K.日本実験動物医学会

特別企画
A解 剖
B病 理
C寄生虫
K.日本実験動物医学会
微生物(細菌)
DB
一般演題:23題(K-1~K-23)
DI
K-15,K-16
佐々木宣哉(北海道大学)
浅野 淳(鳥取大学)
K-17,K-18
竹内 崇師(鳥取大学)
K-7~K-9
袴田 陽二(日本獣医生命科学大学) K-19,K-20
高橋 英機(理化学研究所)
K-10,K-11
益山 拓(日本たばこ産業)
K-21~K-23
今野兼次郎(京都産業大学)
K-12~K-14
古市 達哉(慈恵医科大学)
F公衛生
酒井 宏治(国立感染症研究所)
K-4~K-6
E家 禽
K-1~K-3
DV
微生物
(ウイルス)
9 月17日
(金)
9:00~13:50 第 6 会場
微生物
(免疫)
座長
G繁 殖
臨床
(産業動物)
HL
臨床
(小動物)I生理・化
HS
J薬・毒
K実動医
K実動医
K-2
○久和 茂1、酒井宏治2、田中志哉1、北川洋大1、朴 商鎮1、
吉川泰弘1、池 郁生3、浦野 徹4、薮内かおり5、田島 優5、
黒澤 努5、網 康至2、山田靖子2(1東大 農・実験動物、2感
染研 動物管理室、3理化研 バイオリソースセンター、4熊
大 生命資源研究・支援センター、5阪大 医学部附属動物
実験施設)
○田中志哉1、北川洋大1、朴 商鎮1、豊島裕次郎1、石井寿幸1、
吉川泰弘2、久和 茂1(1東大 農・獣医・実験動物、2北里
大 獣医・人獣共通感染症研究室)
日本の実験用マウスコロニーにおけるマウスノロウイ
ルスの感染状況
DI
微生物
(免疫)
DV
微生物
(ウイルス)
E家 禽
F公衛生
K-4
LCMV高感受性マウスにおける症候性とウイルスゲノ
ム体内分布
G繁 殖
○高木利一1,2、大沢牧子1、佐藤 浩1,3、大沢一貴1(1長崎大・
先導生命・比較動物、2日本エスエルシー・BTC・品質管理、3自
然科学研究機構・生理研)
HL
HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
K実動医
【目的】リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の国内分離株の
特徴を検索するため、マウス致死性およびウイルスの体内分布
を継続して解析している。第57回日本実験動物学会(2010年)では、
LCMV高感受性であるDBA/1Jマウスに104 TCID50を接種した結果
について報告した。今回は少量(102)接種での結果に加え、同居感
染例を合わせて報告する。
【方法】102 TCID50の各ウイルス液(WE株, OQ株)を、各々3週齢の
DBA/1JJmsSlc(1群9匹)に腹腔内接種し、4週後にIFA抗体価および
血液・肺・肝臓・脾臓・腎臓のウイルスゲノムの存在をRT-PCRで
検索した。また、3週齢のLCMV未感染マウス(DBA/1J)を腹腔内
接種10日目の個体と18日間同居させ、その後単独で13日間飼育し、
抗体価および臓器分布を検索した。
【結果】102接種群は、LCMVに特徴的な症状を示して8~13日目
にWE群8匹(89%)、OQ群6匹(67%)の死亡を観察した。生存個体は、
いずれも抗体価は25,600以上を示し、血液を除く4臓器よりウイル
スゲノムが検出された。また、同居感染マウス(WE群1匹, OQ群3匹)
は、同居後4週以上に渡り無症候で推移し、OQ群の1匹で抗体価(40)
を確認できたものの、この個体でもウイルスゲノムは検出されな
かった。
【 総 括 】DBA/1Jマ ウ ス は、 こ れ ま で 実 験 を 行 っ て き たICRや
BALB/cマウスと比較し、少量のウイルスでも高致死かつ広範な
臓器分布を示した。また、LCMV高感受性マウスを2週間以上感染
マウスと同居させても感染率25%であったことから、必ずしも水
平感染が成立するとは限らないことが示唆された。
臨床
(産業動物)
【目的】マウスノロウイルス (MNV) はカリシウイルスに属し、マ
ウスのマクロファージで増殖し、免疫不全動物に肝炎をおこすと
されている。日本を含む各国の実験動物施設でその感染が報告さ
れている。阪大動物実験施設(当施設)のSPF飼育室でも利用者
が所有のマウスの糞便からnested RT-PCRによりMNV陽性例が検
出された。そこで、今回、微生物モニタリング用囮マウスでMNV
の浸潤状況を確認した。
【方法】当施設のA、B、C、Dの計4つの
SPF飼育室で飼養された囮マウスの糞便を検査材料とした。Bお
よびC飼育室は前室を共有していた。囮マウスとして、6週齢の
Crlj:CD1 (ICR) を飼育室に導入し6ヶ月間飼養した。囮マウスの
ケージには月に1回、利用者のマウスケージから採取した床敷を入
れ、囮マウス同士を3ヵ月間同居させ、積極的に感染を成立させた。
囮マウスの糞便由来RNA抽出物を、後藤らが開発したMNV RNA
polymerase 遺伝子特異プライマーを用いnested RT-PCRを実施し
た。得られた産物を用いて塩基配列を解読し系統学的解析を実施
した。
【結果および考察】A (計10検体)、B (計6検体)、C (計5検体)、
D (計5検体) の飼育室において、Aでは4検体 (40%)、Bでは6検体
(67%)、Cでは3検体 (60%)、Dでは5検体 (100%) でnested RT-PCR
陽性を確認した。これらのPCR産物の塩基配列を解析しアミノ酸
配列に置換後、系統学的解析を実施した。各部屋のRNA抽出物よ
り得られたRNA polymerase 遺伝子アミノ酸配列は、既知のMNV
アミノ酸配列と約90%以上一致し、MNV特異的産物であることが
確認された。
DB
微生物(細菌)
○ 薮 内 か お り1,2、 小 谷 祐 子1、 高 木 康 博2、 田 島 優1、
黒澤 努1(1阪大 医・実動医、2新日本科学)
C寄生虫
SPF飼育室で認められたマウスノロウイルス陽性例
【背景・目的】マウスノロウイルス(MNV)は2003年に初めて
報告されたウイルスで、未だに解明されていないことが多い。培
養細胞で増殖させられることから、ヒトノロウイルス研究の代替
として期待されている。MNV-S7株は日本において分離されたウ
イルスであり、当研究室でこのウイルス株を抗原とした抗体検出
ELISAを樹立し、日本のコンベンショナル環境のマウスでMNV抗
体が高率に見出されることを報告した。しかしながら、MNV感染
が実験成績に影響するのかについては情報が乏しい。一例として、
ヘリコバクター感染による細菌性大腸炎を悪化させることが示さ
れている。今回、我々はデキストラン硫酸塩(DSS)誘発炎症性
大腸炎モデルに対するMNV感染の影響について検討したので報告
する。【方法】8週齢、雄のC57BL/6マウスに1%DSS溶液を経口投
与し、炎症性大腸炎を誘発させた。一部のマウスに5×105TCID50
のMNV-S7株を経口接種した。体重の変化、大腸の長さを計測す
るとともに、大腸の病理組織学的変化について検索した。【結果・
考察】MNV感染群では、DSSによる体重減少が抑えられたが、大
腸長には有意差がなかった。一部のMNV感染マウスでは、病理学
的に大腸炎の改善が見られた。以上のことから、MNV感染はDSS
誘発大腸炎を悪化させないことが示唆された。今後、5%DSS溶液
投与による急性大腸炎モデルに対するMNV感染の影響についても
検索する予定である。
B病 理
K-3
マウスノロウイルス感染のDSS誘発大腸炎モデルに対
する影響
A解 剖
【目的】マウスノロウイルス(MNV)は2003年に初めて同定され
たウイルスで、その後世界各地の実験用マウスコロニーから分離
されている。MNVは発見されてから間もないため、国内実験用マ
ウスコロニーの感染状況の把握は不十分であり、診断法の確立や
微生物学的コントロールの必要性の検討が必要である。本研究で
は、MNVの抗体およびウイルス学的調査を行い、感染状況の把握
及びMNV分離株の分子遺伝学的解析を行った。【材料と方法】複
数の実験動物施設から提供されたマウスの血清及び糞便を使用し
た。血清は北川らの方法に従い、ELISA法及び間接蛍光抗体法に
よりMNV特異抗体の有無を検討した。糞便は抗生物質添加PBSに
て乳剤作製後、RAW 264.7細胞(マウスマクロファージ由来株化
細胞)に接種し、連続2回継代した。糞便乳剤及び感染細胞培養上
清からMNV特異的RT-PCRによる同定を行い、MNV陽性検体につ
いてはVP1及びVP2遺伝子の配列決定を行い、系統学的解析を実
施した。
【結果及び考察】以前の報告と同様にコンベンショナル環
境にはMNV抗体陽性のマウスが散見された。またバリア区域にも
抗体陽性マウスは見つかった。これまで実施した検体では、142検
体のうち、84検体のMNV遺伝子陽性、35株のウイルスが分離された。
VP1及びVP2遺伝子の塩基配列の解析を行ったが、分子遺伝学的
に大きく離れたウイルス株は現在までのところ見出されていない。
今後も抗体検査ならびにMNVの分子遺伝学的解析により、わが国
におけるMNVの感染状況を明らかにしていく予定である。
特別企画
K-1
K-5
K-6
○森藤可南子1、前田秋彦2、佐々木宣哉1、安居院高志1(1北
大 獣医・実験動物、2京都産業大 総合生命科学・動物生
命医科学)
○佐藤綾子1,2、後藤元樹3、島田佳世4、高橋智輝2、松原和衛1、
切替照雄4、花木賢一2(1岩手大 大学院・農学研究科、2岩
手医大 動物実験センター、3東大院 医学系研究科・動物
資源研究領域、4国立国際医療研究センター 研究所・感染
症制御研究部)
マウスOas1b によるフラビウイルスゲノム複製の抑制
2’-5’-oligoadenylate synthetase(Oas)は、ウイルス感染初期
の自然免疫機構においてウイルスの増殖を抑えるのに重要な役割
を示すことが知られている。ウイルス感染細胞においてOas 蛋白は、
2’-5’oligoadenylate(2’-5’A)を合成し、RNaseL を活性化さ
せ、活性型RNaseL はウイルスRNA を分解し宿主細胞の抗ウイル
ス状態を引き起こす。マウスではフラビウイルス感染抵抗性遺伝
子としてOas1bが知られている。しかし、Oas1bには、2’-5’A合
成酵素としての機能がないこと、RNaseLを欠失させてもウイルス
の増殖にあまり影響がないことから、Oas1bには他のOasにはない
特別な機構がある可能性が示唆されているが、その機構は殆ど解
明されていない。
そこで、Oas1bが宿主細胞内で、ウイルス増殖のどのステップ
を阻害しているかを検討することを目的とし、野生マウス(MSM)
由来Oas1b遺伝子を導入した発現ベクターを作製し安定発現細胞
株を樹立した。その細胞を用いて、フラビウイルスの中でも良く
研究されているウエストナイルウイルス(WNV)ゲノムの複製
を再現するレプリコンの複製効率を検討したところ、MSM由来
Oas1bには、レプリコンの複製を抑制する効果があることが確認
された。このことから、Oas1bは少なくともフラビウイルス増殖
過程のうちウイルスゲノム複製のステップに対し効果を及ぼすも
のであることが示唆された。
今後、Oasファミリーに属するOas1b以外のOas蛋白との効果
の比較検討とともに、Oas1bのWNV複製時の細胞内局在の確認、
Oas1bの直接的相互作用、その他の宿主由来タンパク質との間接
的相互作用の有無を検討することで、マウスOas1bのフラビウイ
ルス抵抗性の機序の解明につながることが期待される。
K-7
Effects of pup-induced USV on prolactin levels in
virgin and experienced rats
○Pudcharaporn Kromkhun、Wirasak Fungfuang、中田友明、
横須賀誠、斎藤 徹(日獣大 獣医・比較動物医学)
It has been reported that rodent pups emit ultrasonic
vocalization (USV) in situations such as separation from the nest
and cold stress. The USV emitted by rodent pups has been
reported to be one of the essential communications between
a pup and its mothers. Terkel et al. (1979) and hashimoto et
al. (2001) reported that prolactin levels in mothers increased
in response to USVs. The question addressed was whether
serum prolactin levels in nulliparous and/or multiparous WistarImamichi rats exposed to pup-induced USVs would increase
as well as lactating rats. The above rats aged 3 to 4 months
were allowed exposure to pup-induced USVs for 5 min. Serum
concentrations of prolactin were measured by RIA. As a result,
prolactin levels on diestrous stage in nulliparous rats exposed to
USVs tended to increase, compared with that without USVs. On
diestrous stage in multiparous rats exposed to USVs prolactin
levels were significantly higher than that with no exposure. These findings suggest that multiparous rats are quite sensitive
to pup-induced USVs resulting in promoting maternal behavior
through prolactin.
比色LAMP法に基づくマウスの緑膿菌検査技術の確立
【 目 的 】 緑 膿 菌(Pseudomonas aeruginosa) は 日 和 見 感 染 症 を
引き起こす病原体であるが、様々な系統のマウスが混在するSPF
動物実験施設では、緑膿菌のモニタリングは重要である。しか
し、現行の培養検査法は動物実験施設における日常検査に適さ
ない。そこで、緑膿菌検査の簡便化を目的として、第147回日本
獣 医 学 会 学 術 集 会 に お い て 発 表 し たLoop-mediated Isothermal
Amplification(LAMP)の可視化法に基づく迅速診断法の開発を
行った。【方法・結果】プライマーは緑膿菌のPCR検査法で標的に
されているoprL遺伝子配列に基づいて設計した。特異性の評価は
8種のPseudomonas属菌および9種の非Pseudomonas属菌よりボイ
ル法により抽出したゲノムDNAを用いて行った。検出感度の評価
は、前記ゲノムDNAの10倍希釈列、および、清浄マウス糞便0.1g
へ10倍希釈列の緑膿菌PAO1株培養液を接種、市販キットを用い
て抽出したゲノムDNAを用いて行った。比較対象として、既報の
緑膿菌に対する2つのPCR法を同時に実施した。LAMP法は緑膿菌
に対してのみ遺伝子増幅を認め、精製ゲノムDNAを用いた2つの
PCR法との検出感度比較ではLAMP法が10倍高感度であった。ま
た、マウス糞便への緑膿菌接種実験では、LAMP法の検出限界は
130 CFU/0.1g(3.25 CFU/reaction)であった。【考察】本検査法
の特長は、菌の生死に関わらず緑膿菌を検出できる点、操作が簡
便で結果が約2時間で得られる点、ケージ単位でも検査を実施でき
る点を挙げることができる。そのため、動物実験施設における緑
膿菌の日常検査に応用でき、かつ、培養検査法に比べて迅速に結
果が得られる方法といえる。本発表では実際に複数の動物飼育施
設の検査結果についても報告する。
K-8
Effects of estrogen on food intake, body weight,
serum leptin levels and leptin mRNA expression in
female rats
○ W i r a s a k F u n g f u a n g 1、 中 田 友 明 1、
Pudcharaporn Kromkhun1、寺田 節2、安達博紀1、中尾暢宏3、
横須賀誠1、斎藤 徹1(1日獣大 獣医・比較動物医学、2日
医大 医・実験動物学、3日獣大 応用生命科学・動物生理
制御学)
The integration of metabolism and reproduction involves
a complex interaction of hypothalamic neuropeptides with
metabolic hormone, fuels and sex steroids. It is known that
estrogen influence food intake, body weight, accumulation and
distribution of adipose tissue. The purpose of the present
experiment was to evaluate the effect of estrogen on food
intake, visceral fat weight, body weight, serum leptin levels and
leptin mRNA expression in female rats. Adult female rats were
divided into four items; proestrous, diestrous, ovariectomized
(OVX) and ovariectomized implanted with silastic capsule
containing estradiol benzoate (OVX+E) groups. Blood was
collected 10 days after the treatment. As a result, proestrous
and OVX+E groups were significantly lower food intake in
both light and dark phases, compared with diestrous and OVX
groups. OVX+E caused significantly decreased in body and
visceral fat weights, and significantly increased in serum leptin
concentrations and leptin mRNA expression in the adipose tissue. In conclusion, these results indicated that estrogen may affect
food intake, visceral fat and body weights as a consequence of
a positive effect on leptin mRNA expression and serum leptin
concentrations.
K-10
○武下 愛、永石翔太、岡田利也、日下部健(大阪府大院
生命環境科学研究科 実験動物学教室)
○西野智博1、佐々木宣哉1、長崎健一2、Zulkifli Ahmad1、
安居院高志1(1北大院 獣医・実験動物、2(財)日本食品分析
センター千歳研究所)
【背景】自然発症したマウスの流産胎盤では、補体活性化因子
adipsinの発現量が増加することが確認されている。Adipsinは補体
第二経路の活性化因子であり、ヒトの補体活性化因子factor Dと
相同性を有するが、胎盤内の局在や流産との関連性は未知である。
本研究では自然発症したマウスの流産胎盤におけるadipsinの局在
変化、及び補体活性変化について調べた。
【方法】C57BL/6Jマウ
スを同系統間で交配させ、膣栓確認日を0.5日目とした。妊娠14.5
日目に子宮を採取し、吸収胚または正常胚を含む着床部位をそれ
ぞれ流産部位、正常部位とした。各部位の胎盤を10%ホルマリン
で固定しパラフィン切片を作製した。定法に従って免疫染色及び
in situ hybridization法を行い、adipsinの局在変化を検討した。正
常及び流産部位からタンパクを抽出し、western blotting法により
補体第二経路抑制因子Crryの検出を行った。また全補体活性CH50
と第二経路単独の補体活性ACH50を測定した。【結果と考察】免
疫染色より正常部位では脱落膜・胎盤迷路部でadipsinの弱陽性反
応が認められた。流産部位では胎盤迷路部の陽性反応が顕著に亢
進した。流産部位では正常部位に比べ、CH50の顕著な上昇が認め
られた。しかしACH50はCH50の上昇と比較し軽度な上昇であった。
また流産部位では正常部位と比べCrryの検出量増加が認められた。
以上のことからadipsinは胎盤内で産生・分泌されており、その発
現は流産時に上昇するが、補体第二経路活性はCrryにより抑制され、
流産には直接的に関与していないことが示唆された。
ICR-derived glomerulonephritis (ICGN)マウスは先天的腎糸球体
硬化症のモデルマウスであり、多くの腎臓病と共通の症状 (蛋白
尿、浮腫、腎性貧血など)と病理的変化 (腎糸球体上皮細胞の異常
や糸球体への細胞外マトリクスの異常集積など)を呈し、最終的に
腎不全となる。我々は過去QTL解析によって、その原因がtensin2
(Tns2)であることを見出し、ICGNではTns2遺伝子の8塩基欠損に
よるフレームシフトが存在し、本来より上流に終止コドンが生じ
ること、ICGNではTns2のmRNA量が著しく低下することを報告
した。ヒトや動物モデルの解析により糸球体硬化症の重篤度には
個体差や系統差があることが報告されている。このことは糸球体
硬化症に何らかの修飾遺伝子が存在することを示唆している。また、
世界的に広く使用されている近交系であるC57BL/6J (B6)マウスは
様々な腎疾患に抵抗性を有することが報告されている。そこで本
研究では腎糸球体硬化症に対する修飾遺伝子の存在を証明する目
的で、B6にICGNを戻し交配することにより変異型Tns2を有する
コンジェニック系統 (B6.ICGN-Tns2nep)を作出し、糸球体硬化症の
重篤度を尿中アルブミン量の測定および血液学的・組織学的手法
により解析した。その結果、全ての解析においてB6.ICGN-Tns2nep
ではICGNと比較して数値が改善し、糸球体硬化症が軽度となるこ
とが判明した。本研究により(1) Tns2の機能欠損はそれ単独でも糸
球体硬化症の原因となること、および (2) B6が糸球体硬化症に対
し抵抗性を有することが明らかとなった。今後更なる解析により
B6の腎糸球体硬化症抵抗性遺伝子を同定する予定である。
K-11
K-12
秋元敏雄、○寺田 節(日医大 実験動物)
○佐々木宣哉、岩田亮平、安居院高志(北大院 獣医・実験
動物)
マウス自然流産胎盤における補体活性化因子adipsinの
発現変化と補体活性への影響
特別企画
K-9
C57BL/6Jマウスの遺伝的背景は腎糸球体硬化症に抵抗
性である
A解 剖
B病 理
C寄生虫
微生物(細菌)
DB
微生物
(免疫)
DI
微生物
(ウイルス)
DV
E家 禽
LECラ ッ ト の ヘ ル パ ーT細 胞 成 熟 異 常 に はPtprkと
Themisの欠損が関与する
HL
臨床
(産業動物)
HS
臨床
(小動物)I生理・化
J薬・毒
K実動医
K実動医
免疫制御の中心的役割を担うT細胞は、胸腺の中で様々な遺伝子発
現変動に起因する分化段階を経て成熟する。CD4、CD8を発現し
ていないdouble negative (DN)細胞は、CD4/CD8 double positive
(DP)細 胞 へ と 分 化 を 遂 げ、 そ の 後、positive selectionとnegative
selectionを 受 け て、CD4 single positive (CD4 SP)細 胞、 ま た は
CD8 single positive (CD8 SP)細胞に分化し、末梢に移行する。現
在のところDP細胞における細胞分化の分子機構の多くは明らかに
なりつつあるが、DP細胞からSP細胞への分化過程の分子機構は、
未だ解明されていない。当研究室では、LECラットにおいて胸腺
内でDP細胞からCD4 SP細胞への分化が欠如していることを見い
だし、さらに当該責任遺伝子のポジショナルクローニングによって、
protein tyrosine phosphatase receptor type kappa (Ptprk)遺伝子
及び、その近傍のThemis遺伝子が同時に欠失していることを明ら
かにした。本研究では、LECラット免疫不全の原因がPtprk遺伝子
またはThemis遺伝子どちらか片方の欠損によるものか、それとも
両遺伝子欠損によるものかを解明することを目的として、LECラッ
トの骨髄細胞にPtprkまたはThemis遺伝子を導入し、骨髄細胞系
の再構築をしたところ、どちらの遺伝子の発現によっても胸腺内
CD4 SP細胞の回復が見られた。また、回復率においてはThemis
遺伝子の方が、Ptprk遺伝子導入よりも高い傾向が観察された。こ
れ ら の こ と か ら、Ptprk遺 伝 子 とThemis遺 伝 子 両 方 が、 胸 腺 内
CD4 SP細胞の分化に必要であり、LECラットのヘルパーT細胞成
熟異常の責任遺伝子であることが示唆された。
G繁 殖
【目的】WBN/Kob-Leprfaコンジェニック系の肥満ホモ個体(fa/fa)
は3ヶ月齢で、非肥満個体(+/?)は9ヶ月齢で糖尿病発症する。肥満
個体の糖尿病発症の早期化が糖尿病性腎症に与える影響について
調べるため、腎機能の指標として血液中尿素窒素濃度およびクレ
アチニン濃度を6ヶ月齢から12ヶ月齢の間測定した結果を第150回
獣医学会で報告した。今回は、観察期間を4ヶ月齢から16ヶ月齢に
延長し、肥満個体と非肥満個体の推移に差が認められたので報告
する。
【方法】動物は、WBN/Kob-Leprfaコンジェニック系のヘテロ個体
(+/fa)同士の交配で得られた産仔の肥満個体と非肥満個体を用いた。
動物は、4、6、8、1
0、1
2、1
4および1
6ヶ月齢で採血し、血液中の
尿素窒素およびクレアチニン濃度を測定した。
【結果および総括】4から1
0ヶ月齢までは肥満個体群の血中尿素窒
素濃度は非肥満個体群と比較して有意に高い値を示していた。こ
れは肥満個体群の糖尿病発症が3ヶ月齢であることから糖尿病に
起因する腎機能障害が早期より起こっていたことを示唆していた。
1
2ヶ月齢以降では非肥満個体群の血中尿素窒素濃度が上昇し、肥
満個体群との明確な差は見られなかった。非肥満個体群も9ヶ月齢
頃より糖尿病発症することから血中尿素窒素濃度の増加は糖尿病
発症に起因する腎傷害であると考えられた。クレアチニン濃度に
ついては、4から12ヶ月齢まで、肥満個体群は非肥満個体群と比較
して有意に低い値を示していたが、14ヶ月齢以降では肥満個体群
の値が上昇傾向を示し、非肥満個体群との明確な差は見られなかっ
た。これは肥満個体群の腎傷害が加齢とともに進展していること
を示唆した結果と考えられた。
F公衛生
WBN/Kob-Leprfaコンジェニック系ラットの血液中尿素
窒素およびクレアチニン濃度の4ヶ月齢から16ヶ月齢の
推移について
K-13
K-14
○團野克也1、門田勇介1、吉川泰弘2、石井寿幸1、久和 茂1(1東
大 農・獣医・実験動物、2北里大 獣医・人獣共通感染症)
○高橋英機1、新美君枝1、板倉智敏2(1理化研 脳科学総合
研究センター 動物実験支援ユニット、2理化研 脳科学総
合研究センター 研究基盤センター)
HWYラットはWistar系繁殖コロニー内で発見された突然変異であ
り、幼齢時にはわずかな粗毛形成が認められるものの、成長に伴
い無毛状態を呈する。これまでに、本ラットの被毛形成異常は毛
包ケラチノサイトの増殖・分化異常に起因すること、およびこの
性状は常染色体上の単一不完全優性遺伝子に支配されヘテロ個体
(F1)は中間型被毛、すなわち縮れた粗毛を生涯有することが明
らかとなっている。本研究ではHWYラットとBNラットのF2個体
を用いて連鎖解析を行った。HWYの原因遺伝子は第15番染色体上
の約0.2cMの領域に狭められ、領域内では毛の形成に関与し、脱毛
突然変異を起こすことで知られているhairless(Hr)遺伝子近傍
が最も有力な候補として考えられた。しかしながら、HWYラット
皮膚におけるHr mRNAの発現は正常ラットとほぼ変わらず、Hr
蛋白コード領域の塩基配列解析を行ったが変異は認められなかっ
た。また、全候補遺伝子の塩基配列解析も行ったが変異は認めら
れなかった。近年の報告でヒトの先天性貧毛症として知られる”
Marie Unna hereditary hypotrichosis(MUHH)” の 罹 患 者 に お
いて、Hr mRNAの5’
非翻訳領域(UTR)に存在する4つの小ORF
の1つであるU2HR内に変異が発見され、その34アミノ酸からなる
ペプチドがHr蛋白翻訳に対し抑制作用を持つことが示唆されてい
る。この報告を参考にヒト・マウスに相当するmRNA 5’
UTRをラッ
トにおいても明らかにし、HWYラットでの配列を検索したところ
MUHHと同様にU2HRの開始コドンに変異が確認された。本研究
から、HWYラットはHr遺伝子およびその下流因子の作用機序を解
明し、さらに毛包形成・維持における新たな分子機構を提示する
上で有用な動物モデルとなると考えられる。
【目的】Cav2.1α1変異Rolling Nagoyaヘテロマウス(HZ)では野
生型マウス(WT)と比較すると、NMDA受容体発現量に変化は
ないが、加齢依存的な変異型Cav2.1α1の発現量増加や海馬プレシ
ナプスでのCav2.1α1-αCaMKII複合体形成低下によるαCaMKII
の活性低下ならびに記憶障害が認められることを本学会でこれま
で示してきた。Cav2.1は記憶に重要な海馬でのグルタミン酸放出
に関与するため、グルタミン酸放出機能の変化による記憶異常が
正常な記憶行動を示す8週齢のHZでもWTと詳細に比較すること
により認められるかどうか調べるため、Y字迷路試験とNMDA受
容体アゴニスト/アンタゴニストを用いてその検討を行った。【方
法】化合物にはアゴニストとしてNMDA(0-50mg/kg 筋肉内投
与)、アンタゴニストとしてMK-801(0-0.1mg/kg 腹腔内投与 また
は 0-1.0μg/side 海馬内投与)を用いた。Y字迷路試験は、化合物
投与30分後に行い、Y字迷路(3×40×25cmのアーム3本を120度の
角度で連結)のアーム間の総移動回数および交替行動回数(連続
して異なる3本のアームを選択した回数)を10分間測定して自発的
交替行動率(交替行動回数/(総移動回数-2)×100)を求めた。
【結果】
NMDA投与ではHZとWTでは差がなかった。MK-801投与では腹
腔内投与および海馬内投与ともに、WTでは影響を与えない低濃
度でHZは交替行動率の低下(0.05mg/kg 腹腔内投与、0.5μg/side
海馬内投与)を示した。【総括】8週齢のHZではNMDA受容体の感
受性には異常はないが、グルタミン酸放出の変化に伴う短期記憶
障害への閾値が低下していることが示唆された。
K-15
K-16
○古市達哉1,2、桝屋啓志3、村上智彦4、鈴木智広5、今泉和則4、
大川 清1、若菜茂晴5、池川志郎2(1東京慈恵会医科大学
総合医学研究センター 実験動物研究施設、2理研ゲノム医
科学研究センター 骨関節疾患研究チーム、3理研バイオ
リソースセンター マウス表現型知識化研究開発ユニッ
ト、4解剖学講座 分子生物学分野 宮崎大学医学部、5理研
バイオリソースセンター マウス表現型解析開発チーム)
○袴田陽二1、岡崎友佳子1、小橋優子1、藤澤正彦1(1日獣大
獣医保健看護学科 基礎部門、2日獣大 獣医保健看護学
科 基礎部門、3日獣大 獣医保健看護学科 基礎部門、4日
獣大 獣医保健看護学科 基礎部門)
HWY(Hairless Wister Yagi)ラットの毛包形成異常に
関する原因遺伝子の解明
ENUミュータジェネシスによる新規II 型コラーゲン遺
伝子(Col2a1)変異マウスの同定
軟骨細胞外基質の主要な構成成分であるII 型コラーゲン分子は、
II型コラーゲンα1鎖が3重螺旋を形成するホモ3量体である。ヒト
ではII型コラーゲンα1鎖をコードする遺伝子(COL2A1)の変異
が原因となる疾患が10種報告されており、それぞれの疾患に対応
するCol2a1変異モデル動物の作製が望まれている。
我々は理研GSCで展開されたENUマウスミュータジェネシスプ
ロジェクトにおいて、優性遺伝形式により長幹骨の短縮を認める
マウス(M856)を同定した。SNPベースのハイスループットマッ
ピングシステムによる連鎖解析の結果、原因アレルは第15染色体
上の20 cMの領域にマップされた。この領域に存在する遺伝子の
中で、骨格系で機能することが示されている原因遺伝子の第一候
補はCol2a1であった。M856マウス由来のCol2a1 cDNA全コード
領域のシークエンスを決定した結果、1469番目のAspがAlaに置
換されるミスセンス変異(c.4406A>C、p.Asp1469Ala)を同定し
た。この変異のホモ接合体は著しい骨格形成異常を示し、胎生致
死となり、これまでに報告されているCol2a1変異マウスと類似の
表現型を示した。同定した変異はCol2a1のC末端プロペプチドコー
ド領域に存在し、ヒトのトーランス型扁平椎異形成症(PLSD-T)
の原因となるミスセンス変異(p.Asp1469His)に対応する位置に
あった。以上のことからPLSD-Tの疾患モデル動物になり得る新規
Col2a1変異マウスを同定した。
M856ホ モ 接 合 体 は 重 度 の 扁 平 椎、 腸 骨 低 形 成、 四 肢 短 縮 等
のPLSD-Tに特徴的な骨格異常を示した。現在、M856ホモ接合
体、ヘテロ接合体の組織解析、電子顕微鏡解析等を行っており、
PLSD-Tの病態を理解するための重要な知見を得られることが期待
できる。
Cav2.1変異ヘテロマウスを用いた短期記憶に関する行
動薬理学的解析
肝特異的DsRed2蛍光タンパク発現トランスジェニック
ラットにおける性的二型性の解析
我々は、肝細胞に特異的にDsRed2蛍光タンパクを発現するトラン
スジェニック(Alb-DsRed2 Tg)ラットを作成し、本ラットが肝
細胞の発生分化あるいは幹細胞stem cellを利用した肝臓の再生研
究に極めて有用であることを明らかにした(Sata, et al, BBRC 2003)。
更に、雌雄Alb-DsRed2 Tgラットの出生以降のDsRed2発現を詳細
に調べたところ、生後3週間で雌雄どちらも、発現が一旦消失し、
5週令以降、雄では再発現するのに対し、メスでは消失したままの
性的二型性をとり、その発現様式は性腺の摘出に影響されず、下
垂体摘出あるいは雌肝細胞の初代培養で復活することを明らかに
した(Arao, et al., BBRC 2009)。即ち, Alb-DsRed2 Tgラットの
DsRed2の性的二型性は下垂体から分泌されるホルモンらにより制
御されている可能性が強く示唆された。肝細胞中に含まれる薬物
代謝酵素チトクロームP450(CYP)の中には、下垂体ホルモンで
ある成長ホルモン(GH)の制御により、性的二型性を示す酵素が
存在する。今回、我々はAlb-DsRed2Tgラットに認められた性的二
型性の制御因子を解明するために、in vivoならびにin vitroにおけ
るGHの影響を検討した。雄Alb-DsRed2 Tgラットへの浸透圧ポン
プによるGHの持続投与は、DsRed2発現を抑制し、また雌肝細胞
培養液へのGH添加は、DsRed2の発現を遅延させた。Alb-DsRed2
Tgラットに認められた性的二型性はGHホルモンに影響されるこ
とが強く示唆された。本研究の成果は、雌雄間の代謝の違いに基
づいた創薬研究や肝疾患治療への応用、また環境ホルモンなど性
特異的なバランスに影響を及ぼして性的二形性の破綻に関与する
物質の検出系への利用など、多方面に発展が期待できる。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)ラットにおける
高圧酸素曝露の影響
高圧酸素による酸化ストレス毒性評価モデル
○松波登記臣、佐藤雪太、有賀恵規、樫村春香、長谷川有紀、
湯川眞嘉(日本大院 獣医学研究科・実験動物)
G繁 殖
一過性脳虚血がスナネズミ (Meriones unguiculatus) の
学習・記憶能力に及ぼす影響
臨床
(産業動物)
HL
臨床
(小動物)I生理・化
HS
J薬・毒
K実動医
K実動医
【目的】本研究はスナネズミの両側総頚動脈を一時的に結紮する
ことで、一過性脳虚血(以下、脳虚血)モデルを作製し、海馬
CA1領域の錐体細胞の観察、迷路学習検査および受動回避検査を
行うことにより、脳虚血が学習記憶能力に及ぼす影響を明らかに
することを目的とした。【材料・方法】組織観察:脳虚血後1~6日
目および10日目にスナネズミの海馬CA1領域の錐体細胞を観察し
た。餌を報酬とした迷路学習検査(短期・長期記憶に関する検査)
:
脳虚血前に行う迷路学習検査を1ヶ月間または10日間行った個体
で、脳虚血手術後10日間検査を行い、記憶の獲得方法の違いが脳
虚血後の学習記憶能力に及ぼす影響を評価した。受動回避検査(エ
ピソード記憶に関する検査):Passive avoidance systemの明室に
スナネズミを入れ、暗室に進入した時に電気刺激を与え、「暗室は
危険である」と学習させた。その後、脳虚血手術を行い、脳虚血
後1~3日目または4~6日目に連続して検査を行った。【結果】海馬
CA1領域において脳虚血後の日数の経過とともに正常錐体細胞は
減少した。手術前1ヶ月間検査を行った群では脳虚血後4日目、6日
目で、手術前10日間検査を行った群では脳虚血後1日目、2日目で
手術群のエラー数が偽手術群に比べて有意に高かった。脳虚血に
よってLatency timeおよびFreezing timeは有意に減少した。
【結論】
以上のことから、スナネズミは脳虚血によって海馬CA1領域錐体
細胞が傷害を受けること、学習記憶能力の傷害は記憶の獲得方法
の違いによって異なることが示唆された。また、脳虚血によって
エピソード記憶も傷害を受けることが分かった。
F公衛生
【背景】現在、我が国の下痢性貝毒の検査は、マウスを用いたバ
イオアッセイが公定法とされている。この方法では検体を投与し、
24時間後のマウスの生死をもって判定を行うが、検体の抽出に1~
2日、マウスの生死の判定に1日、計2~3日必要である。我々は下
痢性貝毒のマウス・バイオアッセイにおいて、マウスが死に至る
経過とその機序について研究を進めているが、その中で、下痢性
貝毒投与後、マウスの体温が急激に低下する現象を見出したので
報告する。
【方法】4週齢、体重18~20g、雄のICRマウスの腹腔内に代表的
な下痢性貝毒であるオカダ酸を4μg投与した(オカダ酸4μgはマウ
スの半数致死量にあたり、マウス・バイオアッセイにおいて1マウ
ス・ユニットとされている)。投与前、および投与後1時間ごとに
電子体温計を用いてマウスの直腸温を測定した。また、サーモグ
ラフィー・カメラを用いた体表温の測定も行った。対照群として、
溶媒のみを腹腔内投与したマウスを用いた。
【結果】オカダ酸を投与したマウスでは、投与1時間後にはすべて
のマウスで直腸温が35℃以下となる急激な体温低下を示し、2~3
時間後には30℃を下回る個体も多く見られた。このような急激な
体温低下はサーモグラフィー・カメラによる体表温の測定によっ
ても容易に検出が可能であった。3回の実験において、24時間後ま
でに斃死したマウスは5匹中2匹、3匹、4匹であった。
【考察】オカダ酸投与後の急激かつ顕著なマウスの体温低下は、
投与後2~3時間に全てのマウスで認められたことから、マウスの
生死に比べマウス・バイオアッセイの迅速な指標となる可能性が
示唆された。
E家 禽
吉 田 傑、 日 下 部 健、 近 藤 友 宏、 武 下 愛、 三 野 将 城、
○岡田利也(大阪府大院)
DV
微生物
(ウイルス)
○鈴木穂高(国立衛研 食品衛生管理部)
DI
微生物
(免疫)
K-20
下痢性貝毒オカダ酸投与後に見られるマウスの急激な
体温低下
DB
微生物(細菌)
K-19
C寄生虫
【背景・目的】
近 年、 糖 尿 病 や 非 ア ル コ ー ル 性 脂 肪 性 肝 炎(Non-alcoholic
steatohepatitis; NASH)など糖脂質代謝性疾患において、酸化ス
トレスが病態の亢進に関与することが明らかになってきている
(Matsunami et al., 2010)。そこで、高脂肪・高コレステロール飼
料(high-fat and -cholesterol; HFC)によって誘導したNASHラッ
トを用い、酸化ストレスを誘導するHBO曝露により病態を亢進させ、
本実験系がHBOの酸化ストレス毒性評価モデルとして応用可能か
検討した。
【材料・方法】
8週齢の肥満モデルラット(Zucker fatty)雄各群6匹ずつ以下の
4群に分け、HFC飼料によってNASHを誘導し、活性酸素阻害薬
(Apocynin)処置、または2.5 ATAおよび90分間の条件で週3回
HBO曝露を4週間実施した。
1. NASH群
2. NASH+Apocynin群
3. NASH+HBO
4. NASH+HBO+Apocynin群
肝臓における脂肪酸合成および酸化遺伝子群、炎症性因子、抗酸
化酵素およびNADPHファミリー遺伝子群の発現動態をreal-time
PCRで検討した。さらに肝臓における活性酸素量を測定した。
【結果・考察】
NASH+HBO群では、脂肪酸合成遺伝子群の発現量には変化は
認められなかったが、脂肪酸酸化および抗酸化酵素遺伝子群の発
現量は有意に減少し、炎症性因子、NADPH遺伝子群の発現量は
有意に上昇した。また活性酸素量の有意な上昇が認められた。一
方、NASH+HBO+Apocynin群 で は、NASH+HBO群 と 比 較 し
て、脂肪酸酸化および抗酸化酵素遺伝子群の発現量は有意に上昇し、
NADPHの発現量は有意に減少し、活性酸素量の有意な減少が認め
られた。以上から、HBOが誘導する活性酸素によりNASHの病態
が亢進されていることが示され、本モデルはHBOの酸化ストレス
毒性評価系として応用可能であることが示唆された。
B病 理
【背景・目的】
我々は、薬剤誘導性1型糖尿病ラットにおいて、高圧酸素(HBO)曝
露によって酸化ストレスを誘導し、糖尿病病態を亢進することを
明らかにした(Matsunami et al., 2010)。そこで今回、病態発現機
序に酸化ストレスが関与している非アルコール性脂肪性肝炎(Nonalcoholic steatohepatitis; NASH)モデルを用いて、HBO曝露によ
るNASH病態亢進が見られるか検討した。
【材料・方法】
8週齢の肥満モデルラット(Zucker fatty rat)雄各群6匹ずつ以下
の4群に分け、高脂肪・高コレステロール飼料によってNASHを誘
導し、活性酸素阻害薬(Apocynin)処置、または2.5 ATAおよび
90分間の条件で週3回HBO曝露を4週間実施した。
1. NASH群
2. NASH+Apocynin群
3. NASH+HBO群
4. NASH+HBO+Apocynin群
処置後、生化学および病理組織学検査を行い、既報のNASH病態
基準に基づき、NASHの有無を検討した。さらに肝臓を採材し、
酸化ストレスマーカー(TBARS)および抗酸化酵素群を測定した。
【結果・考察】
NASH+HBO群で炎症反応の上昇および有意な線維化の進行が認
められ、TBARSの有意な上昇および抗酸化酵素群の有意な減少
が認められたことから、HBO曝露によりNASH病態が亢進したこ
とが示唆された。またNASH+HBO+Apocynin群では、NASH+
HBO群と比較して、脂肪変性および線維化の有意な減少が認められ、
TBARSの有意な減少および抗酸化酵素群の有意な上昇が認められ
た。以上から、ApocyninがHBOによる酸化ストレスの誘導を抑制
したことが示唆された。すなわち、HBOは活性酸素を誘導し、生
体を酸化ストレス状態にすることで、NASHの病態を亢進させて
いる可能性が示唆された。
A解 剖
○有賀恵規、佐藤雪太、松波登記臣、樫村春香、長谷川有紀、
湯川眞嘉(日本大 獣医・実験動物)
K-18
特別企画
K-17
K-21
新しく開発した内視鏡による気管挿管法:初心者にお
ける従来の喉頭鏡を用いたウサギ気管挿管法とのクロ
スオーバー試験による比較
○矢野一男 、塩谷恭子 、黒澤 努 ( 旭化成クラレメディ
カル(株) 臨床開発センター、2東京女子医科大学・早稲田
大学共同大学院 共同先端生命医科学、3国立循環器病研究
センター 動物実験管理室、4大阪大学大学院医学系研究科
実験動物医学教室)
1,2
3
4
1
【目的】ウサギの気管挿管は、はなはだ困難で種々の手法、器材
が報告されているが、未だ確実な気管挿管法は報告されていない。
著者らは、
内視鏡を用いた新しい気管挿管法を報告した(FELASA、
2010)
。本研究では、ウサギ気管挿管の初心者を、従来法である喉
頭鏡あるいは新しく開発した内視鏡を用いた気管挿管法の2群に
分けたクロスオーバー試験を実施した。【方法】ニュージーランド
白色種のウサギメス4羽を用いた。麻酔前処置に塩酸メデトミジ
ンを、吸入麻酔薬にセボフレンを用いた。気管内チューブ(内径
3.5mm、16Fr)
、新規考案したスタイレット、細径内視鏡システム
((株)AVS)と内視鏡プローブ(外径1.6mm、有効長150mm、画素
数17K)を用いた。対照として、喉頭鏡(マッキントッシュ型、サイ
ズ0)を使用した。実験者12名を、3名/チームの4チームに無作為に
割り付けし、喉頭鏡群あるいは内視鏡群にそれぞれ2チームを配置
した。1名2分間/回を、3回ずつ施行し、2分間以内に気管挿管が
成功したか否かを記録した。初回の実験終了後に、クロスオーバー
で2回目を行った。各群計36回の施行における気管挿管の成功・不
成功を記録し、統計的解析を行った。【結果】気管挿管の成功率は、
喉頭鏡群が2名/12名、2回/36回施行で、内視鏡群が10名/12名、
19回/36回施行であり、内視鏡群が有意に成功した。その後、30
分以内の内視鏡を用いた追加演習で、不成功者2名もウサギに気管
挿管することができた。【総括】今回の得られたデータは、新しく
開発した内視鏡を用いた気管挿管法が容易であることを示唆して
いる。また、ウサギ気管挿管の初心者全員が短時間の演習で気管
挿管できたことから、究極のウサギ気管挿管法が開発されたもの
と思われる。
K-23
動物実験施設における獣医学的管理体制の構築につい
て
○小山公成1、橋本道子1、森井清志1、山田 梓1、安東千賀2、
中野洋子3、櫻井康博2、須藤有二1、藤本芳勝1(1アステラス
リサーチテクノロジー 動物管理部、2アステラスリサーチ
テクノロジー 研究管理部、3アステラス製薬 製剤研究所)
アステラス製薬では実験動物の倫理的取扱の推進並びに社会への
透明性を高める目的で動物実験施設のAAALAC(Association for
Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care、国際
実験動物管理公認協会)による第三者認証取得を目指し、2008年
に完全認証を取得した。本認証を目指す過程や施設調査での指摘
事項への対応において、全ての従事者がより質の高い動物実験及
び動物飼育管理を目指すという目標を共有した。その結果、動物
実験手技の洗練、飼育管理の質の向上、動物実験を実施するため
審査・指導体制確立等、社内の動物実験に関する各プログラムは
大きく進化した。なかでも、専門性を備えた獣医師が動物の状態
を正確に把握し、速やかな診断・処置を行い、迅速且つ適切に実
験責任者へフィードバックあるいは指導を行う等の、実験動物に
対する獣医学的管理体制も確実に改善が進んだ。このことは、実
験動物の福祉の推進並びに実験データの質の向上にもつながるも
のと期待される。今回、演者らはAAALAC認証取得をきっかけ
として進められた動物実験施設における獣医学的管理体制の構築
について報告する。実験動物施設の獣医師には、動物の飼育管理、
獣医学的管理と福祉の向上、従事者の衛生管理など幅広い領域に
関わる役割がある。今後ますますその位置づけは重要になってい
くと実感している。
K-22
ウサギ急性冠症候群(ACS)モデルIII-2、仰臥位と側臥位
における心電図変化
○諸星康雄1、金井孝夫2、中山茂信1、丸山茂善1(1北里大
医 実験動物学、2東京女子医大 実験動物施設)
【背景・目的】ウサギ急性冠症候群(ACS)モデルは冠動脈一分枝を
一定時間閉塞後、再灌流する方法で、心筋虚血・再灌流障害の種々
の段階が作製できる。心電図はACSモデルの障害変化を的確に
判定し得る有用な方法である。モデル作製時の動物は仰臥位保定
で術前、術後の心電図も仰臥位記録である。動物の仰臥位記録は
心軸の動きが大きいといわれる。波形分析に有効な電極装着部位
を選択するためにも側臥位での記録との比較が必要であると考え、
仰臥位と側臥位記録の差異を検討した。【方法】2.5~3kgのJW、
雄ウサギ7羽を、ミダゾラム、酒石酸ブトルファノール、塩酸メデ
トミジンによる導入後、イソフルラン吸入維持麻酔下で 右総頸動
脈から3Fカテーテルを挿入し、左冠動脈に0.5×0.7mmのビーズを
1時間留置後、再灌流し急性冠症候群ウサギモデルを作製した。X
線イメージでのビーズ留置部位の確認と術中・術後の心電図の変
化を比較検討した。心電図記録は標準肢誘導と胸部単極誘導、経
食道誘導記録を仰臥位、側臥位で実施した。【結果・まとめ】標準
肢誘導、胸部単極誘導、経食道誘導について仰臥位と側臥位心電
図記録の差異を検討した。冠動脈閉塞後の虚血に対応した変化は
特に胸骨上で極端なST-T のドーム状の異常な波形が仰臥位、側臥
位ともにみられた。標準肢誘導でもST-T のドーム状の上昇や下降
が見られ、QRS 群変化は胸部誘導ほど極端ではないが影響が見ら
れた。仰臥位における電極装着部位のうち、胸部誘導の9誘導は側
臥位において電極間の距離が近づき記録波形に大きな差はみられ
なくなった。側臥位での右側(CRLow),左側(CLLow) 、胸椎(V)誘導
は仰臥位と電位の異なる波形が得られた。経食道誘導に大きな変
化は無かった。