「エムウェーブ」 by 大石敏之 OB・教官

「エムウェーブ」
by 大石敏之
OB・教官
長野にある会社の保養所へ親子3人で1泊スキーに来たが、昨日は3月の陽気で雪質が重く、くたくたに疲れてしま
った。
そこで今日は予定を変更、あの金メダリスト清水の活躍でわいた「エムウエーブ」(長野オリンピック屋内スケー
トリンク)でスケートをすることにした。
この建造物は、外から観ても中に入っても怖さを覚えるくらい迫力のある大きさだ。
昼迄楽しく滑り、外の日だまりでのんびりおにぎりを食べていたところ、「ブーン..」とどこからか聞き慣れた音。
空を見上げると細く白い翼と胴体の上に回るプロペラ。
「DG(モーターグライダー)だね...。」
少し足を延ばせば須坂(滑空場)があることは意識にはあったが、久しぶりの親子3人の貴重な週末、「滑空場」
という言葉は自然と避けていた2人(夫婦パイロット)だったが、「寄ってみようか」と、車を千曲川河川敷へ走ら
せた。
滑空場は長野盆地を緩やかに流れる千曲川東岸、須坂市にある。ウインチ曳航がメインだが、その離脱高度でも東
に少しのばせば菅平の山々へと続く尾根に辿り着くことができ、山岳滑翔の入口として絶好のロケーションを誇る。
自分の所属する霧ヶ峰滑空場と兄弟の関係にありメンバーの交流も多い。
案の定訪れるてみると、ピストも教官も旧知の方々で少し安心した。
「乗っていきますよね、ブッキングしましたから。」との御言葉に甘え複座機の後席に収まり、ウインチに牽かれあっ
と云う間に上空へ。今日は信頼(というより尊敬)できる前席パイロットに操縦桿をお願いし、十分景色を楽しむこ
ととさせて頂いた。
春霞のどんよりした空気だが、山に寄せるとしっかりした対流を感じる。ベテランパイロットは上昇気流が収束す
る尾根に狙いを定め機体を大胆に寄せる。翼の先にうっそうと茂る樹林が迫る。
「いやー、渋いですね今日は。」との言葉に反し高度計は当たり前の様に900mを越えた。雪を頂く菅平の山々
が遠くに見える。離陸から30分が過ぎ次の練習生のため帰投する様無線が入った。
「それでは、観光して帰りましょうか。」
林檎畑が多く見える須坂の町を廻り、長野高速自動車道と千曲川を渡る。6年前ブルーインパルスが5色のスモー
クを引きオリンピック開会式会場を目指した長野盆地を、ちょうど同じ高度でゆったり滑る。
「あれが善光寺です。今日はエムウエーブをまわって帰りましょう。」
銀色に輝く巨大建造物が眼下に迫る。バンクをつけ直上を旋回。
2時間前「エムウエーブ」からグライダーを見上げた自分が、今は同じ「エムウエーブ」をグライダーより見下ろ
している。
グライダーの影が、おにぎりを食べた日溜まりを走った。