日消外会誌 36(10) :1396∼1400,2003 年 症例報告 胃病変におけるコーン・ビーム CT を用いた 3 次元空気造影の 3 症例 新古賀病院外科 滋賀医科大学外科学講座* 鈴木 雅之 小林 慶太 蒲池 正浩 黒肱 敏彦 貝塚真知子 谷 徹* 高尾 貴史 近年,超音波検査・CT 検査・MRI 検査などの臨床画像診断法の進歩は著しい.コーン・ ビーム CT とは,円錐 X 線ビームを 360 度 1 回転させて投影で得られる 2 次元データから 3 次元画像を再構成する方法である.今回我々は,優れた空間分解能を有するコーン・ビーム CT を用いた空気造影検査にて胃病変の診断を試みたので報告する.症例 1(早期胃癌)におい ては,癌の描出が可能であった.症例 2(進行胃癌)においては,腹腔内から観察した画像に 構成することで狭窄部を立体的に捉えることができた.症例 3(胃粘膜下腫瘤)においては, 形状・大きさ・表面の性状・食道胃接合部との位置関係を正確に判断することが可能であっ た.臨床応用するためには,診断の恒常性や質的診断を向上など問題が山積しており,今後症 例を重ね検討を行う必要がある. はじめに 意書を書面で戴いた.被検者には前夜の夕食以降 超音波検査・CT 検査・MRI 検査などの臨床画 は絶飲食とし,空気造影のため,検査直前に造影 像検査において,消化器外科領域に限らず,近年 検査用の発泡剤を内服してもらった.使用した のハード・ソフト両面からの画像診断法の進歩に CT 装置は X 線源と検出器が被験者の周りを回転 は目を見張るものがある.CT 検査においても, するオープンガントリー型の CB-CT 専用機種 1988 年臨床の場に登場したラセン走査型 CT(ヘ (日立製,治験中)である.スキャン時間 4.9 秒, リカル CT) は,大幅なるスキャン時間の短縮や体 360 度回転,X 線出力 120kV,2∼65mA,付加フィ 軸方向への高分解能が得られるようになり,3 次 ルタは 2mm アルミを用い,検出器のイメージイ 元血管造影などが可能となった.不得意領域とさ ンテンシファイアモードは 6, 9, 12, 16 インチの 4 れていた消化管病変の診断においても画像精度・ 種類.再構成画素は 512 キューブで空間分解能は 処理の向上によりさらなる発展を期待できるが, 0.488mm という高精細画像が得られる.360 度 1 現時点では造影検査に肩を並べるほどの精度は得 回転で 512×512 マトリックスの投影像が 288 枚 られていない.コーン・ビーム CT (以下,CB-CT 収集される(Fig. 1) . と略す)は円錐状の X 線ビーム投影で得られる 2 症 次元投影データから 3 次元 CT 画像を再構成する 方法である. 例 正常胃における CB-CT 画像を示す(Fig. 2) .胃 体部の皺壁や幽門輪,十二指腸球部が明確に描出 今回,胃病変 3 症例に関して,空間分解能に優 れた CB-CT を用いた 3 次元空気造影について検 討したので報告する. 方 されている. 症例 1 は 54 歳の男性.IIa+IIc 早期胃癌.UGI 検査では胃体下部前壁の浅い陥凹を伴う隆起性病 法 治験中の機種を用いているため被験者全例に同 <2003 年 4 月 30 日受理>別刷請求先:鈴木 雅之 〒830―8577 久留米市天神 120 新古賀病院外科 変を認め,内視鏡検査では IIa+IIc と診断した.提 出標本における病理組織学的深達度は sm であっ た(Fig. 3) . CB-CT 画像を示す.再構成画像を体下部の粘膜 2003年10月 39(1397) 面に調整することにより,癌表面の凹凸が描出さ 像・狭窄像を示し幽門輪からの造影剤の流出は不 れ,IIc を疑わせる粘膜集中像を表示できた(Fig. 良であった(Fig. 5) . 4) . CB-CT 画像では,腹腔内側からの観察が可能 症例 2 は 74 歳の女性.スキルス胃癌.内視鏡検 で,前庭部の狭窄や体下部の伸展が不良である画 査所見では立ち上がりの急峻な周堤をもつ潰瘍性 像を描出できた.しかし,空気で拡がる粘膜を表 病変が幽門口側全周に存在し,幽門前狭窄を認め 現しているため,腫瘍自体は描出されなかった. た.UGI 検査では,胃体下部より全周性の壁硬化 Fig. 1 A cone-beam computed tomography scanning system Fig. 2 A cone-beam CT scanning:normal stomach Clear images of the gastric folds, pylorus ring, and the bulbs of the duodenum were obtained. Fig. 3 Early gastric cancer:Right:Upper GI endoscopy Left:UGI series Double-contrast studies of the stomach show there is a depression(arrow)in the center of the elevated lesion of the anterior wall. Endoscopic findings shows the IIa+IIc type. Final diagnosis:M, Ant, 0-IIa+IIc, 24×38mm, pT1(SM),pNo, sH0, sPo, cMo, CYx, f-Stage IA 40(1398) 胃病変における CB-CT を用いた 3 次元空気造影の 3 症例 日消外会誌 3 6巻 1 0号 Fig. 4 Cone-beam CT scanning Cone-beam CT produces the clear image of the surface and the location of the tumor(arrow) . Fig. 6 Cone-beam CT scanning Hardness of gastric wall and the stenosis of prepylorus ring were observed from the intraperitoneal space. Fig. 5 Advanced gastric cancer:UGI series Double-contrast studies of the stomach show there is a hard wall in the lower body and a stenosis in the antrum. Final diagnosis:LM, circ., 4, pT3, pN2, sHo, cMo, CYo, f-stage III b て描出し,画像処理の角度を変えることにより粘 膜下腫瘤と食道胃接合部との位置関係を明確に表 現できた(Fig. 8) . 考 察 当初 CT による消化管の 3 次元空気造影は,ヘ リカル CT のデータを CT 内視鏡モードとして開 発されたソフトを用いて,3 次元的に再構成する 方法が 1992 年に報告1)されたが,空間分解能の点 で早期胃癌などを描出可能な技術水準に到達して いなかった2)3). ヘリカル CT が 2 次元的な扇形ビームを 360 度 連続回転させながら体軸方向に螺旋軌道を描き データを収集するのに対して,コーン・ビーム CT は円錐ビームを 360 度 1 回転させて,円錐状 の X 線ビーム投影で得られる 2 次元投影データ から 3 次元 CT 画像を再構成する方法である.2 次元検出器を用いるため特に体軸方向の解像度が 優れ,短時間で広範囲の投影像が得られるのが特 (Fig. 6) . 徴である. 症例 3 は 63 歳の男性.胃粘膜下腫瘤.胃内視 新しい試みである 3 次元空気造影とは空気と消 鏡・UGI 検査を示す(Fig. 7).胃体上部に隆起性 化管の粘膜との変曲点を 3 次元的に再構成する方 病変を認め,内視鏡では形状・表面の性状・腫瘍 法であり,消化管の外形・内腔が多方面から観察 の位置が判断され,UGI では形態・腫瘍の位置が できる4). 明確であった. CB-CT 画像では,体上部後壁の隆起性病変とし 今回,我々は空間分解能に優れた CB-CT を用 いて,胃病変(早期胃癌・進行胃癌・胃粘膜下腫 20 03年10月 41(1399) Fig. 7 Right:UGI series Left:Upper GI endoscopy Endoscopic findings show the submucosal tumor with no bridging fold close to the esophago-cardia(EC)junction. Double-contrast studies of the stomach show an elevated lesion 4 cm from the EC junction. Fig. 8 Cone-beam CT scanning Cone-beam CT scanning clearly produced tumor’s site(black arrow;tumor, white arrow;EC junction) , and appearance including size and surface. 瘍)の診断目的に臨床治験を試みた. に関しては検討症例が少ないため診断基準までに 症例 1 においては早期胃癌の 3D 画像が可能で は至らず,今後の課題と考える.症例 2 において あった.すなわち再構成画像を胃内側,前庭部か は進行癌を腹腔内より観察する画像作成が可能で ら体部を観察する方向に調整することで,IIa+IIc あり,発泡剤により進展良好な胃体部や癌による 様の隆起・陥凹を描出できた.本症例では仮想内 狭窄部を 3D 画像としてとらえることができた. 視鏡検査的な画像を得ることができたが,深達度 通常 CT 検査で描出できる腫瘍の形態に関して 42(1400) 胃病変における CB-CT を用いた 3 次元空気造影の 3 症例 日消外会誌 3 6巻 1 0号 は,画像化が困難であり,他臓器への浸潤やリン 度の向上により質的診断が向上すると考えられ パ節転移の有無に関しては診断不可能であった. た. 症例 3 においては,胃粘膜下腫瘤の形状・大き また,現在普及されはじめたマルチスライス さ・表面の性状・食道胃接合部との位置関係を CT(Multi-Detector-rowCT)6)でも 3 次元空気造影 CB-CT 画像のみで正確に判断することが可能で は可能と考えられ,この機種による本法の検討が あった. 待たれる. CB-CT はヘリカル CT に比べ空間分解能が改 善されているが,現在の方式では視野が制限され ているため,視野の広い平面センサーなどの 2 次 元検出器の技術改良が期待される.またコントラ スト分解能が低く,データ量が多いため 2 次元再 構成画像においてノイズが多いなど,CB-CT を直 ちに臨床応用するには改善されなければならない 諸問題はある5).長所としては,造影剤を使わず, 5 秒以内の撮影時間で消化管の粘膜面の 2 重造影 が可能となり,どの角度からでも画像を作れるた め造影剤による死角がない.また,検査医の技術 水準に関係なく病変を描出できるという利点もあ る. 上述のごとく改善しなければならない点が存在 するものの,UGI 検査・胃内視鏡検査・腹部 CT 検査とは異なる視点から,病変の存在診断が可能 であり,また症例の蓄積や 2 次元再構成画像の精 稿を終えるにあたり御指導を頂きました新古賀病院放 射線科,小林尚志先生に深謝する. 文 献 1)小林尚志,松枝 清,山田公治ほか:3 次元 CT による新しい画像診断;1 現状および四次元化へ の初期的な試み.I. VISION 7:45―52, 1992 2)小林尚志,奥村敏之,雨宮隆太ほか:3 次元 CT による管腔臓器・大血管の内視イメージについ て;volumetric CT を用いた新しい試み.日医放 線会誌 52:1195―1197, 1992 3)Kobayashi H, Okumura T, Matsueda K et al:Inner images of the aorta:A new attempt with a volume CT scanner. Radiology 185:364, 1992 4)小林尚志,永松直樹,井手克美ほか:コーン・ ビーム 3 次元 CT の可能性と課題.新医療 26: 58―62, 1999 5)小林尚志,神田哲朗,永松直樹ほか:CT 以前,そ して,マルチスライス CT とコーンビーム CT の 話題まで.I. VISION 14:4―11, 1999 6)林 宏光,高木 亮,市川太郎ほか:らせん走査 型 CT の新しい技術:Multidetector-row(多列検 出器型)CT を理解するために.日獨医報 44: 330―341, 1999 Three Cases of Gastric Lesions demonstrated by 3 Dimensional Aerography using Cone-Beam Computed Tomography Masayuki Suzuki, Masahiro Kamachi, Machiko Kaizuka, Takashi Takao, Keita Kobayashi, Toshihiko Kurohiji and Tohru Tani* Department of Surgery, Shin-Koga Hospital Department of Surgery of Shiga University of Medical Science* Diagnostic imaging techniques such as ultrasound, computed tomography(CT), and magnetic resonance imaging have rapidly progressed. Cone-beam CT provides excellent space by rotating a cone X-ray beam at 360° . We present three clinical cases of gastric lesions by 3 dimensional aerography using cone-beam CT. Preoperative diagnosis of early gastric cancer(Case 1)was revealed. In advanced gastric cancer(Case 2) , the lesion was clearly observed from the intraperitoneal space. In gastric submucosal tumor(Case 3) , tumor shape, size, surface, and site were clearly imaged, enabling a definitive diagnosis. Further study is needed, however, to improve diagnostic quality. Key words:computed tomography, aerography 〔Jpn J Gastroenterol Surg 36:1396―1400, 2003〕 Reprint requests:Masayuki Suzuki Department of Surgery, Shin-Koga Hospital Tenjin 120, Kurume, 850―8577 JAPAN
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