点全体のなす集合 Vsing は代数的集合であ り, Vsing V を満たす. Proof I(V ) = F1 , . . . , Fr とする. 系 2.42 より 点 A が V の特異点 が成り立つ. rank ∂Fi (A) ∂Xj の最大値に一致するから, ⇐⇒ rank は行列 i,j ∂Fi ∂Xj i,j ∂Fi (A) ∂Xj ∂Fi (A) ∂Xj i,j < n − dim V i,j の 0 でない小行列式の次数 の (n − dim V ) 次の小行列式の共通零点に 含まれる V の点が特異点である. ゆえに Vsing は代数的集合である. 次に Vsing V を示す. まず I(V ) = F , F は既約多項式, の場合を示し, 次 いで一般の場合を示す. 2. アフィン多様体 55 I(V ) = F のとき, 定理 2.34 より dim V = n − 1 となる. ここで Vsing = V と仮定して矛盾を導くことにする. n − dim V = 1 に注意して系 2.42 を適用 すると, 任意の A ∈ V に対して rank となるので ∂F ∂F (A) · · · (A) = 0 ∂X1 ∂Xn ∂F ∂F (A) = · · · = (A) = 0 ∂X1 ∂Xn が得られる. ここで FXi = ∂F ∂Xi とおくと FX1 , . . . , FXn ∈ I(V ) = F が成り立つ. 従って FX1 = G1 F, . . . , FXn = Gn F, G1 , . . . , Gn ∈ k[X1 , . . . , Xn ] と表されるが, deg FX1 , . . . , deg FXn < deg F であるから G1 = · · · = Gn = 0 となり FX1 = · · · = FXn = 0 (2.5) が得られる. k の標数が 0 のときは, F を X1 , . . . , Xn でそれぞれ整理して d1 F = F10 + · · · + F1d1 X1 .. . F = F + · · · + F X dn n0 ndn n (F1i ∈ k[X2 , . . . , Xn ], F1d1 = 0) (2.6) (Fni ∈ k[X1 , . . . , Xn−1 ], Fndn = 0) と表すと (2.5) より F11 = · · · = F1d1 = · · · · · · = Fn1 = · · · = Fndn = 0 となる. よって F = F10 ∈ k[X2 , . . . , Xn ], . . . , F = Fn0 ∈ k[X1 , . . . , Xn−1 ] となり F は定数となるが, これは F が既約多項式であることに矛盾する. k の標数が p > 0 のときも同様に (2.6) のように表すと, (2.5) より Fi j = 0 =⇒ j は p の倍数 2. アフィン多様体 56 となるから, F における X1 , . . . , Xn の指数はすべて p の倍数となるので F = cj1 ,...,jn X1pj1 · · · Xnpjn (cj1 ,...,jn ∈ k) 1 と表される. ここで k は代数的閉体であるから c ∈ k に対して c p ∈ k である ことに注意すれば cj1 ,...,jn X1j1 · · · Xnjn F = p (cj1 ,...,jn ∈ k) と表されるが, これは F が既約多項式であることに矛盾する. 以上で I(V ) = F の場合は Vsing V であることが示された. 次に一般の場合について示すことにする. この場合も Vsing = V と仮定して 矛盾を導くことにする. d = dim V とおく. 定理 1.27 より V の関数体 k(V ) は k 上 d + 1 個の元 y1 , . . . , yd+1 で生成されるので k(V ) = k(y1 , . . . , yd+1 ) と表される. ここで y1 , . . . , yd+1 が生成する k(V ) の部分整域を k[y1 , . . . , yd+1 ] とすると, 定理 2.21 より O(V ) = k[Y1 , ..., Yd+1 ]/I(V ) Yi 同型 −−→ yi ∈ k[y1 , . . . , yd+1 ] を満たす Ad+1 (k) の閉部分多様体 V が存在して dim V = tr.degk O(V ) = tr.degk k(y1 , . . . , yd+1 ) = tr.degk k(V ) = d となるから, 定理 2.35 より I(V ) = F , V = V(F ) を満たす既約多項式 F ∈ k[Y1 , . . . , Yd+1 ] が存在する. このとき上で示したこと から Vsing V が成り立つことを注意しておく. さて O(V ) = k[X1 , . . . , Xn ]/I(V ) であるから xi = Xi mod I(V ) とすると k(V ) = k(x1 , . . . , xn ) = k(y1 , . . . , yd+1 ) 2. アフィン多様体 57 である. 従って y1 = H1 Hd+1 , . . . , yd+1 = H H (H = 0, Hi ∈ k[x1 , . . . , xn ]) および x1 = G1 Gn , . . . , xn = G G (G = 0, Gj ∈ k[y1 , . . . , yd+1 ]) と表される. このとき y i ∈ k x1 , . . . , x n , 1 , H xj ∈ k y1 , . . . , yd+1 , 1 G であるから k x1 , . . . , x n , 1 1 1 1 = k y1 , . . . , yd+1 , , , H G G H (2.7) が成り立つ. ここで閉部分多様体 W ⊆ An+2 (k), W ⊆ Ad+3 (k) を次のように 定める. W = V(I(V ) ∪ {Xn+1 H − 1} ∪ {Xn+2 G − 1}) W = V((F ) ∪ {Yd+2 G − 1} ∪ {Yd+3 H − 1}) V = Vsing と仮定したから, 定理 2.30, (3) を繰り返し適用すると W の点がす べて特異点であること, すなわち Wsing = W であることがわかる. 一方 G は k[y1 , . . . , yd+1 ] の 0 でない元であり, V が既約であることから Vsing ∪ VV (G) V となるので V − VV (G) に V の非特異点が存在する. 従って定理 2.30, (3) よ り V((F )∪{Yd+2 G−1}) に非特異点が存在する. 同様に H が k y1 , . . . , yd+1 , G1 の 0 でない元であり, V((F ) ∪ {Yd+2 G − 1}) が閉部分多様体であることから W に非特異点の存在することがわかる. これは式 (2.7) から O(W ) が得られることに矛盾する. 以上で Vsing V が示された. 定理 2.32, 2.43 より次の定理が得られる. 定理 2.44 アフィン曲線上の特異点は高々有限個である. O(W ) 3 章 射影多様体 この章では射影多様体の基本事項について述べる. 特に §3.2 で証明する “射影 多様体上の正則関数が定数に限る” という定理は Riemann-Roch の定理の証明 で必要となり, §3.3 で述べる斉次化・非斉次化による射影多様体とアフィン多 様体の1対1対応においてそれぞれの関数体が同型になるという結果は4章 における近似定理の証明で必要となる. §3.1 では, 射影空間, 斉次イデアル, 射影代数的集合等の概念を導入した後, ア フィン空間の場合と同様に既約な射影代数的集合として射影多様体を定義す る. さらに射影零点定理を証明した後, 空でない射影代数的集合と X0 , ..., Xn と異なる斉次な根基イデアルとが1対1に対応すること, この対応において射 影多様体と素イデアルが対応することなどを証明する. §3.2 では, 射影多様体の斉次座標環を定義し, その分数体の元で分母と分子が 同次数の斉次元であるもの全体のなす部分体として有理関数体を定義する. 有 理関数の極全体が真の射影代数的集合になることを示した後, 射影多様体全体 で正則な有理関数が定数に限ることを証明する. 有理関数体の k 上の超越次 数を射影多様体の次元と定め, 1 次元射影多様体を射影曲線と定義する. さら にアフィン多様体の場合と同様に 1 点における局所環の極大イデアルをその平 方で割った剰余空間の次元が多様体の次元に一致しない点を特異点と定義し, 非特異射影多様体の概念を導入する. §3.3 では, 多項式の斉次化, 非斉次化を定義し, イデアルおよび代数的集合の斉 次化, 非斉次化とその相互関係について考察する. 特にアフィン代数的集合と, その既約成分が斉次座標のある成分を 0 にすることがないような射影代数的 集合との間に斉次化・非斉次化による1対1対応が存在すること, この対応で アフィン多様体と射影多様体が対応し, それぞれの関数体が同型になることな どを証明する. §3.4 では, 有理写像, 射, および正則行列から定まる射影変換等について述べる. なおこの章でも k は代数的閉体を表す. 58 3. 射影多様体 3.1 59 射影代数的集合 An+1 (k) − {0} の 2 点 P = (p0 , ..., pn ), Q = (q0 , ..., qn ) に対して P ∼ Q ⇐⇒ (p0 , ..., pn ) = λ(q0 , ..., λqn ) (∃λ ∈ k × ) と定めると ∼ は An+1 (k) − {0} 上の同値関係となる. 商集合 Pn (k) = (An+1 (k) − {0})/ ∼ を n 次元射影空間, 各同値類を Pn (k) の点という. P = (p0 , ...., pn ) ∈ An+1 (k) − {0} を 含む Pn (k) の点を (p0 : ... : pn ) と表し, その点の斉次座標という. 点 P ∈ Pn (k) が F ∈ k[X0 , ..., Xn ] の零点であるとは, P の任意の斉次座標 (p0 : ... : pn ) が F (p0 , ..., pn ) = 0 を満たすときにいう. また P が F の零点であることを F (P ) = 0 と 表す. k[X0 , ..., Xn ] の部分集合 S に対して V(S) := {P ∈ Pn (k) | 任意の F ∈ S に対して F (P ) = 0} とおく. V(S) と表される Pn (k) の部分集合を射影代数的集合という. Pn (k) の部分集合 V に対して, I(V ) := {F ∈ k[X0 , ..., Xn ] | 任意の P ∈ V に対して F (P ) = 0} とおくと I(V ) は k[X0 , ..., Xn ] のイデアルとなる. I(V ) を V のイデアルという. k[X0 , ..., Xn ] のイデアル I が斉次イデアルであるとは “F ∈ I ならば F の斉次成分はす べて I に含まれる” が成り立つときにいう. 以下 F の j 次の斉次成分を F (j) と表すこと にする. このとき m 次多項式 F は次のように斉次成分に分解される. m F (j) = F (0) + F (1) + · · · + F (m) F = j=0 定理 3.1 k[X0 , ..., Xn ] のイデアル I について次の (1) と (2) は同値である. (1) I は斉次イデアルである. (2) 斉次多項式 F1 , ..., Fr が存在して I = F1 , ..., Fr と表される. Proof (1)⇒(2) k[X1 , ..., Xn ] がネーター環であるから I = F1 , ..., Fr と表 (j) され, I が斉次イデアルであるから Fi ∈ I となる. 従って deg Fi = di とお 3. 射影多様体 60 くと (0) (d1 ) I = F1 , ..., F1 , ......, Fr(0) , ..., Fr(dr ) となるので I は斉次多項式で生成される. (2)⇒(1) 任意に F ∈ I を選ぶと F = Gi Fi (Gi ∈ k[X0 , ..., Xn ]) i と表される. ここで Gi = (j) j Gi とすると (j) Gi Fi = Gi Fi j (j) であるが, Gi Fi は I に含まれる斉次多項式である. 一方 F の斉次成分はこ (j) れら Gi Fi いくつかの和となるので I に含まれる. ゆえに I は斉次イデアル である. 定理 3.2 F ∈ k[X0 , ..., Xn ], P ∈ Pn (k), F (P ) = 0 とする. このとき F の斉次成分 F (j) に対して F (j) (P ) = 0 が成り立つ. Proof 点 P の斉次座標の1つを任意に選び (p0 : ... : pn ) とする. deg F = m とすると仮定より m F (j) (p0 , ..., pn ) λj = 0 F (λp0 , ..., λpn ) = (∀λ ∈ k × ) j=0 が成り立つ. k は代数的閉体であるから無限体であるので, 定理 1.1 より F (j) (p0 , ..., pn ) = 0, (j = 0, 1, ..., m) が成り立つ. (p0 : ... : pn ) は任意であったから F (j) (P ) = 0 が成り立つ. 定理 3.3 V ⊆ Pn (k) に対して, I(V ) は k[X0 , ..., Xn ] の斉次イデアルである. Proof F ∈ I(V ) とすると, 任意の P ∈ V に対して F (P ) = 0 が成り立つ. こ のとき定理 3.2 より任意の P ∈ V に対して F (j) (P ) = 0 が成り立つ. 従って F (j) ∈ I(V ) となるので I(V ) は斉次イデアルである. 3. 射影多様体 61 V について成り立つ性質を次にあげておく. ただし S, T ⊆ k[X0 , ..., Xn ] とする. (1) V(S) = V( S ) (2) R のイデアルの族 {Iα }α∈Λ に対して V Iα α∈Λ = V(Iα ) α∈Λ (3) S ⊆ T であるならば V(S) ⊇ V(T ) (4) V(S) ∪ V(T ) = V({F G | F ∈ S, G ∈ T }) = V( S ∩ T ) (5) V({0}) = Pn (k), V({1}) = V(k[X1 , ..., Xn ]) = ∅ (6) V(X0 , ..., Xn ) = ∅ (6) 以外は p.24 の (1)∼(5) と同様に示すことができる. V(X0 , ..., Xn ) の点は座標がすべ て 0 となり, 射影空間に存在しないので (6) も成り立つ. I についても次の性質が成り立つ. ただし V, W ⊆ Pn (k) とする. (1) V ⊆ W ならば I(V ) ⊇ I(W ) (2) I(V ∪ W ) = I(V ) ∩ I(W ), I(V ∩ W ) ⊇ I(V ) + I(W ) (3) I(∅) = k[X0 , ..., Xn ] (4) I(Pn (k)) = 0 (5) I({(p0 : ... : pn )}) = {pi Xj − pj Xi | i, j = 0, ..., n} (6) I(V(S)) ⊇ S, V(I(V(S))) = V(S) (7) V(I(W )) ⊇ W , I(V(I(W ))) = I(W ) (8) V が Pn (k) の射影代数的集合のとき V = V(I(V )) (9) I が Pn (k) の部分集合のイデアルのとき I = I(V(I)) (5) 以外は p.25,(1)∼(9) と同様に示すことができる. 以下 (5) を示す. 両辺とも斉次イデ アルであり, I({(p0 : ... : pn )}) ⊇ {pi Xj − pj Xi | i, j = 0, ..., n} は明らかに成り立つので 3. 射影多様体 62 ⊆ を示す. 斉次多項式 F ∈ I({(p0 : ... : pn )}) に対して F ∈ {pi Xj − pj Xi | i, j = 0, ..., n} を示せばよい. deg F = m として, 0 でない pi を選び, F を Xj − pj X pi i (j = i) で順次 割っていく. p0 X i ) + H0 pi p0 p1 = G0 (X0 − Xi ) + G1 (X1 − Xi ) + H1 pi pi .. . F = G0 (X0 − = G0 (X0 − pn p0 Xi ) + · · · + Gn (Xn − Xi ) + Hn pi pi (3.1) ここで Hn は Xi のみの斉次多項式であるから Hn = cXim (c ∈ k) と表されるが F (p0 , ..., pn ) = Hn (p0 , ..., pn ) = cpm i = 0 となり, pi = 0 より c = 0, 従って Hn = 0 が得られる. ゆえに F ∈ {pi Xj − pj Xi | i, j = 0, ..., n} が示された. 上の (8) から次の定理が導かれる. 定理 3.4 Pn (k) の射影代数的集合 V, W に対して, 次が成り立つ. V = W ⇐⇒ I(V ) = I(W ) 定理 2.1 と同様にして次の定理が得られる. 定理 3.5 Pn (K) の部分集合 V に対して, V のイデアル I(V ) は斉次な根基イデアル である. 射影代数的集合 V が可約であるとは, 射影代数的集合 V1 , V2 で V = V1 ∪ V2 , V 1 , V2 V を満たすものが存在するときにいう. 可約でない射影代数的集合 (= ∅) は既約であるとい われる. 既約な射影代数的集合を射影多様体という. アフィン代数的集合についての定理 2.4,2.5,2.7,2.8 は V を射影代数的集合に置き換えても成り立ち, 射影代数的集合 V = ∅ の 既約成分が定義される. 3. 射影多様体 63 既約斉次多項式 F ∈ k[X0 , ..., Xn ] によって V = V(F ) と表される射影多様体 V を 超曲面という. 特に deg F = 1 のとき超平面という. 射影代数的集合 V に対して次式で定まる An+1 (k) の部分集合 C(V ) を V 上の錐と いう. C(V ) := {(p0 , ..., pn ) ∈ An+1 (k) − {0} | (p0 : ... : pn ) ∈ V } ∪ {0} 定理 3.6 Pn (k) の射影代数的集合 V = ∅, および斉次イデアル I k[X0 , ..., Xn ] に対 して次が成り立つ. (1) I(C(V )) = I(V ) (2) C(V(I)) = V(I) Proof (1) は I と錐の定義より明らかである. (2) についても I が k[X0 , ..., Xn ] の真の斉次イデアルであることから V(I) が 0 を含むことに注意すれば, V と錐の定義より得られる. 補題 3.7 k[X0 , ..., Xn ] の真の斉次イデアル I に対して, V(I) = ∅ であることと, √ I = X0 , ..., Xn は同値である. Proof V と錐の定義および定理 3.6 より V(I) = ∅ ⇐⇒ C(V(I)) = {0} ⇐⇒ V(I) = {0} が成り立つ. 一方定理 2.2 より V(I) = {0} ⇐⇒ I(V(I)) = I({0}) = X0 , ..., Xn となるので, Hilbert の零点定理 (定理 2.10) I(V(I)) = と合わせて V(I) = ∅ ⇐⇒ が得られる. √ √ I I = X0 , ..., Xn 3. 射影多様体 64 定理 3.8 (射影零点定理) k[X0 , ..., Xn ] の斉次イデアル I に対して次が成り立つ. (1) V(I) = ∅ であることと, {F | F は斉次多項式で deg F ≥ N } ⊆ I となる自然 数 N が存在することとは同値である. √ (2) V(I) = ∅ であるならば I(V(I)) = Proof (1) I である. SN = {F | F は斉次多項式で deg F ≥ N } とおく. I = k[X0 , ..., Xn ] のときは V(I) = ∅ であり, 任意の自然数 N に対して SN ⊆ I と なるので, 以下 I k[X0 , ..., Xn ] とする. 補題 3.7 より √ V(I) = ∅ ⇐⇒ I = X0 , ..., Xn (3.2) が成り立つ. 従って √ I = X0 , ..., Xn ⇐⇒ SN ⊆ I となる自然数 N が存在する が成り立つことを示せばよい. まず √ (3.3) I = X0 , ..., Xn とすると, Ximi ∈ I と なる自然数 mi が存在する. N = m0 + · · · + mn とおくと F ∈ SN は ci0 ,...,in X0i0 · · · Xnin F = i0 +···+in ≥N と表される. i0 + · · · + in ≥ N より ij ≥ mj を満たす ij が存在するので, ci0 ,...,in X0i0 · · · Xnin ∈ I が成り立つ. よって F ∈ I を得る. 逆に, ある自然数 N に対して SN ⊆ I であるとする. このとき X0N , ..., XnN ∈ I √ √ X0 , ..., Xn I と仮定する であるから X0 , ..., Xn ⊆ I が成り立つ. √ と, X0 , ..., Xn は極大イデアルであるから I = k[X0 , ..., Xn ] となる. この √ とき I は 0 でない k の元を含むので, I も 0 でない k の元を含むことにな √ り I = k[X0 , ..., Xn ] と仮定したことに矛盾する. ゆえに I = X0 , ..., Xn が 成り立つ. 以上で (3.3) が示された. (2) V(I) = ∅ とする. このとき I k[X0 , ..., Xn ] であるから定理 3.6 よ り I(C(V(I))) = I(V(I)) および C(V(I)) = V(I) が成り立つ. 一方 Hilbert √ の零点定理 (定理 2.10) より I(V(I)) = I となるので I(V(I)) = I(C(V(I))) = I(V(I)) = が得られる. √ I 3. 射影多様体 65 補題 3.9 k[X0 , ..., Xn ] の斉次イデアル I に対して次の (1) と (2) は同値である. (1) I は素イデアルである. (2) 斉次多項式 F, G が F G ∈ I を満たすならば F ∈ I または G ∈ I である. Proof (1)⇒(2) 素イデアルの定義より明らかである. (2)⇒(1) F ∈ / I かつ G ∈ / I である多項式 F, G ∈ k[X0 , ..., Xn ] に対し て FG ∈ / I を示せばよい. F ∈ / I かつ G ∈ / I であるから, F および G の斉 次成分の中で I に含まれないものが存在する. そのような斉次成分のうちで, 次数が最大のものを F (i) , G(j) とする. 仮定より F (i) G(j) ∈ / I であるが, F G の i + j 次斉次成分 (F G)(i+j) = F (r) G(s) = F (0) G(i+j) + · · · + F (i) G(j) + · · · + F (i+j) G(0) r+s=i+j において (r, s) = (i, j) のとき F (r) G(s) ∈ I となるので (F G)(i+j) ∈ I が得ら れる. I は斉次イデアルであるから F G ∈ I が成り立つ. 補題 3.10 I は k[X0 , ..., Xn ] の真の斉次な根基イデアルで I = X0 , ..., Xn であると する. このとき次の (1) と (2) は同値である. (1) V(I) は射影多様体である. (2) I は素イデアルである. Proof 仮定より I = X0 , ..., Xn であるから, 補題 3.7 より V(I) = ∅ が成り 立つことを注意しておく. (1)⇒(2) 斉次多項式 F, G が F G ∈ I を満たすとする. F ∈ I または G ∈ I であることを示せばよい. V(I) ⊆ V(F G) であるので p.61,(4) より V(I) ⊆ V(F ) ∪ V(G) が成り立つ. V(I) = ∅ は既約であるから V(I) ⊆ V(F ) または V(I) ⊆ V(G) 3. 射影多様体 66 となるので, p.61, (1) より I(V(I)) ⊇ I(V(F )) または I(V(I)) ⊇ I(V(G)) が得られる. ゆえに I ⊇ F または I ⊇ G となるので, F ∈ I または G ∈ I が示された. (2)⇒(1) V(I) が既約でないと仮定して矛盾を導く. 射影代数的集合 V1 , V2 が存在して V(I) = V1 ∪ V2 , V1 = V(I), V2 = V(I) と表される. ここで定理 3.8, p.61, (1) を適用すると I= √ I = I(V1 ∪ V2 ) = I(V1 ) ∩ I(V2 ), I(V1 ) = I, I(V2 ) = I を得る. 従って F1 ∈ I(V1 ) − I, F2 ∈ I(V2 ) − I を満たす斉次多項式 F1 , F2 が 存在し F1 F2 ∈ I(V1 ) ∩ I(V2 ) = I となるので, I が素イデアルであることに矛盾する. 定理 3.11 A, B を次のように定める. A = {V | V は Pn (k) の空でない射影代数的集合 }, B = {I | I は k[X0 , ..., Xn ] の真の斉次な根基イデアルで I = X0 , ..., Xn } このとき次が成り立つ. (1) ϕ : A V → I(V ) ∈ B は全単射であり, ϕ−1 (I) = V(I) である. (2) ϕ は射影多様体全体のなす集合から X0 , ..., Xn と異なる素イデアル全体のなす 集合への全単射を誘導する. Proof (2) は (1) と補題 3.10 から導かれるので (1) のみを示す. まず射影代数 的集合 V = ∅ に対して I(V ) ∈ B であることを示す. 定理 3.3 と定理 3.5 によ り I(V ) は斉次な根基イデアルである. 一方 V = ∅ であるから V(I(V )) = ∅ となるので I(V ) = X0 , ..., Xn , k[X0 , ..., Xn ] が成り立つ. ゆえに I(V ) ∈ B である. また定理 3.4 より ϕ は単射である. 次に ϕ が全射であることを示す. √ I = I = X0 , ..., Xn と I ∈ B に対して I は真の根基イデアルであるから, 3. 射影多様体 67 なる. よって補題 3.7 より V(I) = ∅ が成り立つので射影零点定理 ( 定理 3.8) が適用できて ϕ(V(I)) = I(V(I)) = √ I=I を得る. ゆえに ϕ は全射である. ϕ−1 (I) = V(I) であることは上式から明ら かである. 3.2 有理関数 射影多様体 V ⊆ Pn (k) に対して, 剰余環 Oh (V ) := k[X0 , ..., Xn ]/I(V ) を V の斉次座標環という. F が斉次多項式のとき f = F¯ = F mod I(V ) ∈ Oh (V ) を斉次元といい, deg f := deg F を斉次元 f の次数という. これが well-defined であるこ とは次の定理 3.12, (1) で示される. 定理 3.12 Oh (V ) において次が成り立つ. ¯ であるならば deg F = deg G (1) F, G ∈ k[X0 , ..., Xn ] − I(V ) が斉次多項式で F¯ = G である. (2) f ∈ Oh (V ) に対して f = Proof (1) i fi となる斉次元 fi が一意に存在する. 仮定より F − G ∈ I(V ) であるが, deg F = deg G であると仮定 すると, I(V ) が斉次イデアルであるから F − G の斉次成分 F , G が I(V ) に 含まれることになり, 矛盾が生じる. 従って deg F = deg G が成り立つ. (2) f = F¯ として F を F = i F (i) と斉次成分の和で表す. fi = F (i) とお くと fi ∈ Oh (V ) は斉次元であり, f = F¯ = F (i) = i F (i) = i fi i 3. 射影多様体 68 と表される. 次に gi = f= hj i j と斉次元の和として 2 通りに表されたとする. ここで gi = Gi , hj = Hj となる斉次多項式 Gi , Hj を選び, G = i Gi , H = j Hj とおくと G − H ∈ I(V ) であるから, G − H のすべての斉次成分について (G − H)( ) = G( ) − F ( ) ∈ I(V ) が成り立つ. よって任意の ≥ 0 に対して, g = h となるので一意性が示さ れた. V ⊆ Pn (k) が射影多様体のとき, 定理 3.11 より I(V ) は素イデアルであるから V の斉次 座標環 Oh (V ) は整域である. Oh (V ) の分数体を kh (V ) で表す. kh (V ) = g | g, h ∈ Oh (V ), h = 0 h ここで k(V ) := g ∈ kh (V ) | g, h ∈ Oh (V ) は斉次元で deg g = deg h, h = 0 ∪ {0} h と定義すると k(V ) は kh (V ) の部分体である. k(V ) を V の関数体, k(V ) の元を V 上 の有理関数という. ¯ と点 P = (p0 : ... : pn ) ∈ V , λ ∈ k × に対して Oh (V ) の斉次元 g = G G(λp0 , .., λpn ) = λdeg G G(p0 , .., pn ) ¯ と となるので G(p0 , ..., pn ) = 0 であるかどうかは斉次座標の選び方によらない. g = H なる斉次多項式 H に対しても H − G ∈ I(V ) であり, 定理 3.12 より deg G = deg H とな るので G(p0 , .., pn ) = H(p0 , .., pn ), および G(λp0 , .., λpn ) = λdeg G G(p0 , .., pn ) = λdeg H H(p0 , .., pn ) = H(λp0 , .., λpn ) が成り立つ. 従って G(p0 , ..., pn ) = 0 であるかどうかは斉次座標の選び方にも, 斉次多項 式の選び方にもよらない. 以上から G(p0 , ..., pn ) = 0 のとき g(P ) = 0 であると定義する 3. 射影多様体 69 ことができる. 有理関数 f ∈ k(V ) が点 P ∈ V で定義されるとは, h(P ) = 0 であるような斉次元 g, h ∈ Oh (V ) により f= g h と表されるときにいう. このとき点 P ∈ V における f ∈ k(V ) の値 f (P ) を f (P ) := g(P ) h(P ) で定義する. これが well-defined であることを次の定理で示す. 定理 3.13 V は射影多様体, f ∈ k(V ) は点 P ∈ V で定義されるとする. このとき f (P ) は f の表し方, および P の斉次座標のとり方に依存しない. Proof f が P で定義されることから h(P ) = 0 であるような斉次元 g, h ∈ Oh (V ) が存在して f= g h ¯ h=H ¯ となる斉次多項式 G, H ∈ k[X0 , ..., Xn ] を選び, と表される. g = G, P の斉次座標の 1 つを (p0 : ... : pn ) とする. このとき P の任意の斉次座標は ある λ ∈ k × により (λq0 , ..., λqn ) と表される. ここで deg G = deg H に注意 すれば λdeg G G(p0 , ..., pn ) G(p0 , ..., pn ) G(λp0 , ..., λpn ) = deg H = H(λp0 , ..., λpn ) λ H(p0 , ..., pn ) H(p0 , ..., pn ) となるから, f (P ) の値は P の斉次座標の選び方によらない. 次に斉次元 g , h が f= g g = , h h h (P ) = 0 を満たすとして g = G , h = H となる斉次多項式 G , H を選ぶ. gh −g h = 0 であるから GH − G H ∈ I(V ) となるので G(p0 , ..., pn )H (p0 , ..., pn ) − G (p0 , ..., pn )H(p0 , ..., pn ) = 0 より G (p0 , ..., pn ) g(P ) g (P ) G(p0 , ..., pn ) = =⇒ = H(p0 , ..., pn ) H (p0 , ..., pn ) h(P ) h (P ) が得られる. 従って f (P ) は f の表し方にもよらない. 3. 射影多様体 70 有理関数 f ∈ k(V ) が定義されない点を f の極という. P ∈ V に対して OP (V ) := {f ∈ k(V ) | f は P で定義される } と定義すると OP (V ) は k(V ) の部分環であり, mP (V ) := {f ∈ OP (V ) | f (P ) = 0} はそのイデアルである. 定理 2.27, 2.28 と同様にして次の定理を得る. 定理 3.14 OP (V ) は mP (V ) をただ1つの極大イデアルとしてもつ局所環であり, OP (V )/mP (V ) k が成り立つ. OP (V ) を V の点 P での局所環という. U を V の部分集合とする. 有理関数 f ∈ k(V ) が U 上の正則関数であるとは, 任意の P ∈ U で f が定義されるときにいう. U 上の正則関数全体を O(U ) := {f ∈ k(V ) | f は U 上の正則関数 } = OP (V ) P ∈U とおく. また有理関数 f ∈ k(V )× に対して ¯ ∈ Oh (V )} Jf = {H ∈ k[X0 , ..., Xn ] | Hf Zf = {f の極 }, ¯ は斉次座標環 Oh (V ) における H の剰余類を表す. とおく. ただし H 補題 3.15 Jf は斉次イデアルである. Proof 定義より I(V ) ⊆ Jf であることを注意しておく. H ∈ Jf を任意に選 びH= j H (j) と斉次成分の和に表す. H (j) ∈ Jf を示せばよい. f ∈ k(V )× より f= G0 H0 (G0 , H0 は斉次多項式, deg G0 = deg H0 , G0 , H0 ∈ / I(V )) ¯ と表されるので, H i G0 H0 ¯ ∈ Oh (V ) となる多項式 G が存在する. = G G(i) と斉次成分に分解すると H (j) G0 = j G(i) H0 i G = 3. 射影多様体 71 となる. H (j) ∈ I(V ) のときは H (j) ∈ Jf が成り立つので, H (j) ∈ I(V ) として よい. 定理 3.12 より斉次元への分解は一意的であることから, H (j) G0 ∈ I(V ), および deg G0 = deg H0 に注意すれば H (j) G0 = G(j) H0 が成り立つ. このとき H (j) f = H (j) G0 = G(j) ∈ Oh (V ) H0 となるので H (j) ∈ Jf が示された. 補題 2.23, 定理 2.24 と同様にして次の定理 3.16 を得る. 定理 3.16 射影多様体 V ⊆ Pn (k) 上の有理関数 f ∈ k(V )× に対して V(Jf ) = Zf が 成り立つ. 特に Zf は射影代数的集合で Zf V である. 定理 3.17 射影多様体 V ⊆ Pn (k) 上の正則関数は定数しかない. すなわち O(V ) = k である. Proof f ∈ k(V )× を V 上の正則関数とする. 仮定より Zf = V(Jf ) = ∅ で ある. Sr = {H | H は r 次斉次多項式 } とおくと射影零点定理 (定理 3.8) より, ある N に対して SN ⊆ Jf となる. こ こで ¯ ∈ Oh (V ) | H ∈ SN } ∪ {0} S¯N = {H とおく. S¯N は k 線型空間であり, {X0i0 · · · Xnin | i0 + · · · + in = N } で生成される. V の点 P を選び, その斉次座標の1つを (p0 : ... : pn ) とする と 0 でない成分 pi が存在する. このとき XiN ∈ SN であり, XiN (p0 , ..., pn ) = pN = 0 であるから, X N ∈ SN − I(V ) となる. よって S¯N = 0 が成り立つ. i i 次に f S¯N ⊆ S¯N を示そう. よい. f= g h ¯ ∈ S¯N , H ¯ = 0 として f H ¯ ∈ S¯N を示せば H (g, h は斉次元で deg g = deg h) と表すと, H ∈ Jf であるから ¯f =H ¯ g =G ¯ ∈ Oh (V ) H h 3. 射影多様体 72 ¯ = Gh ¯ が得られるが, H, ¯ g, h は斉 となる多項式 G が存在する. これより Hg ¯ も斉次元となり, deg g = deg h より deg G ¯ = deg H ¯ =N 次元であるから G ¯ =G ¯ ∈ S¯N が示された. が成り立つ. 以上で f H さて S¯N の k 基底を x1 , ..., xd とする. f xi ∈ S¯N であるから f xi = ci1 x1 + · · · + cid xd (cij ∈ k) と表される. 従って x1 . . f . = xd c11 · · · .. . cd1 · · · x1 c1d . .. . . . cdd xd となるので x1 . . (f Ed − [cij ]) . = xd 0 .. . 0 (Ed は d 次単位行列) を得る. S¯N = 0 より, ある xj は 0 でないので, 連立1次方程式が自明でない 解を持つ条件から det(f Ed − [cij ]) = 0 が成り立ち, f は k 係数 d 次多項式の根 (d ≥ 1) となる. すなわち f は k 上 代数的となるが, k は代数的閉体であるから f ∈ k が得られる. Oh (V ) の 0 でない元 g に対して Oh (V ) 1 g := 0 f ∈ kh (V ) | f ∈ Oh (V ) は斉次元で deg f = m · deg g, m ≥ 0 gm と定義する. Oh (V )[ g1 ]0 は k(V ) の部分整域である. ただし Oh (V ) を含んでいないこと に注意されたい. ¯ 定理 3.18 V ⊆ Pn (k) を射影多様体, G ∈ k[X0 , ..., Xn ] − I(V ) を斉次多項式で g = G とする. このとき Oh (V )[ g1 ]0 は V − V(G) 上の正則関数全体 O(V − V(G)) に一致す る. また Oh (V )[ g1 ]0 の分数体は k(V ) となる. 3. 射影多様体 73 f ∈ Oh (V )[ g1 ]0 とすると f, g m は斉次元であり, deg f gm あるから gfm は k(V ) の元で, V − V(G) 上正則である. 従って Proof = deg g m で Oh (V )[ g1 ]0 ⊆ O(V − V(G)) が成り立つ. 逆に f ∈ O(V − V(G)) とする. f ∈ k のときは明らかに f ∈ Oh (V )[ g1 ]0 と なるので, 以下 f ∈ k とする. このとき定理 3.16 より ∅ = V(Jf ) = Zf ⊆ V(G) が成り立つ. 従って射影零点定理 (定理 3.8) より Jf = I(V(Jf )) ⊇ I(V(G)) ⊇ G を得る. これより, ある自然数 m が存在して Gm ∈ Jf となるので, Gm f = g m f ∈ Oh (V ) が成り立つ. h = g m f は斉次元で, deg h = m deg g となるから f = h gm ∈ Oh (V )[ g1 ]0 が成り立つ. 以上で O(V − V(G)) = Oh (V )[ g1 ]0 が示された. 最後に Oh (V )[ g1 ]0 の分数体が k(V ) に一致することを示す. Oh (V )[ g1 ]0 の 分数体が k(V ) に含まれることはよい. f ∈ k(V ) を任意に選ぶと f= h h (h, h ∈ Oh (V ) は斉次元で h = 0, deg h = deg h = r) と表される. deg g = s とおくと h h hs−1 f= = = h hs と表され hs h hs−1 1 , ∈ Oh (V ) r r g g g h hs−1 gr hs gr , 0 hs =0 gr が成り立つ. 従って Oh (V )[ g1 ]0 の分数体は k(V ) に一致する. 射影多様体 V ⊆ Pn (k) の次元 dim V を dim V := tr.degk k(V ) 3. 射影多様体 で定義する. 74 dim V = 1 のとき射影曲線, dim V = 2 のとき射影曲面などという. 定 理 3.14 で示したように, mP (V ) は OP (V ) のただ1つの極大イデアルである. mP (V ), mP (V )2 を OP (V ) 加群と見なすと, k ⊆ OP (V ) より, 剰余加群 mP (V )/mP (V )2 は k 線 型空間と見なすことができる. V が点 P ∈ V で非特異であるとは, dimk (mP (V )/mP (V )2 ) = dim V が成り立つときにいう. またすべての点で非特異であるとき, V は非特異であるという. 点 P で非特異でないとき, V は点 P で特異であるといい, このとき点 P を V の特異点 という. 3.3 アフィン多様体と射影多様体 多項式 F ∈ k[X1 , ..., Xn ], F = 0 に対して F (X0 , ..., Xn ) := X0deg F F X1 Xn , ..., X0 X0 とおき, F の斉次化という. 定義より F は斉次多項式である. なお 0 = 0 と定める. k[X1 , ..., Xn ] のイデアル I に対して I := F | F ∈ I と定める. F が斉次多項式であることから I は k[X0 , ..., Xn ] の斉次イデアルである. 多 項式 F ∈ k[X0 , ..., Xn ] に対して F (X1 , ..., Xn ) := F (1, X1 , ..., Xn ) と定め, F の非斉次化という. k[X0 , ..., Xn ] の斉次イデアル I に対して I := F | F ∈ I と定める. 次の (1)∼(6) は上の定義から容易に導かれる. (1) F ∈ k[X1 , ..., Xn ] に対して (F ) = F である. (2) 斉次多項式 F ∈ k[X0 , ..., Xn ] が F = X0m G (G と X0 は互いに素) と表されるとき (F ) = G である. 3. 射影多様体 75 (3) F, G ∈ k[X1 , ..., Xn ] に対して (F G) = F G である. (4) F, G ∈ k[X0 , ..., Xn ] に対して (F + G) = F + G , (F G) = F G である. (5) k[X1 , ..., Xn ] のイデアル I, J に対して I ⊆ J ならば I ⊆ J である. (6) k[X0 , ..., Xn ] の斉次イデアル I, J に対して I ⊆ J ならば I ⊆ J である. 補題 3.19 k[X0 , ..., Xn ] の斉次イデアル I に対して I = {F | F ∈ I} が成り立つ. Proof {F | F ∈ I} ⊆ I は定義より明らかである. 以下 I ⊆ {F | F ∈ I} を示す. G ∈ I を任意に選ぶ. I = Hi ∈ k[X1 , ..., Xn ] が存在して G = F | F ∈ I i であるから Fi ∈ I, Hi (Fi ) と表されるが, 上の (1),(4) より G= Hi (Fi ) = i (Hi ) (Fi ) = i (Hi Fi ) = i Hi Fi i となるので I ⊆ {F | F ∈ I} が成り立つ. 補題 3.20 k[X1 , ..., Xn ] のイデアル I に対して (I ) = I が成り立つ. Proof 任意の G ∈ I に対して G = (G ) ∈ (I ) となるので I ⊆ (I ) が成り 立つ. 逆に G ∈ (I ) とすると, 補題 3.19 より G = F となる F ∈ I が存在 する. ここで F = Hi Fi , Hi ∈ k[X0 , ..., Xn ], Fi ∈ I i と表されることから G=F = Hi Fi i = (Hi ) (Fi ) = i (Hi ) Fi ∈ I i となり, (I ) ⊆ I が得られる. 以上で (I ) = I が示された. 補題 3.21 斉次イデアル I ⊆ k[X0 , ..., Xn ] に対して I ⊆ (I ) , および次が成り立つ. (I ) = {F ∈ k[X0 , ..., Xn ] | F は斉次多項式で, ある m ≥ 0 に対して X0m F ∈ I } 3. 射影多様体 76 Proof 斉次多項式 F1 , ...Fr が存在して I = F1 , ...Fr と表される. ここで Fi = X0mi Gi , mi ≥ 0, Gi と X0 は互いに素 と表すと, ((Fi ) ) = Gi であるから Fi = X0mi Gi = X0mi ((Fi ) ) ∈ (I ) が成り立つ. これより I = F1 , ...Fr ⊆ (I ) が得られる. 次に J = {F ∈ k[X0 , ..., Xn ] | F は斉次多項式で, ある m ≥ 0 に対して X0m F ∈ I } とおく. J が斉次イデアルであることは明らかである. まず (I ) ⊆ J を示す. (I ) = (F ) | F ∈ I であるから F ∈ I に対して (F ) ∈ J が成り立つこと を示せばよい. F = i F (i) と斉次成分へ分解すると F (i) = X0ri Hi , ri ≥ 0, Hi と X0 は互いに素 と表される. X0ri (F (i) ) = F (i) ∈ I であるから (F (i) ) ∈ J が成り立つ. 一方 適当な整数 si ≥ 0 が存在して X0si (F (i) ) (F ) = i と表されるので (F ) ∈ J が成り立つ. 従って (I ) ⊆ J が示された. 逆に F ∈ J とする. ある m ≥ 0 が存在して X0m F ∈ I である. F = X0 G, ≥ 0, G と X0 は互いに素 と表すと F = X0m+ G ∈ I が成り立つ. ここで G = (F ) ∈ (I ) となるので F = X0 G ∈ (I ) を得る. よって J ⊆ (I ) が示された. 補題 3.22 I ⊆ k[X0 , ..., Xn ] が斉次イデアルのとき I も斉次イデアルである. 3. 射影多様体 77 Proof 任意に F ∈ I を選び F (j) = F (0) + F (1) + · · · + F (d) F = j と斉次成分に分解する. F (j) ∈ I が成り立つことを示せばよい. F ∈ I より, ある自然数 N が存在して F N ∈ I となる. ここで FN = ( F (j) )N = (F (0) )N + N (F (0) )N −1 F (1) + · · · · · · + (F (d) )N j となる. F N の dN 次斉次成分は (F (d) )N であるが, I が斉次イデアルだか ら (F (d) )N ∈ I となり, F (d) ∈ I が得られる. 次に F = F (0) + F (1) + · · · + F (d−1) ∈ に同様の議論をすれば F (d−1) ∈ I I が得られ, 以下同様にして F (j) ∈ I を 得る. 定理 3.23 (1) イデアル I ⊆ k[X1 , ..., Xn ] に対して (2) 斉次イデアル I ⊆ k[X0 , ..., Xn ] に対して √ I = √ I = ( I) が成り立つ. I が成り立つ. √ √ ( I) が斉次イデアルであることと, 補題 3.22 より I も斉次 √ √ イデアルであることを注意しておく. まず I ⊆ ( I) を示す. 任意の斉 √ √ 次多項式 F ∈ I に対して F ∈ ( I) を示せばよい. 自然数 N が存在し Proof (1) て F N ∈ I となるから (F N ) ∈ (I ) となる. p.75,(4) と補題 3.20 より (F )N = (F N ) ∈ (I ) = I √ √ I となるので (F ) ∈ ( I) が成り立つ. ここ √ で F = X0m G, G と X0 は互いに素, と表すと, G = (F ) ∈ ( I) であるか √ ら F = X0m G ∈ ( I) を得る. √ √ 逆に F ∈ ( I) を斉次多項式とする. このとき補題 3.20 より F ∈ (( I) ) = √ I であるから, ある自然数 N に対して (F )N ∈ I となる. p.75,(3) より が得られる. これより F ∈ ((F ) )N = ((F )N ) ∈ I 3. 射影多様体 78 √ I を得る. ここで F = X0m G (G と X0 は互いに素) と表す √ √ √ √ と, (F ) = G ∈ I であるから F = X0m G ∈ I となるので, ( I) ⊆ I となり, (F ) ∈ が成り立つ. 以上で (1) が示された. (2) F ∈ I とすると, ある自然数 N が存在して F N ∈ I となることから, (F N ) = (F )N ∈ (I ) が成り立つ. 従って補題 3.21 より, ある m ≥ 0 が存在 して X0m (F )N ∈ I となる. ここで N = max{m, N } とすると (X0 F )N ∈ I となり, X0 F ∈ I が得られる. これより (X0 F ) = (F ) = F ∈ となるので G∈ I ⊆ I I が成り立つ. 逆に F ∈ I とすると, ある I が存在して F = G と表される. Gr ∈ I とすると (Gr ) = (G )r = F r ∈ (I) となるので F ∈ (I) を得る. ゆえに I ⊆ I が成り立ち, (2) が示さ れた. k[X1 , ..., Xn ] のイデアル I から定まる代数的集合 V = V(I) に対して V := V(I ) と定める. V は Pn (k) の射影代数的集合であり, I の選び方によらない (定理 3.24). ま た k[X0 , ..., Xn ] の斉次イデアル I から定まる射影代数的集合 V = V(I) に対して V := V(I ) と定める. V は An (k) の代数的集合であり, I の選び方によらない (定理 3.25). 定理 3.24 イデアル I, J ⊆ k[X1 , ..., Xn ] が V(I) = V(J) を満たすとき V(I ) = V(J ) が成り立つ. Proof 仮定より I(V(I)) = I(V(J)) となるので, 零点定理 (定理 2.10) よ √ √ √ √ り I = J となり, ( I) = ( J) が得られる. さらに定理 3.23 よ √ √ り I = J を得る. ここで I = k[X0 , ..., Xn ] と仮定すると √ J = √ I = k[X0 , ..., Xn ] 3. 射影多様体 79 より J = k[X0 , ..., Xn ] を得る. 従ってこの場合 V(I ) = V(J ) が成り立つ. J = k[X0 , ..., Xn ] と仮定しても同様であるから I , J は k[X0 , ..., Xn ] の真の イデアルであるとしてよい. V(I ) = ∅ と仮定すると補題 3.7 より √ J = √ I = X0 , ..., Xn となるので V(I ) = V(J ) = ∅ が成り立つ. V(J ) = ∅ と仮定しても同様で あるから, V(I ), V(J ) = ∅ としてよい. このとき射影零点定理 (定理 3.8) よ り I(V(I )) = I(V(J )) が成り立ち, 定理 3.4 より V(I ) = V(J ) が得られる. 定理 3.25 斉次イデアル I, J ⊆ k[X0 , ..., Xn ] が V(I) = V(J) を満たすとき V(I ) = V(J ) が成り立つ. Proof V(I) = V(J) = ∅ のときは, 射影零点定理より {F ∈ k[X0 , ..., Xn ] | deg F ≥ N, F は斉次多項式 } ⊆ I, {F ∈ k[X0 , ..., Xn ] | deg F ≥ N , F は斉次多項式 } ⊆ J となる自然数 N, N が存在する. これより 1 = (X0N ) ∈ I , 1 = (X0N ) ∈ J と なるから, I = J = k[X1 , ..., Xn ] を得る. 従ってこの場合は V(I ) = V(J ) = ∅ が成り立つ. 次に V(I) = V(J) = ∅ とすると I(V(I)) = I(V(J)) となる ので, 射影零点定理より I= 成り立つ. よって定理 3.23 より J が得られ, これより I = I = J が J となり, 零点定理 (定理 2.10) よ り I(V(I )) = I(V(J )) となるので, 定理 2.2 より V(I ) = V(J ) が成り立つ. 定理 3.26 (1) 代数的集合 V, W ⊆ An (k) が V ⊆ W を満たすとき V ⊆ W が成り 立つ. (2) 射影代数的集合 V , W ⊆ Pn (k) が V ⊆ W を満たすとき V ⊆ W が成り立つ. Proof (1) I(V ) = I, I(W ) = J とおくと p.25, (1), (8) より I ⊇ J, およ び V(I) = V , V(J) = W が成り立つので, I ⊇ J となり V = V(I ) ⊆ V(J ) = W 3. 射影多様体 80 が得られる. (2) I = I(V ), J = I(W ) とおく. p.61,(1), (8) より I ⊇ J, および V(I) = V , V(J) = W が成り立つので, I ⊇ J となり V = V(I ) ⊆ V(J ) = W が得られる. 写像 ϕ0 : An (k) (a1 , ..., an ) → (1 : a1 : ... : an ) ∈ Pn (k) は中への単射であり, U0 := {(p0 : ... : pn ) ∈ Pn (k) | p0 = 0} とおくと, ϕ0 は U0 への全単射を誘導する. 定理 3.27 (1) 代数的集合 V ⊆ An (k) に対して ϕ0 (V ) = V ∩ U0 が成り立つ. (2) 射影代数的集合 V ⊆ Pn (k) に対して ϕ−1 0 (V ) = V が成り立つ. Proof (1) イデアル I により V = V(I) と表すと, 定義より I = F |F ∈I , V = V(I ) である. ϕ0 (V ) から任意に ϕ0 (a1 , ..., an ) = (1 : a1 : ... : an ) を選ぶ. このとき (a1 , ..., an ) ∈ V であるから, 任意の F ∈ I に対して F (a1 , ..., an ) = 0 が成り 立ち F (1, a1 , ..., an ) = F (a1 , ..., an ) = 0 となるので (1 : a1 : ... : an ) ∈ V を得る. 従って ϕ0 (V ) ⊆ V ∩ U0 が示された. 逆に P ∈ V ∩ U0 を任意に選び, P の斉次座標の1つを (1 : a1 : ... : an ) とす る. このとき任意の F ∈ I に対して F (a1 , ..., an ) = F (1, a1 , ..., an ) = 0 が成り 立つので (a1 , ..., an ) ∈ V となり, P ∈ ϕ0 (V ) を得る. 従って ϕ0 (V ) ⊇ V ∩ U0 も成り立つので (1) が示された. (2) 斉次イデアル I により V = V(I) と表すと, 定義より I = G |G∈I , V = V(I ) 3. 射影多様体 81 である. 任意に (a1 , ..., an ) ∈ ϕ−1 0 (V ) を選ぶと ϕ0 (a1 , ..., an ) = (1 : a1 : ... : an ) ∈ V であるから, 任意の斉次多項式 G ∈ I に対して G (a1 , ..., an ) = G(1, a1 , ..., an ) = 0 が成り立つ. 従って (a1 , ..., an ) ∈ V となるので ϕ−1 0 (V ) ⊆ V が示された. 逆に (a1 , ..., an ) ∈ V を任意に選ぶと, 任意の G ∈ I に対して G(1, a1 , ..., an ) = G (a1 , ..., an ) = 0 となるので ϕ0 (a1 , ..., an ) = (1 : a1 : ... : an ) ∈ V を得る. 従って ϕ−1 0 (V ) ⊇ V も成り立つので (2) が示された. 補題 3.28 Pn (k) の部分集合 B に対して次の等式が成り立つ. I(B ∩ U0 ) = {F ∈ k[X0 , ..., Xn ] | ある m > 0 が存在して X0m F ∈ I(B)} Proof 等式の右辺を J とおく. I(B ∩ U0 ) は斉次イデアルであり, I(B) が斉次 イデアルであることから J も斉次イデアルである. 斉次多項式 F ∈ I(B∩U0 ) を 任意に選ぶと, 任意の自然数 m に対して P ∈ B ∩U0 のときは, F (P ) = 0 より (X0m F )(P ) = 0 となり, P ∈ B − U0 のときも P の斉次座標が (0 : a1 : ... : an ) と表されることから (X0m F )(0, a1 , ..., an ) = 0 となるので X0m F ∈ I(B) が成 り立つ. よって F ∈ J となり, I(B ∩ U0 ) ⊆ J が成り立つ. 逆に F ∈ J とすると, ある自然数 m が存在して X0m F ∈ I(B) となる. P ∈ B ∩ U0 を任意に選び, その斉次座標を (1 : a1 : ... : an ) とすると (X0m F )(1, a1 , ..., an ) = F (1, a1 , ..., an ) = 0 が成り立つ. よって F ∈ I(B ∩ U0 ) となり, I(B ∩ U0 ) ⊇ J が成り立つ. 以上 で等式が示された. 3. 射影多様体 82 An (k) の部分集合 A に対して I(A) = I(ϕ0 (A)), I(A) = I(ϕ0 (A)) 定理 3.29 (1) が成り立つ. (2) Pn (k) の部分集合 B に対して I(B) = I(B ∩ U0 ) = I(ϕ−1 0 (B)), (I(B) ) = I(B ∩ U0 ) が成り立つ. Proof まず An (k) の部分集合 A に対して I(A) ⊆ I(ϕ0 (A)) (3.4) を示す. F ∈ I(A) を任意に選ぶと, 任意の (1 : a1 : ... : an ) ∈ ϕ0 (A) に対して (a1 , ..., an ) ∈ A であることから F (1, a1 , ..., an ) = F (a1 , ..., an ) = 0 となるので F ∈ I(ϕ0 (A)) が成り立つ. I(A) = F | F ∈ I(A) であるから (3.4) が得られる. 次に Pn (k) の部分集合 B に対して I(B) ⊆ I(ϕ−1 0 (B)) を示す. (3.5) G ∈ I(B) を任意に選ぶと, 任意の (a1 , ..., an ) ∈ ϕ−1 0 (B) に対し て (1 : a1 : ... : an ) ∈ B であるから, G (a1 , ..., an ) = G(1, a1 , ..., an ) = 0 となり, G ∈ I(ϕ−1 0 (B)) を得る. I(B) = {G | G ∈ I(B)} であるから (3.5) が成り立つ. (3.4) より (I(A) ) ⊆ I(ϕ0 (A)) となるが, 補題 3.20 を適用して I(A) ⊆ I(ϕ0 (A)) (3.6) が得られる. 補題 3.21 と (3.5) より I(B) ⊆ (I(B) ) ⊆ I(ϕ−1 0 (B)) が得られる. 以上の結果から (1), (2) を導くことにする. (3.7) 3. 射影多様体 (1) 83 (3.7) において B = ϕ0 (A) とすると, ϕ0 が単射であることから I(ϕ0 (A)) ⊆ I(ϕ−1 0 (ϕ0 (A))) = I(A) を得る. これと (3.4) より前半が得られ, 前半と補題 3.20 より後半が導かれる. (2) 補題 3.21 において I = I(B) とすると, 補題 3.28 より I(B) ⊆ (I(B) ) = I(B ∩ U0 ) が成り立ち, 後半を得る. さらに ((I(B) ) ) = I(B ∩ U0 ) に補題 3.20 を適用 すると I(B) = I(B ∩ U0 ) となるが, A = ϕ−1 0 (B) として (3.6) を適用すると, ϕ0 (A) = B ∩ U0 であるから I(ϕ−1 0 (B)) ⊆ I(B ∩ U0 ) を得る. これと (3.5) よ り前半が得られる. 定理 3.30 An (k) の部分集合 A に対して (V(I(A))) = V(I(ϕ0 (A))) が成り立つ. 特に V = (V(I(A))) は ϕ0 (A) を含む最小の射影代数的集合である. さらに V = V1 ∪ · · · ∪ Vr と既約成分に分解すると Vi Pn (k) − U0 が成り立つ. Proof p.78 で与えた定義と定理 3.29, (1) より, V = (V(I(A))) = V(I(ϕ0 (A))) が成り立つ. これより V ⊇ ϕ0 (A) となるので V は ϕ0 (A) を含む射影代数的 集合である. 次に射影代数的集合 V が V ⊇ ϕ0 (A) を満たすと仮定すると, I(V ) ⊆ I(ϕ0 (A)) より V = V(I(V )) ⊇ V(I(ϕ0 (A))) = V となるので V は ϕ0 (A) を含む最小の射影代数的集合である. 最後に V = V1 ∪· · ·∪ Vr と既約成分に分解され, ある i に対して Vi ⊆ Pn (k)−U0 であったと仮定する. このとき P ∈ Vi に対して P ∈ / U0 であるから, 点 P の 斉次座標は (0 : p1 : ... : pn ) のようになるので ϕ0 (A) ∩ Vi = ∅ である. 従って ϕ0 (A) ⊆ V1 ∪ · · · ∪ Vi−1 ∪ Vi+1 ∪ · · · ∪ Vr V となり V が ϕ0 (A) を含む最小の射影代数的集合であることに矛盾する. 以上 で定理が証明された. 3. 射影多様体 84 定理 3.30 で A として代数的集合 V をとると V = V(I(V )) となるので V = V(I(ϕ0 (V ))) を得る. これより次の系が得られる. 系 3.31 V ⊆ An (k) が代数的集合のとき, 射影代数的集合 V は Pn (k) − U0 に含まれ る既約成分をもたない. 定理 3.32 An (k) の 代 数 的 集 合 V, V1 , ..., Vr , お よ び Pn (k) の 射 影 代 数 的 集 合 V , V1 , ..., Vr に対して次が成り立つ. (1) V = V1 ∪ · · · ∪ Vr ならば V = V1 ∪ · · · ∪ Vr (2) V = V1 ∪ · · · ∪ Vr ならば V = (V1 ) ∪ · · · ∪ (Vr ) Proof (1) 定理 3.30 で A = V , Vi とすると V = (V(I(V ))) = V(I(ϕ0 (V ))), Vi = (V(I(Vi ))) = V(I(ϕ0 (Vi ))) が得られる. ここで V = V1 ∪ · · · ∪ Vr であるから V = V(I(ϕ0 (V1 ∪ · · · ∪ Vr ))) = V(I(ϕ0 (V1 ) ∪ · · · ∪ ϕ0 (Vr ))) = V(I(ϕ0 (V1 )) ∩ · · · ∩ I(ϕ0 (Vr ))) = V(I(ϕ0 (V1 ))) ∪ · · · ∪ V(I(ϕ0 (Vr ))) = V1 ∪ · · · ∪ Vr が成り立つ. (2) V = V1 ∪ · · · ∪ Vr より −1 −1 −1 ϕ−1 0 (V ) = ϕ0 (V1 ∪ · · · ∪ Vr ) = ϕ0 (V1 ) ∪ · · · ∪ ϕ0 (Vr ) が成り立つ. ここで定理 3.27, (2) より射影代数的集合 V , Vi に対して ϕ−1 0 (V ) = V , が成り立つことから (2) が得られる. ϕ−1 0 (Vi ) = (Vi ) 3. 射影多様体 85 補題 3.33 射影代数的集合 V ⊆ Pn (k) が Pn (k) − U0 に含まれる既約成分をもたない とき I(V ) = I(V ∩ U0 ) が成り立つ. Proof V ⊇ V ∩ U0 より I(V ) ⊆ I(V ∩ U0 ) が成り立つので I(V ) ⊇ I(V ∩ U0 ) を示せばよい. 任意に F ∈ I(V ∩ U0 ) を選ぶ. I(V ∩ U0 ) が斉次イデアルであ るから, F は斉次多項式であるとしてよい. 任意に P ∈ V を選び, F (P ) = 0 となることを示せばよいが, P ∈ V ∩ U0 のときは F (P ) = 0 が成り立つの で P ∈ V − U0 としてよい. このとき P の斉次座標は (0 : p1 : ... : pn ) と表さ れるから (X0 F )(P ) = 0 となり, X0 F ∈ I(V ) が成り立つ. ここで V を既約 成分に分解し V = V1 ∪ · · · ∪ Vr と表すと, 仮定より Vi ⊆ Pn (k) − U0 が成り立つ. 一方 I(V ) = I(V1 ) ∩ · · · ∩ I(Vr ) であるから, X0 F ∈ I(Vi ) となるが, Vi ⊆ Pn (k) − U0 より Vi X0 ∈ / I(Vi ) (i = 1, ..., r) V(X0 ) となるので (i = 1, ..., r) が得られ, I(Vi ) が素イデアルであることから F ∈ I(Vi ) が成り立つ. 以上から F ∈ I(V1 ) ∩ · · · ∩ I(Vr ) = I(V ) が得られるので I(V ) = I(V ∩ U0 ) が示された. 定理 3.34 次の写像 ϕ は全単射で, 逆写像 ϕ−1 は ϕ−1 (V ) = V を満たす. ϕ : {An (k) の代数的集合 } V −→ V ∈ Pn (k) − U0 に 含 ま れ る 既 約 成 分 を も た な い Pn (k) の射影代数的集合 Proof 系 3.31 より An (k) の代数的集合 V に対して, 射影代数的集合 V は Pn (k) − U0 に含まれる既約成分をもたないことを注意しておく. まず ϕ が単 射であることを示そう. 代数的集合 V, W ⊆ An (k) が V = W を満たすと仮 3. 射影多様体 86 定する. I = I(V ), J = I(W ) とおくと V = V(I), W = V(J), V = V(I ), W = V(J ) である. V = W = ∅ のときは射影零点定理 (定理 3.8), 定理 3.23, (1) に注意 すれば √ √ √ √ ( I) = I = I(V ) = I(W ) = J = ( J) を得る. 従って補題 3.20 より I= √ √ I = ( I) √ = ( J) = √ J =J となるので V = V(I) = V(J) = W が成り立つ. 一方 V = W = ∅ のときは 射影零点定理より X0N ∈ I , X0N ∈ J を満たす自然数 N, N が存在するので (X0N ) = 1 ∈ (I ) = I, (X0N ) = 1 ∈ (J ) = J より I = J = k[X1 , ..., Xn ] となり V = V(I) = V(J) = W = ∅ が得られる. 以上で ϕ が単射であることが示された. 次に Pn (k) − U0 に含まれる既約成分をもたない射影代数的集合 V に対して, (V ) = V が成り立つことを示そう. これから ϕ が全射であること, ϕ−1 (V ) = V である ことが導かれるのは明らかである. V = V(I(V )) より V = V(I(V ) ) となるの で (V ) = V((I(V ) ) ) が成り立つ. また定理 3.29, (2) より (I(V ) ) = I(V ∩U0 ) を, 補題 3.33 より I(V ) = I(V ∩ U0 ) を得る. 従って (V ) = V((I(V ) ) ) = V(I(V ∩ U0 )) = V(I(V )) = V が成り立つ. 以上で定理が証明された. 定理 3.35 An (k) の代数的集合 V が既約であることと, V が既約であることとは同 値である. Proof An (k) の代数的集合 V が可約であるとすると V = V1 ∪ V2 , V1 = V, V2 = V 3. 射影多様体 87 を満たす代数的集合 V1 , V2 が存在するので定理 3.32 より V = V1 ∪ V2 が成り立つ. ここで定理 3.34 より V → V は単射であるから V1 = V , V2 = V となるので V も可約である. 逆に V が可約であるとすると V = V1 ∪ V2 , V1 = V , V2 = V を満たす射影代数的集合 V1 , V2 が存在する. 定理 3.32, 定理 3.34 より V = (V ) = (V1 ) ∪ (V2 ) となるが, V → V が単射であるから (V1 ) = V , (V2 ) = V が成り立つので V も可約である. 以上で定理が証明された. U0 と同様に Ui := {(p0 : ... : pn ) ∈ Pn (k) | pi = 0} と定義すると, 次の写像 ϕi も全単射となり, ϕ0 と同様のことが成り立つ. ϕi : An (k) (a1 , ..., an ) −→ (a1 : ... : ai−1 : 1 : ai : ... : an ) ∈ Ui 定理 3.36 Pn (k) の部分集合 B に対して, 次の (1) と (2) は同値である. n (1) i = 0, ..., n に対して ϕ−1 i (B) は A (k) の代数的集合である. (2) B は射影代数的集合である. Proof (1) ⇒ (2) i = 0, ..., n に対して ϕ−1 i (B) が代数的集合であるとする. ¯ = V(I(B)) とおくと B ¯ は射影代数的集合である. 定理 3.27, 定理 3.29 にお B −1 に置き換えても成り立つから, i = 0, ..., n に対して いて, ϕ−1 0 を ϕi −1 −1 −1 ¯ ϕ−1 i (B) = ϕi (V(I(B))) = V(I(B) i ) = V(I(ϕi (B))) = ϕi (B) が成り立つ. ただし I(B) i は Ui における非斉次化を表す. このとき任意の ¯ ∩ Ui = B ∩ Ui となることから B ¯ = B が得られるの i = 0, ..., n に対して B で, B は射影代数的集合である. 3. 射影多様体 (2) ⇒ (1) 88 B が射影代数的集合であるとすると, B = V(I(B)) が成り立つ. このとき定理 3.27 より i = 0, ..., n に対して ϕ−1 i (B) = B i = V(I(B) i ) であるから, ϕ−1 i (B) は代数的集合である. An (k) の代数的集合 V に対して, 射影代数的集合 V を V の射影閉包という. V が既 約な代数的集合, すなわち閉部分多様体であるとき, 定理 3.35 より, V の射影閉包 V は 射影多様体である. 補題 3.37 閉部分多様体 V ⊆ An (k) に対して, I(V ) = I(V ), I(V ) = I(V ) が成り 立つ. Proof 定理 3.27, 定理 3.29 より I(V ) = I(ϕ0 (V )) = I(V ∩ U0 ) が成り立つ. 定理 3.30 より V は Pn (k) − U0 に含まれる既約成分をもたないので, 補題 3.33 より I(V ) = I(V ∩ U0 ) が成り立つ. 従って I(V ) = I(V ) を得る. これと補 題 3.20 より I(V ) = (I(V ) ) = I(V ) も成り立つ. V ⊆ An (k) が閉部分多様体のとき, 定理 3.18 において V − V(X0 ) 上の正則関数の全体 O(V − V(X0 )) が次の Oh (V )[ x10 ]0 に一致することを示した. Oh (V ) 1 x0 = 0 f ∈ kh (V ) f ∈ Oh (V ) は d 次の斉次元 xd0 ただし x0 = X0 mod I(V ) である. 次に O(V − V(X0 )) と O(V ) が同型になることを 示す. 定理 3.38 閉部分多様体 V ⊆ An (k), およびその射影閉包 V に対して, 次の写像 ψ は k 同型である. ψ : O(V − V(X0 )) これより k 同型 k(V ) F mod I(V ) x0deg F k(V ) が誘導される. −→ F mod I(V ) ∈ O(V ) 3. 射影多様体 89 Proof ϕ : k[X0 , ..., Xn ] F → F ∈ k[X1 , ..., Xn ] が全射 k 準同型であること と, 補題 3.37 により I(V ) = I(V ) が成り立つことから次の ϕ ¯ は全射 k 準同 型である. ϕ¯ : Oh (V ) F mod I(V ) −→ F mod I(V ) ∈ O(V ) ここで ψ : Oh (V ) 1 x0 f −→ ϕ(f ¯ ) ∈ O(V ) xd0 と定める. 以下 ψ が well-defined, かつ k 同型であることを示す. f xd0 = f xd0 とする. ただし f, f ∈ Oh (V ) は斉次元で, deg f = d, deg f = d と する. このとき f xd0 = f xd0 より ϕ(f ¯ x0d ) = ϕ(f ¯ xd0 ) となるので, ϕ(f ¯ )ϕ(x ¯ 0 )d = ϕ(f ¯ )ϕ(x ¯ 0 )d より ϕ(f ¯ ) = ϕ(f ¯ ) を得る. よって ψ は well-defined である. ψ が k 準同型であることは容易に確かめられるので, 次に全射であることを示 す. G mod I(V ) ∈ O(V ) に対して, ϕ ¯ が全射であるから, ϕ(g) ¯ = G mod I(V ) を満たす g ∈ Oh (V ) が存在する. deg g = d とすると ψ g xd0 = ϕ(g) ¯ = G mod I(V ) となるから ψ は 全射である. 最後に ψ が単射であることを示す. ψ f xd0 =ψ f xd0 と仮定する. ただし deg f = d, deg f = d であり, F , F は f = F mod I(V ), f = F mod I(V ) を満たす斉次多項式とする. 仮定より ϕ(f ¯ ) = ϕ(f ¯ ) であるから F − F ∈ I(V ) となるが F = X0m G, F = X0m G (X0 と G G は互いに素) と表すと, F = G , F = G であるから F − F = G − G ∈ I(V ) 3. 射影多様体 90 が成り立つ. 一方, 補題 3.37 より I(V ) = I(V ) であるから (G − G ) ∈ I(V ) が得られる. ここで deg G ≥ deg G として一般性を失わないので, deg G − deg G = s とおくと (G − G ) = G − X0s G ∈ I(V ) を得る. これより X0deg G +m+m (G − X0s G ) = X0deg G (X0m F − X0m+s F ) = X0d F − X0d F ∈ I(V ) f xd0 が成り立つので, = f xd0 が得られる. ゆえに ψ は単射である. 以上で ψ が k 同型であることが示された. これより k 同型 k(V ) k(V ) が誘導されるこ とは明らかである. 注 定理 3.38 の同型 ψ は次を満たすことを注意しておく. ただし f は Oh (V ) の斉次元 である. f f xdeg 0 3.4 f (1 : a1 : · · · : an ) = ψ f xdeg 0 (a1 , ..., an ) 射と射影変換 射影多様体 V ⊆ Pn (k) 上の有理関数 f0 , ..., fm ∈ k(V ) が (f0 , ..., fm ) = (0, ..., 0) を満 たすとする. このとき Zi (f0 , ..., fm ) := と定め, Z(f0 , ..., fm ) := i j V, fj fi の極 , fi = 0 fi = 0 Zi (f0 , ..., fm ) とおく. 定理 3.16 より Zi (f0 , ..., fm ), Z(f0 , ..., fm ) は射影代数的集合である. 以下 Zi = Zi (f0 , ..., fm ), Z = Z(f0 , ..., fm ) と略記する. V −Z =V − i Zi = i (V − Zi ) であるから, P ∈ V − Z のとき P ∈ V − Zi とな 3. 射影多様体 91 る i が存在し, 有理関数 f0 , ..., ffmi fi が P で定義されるので Pm (k) の点 f0 fm (P ) : ... : (P ) fi fi が定まる. さらに P ∈ V − Zj でもあるとすると f0 fm (P ) : ... : (P ) fi fi f0 (P ) : ... : fi (P ) f0 (P ) : ... : fj (P ) = = fm (P ) fi (P ) fm (P ) fj (P ) = = fj (P ) fm (P ) fj (P ) f0 (P ) : ... : fi (P ) fj (P ) fi (P ) fj (P ) fm f0 (P ) : ... : (P ) fj fj が成り立つので, 写像 V −Z fm f0 (P ) : ... : (P ) fi fi P −→ ∈ Pm (k) (P ∈ Zi ) が定義できる. この写像を (f0 , ..., fm ) が定義する有理写像といい, ϕ:V P (f0 (P ) : ... : fm (P )) ∈ Pm (k) と表す. 有理写像は必ずしも V のすべての点で定義されているわけではない. 特に Z = i Zi = ∅ のとき, 写像 ϕ:V P −→ (f0 (P ) : ... : fm (P )) ∈ Pm (k) を (f0 , ..., fm ) が定義する射という. f0 , ..., fm ∈ Oh (V ) が同じ次数を持つ斉次元のとき, 有理写像 ϕ:V P f0 fm (P ) : ... : (P ) fi fi ∈ Pm (k) を (f0 , ..., fm ) が定義する有理写像という. これは i の選び方によらない. また Z = ∅ の とき, 射 ϕ:V P −→ fm f0 (P ) : ... : (P ) fi fi ∈ Pm (k) を (f0 , ..., fm ) が定義する射という. 写像 ϕ : V −→ Pm (k) が V から Pm (k) への射であるとは, ϕ がある (f0 , ..., fm ) で 定義される射 V −→ Pm (k) に一致するときにいう. ただし fi はすべて有理関数であるか, すべて同じ次数の斉次元であるとする. 3. 射影多様体 92 射影代数的集合 Z ⊆ V に対して, 写像 ϕ : V − Z Pm (k) が有理写像であると Pm (k) と V − (Z ∪ Z ) 上で一致すると は, ある (f0 , ..., fm ) で定義される有理写像 V きにいう. 射影多様体 V ⊆ Pn (k), W ⊆ Pm (k) に対して, 写像 ϕ : V −→ W が V から W へ の射であるとは, 包含写像 ι : W → Pm (k) との合成写像 ιϕ : V → Pm (k) が射であるとき にいう. 射影代数的集合 Z ⊆ V に対して写像 ϕ : V − Z は ιϕ : V − Z W が有理写像であると Pm (k) が有理写像であるときにいう. 射影多様体 V ⊆ Pn (k), W ⊆ Pm (k), および V から W への射 ϕ に対して ϕ ϕ = idV , ϕϕ = idW を満たす W から V への射 ϕ が存在するとき, ϕ を W から V への同型射という. ま た V と W は同型であるといい V W と表す. V から W への有理写像 ϕ に対して ϕ ϕ = idV −Z , ϕϕ = idW −Z を満たす W から V への有理写像 ϕ が存在するとき ϕ を W から V への双有理射とい い, V と W は双有理同型であるという. ただし, Z , Z はそれぞれ V, W の射影代数的 集合であり, idV −Z , idW −Z は必ずしも恒等写像ではない. 定理 3.39 同じ次数を持つ斉次多項式 F0 , ..., Fm ∈ k[X0 , ..., Xn ] の組 (F0 , ..., Fm ) が定 める射 ϕ1 : Pn (k) −→ Pm (k) および, 同じ次数を持つ斉次多項式 G0 , ..., G ∈ k[X0 , ..., Xm ] の組 (G0 , ..., G ) が定め る射 ϕ2 : Pm (k) −→ P (k) に対して, 合成写像 ϕ2 ϕ1 : Pn (k) −→ P (k) は (G0 (F0 , ..., Fm ), ..., G (F0 , ..., Fm )) が定 める射に一致する. Proof (G0 (F0 , ..., Fm ), ..., G (F0 , ..., Fm )) が定める射 を ϕ3 とおき, 任意の P ∈ Pn (k) に対して, ϕ2 ϕ1 (P ) = ϕ3 (P ) が成り立つことを示せばよい. ϕ1 が 3. 射影多様体 93 射であることから, ある i が存在して F0 Fm (P ) : ... : (P ) Fi Fi ϕ1 (P ) = が定義される. ϕ1 (P ) に対して, ϕ2 も射であることから, ある j が存在して G0 G (ϕ1 (P )) : ... : (ϕ1 (P )) Gj Gj ϕ2 ϕ1 (P ) = が定義される. ここで G G0 (ϕ1 (P )) : ...... : (ϕ1 (P )) Gj Gj G0 (ϕ1 (P )) G (ϕ1 (P )) = : ...... : Gj (ϕ1 (P )) Gj (ϕ1 (P )) (P ) (P ) G0 FF0i (P , ..., FFmi (P G ) ) = : ...... : (P ) (P ) Gj FF0i (P , ..., FFmi (P Gj ) ) ϕ2 ϕ1 (P ) = F0 (P ) (P ) , ..., FFmi (P Fi (P ) ) F0 (P ) (P ) , ..., FFmi (P Fi (P ) ) となるが, Gi がすべて同じ次数を持つことから ϕ2 ϕ1 (P ) = = G0 (F0 (P ), ..., Fm (P )) G (F0 (P ), ..., Fm (P )) : ...... : Gj (F0 (P ), ..., Fm (P )) Gj (F0 (P ), ..., Fm (P )) G0 (F0 , ..., Fm ) (P ) G (F0 , ..., Fm ) (P ) : ...... : Gj (F0 , ..., Fm ) (P ) Gj (F0 , ..., Fm ) (P ) = ϕ3 (P ) が得られる. k に成分を持つ n + 1 次正則行列 A= a00 a01 · · · a0n a10 a11 · · · .. .. .. . . . a1n .. . an0 an1 · · · ann が与えられたとし, 斉 1 次式 FA,0 , ..., FA,n ∈ k[X0 , ..., Xn ] を FA,0 . .. = FA,n a00 · · · .. .. . . X0 a0n .. .. . . an0 · · · ann Xn 3. 射影多様体 94 とおく. (FA,0 , ..., FA,n ) が定める有理写像を ϕA : Pn (k) Z = Z(FA,0 , ..., FA,n ) = Pn (k) とする. このとき V(FA,i ) i となるが, Z = ∅ であることを示そう. Z = ∅ と仮定し, P ∈ Z を選ぶ. このとき任意の i に対して FA,i (P ) = 0 であるから P の斉次座標の1つを (p0 : ... : pn ) とすると a0j pj = · · · = j が成り立つ. 従って anj pj = 0 j p0 . . A . =O pn となるが, A は正則であるから, p0 = · · · = pn = 0 となり矛盾が生じる. よって Z = ∅ が 示された. これより ϕA は Pn (k) から Pn (k) への射となる. 同様に n + 1 次正則行列 B から射 ϕB が得られるが, 定理 3.39 より ϕA と ϕB の合 成 ϕA ϕB も Pn (k) から Pn (k) への射となり, ϕA ϕB = ϕAB が成り立つ. また n + 1 次の 単位行列 E に対して FE,0 = X0 , ...... , FE,n = Xn であるから ϕE = id である. これより ϕA−1 ϕA = ϕA−1 A = ϕE = id, ϕA ϕA−1 = ϕAA−1 = ϕE = id が成り立つから ϕA は Pn (k) から Pn (k) 自身への同型射である. ϕA を Pn (k) の射影変 換という. 射影空間 Pn (k) の互いに異なる n + 2 個の点 P1 , ..., Pn+2 は, その中のどの n + 1 個 の点も同一超平面上にないとき, 一般の位置にあるという. 定理 3.40 射影平面 P2 (k) において, 点 P1 , .., P4 , および点 Q1 , .., Q4 がそれぞれ一般 の位置にあるとする. このとき P2 (k) の射影変換 ϕ で ϕ(Pi ) = Qi (i = 1, .., 4) を満た すものが存在する. Proof Pi , Qj の斉次座標の1つをそれぞれ Pi = (ai0 : ai1 : ai2 ), Qj = (bj0 : bj1 : bj2 ) 3. 射影多様体 95 とする. また R1 = (1 : 0 : 0), R2 = (0 : 1 : 0), R3 = (0 : 0 : 1), R4 = (1 : 1 : 1) とおく. このとき射影変換 ϕA , ϕB で ϕA (Ri ) = Pi , ϕB (Ri ) = Qi (i = 1, .., 4) を満たすものが存在すれば, ϕB ϕ−1 A が題意を満たす射影変換となる. ϕB に ついても同様であるから, 射影変換 ϕA で ϕA (Ri ) = Pi を満たすものが存在す ることを示せばよい. P1 , .., P4 のどの 3 点も同一超平面上にないことから, 3 次元アフィン空間 A3 (k) において A1 = (a10 , a11 , a12 ), ..., A4 = (a40 , a41 , a42 ) の中のどの 3 つも1次 独立である. 一方 A1 , A2 , A3 , A4 は1次従属であるから a40 a10 a20 a30 λ4 a41 = λ1 a11 + λ2 a21 + λ3 a31 a42 a12 a22 a32 を満たす λ1 , ..., λ4 で, すべては 0 でないものが存在する. ここでどの 3 つも 1 次独立であることから λ1 , ..., λ4 のすべてが 0 でないので a10 α11 a20 α21 a30 α31 = α12 , λ2 a21 = α22 , λ3 a31 = α32 λ1 a 11 a12 α13 a22 α23 a32 α33 と αij を定め, A = [αij ] とおけば求める ϕA の存在がわかる. 4 章 非特異射影曲線 この章では Riemann-Roch の定理の原型ともいえる Riemann の定理を証明す る. Riemann の定理は非特異射影曲線上の因子から定まる有理関数のなす線 型空間 L(D) の次元 (D) と D の次数 deg D との差が D によらず上に有界 であることを主張するものであり, この不等式から自然に非特異射影曲線の種 数が定まる. §4.1 では射影曲線 V 上の非特異点 P での局所環 OP (V ) が離散付値環である こと, これより有理関数体 k(V ) に離散付値 ordP が定まることを示す. §4.2 では「与えられた有限個の有理関数との差の, 与えられた有限個の点にお ける離散付値の値が, 与えられた整数以上になるような有理関数が存在する」 という近似定理を証明する. §4.3 では非特異射影曲線上の有限個の点の形式的な整数係数 1 次結合として 因子を定義し, 有理関数の極と零点が有限個であることを証明した後, 有理関 数から主因子が定まることを導く. さらに因子 D に対して div(f ) + D ≥ 0 を 満たす有理関数 f 全体からなる線型空間 L(D) を導入し, その次元 (D) が有 限であることを証明する. また定数でない有理関数 f で生成される部分体の 有理関数体における余次元が, f の零点 P すべてに渡る ordP (f ) の和, およ び f の極 Q すべてに渡る −ordQ (f ) の和に一致することを示し, f から定ま る主因子 div(f ) の次数が 0 になることを導く. §4.4 では前節までに得られた結果を基に, 因子 D に対して, その次数 deg D と (D) の差が, D によらずある値以下であるという Riemann の定理を証明 し, 非特異射影曲線の種数を定義する. なお, この章を通じて k は代数的閉体, V は Pn (k) の射影曲線を表すものと する. 96 4. 非特異射影曲線 4.1 97 離散付値環 離散付値環とは極大イデアルが単項イデアルであるような体でないネーター局所整域 のことである. R が離散付値環で, 極大イデアルが t であるとき R の 0 でない元 x は x = utm と表される. ここで u は可逆元, m は非負整数で, x から一意的に定まる. R が 体でないことから t = 0 である. 離散付値環の基本事項については参考文献 [2, §6.1] を参 照されたい. 定理 4.1 V の非特異点 P での局所環 OP (V ) は離散付値環である. Proof 定理 3.14 より OP (V ) は mP (V ) を極大イデアルとしてもつネーター 局所整域である. 従って mP (V ) が単項イデアルであることを示せばよい. V が曲線, P がその非特異点であることから dimk (mP (V )/mP (V )2 ) = dim V = 1 となる. 従って剰余加群 mP (V )/mP (V )2 は 1 つの元 t で生成されるので mP (V ) = t + mP (V ) mP (V ) が成り立つ. ここで mP (V ) は有限生成 OP (V ) 加群であり, OP (V ) の極大イデ アルは mP (V ) のみであるから中山の補題 (定理 1.7) が適用できて, mP (V ) = t が得られるので, mP (V ) は単項イデアルである. V の非特異点 P での局所環 OP (V ) の極大イデアルが mP (V ) = t と表されたとする. このとき 0 でない OP (V ) の任意の元 f は f = ft t m (ft ∈ OP (V )× , m は非負整数) の形に一意的に表される. 従って OP (V ) の分数体 k(V ) の 0 でない任意の元 f は f = ft t m (ft ∈ OP (V )× , m は整数) (4.1) の形に一意的に表される. t を点 P での局所パラメータという. t も点 P での局所パラ メータであるとすると, 可逆元 u により t = ut と表されるので f = ft (t ) = ft u t = ft tm 4. 非特異射影曲線 より 98 = m が成り立つ. 従って f ∈ k(V )× に対して式 (4.1) で定まる m は局所パラメー タによらず一定であり, 写像 ordP : k(V )× f →m∈Z は well-defined である. 特に ordP (0) = ∞ と定めると写像 ordP : k(V ) −→ Z ∪ {∞} は k(V ) の離散付値となる. ただし任意の整数 m に対して m < ∞ とする. 定理 4.2 P を射影曲線 V の非特異点とする. 離散付値 ordP について次が成り立つ. ただし f, g ∈ k(V ) とする. (1) ordP (f g) = ordP (f ) + ordP (g) (2) ordP (f + g) ≥ min{ordP (f ), ordP (g)}. 特に ordP (f ) = ordP (g) ならば等号が成 り立つ. (3) OP (V ) = {f ∈ k(V ) | ordP (f ) ≥ 0} Proof 以下 P ∈ V での局所パラメータを t とする. (1) f = 0 または g = 0 のときは両辺とも ∞ となるので成り立つ. 従って f, g ∈ k(V )× としてよい. f = ft t m , g = gt tm (ft , gt ∈ OP (V )× , m, m は整数) と表すと f g = ft gt tm+m となるので, ordP (f g) = ordP (f ) + ordP (g) が成り 立つ. (2) この場合も f = 0 または g = 0 のときは明らかに成り立つので f, g ∈ k(V )× とする. f = ft t m , g = gt tm (ft , gt ∈ OP (V )× , m, m は整数) とする. ここで m ≤ m として一般性を失わないので f + g = tm (ft + gt tm −m ) 4. 非特異射影曲線 99 より ordP (f + g) ≥ m = min{ordP (f ), ordP (g)} が得られる. 次に m < m とする. g = 0 のときは明らかに成り立つので, f, g = 0 とすると ordP (f ) = ordP (f + g − g) ≥ min{ordP (f + g), ordP (−g)} = min{ordP (f + g), ordP (g)} が成り立つ. ここで ordP (f + g) ≥ ordP (g) と仮定すると, ordP (f ) ≥ ordP (g) となり矛盾が生じるので, ordP (f + g) < ordP (g) である. これより ordP (f ) ≥ ordP (f + g) となるので, 前半の結果と合わせて ordP (f + g) = ordP (f ) を得る. (3) OP (V ) ⊆ {f ∈ k(V ) | ordP (f ) ≥ 0} は明らかであるから逆を示す. ordP (f ) ≥ 0 とすると, f = 0 のときは f ∈ OP (V ) であり, f = 0 のとき は f = ft tm と表されるが m ≥ 0 より, tm ∈ OP (V ) となるので f ∈ OP (V ) が得られる. 定理 4.3 非特異射影曲線 V 上の有理関数 f ∈ k(V )× に対して次が成り立つ. (1) P ∈ V が f の零点 ⇐⇒ (2) P ∈ V が f の極 ⇐⇒ ordP (f ) > 0 ordP (f ) < 0 Proof ordP (f ) = 0 ⇔ f ∈ OP (V )× が成り立ち, このとき P は f の零点でも 極でもないことを注意しておく. ordP (f ) > 0 とすると f ∈ mP (V ) となるの で f (P ) = 0 が成り立ち, P は f の零点であり, 逆に P が f の零点であるとす ると, f ∈ mP (V ) となるので ordP (f ) > 0 が成り立つ. 以上から ordP (f ) < 0 であることと, f が P で定義されていないこととは同値となる. ゆえに (1), (2) が成り立つ. 補題 4.4 P が射影曲線 V 上の非特異点のとき, 任意の > 1 に対して次の等式が成 り立つ. dimk (mP (V ) −1 /mP (V ) ) = dimk (OP (V )/mP (V )) = 1 Proof mP (V ) = t とおき, ϕr : mP (V )r f −→ f t ∈ mP (V )r+1 4. 非特異射影曲線 100 と定める. ただし mP (V )0 = OP (V ) とする. OP (V ) は整域であるから ϕr は 単射であり, また mP (V )r+1 = t · mP (V )r とも表されるので ϕ は全射でもあ る. 加法と k の元によるスカラー倍を保つことは明らかであるから ϕr は k 加群としての同型である. ここで ι : mP (V )r+1 → mP (V )r+1 /mP (V )r+2 を自 然準同型として mP (V )r ϕr −→ mP (V )r+1 ι −→ mP (V )r+1 /mP (V )r+2 の合成写像 ιϕr の核が mP (V )r+1 であることから, 同型 mP (V )r /mP (V )r+1 を得る. OP (V )/mP (V ) ιϕr −→ mP (V )r+1 /mP (V )r+2 k に注意すれば求める等式が得られる. 定理 4.5 非特異射影曲線 V 上の 0 でない有理関数 f ∈ OP (V ) に対して ordP (f ) = dimk (OP (V )/f OP (V )) が成り立つ. Proof 点 P での局所パラメータを t として f = ft tr と表す. ただし ft は OP (V ) の可逆元, m は非負整数である. このとき f OP (V ) = ft tr OP (V ) = mP (V )r となるので dimk (OP (V )/f OP (V )) = dimk (OP (V )/mP (V )r ) = r = ordP (f ) が成り立つ. 定理 4.6 f ∈ k(V )× を有理関数とする. このとき点 P ∈ V が f の極であることと, 1 f の零点であることとは同値である. Proof 定理 4.2 より 1 1 ordP (f ) + ordP ( ) = ordP (f · ) = ordP (1) = 0 f f が成り立ち ordP (f ) < 0 ⇐⇒ ordP となるので, 定理 4.3 を適用すればよい. 1 f >0 4. 非特異射影曲線 101 定理 4.7 V を非特異射影曲線, f0 , ..., fm ∈ k(V ) は (f0 , ..., fm ) = (0, ..., 0) を満たす とする. このとき (f0 , ..., fm ) が定義する有理写像は射である Proof 任意に P ∈ V を選び ordP (fj ) = m0 = min{ordP (fi ) | i = 0, ..., m} とおくと, 任意の i に対して ordP fi fj = ordP (fi ) − ordP (fj ) ≥ 0 が成り立つ. 従って (f0 , ..., fm ) が定義する有理写像は P で定義される. P は 任意であったから, この有理写像は射である. 4.2 近似定理 補題 4.8 互いに異なる r 個の点 P1 , ..., Pr ∈ Pn (k) が任意に与えられたとき, これら のどの点も含まない Pn (k) の超平面が存在する. Proof Pn (k) の超平面 V(a0 X0 + · · · + an Xn ) に対して, 点 (a0 : ... : an ) が定 まり, 逆に点 (a0 : ... : an ) に対して, 超平面 V(a0 X0 + · · · + an Xn ) が定まる. 明らかにこの対応 Pn (k) ⊇ V(a0 X0 + · · · + an Xn ) ←→ (a0 : ... : an ) ∈ Pn (k) は1対1対応である. ここで P1 , ..., Pr に対応する超平面を V1 , ..., Vr とする と, Pn (k) は既約な射影代数的集合であるから有限個の超平面の和では表され ない. 従って V1 , ..., Vr のいずれにも含まれない点 (b0 : ... : bn ) が存在する. こ のとき超平面 V(b0 X0 + · · · + bn Xn ) は P1 , ..., Pr のいずれの点も含まない. 補題 4.9 非特異射影曲線 V の互いに異なる点 P1 , ..., Pr (r ≥ 2) と整数 次式を満たす有理関数 f ∈ k(V ) が存在する. ordP1 (f − 1) ≥ , ordPi (f ) ≥ (i = 2, ..., r) に対して, 4. 非特異射影曲線 102 Proof 補題 4.8 より点 P1 , ..., Pr のどの点も含まない超平面 H が存在する. 定 理 3.40 より適当な射影変換 ϕ で H を V(X0 ) = Pn (k) − U0 に移すことがで きる. ここで ϕ(V ) = W, ϕ(P1 ) = Q1 , ...... , ϕ(Pr ) = Qr とおくと Q1 , ..., Qr は Pn (k) − U0 に含まれないので, 定理 3.34, 定理 3.35 より W = U となる既約な代数的集合 U ⊆ An (k) が存在する. W の点 Q1 , ..., Qr に対して題意を満たす有理関数 f ∈ k(W ) の存在を示せばよいの であるが, 定理 3.38 とそのあとの注により k(W ) k(U ) となること, 1対1 対応 W ∩ U0 (1 : a1 : ... : an ) ←→ (a1 , ..., an ) ∈ U により W ∩ U0 の点 Q1 , ..., Qr を U の点と同一視できることから k(U ) にお いて題意を満たす有理関数が存在することを示せばよい. また = 0 として示せば十分であるから, 以下 < 0 の場合は ≥ 0 として O(U ) において題意を 満たす多項式関数が存在することを示せばよい. mi = {f ∈ O(U ) | f (Qi ) = 0} とおく. mi は O(U ) の極大イデアルで Q1 , ..., Qr が互いに異なることか ら m1 , ..., mr も互いに異なる. これより i = j のとき, 任意の自然数 に対し て mi + mj = O(U ) が成り立つ. 従って中国の剰余定理 ([4, 定理 24.1]) が適 用できて O(U )/(m1 ∩ · · · ∩ mr ) O(U )/m1 × · · · × O(U )/mr を得る. これより f ≡ 1 mod m1 , f ≡ 0 mod mi (i = 2, ..., r) を満たす多項式関数 f ∈ O(U ) が存在する. この f が ordP1 (f − 1) ≥ , を満たすことは明らかである. ordPi (f ) ≥ (i = 2, ..., r) 4. 非特異射影曲線 103 定理 4.10 (近似定理) V を非特異射影曲線, P1 , ..., Pr (r ≥ 2) を互いに異なる V の点 とする. このとき任意の有理関数 f1 , ..., fr ∈ k(V ) と任意の整数 fi ) ≥ に対して, ordPi (f − (i = 1, ..., r) を満たす有理関数 f ∈ k(V ) が存在する. Proof 0 = min{ ordPi (fj ) } とおく. 補題 4.9 より, 各 i = 1, ..., r に対して ordPi (gi − 1) ≥ − 0, ordPj (gi ) ≥ − 0 (j = i) を満たす有理関数 gi ∈ k(V ) が存在する. ここで f = f1 g1 + · · · + fr gr とすると, 各 i = 1, ..., r に対して ordPi (f − fi ) = ordPi (f1 g1 + · · · + fi (gi − 1) + · · · + fr gr ) ≥ min{ordPi (f1 g1 ), ..., ordPi (fi (gi − 1)), ..., ordPi (fr gr )} となるが, j = i のとき ordPi (fj gj ) = ordPi (fj ) + ordPi (gj ) ≥ 0 +( − 0) = であり, ordPi (fi (gi − 1)) = ordPi (fi ) + ordPi (gi − 1) ≥ であるから, ordPi (f − fi ) ≥ 4.3 0 +( − 0) = が成り立つ. 因子 V を非特異射影曲線とする. V の有限個の点の形式的整数係数 1 次結合 D := nP P ( nP は整数で, 有限個の P を除いて 0) P ∈V を V 上の因子という. 係数 nP を ordP (D) とおく. 定理 4.11 非特異射影曲線 V 上の 有理関数 f = 0 の極および零点は有限個である. 4. 非特異射影曲線 104 Proof V = (V ∩ U0 ) ∪ · · · ∪ (V ∩ Un ) である. ただし Ui = {(a0 : ... : am ) | ai = 0} とする. これより V ∩ Ui に含まれる f の極と零点が有限個であることを示せ ばよい. 一般性を失うことなく V ∩ U0 = ∅ として V ∩ U0 に含まれる f の極と 零点が有限個であることを示せば, 他の Ui についても同様である. 補題 4.9 の 証明と同様にして V = W となるアフィン多様体 W が存在するが, 定理 3.38 より k(W ) k(V ) となるので W はアフィン曲線である. ここで f = ψ(f ) とおく. ただし ψ は定理 3.38 で定めたものから誘導される写像とする. この とき定理 2.33 より f の極と零点は有限個である. 従って f の V ∩ U0 におけ る極と零点も有限個である. V 上の有理関数 f ∈ k(V )× に対して div(f ) := ordP (f )P P ∈V とおく. 定理 4.11 より f の極および零点は有限個である. また定理 4.3 より, それら以外 の点 P では ordP (f ) = 0 となるので div(f ) は V 上の因子となる. div(f ) を f が定め る主因子という. 因子は非特異射影曲線のみならず一般の集合上でも定義できるが, 非特異射影曲線の 性質を反映するのが主因子であることに留意されたい. V 上の因子全体は次の加法によりアーベル群をなす. nP P + P ∈V ただし零元は P ∈V mP P := P ∈V (nP + mP )P P ∈V 0 · P である. 因子全体のなす群を V の因子群といい, Div(V ) と 表す. V 上の因子 D = P ∈V nP P , D = P ∈V mP P が nP ≥ mP (∀P ∈ V ) を満たすと き D ≥ D と表すことにする. D ≥ 0 を満たす因子 D を有効な因子という. deg D := nP P ∈V とおき, deg D を D の次数という. 4. 非特異射影曲線 105 次数の定義および定理 4.2 より次の定理 4.12 が得られる. 定理 4.12 V が非特異射影曲線のとき次が成り立つ. (1) D, D ∈ Div(V ) に対して deg(D + D ) = deg D + deg D (2) f, f ∈ k(V )× に対して div(f f ) = div(f ) + div(f ) 定理 4.13 f ∈ k(V )× について次の (1) ∼ (3) は同値である. (2) f ∈ k × (1) div(f ) ≥ 0 Proof (1) ⇒ (2) (3) div(f ) = 0 div(f ) ≥ 0 とすると, 任意の P ∈ V に対して ordP (f ) ≥ 0 が成り立つ. 従って f は V 上正則となり, 定理 3.17 より f ∈ k × を得る. (2) ⇒ (3) f ∈ k × とすると, 任意の点 P で ordP (f ) = 0 となるから div(f ) = 0 が成り立つ. (3) ⇒ (1) div(f ) = 0 とすると, div(f ) = P ∈V 0 · P であるから div(f ) ≥ 0 が成り立つ. 非特異射影曲線 V 上の有理関数 f ∈ k(V )× に対して, ordP (f ) P, (f )0 := (f )∞ := (−ordP (f )) P ordP (f )<0 ordP (f )>0 と定義する. div(f ) = (f )0 − (f )∞ である. V 上の因子 D, D が線型同値であるとは, D − D = div(f ) を満たす有理関数 f ∈ k(V )× が存在するときにいう. このとき D ∼ D と表す. D ∼ 0 であることと, D が主因子であることは同値であり, 主因子全体は Div(V ) の部分群をな す. 剰余群 Pic(V ) := Div(V )/{div(f ) | f ∈ k(V )× } を V のピカール群という. V 上の因子 D = P ∈V nP P に対して L(D) := {f ∈ k(V ) | 任意の P に対して ordP (f ) ≥ −nP } = {f ∈ k(V )× | div(f ) + D ≥ 0} ∪ {0} と定義する. 4. 非特異射影曲線 106 定理 4.14 D を非特異射影曲線 V 上の因子とする. このとき次が成り立つ. (1) L(D) は k 線型空間である. (2) L(0) = k Proof (1) k(V ) が k 線型空間であるから L(D) が部分空間になることを示 せばよい. f, f ∈ L(D) に対して ordP (f + f ) ≥ min{ordP (f ), ordP (f )} ≥ −nP となるから f + f ∈ L(D) を得る. 次に f ∈ L(D), c ∈ k とする. c = 0 のと きは cf = 0 ∈ L(D) が成り立つ. c ∈ k × のときも ordP (cf ) = ordP (c) + ordP (f ) = ordP (f ) ≥ −nP より cf ∈ L(D) が成り立つので L(D) は k(V ) の部分空間である. (2) L(D) の定義と定理 4.13 より L(0) = {f ∈ k(V ) | 任意の P ∈ V に対して ordP (f ) ≥ 0} = {f ∈ k(V ) | div(f ) ≥ 0} = k が得られる. 以下 (D) := dimk L(D) とする. 定理 4.14 より (0) = 1 である. 定理 4.15 非特異射影曲線 V 上の因子 D, D が D ∼ D を満たすとき, (D) = (D ) が成り立つ. Proof D = D のときは明らかに成り立つので D = D とする. D ∼ D よ り D − D = div(f0 ) となる有理関数 f0 = 0 が存在する. f ∈ L(D ), f = 0 なる f に対して div(f ) + D ≥ 0 であるから, div(f0 f ) + D = div(f0 ) + div(f ) + D = (D − D) + div(f ) + D = div(f ) + D ≥ 0 4. 非特異射影曲線 107 となるので f0 f ∈ L(D) が成り立つ. これより線型写像 ϕ : L(D ) f −→ f0 f ∈ L(D) が得られるが, ϕ が同型写像であることを示そう. k(V ) が体であり, f0 = 0 で あるから ϕ は単射である. また g ∈ L(D), g = 0 なる g に対して div g f0 +D = div(g) − div(f0 ) + D = div(g) − (D − D) + D = div(g) + D ≥ 0 より g f0 ∈ L(D ) が成り立つ. このとき ϕ g f0 = f0 g =g f0 となるので, ϕ は全射である. 以上から L(D ) L(D) となり, (D ) = (D) が示された. 補題 4.16 D = r i=1 ni Pi を非特異射影曲線 V 上の因子とする. このとき, dimk L(D + Pi )/L(D) ≤ 1 (i = 1, ..., r) が成り立つ. Proof f ∈ L(D) ならば div(f ) + D + Pi ≥ div(f ) + D ≥ 0 より f ∈ L(D + Pi ) となるので L(D) ⊆ L(D + Pi ) が成り立つ. 次に ti ∈ mPi (V ) を点 Pi での局所パラメータとする. f ∈ L(D + Pi ) に対して ordPi (tni i +1 f ) = ni + 1 + ordPi (f ) ≥ 0 が成り立つので tni i +1 f ∈ OPi (V ) となる. これより線型写像 ϕi : L(D + Pi ) f −→ (tni i +1 f )(Pi ) ∈ k が得られるが, f ∈ L(D) のときは tni i f ∈ OPi (V ) より tni i +1 f ∈ mPi (V ) とな るので (tni i +1 f )(Pi ) = 0 となる. 従って L(D) ⊆ Ker(ϕi ) が成り立つ. 逆に f ∈ Ker(ϕi ) ∩ L(D + Pi ) とすると (tni i +1 f )(Pi ) = 0 であるから tni i +1 f ∈ mPi (V ) となるので tni i f ∈ OPi (V ) を得る. 従って f ∈ L(D) が成り立つ. 以 4. 非特異射影曲線 108 上で Ker(ϕi ) = L(D) が示された. これより L(D + Pi )/L(D) は k の部分空 間となるので dimk L(D + Pi )/L(D) ≤ 1 が成り立つ. 定理 4.17 D, D が非特異射影曲線 V 上の因子のとき次が成り立つ. (1) D ≤ D ならば L(D) ⊆ L(D ) かつ (D ) − (D) ≤ deg(D − D) である. (2) D ≥ 0 ならば (D) ≤ deg D + 1 である. Proof (1) D = D のときは明らかに成り立つから D D とする. この とき D = D + P1 + · · · + Ps と表すことができる. ただし点 P1 , ..., Ps は重複してもよいとする. 補題 4.16 の証明中で示したことから L(D) ⊆ L(D ) が成り立つ. また補題 4.16 より dimk L(D + P1 )/L(D) ≤ 1, dimk L(D + P1 + P2 )/L(D + P1 ) ≤ 1, ........ が順次成り立つので (D ) − (D) ≤ s = deg(D − D) が得られる. (2) (1) で D を 0, D を D に置き換えると (D) − (0) ≤ deg(D − 0) = deg D を得るが, (0) = 1 より (D) ≤ deg D + 1 が得られる. 定理 4.18 D を非特異射影曲線 V 上の因子とする. このとき k 線型空間 L(D) は有 限次元である. Proof D = 0 のときは (0) = 1 となるので成り立つから, D = 0 とする. D を係数が正である項の和と, 負である項の和に分解して D= nP P + P ∈V nP P P ∈V (nP > 0, nP < 0) 4. 非特異射影曲線 109 と表し D = nP P + P ∈V (−nP ) P P ∈V とおくと D > 0 が成り立つので, 定理 4.17, (2) より (D ) ≤ deg D + 1 を 得る. 一方 D ≤ D であるから定理 4.17, (1) より, L(D) ⊆ L(D ) となるの で L(D) は有限次元である. 非特異射影曲線 V 上の定数でない有理関数 f に対して k(f ) := とおく. A(f ) ∈ k(V ) | A(f ), B(f ) ∈ k[f ] , B(f ) = 0 B(f ) k(f ) は k 上 f で生成される k(V ) の部分体である. f は定数でないから k(V )/k(f ) は代数拡大である. 定理 4.19 非特異射影曲線 V 上の定数でない有理関数 f について deg (f )0 = deg (f )∞ = [k(V ) : k(f )] が成り立つ. Proof f は定数でないので f = 0 であること, 従って有理関数 1 f が存在する ことを注意しておく. 定数でない任意の有理関数 f に対して deg(f )∞ = [k(V ) : k(f )] (4.2) が成り立つとすると deg 1 f = k(V ) : k ∞ 1 f (4.3) も成り立ち, ordP ( f1 ) = −ordP (f ) より 1 f = ∞ −ordP ordP ( f1 )<0 1 f P = ordP (f )P = (f )0 ordP (f )>0 となるが, k( f1 ) = k(f ) であるから, (4.3) に代入すると deg (f )0 = [k(V ) : k(f )] が成り立つ. これと (4.2) とから求める等式が得られる. 従って d = deg(f )∞ , m = [k(V ) : k(f )] 4. 非特異射影曲線 110 とおき d = m を示すことにする. まず d ≤ m を示そう. P ∈ V を f の極とすると ordP ( f1 ) = −ordP (f ) > 0 であるから P は 1 f の零点であり, 1 f dimk (f OP (V )/OP (V )) = dimk ∈ OP (V ) となる. このとき定理 4.5 より 1 OP (V )/ OP (V ) f = −ordP (f ) が得られる. ここで ordP (f ) = −nP とおき, t を P での局所パラメータとす ると 1 1 1 , 2 , ... , n t t t P は f OP (V )/OP (V ) の k 基底である. f の極は有限個であるからそれらを P1 , ..., Pr として W = f OP1 (V )/OP1 (V ) ⊕ · · · ⊕ f OPr (V )/OPr (V ) とおくと W は k 線型空間であり, dimk W = dimk (f OP1 (V )/OP1 (V )) + · · · + dimk (f OPr (V )/OPr (V )) r = (−ordPi (f )) = (f )∞ = d i=1 が成り立つ. 以下 ∩i f OPi (V ) の元 g と W の元 i g mod OPi (V ) とを同一 視する. ti を Pi での局所パラメータとすると, 近似定理 (定理 4.10) より ordPi si − 1 ti ≥ 0, ordPj (si ) ≥ 0 (j = i) を満たす si ∈ k(V ) が存在する. ここで ordPi (si ) > −1 と仮定すると ordPi ( t1i ) = −1 であるから, 定理 4.2, (2) より ordPi (si − t1i ) = −1 となり, ordPi (si ) < −1 と仮定しても ordPi (si − t1i ) = ordPi (si ) < −1 となるので ordPi (si ) = −1 でな ければならない. 従って si ∈ f OPi (V ) − OPi (V ) かつ si ∈ OPj (V ) (j = i) と なるので, ordPi (f ) = ni とすると si , ..., sni i は f OPi (V )/OPi (V ) の基底であり, si , ..., sni i ∈ OPj (V ) (j = i) 4. 非特異射影曲線 111 が成り立つ. これより si , ..., sni i は W の元と見なすことができ s1 , ... , sn1 1 , s2 , ... , sn2 2 , .......... , sr , ...... , snr r は W の基底となる. s1 , ..., sn1 1 , ..., sr , ..., snr r を u1 , ..., ud とおき, u1 , ..., ud が k(f ) 上 1 次独立であることを示せば d ≤ m が得られる. 自明でない関係式 a1 u1 + · · · + ad ud = 0 (ai ∈ k(f )) (4.4) が成り立ったと仮定する. ai = 0 のとき ai = αie f e + · · · + αi0 , βie f e + · · · + βi0 (αij , βij ∈ k, αie , βie = 0) であるとして, ai の分母・分子を f max{e,e } で割ると ai ∈ k 1 f となる. これ を (4.4) に代入し, 各 ai = 0 の分母の積を両辺にかけると b 1 u1 + · · · + b d ud = 0 なる自明でない関係式が得られる. 1 f である. 0 でない bj すべてに現れる bi ∈ k 1 f (4.5) ∈ OP (V ) であるから bi ∈ k[ f1 ] ⊆ OP (V ) 1 f の次数のうち最小のものを e ≥ 0 とし て, (4.5) の両辺に f e をかけたものを c1 u1 + · · · + cd ud = 0 (4.6) とする. このとき定数項が 0 でない cj が存在するが, これは u1 , ..., ud が W の基底であったことに矛盾する. ゆえに u1 , ..., ud は k(f ) 上 1 次独立となり, d ≤ m が示された. 次に d ≥ m を示そう. u1 , ..., um を k(V ) の k(f ) 基底とし, D= mP P, mP = max{0, − min{ordP (uj )}} P とおくと D は有効な因子で u1 , ..., um ∈ L(D) 4. 非特異射影曲線 112 が成り立つ. 一方任意の自然数 r に対して, div(f r uj ) + (r (f )∞ + D) = r div(f ) + div(uj ) + r (f )∞ + D = r ((f )0 − (f )∞ ) + div(uj ) + r (f )∞ + D = r (f )0 + div(uj ) + D ≥ 0 となるから f r uj ∈ L(r (f )∞ + D) が成り立つ. 特に r ≤ s のとき f r uj ∈ L(r (f )∞ + D) ⊆ L(s (f )∞ + D) となることから, 0 ≤ i ≤ s なる i に対して f i uj ∈ L(s (f )∞ + D) が成り立 つ. これより m s ci f i uj | ci ∈ k U= ⊆ L(s(f )∞ + D) j=1 i=0 が得られるが, U は明らかに k 線型空間であり, u1 , ..., um が k(f ) 上 1 次独立 であることから, f i uj は U の基である. 従って dimk U ≤ dimk L(s(f )∞ + D) より m(s + 1) ≤ (s (f )∞ + D) (4.7) を得る. D ≥ 0 より s(f )∞ ≤ s(f )∞ + D となるので, 定理 4.17, (1) を適用す ると (s(f )∞ + D) ≤ (s(f )∞ ) + deg D (4.8) が得られる. ここで定理 4.17, (2) より (s(f )∞ ) ≤ sd + 1 となることに注意す ると, (4.7), (4.8) より m(s + 1) ≤ (s(f )∞ ) + deg D ≤ sd + 1 + deg D (4.9) を得る. d < m と仮定すると, s> 1 + deg D m−d を満たす自然数 s が存在するので, このような s に対して m(s + 1) − (sd + 1 + deg D) = (m − d)s − 1 − deg D + m > 0 となり (4.9) に矛盾する. 従って d ≥ m が成り立ち, 前述の結果とあわせると 4. 非特異射影曲線 113 d = m が得られる. 定理 4.20 非特異射影曲線 V 上の有理関数 f = 0 は deg (div(f )) = 0 を満たす. Proof f が定数でないときは定理 4.19 より deg(f )0 = deg(f )∞ となるの で deg (div(f )) = 0 である. また f が 0 でない定数のときは任意の P ∈ V に 対して ordP (f ) = 0 であるから deg (div(f )) = 0 が成り立つ. 定理 4.20 より次の定理が得られる. 定理 4.21 非特異射影曲線 V 上の線型同値な因子 D, D について deg D = deg D が 成り立つ. 定理 4.22 非特異射影曲線 V 上の因子 D について次が成り立つ. (1) deg D < 0 ならば L(D) = 0 (2) deg D = 0 かつ (D) > 0 ならば D ∼ 0 Proof (1) L(D) = 0 とすると 0 でない有理関数 f ∈ L(D) が存在する. div(f ) + D ≥ 0 であるから, deg(div(f ) + D) ≥ 0 が成り立ち, 定理 4.20 より 0 ≤ deg (div(f ) + D) = deg (div(f )) + deg D = deg D となり仮定 deg D < 0 に反するから, L(D) = 0 が成り立つ. (2) (D) > 0 より 0 でない有理関数 f ∈ L(D) が存在し, div(f )+D ≥ 0 とな るが, deg D = 0 より deg (div(f )+D) = deg D = 0 となるので div(f )+D = 0, すなわち D = −div(f ) が成り立つ. これより D ∼ 0 を得る. 定理 4.23 非特異射影曲線 V 上の 0 でない有理関数 f に対して, 整数 M ≥ 0 が存在 して, 任意の整数 r について deg (r (f )∞ ) − (r (f )∞ ) ≤ M が成り立つ. Proof まず f が定数でないとする. r > 0 のときは定理 4.19 の証明の後半で (4.7) を導いたのと同様にして m(r + 1) ≤ (r (f )∞ ) + deg D 4. 非特異射影曲線 114 が得られる. ただし m = [k(V ) : k(f )] である. 定理 4.19 より m = deg (f )∞ であるから (r + 1) deg (f )∞ ≤ (r (f )∞ ) + deg D より deg(r(f )∞ ) − (r(f )∞ ) ≤ deg D − deg(f )∞ を得る. r = 0 のときは deg (r (f )∞ ) − (r(f )∞ ) = deg 0 − (0) = −1 で あり, r < 0 のときは deg (r(f )∞ ) − (r(f )∞ ) < 0 となるので M として deg D − deg(f )∞ 以上の非負整数を選べば, f が定数でないときは deg(r(f )∞ ) − (r(f )∞ ) ≤ M が任意の整数 r に対して成り立つ. f が 0 でない定数とすると (f )∞ = 0 であることから, deg (r(f )∞ ) − (r(f )∞ ) = −1 ≤ M が成り立つ. 4.4 Riemann の定理 非特異射影曲線 V 上の因子 D に対して s(D) = deg D − (D) とおく. L(0) = k であることから, s(0) = deg 0 − (0) = −1 である. 補題 4.24 非特異射影曲線 V 上の因子 D, D に対して次が成り立つ. (1) D ≤ D ならば s(D) ≤ s(D ) (2) D ∼ D ならば s(D) = s(D ) Proof (1) 仮定より deg D ≤ deg D であり, 定理 4.17, (1) より (D ) − (D) ≤ deg(D − D) が成り立つ. これより s(D ) − s(D) = (deg D − deg D) − ( (D ) − (D)) ≥ 0 4. 非特異射影曲線 115 となるので s(D) ≤ s(D ) を得る. (2) D ∼ D より, ある有理関数 f が存在して D = D + div(f ) となるので, 定理 4.20 を適用すると deg D = deg D + deg(div(f )) = deg D が得られる. 一方, 定理 4.15 より (D) = (D ) であるから s(D) = s(D ) が成 り立つ. 定理 4.25 (Riemann の定理) V を非特異射影曲線とする. このときある整数 g が存 在して, 任意の因子 D に対して (D) ≥ deg D + 1 − g が成り立つ. Proof D が V 上の因子全体を動くとき s(D) が上に有界であることを示せ ばよい. 定数でない有理関数を 1 つ選び f とおき, 因子 D を任意に選び D= nP P + nP >0 P ∈V −Zf mQ Q nQ Q + mP P + mP <0 P ∈V −Zf mQ <0 Q∈Zf nQ >0 Q∈Zf と表す. ただし Zf は f の極全体のなす集合である. ここで (f − f (P ))nP h= nP >0 P ∈V −Zf とおくと h は有理関数で V − Zf の任意の点 P 対して ordP (h) ≥ nP が成り立つ. D = D − div(h) とおくと, (4.10) の右辺の第 1 項が消え mP <0 P ∈V −Zf mQ Q nQ Q + mP P + D = D − div(h) = nQ >0 Q∈Zf mQ <0 Q∈Zf と表される. この右辺は十分大きな自然数 r を選ぶと mQ Q ≤ r(f )∞ nQ Q + mP P + mP <0 P ∈V −Zf nQ >0 Q∈Zf mQ <0 Q∈Zf (4.10) 4. 非特異射影曲線 116 が成り立つようにできる. 以上で十分大きな自然数 r が存在して D = D − div(h) ≤ r(f )∞ の成り立つことが示された. 上式に補題 4.24 と定理 4.23 を適用すると, ある 整数 M ≥ 0 が存在して s(D) = s(D − div(h)) ≤ s(r(f )∞ ) ≤ M が得られる. 定理 4.25 より D が因子全体を動くとき, 整数値 s(D) + 1 = deg D − (D) + 1 の最大値 が存在する. これを V の種数という. D = 0 のとき deg D − (D) + 1 = 0 − 1 + 1 = 0 であるから V の種数 g は非負整数である. 定理 4.26 g を非特異射影曲線 V の種数とする. ある因子 D0 が deg D0 − (D0 )+1 = g を満たせば D ≥ D0 を満たす因子 D はすべて deg D − (D) + 1 = g を満たす. Proof D ≥ D0 とすると補題 4.24, (1) より s(D) ≥ s(D0 ) = g − 1 = max{s(D )} が成り立つので s(D) = g − 1 が得られる. 定理 4.27 g を非特異射影曲線 V の種数とする. 因子 D0 が deg D0 − (D0 ) + 1 = g を満たすとき deg D ≥ deg D0 + g を満たす因子 D はすべて deg D − (D) + 1 = g を 満たす. Proof deg D ≥ deg D0 + g とすると, deg(D − D0 ) ≥ g であるから deg(D − D0 ) ≥ g ≥ deg(D − D0 ) − (D − D0 ) + 1 が成り立つ. 従って (D − D0 ) ≥ 1 となるので div(f ) + (D − D0 ) ≥ 0 を満た す 0 でない有理関数 f が存在することから div(f ) + D ≥ D0 4. 非特異射影曲線 117 が得られる. このとき補題 4.24 より s(D) = s(D + div(f )) ≥ s(D0 ) = g − 1 が成り立つので s(D) = g − 1 となり deg D − (D) + 1 = g が得られる. 5 章 Riemann-Roch の定理 この章では, 非特異射影曲線についての Riemann-Roch の定理を証明する. §5.1 では関数体 k(V ) の直積環 P P ∈V k(V ) の部分環 AV , および因子 D = nP P から定まる AV の k 線型部分空間 AV (D) = {(fP ) ∈ AV | ordP (fP ) ≥ −nP } を導入し, k 線型空間 I(D) = AV /(AV (D) + k(V )) の次元 i(D) が有限で Riemann-Roch の定理の暫定版 (D) − i(D) = deg D + 1 − g が成り立つことを証明する. §5.2 では非特異射影曲線 V の有理関数体 k(V ) の 微分加群 Ω(k(V )) が 1 次元 k(V ) 線型空間であることを示す. §5.3 では有理関 数の局所パラメータに関するローラン展開の主要部から有理微分の留数を定義 し, 留数が局所パラメータによらず定まることを示す. さらに有理微分 f dg の 点 P における留数と k(V ) のべき有限次線型変換 [πf, g] のトレースが一致す ることを利用して留数の総和が 0 になるという留数定理を証明する. §5.4 では 留数定理を用いて 0 でない有理微分が因子を定めること, これらの因子が線型 同値を除いて一意に定まることなどを示し, 標準因子 KV を定義する. さらに AV /k(V ) の双対空間の部分空間 JV を考察することにより I(D) の双対空間 が L(KV − D) と k 線型同型であるという双対定理を証明し, Riemann-Roch の定理を導く. なお, この章でも k は代数的閉体とし, §5.2 を除いて V ⊆ Pn (k) は非特異射 影曲線を表すものとする. 118 5. Riemann-Roch の定理 5.1 119 Riemann-Roch の定理の暫定版 k(V ) の無限直積 k(V ) は成分ごとの加法, 乗法により可換環となるが, 写像 P ∈V k(V ) f −→ (f ) ∈ k(V ) P ∈V による像を k(V ) と同一視することにより k(V ) 代数と見なすことができる. ここで AV := { (fP ) ∈ k(V ) | 有限個の点を除いて fP ∈ OP (V ) } P ∈V とおくと, (fP ), (gP ) ∈ AV に対して (fP ) + (gP ) = (fP + gP ) ∈ AV が成り立つので AV は P ∈V かつ (fP )(gP ) = (fP gP ) ∈ AV k(V ) の部分環である. また有理関数の極が有限個であるこ とから k(V ) ⊆ AV となるので AV を k(V ) 代数と見なすことができる. 因子 D = P ∈V nP P に対して AV (D) := {(fP ) ∈ AV | 任意の P ∈ V に対して ordP (fP ) ≥ −nP } とおく. AV (D) は AV の k 線型部分空間である. また任意の (fP ) ∈ AV に対して, ordP (fP ) < 0 となる P は有限個であるから ordP (fP ) P D = ordP (fP )<0 とおくと D は因子となり, (fP ) ∈ AV (−D ) を満たす. 従って AV = AV (D) (5.1) D が成り立つ. (f ) ∈ AV (D) のとき任意の点 P で ordP (f ) ≥ −nP が成り立ち, f ∈ L(D) となるので次の定理が得られる. 定理 5.1 因子 D に対して L(D) = k(V ) ∩ AV (D) が成り立つ. tP を点 P での局所パラメータ, m を整数とすると OP (V ) t−m = {f ∈ OP (V ) | ordP (f ) ≥ −m} P 5. Riemann-Roch の定理 120 は OP (V ) 加群であり, m ≤ m のとき ⊆ OP (V ) t−m OP (V ) t−m P P が成り立ち, k 上の線型空間と見なせば dimk が成り立つ. また因子 D = OP (V ) tP−m =m−m OP (V ) t−m P nP P が D ≤ D を満たすとき, nP ≤ nP P , D = nP (∀P ∈ V ) であるから, (fP ) ∈ AV (D) に対して ordP (fP ) ≥ −nP ≥ −nP より (fP ) ∈ AV (D ) を得る. 従って AV (D) ⊆ AV (D ) が成り立つ. 定理 5.2 因子 D, D が D ≤ D を満たすとき dimk (AV (D )/AV (D)) = deg D −deg D が成り立つ. Proof D = nP P , D = nP P とおくと仮定より任意の点 P に対し て nP ≤ nP が成り立つ. tP を点 P での局所パラメータとし ϕ : AV (D ) (fP ) −→ ⊕P OP (V )t−n P P /OP (V )tP−nP とおくと, ϕ は k 線型写像であり, AV (D ) の定義より全射となる. また (fP ) ∈ Ker(ϕ) ⇐⇒ fP ∈ OP (V )tP−nP (∀P ) ⇐⇒ (fP ) ∈ AV (D) が成り立つので Ker(ϕ) = AV (D) を得る. これより dimk (AV (D )/AV (D)) = dimk = ⊕P OP (V )t−n P (nP − nP ) = P P P /OP (V )t−n P nP − P nP P = deg D − deg D が得られる. 因子 D に対して AV , AV (D) + k(V ) を k 線型空間と見なしたときの剰余空間を I(D) := AV /(AV (D) + k(V )) とおく. I(D) は k 線型空間である. 5. Riemann-Roch の定理 121 定理 5.3 (Riemann-Roch の定理暫定版) V 上の因子 D に対して I(D) は有限次元 k 線型空間で, 次式が成り立つ. ただし g は V の種数, i(D) = dimk I(D) である. (D) − i(D) = deg D + 1 − g Proof 因子 D が D ≤ D を満たすとする. 定理 5.1 の後で説明したよう に AV (D) ⊆ AV (D ) となることから, 準同型 包含写像 AV (D ) −−−−→ AV (D ) + k(V ) 自然準同型 AV (D ) + k(V ) −−−−−→ (AV (D ) + k(V ))/(AV (D) + k(V )) を合成して得られる全射の核は明らかに AV (D) を含むので, 全射 ϕ : AV (D )/AV (D) −→ (AV (D ) + k(V ))/(AV (D) + k(V )) が誘導される. ここで k 線型空間として AV (D ) ∩ (AV (D) + k(V )) = AV (D) + (AV (D ) ∩ k(V )) が成り立つことに注意すれば, 第2同型定理より Ker(ϕ) = = AV (D ) ∩ (AV (D) + k(V )) AV (D) + (AV (D ) ∩ k(V )) = AV (D) AV (D) AV (D) + L(D ) AV (D) L(D ) L(D ) = L(D ) ∩ AV (D) L(D) が成り立つ. よって定理 5.2 より dimk AV (D ) + k(V ) = dimk (AV (D )/AV (D)) − dimk Ker(ϕ) AV (D) + k(V ) = (deg D − deg D) − ( (D ) − (D)) = (deg D − (D )) − (deg D − (D)) を得る. 一方 deg D0 − (D0 ) = g − 1 を満たす因子 D0 が存在するので D を D0 ≤ D かつ D ≤ D となるように選んでおけば定理 4.26 より deg D − (D ) = g − 1 5. Riemann-Roch の定理 122 が得られるので dimk AV (D ) + k(V ) = g − 1 + (D) − deg D AV (D) + k(V ) (5.2) が成り立つ. AV (D ) + k(V ) = AV ならば (5.2) より i(D) = g − 1 + (D) − deg D となり, I(D) が有限次元であることと, 求める等式が得られる. 従って AV (D )+ k(V ) AV であると仮定して矛盾を導けばよい. AV (D ) + k(V ) AV よ り, ある (fP ) ∈ AV で (fP ) ∈ / AV (D ) + k(V ) となるものが存在する. (5.1) よ り AV = D AV (D) であるから, (fP ) ∈ AV (D1 ) + k(V ) を満たす因子 D1 が 存在する. ここで D ≤ D2 かつ D1 ≤ D2 となる因子 D2 を選ぶと AV (D ) + k(V ) AV (D2 ) + k(V ) となるが, これは定理 4.26 より deg D2 − (D2 ) = g − 1 が得られ dimk AV (D2 ) + k(V ) AV (D ) + k(V ) = g − 1 + (D) − deg D = dimk AV (D) + k(V ) AV (D) + k(V ) となることと矛盾する. 以上で定理が証明された. 定理 5.3 において D = 0 とすれば次の結果を得る. 定理 5.4 非特異射影曲線 V の種数 g に対して g = i(0) が成り立つ. 定理 5.5 因子 D0 が deg D0 − (D0 ) + 1 = g を満たすとき deg D ≥ deg D0 + g を満 たす因子 D は AV = AV (D) + k(V ) を満たす. Proof 定理 5.3 の証明中で示したように D ≥ D を満たす因子 D に対して dimk AV (D) + k(V ) = (deg D − (D)) − (deg D − (D )) AV (D ) + k(V ) 5. Riemann-Roch の定理 123 が成り立つ. 定理 4.27 より deg D − (D) = g − 1 より dimk AV (D) + k(V ) AV = g−1−(deg D − (D )) = i(D ) = dimk AV (D ) + k(V ) AV (D ) + k(V ) となることから AV = AV (D) + k(V ) が得られる. 5.2 関数体の微分加群 閉部分多様体 V ⊆ An (k) の座標環の微分加群 Ωk (O(V )) を V の微分加群といい, Ω(V ) と表す. また k 導分 dO(V ) を V の k 微分といい, dV と表す. 定理 5.6 An (k) の微分加群 Ω(An (k)) は階数 n の自由 k[X1 , ..., Xn ] 加群である. Proof R = k[X1 , ..., Xn ] とする. e1 , ..., en を基底とする自由 R 加群を Ω = Re1 ⊕ · · · ⊕ Ren とおき, Ω Ω(An (k)) であることを示す. ここで写像 d:R F −→ dF = FX1 e1 + · · · + FXn en ∈ Ω は明らかに k 線型であるが d (F G) = (F G)X1 e1 + · · · + (F G)Xn en = (FX1 G + F GX1 )e1 + · · · + (FXn G + F GXn )en = G · dF + F · dG より k 導分となる. 一方 R 加群 M と k 導分 D : R → M が任意に与えら れたとする. Ω は自由 R 加群であるから, ϕ(ei ) = D(Xi ) を満たす R 準同 型 ϕ : Ω → M が存在する ϕ:Ω F1 e1 + · · · + Fn en −→ F1 D(X1 ) + · · · + Fn D(Xn ) ∈ M このとき定理 1.21, (3) に注意すれば, 任意の F ∈ R に対して (ϕd)(F ) = ϕ(FX1 e1 + · · · + FXn en ) = ϕ(FX1 e1 ) + · · · + ϕ(FXn en ) = FX1 D(X1 ) + · · · + FXn D(Xn ) = D(F ) 5. Riemann-Roch の定理 124 が成り立ち, ϕd = D が得られる. また R 準同型 ϕ : Ω → M が ϕ d = D を 満たすとすると D(Xi ) = (ϕ d)(Xi ) = ϕ (ei ) となるので ϕ = ϕ が成り立つ. すなわち ϕd = D を満たす R 準同型 ϕ : Ω → M は D に対して一意である. Ω(An (k)) が得られる. これより定理 1.24 を適用すると Ω 定理 5.7 V ⊆ An (k) を閉部分多様体, I(V ) = F1 , ..., Fr とする. ると O(V ) 同型 Ω(An (k))/N d = dAn (k) とす Ω(V ) が成り立つ. ただし N = O(An (k))dF1 + · · · + O(An (k))dFr + I(V )Ω(An (k)) である. Proof R = O(An (k)), M = O(V ) とおく. R = k[X1 , ..., Xn ], M = k[X1 , ..., Xn ]/ F1 , ..., Fr である. Ω(V ) が M 加群, 従って R 加群と見なすことができることを注意し ておく. ここで D : R → Ω(V ) を f D : R −−−−−−−−→ M 自然な環準同型 d V −−− → Ω(V ) k 微分 とおくと, 明らかに D は R から Ω(V ) への k 導分である. 定理 1.23 よ り D = ϕd を満たす R 準同型 ϕ : Ω(R) → Ω(V ) が存在する. ここで Ω(R) = Ω(An (k)) より Ker(ϕ) = N , すなわち Ker(ϕ) = RdF1 + · · · + RdFr + I(V )Ω(R) を示せば定理が得られる. D(Fj ) = 0 より dFj ∈ Ker(ϕ) となるので RdF1 + · · · + RdFr ⊆ Ker(ϕ) が成り立つ. また I(V )Ω(V ) = 0 であるから I(V )Ω(R) ⊆ Ker(ϕ) となり N ⊆ Ker(ϕ) が得られる. これより R 準同型 ϕ¯ : Ω(R)/N → Ω(V ) 5. Riemann-Roch の定理 125 が誘導される. 一方 g d D :R − → Ω(R) −−−−−−−−−→ Ω(R)/N 自然な R 準同型 とおくと D は k 導分であり, D (I(V )) = 0 となるので R 加群 M = R/I(V ) からの k 導分 D : M = R/I(V ) −→ Ω(R)/N を誘導する. D f = gd である. これより M 準同型 ψ : Ω(V ) −→ Ω(R)/N で D = ψdV を満たすものが存在する. ψ は R 準同型でもあり, ψ ϕgd ¯ = ψϕd = ψdV f = D f = gd となるが, 系 1.25 より d(R) が R 加群 f R dV M Ω(V ) d として Ω(R) を生成するので ψ ϕg ¯ =g Ω(R) となり, g が全射であるから D ψ ϕ¯ g ψ ϕ¯ = idΩ(R)/N Ω(R)/N が成り立つ. また ϕψd ¯ V f = ϕD ¯ f = ϕgd ¯ = dV f であるが, 上と同様にして ϕψ ¯ = idΩ(V ) が成り立つ. よって ϕ, ¯ ψ は R 同型で Ω(R)/N Ω(M ) が成り立つ. 定理 5.7 より V の微分加群 Ω(V ) は O(V ) 加群として dV Xi で生成される. これより次 の定理が得られる. 定理 5.8 閉部分多様体 V ⊆ An (k) の微分加群 Ω(V ) は有限生成 O(V ) 加群である. 5. Riemann-Roch の定理 126 補題 5.9 R を k 可換な代数, M を R 加群, D : R → M を k 導分とする. このとき D 1 x = D(x) − 2 D(y) y y x y が成り立つ. ただし x, y ∈ R, y = 0 とする. Proof k 導分の定義より D( xy ) = D(x y1 ) = y1 D(x) + xD( y1 ) が成り立つ. こ こで 0 = D(1) = D y 1 y 1 = D(y) + yD y 1 y より D( y1 ) = − y12 D(y) となるので求める式が得られる. 定理 5.10 V ⊆ Pn (k) を射影曲線, P をその非特異点, t を点 P での局所パラメータ とする. このとき OP (V ) の微分加群 Ω(OP (V )) は t の微分 d t を基底とする階数 1 の自由 OP (V ) 加群である. ただし d = dOP (V ) とする. Proof R = OP (V ) とおく. 定理 3.38 より R はあるアフィン曲線 V0 の座標 環 O(V0 ) の局所化 R0 に一致する. O(V0 ) が x1 , ..., xr で生成されるとき, 定 理 5.8 の前で述べたように Ω(V0 ) は O(V0 ) 加群として dV0 x1 , ..., dV0 xr で生成 される. このとき R0 の元は O(V0 ) の元 x と y = 0 により x y と表されるの で d = dR0 とおくと, 補題 5.9 より d x y 1 x = d (x) − 2 d (y) y y が成り立つ. これより Ω(R0 ) は R0 加群として d x1 , ..., d xr で生成される. 従って Ω(R) は有限生成 R 加群である. 一方 R = k + tR であるから R の元 は a + tr, a ∈ k, r ∈ R と表され d(a + tr) = d(tr) = rdt + tdr ∈ Rdt + t Ω(R) となるので Ω(R) = Rdt + tΩ(R) が得られ, 中山の補題 (定理 1.7) より Ω(R) = R dt を得る. dt が Ω(R) の R 基底であることを示すには任意の R の元 r = 0 に 対して rdt = 0 を示せばよい. ここで r = αts , α ∈ R× と表されることから α−1 rdt = α−1 αts dt = ts dt 5. Riemann-Roch の定理 127 となるので ts dt = 0 を示せばよい. ここで m > s を満たす整数 m で, m + 1 が char(k) の倍数でないものを 1 つ選ぶ. R の元 f は f = c0 + c1 t + · · · + cm+1 tm+1 + tm+2 f , f ∈R と表され c0 , ..., cm+1 , f は f から一意的に定まるので D(f ) = c1 + 2c2 t + · · · + (m + 1)cm+1 tm ∈ R/ tm+1 となる写像 D : R → R/ tm+1 が定義できる. D は k 導分であるので, 定理 1.23 より D = ϕd を満たす R 準同型 ϕ : Ω(R) → R/ tm+1 が存在し ϕd(tm+1 ) = D(tm+1 ) = (m + 1)tm = 0 を満たす. これより dtm+1 = 0 となるので 0 = dtm+1 = (m + 1)tm dt = (m + 1)tm−s ts dt が成り立ち ts dt = 0 が得られる. よって Ω(R) は dt を基底とする階数 1 の自 由 R 加群である. 定理 5.11 P を射影曲線 V の非特異点, t を点 P での局所パラメータとする. この とき k(V ) の微分加群 Ω(k(V )) は t の微分 dk(V ) t を基底とする 1 次元 k(V ) 線型空 間である. Proof K = k(V ), R = OP (V ) とおく. 包含写像 R → K と k 微分 dK : K → Ω(K) の合成 d : R → Ω(K) は k 導分となるので定理 1.23 より d = ϕdR を満たす R 準同型 ϕ : Ω(R) → Ω(K) が存在する. 補題 5.9 より Ω(K) は dK x (x ∈ R) で生成される K 線型空間であるが, 定理 5.10 より Ω(R) は dR t を基底とする自由 R 加群であるから, dK (R) は dK t で生成される R 加群と なる. これより Ω(K) は dK t で生成される K 線型空間である. すなわち Ω(K) = K dK t 5. Riemann-Roch の定理 128 が成り立つ. これより dK t = 0 を示せばよい. Ω(R) = RdR t であるから f ∈ R に対して dR f = ft dR t (ft ∈ R) と表される. ここで D:K f g −→ 1 (gft − f gt ) ∈ K g2 (f, g ∈ R, g = 0) とおく. まず D が well-defined であることを確認するために f g = f g とする と, f g = f g であるから dR (f g − f g) = f gt dR t + g ft dR t − f gt dR t − gft dR t = 0 より f gt + g ft − f gt − gft = 0 が成り立つ. 従って f t f gt − 2 g g − ft f gt − g (g )2 ft f g t ft f gt − 2 − + g g g (g )2 ft f gt ft f gt = − − + g gg g gg g ft − f gt − gft + f gt =0 = gg = となるので D は well-defined である. また a ∈ k に対して dR (af ) = (aft )dR t に注意すれば D a f g =D af g = 1 (g(aft ) − (af )gt ) = aD g2 f g 5. Riemann-Roch の定理 129 が成り立つ. さらに D f f + g g =D fg + f g gg 1 (gg (f g + f g)t − (f g + f g)(gg )t ) (gg )2 1 (gg (g ft + f gt + gft + f gt ) − (f g + f g)(ggt + g gt )) = (gg )2 1 = ((g )2 (gft − f gt ) + g 2 (g ft − f gt )) (gg )2 1 1 = 2 (gft − f gt ) + (g ft − f gt ) g (g )2 f f =D +D g g = が成り立つので D は k 線型写像である. 一方 f, f , g, g ∈ R, g, g = 0 に対し て dR (f f ) = (f f )t dR t であるが dR (f f ) = f dR f + f dR f = f (ft dR t) + f (ft dR t) = (f ft + f ft )dR t より (f f )t = f ft + f ft が成り立つ. 同様に (gg )t = ggt + g gt も成り立つので D ff gg 1 (gg (f f )t − f f (gg )t ) (gg )2 1 = (gg (f ft + f ft ) − f f (ggt + g gt )) (gg )2 1 = (f g(g ft − f gt ) + f g (gft − f gt )) (gg )2 f f f f = D + D g g g g = となるから D は k 導分である. 従って D = ψdK を満たす K 準同型 ψ : Ω(K) → K が存在し ψ(dK t) = D(t) = tt = 1 となるので dK t = 0 が得られ る. 以上で定理が証明された. 非特異射影曲線 V の有理関数体の微分加群 Ω(k(V )) の元 ω を V の有理微分という. 点 P での局所パラメータを t とすると, 有理微分 ω = 0 に対して定理 5.11 より, 0 でない有 5. Riemann-Roch の定理 130 理関数 f が存在して ω = f dt と表される (d = dk(V ) ). ここで ω の P での位数を ordP (ω) := ordP (f ) と定める. これは P での局所パラメータの選び方によらない. なぜならば s も P での局所 パラメータであるとし, R = OP (V ) とおくと, d(R) = Rds = Rdt であるから ds = αdt, dt = βds となる α, β ∈ R が存在する. このとき αβ = 1 となり α, β は R の可逆元とな る. ω = f dt = βf ds より ordP (f ) = ordP (βf ) が成り立つからである. 以下において d = dk(V ) とする. 補題 5.12 d(OP (V )) ⊆ OP (V )dt が成り立つ. ただし P は非特異射影曲線 V の点, t は P での局所パラメータである. Proof R = OP (V ) とおく. d の R への制限 d : R → Ω(k(V )) は R の k 導分であるから, R 準同型 ϕ : Ω(R) → Ω(k(V )) が存在して d = ϕdR が成 り立つ. Ω(R) は定理 5.10 より階数 1 の自由 R 加群であるから ϕ(Ω(R)) = ϕ(R dR t) = Rdt が成り立つ. 従って d(R) = d (R) = ϕ(dR (R)) ⊆ ϕ(Ω(R)) = Rdt が得られる. 定理 5.13 非特異射影曲線 V の 0 でない有理関数 g が ordP (dg) < 0 となるならば P は g の極である. 従って有理微分 ω に対して ordP (ω) < 0 を満たす点 P は有限個で ある. Proof g ∈ OP (V ) ならば, 補題 5.12 より dg ∈ OP (V )dt となり, ordP (dg) ≥ 0 が成り立つ. ただし t は P での局所パラメータである. これより ordP (dg) < 0 となるならば P は g の極である. また定理 5.11 より, 有理微分 ω は有理関数 f により f dg と表されるので ordP (ω) = ordP (f dg) = ordP (f ) + ordP (dg) となり, ordP (ω) < 0 となる点は f または g の極であるから有限個である. 5. Riemann-Roch の定理 131 有理微分 ω に対して ordP (ω) > 0 となる点 P も有限個であるが (定理 5.29), その証明に は留数定理を必要とする. 5.3 留数定理 この節を通じて V は非特異射影曲線を表すものとする. f = 0 を有理関数, t を点 P での局所パラメータとする. ordP (f ) = −m < 0 のとき f= と一意的に表される. ft , tm OP (V )/tOP (V ) ft ∈ OP (V )× k より OP (V ) = k + tOP (V ) となるので ft ≡ f−m mod tOP (V ) を満たす定数 f−m が存在する. 従って ft ∈ OP (V ) が存在して ft = f−m + tft と表される. このとき f= となるので ft f−m + m−1 , m t t ordP f− f−m tm ft tm−1 に同様の操作を施していけば f= f−m f−(m−1) f−1 + m−1 + · · · + +f m t t t = ordP ft m−1 t ≥ −(m − 1) (f−i ∈ k, f ∈ OP (V )) と表される. f−m , ..., f−1 , f が t から一意に定まるので ppt (f ) := f−m f−(m−1) f−1 + m−1 + · · · + m t t t とおき, f での局所パラメータ t に関するローラン展開の主要部という. ただし f ∈ OP (V ) のときは ppt (f ) = 0 とする. 一方, 有理微分 ω は有理関数 f により ω = f dt と表され るが ResP (ω) := f−1 を ω の点 P での留数という. なお ResP (ω) が局所パラメータ t の選び方によらないこ とは定理 5.18 で示される. 以下定理 5.18 まで t は点 P での局所パラメータを表す. 定理 5.14 有理微分 ω1 , ..., ωm に対して次式が成り立つ. ただし ci ∈ k である. ResP ci ωi i = ci ResP (ωi ) i 5. Riemann-Roch の定理 132 Proof ωi = fi dt (fi ∈ k(V )) とおき, fi の t に関するローラン展開を (i) fi = (i) f−mi f−1 + · · · + + fi m t i t (fi ∈ OP (V )) とする. このとき ResP ci ωi (i) = i ci f−1 = i ci ResP (ωi ) i が成り立つ. d の OP (V ) への制限 d : OP (V ) → Ω(k(V )) は OP (V ) の k 導分であるから, OP (V ) 準 同型 ϕ : Ω(OP (V )) → Ω(k(V )) が存在して d = ϕdR が成り立つ. Ω(OP (V )) が dOP (V ) t を基底とする自由 OP (V ) 加群, Ω(k(V )) が dt を基底とする 1 次元 k(V ) 線型空間であ るから ϕ : Ω(OP (V )) r dOP (V ) t −→ r dt ∈ Ω(k(V )) ( r ∈ OP (V ) ) は同型である. 従って ω と ϕ(ω) を同一視して Ω(OP (V )) ⊆ Ω(k(V )) と見なすことがで きるので, 以下 ω ∈ Ω(OP (V )) に対して ResP (ω) := ResP (ϕ(ω)) とおくことにする. ω ∈ Ω(OP (V )) のとき定理 5.10 より, f ∈ OP (V ) が存在して ω = f dt となるので次の定理を得る. 定理 5.15 ω ∈ Ω(OP (V )) のとき ResP (ω) = 0 が成り立つ. 補題 5.16 s を P での局所パラメータとする. t に関する留数について ResP ( 1s ds) = 1 が成り立つ. Proof s = s t (s ∈ OP (V )× ) と表されるので ds = s dt + tds が成り立つ. これより s t 1 1 1 ds = dt + ds = dt + ds s s s t s 5. Riemann-Roch の定理 1 ds s となるが, 133 ∈ Ω(OP (V )) であるから, 定理 5.14, 定理 5.15 より ResP 1 ds s = ResP 1 dt + ResP t 1 ds s =1+0=1 が成り立つ. 補題 5.17 f ∈ k(V )× のとき, 任意の整数 n ≥ 0 に対して ResP (f n df ) = 0 が成り 立つ. Proof まず char(k) = 0 とする. d(f n+1 ) = (n + 1)f n df であるから f n df = 1 d(f n+1 ) n+1 が成り立つ. ここで f n+1 のローラン展開を f n+1 = f−m f−1 + · · · + +f tm t (f ∈ OP (V ), f−i ∈ k) とすると d(f n+1 ) = f−m d = f−m 1 1 + · · · + f d + d(f ) −1 tm t m 1 − m+1 dt + · · · + f−1 − 2 dt + d(f ) t t となるので f n df = 1 1 d(f n+1 ) = − n+1 n+1 が成り立つ. ここで 1 d(f n+1 mf−m f−1 + ··· + 2 m+1 t t dt + 1 d(f ) n+1 ) ∈ Ω(OP (V )) に注意すれば, ResP (f n df ) = 0 が 得られる. 次に char(k) = p > 0 とする. ordP (f ) ≥ 0 ならば f n df ∈ Ω(OP (V )) である から定理 5.15 より ResP (f n df ) = 0 が成り立つ. 従って ordP (f ) = −m < 0 と してよい. f のローラン展開を f= f−m f−1 + ··· + + f0 + f1 t + · · · + fmn tmn + tmn+1 f m t t (f ∈ OP (V )) 5. Riemann-Roch の定理 134 とする. ここで f n df における 1t dt の係数は f−m , ..., fmn の整数係数多項式 b(f−m , ..., fmn ) から p を法として計算されるものである. char(k) = 0 のと き任意の f−m , ..., fmn に対して b(f−m , ..., fmn ) = 0 となるから, 整数係数多 項式として b(f−m , ..., fmn ) = 0 が成り立つ. 従って char(k) = p > 0 のとき も b(f−m , ..., fmn ) = 0, すなわち 1t dt の係数は 0 となる. よってこの場合も ResP (f n df ) = 0 が成り立つ. 定理 5.18 有理微分 ω の留数 ResP (ω) は局所パラメータのとり方によらない. Proof P での局所パラメータ s を任意に選び, s に関する留数と t に関する 留数が一致することを示す. ω = f dt と表し, t に関する留数を ResP (ω) = f−1 とおく. s に関して ω = gds, g= g−m g−1 + · · · + +g sm s (g ∈ OP (V ), gj ∈ k) であるとして f−1 = g−1 を示せばよい. 定理 5.15 より g−m g−1 + · · · + + g ds sm s 1 = g−m ResP ds + · · · + g−2 ResP sm ResP (gds) = ResP 1 ds + g−1 ResP s2 1 ds s となるが, d( 1s ) = − s12 ds より 1 ds = − sm 1 s m−2 d 1 s (m ≥ 2) が成り立つ. 従って補題 5.17 より g−m ResP 1 ds sm = · · · · · · = g−2 ResP 1 ds s2 =0 が得られる. よって補題 5.16 より ResP (gds) = g−1 が成り立つ. 以下では非特異射影曲線 V の関数体 k(V ) を k 線型空間, 点 P での局所環 OP (V ) をそ の部分線型空間と見なし, §1.2 の結果を利用して留数定理を証明する. 補題 5.19 有理関数 f の誘導する k 線型変換 k(V ) OP (V ) を満たす. g → f g ∈ k(V ) は f OP (V ) ≺ 5. Riemann-Roch の定理 135 Proof ordP (f ) ≥ 0 ならば f OP (V ) ⊆ OP (V ) であるから f OP (V ) ≺ OP (V ) が成り立つ. ordP (f ) = −m < 0 とすると, 点 P での局所パラメータ t により f = t−m f , f ∈ OP (V )× と表される. 従って f OP (V ) = t−m f OP (V ) = t−m OP (V ) ⊇ OP (V ) より f OP (V ) + OP (V ) t−m OP (V ) dimk = dimk =m OP (V ) OP (V ) となるので, f OP (V ) ≺ OP (V ) を得る. 補題 5.19 と定理 1.20 より, 任意の k 線型な射影 π : k(V ) → OP (V ) と任意の f, g ∈ k(V ) に対して [πf, g] は k(V ) の k 線型変換としてべき有限次である. また a, b ∈ k に対して Trk(V ) [π(af ), g] = aTrk(V ) [πf, g], Trk(V ) [πf, bg] = bTrk(V ) [πf, g] は明らかであるが, さらに次の補題が成り立ち, Trk(V ) [πf, g] は f, g に関して双線型と なる. 補題 5.20 任意の k 線型な射影 π : k(V ) → OP (V ) と任意の f, f , g, g ∈ k(V ) に対 して次が成り立つ. (1) Trk(V ) [πf, g + g ] = Trk(V ) [πf, g] + Trk(V ) [πf, g ] (2) Trk(V ) [π(f + f ), g] = Trk(V ) [πf, g] + Trk(V ) [πf , g] Proof (1) 補題 5.19 より, 補題 1.19 の仮定を満たすので, π = π として f, f , g, g を適当に選べば, k 線型部分空間 [πf, g]2 (k(V )), [πf, g][πf, g ](k(V )), [πf, g ][πf, g](k(V )), [πf, g ]2 (k(V )) がすべて有限次であることがわかる. 従って ϕ1 = [πf, g], ϕ2 = [πf, g ] とおけ ば, 定理 1.12 の仮定を満たすので Trk(V ) [πf, g + g ] = Trk(V ) ([πf, g] + [πf, g ]) = Trk(V ) [πf, g] + Trk(V ) [πf, g ] が得られる. (2) についても同様である. 5. Riemann-Roch の定理 136 補題 5.21 点 P , および k 線型な射影 π : k(V ) → OP (V ) に対して次が成り立つ. た だし t は点 P での局所パラメータ, m, n は整数である. n, m + n = 0 Trk(V ) [πtm , tn ] = 0, m + n = 0 Proof 定理 1.20 より Trk(V ) [πtm , tn ] は射影 π の選び方によらないから, π と して π(ppt (f )) = 0 (∀f ) を満たすものを選んでおく. m + n + r ≥ 0 かつ m + r ≥ 0 となる整数 r, および m + n + r < 0 かつ m + r < 0 となる整数 r を選び U = {f ∈ k(V ) | ordP (f ) ≥ r}, U = {tj ∈ k(V ) | j ≤ r } とおくと, 明らかに U , U は [πtm , tn ] の核に含まれる. 従って適当な整数 s, s を選べば [πtm , tn ](k(V )) = [πtm , tn ](tj ) | r < j < r ⊆ ts , ts+1 , ..., ts が成り立つ. ただし ts , ts+1 , ..., ts は ts , .., ts で生成される k 線型空間である. W = ts , ts+1 , ..., ts とおくと [πtm , tn ](k(V )) ⊆ W であるから Trk(V ) [πtm , tn ] = TrW [πtm , tn ] となる. ここで [πtm , tn ](ts ) .. = . [πtm , tn ](ts ) ass ts . .. . . . . . . as s ts ass . . . .. .. . . as s と行列表示すると TrW [πtm , tn ] = s j=s (aij ∈ k) ajj である. さて [πtm , tn ](tj ) = πtm tn tj − tn πtm tj = πtm+n+j − tn πtm+j は 0 または ±tm+n+j であるから, = m + n + j のとき aj = 0 である. 従っ て m + n = 0 ならば j = m + n + j より, 任意の j に対して ajj = 0 となる ので TrW [πtm , tn ] = 0 が得られる. 次に m + n = 0 とする. m = n = 0 のときは [πtm , tn ] = π − π = 0 となる ので TrW [πtm , tn ] = 0 = n が成り立つ. 5. Riemann-Roch の定理 137 m, n = 0, m > n のときは m > 0 だから [πtm , tn ](tj ) = πtj − tn πtm+j 0, j≥0 = −tj , −m ≤ j ≤ −1 0, j < −m となるので TrW [πtm , tn ] = −m = n が成り立つ. m, n = 0, m < n のときは m < 0 だから [πtm , tn ](tj ) = πtj − tn πtm+j 0, j ≥ −m = tj , 0 ≤ j ≤ −m − 1 0, j < 0 となるので TrW [πtm , tn ] = −m = n が成り立つ. 系 5.22 P での局所パラメータ t について次が成り立つ. ResP (tm d(tn )) = Trk(V ) [πtm , tn ] Proof tm d(tn ) = tm (ntn−1 dt) = ntm+n−1 dt であるから n, m + n = 0 m n ResP (t d(t )) = 0, m + n = 0 となる. 従って補題 5.21 より ResP (tm d(tn )) = Trk(V ) [πtm , tn ] が成り立つ. 補題 5.23 f, g ∈ k(V ), 点 P , および k 線型な射影 π : k(V ) → OP (V ) に対して次が 成り立つ. 特にいずれの場合も Trk(V ) [πf, g] = 0 となる. (1) f, g ∈ OP (V ) ならば [πf, g]2 = 0 である. (2) ordP (f ) = −n ≤ 0 かつ ordP (g) ≥ 2n ならば [πf, g]3 = 0 である. (3) ordP (g) = −n ≤ 0 かつ ordP (f ) ≥ 2n ならば [πf, g]2 = 0 である. Proof (1) f, g ∈ OP (V ) より [πf, g](k(V )) ⊆ OP (V ) となるから, h ∈ OP (V ) ⇒ [πf, g](h) = πf g(h) − gπf (h) = f gh − gf h = 0 5. Riemann-Roch の定理 138 が成り立つことに注意すれば [πf, g]2 (k(V )) ⊆ [πf, g](OP (V )) = 0 となり, [πf, g]2 = 0 が得られる. (2) g ∈ OP (V ) より [πf, g](k(V )) ⊆ OP (V ) である. ordP (f g) ≥ n である から h ∈ OP (V ) ⇒ [πf, g](h) = πf g(h) − gπf (h) ∈ tn OP (V ) が成り立つ. 従って [πf, g]2 (k(V )) ⊆ [πf, g](OP (V )) ⊆ tn OP (V ) を得る. h ∈ tn OP (V ) とすると f (h ) ∈ OP (V ) であるから [πf, g](h ) = πf g(h ) − gπf (h ) = f g(h ) − gf (h ) = 0 となる. ゆえに [πf, g]3 (k(V )) ⊆ [πf, g]2 (OP (V )) ⊆ [πf, g](tn OP (V )) = 0 が成り立つので [πf, g]3 = 0 を得る. (3) この場合も上と同様に [πf, g](k(V )) ⊆ t−n OP (V ) となり, h ∈ t−n OP (V ) ⇒ [πf, g](h) = πf g(h) − gπf (h) = f gh − gf h = 0 が得られ [πf, g]2 (k(V )) ⊆ [πf, g](t−n OP (V )) = 0 となるので, [πf, g]2 = 0 が成り立つ. 補題 5.24 f, g ∈ k(V ) と点 P が次のいずれかの条件を満たせば ResP (f dg) = 0 が成 り立つ. (1) f, g ∈ OP (V ) (2) ordP (f ) = −n < 0 かつ ordP (g) ≥ n + 1 (3) ordP (g) = −n < 0 かつ ordP (f ) ≥ n + 1 5. Riemann-Roch の定理 139 Proof f dg ∈ Ω(OP (V )) のとき定理 5.15 より ResP (f dg) = 0 が成り立つの で, いずれの場合も f dg ∈ Ω(OP (V )) であることを示せばよい. 以下 t は点 P での局所パラメータとする. (1) f, g ∈ OP (V ) のときは明らかに f dg ∈ Ω(OP (V )) が成り立つ. (2) ordP (g) ≥ n + 1 より g = tn+1 g (g ∈ OP (V )) と表される. 従って dg = d(tn+1 ) g + tn+1 dg = (n + 1)tn g dt + tn+1 dg となるが, dg = g dt (g ∈ OP (V )) と表されるので, tn f ∈ OP (V ) に注意す れば f dg = (n + 1)tn f g dt + tn+1 f g dt = (n + 1)tn f g + tn+1 f g dt ∈ Ω(OP (V )) が成り立つ. (3) ordP (g) = −n より g = t−n g (g ∈ OP (V )) と表される. 従って dg = d(t−n ) g + t−n dg = (−n)t−n−1 g dt + t−n dg となるが, dg = g dt (g ∈ OP (V )) と表されるので, t−n f, t−n−1 f ∈ OP (V ) に注意すれば f dg = (−n)t−n−1 f g dt+t−n f g dt = (−n)t−n−1 f g + t−n f g dt ∈ Ω(OP (V )) が成り立つ. 定理 5.25 f, g ∈ k(V ) と点 P , および k 線型な射影 π : k(V ) → OP (V ) に対して次が 成り立つ. ResP (f dg) = Trk(V ) ([πf, g]) Proof f = 0 または g = 0 ならば明らかに成り立つので, 以下 f = 0 かつ g = 0 とする. ordP (f ) = −n とおく. 整数 のときは を n ≤ 0 のときは = 0, n > 0 = 2n と定め, gj tj + g1 = g0 + g1 , g= j< gj tj , g1 ∈ t OP (V ) g0 = j< 5. Riemann-Roch の定理 140 とおく. 補題 5.23, 補題 5.24 より Trk(V ) [πf, g1 ] = ResP (f dg1 ) = 0 となるので, 補題 5.20 を適用すると Trk(V ) [πf, g] = Trk(V ) [πf, g0 +g1 ] = Trk(V ) [πf, g0 ]+Trk(V ) [πf, g1 ] = Trk(V ) [πf, g0 ] が成り立つ. 一方 ResP (f dg) = ResP (f d(g0 + g1 )) = ResP (f dg0 ) + ResP (f dg1 ) = ResP (f dg0 ) であるので Trk(V ) [πf, g0 ] = ResP (f dg0 ) を示せばよい. g0 = 0 ならば明らかに成り立つので g0 = 0 として, ordP (g0 ) = −m とおく. ここで整数 を m ≤ 0 のときは = 0, m > 0 のときは = 2m と定め, fj tj + f1 , f= j< fj tj , f1 ∈ t OP (V ) f0 = j< とおく. このとき補題 5.23, 補題 5.24 より Trk(V ) [πf1 , g0 ] = ResP (f1 dg0 ) = 0 となるので, Trk(V ) [πf, g0 ] = Trk(V ) [π(f0 +f1 ), g0 ] = Trk(V ) [πf0 , g0 ]+Trk(V ) [πf1 , g0 ] = Trk(V ) [πf0 , g0 ] および ResP (f dg0 ) = ResP ((f0 + f1 )dg0 ) = ResP (f0 dg0 ) + ResP (f1 dg0 ) = ResP (f0 dg0 ) が成り立つ. f0 , g0 は有限個の ti , tj の k 係数1次結合であるから系 5.22 を 5. Riemann-Roch の定理 141 適用して fi t i d ResP (f dg) = ResP (f dg0 ) = ResP (f0 dg0 ) = ResP gj tj j< i< fi gj Trk(V ) [πti , tj ] fi gj ResP (ti d(tj )) = = i< j< i< j< fi ti = Trk(V ) π gj tj = Trk(V ) [πf0 , g0 ] , j< i< = Trk(V ) [πf, g0 ] = Trk(V ) [πf, g] が導かれる. 定理 5.26 (留数定理) V 上の有理微分 ω に対して次が成り立つ. ResP (ω) = 0 P ∈V Proof ω = 0 ならば明らかに成り立つので, 以下 ω = 0 とする. このとき適 当な f, g ∈ k(V )× により ω = f dg と表される. f, g の零点と極からなる有限 集合を S, A0 = k(V ), A1 = P ∈S B0 = k(V ), A = A0 ⊕ A1 = P ∈V −S OP (V ), B1 = P ∈S k(V ), P ∈V OP (V ), B = B0 ⊕ B1 = P ∈V −S OP (V ), P ∈V とおく. A が AV を含むこと, および B = AV (0) であることを注意してお く. V の各点 P における射影 πP : k(V ) → OP (V ) をそれぞれ1つ選び, A の k 線型変換 π0 , π1 , π を π0 = πP , P ∈S π1 = πP , P ∈V −S π = π0 + π1 = πP P ∈V と定める. π は B への1つの射影である. 以下, f, g を k(V ) 上の線型空間 A の k 線型変換と見なし, 次の (イ)∼(ハ) の ステップに分けて証明することにする. なお π, f , g, および [πf, g] が A の P 成分を不変にすることに留意されたい. 5. Riemann-Roch の定理 142 (イ) [πf, g] はべき有限次で P ∈V ResP (ω) = TrAV [πf, g] が成り立つ. (ロ) TrAV [πf, g] + TrAV [πk(V ) f, g] = TrAV [πB+k(V ) f, g] + TrAV [πk f, g] が成り 立つ. (ハ) TrAV [πk(V ) f, g] = TrAV [πk f, g] = TrAV [πB+k(V ) f, g] = 0 が成り立つ. (イ)∼(ハ) から (イ) の証明: P ∈V ResP (ω) = 0 が導かれることは明白である. P ∈ V − S のとき f, g ∈ OP (V ) であるから, 補題 5.24 より ResP (ω) = ResP (f dg) = 0 となる. 従って ResP (ω) = P ∈V ResP (ω) P ∈S が成り立つので留数の総和は有限和である. 一方, P ∈ V − S のとき補題 5.23 より [πP f, g]2 = 0 であり, [πf, g] が A の元の P 成分に [πP f, g] として作用 することから [π1 f, g]2 = 0 が成り立つ. 一方 f (B) + B = f OP (V ) + P ∈V OP (V ) = P ∈V (f OP (V ) + OP (V )) P ∈V であるが, P ∈ V − S のとき f ∈ OP (V ) であるから f OP (V ) + OP (V ) OP (V ) = =0 OP (V ) OP (V ) となり, また P ∈ S のときは補題 5.19 より dimk f OP (V ) + OP (V ) <∞ OP (V ) が成り立つ. 従って S が有限集合であるから f (B) + B = B P ∈V (f OP (V ) + OP (V )) f OP (V ) + OP (V ) = OP (V ) P ∈V OP (V ) P ∈V は有限次である. 以上で f (B) ≺ B (5.3) が示された. g(B) ≺ B も同様であるから, 定理 1.20 より [πf, g] はべき有限 5. Riemann-Roch の定理 143 次である. ここで B + g(B) の元の V − S 成分が OP (V ) の元であることから [πf, g](A) ⊆ B + g(B) ⊆ AV が成り立つ. AV は π, f , g により不変であるから [πf, g] 不変であり TrA [πf, g] = TrAV [πf, g] が成り立つ. 一方 [πf, g] = [π0 f, g] + [π1 f, g], [πf, g]|A1 = [π1 f, g], [π1 f, g]2 = 0 であるから [πf, g]2 (A) = [π0 f, g]2 (A0 ) ⊆ A0 が成り立つ. これと [π1 f, g] が A0 に 0 変換として作用することから TrA [πf, g] = TrA0 [πf, g] = TrA0 [π0 f, g] となるが, A の点 P に対応する直積因子を AP とおいて定理 5.25 を適用す ると TrA0 [π0 f, g] = TrAP [πP f, g] = P ∈S ResP (ω) P ∈S が得られる. よって TrAV [πf, g] = TrA [πf, g] = TrA0 [π0 f, g] = ResP (ω) = P ∈S ResP (ω) P ∈V となり, (イ) が証明された. (ロ) の証明: B ∩ k(V ) = k に注意して, 次のように直和分解する. B = B ⊕ k, k(V ) = k ⊕ k(V ) , AV = B ⊕ k ⊕ k(V ) ⊕ C ここで AV の直和分解 AV = B ⊕ k ⊕ k(V ) ⊕ C = B ⊕ (k(V ) ⊕ C) (5.4) から得られる射影 AV → B を改めて π と表す. 定理 1.20 より, TrAV [πf, g] 5. Riemann-Roch の定理 144 の値は不変である. 同様に上の直和分解から射影 πk(V ) : AV → k(V ), πB+k(V ) : AV → B + k(V ), πk : AV → k が得られ, 次の等式を満たす. π + πk(V ) = πB+k(V ) + πk (5.5) さて, [πf, g](AV ) ⊆ B + g(B) と補題 1.19 より dimk [πf, g](B + g(B)) < ∞, dimk [πf, g]2 (AV ) < ∞ が成り立つ. また [πk(V ) f, g](AV ) ⊆ k(V ), [πk(V ) f, g](k(V )) = 0, [πk(V ) f, g]2 (AV ) = 0 (5.6) も成り立つ. さらに π(k(V )) = k に注意すれば h ∈ k(V ) に対して [πf, g](h) = π(f gh) − gπ(f h) ∈ k + gk となるので dimk [πf, g](k(V )) ≤ 2 となり dimk [πf, g][πk(V ) f, g](AV ) < ∞ が得られる. ここで θ1 = [πf, g], θ2 = [πk(V ) f, g] とおくと, 上述のことから dimk θ12 (AV ) < ∞, dimk θ1 θ2 (AV ) < ∞, dimk θ22 (AV ) < ∞ が成り立つ. 従って 1, 2 の任意の重複順列 i1 , i2 , i3 に対して dimk θi1 θi2 θi3 (AV ) < ∞ となるので, 定理 1.12 が適用できて, θ1 , θ2 , θ1 + θ2 はべき有限次で, TrAV (θ1 + θ2 ) = TrAV (θ1 ) + TrAV (θ2 ) 5. Riemann-Roch の定理 145 が成り立つ. ゆえに TrAV [(π + πk(V ) )f, g] = TrAV [πf, g] + [πk(V ) f, g] = TrAV [πf, g] + TrAV [πk(V ) f, g] (5.7) を得る. 次に等式 TrAV [(πB+k(V ) + πk )f, g] = TrAV [πB+k(V ) f, g] + [πk f, g] = TrAV [πB+k(V ) f, g] + TrAV [πk f, g] (5.8) を示す. 式 (5.5) より π + πk(V ) = πB+k(V ) + πk となるので, 式 (5.7) と式 (5.8) を合わせれば (ロ) が導かれる. [πk f, g] については [πk f, g](AV ) ⊆ k + gk, dimk [πk f, g](AV ) < ∞ (5.9) が成り立つ. また f = 0 より f k(V ) = k(V ) となることに注意すれば f (B) + B + k(V ) f (B + k(V )) + B + k(V ) = B + k(V ) B + k(V ) f (B) f (B) ∩ (B + k(V )) を得るが, 最終項が f (B)/(f (B) ∩ B) の剰余空間であることと, 式 (5.3) より f (B + k(V )) ≺ B + k(V ) が得られる. g についても同様に g(B + k(V )) ≺ B + k(V ) が得られるので, 定理 1.20 より [πB+k(V ) f, g] はべき有限次, かつ dimk [πB+k(V ) f, g]2 (AV ) < ∞ が成り立つ. ここで θ3 = [πB+k(V ) f, g], θ4 = [πk f, g] とおくと, 上述のこと から dimk θ32 (AV ) < ∞, dimk θ4 (AV ) < ∞, が成り立つ. 従って 3, 4 の任意の重複順列 i1 , i2 に対して dimk θi1 θi2 (AV ) < ∞ が成り立ち, 定理 1.12 を適用すると, θ3 , θ4 , θ3 + θ4 はべき有限次で, TrAV (θ3 + θ4 ) = TrAV (θ3 ) + TrAV (θ4 ) 5. Riemann-Roch の定理 146 が成り立つ. これより式 (5.8) が導かれる. 以上で (ロ) が証明された. (ハ) の証明: 式 (5.6) より TrAV [πk(V ) f, g] = 0 が得られる. また式 (5.9) よ り TrAV [πk f, g] = Trk+gk [πk f, g] となる. ここで g ∈ k とすると [πk f, g](AV ) ⊆ k であり, πk が k 線型変換であることに注意すれば, 任意の a ∈ K に対して [πk f, g](a) = πk f g(a) − gπk f (a) = gπk f a − gπk f a = 0 となる. ゆえに, [πk f, g]2 = 0 となるので TrAV [πk f, g] = 0 が成り立つ. g ∈ k のときは 1, g は k + gk の基であり, これに関して [πk f, g] を行列表示すると [πk f, g](1) [πk f, g](g) = πk (f g), −πk (f ) 1 πk (f g 2 ), −πk (f g) g となるので TrAV [πk f, g] = 0 が得られる. 最後に TrAV [πB+k(V ) f, g] について, B = AV (0) より AV = (B + k(V )) ⊕ C = (AV (0) + k(V )) ⊕ C となるが, 定理 5.4 より dimk C = dimk AV = i(0) = g AV (0) + k(V ) (g は V の種数) となるので C は有限次である. 式 (5.4) の直和分解から得られる C への射影 を πC , AV の恒等変換を I とおくと πB+k(V ) + πC = I であることから 0 = [f, g] = [I · f, g] = [(πB+k(V ) + πC )f, g] = [πB+k(V ) f, g] + [πC f, g] より [πB+k(V ) f, g] = −[πC f, g] が得られる. 従って TrAV [πC f, g] = 0 を示せ ば, TrAV [πB+k(V ) f, g] = 0 が得られる. C が有限次であることから πC f (AV ) は有限次である. 従って ϕ = πC f , ψ = g とおくと ϕ(AV ) ≺ B, ϕ(B) ∼ 0, ψ(B) = g(B) ≺ B が成り立つ. よって定理 1.17 が適用できるので, TrAV [πC f, g] = TrAV [ϕ, ψ] = 0 が成り立つ. 以上で (ハ) が証明されたので, 定理の証明が完成した. 5. Riemann-Roch の定理 5.4 147 Riemann-Roch の定理 以下 V は非特異射影曲線を表すものとする. k 線型空間 AV /k(V ) の双対空間 を (AV /k(V ))∗ とおき JV := {α ∈ (AV /k(V ))∗ | ある因子 D が存在して α(AV (D)) = 0} と定める. なお誤解のおそれがない限り, AV (D) mod k(V ) を AV (D) と同一視する. α, β ∈ JV のとき因子 D = nP P , D = nP P が存在して α(AV (D)) = 0, となるので, mP = min{nP , nP }, D = β(AV (D )) = 0 mP P とすると D は因子で AV (D) ∩ AV (D ) = AV (D ) ⊆ Ker(α + β) が成り立つ. 従って α + β ∈ JV を得る. また c ∈ k のとき明らかに cα(AV (D)) = 0 とな るので cα ∈ JV も成り立つ. よって次の定理が得られる. 定理 5.27 JV は (AV /k(V ))∗ の部分空間である. ω を有理微分, (fP ) ∈ AV とする. このとき有限個の点 P を除いて fP ∈ OP (V ) であり, 定理 5.13 より有限個の点 P を除いて ordP (ω) ≥ 0 であるから, 有限個の点 P を除いて ResP (fP ω) = 0 となる. 従って δV (ω) : AV P ResP (fP ω) は有限和である. ここで (fP ) −→ ResP (fP ω) ∈ k P とおくと, δV (ω) は定理 5.14 より k 線型写像である. また留数定理 (定理 5.26) より (f ) ∈ k(V ) のとき δV (ω) ((f )) = ResP (f ω) = 0 P となるので k(V ) ⊆ Ker(δV (ω)) が成り立つ. ゆえに δV (ω) ∈ (AV /k(V ))∗ と見なすこと ができる. ω = 0 とすると, V の各点 P での局所パラメータ tP により ω = gp dtP (gP ∈ k(V ), gP = 0) 5. Riemann-Roch の定理 148 と表される. ordP (gP ) = nP とおき, 点 Q を1つ選び固定し, aP ∈ k(V ) を tQ −nQ −1 , P = Q のとき aP = t |nP | , P = Q のとき P と定めると (aP ) ∈ AV であり, δV (ω) ((aP )) = 0 が成り立つ. これより次の定理が得られる. 定理 5.28 (AV /k(V ))∗ の元として δV (ω) = 0 である. 定理 5.29 ω を 0 でない有理微分とすると ordP (ω) = 0 となる点 P は有限個である. Proof 定理 5.13 より ordP (ω) < 0 となる点 P が有限個であるから, ordP (ω) > 0 となる点 P が有限個であることを示せばよい. P が無限に存在したと仮定する. ordP (ω) > 0 となる点 ordP (ω) < 0 となる点 P を, Q1 , ..., Qr , ordQi (ω) = −mi とする. 因子 D0 を deg D0 − (D0 ) + 1 = g を満たすように 選び, ordP (ω) > 0 となる無限個の点 P の中から P1 , ..., Ps を, nj = ordPj (ω) とするとき n1 + n2 + · · · + ns − (m1 + · · · + mr ) ≥ deg D0 + g を満たすように選ぶ. D = n1 P1 + n2 P2 + · · · + ns Ps − (m1 Q1 + · · · + mr Qr ) とおくと, 定理 5.5 より AV = AV (D)+k(V ) が成り立つ. ここで (fP ) ∈ AV (D) のとき, 任意の点 P において ordP (fP ω) ≥ 0 が成り立つので ResP (fP ω) = 0 となる. 従って AV = AV (D) + k(V ) ⊆ Ker (δV (ω)) となり定理 5.28 に矛盾する. 以上で ordP (ω) > 0 となる点 P も有限個である ことが示された. ω を非特異射影曲線 V の 0 でない有理微分とすると, 定理 5.29 より div(ω) := ordP (ω) P P ∈V 5. Riemann-Roch の定理 149 は V 上の因子となる. これを ω の因子という. また因子 D に対して ΩV,ω (D) := {f ∈ k(V )× | div(f ω) + D ≥ 0} ∪ {0} と定義する. ΩV,ω (D) = L(div(ω) + D) であるから ΩV,ω (D) は k(V ) の有限次 k 線型部 分空間である. 定理 5.30 非特異射影曲線 V の 0 でない有理微分 ω, ω に対して, 因子 div(ω), div(ω ) は線型同値である. Proof Ω(k(V )) = k(V )ω であるから ω = f ω となる有理関数 f = 0 が存 在し div(ω ) = div(f ω) = div(f ) + div(ω) が成り立つことから div(ω) ∼ div(ω ) が得られる. 有理微分 ω = 0 に対して線型同値を除いて一意的に定まる因子 div(ω) を標準因子とい い, KV と表す. 定理 5.31 非特異射影曲線 V の 0 でない有理微分 ω と因子 D に対して, k 線型同 型, L(KV + D) ΩV,ω (D) が成り立つ. 特に dimk ΩV,ω (D) は有限で有理微分 ω のと り方によらず定まる. Proof 0 でない有理微分 ω を任意に選ぶ. ω = f ω と表されるので div(ω ) = div(f ) + div(ω) が成り立つ. これより ΩV,ω (D) = L(div(ω ) + D) = L(div(f ω) + D) = L(div(f ) + div(ω) + D) 1 1 = L(div(ω) + D) = ΩV,ω (D) f f となるので L(KV + D) ΩV,ω (D) が成り立つ. dimk ΩV,ω (D) が有限である ことは定理 4.18 より導かれ, ω の選び方によらないことは上述の結果から得 られる. 補題 5.32 δV (ω) ∈ JV である. 5. Riemann-Roch の定理 150 Proof D = div(ω) とおくと (fP ) ∈ AV (D) のとき ordP (fP ω) ≥ 0 がすべて の点 P で成り立つので ResP (fP ω) = 0 P となり δV (ω)(AV (D)) = 0 が得られる. ゆえに δV (ω) ∈ JV である. 定理 5.14 より次の定理が得られる. 定理 5.33 δV : Ω(k(V )) ω → δV (ω) ∈ JV は k 線型写像である. 補題 5.34 f ∈ k(V )× と因子 D に対して f AV (D) = AV (D − div(f )) が成り立つ. Proof D = P DP P とおくと f AV (D) = {(f gP ) ∈ AV | (gP ) ∈ AV (D)} = {(f gP ) ∈ AV | ordP (gP ) + DP ≥ 0} = {(f gP ) ∈ AV | ordP (f gP ) + DP − ordP (f ) ≥ 0} ⊆ {(hP ) ∈ AV | ordP (hP ) + DP − ordP (f ) ≥ 0} = AV (D − div(f )) = {(hP ) ∈ AV | ordP (f −1 hP ) + DP ≥ 0} = {(f · f −1 hP ) ∈ AV | (f −1 hP ) ∈ AV (D)} ⊆ f AV (D) が成り立つ. α ∈ JV , f ∈ k(V ) とし, (fP ) ∈ AV に対して (f α)((fP )) = α((f fP )) と定義する. f = 0 のときは f α = 0 ∈ JV であり, f = 0 のときも α ∈ JV よりある因 子 D に対して α(AV (D)) = 0 となるので (f fP ) ∈ AV (D) のとき α((f fP )) = 0 である. 補題 5.34 より (f fP ) ∈ AV (D) ⇐⇒ (fP ) ∈ f −1 AV (D) ⇐⇒ (fP ) ∈ AV (D + div(f )) となり, f α(AV (D + div(f ))) = 0 が成り立つ. また f α(k(V )) = α(f k(V )) = 0 であるか ら f α ∈ JV を得る. 一方, f, f1 , f2 ∈ k(V ), α, β ∈ JV に対して f (α + β) = f α + f β, (f1 + f2 )α = f1 α + f2 α, (f1 f2 )α = f1 (f2 α) 5. Riemann-Roch の定理 151 は容易に確かめることができるので次の定理が得られる. 定理 5.35 JV は k(V ) 線型空間である. 定理 5.36 δV は k(V ) 線型写像である. Proof 定理 5.33 より δV は k 線型写像であるから f ∈ k(V ), ω ∈ Ω(k(V )) に 対して δV (f ω) = f δV (ω) が成り立つことを示せばよいが (δV (f ω))((fP )) = ResP (fP (f ω)) = P ∈V ResP ((f fP )ω) P ∈V = δV (ω)((f fP )) = (f δV (ω))((fP )) となるので, δV は k(V ) 線型写像である. 定理 5.37 dimk(V ) JV = 1 である. Proof 点 P を任意に選び, Riemann-Roch の定理暫定版 (定理 5.3) で D = −2P とすると (−2P ) − i(−2P ) = (−2) + 1 − g を得る. ただし g は V の種数である. 定理 4.22 より L(−2P ) = 0 であるか ら (−2P ) = 0 となり, i(−2P ) = 2 − 1 + g ≥ 1 より I(−2P ) = AV /(AV (−2P ) + k(V )) = 0 を得る. これより JV ⊇ (AV /(AV (−2P ) + k(V ))∗ = 0 が得られるので, dimk(V ) JV ≥ 1 が成り立つ. 次に dimk(V ) JV ≥ 2 と仮定すると α1 , ..., αd ∈ JV (d ≥ 2) で k(V ) 上 1 次独 立なものが存在する. 因子 Dj が αj (AV (Dj )) = 0 5. Riemann-Roch の定理 152 を満たすとし, D ≤ Dj (j = 1, ..., d) となる因子 D を選ぶと, AV (D) ⊆ AV (Dj ) であるから αj (AV (D)) = 0 (j = 1, ..., d) が成り立つ. ここで整数 n に対して deg D(n) = n を満たす因子 D(n) と f ∈ L(D(n) ) を一つ選ぶと, (gP ) ∈ AV (D − D(n) ) に対して ordP (gP ) ≥ −ordP (D − D(n) ) = −ordP (D) + ordP (D(n) ) であるから ordP (f gP ) = ordP (f ) + ordP (gP ) ≥ −ordP (D(n) ) − ordP (D) + ordP (D(n) ) = −ordP (D) が成り立ち, (f gP ) ∈ AV (D) が得られる. これより (f αj )((gp )) = α((f gP )) = 0 となるので f α(AV (D − D(n) )) = 0 を得る. よって f α ∈ I(D − D(n) )∗ が成り 立つ. これより d ϕ : L(D (n) ) ⊕ · · · ⊕ L(D (n) ) fj αj ∈ I(D − D(n) )∗ (f1 , ..., fd ) −→ j=1 d個 とおくと ϕ は k 線型写像であり, α1 , ..., αd が k(V ) 上 1 次独立であることか ら単射である. ゆえに dimk I(D − D(n) )∗ ≥ dimk (⊕j L(D(n) )) より i(D − D(n) ) ≥ d (D(n) ) が得られ, Riemann の定理 (定理 4.25) より, (D(n) ) ≥ deg D(n) + 1 − g = n + 1 − g となるので i(D − D(n) ) ≥ d(n + 1 − g) (5.10) 5. Riemann-Roch の定理 153 が成り立つ. 一方, Riemann-Roch の定理暫定版 (定理 5.3) より i(D − D(n) ) = (D − D(n) ) − deg(D − D(n) ) − 1 + g が成り立つ. ここで整数 n を n > deg D を満たすように選ぶと deg(D − D(n) ) = deg D − n < 0 であるから, 定理 4.22 より (D − D(n) ) = 0 となるので i(D − D(n) ) = n + g − 1 − deg D が成り立つ. よって (5.10) とあわせて n + g − 1 − deg D ≥ d(n + 1 − g) (5.11) が得られる. 一方, d ≥ 2 であるから n を n > deg D, かつ n> (d + 1)(g − 1) − deg D d−1 を満たすように選ぶことができるが d(n + 1 − g) − (n + g − 1 − deg D) = n(d − 1) − (d + 1)(g − 1) + deg D > 0 となり, (5.11) に矛盾が生じる. よって dimk JV = 1 が成り立つ. 以下, 因子 D と有理微分 ω = 0 に対して ΩV (D) = {f ω | f ∈ ΩV,ω (D)} = {ω ∈ Ω(k(V )) | div(ω ) + D ≥ 0} ∪ {0} とおくことにする. このとき ΩV (D) fw k 線型同型 −−−−−−→ f ∈ ΩV,ω (D) が成り立つことを注意しておく. さて ω ∈ ΩV (−D) のとき D = (5.12) P (fP ) ∈ AV (D) に対して ordP (fP ω) = ordP (fP ) + ordP (div(ω)) = ordP (fP ) + DP + ordP (div(ω)) − DP ≥ 0 DP P とおくと, 5. Riemann-Roch の定理 154 となるので δV (ω)((fP )) = ResP (fP ω) = 0 P が成り立つ. 従って δV (ω)(AV (D)) = 0 となるので, δV (ω) を I(D)∗ の元と見なすこと ができる. 以下 δV の定義域を ΩV (−D) に制限したものを δV (D) と表す. δV (D) : ΩV (−D) ω −→ δV (D)(ω) ∈ I(D)∗ (5.13) は定理 5.33 より k 線型写像である. 補題 5.38 JV = D∈Div(V ) I(D)∗ が成り立つ. Proof I(D)∗ は AV (D) + k(V ) を核に含む (AV /k(V ))∗ の元からなるので JV ⊇ D∈Div(V ) I(D)∗ が成り立つ. また JV の各元はある AV (D) + k(V ) を 核に含むので, いずれかの I(D)∗ に含まれる. 従って JV ⊆ D∈Div(V ) I(D)∗ も成り立つ. 補題 5.39 D を因子, ω を有理微分とする. 任意の (fP ) ∈ AV (D) に対して δV (ω)((fP )) = 0 ならば ω ∈ ΩV (−D) が成り立つ. Proof ω = 0 ならば明らかに成り立つので, 以下, ω = 0 とする. ω ∈ ΩV (−D) と仮定するとある点 P に対して ordP (ω) < ordP (D) となる. P での局所パ ラメータを tP として, (fQ ) ∈ AV を −ordP (ω)−1 fQ = tP , Q=P 0, Q=P とおくと ordP (fP ) = −ordP (ω) − 1 > −ordP (D) − 1 より ordP (fP ) ≥ −ordP (D) が成り立つ. また Q = P のときは ordQ (fQ ) = ∞ より ordQ (fQ ) ≥ −ordQ (D) となるので (fQ ) ∈ AV (D) である. 一方 ordP (fP ω) = ordP (fP ) + ordP (ω) = (−ordP (ω) − 1) + ordP (ω) = −1 5. Riemann-Roch の定理 155 より ResP (fP ω) = 0 であり, Q = P に対しては ResQ (fQ ω) = ResQ (0) = 0 であるから ResQ (fQ ω) = ResP (fP ω) + Q∈V ResQ (fQ ω) = ResP (fP ω) = 0 Q=P が得られ, 矛盾が生じる. よって ω ∈ ΩV (−D) が示された. 補題 5.39 と (5.13) より次の系が得られる. 系 5.40 δV−1 (I(D)∗ ) = ΩV (−D) が成り立つ. 定理 5.41 (双対定理) k(V ) 線型写像 δV : Ω(k(V )) → JV は k(V ) 線型同型であり, k 線型写像 δV (D) : ΩV (−D) → I(D)∗ は k 線型同型である. Proof 定理 5.11 および定理 5.37 より Ω(k(V )), JV はともに 1 次元 k(V ) 線型 空間であるから k(V ) 線型写像 δV : Ω(k(V )) → JV は 0 写像であるか k(V ) 線 型同型である. 定理 5.28 より δV = 0 であるから δV は k(V ) 線型同型である. また δV (D) = δV |ΩV (−D) であるから系 5.40 より δV (D) : ΩV (−D) → I(D)∗ は k 線型同型である. 定理 5.42 g = dimk ΩV (0) が成り立つ. ただし g は V の種数である. Proof 双対定理より ΩV (0) I(0)∗ (k 線型同型) となるから, 定理 5.4 の結果 とあわせると dimk ΩV (0) = dimk I(0)∗ = dimk I(0) = i(0) = g が得られる. 以上で Riemann-Roch の定理を証明する準備が整った. 定理 5.43 (Riemann-Roch の定理) 任意の因子 D に対して次の等式が成り立つ. た だし KV は標準因子, g は V の種数である. (D) − (KV − D) = deg D + 1 − g 5. Riemann-Roch の定理 156 Proof 定理 5.31 より (KV − D) = dimk ΩV,ω (−D) = dimk ΩV (−D) であり, また双対定理より dimk ΩV (−D) = dimk I(D)∗ = i(D) が成り立つので i(D) = (KV − D) となる. これと Riemann-Roch の定理暫定版 (D) − i(D) = deg D + 1 − g より求める等式が得られる. 最後に Riemann-Roch の定理から2つの定理を導いておく. 定理 5.44 0 でない有理微分 ω ∈ Ω(k(V )) に対して deg (div(ω)) = 2g − 2 が成り立つ. Proof Riemann-Roch の定理において D = KV = div(ω) とすると (KV ) − (0) = deg KV + 1 − g が得られる. 一方, 定理 5.31 で D = 0 とし, 定理 5.42 を適用すると (KV ) = dimk ΩV,ω (0) = dimk ΩV (0) = g を得る. i(0) = g であるから g − 1 = deg (div(ω)) + 1 − g が成り立ち, 求める等式が得られる. 定理 5.45 因子 D が deg D ≥ 2g − 1 を満たすとき (D) = deg D + 1 − g が成り立つ. Proof deg D ≥ 2g − 1 より, 定理 5.44 を適用すると deg (KV − D) = deg (div(ω)) − deg D ≤ (2g − 2) − (2g − 1) < 0 5. Riemann-Roch の定理 157 が成り立つ. 従って定理 4.22 より (KV − D) = 0 となるので, Riemann-Roch の定理より (D) = deg D + 1 − g が導かれる. 付録 A Krull の標高定理の証明 ここでは §2.7 で用いた定理 2.37 と定理 2.38 (Krull の標高定理) を証明する. 補題 A.1 R は k 上有限生成な整域, f ∈ R は 0 でも可逆でもない元で, (f ) が素 イデアル F に一致したとする. このとき次が成り立つ. tr.degk R/F = tr.degk R − 1 Proof ネーターの正規化定理 ([5, 定理 30.5], [2, 定理 ).1.12]) より k 上代数的 独立な元 x1 , ..., xr が存在して R が有限生成 k[x1 , ..., xr ] 加群となるようにで きる. R0 = k[x1 , ..., xr ] とおき, K, K0 をそれぞれ R, R0 の分数体で K ⊇ K0 なるものとする. K は K0 の代数拡大であるから tr.degk K = tr.degk K0 = r である. 一方 f は R0 上整であるから, ある R0 係数モニック多項式 G の根 となる. R0 は素元分解整域であるから G はモニック既約多項式の積に分解 でき, その中のひとつは f を根に持つ. それを改めて G とおく. G は原始的 であるから K0 係数多項式として既約 ([5, p.61, 補題 2], [2, 系 A.3.12]), 従っ て f の K0 上の最小多項式となる. G(Y ) = Y m + a1 Y m−1 + · · · + am とおくと, K を K0 線型空間と見なしたときの f による線型変換の行列式 NK/K0 (f ) は ±adm と表される. 一方 G(f ) = 0 より am = −f (f m−1 + a1 f m−2 + · · · + am−1 ) となる. ここで R0 のイデアルとして (am ) = R0 ∩ (A.1) (f ) が成り立つことを 示そう. u∈ (am ) とすると ut ∈ (am ) となるが (A.1) より ut ∈ (f ) とな る. 従って u ∈ R0 ∩ (f ) が得られる. 逆に u ∈ R0 ∩ 158 (f ) と仮定 A. Krull の標高定理の証明 159 すると, us = f g, g ∈ R と表され NK/K0 (us ) = NK/K0 (f g) = NK/K0 (f ) NK/K0 (g) = ±adm NK/K0 (g) となるが f の場合と同様に NK/K0 (g) ∈ R0 が成り立ち NK/K0 (us ) = (us )dimK0 K となるので (us )dimK0 示された. 以上から さて (am ) = R0 ∩ K ∈ (am ) が得られる. ゆえに u ∈ (am ) = R0 ∩ (am ) が (f ) が成り立つ. (f ) は R0 の素イデアルであるから, ある既約多項式 f0 ∈ R0 を含み, am が f0 のべきに同伴となることから (am ) = R0 ∩ (f ) = (f0 ) が成り立つ. 従って定理 2.34 より tr.degk R0 /(f0 ) = r − 1 = tr.degk R − 1 となるが, R が R0 上整であるから tr.degk R0 /(f0 ) = tr.degk R/ (f ) = tr.degk R/F となり, tr.degk R/F = tr.degk R − 1 が得られる. 定理 A.2 (単項イデアル定理) R は k 上有限生成な整域, f ∈ R は 0 でも可逆でもな い元で, (f ) = F1 ∩ · · · ∩ Fn と表されているとする. ただし, Fi は R の素イデアル で i = j のとき Fi ⊆ Fj であるとする. このとき, 任意の i について次が成り立つ. tr.degk (R/Fi ) = tr.degk R − 1 Proof n = 1 のときは補題 A.1 に帰着するので n ≥ 2 として F1 について示 す. F2 ,...,Fn についても同様である. g ∈ F2 ∩ · · · ∩ Fn − F1 を選ぶと, 積閉集合 {g m }m=1,2,.. による局所化 Rg は R の分数体の部分整域 R[ g1 ] に一致するので, k 上有限生成な整域である. ここで f Rg = (f ) g = (F1 ∩ · · · ∩ Fn )g = (F1 )g ∩ · · · ∩ (Fn )g = (F1 )g A. Krull の標高定理の証明 160 が成り立つことから, 補題 A.1 を適用すれば tr.degk Rg /(F1 )g = tr.degk Rg − 1 = tr.degk R − 1 を得る. 一方 R/F1 の分数体と Rg /(F1 )g の分数体は一致するので tr.degk Rg /(F1 )g = tr.degk R/F1 に注意すれば tr.degk R/F1 = tr.degk R − 1 が成り立つ. 次式で定まる値をアフィン閉部分多様体 V のクルル次元という. max{r | ∅ Z1 ··· Zr V, Zi は閉部分多様体 } p.50 で定めたように V に含まれる閉部分多様体 Z に対して, その余次元 codimV Z が次 式で定まる. codimV Z = max {r | Z = Z1 ··· Zr V, Zi は閉部分多様体 } これより V のクルル次元は V に含まれる閉部分多様体の余次元の中の最大値に一致す るので次式が成り立つ. (V のクルル次元) = max {codimV Z | Z は V に含まれる閉部分多様体 } 定理 A.3 アフィン閉部分多様体 V に真に含まれる閉部分多様体 Z の次元は dim V −1 以下である. 特に Z が極大ならば dim Z = dim V − 1 が成り立つ. Proof 0 でない元 f ∈ IV (Z) を選ぶ. f は 0 でも可逆でもない. Z は VV (f ) のある既約成分 Z に含まれるので定理 A.2 より dim Z ≤ dim Z = dim V − 1 が成り立つ. 特に Z が極大ならば Z = Z となるので dim Z = dim V − 1 が 成り立つ. 定理 A.4 アフィン閉部分多様体 V の次元はクルル次元と一致する. A. Krull の標高定理の証明 161 Proof 任意の閉部分多様体の列 ∅ Z1 ··· Zr V に対して定理 A.3 より dim Z1 ≤ dim Z2 − 1, dim Z2 ≤ dim Z3 − 1, ...., dim Zr ≤ dim V − 1 が成り立つので dim Z1 + r ≤ dim V を得る. これより V のクルル次元は dim V 以下である. 逆に dim V = n とする. n = 0 ならば明らかに成り立つ. n ≥ 1 とすると 0 でも可逆でもない元 f ∈ O(V ) が存在するので VV (f ) の既 約成分 Z1 が存在し dim Z1 = n − 1 となる. n − 1 ≥ 1 ならば同様にして閉部 分多様体 Z2 ⊆ Z1 で dim Z2 = n − 2 となるものが存在する. 以下同様にして 閉部分多様体の列 ∅ Zn ··· Z1 V が得られるので V のクルル次元は dim V 以上となる. 以上で V のクルル次 元が dim V に一致することが示された. 定理 A.5 閉部分多様体 Z が閉部分多様体 V に含まれるとき次が成り立つ. codimV Z = dim V − dim Z Proof codimV Z = s とすると閉部分多様体の列 Z = Z1 ··· Zs V が存在する. dim Zi < dim Zi+1 − 1 と仮定すると IZi+1 (Zi ) の 0 でない元 f が存在して, 定理 A.2 より VZi+1 (f ) の既約成分で Zi を含むもの Z が dim Z = dim Zi+1 − 1 を満たす. 従って Z = Zi であるが, 閉部分多様体の列 Z = Z1 ··· Zi Z Zi+1 ··· Zs V が得られ codimV Z = s であったことに反する. 従って dim Zi = dim Zi+1 − 1 が成り立つ. これより s = dim V − dim Z が得られる. 定理 A.6 (Krull の標高定理) V ⊆ An (k) を閉部分多様体, f1 , ..., fr ∈ O(V ) とし, VV (f1 , ..., fr ) が空でないとする. このとき VV (f1 , ..., fr ) の既約成分 Z について codimV Z ≤ r が成り立つ. Proof VV (f1 , ..., fr ) が空でないことから fi は可逆でないことを注意してお く. r についての帰納法で示す. r = 1 のとき, f1 = 0 ならば VV (f1 ) の既約 A. Krull の標高定理の証明 162 成分は V のみであるから codimV (V ) = 0 より成り立つ. また f1 = 0 ならば 定理 A.2 より dim Z = dim V − 1 となるので, 定理 A.5 を適用すると codimV Z = dim V − dim Z = 1 となり成り立つ. 次に r − 1 のとき成り立つと仮定して r のとき成り立つことを示す. Z を含む VV (f1 , ..., fr−1 ) の既約成分を Z とする. 帰納法の仮定から codimV Z ≤ r − 1 が成り立つ. また Z は VZ (fr ) の既約成分であるから fr ∈ O(Z ) が 0 でな いときは dim Z = dim Z − 1 となる. これより codimV Z = dim V − dim Z = dim V − (dim Z − 1) ≤ r が得られる. fr が O(Z ) で 0 であるときは VZ (fr ) = Z となるので Z = Z が得られ, codimV Z = codimV Z < r − 1 より, この場合も成り立つ. 以上で r のときも成り立つことが示された. 参考文献 [1] F. オールト, H.J.K. ボス (上野健爾・訳), ポンスレの閉形定理, (数学セミナー 1986 年 5∼8 月号), 日本評論社. [2] 梶原 健, 「代数曲線入門」, 日本評論社, 2004. [3] 佐武一郎, 「線型代数学」, 裳華房, 1958. [4] 永尾 汎, 「代数学」, 朝倉書店, 1983. [5] 松村英之, 「代数学」, 朝倉書店, 1990. 163
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