都市域において自然環境の保全への意欲を高める環境教育(Ⅱ) 大阪市

研究紀要
第 180 号
都市域において自然環境の保全への意欲を高める環境教育(Ⅱ)
―小学校段階における発達に応じた環境教育の進め方―
2007.3
大阪市教育センター
研究紀要
第 180 号
都市域において自然環境の保全への意欲を高める環境教育(Ⅱ)
―小学校段階における発達に応じた環境教育の進め方―
本研究では,まず,環境保全行動に主体的に取り組む人材を育成するに
は,自然体験を通して感性や生態系概念を育む必要があることを確認し,
次に,脳科学の知見および環境教育の3要素「in」
「about」
「for」を考慮し
て,小学校において生物を題材に自然環境の保全への意欲を高める環境教
育の進め方を検討した。その結果,低学年では自然環境の中で感覚を十分
に活用して生物に「親しむ」→中学年ではさまざまな生物が他の生物や無
機的環境と密接に関係して生活していることについて「知る」→高学年で
は生物の多様性や関係性が保持された自然環境を保全・復元・創出するた
めに「行動する」というように,発達段階に応じて環境教育を進めること
が重要であることを明らかにした。さらに,具体的な教材化を図り,授業
を通してその有効性を検証した。
【キーワード】環境教育
自然環境
教育振興室
環境保全行動
自然体験
谷
載
村
生態系概念
美
発達段階
目
次
はじめに…………………………………………………………………………………………………
1
Ⅰ
…………………………………………………………
1
………………………………………………………………………
1
環境教育の目的・目標と自然体験
1
環境教育の目的・目標
2
環境保全行動につながる自然体験
3
環境教育における生態系概念育成の意義
Ⅱ
………………………………………………………
…………………………………………………
5
……………………………………………………………
7
………………………………………………………………………………
7
発達に配慮した環境教育の進め方
1
脳の発達と教育
2
小学校段階における発達に応じた環境教育の進め方
Ⅲ
3
……………………………………
小学校において自然環境の保全への意欲を高める環境教育の構想
8
………………………
9
……………………………………
9
―生物を題材にして―
1
自然環境の保全への意欲を高める環境教育の進め方
2
小学校において自然環境の保全への意欲を高める環境教育プログラム
Ⅳ
Ⅴ
……………
11
…………………………………………
17
………………………………………………………
17
自然環境の保全への意欲を高める環境教育の実際
1
研究対象校の地域と学校の自然環境
2
研究対象児童の実態 ,研究期間,授業者
3
単元設定の意図
4
学習の目標と計画
5
6
17
………………………………………………………………………………
18
……………………………………………………………………………
18
学習の実際
……………………………………………………………………………………
19
授業の評価
……………………………………………………………………………………
26
研究のまとめと今後の課題
おわりに
資料1
…………………………………………………
……………………………………………………………………
30
………………………………………………………………………………………………
30
アメリカ,ミネソタ環境支援事務所発行の『環境リテラシーの学習内容と順序
ミネソタ
州における環境教育にシステムアプローチを提供するために』に提示された「発達段階に
資料2
応じた環境リテラシーの規準」……………………………………………………………
33
ノルウェーの基礎学校における環境教育カリキュラム
34
3
………………………………
はじめに
は,大阪市内の小学生を対象に生物や生態系に関
して専門的知識を有する人材と連携して学校ビ
環境教育がめざすものの一つに,人類の生存基
オトープを活用した環境教育を実践し,生物の多
盤である自然環境の保全に主体的に取り組む人
様性,関係性に着目した環境教育が児童の自然環
材の育成がある。文部科学省・環境省の「環境保
境の保全への意欲を高め,学校ビオトープの維持
全の意欲の増進及び環境教育に関する基本的な
管理活動への主体的な行動を導くことを明らか
方針」
(2005 年)において,学校では児童生徒が
にした。その研究成果を生かし,本年度の研究で
自然環境を維持管理することの重要性について
は,小学校段階において自然環境の保全への意欲
の理解を深め,自然環境の保全に主体的に取り組
を高める環境教育の進め方を明らかにすること
むようにするために,ビオトープや学校林等学校
を目的とする。
が有する施設を活用して自然体験活動等の多様
第Ⅰ章では,環境保全行動を主体的に行う人材
な体験活動を促進することが提案されている。ま
を育成するには,環境教育カリキュラムの目標に
た,我が国における「国連持続可能な開発のため
どのような内容を設定すればいいのか検討する。
の教育の 10 年」を推進する取り組みの一つとし
第Ⅱ章では,小学校段階における発達に応じた環
て,学校における自然体験活動の促進が求められ
境教育の進め方を脳科学の知見をもとに検討す
ている1)ことからも,その重要性が認識できる。
る。その結果を踏まえて,第Ⅲ章では,小学校に
この課題に応える一つの方法が,学校ビオトー
おいて生物を題材に自然環境の保全への意欲を
プ等の自然環境を活用した環境教育であり,都市
高める環境教育の進め方を明らかにする。第Ⅳ章
域においてその果たす役割は大きいものと考え
では,具体的な教材化を図り,授業を通してその
る。大阪市における学校ビオトープ実践校の数が
有効性を検討した結果を示す。
年々増加し,現在 60 以上を確認するほどになっ
ているのも,こうした考えが理解されているから
Ⅰ
環境教育の目的・目標と自然体験
1
環境教育の目的・目標
であろう。それらの中には,児童生徒の生物に対
する体験や認識に変容をもたらすなどの教育効
果をあげている学校が認められる。しかしその一
国際的には「ストックホルム人間環境宣言」
方で,地域性,多様性といったビオトープの基本
(1972 年)において環境教育の重要性が指摘され
的な考え方の押さえや生態系を視野に入れた活
た後,「国際環境教育会議」の「ベオグラード憲
用度が十分でないという事例があることが,当セ
章」(1975 年)や「環境教育政府間会議」の「ト
ンターの調査によって明らかになった2)。このま
ビリシ勧告」
(1977 年)によって,環境教育の目
までは,児童生徒に間違った自然観を育成する恐
的・目標が明確にされてきた。
れがある。「児童・生徒に『生き物が生息する環
ベオグラード憲章は,人間と環境の均衡と調
境は,容易に再現し得るのだ』という誤った見解
和を満足させ,貧困,飢餓,汚染,搾取,専制
を植え付けかねない」3)という指摘に留意しなけ
といったものを根本的になくし,世界の資源は
ればならない。
すべての人の利益になるように,また,すべて
そうした問題意識にたって,本研究の第一年次
の人々の生活の質の向上に役立つような開発
1
を進めることの必要性を明確に述べている。そ
知識,態度,技能,評価能力,参加」から,気
の実現は,「現在および将来の新しい知識と技
づき(Awareness)・知識(Knowledge)・態度
術,価値と態度を高めることによって可能であ
( Attitudes )・ 技 能 ( Skills )・ 参 加
り,そのためには全世界的な規模での環境教育
(Participation)と整理し直している。これ
プログラムの基礎を据えなければならないと
は,国際的な環境教育の枠組みとして位置づけ
している。また,環境倫理の確立の必要性も指
られている。
摘した。そして,環境に関する行動の最終目標
我が国では,環境庁の環境教育懇談会報告で
は,人間と自然の関係,人間と人間との関係を
示された定義「人間と環境のかかわりについて
含めて,すべての生態学的関係を改善すること
理解と認識を深め,責任ある行動がとれるよう
であり,環境教育の目標は,「環境やそれにか
人々の学習を推進すること」(1988 年)と文部
かわる諸問題に気づき,関心を持つとともに,
省(当時)の『環境教育指導資料(中学校・高等
現在の問題の解決と新しい問題の未然防止に
学校編)』(1991 年)に示された「環境問題に
向けて,個人的,集団的に活動する上で必要な
関心をもち,環境に対する人間の責任と役割を
知識,技能,態度,意欲,実行力を身につけた
理解し,環境保全に参加する態度及び環境問題
人々を世界中で育成すること」と明記している。
解決のための能力を育成すること」4)が公的な
「トビリシ勧告」では,環境教育の目標を表
ものであった。これらは,一連の国際会議で示
Ⅰ-1のように示している。環境教育の目標カ
された環境教育の目標に準拠した内容となっ
テゴリーをベオグラード憲章の 6 項目「気づき,
ている。
表Ⅰ-1
トビリシ勧告に示された環境教育の目標
<環境教育の目的>
⒜
都市部と農山漁村部における経済・社会・政治・生態学的な相互依存関係にはっきりと気づかせ,関
心を持たせること
⒝ 環境の保護・改善に必要な知識・価値観・態度・関与・技能を身につける機会をすべての人々に与え
提供すること
⒞
環境に向けて,全体として個人・集団・社会の新しい行動様式を創りだすこと
<環境教育の目標>
1
気づき(Awareness):社会集団や個人が,全体としての環境とそれに関連する問題に気づき,感受
性を持てるように助ける。
2
知 識(Knowledge):社会集団や個人が,環境とそれに関連する問題について多様な経験をし,そ
の基本を理解するよう助ける。
3
態 度(Attitudes):社会集団や個人が,環境についての価値観と懸念を持ち,環境の改善・保護
に積極的に加わる動機を持つよう助ける。
4
技 能(Skills)
:社会集団や個人が,環境問題を見定め,解決する技能を身につけるよう助け
る。
5
参 加(Participation):社会集団や個人に,環境問題の解決に向けたあらゆる段階での働きかけに
積極的に関わる機会を提供する。
(UNESCO-UNEP1978,p.3)
(石川聡子ほか『環境のための教育
―批判的カリキュラム理論と環境教育―』東信堂
2
p.92 をもとに図表化した。)
その後 2004 年に「環境の保全のための意欲の
2
環境保全行動につながる自然体験
増進及び環境教育の推進に関する法律」が完全
⑴
人々が環境保全行動を起こす要因
施行され,「環境保全の意欲の増進及び環境教
では,環境保全に主体的に取り組む人材を育
育の推進に関する基本的な方針」(2005 年)に
成するには,環境教育カリキュラム開発の目標
おいてその具体策が明示された。そのなかでは,
にどのような内容を設定すればいいのだろうか。
我々人類が生態系の中で生きていることや我々
その問いに応える研究としてアメリカのH.ハ
の生活が地域に限らず地球全体の環境に大きな
ンガーフォードらの研究があげられる。
負荷を与えることを理解し,環境保全に主体的
彼らは,
「環境に責任ある行動」を形成する要
に取り組む人材を育成することが環境教育の目
因を探るために環境保全活動を行っている2つ
的であると強調している。
の団体の会員 171 名を対象に調査を行い,「環
いずれも,環境保全に対する責任ある行動が
境に責任ある行動」の形成には,「エントリー
とれる態度を育成するには,人間相互の関係も
レベル(入り口段階)」→「オーナーシップレベ
含めた,人間と自然との相互依存関係の理解と
ル(当事者意識の段階)」→「エンパワーメント
認識を深めることが前提であると述べている。
レベル(力量形成の段階)」という3段階があ
これは,いま国際的に要望されている「国連持
り,それぞれの段階ごとに主要因と副要因が
続可能な開発のための教育の 10 年」の実現に向
存在することを提示した 5 )(図Ⅰ-1)。
けても欠かせない視点である。
エントリーレベル
環境行動を起こす意思決定のプロセスを高める
(入り口段階)
主要因:環境に対する感性←自然との頻繁な接触と交流
副要因:生態系への知識
オーナーシップレベル
自分自身の問題としてとらえる
(当事者意識の段階)
主要因:問題についての深い知識
副要因:問題への個人的なかかわり
エンパワーメントレベル
実技獲得の段階
(実技獲得の段階)
主要因:環境行動戦略を引き起こすための知識と技能,
行動意思
問題解決に対する自信
副要因:環境問題に対する綿密な知識
図Ⅰ-1
人々が環境保全行動を起こす要因
3
その中で注目したいのは,「環境に責任ある行
と過ごすこと,学校や団体での自然体験活動
動」の入り口段階では環境に対する「感性」が
など,いずれも自然体験に関するものである
主要因であり,副要因として「生態系への知識」
ことを明らかにしている。
があるとし,感性が知識よりまさる要因である
降旗らは,ネイチャーゲームの会役員 188
○
としていることである。また,人々が環境に対
名が環境保全行動に直接的な影響を与えた重
して敏感になるためには自然との頻繁な交流・
要な体験として「自然体験」を最も多く記述
接触,野外での個人的あるいは友人と一緒の体
し,続いて「自然・環境の喪失実感」「家族」
験および家族やその他の手本となる人物,特に
などをあげたことを明らかにしている。また,
教員が環境への感性を養い奨励することが重要
人々の自然とのつながり,人とのつながりの
であるため,豊かな感性が身に付くまでの小学
基盤となっているのが,子ども時代や学生期
校段階において,その課題についての教育プロ
に単独あるいは少人数の仲間と過ごした基礎
グラムを提供する必要があると指摘しているこ
的体験としての自然体験だと考えることがで
とである。
きると指摘している。
この指摘は,環境の汚染と破壊の実態を告発
⑵
環境問題への関心と自然体験
した『沈黙の春』の著者であるレイチェル・カ
環境教育において自然体験が欠くことのでき
ーソンが,その幼少期に母マリアと森や草原を
ないものであることは,従来から多くの研究者
歩いた体験を「自然の美しさや神秘をじっと観
によっても提唱されてきたことである。研究者
察することを教え,あらゆる生き物が互いにか
たちは,自然の仕組みを理解し,守るべき自然
かわりあいながら暮らしていること,どんな小
とはどのようなものかを理解するだけでなく,
さな生命でも大切なことを感じとらせてくれた」
自然優先的な価値観を育むうえで8),また,感
6)
性や思考力,判断力などの諸能力を高めるうえ
然に対する「センス・オブ・ワンダー=神秘さ
でも自然体験が重要であるという9)。それは,
や不思議さに目を見はる感性」をすべての子ど
子どもの認知発達の過程で,見る,聞くことに
もの心に育むことの重要性を訴えたことは周知
とどまらず,対象を実際に触って探索したり機
の通りである。
能させたりすることが概念発達に欠かせない
と回想したのにつながる。その後,彼女が自
10)
と指摘されてきたからであろう。
こうした幼少期における自然体験の重要性が
SLE(Significant
Experiences)研究の
筆者が実施した調査によっても,動植物との
結果にも認められると降旗らが紹介している。
直接経験が環境問題への関心と関わりがあるこ
次は,その概要である 7)。
とが確認できた。以下に,調査の概要を示す 11)。
○
Life
ターナー,ピーターソン,L.チャウラは,
2001 年に小学校5年生から中学校3年生,
それぞれ欧米における環境活動家や環境教育
2602 名を対象に,環境問題に関する情報入手の
指導者を対象に実施した研究によって,環境
経験,環境問題に対する関心の程度について選
に責任ある行動をとる人々は,その人格形成
択させた項目と野生の動植物との直接経験の有
過程における特定の体験の影響を受けており,
無について選択させた項目とのクロス集計を行
その体験の多くは野外で家族や少人数の友人
い,動植物との直接経験の割合が高い者ほど環
4
境問題に対する関心が高いといえるのかを検討
育むには,日常的な自然体験によって自然に対
した。動植物を実際に見た経験に関する設問 24
する関心を高め,感性に磨きをかけていくこと
項目,採集した経験(実際に見た経験を含む)
が重要であるといえる。
に関する設問 24 項目に対して「ある」と回答す
3
環境教育における生態系概念育成の意義
れば1点を加算して得点化を図り,それぞれの
H.ハンガーフォードらの研究によって,環境
得点に属するグループ(群)の環境問題に関す
保全行動を促進するには,その入り口段階とし
る情報入手の経験および環境問題への関心の程
て環境に対する感性を磨くととともに生態系に
度をとらえた結果,次のことが明らかになった。
関する知識が必要なことが確認された。環境教
○
育において生態系概念の育成が重要であること
小・中学生ともに野生の動植物を見た経験,
は,従来から多くの指摘がみられている。それ
の回答が多く得点の高いグループ(群)は,
は,地域から地球規模にいたる環境問題が生じ
得点の低いグループ(群)に比べて環境問題
る要因は複雑で多岐にわたるが,基本的には人
に関する情報入手の経験率が高い。得点の低
間環境の一つである自然についての理解が不足
いグループ(群)に,情報入手の経験が「な
していたか,間違っていたことがあげられるか
い」と回答する率が高い。
らである。「循環」「システム」という視点を
○
採集した経験を問う項目に対して「ある」と
小・中学生ともに野生の動植物を見た経験,
欠いた自然観,そこから生み出された技術が自
採集した経験を問う項目に対して「ある」と
然と向かい合ったことが,その一つと考えられ
の回答が多く得点の高いグループ(群)は,
る 13)。自然を部分のみに着目し,全体的に把握
得点の低いグループ(群)に比べて環境問題
しようとしない要素分析主義に陥った自然科学
への関心が高い。得点の低いグループ(群)
の探究が反省されているのである。
H.ハンガーフォードは,環境教育の目標を大
に,環境問題に対して「知りたくない」と回
答する率が高い。
きく4つのレベルに分け,レベルⅠとして生態
以上の結果,動植物との直接経験の程度が高
学的基礎知識の習得をあげている。また,「生
い者ほど環境問題に対する関心が高いことは明
態系概念は,環境教育を構成する必須の部分で
らかである。環境教育を推進していくうえで自
ある」14)とも述べている。日本においては,沼
然体験を繰り返し行うことの必要性が叫ばれて
田眞が「環境問題は人間環境が問題ではあるが,
きた理由もここに認められる。白井らによって
それに対処する基礎的立場はエコロジカルな自
も,「『環境について知っていること(知って
然理解によってきずきあげられる」15)と主張し
いる分野をいくつでも選択する複数回答)』の
ている。また,鈴木善次は「すべてが生態系の
質問では,自然遊び度が高いほど,知っている
一員であり,生態系のルールの枠でしか生きら
比率が高い」「自然遊び度が高いほど『生活の
れないという思想が必要である。環境教育の基
豊かさ,便利さが多少犠牲になっても環境保全
本理念は,こうした思想をもち,それをもとに
を優先すべきである』という回答比率が高い」
した行動規範を定め,それを実践する人々を育
という調査結果が報告されている 12)。
成することである」16)と述べている。さらに,
子どもたちの環境に対する責任感や使命感を
保全生態学者である鷲谷いづみは,生態系を変
5
質させ単純化させていくリスクを実感するには,
予測し,その予測のもとに自分とかかわる人や
生態系を読み解く力,生態系リテラシーを高め
生物に配慮した行動がとれる人を育成すること
ることが必要であるとし,そのためには,幼少
につながるのである。
期から実体験をともなう自然環境学習の機会を
環境先進国といわれる諸国では,幼少期から
多く与えなければならないと指摘している 17)。
生態系概念の育成に力を注いでいる。たとえば,
これらの指摘からも,地球という閉鎖系の中
アメリカのミネソタ州では,州の環境教育の目
において,人間も自然の一員であるという認識
標および計画を「生徒と市民は持続可能なライ
のもとに,環境保全行動に主体的に取り組む人
フスタイルを維持するために,より正確な情報
材を育成するためには,生態系概念の育成が欠
を元に意志決定の過程を適用することができる
かせないといえる。生命-生態系が織り成す相
ようになる必要がある。そのために,市民は以
互依存の関係を理解することは,我々の生活基
下のことを必要とする:1. 生態系を理解する
盤である自然環境および人間の社会環境を保全
こと,2. 人間の心構えや振る舞いと環境との
していくための一歩となるはずである。
間の因果関係を理解すること,3. 代わりとな
「環境保全の意欲の増進及び環境教育の推進
る行動を決める前に環境問題に対する代替案を
に関する基本的な方針」に示された「環境教育
評価できること,4. 環境の複合使用の影響(効
の内容」において我々が生態系の一員であるこ
果)について理解すること。」20)と明記してい
とを自覚し,人間と環境との関わりについての
る。
理解を深め,そのうえで,環境保全行動に責任
この中心となる知識は,
「地球は相互作用する
ある行動をとる必要性を指摘しているのもその
一まとまりの自然と社会のシテムである。環境
ためである。
リテラシーを身につけた人は,システムにおけ
環境問題の解決に,必要とされるのは,エコ
る部分同士の関係性と,人間と環境システムの
ロジカル(生態的)でホリスティック(全包括
相互依存について理解する必要がある。環境教
的)な自然観であり 18),自然界のあらゆる事物
育の内容は,自然や社会のシステムにおける関
が互いに関係をもっているという事実に対する
係性を探究することである」21)と説明し,この
認識を深めることなしには,環境教育はその出
考えをもとに発達段階に応じた環境リテラシー
発点から誤った道を進むことになる。
の規準を『環境リテラシーの学習内容と順序』
生態系概念とは,自然現象を孤立した要素の
に提示している(巻末資料1参照)
。
寄せ集めではなく,相互作用を行っている要素
ノルウェーでは,「教育・研究・教会省」が作
の有機的全体性を示すまとまりとしてとらえる
成した「コアカリキュラム」の中に,義務教育
システム的自然観のことである 19)。こうした概
におけるあらゆる学年や教科において育成した
念を形成することは,地球上に生息する生物は
い「7つの人間像」の一つとして「環境の大切
人間も含めてすべて孤立しているのでなく,そ
さを自覚する人間(The Environmentally
れぞれが何らかの関わりを持ちながら生活して
Aware Human Being)」が明記され,それにもと
いることを理解させる。そして,自分の行動が
づいた環境教育カリキュラムが作成され,教育
システム全体にどのような影響を与えるのかを
が展開されている 22)(巻末資料2参照)。
6
Ⅱ
発達に配慮した環境教育の進め方
ここでは,ゴールデンの「脳の発達段階」と
神経細胞の発達段階などを考慮して,小学校に
おける環境教育の進め方を検討する。
環境保全行動に主体的に取り組む人材を育て
るには,自然体験を通して環境に対する感性お
ゴールデンの「脳の発達段階」によれば,段
よび生態系概念を育成することが欠かせない。
階「4」が小学校にあてはまることになる。し
この視点を,小学校における環境教育の進め方
かし,神経細胞の発達段階の第一段階は生まれ
を考える際にも組み入れていく必要がある。
てから3歳頃まで,第2段階は4歳から7歳頃
では,具体的には,どの発達段階にどのよう
まで,そして第3段階は 10 歳前後の頃であり
な視点を重視していけばいいのだろうか。その
(図Ⅱ-1)
,精神活動を営む神経回路が形成さ
課題について,脳科学の知見を参考にしながら
れる3つの異なる時期が,心身の発達の節目に
検討してみたい。
あたる時期といわれる
23)ことを考慮しなけれ
ばならない。
1
脳の発達と教育
ゴールデンによる「脳の発達段階」モデルの
「主な行動特徴」をみると,脳の発達にともな
って心身の諸機能が低次機能から高次機能へと
発達的に顕在化していくことがわかる。それは,
発達段階に応じて最適な時期に,適切な教育内
容を提供する必要性を再確認させる(表Ⅱ-1)。
表Ⅱ-1
段階
関係する脳の領域
図Ⅱ-1
神経回路の形成過程 24)
ゴールデンによる「脳の発達段階」
開始時期
終了時期
正常分娩で
生後2ヶ月
主な行動特徴
1
第1ブロック
-
覚醒と睡眠のリズムの確立
(夜寝て昼目覚めるリズム)
2
第2ブロック1次
感覚野の形成
第3ブロック1次
運動野の形成
-
同上
基本的な感覚(視覚,聴覚,体
性感覚,味覚,嗅覚)と運動の
形成
(目で追う・つかむなど)
3
第2ブロック2次
感覚野の形成
第3ブロック2次
運動野の形成
生後2ヶ
月
5歳頃
視覚・聴覚・運動系における初
歩的で重要な学習
2ブロック間に働きの面で連携
がでてくる
模倣行動
4
第2ブロック3次
感覚野の形成と成立
第3ブロック2次
運動野の形成
5~8歳
頃
12 歳頃
基礎的な学力の形成と感情や行
動のコントロール
行為の計画
5
第3ブロック3次
運動野の成立
(前頭葉前部)
12~15 歳
頃
24 歳頃
思考や行為のプログラミングと
その実行
感情を統制するはたらき
(坂野登『こころを育てる脳のしくみ』p.70 および永江誠司『脳と発達の心理学―脳を育み
7
心を育てる―』pp42-44 より作成)
また,プランニング能力の発達過程は,4歳頃ま
な流れとされている。このことを阿部治は「生涯
での「準備期」,4歳から7歳頃までの「草創期」
,
学習と環境教育」として図Ⅱ-2のように示し,
7 歳から9歳頃までの「発展期」,9歳頃から 12
幼児期には環境の中で直接体験による感性学習
歳頃までの「成熟期」,そして 12 歳以降の「完成
(in),学齢期には環境についての知識・技術学習
期」に区分される 25)。
(about),成人期には環境問題解決のための行
これらを考慮すると,発達段階に応じて表Ⅱ-
動・参加学習(for)を中心にした学習へという順
序性があることを示している 26)。
2のような学習内容を組み入れていくことが可
能となると考える。
環境教育の場
表Ⅱ-2
発達段階に応じた学習内容
学習内容
低
・視覚,聴覚などの感覚を十分に活用する
中
・基礎的な学習
・自分の行為を計画して実行する
(感情をコントロールする経験)
高
図Ⅱ-2
・自分の行為を意図的に計画し,それを実行
して結果を評価する
・ある目標に向けて思考を練り上げる
・感情をコントロールする経験
生涯学習と環境教育
この段階を先に示した脳の発達と併せてみる
と,小学校段階における環境教育の進め方の大枠
を表Ⅱ-3のように考えることができる。
2
この進め方は,文部省(当時)が『環境教育指
小学校段階における発達に応じた環境教育
の進め方
導資料
中学校高等学校編』
(平成4年)の中で,
小学校において環境教育を進める際に,先述し
「環境教育の基礎づくりの段階にある小学校低
た脳の発達を考慮してどの段階にどのような環
学年・中学年の児童には,自然に触れ,自然の事
境教育を行うのが効果的かを考えていく必要が
物・現象から感受する活動の機会を多くもたせた
ある。その際に,環境教育で重視されている3つ
い。自然を体験させ,守るべき自然がどのような
の要素:「in(環境の中で),about(環境につい
ものであるかを知らせるのも,この時期が適当で
て),for(環境のために)
」の順序性を考慮するこ
あると考えられる。小学校高学年の児童,中学校
とが有効となる。
の生徒には,環境にかかわる事象に直面させ,具
トビリシ勧告で示された環境教育の目標をも
体的に認識させるとともに,因果関係や相互関係
とにした「気づき」から「参加」へ,あるいは in
の把握力,問題解決能力が育成できるように指導
→about→for という流れが,環境教育のおおまか
するのが望ましい」としているのに照応している。
表Ⅱ-3
小学校段階における環境教育の進め方
低学年では,環境の中での学習(in):直接体験による感性学習
中学年では,環境の中での学習および環境についての学習(about):知識・技術学習
高学年では,環境の中での学習,環境についての学習および環境のための学習(for)
:問題解決の
ための行動・参加学習
8
Ⅲ
小学校において自然環境の保全への意欲を
子ども用図書に紹介されるほどになっている。図
高める環境教育の構想
Ⅲ-1は,「森のムッレ教室」で重視されている
-生物を題材にして-
子どもの発達に配慮した環境教育の考え方であ
る
27)。この考え方と「脳の発達段階」
,環境教育
ここでは,前節で示した環境教育のおおまかな
の順序性,生態系概念の育成という視点を考慮し
流れ「in→about→for」という順序性と環境教育
て,小学校において生物を題材に自然環境の保全
で重要な生態系概念育成の視点を考慮して,生物
への意欲を高める環境教育の進め方を整理する
を題材にして自然環境の保全への意欲を高める
と,表Ⅲ-1のように考えることができる。
環境教育の進め方について検討する。
1
この考えをもとに具体的なプログラムを作成
自然環境の保全への意欲を高める環境教育
するために,小学校学習指導要領に示された各教
の進め方
科・領域における目標の中から自然環境にかかわ
環境先進国といわれる欧米諸国では,幼児期か
る部分を拾い上げ整理してみた。その結果が表Ⅲ-
ら生態系概念育成を視点に環境教育プログラム
2(p.10)である。
が作成されてきた。その一つであるスウェーデン
における「森のムッレ教室」の内容は,幼児期か
表Ⅲ-1
小学校において生物を題材に自然環境の保全
への意欲を高める環境教育の進め方
ら実体験を通して自然界の循環について学ぶよ
うにしたプログラムとして有名で,日本における
低学年では,地域の生物に「親しむ」
学校ビオトープ等に生息する生物の観察だけ
でなく,生物を題材にした採集的遊びや製作活動
などの感覚を十分に活用した直接経験を通して,
生物に対する豊かな感受性や興味・関心を高め,
生命の大切さを感得し,生物に対する愛着の気持
ちを培う。
↓
中学年では,地域の生物について「知る」
生物が他の生物と食餌や生息環境を通して互
いにかかわっていることや無機的な環境と密接
に関係して生活していることをとらえ,学校ビオ
トープなどの生物の関係性,多様性が保持された
自然環境の意義を理解する。
↓
高学年では,地域の生物のために「行動する」
人間の生活が自然界のバランスの上に成り立
っていることを理解し,それを崩した場合などの
影響について考え,自然と共生・共存するあり方
について探る。そうした学びを通して,自然環境
を保全・復元・創出することの重要性に気づき,
地域の自然環境の保全及び学校ビオトープの維
クノッペン教室
持管理活動に主体的に取り組む。
図Ⅲ-1
自然の階段(
「森のムッレ教室」
)
9
表Ⅲ-2
小学校学習指導要領の目標及び内容と環境教育(生物を題材に)
環境教育の3要素
小学校学習指導要領の目標及び内容
自
然
低
環
学
境
年
の
中
で
生活科(第1・2学年)
○ 自分と身近な動物や植物などの自然とのかかわりに関心をもち,自然を大切にしたり,自分
たちの遊びや生活を工夫したりすることができるようにする。
○ 身近な自然に関する活動の楽しさを味わうとともに,それらを通して気付いたことや楽しか
ったことなどを言葉,絵,動作,劇化などにより表現できるようにする。
・ 身近な自然の観察,季節にかかわる活動→四季の変化,季節に気付く,生活の工夫
・ 動物の飼育,植物の栽培→ 生命をもっていること,成長していることに気付く
生物への親しみをもち,生物を大切にする
図画工作(第1・2学年)
○ 材料をもとにして,楽しい造形活動をするようにする。
・ 身近な自然物に関心をもち,体全体の感覚を働かせて,思い付いたことを楽しく表す。
道徳(第1・2学年)
○ 身近な自然に親しみ,動植物に優しい心で接する。
○ 生きることを喜び,生命を大切にする心をもつ。
○ 美しいものに触れ,すがすがしい心をもつ。
理科
自
第3学年
然
中
環
学
境
年
○
身近に見られる動物や植物を比較しながら調べ,見いだした問題を興味・関心をもって追究
する活動を通して,生物を愛護する態度を育てるとともに,生物の成長のきまりや体のつくり,
生物同士のかかわりについての見方や考え方を養う。
・
身近な昆虫や植物を探したり育てたりする→身近な昆虫や植物の成長のきまり,体のつ
くり,昆虫と植物とのかかわりについての考えをもつ
第4学年
に
○
身近にみられる動物の活動や植物の成長を季節と関係付けながら調べ,見いだした問題を興
つ
味・関心をもって追究する活動を通して,生物を愛護する態度を育てるとともに,動物の活動
い
・ 季節ごとの動物の活動や生物の成長を調べる→動植物の活動や成長と季節とのかかわりに
や植物の成長と環境とのかかわりについての見方や考え方を養う。
ついての考えをもつ
て
図画工作(第3・4学年)
○
材料や場所をもとにして,楽しい造形活動をするようにする。
道徳
○
自然のすばらしさや不思議さに感動し,自然や動植物を大切にする。
○
生命の尊さを感じ取り,生命あるものを大切にする。
○
美しいものや気高いものに感動する心をもつ。
○
郷土の文化と伝統に親しみ,郷土を愛する心をもつ。
理科
自
然
環
境
の
た
第5学年
高
○
植物の発芽から結実までの過程,動物の発生や成長などをそれらにかかわる条件に目を向け
ながら調べ,見いだした問題を計画的に追究する活動を通して,生命を尊重する態度を育てる
学
とともに,生命の連続性についての見方や考え方を養う。
年
・
植物の発芽,成長及び結実とその条件についての考えをもつ
・
動物の発生や成長についての考えをもつ
第6学年
○
生物の体のつくりと働き及び生物と環境とを関係付けながら調べ,見いだした問題を多面的
に追究する活動を通して,生命を尊重する態度を育てるとともに,生物の体の働き及び生物と
環境とのかかわりについての見方や考え方を養う。
・
め
動物や植物の生活の観察,生物の養分の取り方を調べる→生物と環境とのかかわりにつ
いての考えをもつ
に
図画工作(第5・6学年)
○
材料や場所などの特徴をもとに工夫して,楽しい造形活動をするようにする。
道徳
○
自然の偉大さを知り,自然環境を大切にする。
○
生命がかけがえのないものであることを知り,自他の生命を尊重する。
○
美しいものに感動する心や人間の力を超えたものに対する畏敬の念をもつ。
特別活動
勤労生産・奉仕的行事
勤労の尊さや生産の喜びを体得するとともに,ボランティア活動など社会奉仕の精神を涵養す
る体験が得られるような活動を行うこと。
10
2
小学校において自然環境の保全への意欲を
⑴
小学校低学年における環境教育プログラム
高める環境教育プログラム
―地域の生物に「親しむ」―
ここでは,先述した小学校における自然環境
小学校低学年では,感覚を十分に活用した直
の保全への意欲を高める環境教育の進め方をも
接経験を通して生物に対する豊かな感受性や興
とに,具体的にどのような学習が展開できるの
味・関心を高め,生命の大切さを感得し,生物
か,これまでに研究協力校などの協力を得て実
に対する愛着の気持ちを培うようにすることが
施した環境教育の実践事例を提示する。
ねらいである。
①
第1学年
「秋となかよし~季節を感じて楽しもう~」の学習
1
対象学年
第1学年
2
単元名
「秋となかよし
3
単元の目標
~季節を感じて楽しもう~」
○
季節を楽しむ活動を進んで行い,学校ビオトープの生物に対する興味・関心を高める。
○
感覚を通して学校ビオトープの季節の移り変わりに気づくことができる。
○
自分が感じた季節の移り変わりや秋の様子を,自分なりの表現方法を用いて相手に伝えること
ができる。
○
4
感じた秋を表現して楽しむための方法を考え,友達と協力して計画し,実行することができる。
学習計画
1次
(全 14 時間
生活科+図工科+国語科+音楽科)
秋の「ビオトープマップ」をつくろう
・
(3時間)
秋の「ビオトープマップ」をつくるために,どのような生物の様子をみつけてくればい
いのか話し合う。
・ 夏と比べて生物の生活の様子が変化したところや季節の移り変わりを感じるところを調
べる。
・
秋の「ビオトープマップ」を作り,生物の生活の様子と季節の変化とのかかわりに気づ
く。
2次
みつけた秋ともっとなかよくなるものを作ろう
・
3次
4次
(3時間)
秋を楽しむための方法を考え,おもちゃや楽器などをつくる。
「秋となかよしフェスティバル」を楽しもう
(3時間)
・
お家の人と秋を楽しむ計画を立てる。
・
招待状,会場の飾り付け,司会,あいさつなどの役割を考え,準備を行う。
・
秋を楽しむために作ったおもちゃや楽器などを利用して,友達や保護者と遊ぶ。
お家の人に手紙を書こう
・
(2時間)
自分の学習活動をふり返り,楽しかったことなどを手紙に書いて保護者に伝える。
第1次の学習の様子
<夏と比べて生物の生活が変化したところ>
ビオトープの夏との違いを見つけよう
・ 夏はヤゴがいたのに,今はいません。ヤゴはトンボになっ
ています。
夏との違いをみつけよう
・
タニシの数が,夏よりいっぱいにふえています。
・
夏は,カマキリがいっぱいいたのに今はいません。
・
セミの抜け殻が,クモの巣にひっかかっています。
・
ミカンの葉がふえて,実が緑色になっています。
・
草がたくさんになっています。
11
②
第2学年
「生き物と友だち」の学習
1
対象学年
第2学年
2
単元名
「生き物と友だち」
3
単元の目標
○
生物を探したり育てたりする活動を通して生物に親しみ,進んで生物とかかわろうとする。
○
生物の成長の様子や育つ環境について観察したり調べたりして,わかったことや考えたこ
とを自分なりの方法で表現することができる。
○
生物を採集したり飼育したりする活動を通して,生物も自分たちと同じように命をもって
成長していることに気づき,大切にすることができる。
4
学習計画
1次
(全 12 時間
生活科)
生き物を探しにいこう(4時間)
・ いままでの経験をもとに,もっと見たりふれたりしたかった生物について話し合い,
その生物の住んでいる場所を予測する。
2次
・
自分が調べたい生物はどんな所にすみ,何を食べて生活しているか調べる。
・
生物に合った捕まえ方を工夫して捕まえ,観察する。
生き物と友だちになろう(4時間)
・
自分が育てたい生物がどんな所にすんでいたかを思い出し,生物にあった生息環境
づくりの計画を立てる。
生き物を呼びこもう
生き物を育てよう
・ 生物を呼びこむためには,どの ・生物を飼育する方法を調べる。
ような環境が必要か調べる。
・生物の飼育に必要な物をそろえて
・ 材料をそろえて「生き物のすみ
か」をつくる。
飼育する。
・生物の成長の様子を継続観察する。
・ 「生き物のすみか」にどのよう
な生物が生息するか観察する。
3次
生き物を紹介しよう(4時間)
・
他学年の児童や保護者に,
「生き物のすみか」に生息している生物や飼育している生
物について紹介する計画を立てる。
・
他学年の児童や保護者などに生物の特徴や生息環境などについてわかりやすく紹介
する。
・
飼育していた生物を生息していた環境に戻す。
12
⑵
小学校中学年における環境教育プログラム
く,食べ物や生息環境を通した生物同士のかかわ
―地域の生物について「知る」―
りをとらえられるようにする。また,生物の関係
小学校中学年では,地域の生物についてそれぞ
性,多様性が保持された自然環境の意義が理解で
れの生物の育ち方や体のつくりを知るだけでな
①
第3学年
きるようにすることがねらいである。
「昆虫をさがそう」の学習
1
対象学年
第3学年
2
単元名
3
単元の目標
「昆虫をさがそう」
○
身近な昆虫に興味・関心をもち,自ら進んで観察しようとする。
○
観察を通して,昆虫の体は,頭,胸,腹の3つの部分からできており,足が6本で胸につい
ているなど,共通するところがあることがわかる。
○
いろいろな昆虫の体のつくりを比較しながら,昆虫の体は種類によって違っていること,そ
れらのつくりはその昆虫の生活に合うようになっていることをとらえることができる。
○
観察を通して,昆虫は,樹木,草地,水辺などを生息地としてうまく住み分けていることや
他の生物と食べ物などを通してつながりをもって生きていることに気づくことができる。
4
学習計画
1次
(全7時間
理科+国語科および夏季休業中)
夏の昆虫の生活の様子を調べよう(3時間)+夏季休業中の活動
・
夏の昆虫の探し方や育て方を話し合う。
・
夏にはどんな昆虫がどこで何をしているのか,校庭や地域の公園などで調べる。
・
夏の昆虫の体のつくりとその特徴,生息場所を調べる
・
昆虫を採集した場所,昆虫の生活の様子,体のつくりとその特徴などを調べた結果を
「昆虫図鑑」にまとめる。
・ 各自が調べた昆虫の生活について,虫ごとに「どこで,何をしていたのか」を発表し,
情報を共有する。
2次
秋の昆虫の生活の様子を調べよう(2時間)
・
秋にはどんな昆虫がどこで何をしているのか,校庭や地域の公園などで調べる。
・
昆虫を採集した場所,昆虫の生活の様子,体のつくりとその特徴などを調べた結果を
「昆虫図鑑」にまとめる。
3次
・
いろいろな昆虫の体を比較して調べ,昆虫の体の共通点をみつける。
・
昆虫の育ち方についてまとめる。
昆虫と他の動物,植物とのつながりを調べよう(2時間)
・
昆虫の生活について継続して調べてきた情報をもとにして,食べ物などを通した昆虫
と他の動物,植物とのつながりを図にまとめる。
・
地域の公園とビオトープとの違いをまとめ,さまざまな昆虫が生息するためには,ど
のような環境が必要か考える。
13
②
第4学年
「ビオトープは,友だち」の学習
1
対象学年
第4学年
2
単元名
「ビオトープは
3
単元の目標
友だち」
○
学校ビオトープの生物の生活の様子が,季節によって変化することがわかる。
○
生物は,食べ物や生息環境を通じて互いにつながりあって生きていることに気づくことが
できる。
生物の生活の様子を継続して調べ,その結果を記録したり発表したりすることができる。
○
さまざまな生物が互いに関係しあって生活する自然環境の重要性に気づくことができる。
4
○
学習計画
1次
(全 21 時間
理科+国語科+総合的な学習の時間)
ビオトープと友だちになろう
・
2次
・
(1時間)
家
ビ
ビオトープの生物の様子を調べる計画を立てる。
の
オ
ビオトープの一年間を調べよう
ま
ト
わ
|
り
プ
や
新
公
聞
園
を
の
つ
生
く
物
ろ
を
う
(16 時間)
春,夏,秋,冬の生物がどこで何をしているのかという視点で生活の
様子を調べる。
・
生物の生活の様子と水や空気の温度の変化を調べる。
・ 雨の日の生物の生活の様子を調べる。
3次
・
ビオトープの一年間をまとめよう
(2時間)
ビオトープの生物の様子が季節の変化ととともにどのように変化して
きたかまとめる。
・「生物どうしのつながり」の様子を図にまとめる。
4次
・
広げよう!ビオトープ!
調
(2時間)
人や他の生物にとって住みやすい街にするために,自分たちにはどの
べ
よ
ようなことができるか考え,話し合う。
う
学習の成果
人や生物にとってすみやすい街にするために
小学校のようなビオトープを公園に作ったらいいと思
う。ビオトープを作ったら,虫や鳥にもいいし人にとっ
てもいいと思う。
虫にとっては安心して暮らせるすみかが一つ増える
し,人にとって虫や鳥を観察したり一緒に遊んだりでき
る。また,虫や鳥のことを考えてごみをあまり捨てなく
なるかもしれない。
ビオトープができると生物にやさしくなれるので,山
へ行ったとき生物のことを考えて木や草を取ったり虫を
つかまえたりごみをすてたりしなくなると思う。
観察を通してみつけた「生物どうしのつながり」
ビオトープは一人では作れないが,小学校のビオトー
プのようにみんなでやれば作れると思う。(A男)
14
⑶
小学校高学年における環境教育プログラム
性に気づき,地域の自然環境の保全・復元・創
―地域の生物のために「行動する」―
出および学校ビオトープの維持管理活動に主体
小学校高学年では,中学年までの学習をもと
的に取り組むようにすることをねらいとする。
に自然環境を保全・復元・創出することの重要
①
第5学年
「人や他の生物にとって暮らしやすい街をつくろう」の学習
1
対象学年
第5学年
2
単元名
「人や他の生物にとって暮らしやすい街をつくろう」
3
単元の目標
○
地域や学校ビオトープの生物の様子を調べることによって,「生物どうしのつながり」に気づき,
人や他の生物にとってよりよい環境とはどのようなものか理解できる。
○
地域や学校ビオトープの環境をより豊かなものにするために,自分たちにできることを考え,その
具体化に向けた行動ができる。
○
自分たちの活動や生物の様子を地域や他の学校に発信し,互いに交流できる。
4 学 習 計 画 ( 全 32 時 間
1次
総合的な学習の時間)
人や生き物がくらしやすい街をつくろう(2時間)
・ これからのビオトープをどのようにしていくか,自分たちに何ができるのか考え,話し合う。
2次
活動計画を立てよう(2時間)
・ 各 部 ご と に ,こ れ か ら 進 め た い こ と ,他 の 部 に 協 力 し て ほ し い こ と を 報 告 し ,
意見交流する。
3次
計画に沿って活動を進めよう(27 時間)
・ 計画に沿って,各部で活動を進める。
・ 必要な場合は,全員で活動を進める
発展部
広報部
改善・保護部
○公園に確保した草地ス
○学校ビオトープの生物
ペースや屋上につくっ
や自分たちの活動の様
た草地と水辺に生息す
子を新聞やポスターに
○ミミズなどの土壌動物
る生物の様子を調べる。
まとめ,他学年や地域
の生態を調べ,それら
に知らせる。
が生息できる土壌づく
○校庭に生物を呼び込む
工夫をする。
○ホームページをつくり,
○学校ビオトープの維持
管理を行う。
りに取り組む。
他校との交流を行う。
4次
活動のまとめをしよう(1時間)
・ 活動をふり返る。
「発展部」の活動
公園に確保した「草地スペース」の観察
「草地スペース」には,イヌムギ,イヌビユ,ニワホコリな
どの草本が生えたり,落ち葉が堆積したりして,それらを生
息環境とする生物も生息するようになった。
・ 人が入らないだけでこれだけの植物が育ち,虫やミミズ
もすむようになった。土の色も少しずつ変わってきた。
生き物がたくさんいる土は,黒くてやわらかくて,枯れ
草とかが混ざっている。
公園にもビオトープを作ったらいいと思う。
15
②
第6学年
「ビオトープの改修・拡張計画を立てよう」
1
対象学年
第6学年
2
単元名
「ビオトープの改修・拡張計画を立てよう」
3
単元の目標
○ 地域の様々な生物が生息しやすい環境にするために,既存のビオトープをどのように改修し
ていけばいいのか考えることができる。
○ 専門家や他学年の児童,保護者,地域住民から得た情報をもとにして,自分たちの考えた計画
を練り上げることができる。
○ 自分たちの考えを他学年児童,保護者,地域住民にわかりやすく伝えることができる。
4 学習計画 (全 30 時間
1次
総合的な学習の時間+特別活動)
ビオトープのあり方を学び,どのように改修していけばよいか考えよう
(4時間)
・ 専門家から学んだビオトープの基本的な考え方をもとに,生物が生息しやすい環境にす
るためには,どのように改修していけばよいのか各自で考え,話し合う。
2次
自分たちの考えを見直し,改修プランの素案を作成しよう(6時間)
・
3次
専門家の指導・助言をもとに,自分たちの考えを見直し,修正する。
他の人々の意見や要望も取り入れて,
「改修プラン」を作成しよう
・
(10 時間)
作成した「改修プラン」について各学級で説明し,その場で質問に応えたり意見や要
望をきいたりする。
4次
・
「改修プラン」について保護者に説明し,意見や要望をきく(学習参観日)
。
・
他学年の児童と保護者の意見や要望をもとに「改修プラン」を練り直し,完成させる。
完成した「改修プラン」を全校児童に説明し,理解を得よう
(4時間)
・ 全校児童の理解を得るために,完成した「改修プラン」について全校集会で説明し,改
修作業への協力を求める。
5次
地域の方に「改修プラン」について説明し,協力を得よう
・
(6時間)
「ビオトープ集会」などで保護者や地域住民に「改修プラン」について説明し,改修
作業などへの協力を求める。
学習を終えて
・
改修しても来てほしい生き物がすぐに来るのではなく,長い年月がたってから来ることがわかった。いきなり大
きい木よりも小さい木で成長の早い木を集めて土の盛り方を工夫すれば,森づくりのヒントになることもわかった。
生き物が住みやすい環境にするには,できるだけ自然と同じ環境に近づけないといけないことがわかった。
・ これまでやってきたことで,生き物は自分にあった土地でないと来ないということがわかりました。これからも,
生き物のいっぱい住むビオトープを作っていきたいです。
16
Ⅳ
自然環境の保全への意欲を高める
学校ビオトープの入り口は,以前より植栽さ
環境教育の実際
れていた樹木が成長したことによって見通しが
悪くなっていた。そのため,安全管理上の問題
本章においては,学校ビオトープに生息する
から児童が学校ビオトープに立ち入ることがで
生物を題材に環境教育の3つの要素である「in
きるのは,生活科や理科などの授業時間だけと
→about→for」という順序性と生態系概念育成
なっていた。
の視点を考慮して発達に応じた環境教育を進め
ることによって,児童が生物と環境とのかかわ
りについての理解を深め,その認識に基づいて
自然環境の保全への意欲を高めることができる
(全景)
のか検証する。
(ビオトープ内の池)
1
研究対象校の地域と学校の自然環境
大阪市立三国小学校の学校ビオトープ
研究対象校の大阪市立三国小学校は,大阪市
の北部,住宅やマンションが建ち並ぶ環境に位
2
研究対象児童の実態,研究期間,授業者
置する。校区には,3つの児童公園が整備され
研究対象児童は,大阪市立三国小学校の第4
ているが,いずれも遊具を中心としたもので自
学年の 73 名で,2005 年7月~2006 年3月を
然環境は少ない。
研究期間とした。授業者は,宮口健二校長,筒
そうした地域の現状を踏まえて,平成 10 年
井和子教諭,松下貴彦教諭である。生物調査の
に教職員の発案で樹林と2つの池からなる学校
指導は,有本智氏(NPO 法人「自然回復を試み
ビオトープづくりが計画され,造園業者によっ
る会
ビオトープ孟子」)にお願いした。
て整備された。樹林には,コナラ,ウリハカエ
授業実施にあたり,児童の学校ビオトープの
デ,クスノキなどの樹木が植栽された。その後
生物に対する体験および意識を質問紙調査によ
平成 14 年に樹木の根によって池の防水シート
ってとらえた。
が破られ水漏れが生じたため,手作業で池の一
その結果,研究対象児童の 73 名中「ビオト
つを改修した。シート張り,土運び等の一連の
ープで生物を観察した経験のある」のは 37 名,
作業は,児童,教職員,地域住民の協働で行わ
「ビオトープの生物を採集した経験がある」の
れた。改修後の池には,トンボ類,貝類などが
は 24 名というように,ビオトープに生息する
生息している。もう一つの池には水を張らず,
生物との直接経験が少ないことがわかった。生
剪定した枝などを入れて小動物が生息しやすい
物を観察した経験がないと回答した児童は,そ
環境を整備した。池の周りの土は観察路として
の理由に「みに行ってもおもしろくない」(13
固められているため,草本の生育はほとんど確
名)「小さい生き物が嫌い」(8 名)「草が嫌い」
認できない状態である。草本は,学校ビオトー
(3名)をあげている。こうした傾向は,ビオ
プの入り口に整備された花壇の周辺に認められ
トープに対する好き嫌いにも表れていた。73 名
るだけである。
中 20 名が「どちらともいえない」と回答し,
17
その理由に「あまり行ったことがないからよく
えられるようにする。さらに,そうした認識を
わからない」と経験の少なさをあげている者が
もとに,水辺,樹林,草地などで構成された学
半数を占めた。
校ビオトープが多様な生物の生息環境として欠
以上の結果から,まずはビオトープの「環境
かせないものであることを理解し,それを維持
の中で」生物との直接経験を豊かにし,観察活
していくために自分たちには何ができるのか考
動の楽しさを実感させる必要性が示唆された。
えようとする意欲を高めたいと考えた。
3
4
学習の目標と計画
中学年では,生物が他の生物と食餌や生息環
①
単元名「ビオトープの生きもののくらし」
境を通して互いにつながっていることや無機的
②
学習の目標
な環境と密接に関係していることをとらえ,学
・
学校ビオトープに生息する生物に興味・関
単元設定の意図
校ビオトープなどの生物の関係性,多様性が保
心をもち,それらの活動や成長の様子と季節
持された自然環境の意義を理解することをねら
とを 関係 づ けて 意欲 的 に調 べる こ とが でき
いとする。
る。
・
そのねらいに迫るため,まず,生物との直接
観察を通して,学校ビオトープに生息する
経験率が低い児童の実態を踏まえて,生物の観
生物の活動や成長と季節とのかかわりをとら
察活動の楽しさを実感させることから始めるこ
えることができる。
・
とにした。そのうえで,学校ビオトープに生息
りして表現できる。
する生物がつながって生きていることに気付か
・
せるとともに,生物の活動や成長の様子が季節
学習計画
次(時)
1
7
(全 12 時間
生物は,食餌や生息環境を通して互いにつ
ながりあって生きていることが理解できる。
とかかわりあいながら変化していることをとら
③
継続観察した結果を,記録したり発表した
理科+総合的な学習の時間)
学習内容
児童の活動
夏のビオトープの生
・夏になって,生物の活動や成長の様子が
⑵ 月
物の様子を調べよう
2
夏 の ビオ ト ー プ で 発
(1)
見 し たこ と を ま と め
よう
どのように変化したのか調べる。
・夏に観察した生物について自分なりに発
見したことを発表する。
・発表した内容をもとに「夏のビオトープ
マップ」を作成する。
9
・継続して秋の生物の様子を観察する意欲
月
秋 の ビオ ト ー プ の 生
(3)
物の様子を調べよう
・自分なりの予想を立てて観察活
動に取り組むようにする。
・観察記録などをもとに発表でき
るようにする。
・生物とその生息環境とのかかわ
りがとらえられるよう,発表内
容をビオトープマップに表す
ようにする。
をもつ。
3
指導者のはたらきかけ
・秋になって生物の活動や成長の様子がど
のように変化したのか調べる。
・自分なりの予想を立てて観察活
動に取り組むようにする。
・専門家に質問したいことを整理しておく。 ・事前に整理しておいた質問事項
10
月
・専門家の指導のもとに,各担当場所にお
ける生物調査を行う。
・専門家による秋の生物に関する講話を聞
いたり,専門家に質問したりする。
18
などをもとに,自分から進んで
専門家に質問できるようにす
る。
4
落 ち 葉 と土 と 生 き物
・ビオトープの樹林,運動場など,場所に
・感覚を活用して調べ,ビオトー
(2)
の つ な がり を 調 べよ
よって土の色や固さ,生息する生物に違
プ内の樹林と運動場の土など
う
いがある様子を調べる。
採取した土の違いに気付くよ
11
・落ち葉が堆積した場所の土を採取して,
月
その中にすむ大型土壌動物を採取し,容
うにする。
器に入れて観察する。
・大型土壌動物を除いた後の落ち葉と土を, ・自作の簡易ツルグレン装置を準
簡易ツルグレン装置にかけて,中型土壌
備しておく。
動物を採取し,実体顕微鏡で観察する。
・落ち葉や土の中にすむ土壌動物が,なぜ,
そこを生息環境として好むか考える。
教職員が自作した
簡易ツルグレン装置
5
冬 の ビオ ト ー プ の 生
⑶
物の様子を調べよう
・VTR「落ち葉のそうじやさん」を視聴
・観察した事実と VTR の内容を
し,落ち葉と土と土壌動物とのつながり
もとにして,土壌動物の役割に
を考える。
ついて考えられるようにする。
・冬になって,秋の生物の活動や成長の様
子にどのような違いがみられるか調べ
・自分なりの予想を立てて観察活
動に取り組むようにする。
る。
2
・専門家に質問したいことを整理しておく。
月
・専門家の指導のもとに,各担当場所にお
などをもとに,自分から進んで
ける生物調査を行う。
・専門家による冬の生物に関する講話を聞
いたり,専門家に質問したりする。
6
ビオトープの一年間
⑴
をまとめよう
・観察記録をもとに,季節による生物の様
子の違いをまとめる。
たちにできることを考える。
月
5
学習の実際
⑴
夏のビオトープで発見したことをまとめよう
専門家に質問できるようにす
る。
・観察記録をもとに,空気の温度
の変化,生物の生活の様子の変
・ビオトープを守り,育てるために,自分
3
・事前に整理しておいた質問事項
化について発表した内容を表
にまとめることで,それらの関
係をとらえやすくする。
2学期に入って授業を再開した。児童は,7
月から8月にかけて調べた夏の生物の様子につ
いままではビオトープに自由に立ち入ること
いて,「アメンボの数が少なくなっていた」「シ
ができなかったため,児童のビオトープに生息
オカラトンボのオスがメスを追いかけていた」
する生物に対する興味・関心は高いとはいえな
「メダカは,朝のうちはあまり動かない。晴れ
かった。そこで,7月からビオトープの生物が
た日はよく動いている」
「 木にクマゼミがとまっ
どこで何をしているのかを観察し,
「 ビオトープ
て鳴いていた」などと発表しあって情報を共有
発見カード」に記録していくようにした。あら
し,それらの内容を「夏のビオトープマップ」
ためて生物の様子を集中して観察した児童は,
にまとめていった。その結果,児童は天気や季
自分なりにさまざまな発見をしていく楽しさを
節により生物の生活の様子が変化することに気
感じとり,夏季休業中のプール指導期間もビオ
付いていった。また,マップの全体を見ること
トープに生息する生物の観察を続けていった。
によって,生物はそれぞれに適した環境を選ん
19
で生息していることをとらえていった。
採取し,水槽の中に入れて調べることから始ま
次に,指導者は,これらの生物の様子が季節
った。何種類のヤゴが見つけられるか必死に探
とともにどのように変化しているのか予想させ,
す児童,サカマキガイなどの動きの少ない生物
秋の生物の観察活動への意欲を喚起した。
の様子をじっくりと観察する児童など,自分の
⑵
興味ある生物の観察と採集を楽しんだ。次に,
秋の生物の様子を調べよう
-専門家の指導を受けて-
採集した生物の名前や特徴について専門家に教
秋 の生 物 調 査 では , 児 童 の生 物 に 対 する 興
えてもらい,
「ビオトープ発見カード」に記録し
味・関心をさらに高めるとともに,確かな情報
ていった。その後,樹林,草地に分かれて生物
をもとに生物に対する見方・考え方を深めてほ
調査を継続した。
しいと願い,専門家の指導を受けて生物調査を
ビオトープにおける生物調査が終了したのち,
実施することにした。
教室に移動し,専門家に児童の質問に回答した
まず,児童だけで水辺,樹林,草地に分かれ,
り「つながり」を意識づけられるような解説を
生物がどこで何をしているのか,季節によって
してもらったりした。表Ⅳ-1は,その主な内
どのような変化があるのかを調べておき,専門
容である。この他,コオロギ,バッタ,カマキ
家への質問事項を整理しておいた。自分たちだ
リなどの草地に生息する虫は草丈の高さで棲み
けで観察していく中で多くの疑問を抱いた児童
分けをしていること,トンボと名前のつくもの
は,専門家と出会える日を楽しみにしていた。
とヤンマと名前がつくものとの体形の違いにつ
当日の生物調査は,池の中の生物を手や網で
表Ⅳ-1
いても解説してもらった。
主な児童の質問内容と専門家の解説
児童の主な質問内容
・ひっつきむしは,なぜひっつ
くのですか
専門家の解説
・アメリカセンダングサ,オオオナモミ,イノコズチ,これらの「引っ付き虫」
は,すべてその植物の種子である。それらの草が生えている草むらをキツネ
やタヌキなどが歩くと「引っ付き虫」たちは彼らの毛に絡まってひっつく。
そのようにして遠くに種子をはこんでもらうため「引っ付き虫」はひっつく。
・タニシは,何を食べているの
・水の中にある石の表面に生えているコケの仲間の枯れたところを食べるため
ですか,なぜ石の上について
に石の上にすんでいる。タニシ,モノアラガイ,サカマキガイなどの貝の仲
いるのですか
間は,水の中にある木の葉の枯れたものや動物の死骸を主に食べて,池の中
の水をきれいな状態に保つ役割をしている。
・ヤゴのえさは何ですか
・オタマジャクシやボウフラなど,水の中にすんでいる小さな動物を食べる。
・成虫になるのに最も短いのは
・最も短いのはウスバキトンボ。8月頃によく飛んでいる黄色いトンボ。卵か
何トンボですか
ら成虫まで,約 40 日。沖縄などの南から日本に住み場所を探して毎年渡っ
てくる。世代を重ねながら,暖かい年には北海道まで北上することもあるそ
うだ。そのように旅をしながら北上するのに,できるだけ短い期間で成長す
る必要があるために,そのように進化したものと考えられる。
・三国小学校の池には,なぜト
・三国小学校のトンボ池には,水草がたくさん生えている。また,池の周辺に
ンボが多くすんでいるのです
は草むらや樹林がある。このように池の周辺の環境が多様なことが,トンボ
か
の種類が多い原因だと考えられる。
20
こう して 自 分た ちだ け では 知り 得 なか った
などの土を採取し,バットに広げてそれぞれの
生物の生態と体の特徴との関係,食餌を通した
土の色,固さ,においなどを調べた。運動場と
生物同士のつながり,環境に適合した成長や進
樹林の土との違いが顕著であり,樹林の土の方
化などについて専門家から解説してもらうこ
が黒くて柔らかくしめっていることをとらえた。
とによって,児童は,さらに詳しく生物の生態
また,運動場には生物はいないが樹林の土には
を調べたいという意欲を高めていった。その思
大型土壌動物がたくさんいることをみつけた。
いは,表Ⅳ-2に示した専門家へのお礼の手紙
次に,「土や葉を食べる小さな虫がいると思
の内容に現れていた。
う」
「 大きい虫に食べられないように隠れたり葉
⑶ 落ち葉と土と生き物のつながりを調べよう
の中に隠れたりする虫がいると思う」
「 あたたか
秋の生物調査によって,児童は生物が何を食
いので土の中も生き物がもっといると思う」な
べて生活しているのかに興味をもつようになっ
どと,土の中にはもっと小さな生物がいると予
た。ダンゴムシの餌は何かを調べたいとする児
想し,調べることにした。また,なぜ,そうし
童もいた。そこで,指導者は,土壌動物の存在
た環境に生活しているのかを考えた。生きてい
とその意義に気付かせるため「落ち葉と土と生
くためには水,食べ物,隠れ家,空気,棲みや
き物のつながりを調べよう」の学習を行うこと
すい場所がいるため,土の中は小さな生き物に
にした。
とってそれらが満たされた環境になっているか
児童は,ビオトープの樹林,運動場,学習園
表Ⅳ-2
らだと推測した。
専門家への「お礼の手紙」の記述例
・
ぼくは,ビオトープの池にオオシオカラトンボのヤゴがいたのがとてもうれしかったです。
・
僕はあなたが来る前からずっと疑問に思っていたことがあったんです。ヤゴは何日で成虫になるかという
ことを聞きたかったんです。そして,あなたがきてわかりました。一番早いのが「40 日」そして一番遅
いのが約「2800 日」ということがわかりました。あれからぼくは,学校のビオトープにいたあの 40 日で
トンボになるというウスバキトンボのことを昆虫図鑑で調べてみました。ウスバキトンボは,他のトンボ
より飛ぶ力がすごく強いそうです。
・
私は前から,スイレンの裏にあったゼリーのようなものを何かなと思っていました。何かがよくわかりま
した。貝のたまごとはびっくりしました。
・
クモを持たせてもらったとき,はじめてだったからどきどきしました。あと,最後にクモは1kmも 10
kmもクモの糸で飛べるとは思いませんでした。
・
コオロギやバッタが泳げるということを知らなかったのでよくわかりました。
・ 学習会でいっぱい教えてもらってうれしかったです。私にはどうやっていっぱい花とかの種類を覚えられ
るのかふしぎです。いつか私も有本さんみたいになりたいです。家に帰って図鑑で調べたいものがいっぱ
い出てきました。その中の,アメリカセンダングサを調べたかったのですが,のっていませんでした。
・
僕が一番心に残ったのは,コオロギの名前です。特に覚えているコオロギの名前は,(教えてもらった中
で)ツヅレサセコオロギです。ほかのモリオカメコオロギ,ハラオカメコオロギはちょっと覚えにくいで
す。ぼくも有本さんみたいに物知りになりたいです。
・ ダンゴムシの仲間のことがよくわかりました。今も学校に来てからダンゴムシの観察をしています。また,
来てほしいと思っています。
21
次に,簡易ツルグレン装置で中型土壌動物を
の内容に関連させて動植物の活動と季節とのか
採取し,実体顕微鏡で観察した。トビムシなど
かわりについて理解を深められるよう解説した。
6種類もの中型土壌動物を見つけることができ,
また,池に堆積していた落ち葉が腐り異臭を出
「少しの土の中でもたくさんの虫がいることが
していた現象をとりあげ,
「腐る」意味を知らせ
わかった」と気づき,
「 違う場所の土で調べたら,
た。表Ⅳ-3(p.23)は,その概要である。
虫の量が変わるかもしれない」と新たな疑問を
専門家の「腐るということはとても大切」
「腐
抱く児童が多くいた。
るということを生物が助けている」という言葉
そこで,土壌動物の働きについて VTR「落ち
は,腐ることは悪いこととして意識している児
葉のそうじやさん」
(NHK 放送)を視聴し,観
童にとって衝撃的であり,自然界のつながりの
察してきたこととあわせて落ち葉と土と土壌動
大切さを気付かせるものであった。
物のつながりをとらえていった。
⑸
⑷ 冬のビオトープの生物の様子を調べよう
ビオトープの一年間をまとめよう
3月になって,ビオトープの一年間の変化を
-専門家の指導を受けて-
ふり返った。空気の温度がどのように変化して
冬のビオトープ調査を実施した。気温0℃と
きたか,それととともに生物の活動や成長の様
いう寒い日であったため,児童は「こんなに寒
子がどのように変化してきたかを,観察記録を
かったらヤゴはもういないと思う」などと,秋
もとに発表しあった(表Ⅳ-4)。
に比べると見つけられる動物や野草が大幅に減
少していると予想し,観察に出かけた。
表Ⅳ-4
季節による生物の様子の変化
池には,厚さ5mm ほどの氷が張っていた。
・メダカは夏になると少しだけ数が増え,冬は,池
そのため,予想は確信となりつつあった。しか
の底の枯れ葉などの下で冬眠している
し,氷をはがし池の中をのぞき込むと,動きが
・ヤゴは,春,夏,秋,冬の中で夏に一番多い。
緩慢なヤゴやメダカを確認することができた。
・アメンボは春に卵を産み,夏によく見かけたが,
秋,冬は見かけなかった。
このことから,じっくり観察すれば動植物の冬
・夏にはトンボもヤゴもいるが,春,秋,冬にはヤ
越しの様子をとらえられそうだという期待感が
ゴしかみかけない
・夏には「自分の木」がよく育っていた。
生まれて,観察活動への意欲が高まった。
・夏にはカラスアゲハをみたが,秋,冬にはみない。
アメンボやタニシを探す子,アカメヤナギや
・秋には,コナラの木にドングリの実ができていた
コナラ,サクラなどの樹木の冬芽を見つけた児
・オカダンゴムシは,寒い時期になると土の中であ
童,ススキの根が残っている姿に驚いた児童,
たたまって隠れている。
セイヨウタンポポの葉が地面にはりつくように
広がっているのをみつけた児童など,冬ならで
夏には,池の中,樹林などに多くの生物が生
は生物の様子を発見していった(p.25 参照)。
息していたこと,秋にはアメリカセンダングサ,
ビオトープにおける生物調査が終了したのち,
オナモミなどが花壇周辺に目立ち,それらを食
教室に移動し,児童の質問に専門家から解説し
餌とするオンブバッタ,また,それを食餌とす
てもらうことにした。専門家は,児童に観察事
るハラビロカマキリなどの昆虫を数多くみつけ
実から冬のビオトープの特徴を発表させた。そ
たこと,冬にはみかけられる動植物の数が少な
22
表Ⅳ-3
「冬のビオトープの生き物の様子を調べよう」の学習における専門家の指導・助言―
A:冬のビオトープの特徴をあげよう
C:タニシは夏より少なくなった。
◎
C:メダカが少なくなった。
◎
C:ヤゴの種類が少なくなった。
◎
C:木の葉が落ちてなくなっていた。△
C:池がくさくなった。
□
A:これらをまとめて考えてみよう。
(Aは有本氏を,Cは児童を示す)
①
恒温動物と変温動物(上記◎の内容に関連して)
・タニシ,メダカ,ヤゴが冬にみつけにくくなったのは,人間と違って体温が周りの気温によって変わるから。
・人間の体温は一年中あまり変化しないが,タニシ,メダカ,ヤゴなどは,周りの気温と体温が同じぐらいに
なる。今日は氷が張り,気温が0℃だから,かれらの体温も0℃に近づく。そうなると動けなくなるので見
えにくくなる。冬眠している。
・体温が同じなのは恒温動物といい。タニシなどは,変温動物という。
・冬の間に秋と同じような探し方をしても見つけにくい。冬も秋と同じようにたくさんの生き物がすんでいる
ので,これからもこまかく調べるようにするとよい。池,池の周りの落ち葉の下,石の下など,変温動物が,
冬の間どのように過ごしているのか続けて調べてみよう。
②
落葉樹と常緑樹(上記△の内容に関連して)
クヌギの木は,木の葉が落ちてなくなる木。秋から冬に葉が落ちる。葉が広いので落葉広葉樹。
アカマツのように葉を落とさず先がとがっているものを,針葉樹。
冬に葉を落とさないで葉の広いのを常緑広葉樹。
秋から冬
葉が全部落ちる
クヌギ,センダン,カエデ,ヤナギ
葉が落ちない
アカマツ(針葉樹)
アラカシ,ネズミモチ,トウネズミモチ,ヒサカキ
③
「くさる」ということ(上記□の内容に関連して)
・広葉樹が池に落ちて腐っているので池がくさくなるのをみんなは嫌だといったけど,「くさる」ということ
はすごくよいこと,大切なこと。
・たとえばバッタとかが死んで腐らなければ,死んだバッタだらけになる。葉が落ちて腐らなければ葉だらけ
になってしまう。腐らないと1~2mにもなる。
・腐るというのは,葉とか食べ物を土に返すというとても大事なはたらき。土に返すときにそういう働きをし
てくれるのがミズムシやキノコの仲間,トビムシ,ヤスデ,ムカデ。これらは腐るのを助けてくれる。
・落ちた葉,動物の死骸,食べ物のあまりが,100 年後もこのままだったら大変。埋もれてしまう。
腐るというのはとても大切。腐るのが自然。
・腐るということを生き物が助けている。ビオトープの中の生き物がそういうことを教えてくれる。
落ち葉を集めてきて,どのように腐るのか教室でみてみよう。
・腐るのが安全な食べ物で,腐らない食べ物は安全とはいえない。腐らない食べ物は,恐いと思うこと。
23
くなったことなど,季節によって姿を確認でき
・
ススキは春にはどうなるか
る生物の種類や数が違うことをとらえた。
・
ダンゴムシはどのように脱皮するのか
また,夏には緑色だった木の葉の中には,秋
・
ハサミムシは,春はどうしているのか
には黄色や赤に変化して冬には枯れていくもの
・
アメリカセンダングサは一年草か
があるが緑色のままの樹木もあること,秋に果
・
ヒサカキはビオトープにもあったし,公
実をつける樹木にはそれを餌とする鳥が飛んで
園にもあった。春になって実がなるのが
くること,落葉したあとの冬に新しい芽をだし
楽しみ。
ている樹木があること,落ち葉を土に還す働き
・
をする土壌動物をたくさんみつけたことなど,
セミの寿命は一週間だけど,トンボの寿
命は何日か
樹木の生活と季節とのかかわりをとらえた。
また,タニシやモノアラガイなどの生物や土
こうしてビオトープの一年間をふり返り,さ
壌動物の役割にみたように,生物は互いにつな
まざまな生物がそれぞれに適した場所に生息し,
がりあって生きていて無駄なものはないこと,
季節の変化にあわせて巧みに生活していること
「腐る」ということの大切さなどの学習を思い
のすばらしさを感じとっていった。また,もっ
おこし,多様な生物が生息している環境を今後
と暖かくなれば生物の様子がどのように変化す
も維持していくには,自分たちに何ができるの
るのか継続観察していく必要性を感じとった。
か,どのようなことに配慮すればいいのか考え
さらに,生物によって幼虫から成虫になるまで
るようになった。
に必要な日数が異なることを教えてもらった児
実際の維持管理活動については,第5学年に
童の中には,トンボやタニシの寿命に興味・関
なってからあらためて話し合い,実践すること
心を示す者もいた。次は,その一例である。
となった。
表Ⅳ-5
児童の観察記録「ビオトープ発見カード」の記述例
池
7
月
・アメンボを軍団で6匹みつけた。水
の上をピョンピョンはねる。
・今日は雨だから,アメンボが少なく
なった。
~
27
・タニシは,ぐにょぐにょと水草にの
ぼっていた。ゆっくりと動いてい
29.3
℃
た。さわるとツノをひっこめた。
樹林
・ハナムグリをみつけた。羽がでてい ・前あった花がなくなっ
ていた。
た。
・アカマツに松ぼっくりが実っていた。
葉はますます緑色になっている。
・ビオトープの森でアゲハチョウ,ア
オスジアゲハがとんでいた。
・セミが先月まではあまり鳴いていな
・ゲンゴロウをみつけた。
かったのに,今月はすごく鳴いてい
・前は,トンボが3匹ぐらいしかいな
た。本格的な夏が来たとわかった。
かったけど,今日は池の周りをシオ
・クマゼミのオスをみつけた。
カラトンボなどのトンボが 20 匹ぐ
・土の上にセミの抜け殻が落ちていた。
らい飛んでいた。
・マツの木にカナブンがいた。
・カエルの卵をみつけた。
花壇周辺の草地
・小さなダンゴムシがいた。
・メダカが草の生えている見つかりに
くいところにいた。住処のようだ。
24
8
月
~
30
36
℃
9
月
32
℃
10
月
~
19
27
℃
11
月
18
℃
2
月
~
0
11.5
℃
・池でトンボが卵を産むところをみつ ・アカメヤナギの木に実がなっていた。
けた。
・小さなメダカの子どもをみつけた。
・枯葉の下にメダカをみつけた。
・池でアメンボをたくさんみつけた。
動きがとてもはやかった。
・ヤゴの抜け殻が3つあった。一つは
色がオレンジ。もう一つは透明,最
後に黒っぽい抜け殻。
・アメンボが,前よりいっぱいいた。
・シオカラトンボをみつけた。
・夏休みのころメダカは小さかったけ
ど,今は成長している。
秋の生物調査
・ものすごくメダカが増えていた。
・花壇のまわりでチョウ
・メダカは夏より少なかったけど,メ
をみつけた
ダカの赤ちゃんがたくさんいた。
・最近タニシをよくみかける。タニシ ・ウリハカエデの葉の色が緑から赤に ・草むらにショウリョウ
バッタとオンブバッ
変化していた。種がプロペラみたい
は秋になると赤ちゃんを産むのか
タがいた。
に落ちた。上に投げたらまわりなが
な。赤ちゃんがいた。
・夏には目立たなかった
ら落ちていた。
・葉っぱの裏に必ずタニシがいる。
ススキがたくさんあ
・夏は葉っぱは,ぜんぜん落ちていな
・アメンボが最近ぜんぜんいない。
った。
かったけど,今は葉っぱがいっぱい
・夏よりヤゴの数が多くなっていた。
・バッタは草むらの中で
落ちている。
・タニシやヤゴを見つけた。前より成
・夏よりもどんぐりがいっぱいあった。 夏 は い っ ぱ い 飛 ん で
長していた。
いたけど,今は少しし
どんぐりが割れて中身はピーナッツ
・メダカを一匹見つけたけど,このご
かいない。
みたい。
ろメダカがいなくなった。
・カルカヤをみつけた。
・メダカが前はいっぱいいたのに,一 ・落ち葉の下にナメクジがいた。
表面がふわふわして
・ダンゴムシの抜け殻をみつけた。半
匹しかいなかった。
いた。
分だけあった(お尻の方)。しっかり
・羽化した直後のアキアカネをみつけ
・クビキリギリスが飛ん
こまかく足もあった。
た。光に照らすと体が透けてみえ
でいた。すごくはやか
・コオロギ同士が上にのっていて交尾
る。
った。首がながかっ
していた。
・池の上でトンボが一匹も飛んでいな
た。
・キイロテントウムシが落ち葉の下に
い。
・アメリカセンダングサ
いた。
が,友達の背中にいっ
・カタツムリの赤ちゃんが,コナラの
ぱいついていた。
木の下にいた。
・シロテンハナムグリの幼虫がクスノ
キの下にいた。
・サカマキガイが,ごみを食べていた。 ・ドングリは,夏と初秋とは違って冬
に近づいているのか茶色になってい
・夏にはヤゴがたくさんいたのにいな
た。
かった
・メダカは見つけられなかった。池も ・夏よりドングリの数が多くなってい
る。
冷たかった。
・ハナムグリの幼虫が大きくなってい
た。
・池は全面氷が張っていた。ヤゴ,ア
メンボ,タニシはどこへ行ったのだ
ろう。
・冬なので,メダカとタニシの数が少
なかった。深いところにいた。
・ヤゴは冬にもたくさんいた。冬と夏
の違いは,動きの速さ。
・枯葉の上の方はカラカラで下の方は ・ススキの根っこがまだ
生きている。夏にまた
湿っていた。葉の裏にカビが生えて
咲くと思う。
いた。びっくり!
・アカメヤナギの葉はすっかり落ちて, ・ミミズとナメクジが石
の下にいた。
芽がでていた。
・サクラの木にも芽が出ていた。
・テントウムシの幼虫がいた。黄色だ
った。
・ウリハカエデの葉が冬になってへっ
ていた。
・コナラには葉が 1・2 枚しかなく,芽
がたくさんできていた。
・カミキリムシの卵があった。
25
6
授業の評価
増えていることがわかる。生物の採集経験によ
「ビオトープの生き物のくらし」の学習のね
って,生物に対する興味・関心が高まり,生物
らいは,まず,ビオトープの環境の中で生物の
名を知りたいという意欲を高めたものと考え
観察や採集を行うことによって,生物との直接
られる。表Ⅳ-6(p.27)に示したように,事
経験を豊かにし,生物に対する興味・関心を高
前に比べて自分なりに変わったなと思うこと
めることである。次に,ビオトープの環境につ
について自由記述させた結果,直接経験の深ま
いて,とくに生物の生活について,かれらの活
りとともに生物に対する興味・関心の高まりに
動や成長と季節とを関係づけてとらえること
関する内容が多数認められる。
である。さらに,生物は,食餌や生息環境を通
⑵
観察活動への積極性
して互いにつながりあって生きていることを
表Ⅳ-6(p.27)から,「この学習をする前
理解し,そうした環境を保護・保全することの
と比べて自分なりに変わったなと思うこと」に
意義を理解することである。
ついて「観察活動への積極性」に関する記述数
以上のことが達成できたのかどうか,質問紙
が多いことがわかる。その内容には,「木の切
調査や学習記録等の内容から検討する。
り株の下など,小さな場所でも,虫がいないか
なあと生き物を探すようになった」というよう
⑴
直接経験を通した生物への興味・関心の高
に,生物の直接経験を通していろいろな発見が
まり
できたことが,次の観察活動への原動力となり,
図Ⅳ-1は,事前と事後におけるビオトープ
自分なりの発見をしていこうとする意欲につ
の生物を採集した経験の有無を示したもので
ながったものと考える。
ある。
事後における生物の採集経験者は 73 名中 64
ビオトープの生物を採集した経験
n=73
名と約 88%を占め,事前の 21 名から大幅に増
事前
加した。生物に対する興味・関心の高まりが,
生物の体の特徴などを自分の手にとって確か
21
52
事後
64
9
めたいという意欲を高めたものと考えられる。
ある
生物 の生 息 環境 や名 前 を認 識す る うえ で見
図Ⅳ-1
ただけの経験より採集経験の方が有効な手段
であることは明らかであり
ない
ビオトープの生物を採集した経験
28 ),そうした経験の
機会を増やした活動の意義は大きい。まだ,採
生物名を知る意欲
n=73
集経験のない者が9名残っているが,長い時間
事前
をかけて抵抗感をなくしていくよう指導して
いく必要がある。
50
事後
16
59
7
11
3
図Ⅳ-2は,事前と事後に生物名を知りたい
という意欲について選択させた結果である。事
名前を知りたいか
後には,「名前を知りたい」と回答する児童が
図Ⅳ-2
26
どちらともいえない
名前はしらなくてよい
生物名を知る意欲
表Ⅳ-6
内
容
観察活動へ
この学習をする前と比べて自分なりにかわったなと思うこと
記
記述数
32
述
例
・虫を見つけたら,その虫の特徴やほかにどんな種類があるのか調べるようになった。
・自然にビオトープの生き物のことを知りたくなって,自分から有本さんに聞けるよ
の積極性
うになった。
・有本さんに自分の木の名前を教えてもらってから,自分の木を一ヶ月に一回だった
のに,一週間に一回見るようになった。
・前は虫ばっかり調べていたけど,植物もいっぱい調べるようになった。
・木の切り株の下など,小さな場所でも,虫がいないかなあと生き物を探すようにな
った。
知識の増加
29
・動物や木の名前を覚えた。
・いろいろな虫が脱皮する季節がわかった。
・花にはいっぱいの種類があることがわかった。
・ヤゴがトンボになることや虫の種類が少しわかるようになった。
直接経験の
20
・3年のときは虫にさわれなかったのに,4年になってからさわれるようになった。
・キノコをはじめて見た。
深まり
・前までは,虫は大嫌いだったけど,この学習をして,触れるようになった。
・サカマキガイを触れるようになった。
・ビオトープに来る機会が増えた。
興味・関心の
18
・生き物の食べ物や名前がすごく知りたくなったり,生き物に興味をもったりした。
・前は全然見に行かなかったのに,たくさん見に行くようになった。
高まり
・知らない生き物を見たら,名前を知りたくなるようになった。
・まえまではどうでもいいやと思っていたけど,植物や生き物をみたくなった。
・図工とかでも,虫や自然の絵をかくようになった。
生物への好
16
感度の高ま
・虫を見たらこわがっていたけど,今は進んでみにいける。
・林がすごく好きになった。
り
・生き物を気持ち悪いと思わなくなった。
・虫が嫌いだったが,好きになった。
・最初は虫が嫌いで気持ち悪かったけど,博士がきてから虫が好きになった。
生物に対す
16
・生き物はすばらしいと思った。
る見方・考え
・あらさなかったらビオトープは自然。虫や生き物を殺さない。
方の深まり
・生き物はがんばって生きていると思った。
・いろんな植物や虫がいるなと思った。
・ビオトープの環境をもっとよくしたいと思うようになった。
・生き物などが「かわいいなあ!」と思ったことがあります。前はそんなこと思わな
かったけど。
(対象児童
⑶
73 名)
生物と環境とのかかわりについての理解
物と季節とのかかわりについて,
「 メダカは一年
児童は,夏,秋,冬の生物の様子を観察し記
中せいそくするが,見えるのは春の終わり頃か
録していく中で,また,ビオトープの一年間を
ら夏にかけて。秋はちょっと少なくなる。冬は
ふり返る学習の中で,生物の活動や成長の様子
冬眠している」などと記録している。
には季節による違いや変化があることをとら
生物が生息環境や食餌を通してつながりあっ
pp.24-25)。そうした生
て生きていることについては,
「生き物は,どこ
えていった(表Ⅳ-5
27
で,何をしているのか」を調べたり「落ち葉と
⑷
ビオトープに対する好き嫌い
土と生き物のつながりを調べよう」の学習をし
図Ⅳ-4は,事前と事後における児童のビオ
たりする中で認識を深めていった。設問「ビオ
トープに対する好き嫌いに対する反応を比較
トープの生き物どうしがどのようにつながりあ
した結果である。事前に比べ事後に肯定的な反
って生きているか,知っていることを教えてく
応が高まっていることがわかる。「すき」の理
ださい。言葉や絵でかいてください」に対して,
由としては,「虫の一生が見られるし,木など
表Ⅳ-7および図Ⅳ-3のように回答している
のいろいろな変化がわかるから」「生き物を調
ことからわかる。
べたりして楽しいから」「花などみると落ち着
くから。メダカなどは,人間と同じで生きてい
て大切だから」「三国は町だから,公園などで
表Ⅳ-7 「生物どうしのつながり」に関する記述例
はみられない生き物が見られるから」など,多
・
生き物たちはみんな仲間だと思ったけど違
様な生物の営みが繰り広げられているビオト
った。生き物たちは,自分が虫でも虫を食
ープの存在を重視した記述が多数認められた。
料として食べている。
・ カマキリの食べ物は,トンボ,チョウ,バ
否定的な反応を示した者は,「生き物を捕まえ
ッタなど,自分より小さな昆虫を食べる。
たいけど捕まえられない」「夏は蚊がいて,さ
・ 木の葉が落ちて腐って土にもどり,池に落
されたらかゆいから」などを理由にあげている。
ちた葉をサカマキガイやタニシが食べてく
継続してビオトープの意義を理解できるよう
れる。ミミズも土の中を動いて栄養のある
指導していく必要がある。
土にしてくれる。
・ 枯れ葉はダンゴムシなどが食べて糞をし
て,それをまた他の生き物が食べて,だん
ビオトープに対する好き嫌い
n=73
だん細かくなって土になり,ビオトープの
掃除になる。
30
事前
18
20
2 3
・ 落ち葉を食べている虫は,自然を守ってい
る。
45
事後
17
7
4 1
・ キイロテントウムシは木のすきまに卵をう
んで大きな虫などにおそわれないようにし
すき
どちらかといえばすき
どちらともいえない
どちらかといえばきらい
きらい
ている。
図Ⅳ-4
⑸
ビオトープに対する好き嫌い
ビオトープの意義の理解
「まだビオトープを知らない人に,ビオトー
プのことについて知らせたいことは」に続く言
葉を自由記述させた結果,児童が「生物の多様
性」
「生物に対する知識の増加」
「楽しさの実感」
「生物に対する見方・考え方の深化」「生物に
図Ⅳ-3 児童がかいた「生物どうしのつながり」の例
対する好感度の高まり」「生物との直接経験の
28
機会」「ビオトープの環境のよさ」というさま
たため,日頃公園に出かける機会の多い者でな
ざまな観点からビオトープの意義を理解して
いと回答しにくい内容であったが,「ある」を
いることが読み取れた(表Ⅳ-8)。
選択した者は「家の周りや公園などは木が生い
ビオ トー プ の意 義に 対 する 理解 が 深ま りつ
茂ったり池があったりしないから,虫の量が少
つあることは,設問「あなたの家のまわりや公
ない。土が柔らかくない」「ビオトープにはい
園の生き物とビオトープの生き物の様子を比
ろいろな植物がある」「空気が違うような気が
べてください。違うなと思うことがあります
する」「ビオトープの方が,生き物がのびのび
か」に対して,73 名中 38 名が,違いが「ある」
生きている感じ」などと,水辺,樹林,草地で
と回答したことからも読み取れた。本実践では
構成された多様な生物の生息空間,ビオトープ
直接公園に出かけて調べることができなかっ
の意義を理解した内容を記述している。
表Ⅳ-8
内容
生物の多様性
ビオトープについて知らせたいこと
記述例
記述数
32
・さまざまな生き物がいます。春になると,ツバメもやってきます。夏から秋にかけ
てトンボもたくさんいます。冬は少しさびしくなりますが,ヤゴがいます。これか
らのビオトープが楽しみです。
・生き物がいっぱいいるし,冬でも虫がいっぱいいるから来て見てほしい。
・自然がいっぱいあるし,テントウムシやバッタ,トンボなどの昆虫もいっぱいいま
すよ。
・自然がいっぱいあって,虫たちや木,花などのことをいっぱい調べられます。
生物に対する知
12
識の増加
・小さい自然だけど,たくさんの虫や鳥などがいて,自然のことをよく知ることがで
きます。
・ビオトープには生き物や鳥などいろんなものが来て,いろんなことがわかります。
いろんな植物や虫がいます。ビオトープのことを勉強していたら,虫や植物のこと
がよくわかります。
楽しさの実感
8
・自然に生き物がいて,アメンボやメダカ,あとたくさんの種類の生き物がいます。
とても自然があっておもしろい所です。
・ビオトープには見たこともない生き物の成長がゆっくり見られるから,いろいろ知
りたくなり,とても楽しいです。ビオトープを見てもらいたいなあ。
・自然にアメンボやメダカがいるから楽しいんだよ。
生物に対する見
5
・いろいろな生き物,植物がつながりあって生きています。
方・考え方の深
・ビオトープは生き物のすむ場所で,決して遊び場ではありません。
化
・ビオトープは,どこからか勝手に虫とかが入って来るんだよと教えてあげたい。
・僕たちが自然を大切にしないといけないな。
生物に対する好
3
感度の高まり
生物との直接経
・虫が嫌いな人でも,ビオトープを学んでいくと虫が好きになります。
3
験の機会
ビオトープの環
境のよさ
・生き物が嫌いでもだんだん好きになっていきます。
・自然と直接触れ合うことができます。
・植物や生き物がいっぱいいるので,触れ合えます。
3
・生き物など自然がいっぱいで空気はきれいでとてもいいところです。
・自然あふれるきれいなところです。
(対象児童
29
73 名)
Ⅴ
研究のまとめと今後の課題
化を図り,授業を通してその有効性を検証した。
その結果,生物との直接経験率が低かった児童
本研究では,まず,環境教育においては自然
に対して,まず学校ビオトープに生息する生物
体験を通して感性や生態系概念を育成する必要
を見たり採集したりする経験を豊かにし,その
があることを確認し,次に,脳科学の知見およ
うえで生物と生物,生物と無機的環境とのかか
び環境教育の3要素「in」「about」「for」を考
わりに着目した観察活動を取り入れることによ
慮して,小学校において生物を題材に自然環境
って,生物の関係性,多様性が保持された自然
の保全への意欲を高める環境教育の進め方を検
環境の意義を理解し,それを維持管理していく
討した。その結果,次のように発達に応じて指
ために自分たちに何ができるのか考えようとす
導していく必要があることを明らかにした。
る意欲を高めたことを明らかにした。
こうした児童の生態系概念の初歩の理解をも
低学年では,地域の生物に「親しむ」
とにした自然環境の保全への意欲の高まりは,
生物の観察だけでなく,生物を題材にした
環境保全行動に主体的に取り組んでいる人々が,
採集的遊びや製作活動などの感覚を十分に
その人格形成過程における重要な体験の一つと
活用した直接経験を通して,生物に対する豊
かな感受性や興味・関心を高め,生命の大切
して学校での自然体験活動をあげるというSL
さを感得し,生物に対する愛着の気持ちを培
E研究の結果につながり,幼少期における感性
う。
や生態系概念育成を視野に入れた自然体験活動
↓
の重要性を再確認させるものである。
中学年では,地域の生物について「知る」
生物が他の生物と食餌や生息環境を通し
今後は,自然環境を活用した環境教育を推進
て互いにかかわっていることや無機的な環
するために,学校園において生物の多様性・関
境と密接に関係して生活していることをと
らえ,学校ビオトープなどの生物の関係性,
係性が保持された自然環境の整備・維持管理・
多様性が保持された自然環境の意義を理解
活用を進めていく際の指針および低・中・高学
する。
年における生物を題材にした環境教育の展開事
↓
例を提示することが課題である。
高学年では,地域の生物のために「行動する」
人間活動が自然界のバランスの上に成り
立っていることを理解し,それを崩した場合
おわりに
などの影響について考え,自然と共生・共存
するあり方について探る。その学びを通し
て,自然環境を保全・復元・創出することの
持続可能な社会づくりに向けて,環境保全行
重要性に気づき,地域の自然環境の保全及び
動に主体的に取り組む人材を育てることは,学
学校ビオトープの維持管理活動に主体的に
校教育の責務である。なかでも,都市域に生活
取り組む。
する児童に対しては,自然体験を通じて感性お
よび生態系概念を育むための環境教育カリキュ
次に,この考えをもとにして,低・中・高学
ラムの開発と実践が重要となる。
年における生物を題材にした環境教育プログラ
その際には,本研究で整理したように,低学
ム例を提示した。
年では感覚を十分に活用して生物に「親しむ」
さらに,小学校中学年を対象に具体的な教材
30
→中学年ではさまざまな生物が他の生物や無機
注)
的環境と密接に関係して生活していることにつ
1) 「国連持続可能な開発のための教育の 10
いて「知る」→高学年では学校内外の自然環境
年」関係省庁連絡会議「わが国における国連
を保全・復元・創出するために「行動する」と
持続可能な開発のための教育の 10 年実施計
いうように,発達段階を考慮することが必要に
画」p.14
なる。また,そうした学習展開が可能となる自
2)
拙稿「教育的・環境的側面からみた都市域
然環境を児童がいつでもかかわれる場に整備し
における学校ビオトープの現状と課題」大阪
ていく必要がある。
市教育センター研究紀要第 172 号
2005,
pp18-20
そうした意味で,今後も研究を継続し,環境
保全行動に主体的に取り組む人材の育成をめざ
3)
長島康他「景観スケールを重視した環境教
した環境教育のあり方を追究し,成果を求めて
育プログラムの開発・1.景観スケールの有
いきたい。
効性と防潮マツ林を事例とした学習プログラ
本研究における授業実施にあたり,忙しい時
ムの開発」宮城教育大学研究紀要第5巻
2002,p.3
間を割いてご協力くださった関係の方々に対し
4)
て,心から感謝申しあげる次第である。NPO
法人「自然回復を試みる会
ビオトープ孟子
文部省『環境教育指導資料(中学校・高等
学校編)』大蔵省印刷局
」
5)
の有本智氏には,ゲストティーチャーとしてご
平成 3 年,pp.7-8
朝岡幸彦編著『新しい環境教育の実践』高
平成 17 年
指導・ご助言を賜った。また,研究協力委員の
文堂
方々には貴重なご意見をいただいた。環境総合
素子「日本における環境教育の推進への提言」
テクノスの内藤豊氏,研究顧問の赤塚康雄先生
環境教育研究4
(元天理大学教授)からは,ご助言を賜った。
ー
今後も,都市域において自然環境を活用した
6)
p.92 および黒沢毅,目崎
北海道大学教育情報センタ
2001.p.5をもとに作成
レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワ
環境教育の推進が要請されるなか,その課題に
ンダー』上遠恵子訳
取り組む学校が増えるものと考える。その際に
60
7)
本稿が先行研究としての役割を果たせるなら幸
佑学社 1992,pp.59-
降旗信一他「Significant Life Experiences
いである。多くの方々のご指導ご叱正をお願い
(SLE)調査の可能性と課題」環境教育
する次第である。
15 巻
8)
第2号
第
p4.p.12
呉宣児,無藤隆「自然観と自然体験が環境
<研究協力校>
価値観
に及ぼす影響」『環境教育』VOL.
大阪市立大国小学校
7 NO.2
日本環境教育学会
大阪市立三国小学校(2005 年度)
9)
<研究協力委員>
坂
聡司
小学校)
坂井敦子
p.11
山田卓三『ふるさとを感じる遊び事典
-
したい・させたい原体験 300 集-』農山漁村
上田静子(大阪市立阪南
文化協会 1990,p.345
大西章洋(大阪市立湯里小学校)
白石紀夫(大阪市立夕陽丘中学校)
10) 依田新監修『新・教育心理学事典』金子書
房 1979. p.139
31
11)拙稿「小・中学生の環境問題への関心およ
び環境配慮行動に関する研究
の学習内容と順序
教育 に シス テム ア プロ ーチ を 提供 する ため
―1991 年と
2001 年調査の比較を中心に―」大阪市教育セ
ンター研究紀要第 164 号
に』2002,p.4
21)ミネソタ環境支援事務所
2004,p.24
pp.110-111
事典』2001,
の自然とふれあう遊びに関する研究」環境情
23)永江誠司『脳と発達の心理学―脳を育み心
報科学別冊第9回環境情報科学論文集
を育てる―』ブレーン出版 2004,
No.9.1996http://reserch.mki.co.jp/eco/propo
24)永江誠司
sal/natureplay.htm
pp.28-29
p.29 図 2-4 のうち(a)
前掲書
樹上突起の形成および(b)神経回路の形成
-生物としてのヒ
トから科学文明をみる-』創元社
前掲書
22)(財)日本生態系協会『環境教育がわかる
12)白石信雄「環境配慮意識の形成要因として
13)鈴木善次『人間環境論
ミネソタ州における環境
1994,
内に示された模式図を割愛している。
25)坂野登 『こころを育てる脳のしくみ』 青
p.177
14)HARORD
HUNGERFORD
etal:Goals
木書店
1999,p.79
for Curriculum Development in Environmenttal
26)阿部治「環境教育の国際的動向」,環境教
Education THE JOURNAL OF ENVIROMENT
育推進研究会議『生涯学習としての環境教育
EDUCATION Vol.11NO.3. 1980,pp.42-47
実践ハンドブック-21 世紀に向けての地域
15)沼田眞『環境教育論―人間と自然のかかわ
のよ り 良い 環境 づ くり のた め に』 第一 法規
り―』東海大出版会 1982,p.6
1992
16)鈴木善次『人間環境論』明治図書 1978
27)日本野外生活推進協会発行のパンフレット
17)鷲谷いづみ他『生態系へのまなざし』財団
法人
「UTINATUREN
東京大学出版会 2005,p.185
自然の中へ出かけよう」
に示された「自然の階段」の図
18)藤田哲雄「理科教育と環境教育の関係性に
28)拙稿「大都市における小・中学生の動植物
関す る 一考 察」 京 都教 育大 学 理科 教育 年報
に対する体験・認識に関する研究―10 年間隔
Vol.18
の二時点における調査の結果の比較分析―」
1988,p.18
19)松本忠夫『生物科学入門コース
境』岩波書店
『環境教育第 14 巻
生態と環
1993,p.17
育学会 2005,
20)ミネソタ環境支援事務所『環境リテラシー
32
p.47
第3号』
日本環境教
資料1 アメリカ,ミネソタ環境支援事務所発行の『環境リテラシーの学習内容と順序 ミネソタ州における
環境教育にシステムアプローチを提供するために』に提示された「発達段階に応じた環境リテラシー
の規準」
学
年
幼
稚
園
前
≀
小
2
小
3
≀
小
5
小
6
≀
中
2
中
3
≀
高
3
環境リテラシーの規準(自然)
・自然のシステムは,部分から成り立
っている。
・自然のシステムは,その部分のうち
のいくつかが失われたら,機能し続
けなくなるだろう。
・自然のシステムの部分が共に存在し
ている時,その一方ではできなかっ
たことができるようになる。
・多くの部分を含んでいる自然のシス
テムにおいて,普段部分同士は相互
に作用している。
・自然のシステムは,その部分が失わ
れたり,損害をこうむったり,組み
合わせを誤ったり,つながることが
できなかったりすると,その機能をう
まく果たさなくなるかもしれない。
・自然のシステムは,事物と同じよう
に,過程を含んでいる。
・自然のシステムからのアウトプット
は,自然のシステムの別の部分への
インプットとなる。
・自然のシステムは,互いに結合して
おり,より大きなシステムやより小
さなシステムとつながっている。
・自然のシステムの相互作用は,その
個別のシステムにはなかった特質を
つくりだす。
・自然のシステムの間の相互作用は,
その境界線やその他のシステムとの
関係,期待されるインプットとアウ
トプットによって定義される。
・管理された自然のシステムのいくつ
かの部分からのアウトプットのフィ
ードバックは,そのシステムをより
望まれる結果に導くために利用され
る。
・自然のシステムの間のつながりやい
くらかの部分の変更の結果を常に確
実に予測することはできない。
重要なシステムの概念とそれをサポートす
る概念
部分と事象
個体,集団,生物的な要因,
非生物的要因,類似点と相違点,特質
相互関係と結びつき
機能,組織
ミネソタ卒業規準との関連
(理科への適用)
理科への適用
直接的科学体験:直接体験を通して,
基本的な科学の概念について理解す
る。
部分と事象
類似点と相違点
相互作用と関係性
Structure,機能,パターン,栄養段階,サ
イクル,移り変わりと恒常性,捕食,フィ
ードバック,コミュニケーション
理科への適用
生物的なシステムと非生物的なシス
テム:生物的なシステムの相互作用と
相互依存を理解する。
相互作用と関係性
個体群,構造(組織),機能,移り変わり
と恒常性,サイクル,栄養段階,フィード
バック,相互関係,捕食,移住,コミュニ
ケーション
サブシステム
生息場所,生物群系,境界線,格付け,家
族と親族関係,階層化,生態的地位,コミ
ュニティー
インプットとアウトプット
人工物,廃棄物,教授
時間に伴う変化
多様性,蓄積,闘値,突然変異,進化,絶
滅,種(グループ)
部分と事象(すべて)
非生物的な因子,個体,生物的な要素,特
質
相互作用と関係性(すべて)
原因と影響,循環,見込み,移り変わりと
恒常性,機能,生態系,コミュニケーショ
ン,相互関係,組織,移住,栄養段階,捕
食
サブシステム(すべて)
生物群系,境界線,コミュニケーション,
コミュニティー,生態系,生息場所,家族
と親族関係,生態的地位
インプットとアウトプット(すべて)
人工物,コミュニケーション,エネルギー
とその推移,教授
時間に伴う変化(すべて)
蓄積,気候,サイクル(循環),多様性,
進化,絶滅,突然変異,種
適用できる科学的手法
生物的なシステム:以下の内容への理
解によって生物的なシステムについ
ての相互作用や相互依存についての
知識を示す。
・遺伝,繁殖,調節,および振る舞い
を含む人体
・多様性,適応,個体群,および生態
系を含めた植物,動物,微生物
・環境と相互作用する人間の動的な影
響
33
理科への適用
環境科学:次の事柄への理解を示す:
・意志決定モデルおよび科学的な調査
の使用,そして環境の変化に影響
し,影響されている科学的な概念,
原理,法則,理論を調査し,分析す
ることによって個人,社会,経済,
環境の間の関係性の問題
・環境の変化に影響し,環境の変化か
ら影響を受けている社会のシステ
ムの構成要素
・自然と社会のシステムの間の相互作
用
・短期的や長期的な環境変化の地域
と,地方と,そして地球規模とのか
かわり合い
・市民権運動のための方法
資料2
ノルウェーの基礎学校における環境教育カリキュラム
学
自然の多様性
年
小
目 標
○
児童に,体験を通じて自然の多様
テーマ(野生生物を素材に)
<幼稚園と小学校1年生>
学
性に気付かせ,その重要性に注目 ・自然にある生物と無生物について学習し,その体験を絵と文章による理科日記に形
校
させ,さらに自然に対する愛情と
1
尊敬の念を抱くよう導く。
≀
○
4
年
生
生物と無生物,それらの相互関係
についても学ばせる。
○
で表現する。
・身近な環境にある動物や植物を観察し,それらの似ている点と似ていない点を見つ
けて,それに基づき分類する。
<小学校2年生>
さまざまな観察を行い,その結果 ・自然を観察して,四季の特徴を把握する。ある特定の樹木または多年生の草花を選
を絵画や文章で表現することを
んで,一年間観察する。
通して,自然に対する豊富な知識
・植物のいろいろな部分の利用の仕方について調べる。
を身につけさせ,自分のまわりの
<小学校3年生>
環境を大切にし,それを保護する
・植物や動物のライフサイクルを観察し,草花の種をまいて育てる。
責任を自覚させる。
・身近な環境にいる小鳥について調べ,四季による生態の変化を知る。
<小学校4年生>
・身近な環境にあるビオトープを調べ,その研究をもとにして簡単な食物連鎖を記述
する。
・生物に共通する特徴を明らかにし,いろいろな方法で分類してみる。
小
○さまざまな種類の生物と生命プロ
<小学校5年生>
学
セスに関する学習と経験を通じて, ・動物や植物のいるさまざまな場所,たとえば自然林と人工林について調べ,いくつ
校
自然界の多様性の大切さとそれを
5
尊重することを学ぶ。
≀
・ある動物と植物のいる環境と,それらが生息・生育する戦略の関連について学ぶ。
○いろいろなビオトープを観察し,対 ・ノルウェーにすむ動物について学び,人間がそれらをどの程度まで狩猟の対照にし
中
照実験を行うことにより,自然界の
学
生物間の協調がもつ意味や重要性
校
を理解する。
1
かの方法を利用して動物の種類を見分ける。
○一般的な動植物や菌類の名称を知
ているかを調べる。
・ノルウェーの植物や動物のうち,すでに絶滅した種,あるいは絶滅の危機にある種
について調査をし,その原因について討議する。
<小学校6年生>
年
り,それらに関するデータを文献や ・植物の中のいくつかの種や属の草花,球根を集めて観察し,一定の基準を用いて分
生
インターネットで検索する方法も
習得する。
類してみる。
・いくつかのキノコやコケの名称と生息場所について調べ,自然界でそれらが果たし
ている役割を考える。
・対照実験を行い,植物の生息に影響する原因について学ぶ。
・根,茎,葉,花の機能を実験を通じて学ぶ。
・食物連鎖と光合成について学習し,食物連鎖において植物,動物,人間が占めてい
る位置を知る。
34
研究紀要
第 180 号
平成 19(2007)年 3 月 31 日
平成 19(2007)年 3 月 31 日
印刷
発行
発行所
大 阪 市 教 育 セ ン タ ー
発行者
552-0007 大阪市港区弁天 1-1-6
電話
06( 6572) 0603
四
宮
良
三