当院における膝蓋骨骨折患者の術後機能成績に疼痛が与える影響

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)15 : 45∼16 : 35 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 運動器!骨・関節 28】
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当院における膝蓋骨骨折患者の術後機能成績に疼痛が与える影響
瀬戸川美香,小野寺智亮,荒木浩二郎,菅原
医療法人徳洲会
札幌徳洲会病院
亮太,村田
聡,谷口
達也
整形外科外傷センター
key words 膝蓋骨骨折・機能評価・疼痛
【はじめに】膝蓋骨骨折に対する手術手技が進歩している一方で,術後機能成績は不良のままであり,膝関節前面痛(AKP)が
残るとの報告が多い。また,欧米での術後成績に関する報告は散見されるが,本邦における報告は不足している。そこで本研究
の目的は,当院における膝蓋骨骨折患者の術後機能成績を調査することとした。
【方法】対象は 2011 年 11 月から 2013 年 6 月までに当院で骨接合術を施行された膝蓋骨骨折患者 30 例とした。下肢骨折の合併
のある者,3 ヶ月以上の経過観察が困難であった者は除外した。12 例(男女各 6 例)が適合し,カルテより後方視的にデータを
収集した。平均年齢 62±12 歳(36"
84 歳)
,手術手技は,screw 固定 1 例,Tension Band Wiring(TBW)9 例,ひまわり法 2
例であった。TBW とひまわり法において各 1 例ずつ補強術が施行された。平均観察期間は 7.9±2.8(3"
16)ヶ月であった。
後療法は,術翌日より疼痛自制内で関節可動域運動(ROMex.)
,Open Kinetic Chain での筋力トレーニング(筋力 ex.)が開始
された。術後 2 週間は膝伸展位固定での全荷重歩行とし,術後 3 週目より固定を除去し,段階的に Closed Kinetic Chain
(CKC)
での筋力 ex.や階段昇降練習が開始された。補強術を施行された患者は,X 線画像所見にて仮骨が確認されるまでは大腿四頭筋
setting を行い,仮骨確認後,膝関節自動伸展運動から筋力 ex.を進めた。
評価項目は,膝関節可動域(膝 ROM)
,膝伸展筋力,疼痛の有無,Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)
,患
者満足度(Visual Analog Scale)とした。膝伸展筋力は,μTas F"
1 ハンドヘルドダイナモメーターを使用し健側比を求めた。上
記項目に対し,疼痛の有無による 2 群間比較を行った。統計は R2.8.1 を使用し,Mann"
whitney U test にて有意水準は 5% とし
た。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。当院の倫理委員会の承認を得たのち,対象に口頭と文
書で説明し同意を得た。
【結果】膝 ROM の平均は,屈曲 146±9.0̊(120∼160̊),伸展 0±0.7̊("
5∼0̊)
,伸展 lag は全例認めなかった。膝伸展筋力健側
比の平均は 60.2±18.6%(48.3∼92.2%)であった。KOOS の平均は下位尺度別に Pain(P):81.1±15.7,Symptoms : 81.9±9.7,
Activities of daily living : 84.8±6.9,Sport!
recreation(SP)
:49.2±24.2,Quality of life(Q)
:58.9±18.4,満足度は 85.8±9.9!
100
mm であった。疼痛は 7 例に認め,疼痛なし群(5 例)と比較すると有意に膝伸展筋力健側比が大きかった(p=0.032)
。KOOS
は,P(p=0.103)
,SP(p=0.143)
,Q(p=0.101)の 3 項目において,疼痛なし群で成績の良い傾向が認められた。疼痛群は全
例 AKP を訴えており,86% が階段降段時の疼痛であった。満足度に関して有意差は認めなかった(p=0.805)。
【考察】先行研究では,Lionel(2013)が膝蓋骨骨折術後患者 30 名における膝 ROM の平均を屈曲 135̊,伸展−1̊ と報告した。
また Christopher(2012)は,20% に伸展 lag が残存したとしている。本研究において,術翌日からの ROMex.と筋力 ex.の開始
は良好な膝 ROM 獲得や伸展 lag の改善において有効であった可能性がある。
膝伸展筋力は,先行研究では Biodex 等速性ダイナモメーターによる計測が主であり,本研究は計測方法が異なる。また,術後
評価期間が短く,ばらつきも大きいが,疼痛群で有意に筋力低下が認められた点から,疼痛が筋力発揮を阻害していることが予
想される。
KOOS は SP と Q で制限が大きく,先行研究と同様であった。この 2 項目は疼痛群で不良な傾向にあったことより,疼痛による
筋力低下がスポーツや QOL に影響している可能性がある。しかし,このような機能低下があるにも関わらず,満足度に有意差
は認めなかった。本研究の対象は平均年齢が高く,高い活動レベルを必要としないために,術後の機能低下が存在しても満足度
に影響しなかった可能性がある。
本研究より,疼痛の残存が機能低下に影響している可能性が示唆された。Christopher(2012)は,80% の患者に降段時・起立
時の AKP が残存したと報告しており,AKP は膝屈曲位での CKC 活動時,つまりは膝蓋大腿関節(PF 関節)の圧が高まる肢位
で発生している。PF 関節にかかるストレス増加が AKP を引き起こし,AKP が大腿四頭筋の筋出力を低下させている可能性が
ある。大腿四頭筋の筋力低下は膝蓋骨マルトラッキングを引き起こし,PF 関節のストレスを増加させる悪循環に陥るかもしれ
ない。
【理学療法研究としての意義】膝蓋骨骨折において,疼痛の残存が機能低下に影響している可能性が示唆された。理学療法とし
ては,疼痛軽減に向け PF 関節にかかるストレスを軽減させること,大腿四頭筋の筋力低下を最小限に留めることが重要と思わ
れた。