青少年の非社会問題行動への対策について

青少年の育成に関する懇談会・発表資料
2002.10.18
報告者
斎藤
環(爽風会佐々木病院・精神科診療部長)
青少年の非社会問題行動への対策について
1.
1-1
社会的ひきこもり
定義
( 自 宅 に ひ き こ も っ て )社会参加をしない状態が6カ月以上持続してお
り、精神障害がその第一の原因とは考えにくいもの
※ただし「社会参加」とは、就学・就労しているか、家族以外に親密な対人関係がある状態を指す。
(資料ビデオ紹介)
1-2
事例に共通する主な特徴
ほとんど外出もしないまま自室にとじこもり、昼夜逆転し た生活
強迫症状、対人恐怖症状などの精神症状を示す場合も
ときには家庭内暴力や自殺未遂にいたることも
放置した場合、自然な回復が期待できない
多くは不登校から長期化
きっかけとしては、受験の失敗、就労の失敗など、なんらかの「挫折」体験
ただし、こうした挫折体験は必ずしも必須のものではない
内向的で、家庭では「手のかからない良い子」とみられがちだった男性に多い
しかし特定の性格傾向・家庭環境との関連性は必ずしもあきらかではない
家庭内の悪循環を基本とする、個人−家族−社会のシステム論的デカッ プリング
(→図1,2
参照)
「ひきこもり人口」推定80万∼120万
関連する現象としてパラサイト・シングル1000万人、フリーター150万人
ひきこもり高齢化社会の到来
1
図1
ひきこもりシステム模式図
通常のシステム
3つのシステムは相
互に接しており、互い
個人
に影響を及ぼしあっ
て作動を続けている。
家族
「接点」とはコミュニ
社会
ケーションのことで
ある。
ひきこもりシステム
社会
3つのシステムは接
点を失ってばらばら
に乖離し、相互の働き
個人
かけはストレスに変
換されて、いっそう乖
家族
離を促す。
図2
ひきこもりの悪循環模式図
本人の不 安 ・
ひきこもり状態
焦燥感
家族の 不 安 ・
家族から本人への
焦燥感
圧力・叱咤激励
2
1-3
随伴しやすい精神症状
不登校
対人恐怖(自己臭
眠と昼夜逆転
1-4
視線恐怖
退行・家庭内暴力
醜形恐怖) 被害関係念虜
強迫症状
心気症状 不
抑うつ気分・希死念虜・自殺企図
関連する疾患
※初期診断の重要性
統合失調症
スチューデント・アパシーと退却神経症
春期妄想症 うつ病
1-5
分裂病質人格障害
回避性人格障害 境界性人格障害 思
循環性気分障害
家庭内暴力への対処
予防:退行させない=スキンシップを禁じ、会話でおぎなう
初期:刺激せずに対話をこころがける ※
慢性期:家庭の密室化
暴力に暴力で対抗しない!
+ 本人の退行 = 慢性的暴力
密室化の予防法:(1)第三者の介入 (2)司法(警察通報)の介入 (3)避難
避難の三原則:(1)暴力直後の避難 (2)避難直後の連絡 (3)帰宅のタイミング
2.
不登校
2-1
現状
1975年以降、ほぼ一直線の増加傾向
2001年度に不登校を理由に30日以上学校を休んだ小中学生は、前年度を3・3%上回る
13万9000人。
91年度から10年連続の増加。
このうち不登校の小学生は2万7000人、
中学生は11万2000人で、小学生は前年度より130人、中学生は4300人の増加。中学
校では36人に1人、小学校は275人に1人の割合。
2-2
要因
教育システムの制度疲労:一斉カリキュラム、制服、校則など、柔軟になる傾向はあるとはい
え、社会の変動にはおくれをとっている
「学校的価値観」と「社会的価値観」との乖離:学校の閉鎖性にも一因があるが、こうした乖
離が大きいほど、学校に対する小さな不適応感から学校を無視=不登校する結果に至りやすく、
また大学・大学院卒業後にひきこもる青年を生む可能性がある
3
「不登校の存在は恥」
という教員側の意識が依然強い。この傾向は地方に行くほど顕著である。
上記とも関連するが、不登校児の増加は数字の上では理解されているが、実際には経験したこ
とのない教師も少なくない。統計と日常の乖離がある。ケースワークの不足ゆえに、はじめて事
例が出現してから泥縄式に対応に迫られていることも多いのではないか。これは「ひきこもり」
事例の増加にもかかわらず、その経験のある精神科医が意外に少ないという状況に似ている。
「登校刺激の禁止」を教条的に理解することで、教師が本人に関わることを早期に回避する口
実になっているケースがある。
「不登校」と「病気」の概念が、いまだ混同されている。
「登校刺激の禁止」という対応指針、
あるいは「早期発見」といった表現は、不登校問題がいまだ疾患モデルに準拠して理解されてい
ることを示唆している(ここで「不登校」を「失業者」に置き換えてみるとその異様さが理解し
やすくなるであろう。
「就労刺激の禁止」あるいは「失業者の早期発見」などなど)。「不登校は
病気か否か」といった不毛な論議はこれ以上なされるべきではない。
「不登校」と「病気」は、
基本的にはまったく異質な概念として理解されるべきである。この分離を徹底することではじめ
て、不登校の中にも治療を必要とする群とそうでない群が存在することが整合的に理解されやす
くなるであろう。
以上のことから起こる安易な専門家主義。スクールカウンセラーや精神科受診の勧めなどは、
まず教師から本人への十分な関わりがあった後になされるべきことで、早期に専門家にゆだねる
ことは結果的に「病気の不登校児」を作り出すことになる。
家庭、本人については、こうした原因論で語ることが難しい。平成四年に文部省が不登校に関
して述べた「どのような家庭、どのような子どもにも起こりうる」という「宣言」を高く評価す
る立場からは、家庭と本人の問題について述べることは矛盾した態度になってしまう。この宣言
は、それが事実かどうかとは関係なく、不登校、あるいは「ひきこもり」と向き合う際の倫理的
態度として有効なものであると考えられるため、引き続き支持したい。もちろん臨床面での実感
として、不登校がなんら特殊な家庭の特殊な問題では無いという認識もある。
不登校は「ひきこもり」と同様に、システムの作動上に生じた問題として理解されるため、こ
ちらの立場からも原因論は語りにくい。学校について「原因」を述べたのは、学校システムにつ
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いては作動条件の変更は、比較的容易であると考えられるためである。
2-3
・
不登校対策上の提言
スクール・ソーシャルワーカーの導入、制度化
・ フリースクール、チャータースクールのほか、ホームスクールの活用
・ いじめ対策、虐待対策は、間接的なようで、現時点でもっとも実効性が高い不登校対策
3.
思春期・青年期の諸問題をめぐる対応策
・
「予防」あるいは「早期発見・早期治療」の問題点
・
「支援モデル」と「治療モデル」の相違
支 援 モ デ ル:価値判断に基づき、根拠を必要とせず、法的な説明責任、結果責任を問われない。
利用者個人の自己責任において利用。
治 療 モ デ ル:価値判断に基づかず、治療の有効性については根拠が要請される。説明責任、結
果責任、守秘義務などが問われる。
・たとえば不登校については「指導」→「支援」→「治療」という段階的対応がモデルとなる。
対応の結果をフィードバックしつつ、有効な方向を模索する。
・
「ひきこもり」の治療構造としては「家族指導」「個人対応」
「集団適応」の3段階
・青少年健康センターの支援ネットワーク
電話・手紙相談
訪問活動
家族会
相談的家庭教師
家族グループカウンセリング
茗荷谷クラブ(たまり場)
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家族相談会
就労支援
家族宿泊セミナー
グループホーム
・ 育 て 上 げ ネ ッ ト(NPO青少年自立援助センター:工藤定次代表の提言)
モデル:ドイツ「青少年法」
(25歳までの青少年には可能な限り国が就労支援)
イギリス「ニューディール政策」(青少年の就労支援サービス)
・ 地域を基盤としたライフシェアリング構想
・ 自立へ向けての3つのステップ
第1ステップ:専門学校的期間(学費を払ってアンクル=職親的な存在に知識や技術を教えて
もらう)
第2ステップ:インターンシップ的期間(労働力として認められた青少年にアンクルが応用的
な知識や技術を無償で伝え、その代わりに青少年も無償で仕事を請け負う)
第3ステップ:アルバイト的期間(アンクルは青少年に賃金を払い、知識や技術を身につけた
という「お墨付き」を与え、同業者への推薦や紹介をする)
この一連の過程にはコーディネーター(調整役)がおり、さまざまな相談に乗り、その都度適
切なアドバイスを与える
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