新規計画 - 大阪府立公衆衛生研究所

平成 21 年度 新規研究計画書
新規研究
後発医薬品の溶出性に関する研究
-保存後における溶出挙動の変化-
衛生化学部 薬事指導課
川口正美、梶村計志
■研究目的
医薬品の品質を一定の水準に保つことを目的とした医
療用内服固形製剤の品質再評価事業(平成 10 ~ 19 年度)
く、大阪府の薬務監視行政を側面から支える基礎資料とな
ると思われる。
■研究準備状況
により、我が国で流通する大部分の後発医薬品に対して新
医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されて
たに溶出試験が設定された。溶出試験は、著しい生物学的
いる医薬品の回収事例などをもとに情報を収集している。
非同等性を防ぐことを目的とする製剤試験であり、一定時
また、数種の品目について安定性試験(加速条件:40℃ ,
間後に溶け出す薬効成分の含量(溶出率)を in vitro にお
75%RH)を開始している。
いて測定する。欧米では従来から、数多くの医薬品に適用
■研究計画と研究方法
されてきたが、我が国では最近まで限られた種類の医薬品
品質再評価事業により新たに溶出試験が設定された後発
に要求される試験法であったため、多くの製剤に設定され
医薬品を対象とし、試験を行う。なお溶出試験は、オレン
ることが待望されてきた。
ジブックに溶出曲線が収載されている 4 種類の試験液に
医薬品の販売承認申請には、安定性に関する資料の提出
より行い、保存後の溶出挙動を比較する。
が求められ、通常の保存条件で一定期間、品質が安定なこ
(1) 医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されて
とが保証されている。しかし、品質再評価事業で新たに溶
いる医薬品の回収事例などをもとに選定した数種の品
出試験が設定された製剤は、試験法及び溶出規格のみが設
目について、加速条件(40℃ , 75%RH)下で 30 日間、
定され、溶出性に基づく品質が一定期間安定であることは
保存を行い、溶出挙動を比較する。
確認されていない。近年、製造から一定期間経過した製品
の溶出性が原因で回収される事例が見受けられる。
(2) 溶出挙動に差違が認められた品目を選定し、複数の条
件下で 6 ヶ月間保存を行い、溶出挙動を比較する。
本研究では、品質に対する懸念がもたれている後発医薬
(3) 溶出挙動に変化が認められた品目および条件を選定
品を対象とし、種々の条件下で保存したとき、溶出性がど
し、別ロットについて試験を行い、ロット間における溶
のように変化するのかについて検討を行う。
出挙動を比較する。
大阪府において医薬品産業は地場産業として位置付けら
■この研究に関連する国内外での研究状況
れており、医薬品の品質に関する問題は重要である。本研
医療用内服固形製剤を対象とした、保存後における溶出
究における成果は、府民の安全性の確保に役立つだけでな
挙動の変化に関する報告はほとんどない。
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平成 21 年度 新規研究計画書
新規研究
迅速測定法を用いた微生物モニタリングに関する研究
衛生化学部 薬事指導課
皐月由香 ■研究目的
近年、医薬品の品質保証の考え方が、最終製品の規格へ
ニタリングの方法について検討する。
■研究準備状況
の適合を確認することから開発及び製造中に潜在する品質
医薬品製造用水において、培養法では検出されないが蛍
問題を特定し、コントロールすることによって品質を製造
光染色法では検出されることを確認している。ふき取り実
工程へ組み込むことへと変わりつつある。また、無菌製剤
験により蛍光染色法で検出できることを確認している。
の無菌性保証においては、現在の製品出荷時に行われる製
■研究計画と研究方法
品の抜き取り検査による無菌試験だけでは無菌性を保証で
(1) 微生物を迅速に検出するとされている蛍光染色法を用
きず、滅菌工程のバリデーションを通して証明できるもの
い、製造環境の汚染を想定したふき取り実験を行い、培
とされている。このようなことから、製造工程中の微生物
養法と比較し、処置基準値について検討する。
管理は重要なことと考えられる。
(2) 微生物モニタリングに使用するため、画像処理により
現在の微生物管理においては、培養による方法が一般的
蛍光染色法をより製造現場で使いやすいように改善す
であるが、この方法では日常の微生物管理において、もし
る。
汚染が起こっていた場合に処置を行うまでに時間がかか
■この研究に関連する国内外での研究状況
り、製品の出荷にも影響を与える可能性がある。
蛍光染色法を用いて医薬用水を解析した論文がある。ま
そこで、細菌を蛍光染色し顕微鏡で観察する蛍光染色法
た、無菌医薬品製造技術の無菌性評価に関する研究が、厚
を用いて、製造工程中の微生物管理に有効な迅速微生物モ
生労働科学研究で行われている。
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平成 21 年度 新規研究計画書
新規研究
水道水の安全性に関する研究
衛生化学部 生活環境課
田中榮次、味村真弓、小泉義彦
高木総吉、安達史恵、宮野啓一
■研究目的
を優先的に選定する。今年度の対象化合物は、有機フッ素
水道水は我々が生活する上で必要不可欠なものである。
化合物、医薬品、消毒副生成物等とする。
現在、水道水は水道法による水道水質基準により飲用水と
(2) 分析方法の開発
して安全性が保たれている。しかし、地球上には約 3000
選定した化合物の分析方法を開発し、水道原水や水道水
万種類の化合物が存在しており、水質基準で取り上げられ
への適用を試みる。
ている化合物はほんの一部でしかない。
(3) 実態調査
そこで、水道水の安全性をより確実なものにするため、
水道水源および水道水中における選定した化合物の存在
本研究は主として水道水質基準等で規制されていない化合
レベルを把握する。さらに、浄水処理過程での挙動などに
物の水道水中レベルを把握し、水道水の安全性を評価する
ついても把握する。得られた結果を国内外の報告値と比較
ことを目的とする。
を行い、大阪府内における存在状況を評価する。
水道水を対象にして、国による規制がなされていない化
(4) ヒトへの安全性の評価
合物を先行的に調査し、安全性を評価することは大阪府民
大阪府内の水道水源および水道水から検出された化合物
の健康を守るうえで十分意義のあることである。
について、その検出されたレベルでのヒトに対する安全性
■研究準備状況
現在、水道水に存在することが確認され、詳細な評価が
の評価を行う。
■この研究に関連する国内外での研究状況
必要とされている有機フッ素化合物および医薬品の分析方
厚生労働省や国立医薬品食品研究所などが水道水におけ
法は開発中である。
る未規制物質について研究を行っているが、データは十分
今後、問題になる可能性のある化合物に関しても積極的
ではなく、またその詳細なデータは入手しにくい。また、
に情報収集に努めており、実態把握に向けて分析方法の開
環境水中における化合物の実態調査を行っている研究機関
発にも取り組んでいる。
は多数存在するが、水道水に関してヒトへの安全性まで考
■研究計画と研究方法
慮にいれた研究は少ない。
(1) 化合物の選定
国内外の動向を考慮し、公衆衛生上重要度の高い化合物
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