TRUMP∼Trick or Treat!!∼ 四季 華 タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト http://pdfnovels.net/ 注意事項 このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。 この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範 囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し or Treat!!∼ ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。 ︻小説タイトル︼ TRUMP∼Trick ︻Nコード︼ N6388BV ︻作者名︼ 四季 華 ︻あらすじ︼ TRUMPシリーズの番外編、ハロウィン短編。ある相談を受け た春一は、その調査を夏輝に依頼する。夏輝は捜査を進めていき⋮ ⋮。 1 ﹁夏ー、今日なんの日か知ってるか?﹂ ﹁ハロウィンですよね? 仮装をした子供を何人か見ましたよ﹂ リビングで二人の男が話をしている。一人は短めの髪を立てて、 その左サイドには銀色のメッシュが三本入っている。垂れた両眼は まだ幼さを残しているが、それは力を入れれば鋭く光る。顔立ちは 標準的だが、カーゴパンツに白いYシャツ、ピンの代わりにエンブ レムのついたネクタイという服装は、どこか不良的だ。極めつけは、 彼の左耳に二つついているピアスと、銀色に光る無骨なネックレス や指輪の数々である。 もう一人の男は、ひどく目を引いた。それには二つの理由がある。 一つはその長身である。百八十センチ後半の背丈は、椅子に収める には少々窮屈そうだ。そしてもう一つは、その美麗な顔立ちである。 女性が十人いれば十人振り向くであろう整った顔と、洒落たカフェ はるいち の店員のような服装。それらは彼の優等生ぶりをよく現していた。 ﹁せーかい﹂ なつき 椅子の上で胡座をかいている不良の青年春一は、人差し指を立て て笑顔を作った。その笑顔にもう一人の男、夏輝は背中に悪寒が走 るのを感じた。春一がにんまりと笑う時は、必ず裏がある。そして その﹁裏﹂は、夏輝にとって厄介事である。 ﹁ハル、何を考えてます?﹂ ﹁いんや、何も﹂ あやかしよろずや 嘘だ。そう直感的に判断した夏輝だったが、それ以上追求したと ころで春一が口を割るはずもない。 ﹁で、夏。入った依頼ってのは?﹂ 春一が本題を切り出す。依頼というのは、彼が開いている妖万屋 のものである。人間と妖怪の間で起こるトラブルに赴き、解決する という仕事を春一は請け負っている。夏輝はその助手であり、彼が 2 春一に対して敬語なのもそのためだ。 ﹁実は、依頼というか、福良君からの相談なんです﹂ ふくら ﹁福良の?﹂ 福良というのは妖怪の子供であり、春一の友人でもある。福良は 現在小学二年生である。ちなみに、彼らの種族、呱々︵ここ︶は人 間と姿形は同じなため、妖怪であることを隠して生活している。 ﹁福良が学校から帰っている途中、妖気を感じたらしいです。興味 本位に近付くと、二人の妖怪がある会話をしていたようで﹂ ﹁どんな会話?﹂ そこで夏輝は一呼吸置いた。そして息を吸い、重大な事実を告げ る。 ﹁ハルの拉致計画です﹂ 一瞬その場が凍りついたように停止する。春一も若干目を見開い て、瞬きを忘れる。 ﹁マジか﹂ 春一はそう言ったと思ったら、今度は先程よりも笑顔になった。 ﹁いやー、人気者は辛いねぇ﹂ 面白がっている。夏輝は即座にそう判断した。この笑顔と、しば し上を向いた視線。これは、相手をどう愚弄しようか思案している のだ。⋮⋮本人にそんなことを言ったら﹁人聞きの悪いことを言う きき な。俺は遊ぶだけだ﹂と堂々返されるに決まっている。よって夏輝 はその言葉を飲み込んだ。 ﹁で、詳細は?﹂ ﹁福良君の話によると、その妖怪は二匹とも騏鬼です﹂ ﹁騏鬼ってあれか、日本刀で首を斬る死神﹂ ﹁はい。相手が相手だけに用心はした方が﹂ ﹁わーってるって。じゃ、夏にお願いがあるんだけど﹂ ﹁何ですか?﹂ ﹁その二匹の騏鬼の居場所を洗い出してくれ。あ、夢亜は今、重要 3 案件に追われてるからなるべく使わないでやって﹂ むあ ﹁わかりました﹂ 夢亜というのは春一と同じ高校に通っていた凄腕の情報屋である。 しかし、今回はその夢亜に頼ることはできない。夏輝は騏鬼の居場 所を探るべく、単独で動き出した。 ﹁さて、まずは何か手掛かりを見つけないと⋮⋮﹂ 夏輝は一人、福良が騏鬼を目撃したという公園にいた。十月の終 わりともなると、なかなかと冷え込む。春一達が住む数珠市は日本 の中でも温暖な気候ではあるが、それでも秋が深まった今、迂闊に 薄着などしたら風邪を引いてしまいそうだ。 ﹁福良君の話によると、この辺で騏鬼達は話していたはず⋮⋮ん?﹂ 公園の奥、木々が茂っているちょっとした散歩道に、それは落ち ていた。 ﹁何だ、この紐⋮⋮﹂ それは掛け軸にでも使われていそうな太い紐で、赤の中に金糸が 混じっている。 ﹁これは⋮⋮下げ緒?﹂ その選択肢が出てきたのは、騏鬼という妖怪は日本刀を用いると いう知識があったからだ。日本刀の鞘と着物を繋ぎ、刀が落ちない ようにするための下げ緒は、アクセサリーの意味もあり、装飾がな されている。 ﹁まさか、騏鬼の⋮⋮﹂ 夏輝は道に落ちていたそれを拾い上げて、近くで見てみた。長さ も太さも、下げ緒と一致する。 ﹁いや、しかし騏鬼のものと決めつけるには早計すぎる。もう少し 何か手掛かりを⋮⋮﹂ 見つけよう、と続けようとした夏輝の言葉は、風によって遮られ た。明日から十一月ともなると、もう寒風と呼ぶのに差し支えない 4 風だ。寒さに体を丸めると、何かの香りが彼の鼻をくすぐった。 その異変に気付いた夏輝は、先程の下げ緒を顔の前に持ってきた。 ﹁これは、ローズマリーの香り?﹂ 風に乗って鼻腔をくすぐった香りは、よくよく確かめてみるとロ ーズマリーのものだった。 ﹁何故、下げ緒にローズマリーの香りが⋮⋮?﹂ 腑に落ちない部分はあるが、夏輝には一つ思い当たる節があった。 それは、この香りがどこで付いたか、ということである。 ﹁あの店か⋮⋮?﹂ 春一と夏輝が住む四季文房具店の近くに、ひっそりと佇む白い小 屋のようなショップがある。そこはアロマの専門店で、店を経営し ているアロマセラピストは、その世界では有名らしい。 これだけ強く香るのだから、ローズマリーの葉が少し擦れた、とい うわけではなさそうだ。アロマオイルが垂れてこの下げ緒に染み付 いたと考えるならば、辻褄は合う。騏鬼とアロマショップがどう関 係しているのかはわからないが、少しでも手掛かりが欲しい今、店 に行ってみるのは無駄ではあるまい。 夏輝はそう考えて、足をアロマショップへと向けた。 ギイィ 徒歩で数分。アロマショップへと赴いた夏輝はそのドアを押した。 薄暗い店内には、数えるのが億劫になるくらいの小瓶が並んでいた。 全てアロマオイルだ。よく見ると、ラベルに書いてある文字はそれ ぞれ違う。 ﹁すみません﹂ 店内に一歩入り、声をかける。しかし返事はない。夏輝は更に一 歩踏み込んで、後ろ手にドアを閉めた。 ﹁すみません、どなたかいらっしゃいますか﹂ 5 奥に部屋があるようだ。そこで調合でもしているのだろうか。声 を大きめにして、再度呼びかけた。しかし、返ってくるのは沈黙と 静寂だけだ。 ﹁!!﹂ 夏輝は急にドアから身を離し、半身を翻して入口を睨んだ。確か に、ドアの向こうに妖気が感じられる。人間である夏輝は、妖気を 感じ取れるだけで、それがどの種族のものかという所まではわから ない。もし扉の向こうにいるのが騏鬼だったら。そう考えると、背 中に季節外れの汗が流れた。 自身の武器である、呪符で作られた紐に手を伸ばすと、足音がし or Treat!!﹂ てドアが乱暴に開けられた。 ﹁Trick ドアの向こうから現れたのは、変装をした春一。そして、彼の幼 馴染である丈と琉妃香、それに依頼を持ち込んだ福良である。 ﹁おい、菓子よこせよ。でねーと悪戯するぞ?﹂ ニヤニヤと笑いながら右手を差し出す春一を見て、夏輝は全てを 悟った。 ﹁⋮⋮やってくれましたね﹂ ﹁何を?﹂ 未だにやけ顔をやめない、狼男の格好をした春一。そう、全ては 春一が仕込んだことだったのだ。福良が依頼を持ち込んだのも、公 園に下げ緒が落ちていたのも、それにアロマオイルの香りが付いて いたのも。全ては、夏輝をここに誘導するための仕掛けだった。 ﹁ナッちゃん、トリックオアトリート! ほら、早くお菓子出せヨ﹂ ﹁夏兄、アップルパイは? ないなら⋮⋮わかってるよね?﹂ 透明人間と魔女の格好をした丈と琉妃香はそれぞれ好きなことを 言っている。 ﹁パパ、トリックオアトリート! お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!﹂ 6 春一の狼男を小さくしたような福良が、夏輝を見上げて笑顔を弾 けさせた。 ﹁⋮⋮全く、お菓子をあげる前に悪戯してどうするんですか﹂ ショップの近くにあったコンビニでお菓子を購入し、店内ではち ょっとしたパーティーが開かれていた。ちなみに、このショップは 琉妃香の従姉妹が経営しているため、好きに使っていいらしい。そ の有名なアロマセラピストは、現在旅行中だそうだ。 ﹁福良、いっぱい食べていいからね﹂ ﹁ありがと、パパ!﹂ チョコ菓子やスナック菓子を争うように食べる春一達から死守し たお菓子を、福良の前に持ってくる。彼はぱあっと顔を明るくして、 おいしそうにチョコを頬張った。 ﹁何でこんなこと考えたんですか﹂ ﹁いや、せっかくハロウィンだし何か悪戯をと思って﹂ ﹁⋮⋮悪戯はお菓子をくれない人にするんですよ﹂ ﹁そこら辺はほら、楽しんだもん勝ちってことで﹂ ﹁意味がわかりません﹂ ぴしゃりという夏輝だったが、春一はそれをまるで意に介さず、 菓子を食べ続けていた。 ﹁お前もまだまだだな。俺の仕組んだこんなミエミエの仕掛けに引 っかかるなんて﹂ ﹁悪戯に気付くヒントは、今思えばいくつかありました。わざとヒ ントを出したのでしょう?﹂ ﹁当たり前だろ。悪戯に気付くかどうか、それを見るのもまた面白 いんだよ﹂ さい ﹁依頼を福良が持ち込んだというのが、まず一点目のヒントですね。 もし本当に騏鬼達が話をしていたのなら、育て親である佐伊さんに 言うはずですから﹂ 7 ﹁そ。二点目は?﹂ ﹁夢亜さんが重要案件を追っているということ。彼は一流ですから、 どんな重要案件を追っていても私達のサポートは朝飯前のはずです﹂ ﹁いいね。じゃあ、三点目﹂ ﹁下げ緒は着物と鞘をつなぐもの。それが取れれば、気付くはずで す。それが落ちていたという点﹂ ﹁全問正解﹂ ジュースを呷りながら、春一は満面の笑みで答えた。その横では、 丈と琉妃香が彼のことを睨んでいた。 ﹁くっそー、ハルの一人勝ちかヨ!﹂ ﹁あーあ、あたしが飲むはずだったお酒が﹂ それぞれに不満を言う彼らにいやらしく笑いかけて、春一は更に ジュースを飲んだ。 ﹁いやー、ビール二本もごちそーさん﹂ そこで夏輝は、彼らの話している内容に見当がついた。 ﹁ハル、まさか⋮⋮﹂ ﹁ああ、お前が途中で気づくかどうかで勝負してたんだよ。ビール 一本賭けてな﹂ 最早溜息すら出ないこの現実に、夏輝は頭を抱えた。 ﹁まーまー、そんな落ち込むなって﹂ 夏輝の背中をバシバシと叩きながら、豪快に笑う春一。そんな春 一が憎いようで、どこか憎みきれない。損な兄貴役。そういうこと で、良しとしよう。 夏輝はそう思い始めた。何せ今日は、ハロウィンなのだ。お祭り に沈んだ顔は似合わない。そこまで考えて、彼は顔を上げてジュー スに口をつけた。そして、重要な言葉を忘れていたことに気付く。 ﹁そう言えば、忘れていました﹂ Halloween!!﹂ ﹁? 何を?﹂ ﹁Happy 8 9 PDF小説ネット発足にあたって http://ncode.syosetu.com/n6388bv/ TRUMP∼Trick or Treat!!∼ 2013年10月31日11時30分発行 ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。 たんのう 公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、 など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ 行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版 小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流 ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、 PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。 10
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