「秋の里山林の昆虫類・クモ類調査」の記録 - nifty

第1回・いきもの調査会
「秋の里山林の昆虫類・クモ類調査」の記録
【はじめに】
第1回の調査会を 2012年 10月8日に実施し
た。「秋の里山林の昆虫類・クモ類調査」をテーマ
に会員へ参加を呼びかけ、神戸市西区押部谷地区で
昆虫類・クモ類を主とした任意調査を行った。
調査地の大部分は管理放棄された里山林で、林内
は薄暗く林床植生が貧弱なため、昆虫類の出現数は
少なかった。調査の最終地点には小規模ながら棚田
があり、チョウ類、ハナアブ類が畔に咲く花に集ま
り、ナツアカネの姿も見られ、草地に依存する種や
水生昆虫類など、今後の調査が楽しみな場所と思わ
れる。
短時間の調査だったが、兵庫県のレッドデータに
指定されているキンヨウグモ(ランクC)とヒメカ
マキリ(要注目種)の生息を確認できた。その他、
注目される種として、サツマヒメカマキリ、キュウ
シュウクチブトカメムシ、チクシトゲアリなど、県
下での報告例の少ない種を確認することが出来た。
調査地は大規模住宅団地に近接した一見どこにで
もありそうな残存林だが、意外に興味深い生物が生
息していることを窺がわせる調査結果となった。今
後、四季を通じた調査によって、生息種リストの充
実と貴重種などの生息の実態の把握に努めたい。
今回調査で確認されたて昆虫類・クモ類は14目
83科165種となった(別表参照)。
【主な確認種・昆虫類・クモ類】
①チクシトゲアリ
◆調査地の環境と任意採集風景
◆調査地の環境と任意採集風景
②サツマヒメカマキリ
幼虫で越冬し、夏に成虫になる。ヒメカマキリ科に
属し、九州と本州の南西部に生息する。
同科のヒメカマキリとの違いは、サツマヒメカマキ
リの頭部には角状の突起(ユニニコーン)があるが全種
にはない点である。以前の記録では、両種が混同され
ており、サツマヒメカマキリの本州での記録はほとん
どないようだ。調査が進めば、本州でも意外に広範に
分布していることが判明するのかもしれない。
角状の突起
本州から南西諸島、台湾、ジャワ、スマトラなど
に分布する南方系のアリである。
本州では、関東以西の臨海部を中心に記録がある
が、分布は局地的で比較的稀なアリの一種である。
兵庫県では、明石市、神戸市西区などで記録され
ている。
樹上性で枯れ枝や洞に営巣し、幼虫の吐き出す糸
で葉を紡いだ巣を作ることで知られている。
③ヒメカマキリ
体長が25~35mmの小型のカマキリで、緑色型と褐
色型がある。本州、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大
島 に分布する日本固有種種で、兵庫県のレッドデータ
(要注目)に指定されている。
樹上性で、長方形(約5×12mm)の卵鞘を小枝な
どに産み付ける。今回の調査では、コクサギの葉の裏で
卵塊が確認された。
幼虫で越冬する。4月頃に羽化し、5月に産卵する。
次世代成虫は初秋に出現し、産卵の後死滅する多化性の
生活環である。
④キュシュウクチブトカメムシ
和名で判るように九州で初めて発見された種である。
分布は、本州、四国、九州の
ほか、島嶼では奄美大島、八
丈島で記録されている。本州の
記録地は千葉、神奈川、静
岡、和歌山、山口で、兵庫県
では、伊丹市、神戸市須磨区
及び西区に記録があるが、産
地は限定される。温暖な地域
を中心に、近年分布域は拡大
傾向にあるらしい。
シモフリクチブトカメムシ
に良く似ているが、肩(前胸
背の側角)の下に小さな突起
があるのが本種の特徴で、主
に低山地から山地のやや薄暗い照葉樹林に生息し、ヨト
ウガ類などの鱗翅目の幼虫、ハバチ、ハムシ等の幼虫、コ
メツキムシ類やハムシ類などの甲虫類の成虫を捕食す
る。夏季に新成虫が現われ、成虫で越冬する。
⑤ニセヒメクモヘリカメムシ
同属のヒメクモヘリカメムシに
良く似た形態だから、和名に「ニ
セ」を冠している。
両者は頭部の側葉と中葉の長さが
異なり、側葉と中葉がほぼ同じ長
さなのがヒメクモヘリカメムシ。
ニセヒメクモヘリカメムシは頭部
側葉の先端が中葉よりも大きく突
き出している。更に、ヒメクモヘ
リカメムシの腹部腹面の帯状紋は
腹板の第3、4節に届くが、ニセヒメクモヘリカメムシ
では腹部第3節の途中で切れる。
日本のカメムシ類を最も多く掲載している「日本原色
カメムシ図鑑」に載っているのはヒメクモヘリカメムシ
で、これにはニセヒメクモヘリカメムシは記載されてい
ない(最近発行された第3巻には記載されている)。全
国の平地で良く見られるのはニセヒメクモヘリカメムシ
の方だから、この図鑑の絵合わせで同定してしまうとヒ
メクモヘリカメムシと誤認しかねない。
ヒメクモヘリカメムシはより標高の高い環境に生息
し、クマザサやスズタケに寄生する一般にはあまり馴染
みでない種だから、クマザサやスズタケの生育しない低
地で見かけたら、ニセヒメクモヘリカメムシと思って頭
部などの形態を良く観察した方が良いだろう。
⑥キンヨウグモ
幼体は水平円網を張り、
小昆虫を捕えて食べるが、
成体は網を張らず、近くを
通る昆虫を捕らえると思わ
れていたが、最近の研究
で、後期の幼体と成体はタ
テ糸だけからできた特殊な
網を張り、 網に接近した
りその上を歩く双翅類とク
モ類をいきなり引っ掴む様
にして捕らえことが明らか
にされた。
もう一つの面白い習性
は、斑紋が現れたり消えた
りすること。イカと同様
に、色素細胞が収縮拡大し
て体色を変えると見られて
いる。
和名の由来も面白い。ド
ヨウオニグモというクモがいる。この種の名の由来は、
秋の土用の頃に成体になるからである。一方、キンヨウ
グモはこれより少し先んじて成体になる。「土用」を
「土曜」にすり替え、「金曜蜘蛛」と名付けられた。本
種は兵庫県のレッドデータ(ランクC)に指定されてい
る。
【主な確認種・クモ類類】
◆アズマカニグモ
◆トラフカニグモ
◆ハツリグモ
◆マミジロハエトリ
◆デーニッツハエトリ
◆ネコハエトリ
◆ユウレイグモ
◆ハラビロセンジョウグモ
◆ヤマトコマチグモ