腹部領域における造影MRAの至適タイミング

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腹部領域における造影MRAの至適タイミング
国立循環器病センター 放射線診療部
麻布三枝子
開始から3/8の時間になる.そのため,撮像タイミング
は,どのようなk-spaceのデータ配列順序の撮像シーケン
スを使用しているかによって変えなければならない.
はじめに
腹部領域におけるMRAは,TOF(time of flight)
法やPC
(phase contrast)
法を用いて行われてきた.しかし,撮像
時間が長いためmotion artifactなどを生じ,良好な画像
が得られなかった.最近,TOF法に代わって 1 回の呼吸
停止下で撮像が可能な,Gd造影剤を併用した 3D MRA
が用いられるようになり,画質は顕著に向上した.
造影MRAは,Gd造影剤を経静脈的に注入し,造影剤
のT1短縮効果を利用することによって血液
(血流腔)
を高
信号に描出する.そのため,目的血管に造影剤が存在す
る間に撮像を行うが,そのタイミングが画像の出来映え
を左右する.本稿では,造影MRAを施行するうえで技
術的問題点の一つとなる造影至適タイミングについて述
べるとともに,当施設での手法と症例を呈示する.な
お,使用した装置はMagnetom VisionおよびMagnetom
Symphonyであり,撮像シーケンスのパラメータは表 1
にまとめた.
撮像開始時間の設定方法
目的部位への造影剤の到達は,個々の症例で違うため,
症例ごとに適切な撮像タイミングを測定する必要がある.
撮像開始時間の設定方法には,造影剤の流入を経過観
察してMRAの撮像を始める方法
(Smart Prep,care bolus
など)
と,MRAの撮像とは別にあらかじめ少量の造影剤
を使用し て造影剤の 到達時間を測定 する方法(test
injection)
がある.
1.Care Bolus法
Care bolus法は,あらかじめ設定した断面を継続的に
撮像しながらモニタで観察し,造影剤が到達したのを確
認してMRAを手動でスタートさせる方法である.MRA
の撮像シーケンスは 3D FLASHで,データ収集法はcentric orderingである.
このデータ収集法での撮像タイミングは,先に述べた
ように撮像開始時に造影剤濃度が最大になるようにする
が,モニタで観察する断面の選択やスタートさせるタイ
ミングを見極めるのが難しく,test injection法に比べて
熟練を要する.
最適な撮像タイミング
造影MRAで高コントラストの画像を得るには,kspaceの中心部分(低周波領域)のデータ収集をする時
と,目的血管の造影剤濃度が最大になる時を一致させる
必要がある.たとえば,sequential orderingの場合は,撮
像時間の1/2の時点で造影剤濃度が最大になるように撮
像タイミングを合わせる.ただし,k-spaceの中心部分を
データ収集する時間は,各々の撮像シーケンスによって
異なる.Centric orderingの場合は,撮像開始のデータが
k-spaceの中心に入る.また,turbo-MRAでは,非対称な
sequential orderingを用いており,k-spaceの中心は撮像
2.Test Injection法
Test injection法は,事前に少量の造影剤を使用して撮
像することにより,造影剤の到達時間を測定する方法で
ある.撮像シーケンスには,プリパレーションパルスを
付加した高速グラジエントエコー(たとえば,turbo
表 1 撮像シーケンスのパラメータ
sequence
test injection
turbo FLASH
TR
msec
3.3
TE
msec
1.4
TI
msec
220
FA
deg
10
slice
mm
8
No of slices
matrix
FOV
mm
time
sec
coil
60
∗
128 256
∗
263 350
60
body/body array
∗
∗
4.0
300
10
10
25
154 256
263 350
65
body/body array
TR
msec
TE
msec
FA
deg
slab
mm
slice
mm
partition
matrix
FOV
mm
time
sec
coil
3D MRA
3D FLASH
(care bolus)
4.0
1.65
25
86
1.54
56
160∗ 256
219∗ 350
14.7
body/body array
3D MRA
(腎動脈)
3D FLASH
4.24
1.7
25
100
1.39
72
136∗ 512
200∗ 400
16
body array
3D MRA
(大動脈)
3D FLASH
4.6
1.8
25
120
2.4
50
130∗ 512
240∗ 480
23
body
MRI ※
turbo FLASH
8.5
※ 造影MRA後に追加する横断像.
sequence
13
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度を遅くすることによって注入時間を延ばしてい
る.
造影剤の注入は,22Gの留置針で肘静脈を確保
し,injectorを用いて行っている.造影剤注入後
は,テスト注入時と同様に20mLの生理食塩水を造
影剤と同じ注入速度でフラッシュしている.Test
injection法の場合,テスト注入とMRA時の造影剤注
入条件を一致させるためにinjectorの使用が有効で
あると思われる.
症 例
a
b
図 1 腎動脈狭窄:55歳,男性
a:造影 3D MRA MIP像.狭窄度はDSAと同等の評価.Gd造影剤 0.2mL/
kg,1.0mL/sec,撮像時間13秒.
b: DSA像.右腎動脈90%狭窄,左腎動脈75%狭窄.
FLASH)
を用いる.撮像は,安静呼吸気下で目的部位直
上において,同一面を 1 画像/ 1 ∼ 2 秒の割合で40∼120
秒間繰り返し行う.造影剤は,少量(1 ∼ 2mL)
のGd造
影剤を撮像開始と同時に注入し始める.この時,使用し
た少量の造影剤を目的血管にボーラスで到達させるため
に,造影剤注入直後に20mLの生理食塩水でフラッシュ
している.
次に,得られた画像において目的血管に関心領域をと
って時間−信号強度曲線を作成し,信号強度が最大値に
なるまでの時間を求めて撮像開始時間を決める.文献1,2)
では,造影剤は注入時間と同じ時間だけ目的の動脈に持
続すると仮定しているので,MRAの撮像時は,テスト注
入で求めた信号強度の最大値までの時間
(Td)
に造影剤の
注入時間
(Tg)
の1/2を加えた時に造影剤濃度が最大になる
と考えられている.Sequential orderingの場合には,造影
剤濃度が最大になる時を撮像時間
(Ta)
の1/2の時間に合わ
せるので,撮像開始時間
(Ts)
は,Ts = Td + 1/2Tg − 1/2Ta
としている.同様に,centric orderingの場合はTs = Td +
1/2Tgに,turbo-MRAの場合はTs = Td + 1/2Tg − 3/8Taに
なる.撮像開始時間は,これらの式を参考にして撮像シ
ーケンスに応じて設定するとよいと思われる.
Test injection法は,MRAの前に造影剤の到達を測定す
るための別の撮像を行うので,care bolus法に比べて時間
を要するが,撮像タイミングを正確に合わせることがで
きると考える.そのため,当施設ではtest injection法によ
って撮像開始時間を決定している.
造影剤注入方法
当施設では通常,Gd造影剤は標準量
(0.2mL/kg)
を使
用し,注入速度は1∼2mL/secとしている.大きな動脈瘤
がある症例では,通常使用量の1.5倍量に相当する
0.3mL/kgを用いる.また,とくに微細な血管の描出を目
的とする時には,通常使用量の 3 倍量を使用している.
造影剤の注入時間は,注入量によってある程度決定す
る.しかし,非常に細い血管を良好に観察するには,造
影剤が均一に満たされた状態でk-spaceの中心部の外側
(高周波領域)
もデータ収集する必要があるため,注入速
14
1.腎動脈狭窄
造影 3D MRAにおいて,短時間撮像を行うことに
より,腎動静脈の重なりのない画像を得ることがで
きた
(図 1)
.造影MRAで使用するGd造影剤は,カテ
ーテル検査やCT検査で使用するヨード造影剤に比べ
て使用量が 1/3∼1/10で腎毒性も低いため,腎機能が
低下している症例に対しては有効な検査法である.
2.腹部大動脈瘤
瘤の大きさがとくに大きい場合には,瘤内の乱流など
によって血流速度が著しく変化する可能性がある.この
場合には,test injectionの撮像を通常の 1 断面だけでな
く,あらかじめ 2 ∼ 3 断面で造影剤の到達時間を確認す
るか,あるいは,非常に短いMRAの撮像を繰り返し行
うことによって,撮像タイミングをはずすことなく良好
な画像を描出することができる
(図 2)
.造影MRAでは血
流腔のみを描出し,血管壁に血栓がある場合はMRA単
独で確認することが難しいので,造影後にturbo FLASH
での横断像を追加撮像することにより,血流腔以外の情
報も得ることができる
(図 3)
.
3.大動脈解離
一般的に真腔側と偽腔
側で血流速度が異なるた
め,1 回の造影MRAの
撮像だけで大動脈全体を
良好に描出するのは困難
なことが多い.この場合
は,呼吸停止が可能な範
囲内で,比較的短時間の
撮像を2,3 回続けると
良い
(図 4)
.また,腹部
の主要分枝や真腔,偽腔
の状態を知るには,撮像
後の画像再構成として
MPR処理が臨床上有効
である
(図 5)
.
図2
腹部大動脈瘤:70歳,男性
造影 3D MRA MIP像.瘤径
70mm.Gd造影剤0.35mL/
kg,2.0mL/sec.
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b
c
b
a
a
d
図 4 大動脈解離 I 型:67歳,男性
a:造影 3D MRA phase 1 元画像.造影剤注入後17秒から撮像.
b:造影 3D MRA phase 2 元画像.造影剤注入後39秒から撮像.
撮像時間22秒,aでは真腔が,bでは偽腔の形態が確認できる.
図 3 腹部大動脈瘤:76歳,女性
a:造影 3D MRA MIP像.
b,c,d:造影MRAの後に撮像した横断像.cでは厚い壁在血栓を認める.
a
b
c
d
g
e
h
f
i
図 5 大動脈解離IIIb型:62歳,女性
a:3 次元処理によるvolume rendering像.
b,c:造影 3D MRA MPR矢状斜位像.
d ∼ i:造影 3D MRA MPR横断像.dの
(t)
は真腔,
(f)
は偽腔を示す.fは腹腔動脈レベル,gは上腸間膜動脈レベル,hは右腎動脈レベル,
iは左腎動脈レベル.
参考文献
1)Prince MR, Narasimham DL, Stanley JC, et al.: Breath-hold
gadolinium-enhanced MR angiography of the abdominal
aorta and its major branches. Radiology 197: 785-792, 1995
2)Earls JP, Rofsky NM, DeCorato DR, et al.: Breath-hold
single-dose gadolinium-enhanced three-dimensional MR
aortography: usefulness of a timing examination and MR
power injector. Radiology 201: 705-710, 1996
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