Title 高カロリー輸液における脂肪乳剤の重要性に関する検証 - 金沢大学

Title
高カロリー輸液における脂肪乳剤の重要性に関する検証的研究
Author(s)
大川, 浩子
Citation
博士学位論文要旨 論文内容の要旨および論文審査結果の要旨/金
沢大学大学院自然科学研究科, 平成20年6月: 590-594
Issue Date
2008-06
Type
Others
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/2297/26891
Right
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http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
氏名
大川浩子
学位の種類
学位記番号
博士(薬学)
博甲第1042号
学位授与の曰付
平成20年3月22日
学位授与の要件
課程博士(学位規則第4条第1項)
学位授与の題目
高カロリー輸液における脂肪乳剤の重要性に関する検証的研究
論文審査委員(主査)
論文審査委員(副査)
宮本謙一(医学部附属病院・教授)
辻彰(自然科学研究科・教授),荒井國三(自然科学研究科・教授),
松下良(自然科学研究科・准教授),加藤将夫(自然科学研究科・准教授)
dDsZWzcr
旦匹と&型処IInJalDan,ittendstoavoidadditionoflipidemulsionintotalparenteralmt面tion
UPN),byareasonofueasinesstothetlnrombosis,burtlenincreasetotlleliveretc・The
pmposeofthisstudyistoconfirmtheeffCctofsupplementationofsoybeanlipidinTPN
theraW,usingexperimentalratmode1.M℃肋MsConsciousyoungadultmalemtswere
givenTPNwithorwithoutsoybeanfatfbr4days・Then,weinvestigatedtheliverpatlmlo副
andplasmaandhelDaticlipidsandexpressionlevelsofmRNAsinvolvedinlipidmetabolism
ReM肋RatsgivenTPNwithouthtdevelopedsevere曲ttyliverwithllylDergdycema,
hylDerinsulinemia,andhypotriglyceridemia・Andthesemtswerefellintotheinsulin
resistance・ThesetlisorderswereclearlyimlDrovedbysu卯Iementationoffat,equivalentto
20%oftOtalcalorieswithacorrespondingreductionof=Iucose,inTPN・Inthe血t-free
TPNgroup,theexpressionofsterolregulatmyelementlDindingprOteinlc(SREBP1C),
acetyl-CoAcarboxylase(ACC),andfattyacidsynthaSe(FAS)mRNAsintheliverwere
coordinatelyupregulated,resultingincreaseinnon-esSentialhttyacidsanddecreasein
essentialfkuttyacidsintheliver,becauseofdIyin窪upfkltsuplDly・Incontrast,theexlDression
ofnlRNAofcamitine-palmitoyltransfbrase(CPT)ladecreased・Theexpressionofallthese
mRNAsinthegroulDgivenTPNs叩plementedwithfatremainedsimilartothoseintheoral
dietcontrolgrⅢID・Cb"c〃Sm〃DisorderselicitedinratMfterinfUsionofexcessglucose
mightinducelipogenesiMnddecreasehttyacid-oxidationintheliver,antlthesechan弩es
cmldbepreventedbys叩plementingsoybeanfatequiwulentto20%oftotalcalories(witM
correspondingdecreaseofglucose).Therefbre,itmaybealDIDropriateroutinelyto
supFIementfat-f1℃eTPNwithsoybeanhtinplaceofapartoftheglucoseintheclinical
situation・SermnglucoseandinsulinlevelsshouldalsobemonitoredduringTPNinfhnsion
-590-
lへ
学位論文要旨
【背景と目的】ヒトの正常な生理機能の維持には水、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、無機質の6種類が必
要である。特に、蛋白質、脂質、糖質は3大栄養素と呼ばれ、第6次改定日本人の栄養所要量食事摂
取基準(健康・栄養情報研究会、1999)ではその比率を糖質55%、脂質25%、蛋白質20腱推奨している。
ところが、静脈栄養(parenteralnutrition:PN)を行う際、日本においては、わが国の臨床の現場では、脂
肪乳剤は投与されない傾向にある。脂肪乳剤の禁忌症として血栓症、重篤な肝障害、高脂血症、ケトー
シスを伴った糖尿病がある。また、慎重投与として肝機能障害、血液凝固障害、呼吸障害、重篤な敗血
症があげられている。これらの理由により、PNがグルコースとアミノ酸のみで施行されることがある。特に、
肝逸脱酵素が上昇した場合、
30
脂肪乳剤の投与を中止する
25
ケースをしばしば経験する。
金沢大学医学部附属病院に
おける中心静脈栄養法(total
20
戸 ̄、
ミニ’5
parenteralnutrition:TPN)
10
施行患者において、1996年
5
1月1曰から2005年12月
0
欝霧霧l:
翻I鍵騨霧
蝉liiiil:
31曰の期間中の脂肪乳剤1996111719981999200020012002200320042005
の併用率は、多少の増加は
あるものの約30%で横ばいとFig.1.CombimltionrateofhtemulsioninTPNadministered
なっていることが分かった
inKanazawaUniversityHospital
(Fig.1)。そこで、臨床におけるTPNの肝機能および血糖値に及ぼす影響を調査した。その結果、TPN
施行患者において、グルコース過剰投与は肝障害を惹起しやすいが、脂肪乳剤の投与は肝機能に影響
しないことがわかった。さらに、耐糖能低下症例でグルコース投与量は是正されておらず、そのため高血
糖を招いていることが分かった。そこ
TablelFormulationofTPNsolutions.
Fat-freeTPNTPNwithfklt
で本研究は、ラットを用いてTPN投
類とし総熱量を等しくした。1つは無
脂肪でかつグルコース過剰TPN、も
う1つは総熱量の209Fをグルコースか
ら脂肪乳剤にしたTPNを施行した。
【方法】Sprague-Dawley系雄`性ラット
6-7週齢を用い、無作為に3群、すな
わち固形食対照(control)群、脂肪無
添加TPN群、2M脂肪添加TPN群
Cl(mEq)
P(mmoD
Zn(mmol)
Ⅷ砠洲調刀5朋剥朋刈
加の有用`性を検証した。TPNは2種
GIucose(9)
Fat(9)
Aminoacids(9)
NaImEq)
K(mEm
Mg(mEq)
Ca(mEq)
伽0洲弱刀5朋剥砧加
与を行い、TPNにおける脂肪乳剤添
TPNcaloriesperunitvolume:880kcal/880mL・Caloric
ratioofcarbohydratecaloriestomitorogen:l30
Added血temultionisconsistof55妬Iimoleicacid(18:2),25%
oleicacid(18:1),8%palmiticacid(16:O),8%a-Iinolenicacid
(18:3),and3%stearicacid(18:O).
-591-
に分けた。尚、2種類のTPNの総熱量は等しくした(Tnblel)。Control群およびTPN群は一晩絶食後、
右頚静脈よりカテーテルを留置し、4日間投
群とTPN投与2群の体重には大きな差は認
められなかったが寸無脂肪TPN群でのみ、
有意な肝重量の増加、さらには肝バイオマー
カーであるAST、An値の上昇を認め、肝臓
角昌一葺宕皇)の8色
与を行った(Fig.2)。【結果及び考察】Control
360
120
0
の病理組織学的検査では顕著なびまん性の
123
4
Time(day)
脂肪変性がみられた。また、肝臓中の中`性脂
Fig.2.TPNregimenfDrrats.
肪含量は無脂肪TPN群で顕著に増加していた。
しかし、20%脂肪添加することで脂肪肝の発現を抑制できることが分かった(Fig.3)。また、肝臓中の中性
脂肪(TG)含量は無脂肪TPN群で顕著に増加していた。よって、無脂肪TPN施行によって脂肪肝となった。し
かし、20%脂肪添加することで脂肪肝を予防できることが分かった。また、脂肪酸組成の変動を見た結果、無
脂肪TPN群で必須脂肪酸欠乏を招いていることも分かった。一方、TPN4日間投与終了直後および終了後一
晩絶食後の血糖値および血漿インスリン濃度は無脂肪TPN群でcontrol群と比較し有意に高値であったが、
20%脂肪添加TPN群では改善傾向を認めた。さらに、経静脈糖負荷試験(IGTr)の結果、糖負荷6分後まで
は、TPN群はともに高血糖および高インスリン値を示した。15分以降は20%脂肪添加TPN群ではcontrol群と
同等の推移を示したが、無脂肪TPN群のみ有意に高値で推移した。さらにHOMA-IRの算出を行った結果、
無脂肪TPN群で最も高値を示した。よって、無脂肪TPN群ではインスリン抵抗性となっていることが示唆された
が、20%脂肪添加により改善することが
蕊fj鑿iiil:if曇
(1)
明らかとなった。最後に肝臓の糖および
脂肪酸代謝に関わる酵素および各因子
i鑿鐵騨慧iji篝i:鬘ア
のmRNAの発現量の測定を行ったとこ
ろ、無脂肪TPN群では他の2群と比べ、
(2)
glucokinase(GK)および脂肪酸合成に関
わる因子であるacetyl-CoAcarboxylase
(ACC)、fattyacidsynthase(RAS)、sterol
(3)
regulatoryelementbindingproteinlc
(SREBP1c)の発現量はすべて有意な高
値を示した(Fig.4)。一方、脂肪分解に関
わる酵素camitinepahnitoyltransferasela
(CPT1a)の発現量は有意な低値をしめし
瀞嬢篝鰔
Fig.3.Liglntmicrographsoftheliverofrats.
(MH:H、E・stainingright:oilMIOstaining)
(1)Control,(2)Fat-freeTN,(3)TPNwitMat
-592-
た(Fig.4)。以上より、グルコース過剰投与は高インスリン血症を招き、それによって糖および脂質代謝異常を
起こし脂肪肝を誘発するが,
20%脂肪添加を行うことで
SREBP1c
改善できることが分かった〆
ACC1
【結語】1.TPNを施行しな
FAS
がら自由に行動できるラット
CPT1a
モデルを作成し、4日間の
p-actin
TPN投与終了後の肝重量、
Control
Fat-freeTPNTPNwithfat
肝逸脱酵素AST、ALTの
であった。肝臓の病理組織
200
像において無脂肪TPN群
50
0
肪添加により予防できること
投与終了後の肝臓中TG含
有量が無脂肪TPN群でもっ
とも高値をしめし、肝臓中の
鰐I
100
肪肝となった、しかし、20%I旨
**
#
150
ース4日間投与によって脂
が分かった。2.TPN4曰間
**
SREBP1C
ACC1
##
##
?
観察され、1.5倍量のグルコ
**
Z
で大型脂肪滴がびまん性に
で←①『訶乞函昌
250
(一。出》■①①」@や{)
値は無脂肪TPN群で高値
FAS
CPT1a
□Control■Fat-heeTPN園TPNwitMlt
Fig.4.LipidmetaboUsmrelatedmRNAexpressionafIerTPNfDr4days・
Dataarerepresemtedthemeans±S、D・of5rats.
**significantlydifferenthomcontrolatP<0.01.
#,牌SignificantlydifferentfromtheFat-feeTPNatP<0.05and0.01,respectively.
脂肪酸組成の変動を確認した結果、必須脂肪酸欠乏となっていることが示唆された。3.4日間試験終
了後およびその後1曰絶食後の血糖値および血漿中インスリン濃度の測定、経静脈糖負荷試験および
HOMA-IRの結果、無脂肪TPN群においてインスリン抵抗性となるが、脂肪を20%添加することにより改
善できることが分かった。4.最後に脂肪肝誘発メカニズムについて検討を行った結果、解糖系、脂肪酸
合成関わる酵素、転写因子の各種mRNA発現量は増加しており、脂肪酸分解に関わる因子は減少して
いた。
以上の結果から、TPN療法の際は、脂肪乳剤を適量添加すべきであり、血中グルコースやインスリン濃
度のモニターも重要であることを指摘した。
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学位論文審査結果の要旨
第6次改定日本人の栄養所要量食事摂取基準(健康・栄養`情報研究会〈11999)ではその比率を糖質55%、
脂質25%、蛋白質20%と推奨している。ところが、我が国では輸液栄養を行う際、血栓症や肝障害、高脂血
症の悪化を恐れるあまり、静脈栄養(parenteralnutxitionPN)に脂肪乳剤を入れず、グルコースとアミノ酸
のみで施行されるケースがしばしばある。しかし、グルコースの過剰投与は高血糖を招くばかりか肝機能低
下を起こし易い。一方、脂肪乳剤の添加は肝障害を悪化することはないことが示唆されているが、基礎的
なエピデンスに乏しいのも現実である。そこで本研究は、ラットに中心静脈栄養(TPN)を行い、TPNにおけ
る脂肪乳剤添加の有用性を検証することを目的に検討を加え、以下の結果を得た。
1)TPNを4日間投与した群と経口摂餌control群との体重、肝臓重量に差は認められなかったが、無脂
肪TPN群でのみ、脂肪変性を伴う有意な肝重量の増加、さらには肝バイオマーカーの上昇がみられた。し
かし、脂肪を20%添加することで脂肪肝の発症を抑制できた。2)TPN終了後の血糖値および血漿インスリ
ン濃度は無脂肪TPN群で高値であったが、20%脂肪添加TPN群では改善傾向を認めた。さらに、経静脈
糖負荷試験を行ったところ、無脂肪TPN群ではインスリン抵抗性となっていた。3)肝臓の糖および脂肪酸
代謝に関わる酵素および各因子のmRNAの発現量を調べたところ、無脂肪TPN群では他の2群と比べ、
glucokinaseや脂肪酸合成に関わるacetyl-CoAcarboxylase、fiattyacidsynthase、sterolregulatory
elementbindingproteinlcは高発現しており、脂肪分解に関わるcarnitinepalmitoyltransfleraselaの発現
は有意に低値であった。以上より、TPNへの脂肪乳剤の添加はグルコース過剰投与によって惹起される高
インスリン血症、糖および脂質代謝異常、脂肪肝の発症を回避できることを明らかにした。
近年、病院薬剤師も栄養サポートチームの一員として患者の栄養管理に深く関わるようになっていること
から、薬剤師としてこのような知見を提示しえたことは、今後の栄養療法に大いに貢献するだけでなく、栄
養療法における薬剤師関与の重要性を示す意味でも意義深いものと考える。従って、本論文は、博士(薬
学)論文に値すると判定した.
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