4 AD変換,DA変換 岐阜大学大学院 工学研究科 応用情報学専攻 1 標本化 信号x(t)は連続値を取りうる時刻tの関数な ので,すべての時刻について信号の値を取り 込むためには,無限の処理能力,無限のメモ リが必要になる. 通常,離散的な時刻での信号の値のみを取 り込み処理する. 信号x(t)から離散的な時刻tでの値を取り出 すことを標本化という. 標本化は,一定間隔毎に行われ,この間隔 は標本間隔,あるいはサンプリング間隔という. 2 標本化 標本間隔の逆数を標本化周波数,あるいはサンプリン グ周波数という. 標本化間隔がτの場合,時刻t=nτ,n=0,±1,±2,・・・で信 号x(t)が標本化される. xn=x(nτ), n=0,±1,±2,・・・ xn,n=0,±1,±2,・・・を標本系列という. 標本化周波数をfs=1/τ(Hz),ωs=2πfs (rad/s)と書くことにす る. 3 量子化 ディジタル計算機では,信号の値を実 数,つまり無限の精度で扱うことができ ない. そのため,信号値をN個の整数0,1,・・・, N-1に変換して計算機に取り込む. この操作を量子化といい,Nを量子化 レベルという. 計算機では,この量子化により得られ た整数を2進数で表現するので,量子 化レベルNは2のべき乗数2nとなるよう に選ばれる. nを量子化ビット数という. 4 AD変換 標本化と量子化の両方を施すことをディジタル化,ディ ジタル化された信号をディジタル信号という. もともとの信号x(t)をアナログ信号という. アナログ信号からディジタル信号への変換をAD変換 (Analog to Digital Transform)という. 5 AD変換により何が失われる? アナログ信号の微小な変化を表現するためには,高 い量子化レベルで量子化しなければならない. アナログ信号の素早い変化を表現するためには,高 い標本化周波数で標本化しなければならない. 量子化については,量子化レベルを増やすことによっ て,アナログ信号を表現する精度が高くなる. 標本化については,ある一定の条件で標本化すれば, 元のアナログ信号の情報が失われない. 6 標本化信号 時刻t=nτについては値x(t)をとり,それ以外の時刻では 値ゼロをとる信号を標本化信号,あるいは離散時間信 号という. x(n ), n Z x (t ) others 0, 連続な時刻tに対して定義さ れている. ただし,Z={0,±1,±2,・・・} は整数から成る集合. 7 標本化信号 標本化信号 x ( t ) は,x(t) と間隔 τ のインパルス列信号 ( t ) の積 x (t ) x(t ) (t ) で表現できる. この間隔 τ のインパルス列信号 ( t ) のフーリェ変換は, ωS ωs (ω) になり周波数軸でもインパルス列になる. 8 標本化信号のフーリェ変換 信号x(t),標本化信号 x (t ) のフーリェ変換をそれぞれX(ω),X (ω) とする. 標本化信号のフーリェ変換は, X (ω) X (ω) ωS (ω) であり,インパルス列信号は, ωS (ω) ∞ ∑(ω-ω n) S n ∞ と 表わされるので,これを上式に代入すると, ∞ X (ω) X (ω) ∑ (ω-ω n) S n∞ ∞ ∑X(ω-ωS n) となる. n∞ 9 標本化信号のフーリェ変換 標本化信号 x (t) のフーリェ変換 X (ω)は,元のアナログ信号 x(t)のフーリェ変換X(ω)をωsづつずらして加えたものである. 10 エイリアジング 元のアナログ信号の周波数帯域がωmaxであると,これが サンプリング角周波数ωs=2π/τの1/2より小さければ標本 化信号x τ ( t )のスペクトルX τ (ω) のスペクトルの重なりは 生じない. ω max ωS /2 であると,スペクトルの重なりが生じるため, における周波数ωの成分と周波数 ω nωS , n ∈Z の成 分が融合し,これらを区別できなくなる. →エイリアジング エイリアジングが生じると標本化信号x τ ( t )から元のアナ ログ信号x(t)を復元できない. 11 標本化定理 ωmax<ωs/2である場合には,標本化信号のスペクトル X τ (ω)1 から (-ωs/,ωs/2)の部分を取り出すことにより元のアナログ信号を完全 に復元できる. →標本化定理,あるいはサンプリング定理 標本化周波数fsあるいは 標本化角周波数ωsの1/2 の周波数をナイキスト周 波数という. 12 標本化定理,エイリアジングの例 周波数8kHzの余弦波をアナログ信号x(t)とする場合 左図に波形,右図にスペクトルを示す. 標本化周波数10kHzで標本化したとき,左図の黒丸となる.ま た,その時のスペクトルを右図に示す. 13 標本化定理,エイリアジングの例 fmax=8(kHz)に対して,標本化周波数fs=10(kHz)で,明ら かにエイリアジングを生じる. 2kHzの余弦波と解釈される. 8kHzの余弦波を標本化するためには,その周波数の2 倍である16kHzを超える標本化周波数で標本化しなくて はならない. エイリアジングを避けるため,元のアナログ信号を低域 通過フィルタ(LPF)により帯域制限する必要がある. →アンチエイリアジングフィルタ 14 ディジタルオーディオのための標本化 ヒトの可聴域は20kHz程度であるため,生の音楽を最大 周波数fmax=20(kHz)となるように帯域制限する. 帯域制限された音楽の最大周波数fmaxの2倍である 40kHzを超える周波数で標本化すれば,エイリアジング を起こさない. 実際には,余裕を持たせてCDではfs=44.1(kHz),DVD では,fs=48(kHz)で標本化している. 15 DA変換 DA変換とは? デジタル信号をアナログ信号に復元すること. DAC(DA converter) DA変換を実現するハードウェア(電子回路)のこと. 16 DACの種類 DACは2種類に大別される. ラダー抵抗を利用したもの パルス密度変調(Pulse Density Modulation;PDM),パルス幅変 調(Pulse Width Modulation;PWM)を利用したもの 17 ラダー抵抗を利用したDAC ラダー抵抗 接点Aから左を見たときの抵抗値は,2Rである. 接点Bから左を見たときの抵抗値も,2Rである. すべての接点において,左を見ても右を見ても抵抗 値は2Rである. 18 ラダー抵抗を利用したDAC Nビットラダー抵抗回路 ディジタル入力に0から2N-1の整数が2進数で入力される. DN-1が最上位ビット(MSB),D0が最下位ビットである. 各ビットはスイッチによって制御され,“1”となった場合,Vrefに 切り替わり,“0”となった場合,グランドレベル(0V)となる. 19 ラダー抵抗を利用したDAC ビットDkだけが“1”で,他のビットが“0”の場合. 接点Cから左を見ても右を見ても2Rである. 接点Cを基準にみると, 右図のような分圧回路となる. 接点Cの電圧はVref/3となる. 20 ラダー抵抗を利用したDAC 接点Cの一つ右の接点では,1/2に分圧される. 最も右の接点Eまで順に分圧され,Vref/(3・2N-k)となる. 21 ラダー抵抗を利用したDAC 任意のディジタル入力の場合: 重ね合わせの理より,最も右の接点E,つまり,オペアンプによ る電圧バッファ回路の出力Vsは, Vref Vs N 3 2 N -1 ∑2 k Dk k 0 ディジタル信号の値をその値に比例した電圧のアナログ 値に変換することができる. 22 ラダー抵抗を利用したDAC ディジタル値をアナログ値に変換した後は,標本点ごと に各標本点の値をもつ標本化信号を生成し,基本スペ クトル区間(-ωs/2,ωs/2)を取り出せばよい. しかし,厳密な意味でのインパルスを生成するのは難し いため,標本点の値をホールドしたステップ信号, x(t)=xn,(n-1/2)τ≦t≦(n+1/2)τ で代用する. 23 ステップ信号を用いた場合 基本スペクトル区間(-ωs/2,ωs/2)を取り出したとしても, 厳密には元のアナログ信号x(t)とはならない. 24 PWMを利用したDAC ディジタル回路のみで実現可能なもっとも簡単なDACで ある. PWM信号の作り方 1. 鋸波や三角波状のキャリア信 号を作成する. 2. DA変換したいディジタル信号 とキャリア信号を比較する. ディジタル信号の方が大きい場 合,”high”レベルの電圧を生成 し,小さい場合,”low”レベルの 電圧が生成される. →パルス幅モジュレーション (Pulse Width Modulation) 25 PWMを利用したDAC ディジタル信号とアナログ信号を比較するために最低限 必要な時間間隔(τcy)毎に行われる. τcyの逆数を命令サイクルfcyと呼ぶ. キャリア信号の1周期をτc,周波数をfcとする. “high”となる電圧の幅はτc/τcy(=fcy/fc)段階に調整でき る. →fcy/fcを量子化レベルという. 26 PWMを利用したDAC 量子化レベルは,2Nとなるように選択される. →整数Nを量子化ビット数という. 量子化レベルが大きいほど,振幅の微小な変化を表現 できる. 量子化レベルを大きくするには,キャリア周波数を小さく せざるを得ない(fcy/fc=2Nの関係より) キャリア周波数を小さくすると,信号の急激な時間変化 を表現することができなくなる. 27 PWMを利用したDACの例 命令サイクルfcy=24MHzで,10kHzの正弦波をDA変換 する. N=8の場合(fc=約93.75kHz) PWMノイズ 28 PWMを利用したDACの例 N=5の場合(fc=約750kHz) PWMノイズは,遠ざ かっている. 振幅を正確に表現できて いない. 29 PWMを利用したDACの例 N=9の場合(fc=46.875kHz) PWMノイズと原信号が かぶっている. ひずみは,高い周波数に現れるが,キャリア周波数が低くなるにつれ,ひ ずみも低い周波数に現れる. キャリア周波数は,目的とする信号の最大周波数の10倍程度以上であるこ とが望ましい. 30 AD変換 AD変換とは? アナログ信号をデジタル信号に変換すること. ADC(AD converter) AD変換を実現するハードウェア(電子回路)のこと. 電圧が変化している入力信号x(t)を一定の標本間隔 毎に,標本化して量子化し,最終的に2進数に変換す る. 31 ADコンバータ 一般的に使われるADCの種類 逐次比較型 (SAR) フラッシュ型 パイプライン型 ΣΔ型 32 分解能と変換速度 分解能と変換速度は,トレードオフの関係にある. 高分解能化に適した方式では高速化は難しく,高速化 に特化した方式では高分解能化は難しい. 33 逐次比較型(SAR) 処理の流れは,二進数を求める際のプロセスに似ている. 11を4ビットの二進数で表現する例 11≧23 なので,D3(MSB)ビットを1. 11<23D3+22=12 なので,D2=0. 11≧23D3+22D2+21=10 なので,D1=1. 11≧23D3+22D2+21D1+21=11 なので,D0=1. 11の2進数は,(D3,D2,D1,D0)=1011(2)となる. 解像度を上げながら,AD変換したい数値と逐次比較し ながら,上位ビットから下位ビットを順番に決定していく. 34 逐次比較型(SAR)の原理 0~15(V)の間で変化する入力電圧VinをAD変換する. 4ビット逐次比較型ADCの処理の流れ 1.逐次比較レジスタの値を B3=B2=B1= B0=0に初期化する. 2.k=3,2,1,0について順に3.の処 理を行う. 3.Vc=23B3+22B2+21B1+20B0 とVin を比較し,Vin≧VcならばBk=1とす る. 4.AD変換値をDk=Bk,k=0,1,2,3 として出力する. 35 逐次比較型(SAR)の特徴 Vcの算出は,ラダー抵抗によるDACが行う. DACの性能がAD変換の精度を左右する. DA変換の精度は高くても18bitなので,逐次比較型ADCの精 度も18bitが限度である. 逐次比較を行うため,量子化ビット数に比例した処理時間が必 要となるため,サンプリング周波数は4MHzが上限である. 36 フラッシュ型 原理としては,もっともシン プルなADCである. 想定される入力電圧Vinの 上限をVrefとし,抵抗による分 圧回路を用いて2N等分され ている. 37 フラッシュ型の原理 kVref/(2N),k=1,2,・・・,2N-1 である参照電圧を得る. 参照電圧とAD変換したい入 力電圧Vinを同時に比較する. Vin≧kVref/(2N)を満たす最大の 整数kが見つかる. バイナリ・エンコーダによって, kを二進数に変換する. 38 フラッシュ型の特徴 コンパレータ,ラッチは,量子化ビット数Nに対し,2N-1組 必要となる. 原理はシンプルであるが,大規模な回路が必要になる. 量子化ビット数は,N=8が上限である. 瞬時にAD変換を終わらせることができ,サンプリング周 波数はfs=1.5GHz程度まで可能である. (もっとも高速なADCである) 39 パイプライン型 逐次比較型ADCは,量子化 ビット数を高くすると変換に ビット数分の時間がかかる. 2ビット程度のフラッシュ型 ADCをパイプラインに接続す ることによって,高速化を実 現する. 40 パイプライン型の原理(ステージ1) ステージ1 2ビットフラッシュ型ADCによ り,0,16,32,48のいずれか に量子化される. →上位2ビットのビットの値 になる. この値をDA変換し,元の入 力値との差をとる. →この差分値が2ビットADC で表現しきれなかった残りの 値として,次のステージに送 られる. 41 パイプライン型の原理(ステージ2, 3) ステージ2 ステージ1から送られてきた値 を4倍する. ステージ1で行った処理と同 様の処理を行う. →上位3~4ビットがビットの値 になる. ステージ3 入力された値を4倍し,量子化 する. →下位2ビットがビットの値にな る. 42 パイプライン型の特徴 3クロック分の処理時間が必要になる. 時刻tの入力信号がステージ1の処理を済まし,ステージ 2に送られると,ステージ1が空くので,次の時刻t+τでの 入力信号の処理を行うことができる. 時刻tの入力信号がステージ3で処理されているとき,ス テージ2では時刻t+τを処理し,ステージ1ではt+2τを処理 する. 1クロック当たりに,1サンプルのAD変換を可能である. 43 パイプライン型の使用 1つのステージで2ビットのAD変換を行ったが,理論上,フラッシュ 型ADCで実現可能なビット数まで上げることができる. 実際のパイプライン型ADCは精度を上げるため,ステージ2以降 の利得を2倍とし,1ビットづつオーバーラップさせビットを確定させ る. 44 ΣΔ 型 より高い分解能を実現することを目的に開発された. ΣΔ 型ADCは, 1. 2. サンプル&ホールドされたアナログ入力をその値に比例した密度のビッ ト・ストリームに変換する部分 得られたビット・ストリームをディジタル回路により密度に比例した数値に 変換する部分 に分けられる. 45 ∑Δ 型の前段部分 1ビットADCは,入力がVref以上なら1,Vref未満なら0を出 力する. 1ビットDACは,入力が1ならアナログ値Vmax,0ならば,ア ナログ値0を出力する. 46 ∑Δ 型の前段部分 ブロック図を書きなおすと, Vin≦Vmaxである必 要があるが, Vmax,Vrefは,任意 の値で良い. 47 ∑Δ 型の後段部分 Vinの電圧値が,Voutにおける“1”の密度に変換された. →後段のディジタル回路により,Voutの“1”の密度をカウントす ることにより, Vinのディジタル値を得ることができる. 48 ∑Δ 型の特徴 Voutは,周期性をもつ. Vin/Vmaxをもっとも簡単な有理数で表現した際の分母の整数が繰 り返しの周期に一致する. Vin/Vmaxを1/2Nの分解能で量子化するためには,2Nクロック分の 時間がかかる. 時間さえかければ,いくらでも精度よく量子化することができる. サンプリング周波数は,クロック周波数をfcyとして,fcy/2Nとなるの で,一般的には高速化は難しい. 49
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