予防医学/浜島先生担当分試験問題(講義提示問題と補問)&解答と

予防医学/浜島先生担当分試験問題(講義提示問題と補問)&解答と,
内藤先生担当分試験問題(過去問と予告問題)&解答
講義:予防医学講座各教員
記録・解答:矢野 寿
★ 浜島先生担当分試験問題(講義で提示されたもの)と解答例
1.第一次予防,第二次予防,第三次予防の意味するところと具体的な活動を挙げよ.
(3 点)【4/6・4 限プリント pp.1, 2】
<解答例>
第1次予防 primary prevention とは疾病
疾病
の発生予防と
発生予防と健康増進を図るものであり,例
健康増進
えば健康相談や生活指導や1,特殊予防(ある
疾病を念頭に置いてその発現阻止を意図する
もの)としての予防接種が挙げられる.
第2次予防 secondary prevention とは疾
疾
病の早期発見と
早期発見と即時治療を図るものであり,
即時治療
スクリーニング検査(疾病を診断するための
一連の検査手順の中で,初めに行う有病者を拾い出す検査のこと)と早期治療が挙げられる.
第3次予防 tertiary prevention とは疾病悪化防止
疾病悪化防止と
悪化防止のた
疾病悪化防止と社会復帰を図るものであり,
社会復帰
めの合併症予防や,作業療法によるリハビリテーションが含まれる.
2.high risk strategy と population strategy の長所欠点を挙げ,1つの具体例を挙げてその違
いを説明せよ.
(2 点)<4/6・4 限プリント pp.3>
<解答例>
〔Strategy すなわち(予防医学の)戦略とは,少数の人間が病人になったり死亡したりしないよ
うに予防するために多数の人々が注意を払わなくてはならないこと(予防医学のパラドクス
preventive paradox)に対処するための指針である.〕
① high risk strategy(ハイリスク・スト
ラテジー,高リスクアプローチとも)とは,
特別のリスクを持った少数のハイリスク
集団,あるいはあるリスクの連続分布の右
端に位置する対象者だけに働きかける戦
略である.
▼ 長所
・集団全体に一応に対処する場合の不経済
さを避け,高いリスクを持っていない個人
1 講義で配布された各予防概念の内容を書き出した表には,第 1 次予防の項目として定期健診が挙がっており,これは普通疾病
の早期発見と早期治療(第2次予防に当たる)のためにするものではないかとの疑問が浮かぶが,これについては講義中に浜島
先生より定期健診の機会を活かした生活指導のことを言っているとの注釈があった.
1
に対する不必要な介入を少なくすることができる.
▽ 欠点
・特別のリスクを持った少数集団を正常で問題がないとみなされる多数集団から明確に区別でき
る場合にしか取ることができない(が,こういう場合はリスクの分布が二峰性を示す場合やある
閾値を超えてリスクが高まる場合に限られる).
・ハイリスク者全員の把握は困難で,実際に働きかけが可能なハイリスク者は限られる.
・正常とみなされた大多数にも全くリスクがないわけではなく,小さなリスクがあり,際立って
リスクの高い個人が含まれなくても結果的に発生する患者の数の合計は大きくなる.
② population strategy(ポピュレーション・ストラテジー,集団アプローチとも)とは,分布全
体に働きかけて適切な方向に全体を少し移動,シフトすることを目指す戦略である.
▼ 長所
・ハイリスク者の特定は不要で,集団に対して一応に対応すればよい.
・うまく分布を動かすことができれば集団全体としての効果(罹患率・死亡率の低下,健康寿命
の延長 etc…)は顕著に現れる.
・生活集団の改善は集団全体でなされないと促進されない(例:喫煙率の高い職場で一人だけ禁
煙することは困難が伴うばかりか,副流煙による受動喫煙の防止といった環境改善にも結び付か
ない)ので,この戦略をとるしかない.
▽ 欠点
・多数の者が介入対象になるので,それだけコストがかかる一方,個人個人への恩恵は見えにく
い.
講義で挙げられていた具体例は胃がんのスクリーニングについての戦略であった.胃がん罹患
のハイリスク者,すなわちピロリ菌感染者だけに胃がん検診を行うのが high risk strategy であ
り,(例えば地域住民)全員に胃がん検診をするのが population strategy である.前者を採った
場合,まずピロリ菌感染者の特定が必要であるが,ピロリ菌感染者を全て特定することは難しい
し(そもそもその時点で population strategy が必要),それができたとして非感染者からも胃が
んは発生するのでそれを早期発見することができなくなってしまう.一方,後者の population
strategy を採った場合,確かに要早期治療者を多く把握できるが,罹患する少数の人間のために
多数の人々に検診を行わねばならず無駄が多くなる.
また,疫学演習で扱った(HP に矢野のレポートサンプルあり)ように,葉酸代謝にかかわる
酵素 MTHFR の C677T 変異をホモに持つ人(677TT 型)は十分な食物からの葉酸摂取(1 日 400
µg)がないと葉酸不足が高リスク要因である諸疾患を発症しやすくなるが,集団全体に葉酸摂取
の重要性を説明するか(population strategy)
,677TT 型であることが分かった人に詳しく説明
するか(high risk strategy)も,いずれの予防医学戦略を採るかの例と言える.
3.介入試験とコーホート研究との違いは何か.
(1 点)
【4/7・2 限プリント pp.2(コホート研究
は概念図(次ページ冒頭に引用)で説明)&4/7・3 限プリント 1 ページ(介入試験は文章で説
明)】
2
<解答例>
コ(ー)ホート研究
ホート研究とは,分析疫学(疑わしい要因と病気との関連性を個人レベルの情報を収
研究
集して調べる方法の総称)の一つで,
「予め個々人の要因の有無を調査し,その後の病気の発生を
比較する方法」である.
(つまり,上左図の緑の人と黄色の人は予めわかっている.)
ところで,症例対照研究
症例対照研究は,
症例対照研究 「ある病気に罹患した症例群と,その疾患に罹っていない(対象と
している疾患以外の患者を含むこともある)対照群について,疑わしい要因への過去の曝露を調
査比較する方法」であり,「『罹患した症例と対照の収集』と『要因が過去のある時点や期間に存
在したかの調査』の時間的順序がコホート研究と逆である点でコホート研究と対置される方法」
(4/8・2 限に内藤先生により口頭で行われた前日講義に対する補足コメントより)である.(つ
まり,上右図の緑の人と黄色の人の区別は後からわかる.)
・
・
・
上記の手法に対して,介入
介入試験
究者が対象者(または対象集団)
介入試験(介入研究も同義語)とは,研
試験
の身体状況(例えばワクチン投与),生活状況(例えば食事内容の変更),生活環境(例えば水道
水にフッ素を加える)に変化を与える(操作する)
,すなわち「介入」を行った上で,その効果を
追跡調査により調べるものである.
ここでポイントは研究者がその責任の下に介入を行った場合は全て介入試験であることであり,
逆に対象者の身体状況,生活状況等が変わっても研究者自身によるものでなければそれはコホー
ト研究に分類されることになる.(←本問の問い方ならこの段落だけ書ければ満点?)
4.以下の手法はどのようなバイアスを
除くために用いられるか.
(2 点)
1 ) 二重盲検法
2 ) 無作為割付
【右図は 4/7・2 限プリント pp.3 の図と
4/7・3 限プリント pp.1 の図の内容の合
成】
<解答例>
1 ) 二重盲検法は,被験者(受診者)と
験者(医療提供者)に治療 A と治療 B
(あるいは介入と非介入)のどちらが行
われたかわからないようにすることを
3
いう.なお,被験者だけがわからないものを一重盲検,被験者・験者に加えて,データの解析者
もいずれの治療が行われたかを知らないものを三重盲検という.
これによって「標本から情報収集をする際に得た情報が正しくないために起こる偏り」,すなわ
ち情報
情報バイアス
情報バイアスを除くことができる.具体的に言うと,例えば新薬を使った方が治療成績が良く
バイアス
なるかを検定する場合,新薬投与例の方が旧薬投与例よりもよく治癒すると評価されやすい場合
には介入試験によって得られる治癒率比は真の値より高くなりやすい.これは験者(医療関係者)
の側がそう評価するからというだけではなく,被験者(患者)の側も「効きますよ」と言われる
と偽薬でも本当に効く(自覚症状だけでなく客観的な指標すら時に改善される)
(=プラセボ効果
2)ことがあり,これも誤った情報を生じさせこれによる偏りを生む.二重盲検をすればこうした
偏りが生じるのを避けることができる3.
2 ) 無作為割付は乱数表を用いた Simple randomization や Random permuted blocks【4/7・3
限プリント pp.2】等によって無作為に複数の群に割り付けることをいう.
これにより,研究担当者あるいは参加者の意思が割り付けに影響することを防ぎ,また,試験
対象となっている介入以外に結果に影響を及ぼし得る諸要因が各群に均等に分布することを期待
することができる.つまり,「実際に観察する集団が本来目的とする集団の正しい代表ではなく,
特定の傾向(例えば被験者,験者それぞれの思惑),特性(例えば被験者の体質の偏り),方向性
を持った集団であるときに起こる偏り」
,すなわち選択
選択バイアス
選択バイアスを除くことができる.
バイアス
〔選択バイアスに関しては前ページ図にある通り,解析の段階で補正をかけることが可能である
ことは覚えておこう.〕
12.喫煙者の禁煙に関する考え方に基づいたステージの名前を述べよ.
(1.5 点)
【4/10・3 限プリ
ント pp.2】
<解答例>
ステージは,禁煙に関心がない無関心期
無関心期,禁煙に関心はあるが禁
無関心期
煙しようとは思わない関心期
関心期,
準備期の3つであ
関心期 禁煙しようと思う準備期
準備期
る.
13.ニコチン依存度を調べるためのよ
く用いられる質問項目を2つ挙げ
よ.
(2 点)
【4/10・3 限プリント pp.2】
<解答例>
〔右に,講義プリントにあった簡易ニ
コチン依存度テストの元画像を引用
しておく.
〕
2 逆に,
「副作用が出るかもしれません」と言われると偽薬でも副作用が出ることをノセボ効果という.プラセボ効果とノセボ
効果の説明【4/7・3 限プリント pp.2】はテスト出題ポイントでもある.
3 もっとも,二重盲検であらゆる情報バイアスが回避できるかというと全然そんなことはなく,前ページの図で挙げられている
情報バイアスの例(各群を違う験者が診断したために基準が一律ではなく比較が不能)は当然二重盲検だけでは回避できず―プ
リントの二つの図の内容を合わせたので書き込まれている手法だけで対処できない具体例が挙がってしまっているのだが―,異
なる医師が診断せざるを得ないなら明確な診断基準を置くなど別の工夫が必要になる.
4
・
「あなたは 1 日何本くらいタバコを
日何本くらいタバコを吸
いますか?」(26 本以上か,25 本以下かで分類,もちろ
くらいタバコを吸いますか?」
ん前者の方が依存度は高い.)
・「あなたは朝目覚
あなたは朝目覚めてからどれくらいたって
いますか?」(30 分未満か,30
朝目覚めてからどれくらいたって最初
めてからどれくらいたって最初のタバコを
最初のタバコを吸
のタバコを吸いますか?」
分以上かで分類,前者の方が依存度は高い.
)
14.ニコチン製剤にはどのようなものがあるか.
(2 点)
【4/10・3 限プリント pp.4】
<解答例>
ガム,パッチ
舌下錠・トローチ
ガム パッチ,鼻腔
パッチ 鼻腔スプレー
鼻腔スプレー,インヘーラー
スプレー インヘーラー(
インヘーラー(ニコチン入
ニコチン入りパイポ)
りパイポ),舌下錠
舌下錠・トローチ剤
・トローチ剤
15.医療現場で簡便に行い得る禁煙指導としての 5A とは何か.
(3 点)
【4/10・3 限プリント pp.3】
<解答例>
禁煙誘導方法として言われる医療提供者による 5A とは以下の5つである.
Ask
Advice
Assess
Assist
Arrange
:
「たばこを吸いますか?」
:「禁煙しなさい.
」
:「禁煙する気持ちがありますか?」
(禁煙の関心度の測定)
:「禁煙日を決めましょう.」(ex. ニコチンパッチやガムの処方による支援)
:禁煙できたかどうかの確認(追跡調査)と禁煙に成功できるようなフォローアップ
16.受動喫煙の防止を定めている法律は何か.(1 点)【4/10・3 限プリント pp.4】
<解答例>
健康増進法(第
健康増進法
25 条)
(公共施設における受動喫煙防止措置を講ずるよう定める.
)である.
17.禁煙後の以下の時間に起きる身体の変化を説明せよ.(3 点)
【4/10・3 限プリント pp.2】
<解答例>
〔問題には「以下の時間」の具体
例が示されていないが,それのバ
リエーションで小問をいくらでも
作れるので,プリントにあった右
表を覚えておき,要求に沿って書
き出す.〕
煙草を止めた時に起こる身体の変化(アメリカ肺癌協会まとめ)
時間の経過
20分以内
8時間以内
24時間以内
48時間以内
48~72時間
72時間
2~3週間
1~9か月
5年以内
10年以内
身体の変化
血圧が正常に下がり始める
脈拍が正常になる
手足の温度が正常に戻る
血液の一酸化炭素濃度が正常になる
血液の酸素濃度が正常に上がる
心臓病のリスクが減る
神経端末が再成長を始める
嗅覚や味覚が改善する
ニコチンが体内から検出されなくなる
呼吸が楽になる
循環機能が改善する
歩くのが楽になる
肺機能が30%よくなる
咳や,疲れやすさ,息切れが改善する
肺がきれいになり細菌感染が減る
全身のエネルギーレベルが上昇する
肺癌死亡率が対10万人当たり137人から72人へ低下
する(10年では12人まで低下して非喫煙者とほぼ同
程度になる)
前癌細胞が置き換えられる.口腔癌や喉頭癌,食道
癌,膀胱癌,腎癌,膵癌などの発生率が低下する
5
18.1973 年以降に明らかになった感染症の原因微生物と疾患名を5つ挙げよ.
(3 点)
【4/7・4 限
プリント pp.1】
<解答例>
〔抗生物質の登場以降,それまで圧倒的に人類を苦しめてきた感染症を制御する道が開かれ,そ
の後,感染症の制御は公衆衛生上満足のいく一定の水準が諸疾患押し並べて既に達成されたかに
見えたが,今日,新興感染症
新興感染症(新たにヒトでの感染が証明された疾患,あるいはそれまでその土
新興感染症
地では存在しなかったが新たにそこでヒトの病気として現われてきたもの,代表格は AIDS)や
再興感染症(既に知られていたもののその発生数は著しく減少し,もはや公衆衛生上の問題はな
再興感染症
いと考えられていた感染症のうち再び出現し増加したもの,代表格は結核)が問題となっている.
それを踏まえて新興感染症の具体例を挙げさせる問題.下表の中から5つを箇条書きで解答す
る.〕
1973年以降明らかになった感染症とその原因細菌・ウイルス
細菌・ウイルス名
感染症名
発見年
1973年
Rotavirus ロタウイルス
小児下痢症の大半
Ebola virus エボラウイルス
エボラ出血熱
1977年
Legionella pneumophila レジオネラ・ニューモフィラ
レジオネラ肺炎
1977年
Human T-lymphotropic virus 成人T細胞白血病ウイルス 成人T細胞白血病(ATL)
1980年
E.Coli O157:H7 腸管出血性大腸菌O157
腸管出血性大腸炎,溶血性尿毒症症候群(HUS)
1982年
1983年 Human immunodeficiency virus (HIV) ヒト免疫不全ウイルス 後天性免疫不全症候群(AIDS)
Helicobacter Pylori ヘリコバクター・ピロリ
委縮性胃炎,胃潰瘍
1983年
Hepatitis C virus C型肝炎ウイルス
C型肝炎
1989年
HHV-8 ヒトヘルペスウイルス8型
(AIDS患者の)カポジ肉腫
1995年
Influenza A/H5N1 インフルエンザAウイルスH5N1型
トリインフルエンザのヒト感染
1997年
SARS corona virus SARSコロナウイルス
重症急性呼吸器症候群(SARS)
2003年
19.DOTS とは何か.
(簡単に述べよ.→ 解答例から各自抜粋のこと.)(1 点)
【4/7・4 限プリ
ント pp.2】
<解答例>
DOTS, Directly Observed Treatment Short-course とは,監視下服薬
監視下服薬による
監視下服薬による短期療法
による短期療法と訳され
短期療法
る結核の治療法である.
結核の治療は長期に渡るため治療中断が起り易く,これが治療の失敗,とりわけ薬剤耐性結核
の増加の最大の原因となっている(薬を飲んで薬剤に耐性を持たない菌の多くを殺した段階で薬
を止め菌が増殖する環境を再び整えてやったらわざわざ耐性菌を選択的に増やしているようなも
の).これに対し,確実な服薬により治療成功率を上げるために世界で行われている治療法が
ド ッ
ツ
DOTSである.
具体的には,入院中
入院中の
退院後の
入院中の院内 DOTS と退院後
退院後の地域 DOTS に分けられ,喀痰塗抹陽性患者の多
くが入院する日本では「院内 DOTS」が主体となる.
院内 DOTS では入院中
入院中の
患者について看護師
入院中の患者について
について看護師などが
看護師などが直接服薬確認
などが直接服薬確認を行う.直接服薬確認とは
直接服薬確認
「患者が薬を飲み込むまでを目の前で直接確認する」ことである.はじめは患者の側に心理的に
抵抗がある場合も多いが,これにより毎日の服薬の重要性が認識され,退院後の服薬継続も容易
になる効果があるとされる.
退院後の地域 DOTS としては,住所不定や中断歴のある人を対象に原則毎日医療機関の外来で
服薬確認を行う外来 DOTS,在宅医療を受けている高齢者等を対象に週 1~2 回以上訪問して服
薬確認を行う訪問 DOTS,自己管理の可能な人を対象に月に 1~2 回以上訪問や電話で服薬状況
6
を確認する連絡確認 DOTS,の三つが雛形として示されている.
20.ポリオの不活化ソークワクチン(IPV)とポリオ生ワクチン(OPV)の特徴を挙げよ.
(3 点)
【4/7・4 限プリント pp.3】
<解答例>
不活化ソークワクチン(IPV)とポリオ生ワクチン(OPV)の比較
項目
IPV
OPV
血中抗体
できる
できる
腸管免疫
できない
できる
腸管でのウイルス増殖
抑えない
抑える
血中抗体価の低下
早い
免疫は終生
追加接種
必要
不要
免疫不全者
使える
毒力復帰の問題
他の不活化ワクチンとの併用
可
不可
ウイルスの排出
なし
あり
ワクチン接種
皮下注射
経口投与
費用
高価
安価
解答は上表に尽きるが,特に目立つのはポリオはまず腸管粘膜,並びに腸管のリンパ組織で増
殖を見せるウイルスであるから,弱毒化した(毒性は弱いが細胞内での増殖能力は保持している)
ウイルスを本来の感染経路と同じように経口投与する OPV では腸管免疫(IgA による)が生じ,
これにより次回感染では腸管でのウイルス増殖そのものが抑えられるということがある.その代
わり,一度不活化されていないウイルスが腸管での増殖を見せ,それが 1~2 カ月の間,特に便に
排出されるので,周囲に抗体を持っていない人間がいた場合に接触感染する危険性がある(接種
率の低い S50~52 年生まれの人が追加接種を勧められているのも,もっと広く,国内ではほぼ根
絶されているにも関わらず日本だけがワクチン接種を止めるわけにはいかない理由もこれ).
これに対して,不活化した(増殖能力は失われている)ウイルスを血中に注射することで中和
抗体を誘導する IPV(なお,ソークは開発者の名前)では腸管免疫はできず,血中抗体価も早く
低下してしまうが,ウイルスは不活化していることから,弱毒化ウイルスを投与した場合にその
増殖を抑えられず強毒株が生じてし
まう可能性のある免疫不全者に対し
ても使用できるメリットがある.
〔左参考図「ポリオウイルスの感染
成立経路と経路上でワクチンが効果
を狙うポイント」とその説明:
口から体内に入ったポリオウイル
スは,消化管の粘膜で増殖し,次に
その付近のリンパ装置である扁桃腺,
パイエル板,腸間膜リンパ節などで
増殖する.ウイルスはここから血中
に入り(ウイルス血症)
,種々の組織
7
で感染が起こるが,ほとんどの組織ではウイルスは増えることができず病変が生じない.中枢神
経系にウイルスが達した場合にのみ神経細胞中で爆発的に増殖してこれを破壊する.腸管で増え
たウイルスは便の中に排出され,次の感染を招く.
〕
補問1(疫学演習) 本年度予告問題「葉酸について言えることを 10 個述べよ.」〔
【4/14・2 限
プリント】に準拠した以下から 10 個抜粋して答える.〕
・葉酸はプテロイン
プテロイン酸
グルタミン酸
プテロイン酸とグルタミン
グルタミン酸が結合した化合物である.
・食品中ではグルタミン
グルタミン酸
グルタミン酸が複数結合している.
・腸内で酵素 GCP II により pteroylmonoglutamic acid になる.
・RFC
RFC I(還元型やメトトレキサート)や
FOLR(酸化型)といった受容体を介して腸上皮細胞
I
FOLR
に取り込まれる.
・tetrahydrofolate (THF) はセリン
セリンからメチル基を受け取り,5,10
5,10セリン
5,10-メチレン (methylene) THF
となり,酵素 MTHFR により 5-メチル (methyl) THF に代謝される.
・5
5-メチル THF は門脈を介して,肝臓や他の組織に運ばれ,そこで細胞に取り込まれる.
・ホモシステイン
ホモシステインは
メチオニンになる.
ホモシステイン 5-メチル THF からメチル基を受け取り,メチオニン
メチオニン
・メチオニンのメチル基は神経伝達物質のアドレナリン
アドレナリン(エピネフリン
アドレナリン エピネフリンとも)の合成に必要であ
エピネフリン
り,また膜の成分であるホスファチジルコリン
ホスファチジルコリンの合成にも必要となる.
ホスファチジルコリン
・メチオニンはメチル基を渡してホモシステイン
ホモシステインとなる.
ホモシステイン
・葉酸は DNA の合成やそのメチル
メチル化
メチル化(修飾)にも関与しているため,がんの発生リスクに関連
することが想定される.大腸がんでは葉酸摂取の少ないものでリスクがやや高くなるという結果
がメタアナリシス(より信頼性の高い結果を求めて,過去に独立して行われた複数の臨床研究の
データを収集・統合し,統計的方法を用いて解析したもの)により得られている.
・葉酸を還元し活性化するジヒドロ
ジヒドロ葉酸
ジヒドロ葉酸レダクターゼ
葉酸レダクターゼ(還元酵素)は抗がん剤・免疫抑制剤であ
レダクターゼ
るメトトレキサート
メトトレキサートの標的分子である.
メトトレキサート
・葉酸が多く含まれている野菜はほうれん
ほうれん草
アスパラガス
モロヘイヤなど(要するにいわゆ
ほうれん草,アスパラガ
アスパラガス,モロヘイヤ
モロヘイヤ
る緑黄色野菜)で,果物ではイチゴ
イチゴが多い.動物性食品ではレバー
レバーに多い.
イチゴ
レバー
・大人の 1 日葉酸摂取推奨量は 240 µg である.
・妊娠する可能性のある女性に対しては最小摂取量は概ね 1 日 400 µg とされている.
・葉酸欠乏はホモシステインを上昇させ,種々の機序を介して血管内皮(細胞)を傷害し,動脈
硬化を引き起こし,心血管障害
心血管障害(例えば心筋梗塞)
,脳血管障害
脳血管障害(例えば脳梗塞)
,認知障害
認知障害の
心血管障害
脳血管障害
認知障害
発生の原因となる.
・妊娠中の葉酸不足は神経管閉鎖障害
神経管閉鎖障害や口唇口蓋裂
神経管閉鎖障害 口唇口蓋裂のリスク因子となる.
口唇口蓋裂
・神経管閉鎖障害とは先天性の脳
脳や脊椎
脊椎の癒合不全であり,
脳の癒合不全は脳瘤
脳瘤や無脳症
脊椎
脳瘤 無脳症となり,
無脳症
脊椎の癒合不全は二分脊椎
二分脊椎となる.
二分脊椎
・神経管閉鎖障害の頻度は 1998 年の統計では出産(死産を含む)1 万人対 6.0 で,うち二分脊椎
は 3.2 である.
・1980 年ごろはわが国の二分脊椎児発生頻度は欧米に比べ低
低く,積極的な対応を取っていなかっ
中国において,介入研究が行われ,葉酸の摂取が
た.わが国同様,葉酸の摂取が多く頻度の低い中国
中国
神経管欠損症を予防することが明らかになった.
8
・米国では 1996 年から小麦粉
小麦粉・
etc… といった穀物由来
といった 穀物由来の
食品 に 対 して
小麦粉 ・ 米 ・パスタ・パン etc…
穀物由来 の 食品に
140µ
140µg/100g の葉酸添加を行っており,その結果,二分脊椎の発生頻度が減少した.
葉酸添加
・葉酸の代謝経路に関わる酵素の中では MTHFR が最もよく研究されており,677TT
677TT 型の人では
葉酸値が低下するとホモシステインが高くなる傾向が強いことがわかっている.
・その遺伝子には単一遺伝子病の遺伝子型はあるか? ⇒ ホモシスチン尿症
ホモシスチン尿症の中に
MTHFR の変
尿症
異によるものが知られている.
・MTHFR 遺伝子多型と神経管欠損症との関連は,欧米での研究のまとめでは本人が 677TT 型の
とき 1.9 倍,同じく母親のとき 1.7 倍,父親のとき 1.8 倍である.アイルランドでの調査では本
人が TT 型のときリスクが 2.56 倍であった.イギリスの調査では二分脊椎の患者とその父親で
TT 型が多かったが,母親には多くなかった.なお,日本でのデータはない.
・遺伝子型はメンデル
メンデルの法則で遺伝する.
〔記録者注・プリントには単独で載っているが,さすが
メンデル
にこれを単独で書いてはマズいだろう(これだけでは葉酸特異的な話ではない).
〕
・MTHFR 677TT 型は一般集団ではおよそ 15%
15%である.
・相対危険度が 2 だとすると二分脊椎の母親の中には MTHFR 677TT 型は _%と予想される.
・相対危険度が 10 であれば _%と予想される.
<最後の2問の解き方>
4 月 7 日 2 限の内藤先生の講義で扱われた相対危険度,寄与危険度,寄与危険度割合,人口寄
与危険度割合(本資料では後で内藤先生担当分過去問4で扱う)の復習になるので,ここで解き
方を示す.
相対危険度が 2 の場合から考えよう.相対危険度は疾患の
要因がある場合とない場合の疾患発生頻度の比であるから,
ここでは疾患頻度そのものはわからないけれども,同じ人口
がいれば要因がある場合に患者が 2 倍出ると考えてよい.
それを図示すると右図のようになる.
「二分脊椎の母親の中には MTHFR 677TT 型が何割いる
か」という問いは「二分脊椎児の何割が MTHFR 677TT 型の
母親から生まれているか」という問いと等しい.
(寄与危険度を考えたときは TT 型の母親から例
えば人口千人当たり 2 人の二分脊椎児が生まれたとすると CC 型や CT 型の母親からも同じく人
口千人当たり 1 人の二分脊椎児が生まれていると考えられるから,TT 型から生まれたとしても
TT 型が要因となって二分脊椎児となったと考えられるのはうち 1 人であると考えたわけだが,こ
こでは生まれたのが TT 型の母親からかどうかしか問題にならない.
)
図中において,線で囲まれている部分の面積全体が二分脊椎児全体の数に相当する.これに対
して斜線部の面積が TT 型の母親から生まれた二分脊椎児の数に当たる.
よって,本問の答えは,
より,26.1
26.1 (%) となる.
9
次に,相対危険度が 10 の場合を考えてみよう.あえて図を載せるまでもないのかもしれないが,
この場合の図を左に挙げた.
この場合も二分脊椎児全体の数のうち何割を 677TT 型の母
親から生まれた二分脊椎児の数が占めるかで,逆に,二分脊椎
児の母親の何割が 677TT 型であるかが言える.
それを導く式は,
となり,答えは 63.8 (%) となる.
補問2(がんの疫学) ’03 年度本試験・問 11(データの年度のみ改(原問題では’01 年データ))
「2006 年の悪性新生物死亡数の多い部位を多い順に男女別に記せ.」【4/14・1 限プリント pp.1】
<解答例>
男
1位 肺
2 位 胃 3 位 肝臓 4 位 大腸 5 位 膵臓
女
1 位 大腸 2 位 胃 3 位 肺
4 位 乳房 5 位 肝臓
補問3(がんの疫学) 新作予想問題「一部のがんは感染症と密接な関係にある.以下に記した
がんの原因と考えられている病原体名をそれぞれ記せ.」
【4/14・1 限プリント pp.4】
<小問出題例と解答例>
成人 T 細胞白血病(ATL)
:成人
成人 T 細胞白血病ウイルス
細胞白血病ウイルス(
HTLV-1)
ウイルス(HTLV肝臓がん:B
B 型肝炎ウイルス
C 型肝炎ウイルス
型肝炎ウイルス(
ウイルス(HBV)
HBV),C
型肝炎ウイルス(
ウイルス(HCV)
HCV)
胃がん:ヘリコバクター・ピロリ
ヘリコバクター・ピロリ(
H.pylori)
ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)
子宮頚がん:ヒトパピローマウイルス
ヒトパピローマウイルス(
ヒトパピローマウイルス(HPV)
HPV)(特に 16,18 型)
バーキットリンパ腫:エプスタイン・バーウイルス
エプスタイン・バーウイルス(
EBV)
エプスタイン・バーウイルス(EBV)
カポジ肉腫:ヒトヘルペスウイルス
ヒトヘルペスウイルス 8 型(HHVHHV-8)
補問4(ピロリ菌の疫学)’03 年度本試験・問 13「ピロリ菌感染について以下の質問に答えよ.
」
1 ) 感染経路は何か.想定されている最も具体的な経路を2つ述べよ.
【4/8・1 限プリント pp.1】
解答:口
口から口
糞便から
から口,糞便
糞便から口
から口
2 ) 最も一般的な感染時期はいつか?【4/8・1 限プリント pp.2】 解答:小児期
小児期
3 ) 日本人の感染率はおよそどのくらいか?【4/8・1 限プリント pp.2】
10 歳代では
20%
20% ,40 歳代では
80%
80% ,70 歳代では
80%
80% .
4 ) ピロリ菌以外の胃がんのリスクファクターには何があるか?【本年度講義では扱われていない
が 4/14・1 限プリント pp.2(がんの疫学・胃がん減少の理由)に関連あり】
高濃度食塩(1960
年代の冷蔵庫の普及で,衛生的な食生活が送れるようになったのは
解答:高濃度食塩
高濃度食塩
もちろんだが,それまでの高塩分による保存に頼らなくてもよくなったことも胃がん減少
10
に効果があったとされる.
)・飲酒
飲酒・喫煙
飲酒 喫煙
5 ) 除菌により胃がんは予防可能か?【4/8・1 限プリント pp.2】
解答:可能
可能.可能だからこそ,もちろん前がん病変である委縮性胃炎,胃潰瘍の予防・治療の
可能
ためでもあるが,がんの予防という目的もあって,ランソプラゾール(プロトンポンプ阻
害薬)
,クラリスロマイシン,アモキシシリンを併用した除菌が試みられている.
6 ) ピロリ菌検査にはどのようなものがあるか? 胃内視鏡を使用する方法につき2つ,使用しな
い方法につき2つの計4つ述べよ.
【4/8・1 限プリント pp.2】
解答:胃内視鏡での生検材料を用いた検査法には,迅速
迅速ウレアーゼ
迅速ウレアーゼ試験
ウレアーゼ試験,鏡検法
試験 鏡検法,培養法
鏡検法 培養法があ
培養法
り,胃内視鏡を用いない方法には,血清抗体検査
血清抗体検査,尿素呼気
血清抗体検査 尿素呼気テスト
尿素呼気テスト,便中抗体検査
テスト 便中抗体検査,尿中
便中抗体検査 尿中
抗体検査がある.
抗体検査
補問5(ピロリ菌の疫学)
講義中に引用された国試(?)問題【4/8・1 限プリント pp.1, 2】
Q1 H. Pylori 感染について正しい組み合わせは a.~e.のどれか.
(1) 本邦における小児の感染は増加している.
(2) 発展途上国の感染率は欧米諸国に比し低い.
(3) 河川水からの感染の可能性は少ない.
(4) 内視鏡洗浄法の向上は感染予防になる.
(5) 感染経路は経口感染である.
a. (1)(2) b.(1)(5) c.(2)(3) d.(3)(4) e.(4)(5)
解答:e.
e.((1)
小児の感染は公衆衛生の向上に伴い減っている.(2) 衛生状態の悪い発展途上国
e.
の方が感染率は高い.(3) 糞便に汚染された河川水を使えば感染する.(4) 内視鏡に前に検
査された患者の菌が残っている可能性が低い方が感染しにくい.(5) 主要な感染経路は口か
ら口である.)
Q2 H. Pylori 感染について正しいものを以下の (1) ~(5) から3つ選べ.
(1) 上部消化管(食道・胃・十二指腸)に広く感染する.… ×(通常,食道には感染し
ない)
(2) 強いウレアーゼ活性を有する.… ○(ウレアーゼ活性によりアンモニアを生成し,
酸性の胃の中での生存を可能にしている.)
(3) 我が国は幼少期から感染率が高い.… ×(衛生環境の改善に伴い幼少期の感染率は
下がっている.
)
(4) 内視鏡生検組織を用いた診断法では生検採取部位が重要である.… ○(幽門付近に
感染しているのでその感染部位を正確に検査することが必要である.
)
(5) 除菌治療にプロトンポンプ阻害剤の併用が効果的である.… ○(胃酸を抑えないと
抗菌薬の効き目が悪くなるとされる.)
解答:(2)
(2),
(4) (5)
(2) (4),
補問6(がん化学予防)本年度予告問題「がん化学予防について以下の問いに答えよ.」
1 ) 米国で乳がん予防として使用されている薬剤1つとその有害作用2つを挙げよ.(1 点)
【4/14・4 限プリント pp.1, 2】
11
<解答例>
薬剤名:タモキシフェン
タモキシフェン(あるいはラロキシフェン
ラロキシフェン)
タモキシフェン
ラロキシフェン
有害作用:
(タモキシフェン,ラロキシフェンともに)子宮内膜がん
子宮内膜がん,
白内障 血栓症(うち,
がん 白内障,
子宮内膜がんはラロキシフェンで低く,白内障,血栓症はラロキシフェンで有意に
低い.
)
2 ) 大腸がんを予防すると考えられる薬剤1つとその有害作用1つを挙げよ.【4/14・4 限プリン
ト pp.3】
<解答例>
薬剤名:アス
アスピリン
消化性潰瘍(胃潰瘍)
〔出血傾向でも可〕
アスピリン,その有害作用:消化性潰瘍
ピリン
消化性潰瘍
または,
薬剤名:セレコキシブ
セレコキシブ,その有害作用:心血管疾患
心血管疾患
セレコキシブ
☆内藤先生担当分試験問題過去問(’07 年本試験より)
1.次の語句について説明せよ.(12 点)<解答例とプリント参考部分は各小問ごとに記入>
① 記述疫学【4/7・1 限プリント pp.1】
健康異常の
・場所(ex. 集積性)・
健康異常の頻度と
頻度と分布を
分布を記載することにより
記載することにより,
することにより,1 ) 時間(ex. 周期性)
人(生物学的要因・社会的要因)についての疫学的
疫学的な
特性を明らかにし,
らかにし,2 ) 疾病の
疾病の発生要因
疫学的な特性を
に関する仮説
する仮説を
仮説を設定する
設定するものである.
する
② 有病率【4/7・1 限プリント pp.2】
ある一時点
.なお,疾病が
ある一時点において
一時点において,
において,疾病を
疾病を有している人
している人の割合(なので,有病割合とも)
割合
発症していても調査時点で治癒していれば有病者としてカウントされない.
③ 罹患率【4/7・1 限プリント pp.2】
ある人口集団
ある人口集団における
ある一定の
観察期間における疾病
発症頻度の率.(率であるから
人口集団における,
における,ある一定
一定の観察期間における
における疾病の
疾病の発症頻度の
分母は時間であり,
)単位は対年あるいは対人-年である.
④ リード・タイム・バイアス【4/8・2 限プリント pp.3】
スクリーニングにおいて,
スクリーニングにおいて,スクリーニングでは患者が臨床医を自発的に受診するよりも早い
段階で疾患が発見されることが多いために,受診から
受診から死亡
ずと長くなるという
から死亡までの
死亡までの期間
までの期間が
期間が自ずと長
バイアスのこと.発見が早いために仮に同じ転機をたどるとしても発見が遅れた場合よりも医
バイアス
師の治療を受ける期間が長くなり,見かけ上予後がよく見えるのである.
〔同じく,スクリーニングで見つかるのは慢性の疾患に偏るので(例えば,急性心筋梗塞の発
作中の患者をスクリーニングで見付けることは考えられない),スクリーニングで発見された
患者は予後がよく見えるバイアスもあり,こちらはレングスバイアスと呼ぶ.〕
⑤ 交絡【4/7・2 限プリント pp.3】
1 ) 研究対象となっている
) 疾病罹患に
研究対象となっている因子
となっている因子と
因子と関連し,2
関連
疾病罹患に影響を
影響を与えるような因子
えるような因子が
因子が存在す
存在
ること.
〔講義での言葉そのままなら,1’ ) 検討している要因と関連があり,2’ ) 疾病頻度に影
響を与える因子が存在すること.〕
⑥ Ecologic fallacy【4/7・1 限プリント pp.3】
〔疫学の研究方法のうち,
「対象集団の個人ごとの資料を基に解析するのではなく,集団(国・
地方など)を単位にして病因と疾病の関係を記載する(ことでその後の疫学研究の方向付けや
12
きっかけとする)方法」を生態学的方法 ecological studies と言ったのであったが,ここでの
Ecologic はそれと同じ意味である.
〕
集団を
集団を単位にして
単位にして分析
結論が個体レベルで
個体レベルで当
てはまるわけではないのに当ては
にして分析した
分析した場合
した場合の
場合の結論が
レベルで当てはまるわけではないのに当
まると思
〔講義での言葉そのままなら,
「間接相関
間接相関,生態学的偽相関
まると思ってしまう誤
ってしまう誤りのこと.
間接相関 生態学的偽相関と
生態学的偽相関
訳される.集団レベルでの
集団レベルでの変数間
観察される関連
ずしも個人レベルで
レベルでの変数間に
変数間に観察される
される関連が
関連が必ずしも個人
個人レベルで存在
レベルで存在する
存在する関連
する関連を
関連を示
すものとは限
〕
すものとは限らないというバイアス」のこと.
らないというバイアス
2.スクリーニングを行うための条件を3つ挙げよ.(3 点)
【4/8・2 限プリント pp.1】
<解答例>
・対象
対象とする
対象とする疾患
とする疾患の
疾患の有病率・
有病率・死亡率が
死亡率が高い
・早期発見
早期発見による
効果が期待できる
期待できる
早期発見による早期治療
による早期治療の
早期治療の効果が
・集団
集団に
集団に対して実施可能
して実施可能である
実施可能である
・スクリーニングの
スクリーニングの精度
スクリーニングの精度が
精度が高い(その評価指標が下の問題3に関連)
・費用効果
費用効果・
費用効果・費用便益のバランスが
費用便益のバランスが取
のバランスが取れている
・有効性
有効性がある
有効性がある
・安全
安全な
安全な方法である
方法である
〔のうちから3つを選んで解答する.〕
3.1000 人の肝がんが疑われる集団に肝がんのスクリーニング検査を行ったところ,検査陽性者
は 300 人であった.肝がん罹患者は 200 人であることが判明し,検査陽性者のうち 150 人が
実際に罹患していた.この検査の感度,特異度,陽性反応的中度,陰性反応的中度を求めよ.
(5 点)
疾患
<ポイント>
検査
感度,特異度,etc…ときたら,すぐに右の
陽性
陰性
ような「2×2表」を書く.
あり
a
c
a+c
なし
b
d
b+d
a+b
c+d
・感度 = 実際の患者(その病気の人)のうち,検査で正しく見つかった人の割合
=(「疾患あり」かつ「陽性」)/「疾患あり」=(a/a+c)×100(%)
・特異度 = その病気でない人のうち,検査で正しくその病気でないと言われた人の割合
=(「疾患なし」かつ「陰性」
)/「疾患なし」=(d/b+d)×100(%)
・陽性反応的中度 = 陽性とされた人のうち,本当にその病気の人であった割合
= (「陽性」かつ「疾患あり」
)/「陽性」=(a/a+b)×100(%)
・陰性反応的中度 = 陰性とされた人のうち,本当にその病気でなかった割合
= (「陰性」かつ「疾患なし」
)/「陰性」= (d/c+d)×100(%)
・陽性尤度比 = 感度/(1-特異度)
=(a/a+c)/(b/b+d)
= その病気の人うち検査で陽性と言われた人の割合
/その病気でないのに検査で陽性と言われた人の割合
=その病気でない人と比較して病気の人はどれくらい陽性が出やすいかの指標
13
<解答例>
疾患
問題に書いてあることを2×2表に書き込むと,右のよ
うになり,ここから表の空欄は下表のように全て順に埋め
検査
られる(まず赤字が埋められて,最後に青字がわかる)
.
疾患
検査
あり
なし
陽性
150
150
300
陰性
50
650
700
200
800
1000
得られた表をもとに,定義通り割合を計算して
いくと右式のようになる.
以上より,
感度=75
75(%)
,
75
特異度=81.3
81.3(%)
,
81.3
陽性反応的中度=50
50(%)
,
50
陰性反応的中度=92.9
92.9(%)
92.9
である.
4.喫煙によるがん罹患の相対危険度,寄与危険度,寄与危険
度割合,人口寄与危険度割合を求めよ.
(4 点)
(記録者注・
右が本問に付された図である.
)
<解答例>
縦軸の単位が人年になっているので,相対危険度はレイト比,
すなわち,(要因ありの場合の人年当たりの罹患率)/(要因
なしの場合の人年当たりの罹患率)となる.
以下,次ページのように計算を進め,解答を得る.
なお,式中でいう白抜き斜線部(「人口集団での罹患率」中
真に喫煙による部分)を左下の小さな図中に示してある.
14
陽性
陰性
あり
150
200
なし
300
1000
5.アブラナ科の野菜摂取が肺がんの予防に効果的かどうかを調べたい.症例対照研究およびコ
ホート研究の2種類の研究デザインで立案せよ.さらに各々の研究の特徴を,対象となる疾病
頻度,研究期間,研究対象者数,寄与危険度,曝露状況の点から述べよ.
(16 点)
(記録者注・
回答欄には「症例対照研究:」
「コホート研究:」と示されたスペースあり.
)
<解答例>
〔本問については差し替え問題を解答することにし,それには含まれない症例対照研究とコホー
ト研究の比較による各々の特徴の指摘部分のみ先に載せる【4/7・2 限講義資料(プレゼンシート
のハンドアウトとは別)pp.2 の表がそのまま答え】
〕
症例対照研究とコホート研究の比較
項目
症例対照研究
コホート研究
対象集団を特定するの
罹患情報
曝露情報
に必要な事前情報
可能
困難
疾病頻度が小さい場合
研究期間
比較的短時間
長期のことが多い
対象者数
少ない(数十~数百) 多い(数千~数万)
研究費
相対的に少ない
多い
関連を表す指標
オッズ比
リスク比/レイト比
寄与危険度
推定できない
推定できる
暴露状況
罹患直前まで把握 変化が把握されない
バイアス
潜在的には大きい
小さい
〔全く同形式であるが,固有名詞のみ差し替えた問題が出題されることが予告されたのでそれを
解答する.
〕
15
本年度出題予告問題
コレステロール降下剤の服用が大腸がんの予防に有効かどうか調べたい.症例対象研究および
コホート研究の 2 種類の研究デザインで立案せよ.
ただし,以下の点に留意して解答すること.
1.研究対象 … 抽出・全数・地域・病院
2.研究方法 … 対照群の設定,マッチング
3.収集する情報 : 情報の収集方法と時期,罹患の把握方法,曝露の評価
4.データ解析 : 関連を示す指標,交絡要因,
(カットオフ)
(記録者注・問題文の「ただし,
」以降を本番でも付けてくれるかは不透明.さすがに,付けてく
れないかも.)
<解答の前提>
純テスト向けな言い方になるが,内藤先生出題の研究デザインを問う問題では絶対に介入をし
てはいけない.すなわち,観察をしている研究者自身が観察対象者(または対象集団)の身体状
況,生活状況,生活環境に変化を与えてはいけない.
なぜなら内藤先生は観察研究しか講義しておられないからであり,その担当範囲の問題で介入
について問われることはあり得ないからである―なんてテスト的な言い方! もちろん,そもそも
分析疫学の手法である症例対象研究とコホート研究はより大きな分類では観察研究の一つなので
あって,介入を行う介入研究とは対置されるものであるから,本問に介入を伴う研究デザインで
答えたら定義に矛盾するのである.
(やってしまったら一番基本的なところなのでおそらく0点で
あろう.)
<各手法の説明を加えつつも,本題については筆者が本番で可能と思われる範囲の解答例>
1.コホート研究
・
・
・
・
コホート研究とは,疾病の要因と考えられている情報に基づいて調査集団を設定し,その後の疾
病や死亡の起こり方が要因の有無やその要因曝露の程度によってどのように異なるかを観察する
研究方法である.
ここでは,疾病の要因と考えられているのはコレステロール降下剤の飲用の有無である.ここ
で研究対象は名古屋大学病院の外来・入院患者とする.
本問ではテーマがコレステロール降下剤による大腸がん(潜在的には長期間をかけて進行する
疾患)の予防効果であるため,長期に渡る観察が好ましいから,結局は本コホート研究を前提に
して長期に渡り継続的に診療記録を付けることで(そのように長期に渡り継続的な診療記録・服
薬記録のある)対象者の確保を目指すしかなかろうが,なぜ当初大学病院を調査の場に設定した
かというと,過去に渡って投薬の記録がきちんと残っているであろうから後向きコホート研究4が
行える利点があろうと考えたのである.
4 過去に要因の記録(ここではコレステロール降下剤の本院での投薬やその参考とするための他院での処方の記録)が残されて
いれば,それに基づいて調査集団を設定することができ,現在までに起こった疾病(ここでは大腸がん)の発生を調査すること
により,記録された要因と疾病との関係を明らかにすることが可能である.このように過去に要因情報を求め,それによる調査
集団の設定を行うものを後向きコホート研究と呼び,記録が残っていなくてはできない方法であるが,疾病の発生という結果を
長期間に渡って待たなくても済むという研究上,経済上のメリットがある.
16
もっとも,ここでは前向きコホート研究を採用する.すなわち,現時点の名古屋大学病院の外
来・入院患者のうち新規罹患状況を見たいから大腸がんの既往歴のある者と大腸全摘術を受けた
者とを除いた集団についてコレステロール降下剤の飲用状況を調べ,この集団を将来 15 年間に渡
って調査し,大腸がんの発生を観察する.
本院ないし関連病院で継続的に診療を受けている患者についての曝露情報はカルテより容易に
かつ通時的に得られる(ので必要に応じて抜粋すればよい)
.一方,通院を終えた患者については
3カ月に1度,郵送でのアンケート調査によりコレステロール降下剤の飲用状況と大腸がんの罹
患状況を把握する.
本研究はコホート研究であるから,関連を示す指標として,具体的にはリスク(累積罹患率)
比あるいはレイト(罹患率)比としての相対危険度,寄与危険度,寄与危険度割合,集団におけ
る人口寄与危険度割合を求めて,コレステロール降下剤服用(曝露あり)群の大腸がん罹患リス
クが有意に上がるのかあるいは下がるのか(血中コレステロールが高値であることは大腸がんの
危険因子とされるから下がってほしいところではあるが),あるいは差はないのかを検証したい.
2.症例対照研究
コホート研究と同様に調査の場所を名古屋大学病院に設定する.が,それはあくまでコホート
研究のように要因や共通特性先にありきではなく,名古屋大学病院内である程度共通するであろ
う(大腸がんの)診断基準を満たしたものを本研究の着目疾患である大腸がんの罹患者,すなわ
ち症例とするためである5.症例の適格条件は「名古屋大学病院の外来ないし入院患者で,生存中
の 40~70 歳の男女で,ほぼ共通の診断基準に基づいて本院の医師が大腸がんと診断して 3 年以
内の者」とする.
(診断 3 年以内としたのは医療関係者・患者の側で要因曝露の状況を正確に追え
る範囲と考えたから.)
これに対し,名大病院の患者のうち大腸がんに罹患していない者の氏名・性別・年齢のみが載
った名簿を用いて,ある症例に対し「その患者と同姓・ほぼ同年齢」であることを対照適格条件
として対照の抽出を進める.結果,症例とほぼ同数の対照となる.
このようにしたのは要因曝露の影響が等しく出る(あるいは出ない)状況を整えたかったから
であるが(大腸がんが比較的高齢者の病気であることを考えると対照を全患者から無作為抽出し
てしまうと症例と対照で年齢に偏りが出る),一方,これ以上の対照適格条件を課すと患者から抽
出している以上対照にも一定の罹患傾向が現れ,それが曝露要因や着目疾患と関連している恐れ
が出ると思われた.
収集する情報は,このようにして集めた症例と対照の各個人におけるコレステロール降下剤の
服用状況である.だが,皆,名大病院の患者であるから診療記録により過去の処方・飲用状況を
調査することができる.一定以上の量をしかも継続的に服用していた者を曝露あり(それ以外を
なし)と評価する.
データ解析は,症例対照研究であるから相対危険度としてオッズ比を用いる.すなわち,
「症例
5 コホート研究では要因曝露の有無で集団を定義し,次いで,着目疾患の有無を観察したのに対し,症例対照研究ではまず疾患
に着目し,その着目疾患を持つ者を症例,持たない者を対照として集団を定義する.現在以降,着目疾患と診断された人を集め
て「症例」としてもよいので,将来に渡って(ここでは罹患)情報を集める前向き研究も可能だが,多くの場合症例対照研究は
現時点で既に出ている罹患情報を集めようとする後向きのものである.
17
における曝露ありと曝露なしの比」
(これがオッズ)と「対照における曝露ありと曝露なしの比」
の比をとったものである.単純に言えば,このオッズ比が小さくなればなるほど「大腸がんでな
い人の方がコレステロール降下剤を飲んでいる割合は有意に高い」ことになり,コレステロール
降下剤を継続的に服用していることと大腸がんに罹らなかったこととの間に何らかの相関がある
ことが示唆される.
<おまけ・本年度講義中の罹患率・有病率に関する問題と解答>
ある集団においてある疾患の罹患状況は右図のようで
あった.図中の赤線は 2002 年 1 月 1 日と 2003 年 1 月 1
日を表している.この赤線で挟まれた期間(つまり 2002
年の一年間)にこの集団に人の出入りはなく,
人口は 1000
人で一定であったとする.
設問1 2002 年の罹患率を答えよ.
答
この期間では 4 人がこの疾患に罹り続けているから
期間を通して at risk(期間中に発症し得る)な対象では
ない.よって,at risk なのは 996 人で,このうちこの期
間に発症(赤線で挟まれた領域から太線が開始)してい
るのは 1 人であるから,罹患率は 1/996 である.
(罹患
に関係なく分母を 1000 とした場合にも正解とする.)
設問2 2002 年 1 月 1 日の有病率〔有病割合とも〕を答えよ.
この一時点において罹患している(2002 年の赤線と太線が交差している)のは 4 人であり,人
口は 1000 人であるから,有病率〔有病割合〕は 4/1000 である.
18