KEK STF-EP 設備の改善

19.KEK STF-EP 設備の改善 CM11-17(沢辺 元明・KEK)
KEK STF-EP 設備の改善
沢辺元明、早野仁司、渡邊謙、上野健治、舟橋義聖
(高エネルギー加速器研究機構)
The improvement of STF-EP facilities at KEK
Motoaki SAWABE, Hitoshi HAYANO, Ken WATABABE, Kenji UENO, Yoshisato FUNAHASHI
(KEK)
Key Words: EP, STF, Quality Control, Environment, Stain, Air-cooling
We have constructed an Electro-polishing (EP) Facility in the Superconducting RF Test Facility (STF) at KEK at end of 2007. We
have begun to operate the EP facility from 2008 and performed the EP processes 140 times up to the present. During this period, we
made various efforts in improving of EP quality. We report the next tree items. 1) The improvement of the environment of EP room.
2) The problem of the stain in the cavity after EP.
1.
3) Air-cooling system of EP.
はじめに
KEK における電解研磨(EP)設備は STF(Super
conducting RF Test Facility)
棟に 2007 年 12 月に竣工し、
2008 年 1 月より運転を開始した。それ以来、現在
(2011/02/28)に至るまで、140 回の EP 処理を行って
きている。この間、我々は EP における「Quality Control」
の向上を目指し研究、開発を行ってきた。その中から
以下の3点について報告する。
1) EP 設備の作業環境改善
2) EP 後の空洞内にできるシミの問題
3) EP 時における空洞の空冷
2.
Figure 1: STF-EP bed after construction
EP 設備の作業環境改善
図 1 は竣工後、間もないころの STF-EP 設備である。
EP ベッドや作業スペース、HPR(High Pressure Rinse)
挿入口はむき出し(何も覆いがない)状態であった。
2. 1 安全性の確保
EP 処理では電解液に毒物であり特定化学物質第2
類に分類されるフッ化水素酸(HF)を多量に使用する。
フッ化水素酸は常温で気化し、猛毒であるフッ化水素
ガスを発生させる化学物質である。そこで、安全性確
保のため EP ベッドに覆いと局所排気(3系統)を設け
た。 (図 2)
Figure 2: The hut of EP bed
2. 2 環境の清浄化
3.
EP 後の空洞内にできるシミの問題
EP 作業では塵やほこり等の汚染物質侵入を防止す
るため、清浄な環境での作業が要求される。
図 5 は EP 後の空洞内にできたシミである。シミは
そこで EP 作業場全体に覆いを設け、空気フィルター
の設置により作業環境の清浄化を図った。
(図 3)
また、これまで作業中の空洞移動に天井クレーンを
STF-EP 設備以外の設備で EP された空洞においても確
認されている。そこで、シミの原因究明と防止対策を
検討した。
使用していたが、覆いの中に収まる空気圧式搬送シス
テム(ロボットアーム)を導入した。
(図 4)
しかし、2基の空気フィルターでは効果が少ないた
め、更に2基の空気フィルターを増設した。これによ
り作業空間は見違えるほど清浄な状態となった。
(表 1)
こまめな水拭き清掃により清浄な作業環境を維
Figure 5: Stains in cavity inside
持するように努めている。
3. 1 シミ発生原因の究明
3. 1. 1 ニオブ板に EP 液でシミを作る実験
実験方法:CP 処理したニオブ板に EP 液 2μl を滴下
し、1Hr.放置する。純水で洗浄後、50℃で乾燥させシミ
を観察する。
EP 新液(200/05/15)を使用した実験ではいくつかに
シミが発生したが、再現性に乏しかった。
(図 6)
Figure 3: EP hut and air filters
Figure 6: Stain test by new EP electrolyte
3. 1. 2 シミの原因
EP 液の組成である 98%硫酸と 46%フッ化水素酸を
使用して同様の実験を行った。98%硫酸ではシミの発
生はなかったが、
(図 7)46%フッ化水素酸ではシミが
発生した。
(図 8)このことからシミはフッ化水素酸が
原因であることがわかる。
Figure 4: Robotic arm
Particle size
Inside
Outside
0.3μm
77
232,696
0.5μm
15
23,441
0.7μm
9
5,846
1.0μm
6
2,915
2.0μm
3
1,078
5.0μm
1
100
Table 1: Particle counts/2.83L at 2011/02/03 AM11:00
Figure 7: Stain test by 98% Sulfuric acid
Figure 11: The glove box full in nitrogen gas
Figure 8: Stain test by 46% Hydrofluoric acid
3. 1. 3 シミの組成
図 9 のような各点を XRF で元素分析を行った。
(Dummy は裏面3点)
その結果、シミの部分からは酸素、フッ素が検出さ
れた。
(図 10)このことから、シミはフッ素を含む酸化
膜と考えられる。
Figure 12: Stains in oxygen-free atmosphere
3. 1. 5 水分(湿度)の影響
46%フッ化水素酸を用い、水分(湿度)を十分に与
えた状態と室内とでシミの発生を比べた(図 13)
水分(蒸気)を与えると鮮明なシミが現れた。
(図 14)
このことからシミは水分(湿度)に関与することがわ
かった。
Figure 9: XRF points
Figure 13: Stain test of humidity
Figure 10: Analysis of XRF
3. 1. 4 空気中の酸素とシミ
窒素ガスでパージした酸素濃度 0.0%の雰囲気中、
46%フッ化水素酸でシミを作る実験を行った。
(図 11)
その結果、いずれもシミが発生した。
(図 12)このこ
とから酸化膜の酸素は空気中の酸素に依存しないこと
がわかった。
Figure 14: Humidity(Left) and room(Right)
3. 1. 6 シミのでき方
46%フッ化水素酸によるシミは周辺部に濃くできる
傾向がある。
(図 15)
これは、フッ化水素酸から発生するフッ化水素ガス
に依存する反応であると思われる。
また、低濃度でもシミが発生することを確認した。
Figure 17: Drainage (180sec)
Figure 15: Stain test of HF concentration
3. 2. 2 実処理試験 No.2
排出自動弁の上流に手動弁を取り付け、その開度に
3. 2 シミ防止のための実処理試験
より排出量を調整し、空洞内を一定時間満水状態に保
シミはフッ素を含む酸化膜と考えられる。その発生
ちながら洗浄する。また、空洞内が満水の間、振動機
にはフッ化水素ガスと水分(湿度)が関与している。
(図 18)により空洞に振動を与え洗浄効果をあげる。
それらのことから、以下のようなシミを防止する一次
洗浄方法を考え、実処理試験を試みた。
1) 一次洗浄時に洗浄水で空洞内を満水にし、フッ化
水素ガスの発生を極力抑える方法。
2) 一次洗浄効果をあげる方法
(1) 一次洗浄水の増量
(2) 一次洗浄時に攪拌や振動を与え洗浄効果をあげ
る。
3. 2. 1 実処理試験 No.1
Figure 18: Cavity and vibrator
従来の一次洗浄方法である。この設備の一次洗浄工
程は給水と排水を交互に繰り返す工程であり、給排水
3. 2. 3 実処理試験 No.3
時間ならびに総洗浄時間を任意に設定できる。
空洞下流側に洗浄ラインを増設し、一次洗浄中の一
(図 16・17)
定時間、純水と超純水の双方を流し洗浄水量を増加さ
せ洗浄する。
(図 19)
Figure 16: Pure water supply (600sec.)
Figure 19: Addition of washing line
3. 2. 4 実処理試験 No.4
4.
EP 時における空洞の冷却
試験 No.2と試験 No.3を組み合わせた方法、水量を
増加し、かつ、一定時間満水状態で洗浄し振動を与え
る方法である。
図 21 はサーモカメラによる EP 時の空洞表面温度分
布である。空洞上部は下部に比較して高温になること
がわかる。これは EP 中に空洞が 1rpm でゆっくりと回
3. 2. 5 実処理試験 No.5
転するため、EP 反応による発熱が徐々に進み、その結
この方法は、空洞に回転を与え攪拌効果により洗浄
果液面付近が最高温度となる。上部では EP 反応はなく
効果を高める方法である。空洞を水平にし、5rpm 回転
徐々に冷却されるが、自然冷却であるため冷却が遅い。
を与えて一定時間洗浄する。
(図 20)
その結果、徐々に上部が高温になると考えられる。
また、洗浄水量も増量した。
Figure 21: The heat distribution by thermo camera
4. 1. 1 空洞の冷却方法
Figure 20: Horizontally rotary washing
そこで、我々は空洞の冷却方法を考え(図 22)
、実際
3. 2. 6 実処理試験結果
の処理で冷却しその効果を確かめた。
(図 23)
実験に使用した空洞内面を検査しシミのでき方を観
察した。
結果を表 2 に示す。試験結果から現在の洗浄方法は
試験 No.4 の洗浄方法(水量増加 + 満水 + 振動)を採
用して一次洗浄を行っている。
試験 No. 洗浄方法
試験No.1
シミの状態、他
評価
Cell, Iris 共に濃いシミ多数有。
通常の洗浄方法
Figure 22: Air-cooling method of cavity
試験No.2
#1cell, #0 #1, #1 #2, #9#10 Iris に薄いシ
満水+ 振動
ミ有。他のCell, Iris にしみ無。上部に
シミが多いのは満水時の水面の置換
○
が悪いのが原因か?
試験No.3
#1, #8cell, #0#1, #1#2 Iris に濃いシミ
水量増加
有。Iris は全般にシミが多い。
水量を増加しただけでは洗浄効果が
うすい。
試験No.4
#1cell に薄いシミ。他は無。
水量増加 + 満水 +
◎
Figure 23: Cavity air-cooling by cold wind
振動
試験No.5
#9cell に濃いシミ有。他の部分にシミ
水量増加 + 回転
無。水流の関係か?
Table 2: Result of washing test
その結果、冷風を当てることにより空洞表面温度は
かなり低くなり、空洞内温度との差が少なくなった。
しかしながら、冷風機の風向きにより空洞表面温度
が著しく変化することがわかった。
(図 24)
Cooling start
Change direction
Figure 24: Cavity surface temperature(℃)
そこで、空洞にカバーを取り付け、空冷効果をより
安定化させることを試みた。
(図 25)
Figure 26: Surface temperature and cavity temperature with
air-cooling covers
5.
おわりに
空洞性能を左右する大きな要因は以下の3工程の
「Quality Control」に依存する。
1) 製造工程
2) 表面処理工程
3) 組立工程
2010 年 11 月に国産空洞初の ILC スペックを達成でき
Figure 25: Cavity air-cooling covers
た。これは、これらの3工程の「Quality」がうまく合
致した結果であろう。
その結果、安定した冷却効果が表れた。
(図 26)
このことにより EP 時における表面温度を下げるこ
とが可能となり、また、表面温度管理が容易となった。
我々の関与する表面処理工程においても、これから
もより高い「Quality Control」を求め、研究、開発を進
めていきたい。
文献
(1)舟橋義聖、他 「KEK 電解研磨設備の概要」
第8回メカワークショップ 20097 年4 月13 日
(2)沢辺元明 「電解研磨設備の概要と安全性」
KEK 技術交流会 2007 年11 月28 日
(3)舟橋義聖、他 「KEK 電解研磨設備の立ち上げ」
第9回メカワークショップ 2009 年4 月14 日
(4)Motoaki Sawabe 「Quality control of KEK STF 」TTC-Meeting
https://indico.fnal.gov/conferenceDisplay.py?confId=3000 2010年4月21 日