固体線量検出器を用いた乳房撮影装置の半価層測定時の留意点 新潟大学医歯学総合病院 診療支援部 放射線部門 ○上田 弘之 本間 真帆 井上 智子 (Ueda Hiroyuki) (Honma Maho) 荒井 誠 野口 栄吉 (Arai Makoto) (Noguchi Eikichi) (Inoue Tomoko) 【目的】 通常我々は電離箱線量検出器を使用して乳房撮影装置の半価層を求めているが、このたび固体線量 検出器を使用する機会を得たため、双方を比較検討し、固体線量検出器を使用する上での留意点を見出 す。固体線量検出器はシリコンPINフォトダイオードであり、測定前のウォームアップ、バイアス電圧、気温・ 気圧補正の必要が無く、電離箱に比べ利便性が高いといえる。しかし電離箱より線質依存性が大きく、表 示値をそのまま使用する場合は、それが正しい補正が行われた値か確認しなければならない。本実験は その補正値が正しいか確認することと、その他測定時の留意点を確認することを目的とした。 【使用機器】 乳房撮影装置 :MAMMOMAT 3000 線量計及び検出器 :RAMTEC1000D :Solidose308M SIEMENS 東洋メディック、Model 96035B RTI 、R100 RTI(半導体) 管電圧による感度比(Mo/Mo) 1.08 1.06 1.04 感度比 1.02 0.9 25 感度比 管電圧による感度比(Mo/Rh) 0.214 0.321 0.428 0.535 0.642 30 33 Fig.2 管電圧による感度比 (Mo/Rh) 半導体検出器 80 0.107 電離箱 半導体 管電圧(Kv) 100 0 1.08 1.06 1.04 1.02 1 0.98 0.96 0.94 0.92 0.9 0.88 28 80 0 30 Fig.1 管電圧による感度比 (Mo/Mo) 100 20 28 管電圧(Kv) 120 40 電離箱 半導体 0.94 0.92 120 60 1 0.98 0.96 減 弱 率 (% ) 減 弱 率 (%) 【方法・結果・考察】 ガイドラインにおける幾何学的位置に線量計を設置して、99.9%純度 のアルミ板を使用して撮影管電圧ターゲット、フィルターの違いによる線 量減弱曲線を作成し、検出器による違いをみて考察する。各々の測定 値から半価層を求め、Solidose308Mの取り扱い説明書にある補正値を用 いて求めた半価層と、電離箱で求めた半価層を比較する。撮影管電圧 はMo/Moにおいて23,25,28,30kV Mo/Rhにおいて28,30,33kVについ て行った。なおグラフ上の折れ線表示脇の数字は管電圧を、MMはモリ ブデンターゲット、モリブデンフィルター、MRはモリブデンターゲット、ロ ジウムフィルター、IOは電離箱、SOは半導体を表す。 取り扱い説明書には検出器の管電圧に対する感度補正係数が示され ている(Fig.1,2)。これによれば、電離箱検出器はこの管電圧の範囲にお いて感度補正はほとんど必要ないが、半導体は各電圧間での補正が必 要と思われる。したがって特に絶対線量測定時の表示値には注意が必 要で、補正係数が加味されている値か確認すべきである。このグラフか ら半導体においては、両フィルターとも電圧が上がるにつれ感度が高く なることがわかる。 次に線量減弱係数を見ると半導体の方が電離箱と比べ全体的に傾 きが緩やかな曲線になる(Fig.3,4)。 電離箱検出器 これらは、半導体検出器が被膜 23MM IO 25MM IO 物質に覆われているため、フィルタ 28MM IO 30MM IO ー作用により低エネルギー成分が 28MR IO 30MR IO 33MR IO 減弱され、線質が表示電圧より高い 電圧に相当するものに変質して検 アルミ厚(mm) 出器に到達したために、電離箱より Fig.3 線量減弱曲線 緩やかな傾斜を示したと思われる。 (電離箱検出器) Victoreen(電離箱) 23MM SO 25MM SO 28MM SO 30MM SO 28MR SO 30MR SO 33MR SO 60 40 20 0 0 0.107 0.214 0.321 0.428 0.535 0.642 アルミ厚(mm) Fig.4 線量減弱曲線 (半導体検出器) 検出器ごとの、フィルターの違いによる変化率 同じ管電圧のグラフを見ると フィルター、検出器の違い やはりフィルター効果により、電 離箱よりは半導体が、Moフィル ターよりはRhフィルターの方が 傾斜が緩やかになる(Fig.5)。ま た、MoフィルターとRhフィルタ ーの検出器別の減弱曲線の変 化率(同じアルミ厚の減弱率同 Fig.5 線量減弱曲線 Fig.6 減弱曲線の変化率 (フィルター・検出器) (検出器別) 士の比率)が半導体検出器の 方が小さいのも、もともと被膜物質によるフィ Table.1 半価層の比較 ルター効果で低エネルギー成分が減弱され Solidose308M のマニュアルに書いてある補正 ているので、MoからRhに変わったことによる ターゲット/フィルター kV 範囲 補正値 線質の変化の効果が小さく現れたことに起因 Mo/Mo 25~34 0.068 するものと思われる(Fig.6)。 Mo/Rh 30~35 0.056 次に各々の検出器の減弱曲線から実際に 半価層(真値)=半価層(測定値)-補正値 半価層を求め比較する。Solidose308Mには、 電離箱 半導体 アルミ板を付加して行き、値が半分を過ぎた Mo/Mo 23kv 0.296 0.293 時点で半価層を自動的に計算して表示する 25 0.325 0.322 オ ー トモ ー ド が あ る が 、ア ル ミ 厚の 設定が 28 0.359 0.359 0.1mmになっており、今回使用したアルミ板の 30 0.378 0.376 厚さは0.107mmなのでオートモードは採用せ Mo/Rh 28 0.419 0.425 ず、測定値から計算して求めた半価層を取り 30 0.434 0.441 扱い説明書にある補正値を用いて補正した 33 0.453 0.461 値と、電離箱で求めた測定値から計算した半 1.4 120 1.3 100 28MM IO 28MR IO 28MM SO 28MR SO 60 40 1.1 変化率 減 弱 率 (% ) 1.2 80 1 IO SO 0.9 0.8 20 0.7 0 0.6 0 0.107 0.214 0.321 0.428 0.535 0.642 0 0.107 0.214 アルミ厚(mm) 0.321 0.428 0.535 0.642 アルミ厚(mm) 価層の値を比較した(Table.1)。補正値はこの 電圧の範囲で各々のフィルタ 管電圧ごとの、検出器の違いによる変化率(MoFi) 管電圧ごとの、線量計の違いによる変化率(RhFi) ーごとにひとつずつ与えられて いる。これによれば、これらの 補正値は充分信頼できるものと 思われる。しかし、各電圧にお ける検出器の違いによる減弱 曲線の変化率を見ると、特に Moフィルターにおいては第一 Fig.7 減弱曲線の変化率 Fig.8 減弱曲線の変化率 半価層を過ぎたあたりから変化 (Moフィルター) (Rhフィルター) 率に開きが生じてくる(Fig.7,8)。 第一半価層で線質を評価することになっているので問題ないが、仮に第2半価層を評価するならばひとつ の補正値だけで処理はできなくなると思われる。 1.4 1.4 1.3 1.3 1.2 1.2 23MM 25MM 28MM 30MM 1 0.9 0.8 1.1 変化率 変化率 1.1 28MR 30MR 33MR 1 0.9 0.8 0.7 0.7 0.6 0.6 0 0.107 0.214 0.321 0.428 アルミ厚(mm) 0.535 0.642 0 0.107 0.214 0.321 0.428 アルミ厚(mm) 0.535 0.642 【まとめ】 固体検出器と電離箱検出器のアルミ板による線量減弱曲線を比べ、各々の半価層を求め、取り扱い説 明書にある半価層補正値の信憑性を確認した。乳房撮影装置の使用管電圧の範囲においては電離箱で はなくても固体検出器で充分信頼できる値を導けることが確認できた。 【参考文献・図書】 1) 加藤 弘 : X線装置のQA,QC用簡易測定器 日本放射線技術学会雑誌 Vol. 61 No.4 2) 熊谷 道朝 : 平均乳腺線量の測定について 日本放射線技術学会雑誌 Vol. 58 No.3 3) 乳房撮影精度管理マニュアル(改訂版) 放射線医療技術学叢書(14-3) 日本放射線技術学会
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