ディジタル処理 連 載 のための アナログ 回 路 設 計 変換速度と分解能のバランスがとれた A − D コンバータ 第 4回 逐次比較型のしくみと性質 今回のターゲット回路ブロック アナログ 信号入力 ディジタル 出力 アイソレータ アナログ 入力 Kunihiko Matsui 基準電圧源 温度補償型ツェナー・ダイオード 埋め込み型ツェナー・ダイオード ハンドギャップ・リファレンス クロック ロー・パス・フィルタ (水晶発振器) (アンチエリアシング・フィルタ) A-Dコンバータ・ アンプ ドライバ 逐次比較型 A-Dコンバータ 200kHz −2.054dB 0 −100 0 FREQ[Hz]1M 松井 邦彦 メモリ回路 CPU/DSP/FPGA (ディジタル処理部) FFTアナライザ 分かるようになること ・逐次比較型 A − D コンバータのしくみ ・逐次比較型 A − D コンバータの精度は内蔵 の D − A コンバータで決まる ・微分非直線性誤差とミッシング・コードの 関係 ・サンプル&ホールド・アンプの動作 ・サンプル&ホールド・アンプがアパーチ ャ・ジッタ誤差を決める 逐 次 比 較( SAR ; Successive Approximation Register)型 A − D コンバータは,速度,精度,価格 逐次比較型 A − D コンバータの一長一短 の点で非常にバランスのとれた A − D 変換方式で,多 くの IC メーカから市販されています. Zアナログ入力信号は DC から OK 表 4 − 1 に,比較的高分解能・高速な逐次比較型 A − 逐次比較型の最大の特徴です.DC から動作すると D コンバータの一例を示します.実際には 8 ∼ 12 ビ ットの汎用タイプが人気のようです.また,変換原理 いうことは,極端な話ではワンショット・パルスでも 良いということです. 上,同時サンプリング(複数入力を同じタイミングで サンプリングする)に向くことから,入力が多チャネ ΔΣ型 A − D コンバータはオーバーサンプリングを するため,サンプリング信号は連続信号である必要が ルなものも増えています. あります.今後連載の中で紹介する高速 A − D コンバ 逐次比較型 A− D コンバータの性能を 100 %出すには, 入力部のサンプル&ホールド・アンプが必要です.最 ータでは,サンプリング周波数が数 M ∼数十 MHz と いうように周波数範囲が決められているものが多くあ 近は A − D コンバータ IC に内蔵されていますが,かつ ては外付けで,設計に頭を悩ましたものでした.サン ります. では,得られるメリットは何でしょうか.今回のタ プル&ホールド・アンプを内蔵した A− D コンバータを サンプリング A − D コンバータと呼ぶ場合もあります. ーゲット回路ブロックを見てください.逐次比較型 A − D コンバータの応用例として FFT アナライザを紹 サンプル&ホールド・アンプは逐次比較型だけに有 介しています. 効なわけではありません.他の A − D コンバータでも S/N の改善や同時サンプリングに応用できます. FFT アナライザを使った方は分かるかと思います が,周波数レンジがたくさんあります.例えば, 今回は,逐次比較型 A − D コンバータのしくみにつ いて説明した後,サンプル&ホールド・アンプの効果 1 Hz ∼ 100 kHz,あるいは 1 m ∼ 10 kHz などです. この間をさらに細かく(1/3/5)分割できます.これら を実験を交えて紹介します. 多くの周波数レンジに対応するには,上記の特徴があ 192 2007 年 11 月号 ディジタル信号処理 のための アナログ 回 路 設 計 ここにサンプル&ホールド・アンプが入る 比較①一番重い8gを天秤に乗せDUT (5g)と比較.天秤皿> ビットは‘0’ (おもりは取り去る) DUTだったのでD(MSB) 3 Vin と VDAC を比較する) コンパレータ( 比較③ 4gの次に重い2gをDUTと比較.天秤皿>DUT (2gは取り去る) だったのでD1ビットは‘0’ コンパレータの結果により A-D 変換 データを‘1’にするか‘0’にするかを 決定する 天秤皿の重さ[g] (DUT) 10 8g 5 アナログ 入力 Vin 0 VDAC 逐次比較 DN -1 レジスタ D-A A-D (SAR) コンバータ 変換データ ⋮ ⋮⋮ (DAC) ( ビット) N D0 変換終了 内部クロックの場合 A-D 変換時間は固定 クロック 比較④ 2gの次に重い1gを天秤皿に乗 せ,DUTと比較. 天秤皿=DUTだった (変換終了) のでD0ビットは‘1’ 6g 4g 5g 比較② 8gの次に重い4gを天秤皿に乗 せ,DUTと比較.天秤皿<DUTだったの (おもりはそのまま) でD2ビットは‘1’ D3 D2 D1 D0 (MSB) 変 変 換 換 開 ‘0’ ‘1’ ‘0’ ‘1’ 終 始 了 時間 合計=4g (D2) +1g (D0)=5g DUT (被測定物) バイナリ・ウェイトをもつおもり群 変換開始 天秤 (a)内部ブロック図 (b)変換のしくみ 図 4 − 1 逐次比較型 A − D コンバータの動作原理 る逐次比較型 A − D コンバータがうってつけなのです (他の方式でも同様のことができるが複雑で大変) . スタ(SAR),クロックの 4 ブロックから構成されてい ます(サンプル&ホールド・アンプは×の箇所に入る) . ワンショット・パルスでも動作することを利用して, 信号が入力されるごとに A − D 変換すれば消費電流を クロック内蔵の IC であれば,アナログ信号を入力 するだけで A − D 変換できます. 小さくすることもできます. Z入力チャネル数を簡単に増やせる ● 変換のしくみは天秤を使った計測方法と同じ 逐次比較型 A − D コンバータはマルチプレクサを使 ( b) 逐次比較型 A − D コンバータの動作は,図 4 − 1 って入力チャネル数を簡単に増やせます(安価なシス テムを構築できる).これは,ワンショットでも動作 のように天秤で重さを量るときの動作によく例えられ ます.分解能が 4 ビットの場合,1 g,2 g,4 g,8 g するため,自由な入力のタイミングで A − D 変換を行 えるからです.詳細は次号以降で紹介します. といったバイナリ・ウエイトを持ったおもりを用意し, 天秤の片方の皿に DUT(被測定物) を乗せます. 逐次比較型 A − D コンバータ IC のなかにはマルチ 例えばこの DUT の重さを 5 g としましょう.変換 プレクサを内蔵しているものも多くありますが,通常 は 4 ∼ 16 チャネル程度です.マルチプレクサを外付 の手順は次のとおりです. ① 最も重いおもり(MSB ;この場合は 8 g)を,もう けすると数十∼ 1000 チャネルまで増やせます. Z 18 ビット以上の分解能では DNL が悪化してしまう 一方の天秤皿に乗せて比較します. この場合は,天秤皿> DUT だったので,8 g は取 DNL の詳細は今回解説します.逐次比較型 A − D ビットは‘0’とします. り去り,D3(MSB) コンバータでは高分解能な IC ほど DNL 悪化の傾向が あります.最近では,逐次比較型 A − D コンバータに ② 8 g の次に重い 4 g のおもりを天秤皿に乗せて比較 します.今度は,天秤皿< DUT なので,4 g は乗せ もオーバーサンプリング処理を応用して分解能を上げ た製品も登場しはじめました.高分解能の分野ではΔ たままにして D2 ビットを‘1’にします. ③ 4 g の次に重い 2 g のおもりを追加(合計 6 g)して Σ型 A − D コンバータとの競合がしばらくは続くもの と思われます. 比較します.今度は重くなり過ぎ(天秤皿> DUT)な ので,2 g のおもりは取り去って D1 ビットを‘0’に します. 逐次比較型 A − D コンバータのしくみ ④ 最後に,一番軽いおもり 1 g を天秤皿に乗せて比 較します.その結果,天秤は平衡したので D0 ビット ● 回路構成 図 4 − 1 に示すように,逐次比較型 A − D コンバータ は‘1’にします.このときのおもりの合計,すなわ ち 5 g が被測定物の重さになります. は,D − A コンバータ,コンパレータ,逐次比較レジ * 2007 年 11 月号 193
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