x - 水産海洋工学

応用物理学テキスト(Ver.2)
水産科学研究院
目 次
概要
1.主な物理(力学)系の単位と力
2.運動の記述と解法(運動方程式)
3.基礎流体力学
4.微分・積分・複素数の要点(基礎数学の復習)
5.フーリエ変換
6.ラプラス変換とその応用
2013 年 4 月
海洋生物資源科学部門
芳村 康男 上野 洋路
1
6
25
47
54
67
【概
要】
水産・海洋における物理現象を解析するために必要な基礎学力を付けることを目的とし,これに
必要な数学的手法(常微分方程式の解法,フーリエ変換,ラプラス変換など)を学習する。講義
は物理・数学の初心者でも容易に理解できる内容とする。
【学習目的】
1. 自然現象を理解し,これを数式表現する能力を身につける。
2. 常微分方程式,フーリエ変換,ラプラス変換などを活用して現象の予測や計算ができる能力
を身につける。
【到達目標】
1. ニュートン力学を理解し,質点系の力学について常微分方程式を立て,解くことができる。
2. ラプラス変換方法を理解して,常微分方程式を解くことができる。
3. 非圧縮の定常流体の基礎を学習し,連続体の力学の取扱いを理解する。
4. フーリエ級数とフーリエ変換を学習し,海洋の波,音波などの波動現象に対して,時間空間
と周波数(波動)空間の相互変換ができる。
【学習内容】
1. 自然現象を記述するには,スケール(単位)が必要である。これらの現象を表現する単位(SI
単位系)の考え方と表記法を学習する。
2. 質点系のニュートン力学を理解し,運動方程式(常微分方程式)の立て方を学習する。
3. 微分方程式の解法を学習する。
4. 振り子や浮体の運動(二階線形常微分方程式)計算に応用し,周期運動について学習・理解
する。
5. 非圧縮で定常な流体力学の取扱い方を学習し,その応用方法を学習する。
6. 海洋の波,音波などに対し,時間空間と周波数空間の概念を学習する。
7. フーリエ級数展開からフーリエ変換の方法について学習する。
8. フーリエ変換の応用として周波数解析とスペクトルについて学習する。
9. 周波数応答の概念を学び,フーリエ変換をもとにラプラス変換方法につて学習する。
10. ラプラス変換による常微分方程式の解法を学習する。
第1回
1.主な物理(力学)系の単位と力
環境や資源を測るには,計測対象の単位とスケールが必要になる。ここでは,代表的な単位の
例をあげて,その成り立ちを考え,計測に必要な国際単位系(SI)を理解しよう。そのベースになる
のは「地球」と「水」である。
1.1 角度
①度数
度数法は,定点を通る直線によって平面を 360 等分する時,その等分された一つの角として定
まる角度を 1 度(°)として基本単位に持つ単位系である。更に,60 分法を用いて, 1°= 60′
(分),1′= 60″(秒)として下位の単位を定める。定義から,全方位角は 360°である。
この体系は,暦における 1 年の日数(≒360 日)に由来している。
フィールド計測で使用する角度の単位はこの度数法が中心になる。
②弧度(ラディアン)
360°=2π 数学・物理学で使用。
1.2 時間
地球の自転時間(1周の回転時間)を 24 時間とし,1時間を更に 60 分法を用いて, 1°= 60′(分,
minute),1′= 60″(秒,second)として下位の単位を定める。従って,1時間=15°の地球の回転時
間となる。(角度の度数と混合しないように注意!)
角度の度数と時間の関係は密である。角度は全周 360°に対し,時間は 24 h。(1時間=15°)
地球上で,南中時刻を正確に計測すれば経度が求まる。このため,船の航海には正確な時計が
不可欠であった。緯度は(北半球では)北極星の仰角を計測すれば求まる。
1.3
距離(長さ)と速度・加速度
1)距離(長さ)
物を測る基本の一つが距離(長さ)である。古来,人は身近なものを尺度(スケール)として
活用してきた。一歩の長さを 1-foot としたのが「feet」の単位。親指(大人の男性)の幅を「inch」
という単位を作り出した。日本の「尺」「寸」という単位も同様である。しかし,人間の行動範
囲が狭い間はその地域だけで単位が統一されていれば良かったが,行動範囲が広くなり世界規模
で商取引等が行われるようになると,単位の不統一が大きな問題となってきた。
①メートル[m]
1791 年に,地球の北極点から赤道までの経線の距離の 1000 万分の 1 として定義される新たな
長さの単位「メートル」が提案された(従って,地球の円周は約 4 万キロメートルになる)。
1875 年,国際条約で世界の単位をメートルで統一する国際条約が決まった。(現在の1メート
ルの定義は,より正確に定義する目的で,「真空中で 1 秒間の 299 792 458 分の 1 の時間に光が
進む行程の長さ」としている。)
②海里 [NM]
船や飛行機では大陸間を航行するので,緯度,
経度という角度座標を用いた方が便利である。
この場合の距離は,緯度1分(1°/60)の長さが
地球上でほぼ一定(地球を真球とした場合)
であることから,この長さを 1 海里(Nautical
Mile) と定義し,上記①のメートルに代わる
単位として認められている。これをメートル
に換算すると,
1[NM]=10,000[m]/(90°×60’)=1,852[m]
-1-
(ぼうゆうせん)
2)速度
単位時間あたりの位置の変化
①メートル毎秒[m/s]
1秒間に1[m]移動する速度を 1 [m/s]と定義する。
日常生活では,1時間に 1 [km] (=1,000[m])移動する速度として 1 [km/h] が良く使用される。
1 [km/h]= 1,000 [m /3600s]=1/3.6 [m/s] あるいは,1 [m/s]=3.6 [km/h]
②ノット [knot]
1時間に1海里[NM]移動する速度を 1 ノットと定義する。1ノットで1時間航走すると緯度1
分の航走距離となり緯度・経度を使用して大圏航行する船や航空機で使用される。
1 [knot]=1.852 [km/h] =1,852 [m/3600s]=0.51444 [m/s]
3)加速度
単位時間あたりの速度の変化
1秒間に1[m/s]速度が変化する場合を 1 [m/s2]と定義する。
後述する地球上における重力加速度:g は約 9.8 [m/s2]である。
1.4 力と質量
物質には多かれ少なかれ「重さ」があり,地球もまた大きな「重さ」があるので,相互に引力
が働く。これは万有引力と呼ばれ,この力は物質の「重さ」に比例する。ニュートンはこの「重
さ」を質量と定義し,力:F と運動の関係を次式で表現できるとした。
F = m・a
----------------- (1.1)
m: 質量
a: 加速度(速度の時間的変化)
1)質量
質量の単位「kg:キログラム」は,前述のメートル法で,10cm の立方体の体積(1 リットル)の最
大密度における(約 4℃)蒸留水の質量」と定義された。(その後 1889 年に直径,高さとも 39mm
の円柱形で,白金 90%,イリジウム 10%の合金でできている「国際キログラム原器の質量」に置
き換えられた。そこで、約 4℃の蒸留水 1 リットルの質量は 0.99997 kg となった。)
一言で「重さ」の単位であるが,その理解は日常生活では混乱することが多い。「重さ」とは
次に示す,力としての重力を意味する場合が日常的に多い。質量と力は区別しよう。
【曖昧な言葉】重量,内容量,船の排水量 -----これらの数値は実質的に質量を表している。
2)力(重力)
地上における重力加速度は g と言う記号で表示され,この値は地域・高度によって多少異なる
が,およそ 9.8 [m/s2]である。「重さ」を表す質量は通常(kg)という単位であり,質量 1 [kg]に作用
する重力(地上に引きつけられる力)は(1.1)式にしたがって,9.8 [kg・m/s2]となる。
この単位(kg・m/s2)を N (ニュートン)と言い,9.8 [N]と記載する。
しかし,・・・・日常の生活では N (ニュートン)という単位はめったに使われない。我々
が力の大きさを感じるのは,例えば 1kg の質量を手で持った時,「ああ,これが 1kg」
の感覚であり,誰も 9.8 [N]の重力があるなどと言わない! 食料品や雑貨で表示して
いる内容量(重さ)はほとんど,kg か g である。これが現実であり,この現実とのか
い離が物理や力学を遠ざけ,物理嫌いにさせる要因にもなっている・・・・。
3)補助スケール
国際単位系(SI 単位)では質量・長さ・時間に関して,以下のような単位が使用される。
物理量
単位
質量
kg(キログラム)
長さ
m(メートル)
時間
s (秒)
-2-
しかし,これでは,大きなものから小さなものまで,一律に使えないので,大きさ(スケ
ール)を表す10進法の補助単位が使用される。それを以下に示す。これは原則であり,必
ずしも使用されないスケールもある。例外として時間は適用されない。また 1,000kg の質量
を 1Mg でなく 1t(トン)と言う表現がある。
1,000,000
106
M
メガ
長さ
質量
力
容積
圧力
(t トン)
1,000
103
K
キロ
Km
Kg
kN
kℓ
kP
100
102
H
ヘクト
hP
-
10
101
D
デカ
-
1
0.1
0
10 10-1
d
デシ
m
g
N
ℓ
dℓ
P
-
0.01
10-2
c
センチ
cm
cℓ
-
0.001
10-3
m
ミリ
mm
mg
0.000001
10-6
µ
マイクロ
µm
µg
mℓ
mP
µP
4)密度
流体の質量などのように均一な物質の質量を表現する方法として,単位体積当たりの質量
で表示する場合がある。この場合,原則として 1 [m3]の質量が使われるが,目的に応じて
1 [cm3](1 立方センチメートル)などが使用される。
蒸留水の密度(1気圧,4℃)=1,000 [kg/m3] (= 1 [t/m3])
5)比重
物質の密度を上記の蒸留水の密度(1気圧,4℃)に対して比率で表したものを比重と呼ぶ。
代表的な物質の比重を下表に示す。15℃における平均的な海水の比重は約 1.025(密度:
1,025 [kg/m3])である。
名称
比重
個体(金属)
マグネシウム
炭素(石墨)
アルミニウム
ジュラルミン(合金)
炭素(石墨)
スズ
マンガン
鉄(鋳鉄)
鋼(炭素鋼・合金)
ニッケル・クロム鋼
ステンレス鋼
銅
青銅
ニッケル
銀
鉛
(ハンダ
水銀
金
白金
液体
石油(原油)
植物油脂
動物油脂
海水
1.74
2.25
2.699
2.79
2.25
7.28
7.43
7.05∼7.30
7.85
7.80
7.91
8.89
8.74
8.90
10.49
11.34
9.5)
13.595
19.32
21.45
0.85∼0.93
0.88∼0.95
0.91∼0.97
1.01∼1.05
-3-
6)圧力
単位面積当たりに受ける力のことを圧力と言う。1 [m2](平方メートル)に 1 [N](ニュートン)
の力を受ける時,この圧力を 1 [Pa](パスカル)と呼ぶ。
圧力 1 [Pa]=1 [N/m2]
-------------------- (1.2)
海面下 10 [m]では,1[m2](1 平方メートル)上部にある海水の質量は 10 [m]×1 [m2]
×1,025 [kg/m3] =10,250 [kg]であり,その重力は 10,250 [kg]×9.8 [m/s2]=100,450[N]と
なるので,圧力は 100,450 [Pa]になる。あるいは 1004.5 [hPa](ヘクトパスカル)となる。
一方,地上の大気圧は水銀柱で約 76cm に相当するので,1 平方メートル当たりの
大気の重力は 0.76 [m]×13.595 [比重:無次元]×1000 [kg/m3]×9.8 [m/s2]=101,256 [N]
となるので大気圧は 101,256 [Pa]となる。あるいは 1,013 [hPa](ヘクトパスカル)。
この 1,013 [hPa]を旧メートル法では「1気圧(1[atm])」と呼んできた。また,
100,000[Pa]を 1[bar]と表示する方法もある。この場合,1[dbar](デシ・バール)
=10,000[Pa]がほぼ海水 1[m]の圧力に対応することから,海洋観測において CTD な
どの計測深度が dbar で表記される機器のあることに注意を要する。
浮力について
上記のように,圧力が深さに比例して変化する。ある密度ρの物質で深さ z における単位面積
当たりの重力はρ gz であるから,これが圧力となり,深さに比例して大きくなる。
圧力の大きさ
深さ:z
密度:ρ
圧力:ρ gz
船やブイを浮かす力は浮力と呼ばれるが,
これは水や海水の圧力が船体表面に作用し,
この上下方向成分の総和が浮力となる。
今,直方体が上面を水平にして液体密度:ρ
に浮かんでいる場合を考えてみよう。直方体
の表面に受ける圧力は深度に比例するので,
直方体の喫水を d とすると,直方体の周りに
は右図のように,浮体の表面と垂直な方向に
圧力が作用する。
この図から,浮体の底面には一様に上向
きにρgd の圧力がかかるので浮力 B は,
B= (ρgd)×直方体の底面積
= ρg×没水体積
喫水:d
ρgd
----------------- (1.3)
となる。ただし,g:重力加速度
また,直方体の側面にかかる圧力は全て水平なので,浮力には結びつかない。したがって,浮力
は流体密度,重力加速度と没水体積の積,すなわち,物体が排除した流体の重力に等しくなり,
これがいわゆるアルキメデスの法則(アルキメデスの原理)である。この法則は直方体でなくて
も任意の形状について成立する。
-4-
第2回
演習問題1 解答
(1)水産学部附属練習船おしょろ丸が 10 ノットで北緯 19°、西経 160°(ハワイ付近)から北
緯 55°、西経 160°(アラスカ半島南岸)へ航行するのに要する日数を計算せよ。緯度 1°は 60
海里を念頭に計算を行い、計算過程も記すこと
解答1
距離=(55°—19°)×60 海里
必要日数=(距離(海里)/速度(ノット))/24 時間
=(36×60/10)/24
=9 日
解答2
10 ノット:1時間に 10 海里 →6 時間に 60 海里=緯度 1°
36°の緯度差を異動するには 36×6 時間=9 日間
(2)氷が海水に浮くとき、その何%が海面上に出るか、計算せよ。氷の密度を 917 kg m-3、海水
の密度を 1025 kg m-3 として計算を行い、計算過程も記すこと。
解答:
100 m3 の氷を考え、海面に出る氷の体積を v とおく。重力加速度を g として、
浮力=1025×g×(100—v)
重力=917×100×g
浮力=重力: 1025×g×(100—v)=917×100×g
1025v=(1025—917)×100=10800
v=10.54 (m3)
よって、10.54%
-5-
2.運動の記述と解法(運動方程式)
2.1 運動方程式
我々が日常生活で経験・観察する多くの運動は「光速」に比べて非常に遅い運動であり,ニュ
ートンの古典力学の範囲で十分記述できる。またほとんどの場合,物体の変形を考える必要がな
いので,物体の質量を重心(center of gravity)で代表させた質点系の力学で表される。
ニュートンの式,
直線運動:
(質量)×(加速度) =(作用する力)
------ (2.1.1)
回転運動: (慣性モーメント)×(角加速度)=(作用するモーメント) ---- (2.1.2)
座標系(原点と軸の方向)は取り扱い易いように自由に決めてよいが,これを明確にすることが
重要。
①[物体の自由落下運動]
位置
:x(上向きを+に取る)
dx
(位置:x を時間:t で微分した量)
dt
⎛ dx ⎞
d ⎛ dx ⎞
d2x
(速度 ⎜
を時間:t で微分した量)= 2
加速度: ⎜
⎝ dt ⎠
dt ⎝ dt ⎠
dt
速度
:
物体に作用する力:重力
運動方程式:
⎛ d2x ⎞
m⎜ 2 ⎟ = − mg
⎝ dt ⎠
----- (2.1.3)
g:重力加速度
この自由落下の運動では,物体に作用する力として重力のみを考えたが,現実には物体の速度に
依存した空気抵抗が働く。これを単純化して,速度に比例すると仮定すると,
⎛ dx ⎞
………(a>0 とする:常に物体の運動と逆方向に作用)
⎝ dt ⎠
物体に働く抵抗= −a⎜
これを入れると運動方程式は次式となる。
⎛ d2x ⎞
⎛ dx ⎞
m⎜ 2 ⎟ = −mg − a⎜ ⎟
⎝ dt ⎠
⎝ dt ⎠
⎛ d 2 x ⎞ ⎛ dx ⎞
すなわち, m⎜ 2 ⎟ + a⎜ ⎟ = −mg
⎝ dt ⎠ ⎝ dt ⎠
運動方程式:
-6-
----- (2.1.4)
②[バネに付けた物体の運動]
水平にしたバネを壁に取り付け,反対側に物体(質量 m)を取り付けた時の物体の運動を考える。
ただし,バネの質量は無視できるとし,また,物体と床の摩擦も無視する。
位置
:x バネが自然長となる位置を x=0 とおく
dx
(位置:x を時間:t で微分した量)
dt
d2x
加速度: 2
dt
速度
:
物体に作用する力:バネの復元力: −( kx )
運動方程式:
すなわち,
(フックの法則)
⎛ d2x ⎞
m⎜ 2 ⎟ = −kx
⎝ dt ⎠
⎛ d2x ⎞
m⎜ 2 ⎟ + kx = 0
⎝ dt ⎠
----- (2.1.5)
このバネに付けた物体の運動でも,現実には物体の速度に依存した空気抵抗が働く。これを単純
化して,速度に比例すると仮定すると,
⎛ dx ⎞
⎝ dt ⎠
物体に働く抵抗= −a⎜
運動方程式:
すなわち,
⎛ d2x ⎞
⎛ dx ⎞
m⎜ 2 ⎟ = −kx − a⎜ ⎟
⎝ dt ⎠
⎝ dt ⎠
⎛ d 2 x ⎞ ⎛ dx ⎞
m⎜ 2 ⎟ + a⎜ ⎟ + kx = 0
⎝ dt ⎠ ⎝ dt ⎠
-7-
----- (2.1.6)
2.2 運動方程式の解法1: 定常解
運動方程式が決まると初期条件に従って時々刻々の運動を計算することができる。時々刻々の
運動は初期条件で異なるが,十分時間が経った時(原理的には無限時間後であるが)の運動は初
期条件に左右されない。外力が一定(時間的に変化しない)の場合,その解は極めて簡単で,運
動方程式中の最低階の項を残して計算するだけで求まる。
①[物体の自由落下運動]
⎛ d 2 x ⎞ ⎛ dx ⎞
抵抗がある場合 m⎜ 2 ⎟ + a⎜ ⎟ = −mg (2.1.4) の定常解を考える。
⎝ dt ⎠ ⎝ dt ⎠
x に関し、最低階の項のみを残すと
⎛ dx ⎞
a⎜ ⎟ = −mg
⎝ dt ⎠
----- (2.2.1)
⎛ dx ⎞
mg
⎟=−
⎝ dt ⎠
a
すなわち, ⎜
----- (2.2.2)
この速度は「終端速度」と呼ばれ,その大きさは
重力/a(断面積に比例) ∝ (ρ×g×体積)/断面積 ≒ρ×g×長さ
で表され,終端速度を遅くするには,
①物体の密度ρ が軽いもの(風船,発泡スチロールなど)
②物体の長さが小さいもの(霧のようなもの)
となる。
②[バネに付けた物体の運動]
⎛ d 2 x ⎞ ⎛ dx ⎞
練習1 抵抗がある場合 m⎜ 2 ⎟ + a⎜ ⎟ + kx = 0
⎝ dt ⎠ ⎝ dt ⎠
-8-
(2.1.6) の定常解を求めよ。
練習の解答
⎛ d 2 x ⎞ ⎛ dx ⎞
練習1 抵抗がある場合 m⎜ 2 ⎟ + a⎜ ⎟ + kx = 0
⎝ dt ⎠ ⎝ dt ⎠
(2.1.6) の定常解を求めよ。
x に関し、最低階の項のみを残すと
すなわち,
kx = 0
------ (2.2.3)
x =0
----- (2.2.4)
【数学の復習1】関数の級数展開
関数 f (x) が x = 0を含むある区間で何回でも微分が可能なとき,Maclaurin 展開,あるいは x
での Taylor(級数)展開が次のように可能になる。
f ′(0)
f ′ (0) 2
f ( n ) (0) n
f (x) = f (0) +
x+
x +L
x +L
1!
2!
n!
■
f (x) = e xの場合
f ′(x) = e x
であるから,
M
f ( n ) (x) = e x
x x2 x3
xn
e x = 1+ + + +L + +L
n!
1! 2! 3!
■
(2.A)
(2.B)
f (x) = sin x の場合
f ′(x) = cos x
f ′ (x) = −sin x
f ′′(x) = −cos x
であるから,
M
1
1
0
1
0
1
n
sin x = 0 + x + x 2 − x 3 + x 4 + x 5 L ( −1)
x ( 2n +1) +L
1!
2!
3!
4!
5!
(2n +1)!
( 2n +1)
x x3 x5
n x
−L ( −1)
+L
= − +
1! 3! 5!
(2n +1)
-9-
(2.C)
=0
■
f (x) = cos x の場合
f ′(x) = −sin x
f ′ (x) = −cos x
f ′′(x) = +sin x
であるから,
M
0
1
0
1
0
1 ( 2n)
n
cos x = 1+ x − x 2 + x 3 + x 4 + x 5 L ( −1)
x +L
1!
2!
3!
4!
5!
(2n)!
( 2n )
x2 x4 x6
n x
−
−L ( −1)
+L
=1− +
2! 4! 6!
(2n )
f (x) = cos x + isin x は次式となる。
( 2n )
( 2n +1)
x x2
x3 1 4
x5
n x
n x
cos x + isin x = 1+ i −
− i + x + i L ( −1)
+ i( −1)
L
1! 2!
3! 4!
5!
(2n)!
(2n +1)!
(ix ) (ix ) 2 (ix ) 3 (ix ) 4
(ix ) n
= 1+
+
+
+
+L +
+L
1!
2!
3!
4!
n!
= e( ix )
(2.D)
(2.C)式と(2.D)式から,
(2.E)
これが有名な Euler の公式である。
【数学の復習2】複素数と指数関数 e
x
Euler の公式
e ix = cos x + isin x
によって指数関数が三角関数の複素数で表現できたから,虚数 i は,
π
π
i = cos + isin = e
2
2
i
π
2
(2.F)
と表記できる。
⎛ iπ ⎞ 2
i = ⎜e 2 ⎟ = e iπ = (cos π + isin π ) = −1
⎝ ⎠
2
となり,虚数の定義 i 2
(2.G)
= −1 に合致していることがわかる。
また,これより上式から以下の有名な式が導ける。
e iπ +1 = 0
(2.H)
これは,
π =3.141592659・・・・・
e =2.718281828・・・・・
と無限続く無理数どうしにも関わらず,結果が 0 となる所に不思議とも思われる神秘的な数学
の美しさを見ることができる。
- 10 -
第3回
演習問題2 解答
(1) 長さLの棒の先に取り付けられた質量mの物体の運動を考える。棒の重さ・空気抵抗は無
視、水平方向をx軸、鉛直方向をy軸とし、棒の張力をTとする。このときの物体の運動
方程式(x方向、y方向)を張力 T を含む形式で記述せよ。
力:張力(-T sinθ)のみ
x方向
→
力:張力(Tcosθ)+ 重力(-mg)
y 方向
i
(2) ( i )
→
d2x
m 2 = −T sin θ
dt
d2y
m 2 = T cosθ − mg
dt
は何になるか,Euler の公式を使って各自計算してみよう。
- 11 -
2.3 運動方程式の解法2: 初期値からの解法
時々刻々の運動を求めるには幾つかの方法がある。
2.3.1 変数分離(積分)による解法
⎛ dy ⎞ f (x)
⎜ ⎟=
⎝ dx ⎠ g(y)
微分方程式が,
----- (2.3.1)
の形式で表現される場合は,
⎛ dy ⎞
g(y)⎜ ⎟ = f (x)
⎝ dx ⎠
----- (2.3.2)
であるから,両辺を x に関して積分すれば,任意の定数 C を含む式が得られる。
⎛ dy ⎞
∫ g(y)⎜⎝ dx ⎟⎠dx = ∫ f (x)dx + C
∫ g(y)dy = ∫ f (x)dx + C
これより,
----- (2.3.3)
として一般解を求めることができ,初期条件から,定数 C を決定する。
2.3.1.1 変数分離による微分方程式の解法例
例題1
dy
= ay を変数分離法により解け
dx
1 dy
変数分離すると
=a
y dx
微分方程式
両辺を積分して
積分を実行して
よって y
例題2
微分方程式
ln y = ax + C
= ±e ax +C = ±eC e ax = C'e ax (±eC=C’とした)
dy x
を変数分離法により解け。
=
dx y
- 12 -
例題の解答
例題2
微分方程式
変数分離すると
y
dy x
を変数分離法により解け。
=
dx y
dy
=x
dx
両辺を積分して
積分を実行して
- 13 -
2.3.1.2 変数分離法によって、運動方程式を解く
①[物体の自由落下運動]
⎛ d 2 x ⎞ ⎛ dx ⎞
⎟ = −mg (2.1.4)
2 ⎟ + a⎜
⎝ dt ⎠ ⎝ dt ⎠
空気抵抗を考えた場合の自由落下の運動方程式は m⎜
であったが,この運動方程式を v =
dx
で書き直すと次式となる。
dt
⎛ dv ⎞
⎟ + av = −mg
⎝ dt ⎠
運動方程式: m⎜
------(2.1.4’)
この運動方程式(微分方程式)を,初期値 v=0 として変数分離により解く。
(2.4.1’)式を変形すると
⎛ dv ⎞
m⎜ ⎟ = −( mg + av )
⎝ dt ⎠
----- (2.3.4)
⎛ dv ⎞
1
1
⎜ ⎟=−
( mg + av ) ⎝ dt ⎠ m
すなわち,
両辺を t で積分すると,
----- (2.3.5)
⎛ 1⎞
1
∫ ( mg + av ) dv = ∫ ⎜⎝ − m ⎟⎠dt + C
積分を実行して,
これから,
mg + av = ±e
⎛a⎞
−⎜ ⎟ t +aC
⎝ m⎠
= ±e e
aC
⎛a⎞
−⎜ ⎟ t
⎝ m⎠
⎛
であり,一般解は,
= C'e
⎞
⎛ mg ⎞ ⎛ C' ⎞ −⎜⎝ ma t ⎠
v = −⎜
⎟ + ⎜ ⎟e
⎝ a ⎠ ⎝ a⎠
ここで,初期条件を t=0 で v=0 とすると、
- 14 -
⎛a⎞
−⎜ ⎟ t
⎝ m⎠
(C' = ±e aC )
よって,
⎛a⎞
−⎜ ⎟ t ⎞
⎛ mg ⎞⎛
⎜
v = −⎜
⎟⎜1 − e ⎝ m ⎠
⎝ a ⎠⎝
⎠
----- (2.3.6)
のとき、
= 終端速度(2.2.2)
また,初期条件 t=0, x=0 を仮定し、これを積分すると,時々刻々の物体の上下位置が求まる。
x
=
∫ vdt
t
0
=
⎛a⎞
−⎜ ⎟ t ⎞
⎛ mg ⎞⎛
∫ 0 −⎜⎝ a ⎟⎠⎜⎜1 − e ⎝ m ⎠ ⎟⎟dt
⎝
⎠
t
⎡ ⎛ mg ⎞⎛ ⎛ m ⎞ −⎛⎜ a ⎞⎟ t ⎞⎤ t
= ⎢−⎜
⎟⎜⎜ t + ⎜ ⎟e ⎝ m ⎠ ⎟⎟⎥
⎢⎣ ⎝ a ⎠⎝ ⎝ a ⎠
⎠⎥⎦ 0
----- (2.3.7)
⎛ ⎞
⎛ mg ⎞⎛ ⎛ m ⎞⎪⎧ −⎜⎝ ma ⎟⎠ t ⎪⎫⎞
⎜
= −⎜
−1⎬⎟⎟
⎟ t + ⎜ ⎟⎨e
⎪⎭⎠
⎝ a ⎠⎜⎝ ⎝ a ⎠⎪⎩
のとき、
----- (2.3.8)
= 終端速度(2.2.2)×時間
- 15 -
【応用1】座標形を上下逆(下向きを+)に取った場合
運動方程式:
⎛ d2x ⎞
⎛ dx ⎞
m⎜ 2 ⎟ = +W − a⎜ ⎟
⎝ dt ⎠
⎝ dt ⎠
すなわち,
⎛ d 2 x ⎞ ⎛ dx ⎞
m⎜ 2 ⎟ + a⎜ ⎟ = +mg
⎝ dt ⎠ ⎝ dt ⎠
この運動方程式を v =
----- (2.1.4a)
dx
で書き直すと次式となる
dt
⎛ dv ⎞
m⎜ ⎟ + av = +mg
⎝ dt ⎠
この式は、(2.1.4’)で
----- (2.1.4’a)
とした式とみなすこと
ができるので、(2.3.6)より
a
a
⎛ m × (-g) ⎞⎛
⎛ mg ⎞⎛
− t⎞
− t⎞
---(2.3.6a)
v = −⎜
⎟⎜1 − e m ⎟ = ⎜ ⎟⎜1 − e m
⎠ ⎝ a ⎠⎝
⎠
⎝ a ⎠⎝
となり,v の符合が(2.3.6)と逆になって求められる。
- 16 -
【応用2】抵抗が速度の自乗に比例する場合
前述の自由落下の運動では,物体に作用する力として重力と速度に比例する抵抗を考えたが,よ
り現実的には物体の速度の自乗に依存した空気抵抗が働く。すなわち,
物体に働く抵抗
=
⎛ dx ⎞ 2
−a⎜ ⎟
⎝ dt ⎠
これを入れると運動方程式は次式となる。
運動方程式:
すなわち,
⎛ d2x ⎞
⎛ dx ⎞ 2
m⎜ 2 ⎟ = +W − a⎜ ⎟
⎝ dt ⎠
⎝ dt ⎠
⎛ d 2 x ⎞ ⎛ dx ⎞ 2
m⎜ 2 ⎟ + a⎜ ⎟ = mg
⎝ dt ⎠ ⎝ dt ⎠
----- (2.1.4b)
この運動の定常解は,
⎛ dx ⎞2
a⎜ ⎟ = mg
⎝ dt ⎠
⇒
⎛ dx ⎞
mg
⎜ ⎟=
⎝ dt ⎠
a
次にこの運動方程式(微分方程式)を v =
----- (2.2.2b)
dx
で書き直し,初期値 v=0 として変数分離で解法する。
dt
(2.4b)式を変形すると
両辺を t で積分して
これより,
- 17 -
∫2
∫2
⎛
∫⎜
⎝
⎛
ln⎜
⎝
⎛
ln⎜
⎜
⎝
(
(
(
(
⎞
⎛1⎞
1 ⎛
1
1
+
⎜
⎟dv = ∫ ⎜ ⎟dt
⎝ m⎠
mg ⎝ mg + av
mg − av ⎠
⎞
⎛1⎞
1 ⎛
1
1
−
⎜
⎟dv = ∫ ⎜ ⎟dt
⎝ m⎠
mg ⎝ av + mg
av − mg ⎠
⎞
⎛ 2 mg ⎞
1
1
−
⎟ dv = ∫ ⎜
⎟dt
av + mg
av − mg ⎠
⎝ m ⎠
⎛ av − mg ⎞ ⎛ 2 mg ⎞
av + mg ⎞
⎟ − ln⎜
⎟ =⎜
⎟t + C
a
a
⎠
⎝
⎠ ⎝ m ⎠
av + mg ⎞ ⎛ 2 mg ⎞
⎟ =⎜
⎟t + C
av − mg ⎟⎠ ⎝ m ⎠
)
)
) = ±e
mg )
av + mg
av −
⎛ 2 mg ⎞
⎜⎜
⎟⎟ t +C
⎝ m ⎠
= C'e
⎛ 2 mg ⎞
⎜⎜
⎟⎟ t
⎝ m ⎠
t=0 で v=0 とすると、
よって,
(
(
) = −e
mg )
av + mg
av −
⎛ 2 mg ⎞
⎜⎜
⎟⎟ t
⎝ m ⎠
これより,
av + mg = −e
⎛ 2 mg ⎞
⎜⎜
⎟⎟ t
⎝ m ⎠
(
av − mg
)
⎛ 2 mg ⎞ ⎞
⎛ 2 mg ⎞ ⎞
⎛
⎛
⎜⎜
⎟⎟ t
⎜⎜
⎟t
m
m ⎟⎠
⎠ ⎟
av⎜1+ e⎝
= mg ⎜ −1+ e⎝
⎜
⎟
⎜
⎝
⎠
⎝
⎠
⎛ 2 mg ⎞ ⎞
⎛
⎜
⎟t
⎜ −1+ e⎜⎝ m ⎟⎠ ⎟
⎜
⎟
mg ⎝
⎠
v=
⎛ 2 mg ⎞ ⎞
⎛
a
⎜
⎟t
⎜1+ e⎜⎝ m ⎟⎠ ⎟
⎜
⎟
⎝
⎠
分母と分子に v
=e
⎛ 2 mg ⎞
−⎜⎜
⎟⎟ t
⎝ m ⎠
を乗じると
- 18 -
v=
⎛ 2 mg ⎞ ⎞
⎛
⎟t
−⎜⎜
⎜1 − e ⎝ m ⎟⎠ ⎟
⎟
⎜
mg ⎝
⎠
⎛
⎞
2 mg ⎞
a ⎛
⎟t
−⎜
⎜1+ e ⎜⎝ m ⎟⎠ ⎟
⎜
⎟
⎝
⎠
のとき、
(2.3.6b)
= 終端速度(2.2.2b)
※このような微分方程式(2.4b)式は非線形(線形でない)といい,必ずしも全ての場合について解
けるとは限らない。
- 19 -
第4回
演習問題3
解答
初速 v0 で水平方向に発射された質量mの物体の水平方向の運動(速度に比例した空気抵抗 −a
dx
dt
あり)を考える。なお、鉛直方向の運動は、2.3.1.2①で議論した空気抵抗を考えた場合の自由落
下となる。
(1) v を変数として、水平方向の運動方程式を立てよ( v =
m
d 2x
dx
= −a
2
dt
dt
→
m
dx
)。
dt
dv
= −av
dt
(2) (1)で得られた運動方程式を変数分離形((2.3.2)の形式)に
変形せよ。なお、「−」「m」「a」は右辺にまとめること。
a
1 dv
=−
m
v dt
(3) (2)で得られた微分方程式を t に関して積分し、定数 C(変形により C’などとしても良
い)を含む形で、微分方程式の解を求めよ。
(4) (3)で得られた解に初期条件 t
= 0, v = v 0を代入し、v の時間変化を t の式として示せ。
(5) (4)で得られた v の時間変化を t で積分し、物体の位置 x を t の関数をして表せ。なお、
初期位置を x=0 とする。
a
− t
dx
= v0 e m
dt
a
a
− t
m − t
dx
∫ dt dt = ∫ v0e m dt → x = −v0 a e m + C
a
m − 0
m
初期条件x=0より、 0 = −v0 e m + C → C = v0
a
a
a ⎞
⎛
−
t
m
v0 ⎜1− e m ⎟
a⎝
⎠
→
- 20 -
2.3.2 特性方程式を用いた微分方程式の解法
定数係数の2階線形同次微分方程式
の解法を考える。(2.3.9)に y
また e
λx
dy
d2y
+ qy = 0 ------- (2.3.9)
2 + p
dx
dx
( λ + pλ + q)e
= e λx を代入すると
2
≠ 0であるので、
λ2 + pλ + q = 0
λx
= 0、
------- (2.3.10)
(2.15)は特性方程式と呼ばれ、これを解けばλを具体的に決めることができる。解の振る舞いは方
程式の係数 p と q によって次の3つに分類できる。λ1、λ2 を(2.15)の解とすると、(2.14)の一般解
は、以下で表される(C1、C2、C3、C4 は任意定数である)。
− p ± p 2 − 4q
(I) 判別式 D = p − 4q > 0のとき、λ1、λ2 は異なる実数となり λ1, λ2 =
2
2
一般解:
(II) 判別式 D =
------- (2.3.11)
p 2 − 4q = 0 のとき、特性方程式は重解となり、 λ1 = λ2 = λ = −
一般解:
(III) 判別式 D =
y = C1e λ1 x + C2e λ 2 x
y = (C1 + C2 x)e λx
p
2
------- (2.3.12)
p 2 − 4q < 0のとき
λ1、λ2 は互いに共役な複素解となり λ1,
一般解:
ここで、 α = −
λ2 =
− p ± i 4q − p 2
2
y = C1e λ1 x + C2e λ 2 x
------- (2.3.13)
4q − p 2
p
, β=
とおくと、 λ1, λ2 = α ± iβとなり、
2
2
オイラーの公式を用いて、一般解は以下のように書き換えられる
y
= C1e λ1 x + C2e λ 2 x
= C1eαx +iβx + C2eαx −iβx
= eαx (C1e iβx + C2e −iβx )
= eαx (C1(cos βx + i sin βx ) + C2 (cos βx − i sin βx ))
(
= eαx (C1 + C2 ) cos βx + i(C1 − C2 ) sin βx
= eαx (C3 cos βx + C4 sin βx )
注: C3 = C1 + C2
- 21 -
)
------- (2.3.14)
C4 = i(C1 − C2 )
2.3.2.1 特性方程式を用いた微分方程式の解法例
例題1
微分方程式
特性方程式
dy
d2y
+ 5y = 0 の一般解を求めよ
2 +4
dx
dx
λ2 + 4 λ + 5 = 0
の判別式は
D = 4 2 − 4 × 5 = 16 − 20 = −4 < 0であるので、
λ1、λ2 は互いに共役な複素数となる。
解の公式より、
複素共役な2解を
−4 ± i 4 × 5 − 4 2
λ1, λ2 =
= −2 ± i
2
λ1, λ2 = α ± iβ
と表すと、 α
であるので、
= −2, β = 1。
よって、(2.3.14)を用いると一般解は
y
= e −2x (C3 cos x + C4 sin x )
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
また、(2.3.13)を用いると一般解は
y = C1e( −2+i) x + C2e( −2−i) x となる。
オイラーの公式を使って書き換えると、
y = C1e(−2+i) x + C2 e(−2−i)x = C1e−2 x ( cos x + isin x ) + C2 e−2 x ( cos x − isin x )
= e−2 x ((C1 + C2 ) cos x + i (C1 − C2 ) sin x ) = e−2 x (C3 cos x + C4 sin x )
→
(2.13)式を用いた場合と同じ(C3 = C1 + C2、C4 = i (C1 - C2): 任意定数)
dy
d2y
+ 3y = 0 の一般解を求めよ
2 +4
dx
dx
練習1
微分方程式
手順1
特性方程式を立てる
手順2
判別式の正負を調べる
手順3
特性方程式の解、λ1、λ2 を求める
手順4
(2.3.11)または(2.3.12)または(2.3.14)を用いて一般解を求める
→どのケースにあたるかを判断
- 22 -
練習解答
練習1
微分方程式
特性方程式
d2y
dy
+ 3y = 0 の一般解を求めよ
2 +4
dx
dx
λ2 + 4 λ + 3 = 0
の判別式は
D = 4 2 − 4 × 3 = 16 −12 = 4 > 0
であるので、
λ1、λ2 は異なる実数となり、
より、
(2.3.11)より一般解は
y = C1e −x + C2e −3x
- 23 -
2.3.2.2 特性方程式を用いて、運動方程式を解く
[バネに付けた物体の運動]
空気抵抗を考えない場合
d2x
運動方程式: m 2 + kx = 0
dt
dx
= 0として特性方程式を用いて解く。
dt
この運動方程式(k, m >0)を,初期値 x = x 0,
d2x k
+ x =0
dt 2 m
k
λ2 + = 0
m
k
k
D = 0 − 4 = −4 < 0
m
m
(2.1.5)を変形すると
よって特性方程式は
判別式は
よって、特性方程式は複素共役な2解
複素共役な2解を
λ1, λ2 = α ± iβ
よって、(2.3.14)より、
x
------- (2.1.5)
= eαt (C3 cos βt + C4 sin βt )
λ = ±i
----- (2.3.15)
k
を持つ
m
と表すと、
α = 0, β =
k
m
⎛
k
k ⎞
k
k
= e 0t ⎜C3 cos
t + C4 sin
t ⎟ = C3 cos
t + C4 sin
t
m
m ⎠
m
m
⎝
時間 t で微分して、
dx
dt
= − C3
k
k
k
k
sin
t + C4
cos
t
m
m
m
m
- 24 -
初期条件
dx
= 0を代入すると、
dt
C3 = x 0 C4 = 0
t = 0, x = x 0 ,
x = x 0 cos
よって
T
この運動の周期を T とおくと、
よって、周期(バネの固有周期)は
k
t
m
----- (2.3.16)
k
= 2π
m
T = 2π
m
k
となる。
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
参考
(2.3.13)を用いても以下のように同様の解を得ることができる。
x = C1e
(2.3.13)より、
x=
x0 i
e
2
k
t
m
+
+ C2e
x0
2
x 0 −i
e
2
k
t
m
−i
k
t
m
− iC2
k −i
e
m
k
t
m
dx
= 0を代入すると、
dt
C1 + C2 = x 0
t = 0, x = x 0 ,
よって C1 = C2 =
k
t
m
dx
k i
= iC1
e
dt
m
時間 t で微分して
初期条件
i
であるから、
k
t
m
=
x0 ⎛
k
k
k
k ⎞
k
t + isin
t + cos
t − isin
t ⎟ = x 0 cos
t
⎜ cos
2⎝
m
m
m
m ⎠
m
→(2.3.16)と同じ解を得る。
- 25 -
【応用3】バネに付けた物体の運動:空気抵抗を考えた場合
運動方程式: m
d 2x
dx
+ a + kx = 0
2
dt
dt
------- (2.1.6)
dx
= 0として特性方程式を用いて解く。
dt
d 2 x a dx k
----- (2.3.17)
+
+ x =0
dt 2 m dt m
a
k
λ2 + λ + = 0 、
m
m
この運動方程式(m, a, k > 0)を,初期値 x = x 0,
(2.1.6)を変形すると
よって特性方程式は
判別式は
⎛ a ⎞2
k a 2 − 4mk
D =⎜ ⎟ −4 =
となり、場合分けが必要
⎝ m⎠
m2
m
a 2 − 4mk
(1) D =
> 0 の場合λ1、λ2 は異なる実数となり
m2
−a ± a 2 − 4mk
λ1, λ2 =
<0
2m
よって、
x = C1e
−a+ a 2 −4mk
t
2m
+ C2 e
−a− a 2 −4mk
t
2m
dx
−a + a 2 − 4mk
= C1
e
dt
2m
−a+ a 2 −4mk
t
2m
−a − a 2 − 4mk
+ C2
e
2m
−a− a 2 −4mk
t
2m
初期条件より、
C1 + C2 = x 0 ,
⇒ C1 =
C1
−a + a 2 − 4mk
a + a 2 − 4mk
− C2
=0
2m
2m
a + a 2 − 4mk
2 a 2 − 4mk
x0
C2 =
−a + a 2 − 4mk
2 a 2 − 4mk
x0
よって
x=
(2)
D=
a + a 2 − 4mk
2 a 2 − 4mk
x 0e
−a + a 2 −4 mk
t
2m
+
−a + a 2 − 4mk
2 a 2 − 4mk
a 2 − 4mk
= 0の場合λ1、λ2 は重解となり
m2
a
λ1 = λ2 = λ = −
<0
2m
- 26 -
x 0e
−a − a 2 −4 mk
t
2m
よって、
x = (C1 + C2 t )e
−
a
t
2m
a
⎞ − 2m
t
a
dx ⎛
e
= ⎜C2 −
C
+
C
t
⎟
(
1
2 )
⎠
2m
dt ⎝
初期条件より、
よって
⎛
ax ⎞ − a t
x = ⎜ x 0 + 0 t ⎟e 2m
⎝
2m ⎠
(3)
D=
a 2 − 4mk
< 0の場合
m2
λ1、λ2 は互いに共役な複素解となり λ1,
−a ± i 4mk − a 2
2m
λ2 =
a
4mk − a 2
, β=
とおくと、(2.3.14)より、
2m
2m
ここで、 α = −
x
= eαt (C3 cos βt + C4 sin βt )
dx
dt
(
= eαt (αC3 + βC4 ) cos βt + ( − βC3 + αC4 ) sin βt
)
初期条件より、
α
β
x0 = C3, 0 = α C3 + β C4 → C3 = x0 , C4 = − C3 = −
α
x0
β
よって
⎛
⎞
α
α
x = eαt ⎜ x0 cos β t − x0 sin β t ⎟ = x0 eαt cos β t − x0 eαt sin β t
β
β
⎝
⎠
= x0 e
−
a
t
2m
−
a
t
4mk − a 2
4mk − a 2
ae 2 m
cos
t − x0
sin
t
2m
2m
4mk − a 2
ここで a が十分小さい場合(空気抵抗が弱い場合)、
x → x0 e
−
0
t
2m
−
0
t
2m
0e
4mk − 0
4mk − 0 2
k
cos
t − x0
sin
t = x0 cos
t
2
2m
2m
m
4mk − a
2
→空気抵抗がない場合(2.3.16)と同じ解を得る。
- 27 -
第5回
演習問題4
解答
(1) 特性方程式を立てよ
d2x
g
d2x g
g
=
−
x
→
+ x = 0 よって特性方程式は、 λ 2 + = 0 となる。
2
2
dt
dt
L
L
L
(2) 判別式の正負を調べ、P18(I), (II), (III)のどのケースにあたるか答えよ
判別式
D = −4
g
<0
L
(g>0、L>0 より)
→
P18 ケース(III)にあたる
(3) 特性方程式の解を求めよ。
λ2 +
g
g
= 0 → λ2 = −
L
L
→ λ = ±i
g
L
(4) (2.3.11)または(2.3.12)または(2.3.14)を用いて一般解を求めよ
また、得られた x を t で微分し、
dx
の一般解も求めよ。
dt
P18 ケース(III) にあたるので、(2.3.14)より、 x = e
また、 λ1, λ2
= α ± iβ であるので、 α = 0, β =
αt
(C3 cos β t + C4 sin β t ) と表される。
g
L
よって、
⎛
g
g ⎞
g
g
x = eαt (C3 cos β t + C4 sin β t ) = e0t ⎜ C3 cos
t + C4 sin
t ⎟ = C3 cos
t + C4 sin
t
L
L ⎠
L
L
⎝
g
g
dx
g
g
= −C3
sin
t + C4
cos
t
L
L
dt
L
L
tで微分し
(5) 初期条件 x = x 0 ,
x0 = C3, 0 = C4
dx
= 0を用いて、一般解の未知数(任意定数)を求めよ
dt
g
L
→
C3 = x0 , C4 = 0
(6) 位置 x を時間 t の関数として示せ
x = x0 cos
g
t
L
g
dx
g
= −x0
sin
t
L
dt
L
(7) 運動の周期 T を求めよ
周期を T とおくと、
g
T = 2π
L
→
- 28 -
T = 2π
L
g
3.流体の基礎的な力学
私たちの身の周りには大気があり,川や海がある。空気や川や海の水は絶えず動いて流れてお
り,その中で多くの生物が生息している。鳥類は大気中を飛び回り,水中では魚などの生物が泳
いでいる。地表を走り回る生物も空気の抵抗や風の影響を少なからず受ける。
このような気体(空気)や水(液体)の動きを「流れ」といい,この流れの状態,あるいは流
れから生ずる力を考えるのが「流体力学」である。地球上の環境や生態を考察するには,こうし
た「流体力学」の取扱いを知っておくことが重要になる。
流れを取り扱う学問に,古来の実験的な立場に立った「hydraulics(水力学)」と近年の理論的
な立場に立った「hydrodynamics(流体力学)」があるが,最近は両者を統合して「fluid dynamics
(流体力学)」と呼ばれるようになってきた。
海流や大気の動き,また海中の生物の運動,あるいは漁具や漁船などの運動を取り扱うには,
高度な流体力学の取扱いが必要になるが,これらについてはそれぞれの専門の科目に委ねること
とし,ここでは,流体の力学のごく基礎的な部分について,以下の内容について平易に説明する。
(1)流体の性質と基本的な取扱い
(2)流体の静力学
(3)定常な流れの力学
(4)定常流れの中の物体に作用する力
3.1
流体の性質と基本的な取扱い
水や空気は,固まった剛体とは異なり,形や大きさが自在に変化する連続した物体である。固
まった剛体の力学は,既に学習したように,その物体の重心に質量の中心(質点)が集中してい
るとして,ニュートンの運動方程式で取り扱うことができた。では,形や大きさが自在に変化す
る連続した流体はどのように取り扱えば良いのだろう。その前に,流体の代表的な特徴とその取
扱いを確認しておこう。
1)流体の力学の基本的な取扱い
水の分子は 1cm3 あたり,およそ 1022 個の分子が存在する。空気は分子間隔が約 10 倍に拡がる
ため,この 1/1000 程度になる。これら分子が互いに引き合って液体や気体といった流体を形成
しているが,もしこれらの運動を分子レベルで記述しようとしたら,途方もない数の運動方程
式が必要になり,もうお手上げになってしまう(→統計力学)。そこで,流体のある有限の大
きさの平均した質量や運動(あるいはエネルギー)などの状態を定義することを考える。この
平均をとる領域が考える流れのスケールより十分小さければ,これらの平均量が空間的に連続
して分布しているものとして取り扱うことができる。
このようにすると,水や空気を質量や速度,力などの物理量が連続的に分布し,空間を隙間
無く埋め尽くした自由に変形する仮想的な物質(流体)とみなすことができる。
2)圧力の性質
既に物理単位で説明したように,単位面積当たりに受ける力のことを圧力と言う。SI 単位系で
は 1 [m2](平方メートル)に 1 [N](ニュートン)の力を受ける時,この圧力を 1 [Pa](パスカル)とい
う単位を与えている。逆に,面積 A の平板に一様な流体圧力 p が作用すると,平板を押す力 F
は次式になる。
F = Ap
(3.1)
圧力は次の性質を持つ(パスカルの法則)
(1) 流体の圧力は,流体と接触する壁面に垂直に作用する。
(2) 静止流体内の1点における圧力は,いずれの方向にも同一(スカラー)である。
(3) 密閉容器中の流体に加えた圧力は,全ての部分にそのままの強さで伝わる。
- 29 -
3)流線
流体の運動状態は,空間の全ての点での
速度を指定することによって表される
(速度場)。速度は,既に物理単位で説
明したように,単位時間に移動する距離
(長さ,変位)であり,大きさと方向を
持ったベクトルである。一般に,速度は
時間と共に変動する(加速度を持つ)が,
ある特定の時間に空間のあらゆる点で
その方向が速度ベクトルに平行である
曲線を「流線」という。
4)縮まない流れ(非圧縮性)
空気などの気体は,温度や圧力の大きさによって体積が大きく変化する。圧力を加えると流体
は縮む。逆に圧力を下げると体積は膨張する。これに対して,水などの液体は分子間隔が狭く
なっており,その変化は気体に比べて遙かに小さい。そこで,以下で述べる流体の力学の初歩
では流体は縮まない(非圧縮)として取り扱う。すなわち,流体の密度ρ(=単位体積あたりの
質量)は一定と取り扱う。
5)連続性
質量保存の法則から,流れ場のある領域を出入りする流体の質量は不変である(単位時間に領
域に入る質量 M は出る質量と等しい)。特に,上記の縮まない流れでは,流体の密度ρは不変
となるので,領域に入る流量(単位時間に領域に入る体積 V=M/ρ)は領域を出る流量と等しい。
6)流体の境界
流体が容器に囲まれた場合,あるいは流体中に壁や物体があって流体がそれらに密着する箇所
を境界(boundary)と言う。気体と液体の境目も境界となる。
3.2 流体の静力学
静止している流体について,力の釣合を考えるのが,流体の静力学(fluid statics)である。液体の
場合は密度が大きいので,高さ(深さ)による流体の重力差があり,圧力の変化が大きくなる。
1)静止している流体の圧力
大気圧 p0
深さ h における流体(密度ρ)の圧力を考えよう。
ただし,流体の上部は空気に接し,大気圧(液体
にとっては外部からの圧力)が作用しているもの
とする。
今,鉛直方向(重力と平行)に水深 h,断面積 A
の液柱を考えると,その体積は ( A × h ) であり,こ
の液柱の質量は (ρ × A× h ) 。また,液柱にかかる
重力は (g × ρ × A× h ) である。
液柱の
断面積 A
深さ h
深さ h における液柱の底部の鉛直方向の力は,
液柱にかかる重力と大気圧(p0)による力を合わせ
た力である。すなわち,
F = p 0 A + gρAh = A( p 0 + gρh )
(3.2)
したがって,この液柱の下部における圧力,すな
わち,深さ h における圧力は(3.3)式の力を液柱の
断面積で除して以下になる。
p = p 0 + gρh
鉛直方向
の力 F
(3.3)
すなわち,密度ρの液体においては,深さに比例して圧力が増加し,その比例定数は (gρ ) となる。
- 30 -
2)大気圧(p0)
地球の大気圏には空気の層があり,空気も質量があるので,地表ではこの空気による圧力が作
用している。ただし,空気は圧縮性流体であることから,高度が高くなって圧力が低下すると,
密度も低下し,大気圏外で空気は存在しなくなる。
地表における大気圧はトリチェリ(Torricelli)の実験によって,その圧力の大きさを確認するこ
とができる。片方を密閉した 1m 近いガラス管容器に水銀を満たし,この容器に栓をして逆さま
にし,別の水銀を入れた容器に浸けて栓を外す。すると,逆さにしたガラス管の水銀の一部はそ
の重さで容器に流れ出すが,ある高さで釣り合って静止する。流れ出た水銀で空洞になったガラ
ス管の内部には空気が無く真空になっており、水銀柱の上部の圧力は 0 になっている。
ここで水銀柱の高さを hHg,ガラス管の中
の水銀の断面積を A とすると,水銀柱の体積
は(A×hHg)であり,水銀の密度をρHg とすると
水銀柱の質量は(ρHg×A×hHg)。したがって,
水銀柱にかかる重力は(g⋅ρHg×A×hHg)となる。
真空
これより水銀柱の下部 B における圧力 p は,
p=
gρ Hg AhHg
A
= gρ Hg hHg
水銀柱 hHg
(3.4)
となる。前頁のパスカルの法則によって,こ
の圧力は大気圧 p0 と等しいことから,hHg がわ
かれば大気圧が求まる。
大気圧 p0
大気圧は気象状態によって変動するが,代
表的な値として,hHg=0.76m の場合を1気圧
(旧単位系で 1 atm)として用いられている。
B
これに対応する圧力は次式で計算できる。た
だし,水銀の比重は 4 頁の表から,13.595 で
あり,水銀の密度はこの比重に水の密度を乗
じた値:13,595[kg/m3]である。
外した栓
p0 = gρ Hg hHg
⎡ m ⎤
⎡ kg ⎤
= 9.8067⎢ 2 ⎥ ×13, 595⎢ 3 ⎥ × 0.76 [ m ] = 101, 325 [ Pa ] = 1013.25 [ hPa ]
⎣ sec ⎦
⎣m ⎦
3)水深 10m の水圧
練習1
水深 10m の圧力を計算しよう(g=9.8067ms-2, 液体は真水(密度=1000kgm-3)とする)
上記の圧力は大気圧を含んだ圧力で,絶対圧とも呼ばれる。これに対し,水のみによる圧力(水
圧,大気圧を基準にした圧力の表示の一つでゲージ圧とも言う)は 98,067[Pa]であり,水深 10m
における水圧はほぼ大気圧に等しいことがわかる。
- 31 -
4)浮力
① 水面に浮いている直方体の浮力
船を浮かす力は浮力と呼ばれるが,これは水
や海水の圧力が船体表面に作用し,この上下方
向成分の総和が浮力となる。
大気圧:p0
今,直方体が上面を水平にして液体密度:ρ
に浮かんでいる場合を考えてみよう。直方体の
表面に受ける圧力は深度に比例するので,直方
体の喫水を d とすると,直方体の周りには右図
のように,パスカルの法則によって浮体の表面
と垂直な方向に圧力が作用する。
喫水:d
ρgd+p0
大気圧(→)も水圧(➡)と同様,高さによ
って圧力が異なり空気の浮力を受けるが,空気
の密度は水の約 1/800 なので,水面上の物体の
高さの違いによる影響は無いと考えてよい。
この図から,浮体の底面には一様に上向きに(ρgd+p0)の圧力がかかり,また浮体の上面には一
様に下向きに p0 の圧力がかかっているので浮力 F は,
F= (ρgd+p0)×直方体の底面積−p0×直方体の底面積
= ρgd×直方体の底面積
(3.5)
= ρg×没水体積
となる。ただし,g:重力加速度。また,直方体の側面にかかる圧力は全て水平なので,浮力には
結びつかない。したがって,浮力は流体密度,重力加速度と没水体積の積になる。
浮力の大きさは流体を押しのけた部分の流体の重力に相当し,その力の向きは重力と逆方
向に作用することになり,これが「アルキメデスの法則」である。
② 全没している直方体の浮力
大気圧:p0
次に上記の直方体が上面を水平にし
て液体中に全没している場合を考えて
みよう。直方体の上面の水深を h とする
と,直方体の表面に受ける圧力は深度に
比例するので,直方体の高さを d とする
と,直方体の周りには右図のように圧力
が作用する。
ρg(h) +p0
この図から,浮体の底面には一様に上
向きに{ρg(h+d)+p0}の圧力がかかり,ま
た浮体の上面には一様に下向きに
{ρgh+p0}の圧力がかかっている。
ρg(h+d) +P0
練習2
水深:h
高さ:d
浮力 F を計算せよ(直方体の底面積を A とする)
- 32 -
練習1の解答
練習1
水深 10m の圧力を計算しよう(g=9.8067ms-2, 液体は真水(密度=1000kgm-3)とする)
水深 10m の圧力は(3.3)式から次式で計算される。
p = p0 + gρ fw h
⎡ m ⎤
⎡ kg ⎤
= p0 + 9.8067⎢ 2 ⎥ ×1, 000 ⎢ 3 ⎥ ×10 [ m ]
⎣ sec ⎦
⎣m ⎦
= p0 + 98, 067 [ Pa ]
= 101, 325 + 98, 067 [ Pa ] = 199, 392 [ Pa ]
練習2の解答
練習2
浮力 F を計算せよ(直方体の底面積を A とする)
F= {ρg(h+d)+p0} ×A−{ρgh+p0}×A
= ρgd×A = ρg×没水体積(3.6)
物体の水深にかかわらず,(3.5)式と同じ浮力になることがわかる。
- 33 -
③
三角柱の浮力
三角柱の浮体が下図のように浮かんでいる場合を考える。まず大気圧 p0 による浮力は,浮体上
面の幅を B とすると,p0B⋅(浮体の長さ)が下向きに方向に作用する。また下面2辺の長さの合計は
(B/cosθ )であり,またこの面に及ぼす大気圧の分は各面に直角に p0 で,その上下方向成分は上向
きに p0 cosθであるから,p0B⋅(浮体の長さ) が上向きに方向に作用するので,その結果,大気圧は
浮力に影響を及ぼさない。
次に水から受ける浮力については,下図のように水面から浮体の傾斜底に沿って s という座標
を設定すると,s における深度は s sinθ であるから,ここにおける水圧は(ρgs sinθ )であり,この
圧力の上下方向成分は上向きに(ρgs sinθ ) cosθ となる。この深度における ds×(浮体の長さ)
という面に働く力は,(ρgs sinθ ) cosθ ds×(浮体の長さ)
となるから,浮体全体に働く浮力は,以下の積分式で表される。
B / (浮体の長さ) = 2 ∫
d / sin θ
0
(ρgs sin θ ) cos θ ds
= 2 ρg sin θ cos θ ∫
d / sin θ
0
s ds
d / sin θ
⎡s2 ⎤
= 2 ρg sin θ cos θ ⎢ ⎥
⎣ 2 ⎦0
(3.7)
⎛ d 2 cos θ ⎞
⎛ d2 ⎞
⎟⎟ = ρg ⎜⎜
⎟⎟
= ρg ⎜⎜
⎝ 2 sin θ ⎠
⎝ 2 tan θ ⎠
⎛ d2 ⎞
⎟⎟ であるから,浮力= ρg×没水体積となることがわかる。
他方,没水体積は ⎜⎜
⎝ 2 tan θ ⎠
- 34 -
④
円柱の浮力
半径 r の円柱の浮体が密度ρの流体中に全没しており、円柱の中心の深度が h0 である場合(下図)
を考える。まず大気圧 p0 による浮力は,円柱周りに等しく分布しているので,大気圧が浮力に与
える影響はない。
次に水から受ける浮力については,右図のように円柱の上部から角度θ における円柱表面を考
える。この場所における深度は(h0-r cosθ)であるから,圧力は,ρg(h0-r cosθ)となる。この深度に
おける ds×(浮体の長さ)という面に働く上向きの力は,−ρg(h0-r cosθ) cosθ ds×(浮体の長さ)とな
るから,浮体全体に働く浮力は,以下の積分式で表される。
B / (浮体の長さ) = − ∫ ρg (h0 − r cos θ ) cos θ ds
2π
0
2π
= − ∫ ρg (h0 − r cos θ ) cos θ rdθ
0
= ρgr ∫
2π
0
(r cos
= ρgr 2 ∫
2π
= ρgr 2 ∫
2π
0
0
2
θ − h0 cos θ ) dθ
(3.8)
cos 2 θ dθ
⎛ 1 + cos 2θ ⎞
⎜
⎟ dθ
2
⎝
⎠
2π
⎡θ + (sin 2θ ) / 2 ⎤
2
= ρgr ⎢
⎥ = ρgπr
2
⎢
⎥0
2
一方,没水体積は衆知のとおり,π r2×(浮体の長さ)であるから,やはり浮力= ρg×(没水体積)と
なる。
大気圧 p0
深度:h0
大気圧:P0
ρg(h0-r cosθ)
p0
θ
- 35 -
ds
第6回
演習問題5 解答
錘:m
(1)の解答
右ピストン下部高さにおける圧力
h
mg
A1
左側 = p 0 + ρgh
右側 = p 0 +
パスカルの法則から,両者の圧力は
等しくなることから,
p0 +
右ピストン
の断面積:A1
左ピストン
の断面積:A2
密度:ρ
mg
= p0 + ρgh
A1
これより, h =
m
となり,h は錘の質量 m に比例し,ρおよび A1 に反比例するが,A2 には無
ρA1
関係となる。
(2)の解答
浮体の重力=mg
浮体の喫水を d とすると
浮体に作用する浮力=ρgAd
重力と浮力が釣り合う条件から,
浮力=ρgAd
mg = ρgAd
喫水 d
m
これより, d =
ρA
密度:ρ
- 36 -
重力=mg
前回の復習
下図のような水圧容器機の右側のピストンに質量 m の錘を載せると,左右のピストンの高低差が
h になった。液体の密度をρ,重力加速度を g として h を求める計算式を導きなさい。ただし,左
右のピストンの重力は無視する。
類題:左右のピストンが同じ高さになる場合、左側のおもりの質量 m2 を求めよ。
この装置を用いれば、m2g = 0.01 kg×10 ms-2 = 0.1 N の力で 100kg のおもりを動かすことができ
る。ただし、右側のピストンの移動距離は左側のピストンの移動距離の 1/10000 である。
→油圧ポンプ
- 37 -
3.3 定常な流れの力学
一般の流れは三次元的であるが,これを一次元で考えて良い場合も多い。例えば管内の流れを
考える場合,管断面の平均速度で考えれば,一次元流れとなって取扱いが大変簡単になる。ここ
では一次元の定常流れの基本的な力学について学習する。
1)連続の式
質量保存の法則
Ð
連続して流れる流体:管の直径が変わっても,各断面を単位時間に通過する流体の質量は不変
Ð
断面を通過する単位時間あたりの質量 = (断面積)×(速度)×(密度) = 一定
Ð
A1U 1 ρ = A2U 2 ρ = A3U 3 ρ
Ð
密度ρが一定(非圧縮流体)の場合は, A1U 1 = A2U 2 = A3U 3
すなわち,
AU = 一定
(3.9)
となる。これが連続の式である。なお,(A×U)は単位時間当たりの流量と呼ばれる
A2
A1
U1
- 38 -
A3
U2
U3
2)ベルヌーイ(Bernoulli)の式
z
一本の流線について,その流線に沿った軌道を s
とし(右図),その一部分 ds についてニュートン
(
p + dp
)
の運動方程式 F = ma を適用する。この流線の一
流線断面積:A
部分の流速を U,流線の断面積を A とすると,
・ 流線 ds 部分の体積= Ads
・ 流線 ds 部分の質量= ρAds
U
p
・ 流線 ds 部分の重力= ρgAds
・ 流線 ds 部分の加速度= dU dt
よって
ma = ( ρ Ads )
ds
流線
重力:ρgAds
dU
dt
(3.10)
dz
dz
F = Ap − A ( p + dp) − ( ρ gAds) = −Adp − ( ρ gAds)
ds
ds
上式より、 F
dz
= ma を質量 (ρAds ) で除すと,
1 ⎛ dp ⎞
dU
dz
= − ⎜ ⎟−g
dt
ρ ⎝ ds ⎠
ds
(3.11)
ここで流線の速度は時間 t と流線の場所 s の双方の関数であり,速度の全微分量は,
∂U
∂U
dt +
ds であるが,定常流(流速が時間的に変動しない:空間的に変化するだけ)
∂t
∂s
∂U
ds となり,両辺を dt で除すと,
と考えると (∂U ∂t ) = 0 となるので, dU =
∂s
dU =
dU ⎛ dU ⎞⎛ ds ⎞
⎛ dU ⎞
=⎜
⎟⎜ ⎟ = U ⎜
⎟
dt ⎝ ds ⎠⎝ dt ⎠
⎝ ds ⎠
(3.12)
流体の運動方程式(3.11)に、定常流の全微分(3.12)式を代入すると,
U
1 ⎛ dp ⎞
dU
dz
= − ⎜ ⎟−g
ds
ρ ⎝ ds ⎠
ds
(3.13)
(3.13)を s について積分すると,
dU
1 ⎛ dp ⎞
dz
∫ U ds ds = − ∫ ρ ⎜⎝ ds ⎟⎠ds − g ∫ ds ds
→
1
∫ U dU = − ∫ ρ dp − g ∫ dz
ここで,密度ρが一定(非圧縮流体)の場合は,
U2
p
+ c1 = − − gz + c 2
2
ρ
すなわち,
ρ
2
U 2 + p + ρ gz = const.
(3.14)
これが,ベルヌーイの式であり,定常流場の速度と圧力の関係を記述する重要な式になる。
- 39 -
s
3)運動量と力
流体速度と力の関係を記述する上でもう一つ重要な関係式がある。既に示したニュートンの運
動方程式を若干変形すると,
F = m⋅a =
d (m × U )
dt
(3.15)
m: 質量
U: 速度(位置の時間的変化,加速度の時間積分)
であり,ここに(m×U)を運動量という。すなわち,運動量の時間的変化が力になることを示して
おり,このようにして力や運動を解析する方法を運動量理論と言う。
以下の例で具体的に推進力を求めてみよう。
ある物体(あるいは生物)が一定速度 U で進みながら,前方から水を取込み,後方から速度
Uj で吐き出す場合の推進力は以下のように求められる。すなわち,物体に入る流体の単位時間当
たりの流量(=体積×速度)を毎秒 Q とすると,
・ 物体に入る流体の単位時間あたりの運動量= ρQU
・ 物体からはき出す流体単位時間あたりの運動量= ρQU j
であるから,上記の単位時間当たりの運動量の差が推進力になる。
F = ρQU j − ρQU = ρQ (U j − U )
(3.16)
Uj
U
推進力
4)ベルヌーイの式の応用例
(1)水槽から流出する速度
右図のように水槽に密度ρの液体があり,水面の下部 h に小穴が開いていて,流体が噴出してい
る。この流体の噴出速度 U を計算する。
大気圧 p0
水槽表面 A において:
高さ=h
圧力=p0
流速=0
A
密度:ρ
h
大気圧 p0
B
水槽の小穴 B において:
高さ=0
圧力=p0
流速=U
小穴からの
流出速度 U
- 40 -
問題1
ベルヌーイの式を A と B に適用し、U(小穴からの流出速度)を求めよ
上式はトリチェリ(Torricelli)の定理として知られている。なお,上記の水槽に穴が開いていると,
水槽の液体は少なくなって水位は低下し,時間と共に流速 U も低下する。この場合の流速の変化
は容器の容量,流出量などを含めて解くことになる。
(2)ピトー管(流速計)
下図のように,円柱の先が球状になって,その先端 A の圧力 pA と円柱の側部 B の圧力 pB を計
測する。この装置は下図に示すような簡単な構造になっており,A と B の圧力差から相対速度が
得られる。なお、AB 間の高さの差は小さいとする。
ベルヌーイの式を用いて,A と B の圧力から相対速度 U が以下のように計算できる。ただし,
ピトー管先端の A 点では相対流速は 0(淀み点: stagnation point)となっていることが重要である。
流体の密度をρとすると,
A において:
相対風速 U
圧力=pA
pA
流速=0
A
pB
B
B において:
圧力=pB
流速=U
ベルヌーイの式を A と B に適用すると,
p A = pB +
ρ
2
U2
(3.19)
これより,
U=
2( p A − p B )
(3.20)
ρ
- 41 -
問題1の解答
問題
ベルヌーイの式を A と B に適用し、U(小穴からの流出速度)を求めよ
p 0 + ρgh +
ρ
2
0 2 = p 0 + ρg 0 +
ρ
2
U2
(3.17)
これより,
U = 2gh
(3.18)
- 42 -
第7回
演習問題6 解答
(1)の解答
向かい風が 20m/s の場合,対地速度が 0m/s(空中ではあり得ないが・・)の場合,
相対速度は 20m/s となる。
対地速度が 180m/s で飛行中,向かい風が 20m/s とすると,
相対速度=180m/s+20m/s=200m/s となる。
(2)の解答
ジェット機の空気に対する相対速度は(3.20)式で計算できる。
圧力差(pa-pb)=20,000Pa の場合,
相対風速 U
pA
A
pB
B
U=
2( p A − p B )
ρ
= 200 × 60 × 60 ×
=
2 × 20,000[Pa]
= 200[m / s ]
1 kg / m 3
[
]
1
[km / h] = 720[km / h]
1000
となる。
- 43 -
3.4 定常流れの中の物体に作用する力
ベルヌーイの式や運動量理論から,流体の流れる速度が変化すると,そこには圧力変化が生じ,
また逆に,圧力変化があると流速が変化することを学習した。これは,流体・剛体に関わらず,
あらゆる質量を持つ物体がニュートン運動方程式に従っていることによっている。
ここでは,流れの中に置かれた物体に作用する抗力(抵抗)や揚力について学習する。その際,
流体の特徴としてもう一つ重要な「粘性」についても検討してみよう。
1)流体の圧力抵抗
右図のような一様な流れの中に
直角に置かれた平板を考えよう。上
流から速度 U で流れてきた流体は,
平板の直前では流速が 0 になる(ピ
トー管のしくみでも説明)。この点
を淀み点(stagnation point)と呼んで
いる。
上流における圧力を p∞とすると,
右図の S 点を通過する流線に注目
すると,上記の淀み点における圧力
p はベルヌーイの式から次式で与
えられる。
p = p∞ +
ρ
2
流速:U
S
U2
(3.21)
それ以外の流線は中心から外れる程,上式の圧力より小さくなるが,基本的にρと U2 に比例し
た圧力になっている。このことから,流れに直角に置かれた平板の抗力(drag: 抵抗とも言う)D
は平板の面積を A とすると次式で表すことができる。
D ∝ A( p − p ∞ ) =
ρ
2
AU 2
(3.22)
一般には,抗力係数 CD を用いて,次式で表現する。
D=
ρ
2
C D AU 2
(3.23)
ただし,CD は 0.6∼1.3 程度の値で,物体の形状や向きによって以下のように変化することが知ら
れている。また,後述する流体の粘性と速度によっても変化することに注意を要する。
種々の物体の抗力係数の例
物体形状
a
長方形板
U
円板
U
寸法比
a/b= 1
2
4
10
b
d
投影面積 A
ab
π
4
円柱(横)1
U
l/d=1
2
4
7
d
l
円柱(縦)
U
l/d=1
2
5
10
40
l
d
- 44 -
π
4
dl
抗力係数
CD
1.12
1.15
1.19
1.29
d2
1.2
d2
0.91
0.85
0.87
0.99
0.63
0.68
0.74
0.82
0.98
2)揚力
右図のような一様な流れの中に平板が角度 α
を付けて置かれた場合を考えよう。この時,平板
には流れの方向の力 D だけでなく,直角方向の
力 L が発生する。この直前方向の力を揚力と言う。
平板に働く力は前述の流体圧力と同様,U2 と流
体の密度に比例し,揚力係数 CL を用いて,次式
で表現する。
L=
ρ
2
L
U
R
α
D
C L AU 2
(3.24)
ただし,平板の角度が 0(流れに平行の場合)は揚力も発生しないので,この時の揚力係数 CL=0
になる。また CL は角度αに比例して大きくなり,この角度のことを迎角(attack angle)と言う。ただ
し,ある角度より大きくなると失速という現象が発生し,CL が急激に減少する。
流れに置かれた物体が平板ではなく,下図のような翼断面形状の場合は同じ迎角αでも効率良く
揚力 L を大きくすることができる。また,翼断面形状に反り(キャンバー:camber)を付けると更に
大きな揚力が得られ,航空機の主翼などで使用されている。
対称翼断面形状
キャンバー付きの
翼断面形状
3)重力と圧力抵抗
航空機では,上記の揚力が重力を支えて飛行している。水産分野では,漁網や曳航機材の重力
と抗力の大きさで深度が決まる。このように,流体中の物体には重力だけでなく抗力や揚力が働
くので,これらの関係が力学的に重要になる。
重力は浮力と釣り合うことが多いので,物体の体積を(面積 A)×(長さ L)として,重力に対す
る流体圧力との比を考えると,
ρ
圧力抵抗・揚力 圧力抵抗・揚力 2
=
=
重力
浮力
C D (or C L )AU 2
ρgAL
≅
ρAU 2 U 2
=
ρgAL gL
(3.25)
すなわち,
圧力抵抗・揚力
U
≅
≡ Fn
重力
gL
(3.26)
Fn はフルード数(Froude number) と呼ばれ,流体中の物体の力学を取り扱う際,重要なパラ
メータになる。また,模型実験を行う時には実験の重要な相似則(異なる成分の力:ここで
は流体の圧力抵抗・揚力と重力が同じ縮率になっているか)を表す数値にもなる。
- 45 -
3)流体の粘性と摩擦抵抗
前述の平板の迎角が 0 になると,揚力や流体圧力による抗力も 0 であるが,現実には平板に抵
抗が発生する。これは流体の粘性によるもので,摩擦抵抗とも呼ばれる。
右図のように,面積 A で隙
間が h の2枚の平行板の間に
F
U
流体を満たし,下の板を固定
A
し,上の板を速度 U で平行に
移動し,F の力を要したとす
る。
h
ここで,下の板に密着する
流体の速度は 0 であり,上の
板に密着する流体の速度は
U である。
隙間の流体に乱れが無いとすれば,流体の速度変化はこの図のように,直線的に変化すること
になる。(このような流れを層流と言い,かつ速度変化が一定な流れをクエット(Couette)の流れ
と言う。)
この場合,平板を動かすに必要な力 F は平板の面積 A および U に比例し,
隙間 h に反比例する。
すなわち,
F = µA
U
h
(3.27)
ただし,µは比例定数で,粘度(viscosity)あるは粘性係数と呼ばれ,上式は流体の粘性による抵抗
(摩擦抵抗)の基本になる。
ここで,物体に働く摩擦抵抗を前述までの流体の圧力抵抗と比較する。(3.25)式にならうと,
ρ
圧力抵抗 2
=
摩擦抵抗
C D (or C L )AU 2
U
µA
L
≅
UL UL
=
≡ Re
⎛µ⎞ ν
⎜⎜ ⎟⎟
⎝ρ⎠
(3.28)
ただし,ν(ニュー)=µ/ρであり,動粘性係数と呼ばれる。
Re はレイノルズ数(Reynolds number) と呼ばれ,流体中の物体の力学を取り扱う際,フルー
ド数と同様,重要なパラメータになる。また,模型実験を行う時には実験の重要な相似則(異
なる成分の力:ここでは流体圧力と摩擦抵抗が同じ縮率になっているか)を表す数値にもな
る。
ただし,例えば縮率 1/10 の模型実験ではレイノルズ数を一致させるには,流速を 10 倍に
する必要があり,この相似則を合わせて実験することは困難な場合が多い。
- 46 -
第8回
演習問題7 解答
(1)の解答
追い風が 20m/s の場合,対地速度が 0m/s(空中ではあり得ないが・・)の場合,
相対速度は−20m/s となる。
対地速度が 220m/s で飛行中,追い風が 20m/s とすると,
相対速度=220m/s−20m/s=200m/s となる。
(2)の解答
ジェット機の揚力は(3.24)式で計算できる。
L=
ρ
C L AU 2
2
1.0 kg / m 3
2
=
0.2 × 600 m 2 × (200[m / s ])
2
= 0.1 × 600 × 200 2 [N ]
[
]
[ ]
= 2.4 × 10 6 [N ]
= 2400[kN ]
となる。
ジェット機の質量を m とすると重力は mg であり、これと上記の揚力とが等しくなることから、
m=
L 2400[kN ]
=
= 240[ton]
g 10 m / s 2
[
]
L
以上から,このジェット機では
翼 1m2 当たり 0.4[ton]=400[kg]
の重力を支える揚力を発生し
ていることになる。
60m
10m
mg
- 47 -
第9回
4.微分・積分・複素数の要点(基礎数学の復習)
力学を学習するには、数学の基本知識が不可欠である。フーリエ変換・ラプラス変換といった
応用数学を学習する前に、微分・積分・複素数の要点を整理しておこう。
4.1 微分(differentiate)
実数関数 y = f ( x) が定義され,x = x 0 における微分は,x0 の近くである関数になる。y = f ( x)
が x-y 平面に書かれているならば,この関数の微分は下図のように,関数 y = f ( x) の x = a にお
ける傾きになり,この傾きの接線の式を求めることができる。この接線の傾きは,点 x = a を定
めるごとに決まり,全体の関数の形を知ることができる。特に,極大値や極小値などは,その傾
きが零になることから,関数形状の特徴を微分から知ることもできる。
「微分する」とは,微分係数
(differential coefficient)や導関数
(derivative)を求めることをいう。
y
あるいは微分係数・導関数その
ものを指す場合もある。
lim
x→a
f ( x) − f (a )
f (a + ∆x ) − f (a )
= lim
∆x →0
x−a
∆x
が存在するとき f (x) は x = a に
おいて微分可能であるといい,こ
の極限を f ′(a) と書き x = a におけ
る f (x ) の微分係数と呼ぶ。なお,
一般に導関数(x における微分)を
f ′( x) =
a
x
df ( x)
dx
と記述する。
微分の基本定理
(1) 関数の和
d ( f 1 ( x) ± f 2 ( x) ) df1 ( x) df 2 ( x)
=
±
= f 1′( x) ± f 2′( x)
dx
dx
dx
(4.1)
(2) 関数の定数
d (af ( x) )
df ( x)
=a
= af ′( x)
dx
dx
(4.2)
(3) 関数の積
d ( f 1 ( x) ⋅ f 2 ( x) ) df1 ( x)
df ( x)
=
f 2 ( x) + f1 ( x) 2
= f1′( x) f 2 ( x) + f 1 ( x) f 2′ ( x)
dx
dx
dx
(4) 合成関数
(4.3)
f ( x) = f ( z ) と表され(ただし、 z = g ( x) )、同じ x の区間で g ( x) も微分可能な場合
df ( x) df ( x) dz
=
= f ′( z ) g ′( x)
(4.4)
dx
dz dx
- 48 -
4.2 積分(integrate)
積分は、前述の微分とは逆で、与えられた関数 f ( x) に対して、 F ′( x) = f ( x) となるような関
数が存在するとき、この関数 F ( x) を不定積分(原始関数)といい、次式で記述する。
F ( x) = ∫ f ( x)dx
(4.5)
主な関数の微分と積分の関係は以下になっている。
主な関数の微分(重要な式、a,b は実定数)
f ′( x) =
f (x)
①
xb
(ax )b
②
ex
e ax
③
ln ( x ) = log e ( x )
④
sin ( x )
sin (ax )
⑤
cos( x )
cos(ax )
ln (ax )
df ( x)
:導関数
dx
ab(ax )
b −1
bx b −1
ex
1
積分 微分
x
cos( x )
ae ax
1
x
a cos(ax )
− sin ( x )
− a sin (ax )
主な関数の不定積分(重要な式、a,b は実定数)
F ( x) = ∫ f ( x)dx :不定積分
①
1 b +1
x
b +1
②
ex
③
ln ( x ) = log e ( x )
④
sin ( x )
⑤
− cos( x )
1
(ax )b+1
a(b + 1)
1 ax
e
a
f (x)
積分
xb
(ax )b
ex
e ax
微分 1
x
1
sin (ax )
a
1
− cos(ax )
a
cos( x )
cos(ax )
sin ( x )
sin (ax )
4.3 定積分
上記の不定積分は原始関数であって、関数の形状は特定しているが、x で微分して f ( x) となる
関数は無数に存在する。なんとならば、定数項の微分は全て 0 になるからである。現実問題で役
に立つのは積分区間を定めた定積分である。これは、ある領域の精密な積算ともいえる。
y=f(x)
右図のように関数 y = f ( x) の区間 a∼b の面積を
求めることを考える。この面積は近似的には ∆x を
一辺とする微小な長方形の集合と考えてよい。そこで
まず各微小長方形の面積をそれぞれ計算し,次にそ
れらを全部加算すれば図形の面積が求められる。
x
0
- 49 -
x1 x2
a
∆x
xn-1 xn
b
xi における y の値は f ( xi ) であり,i 番目の微少長方形の面積 ∆Ai は, (∆x ⋅ f ( xi ) ) であるから面積の近
似解は次式で表される。
n
n
i =1
i =1
A ≅ ∑ ∆Ai = ∑ f ( xi )∆x
(4.6)
この方法で∆x を限りなく小さくすれば,真の値に近づくはずである。この極限値は次式で書くことがで
き、ここに原始関数が必要になってくる。
b
A = ∫ f ( x)dx = [F ( x)]a = F (a ) − F (b)
b
(4.7)
a
定積分の基本定理
(1) 関数の和
b
∫ ( f1 ( x) ±
a
b
b
f 2 ( x) )dx = ∫ f 1 ( x)dx ± ∫ f 2 ( x)dx
a
(4.8)
a
(2) 関数の定数
b
b
∫ af ( x)dx = a ∫ f ( x)dx
a
(4.9)
a
(3) 関数の積(部分積分)
b
b
f 1 ( x) ⋅ f 2 ( x)dx = [ f 1 ( x) F2 ( x)]a − ∫ f1′( x)F2 ( x)dx
∫
b
a
(4.10)
a
(4) 積分区間の分割
b
∫
c
a
a
c
f ( x)dx = ∫ f ( x)dx + ∫ f ( x)dx
a
(4.11)
(5) 積分区間の逆転
b
a
f ( x)dx = − ∫ f ( x)dx
∫
a
(4.12)
b
例題
半径 R の円の面積が πR になることを定積分で求めなさい。
2
円の中心から半径方向 r の位置における円周は 2πr
であり、半径が更に dr 大きい円との間で作られる輪
の面積(右図の斜線の面積)は dr が小さい場合
2πr ⋅ dr となる。
したがって、円の面積は
r
0
R
⎡r2 ⎤
A = ∫ 2πrdr = 2π ⎢ ⎥ = πR 2
⎣ 2 ⎦0
0
R
練習
積分を活用して円の面積を求める方法は他にもある。各自で考えてみよう
- 50 -
dr
4.4
複素数
実数の世界(集合)では x2=-1 となるような x は現実に存在しない。しかし、種々の数値解析を
行う上において、実数の世界だけに拘らず、もっと広く数値を定義することによって、より一般
的な取扱いができ、解法手順も大変楽になる。
ここでは、虚数(imaginary number) 、およびそれを含む複素数(complex number)の計算方法につ
いて要約する。
1)虚数
一般に b を実数とし、 x = −b を満足する x を、 x = ib と記述する。この場合 (ib ) は虚数で
あり、この場合の x は純虚数である。
2
2
2)複素数
実数と虚数が混在する数値を複素数と呼び、一般に次式で表現される。
s = a + ib
11 頁に示した Euler の公式 e = cos x + i sin x
によって指数関数が三角関数の複素数で表現できたから,虚数 i は,
ix
i = cos
π
2
+ i sin
π
2
=e
i
π
2
と表記できる。
⎛ i π2
i = ⎜⎜ e
⎝
2
⎞
⎟ = e iπ = (cos π + i sin π ) = −1
⎟
⎠
2
となり,虚数の定義 i = −1 に合致していることがわかる。
2
3)複素数の空間表示
複素数 s = (a + ib ) を,横軸に実数(Re),縦軸に虚数(Im)を取って表示すると,以下のような
空間で表示できる。これを複素空間と言う。原点から
Im
s = (a + ib )
b
A
θ
0
Re
a
s までの複素空間の距離は a + b ,また実軸から
2
半時計回りの回転角は tan
をそれぞれ, A,
る。
−1
2
(b a ) となるから,これら
θ とおくと,複素数 s は次式で表せ
s = A cos θ + iA sin θ
(4.13)
また,この複素数は Euler の公式から,
s = Ae iθ
(4.14)
と記述することができる。
■
Euler の公式の空間表示
e ix = cos x + i sin x
を複素空間で表示する
と,左図のように半径 1 の単位円を関周回する
関数であることがわかる。もちろん,
x = π 2 ± 2nπ の時が (i ) になる。
Im
1
x
1
0
1
Re
- 51 -
4)複素数の計算方法
■複素数の加減算
複素数 s1 = (a1 + ib1 ) と, s 2 = (a 2 + ib2 ) が存在する場合,両者の和は次式になる。
s1 + s 2 = (a1 + a 2 ) + i (b1 + b2 )
(4.15)
Im
これを複素空間で表示すると,ベクトルの和
の場合と同じになる。
s1 + s 2 = (a1 + a 2 ) + i (b1 + b2 )
(b1+b2)
s 2 = (a2 + ib2 )
s1 = (a1 + ib1 )
b1
A
θ
0
a1
(a1+a2)
Re
■複素数の乗除算
複素数 s1 = (a1 + ib1 ) と s 2 = (a 2 + ib2 ) の積は次式になる。
s1 × s 2 = (a1 + ib1 ) × (a 2 + ib2 )
= a1 a 2 + i (a1b2 + a 2 b1 ) + (i ) b1b2
2
(4.16)
= (a1 a 2 − b1b2 ) + i (a1b2 + a 2 b1 )
上式を,(2.J)式のように Euler の式で表現すると,
s1 × s2 =
=
⎞⎫
⎧
⎛
⎩
⎝ a1a2 − b1b2 ⎠⎭
(a1a2 − b1b2 )2 + (a1b2 + a2b1 )2 exp ⎨i tan −1 ⎜⎜ a1b2 + a2b1 ⎟⎟⎬
(a a
2 2
1 2
) (
− 2a1a2b1b2 + b12b22 + a12b22 + 2a1b2 a2b1 + a22b12
)
⎧
⎛ ⎛ b2 ⎞ ⎛ b1 ⎞ ⎞⎫
⎜ ⎜ ⎟ + ⎜ ⎟ ⎟⎪
⎪
⎜ ⎟ ⎜a ⎟ ⎟
⎪
−1 ⎜ ⎝ a2 ⎠
⎝ 1⎠ ⎪
× exp ⎨i tan ⎜
⎟⎬
⎪
⎜ 1 − ⎛⎜ b1 ⎞⎟⎛⎜ b2 ⎞⎟ ⎟⎪
⎜ ⎜ a ⎟⎜ a ⎟ ⎟⎪
⎪
⎝ ⎝ 1 ⎠⎝ 2 ⎠ ⎠⎭
⎩
⎧⎪ ⎛
⎛ b ⎞ ⎞⎫⎪
⎛b ⎞
= a12 a22 + b12b22 + a12b22 + a22b12 × exp ⎨i⎜⎜ tan −1 ⎜⎜ 1 ⎟⎟ + tan −1 ⎜⎜ 2 ⎟⎟ ⎟⎟⎬
⎪⎩ ⎝
⎝ a2 ⎠ ⎠⎪⎭
⎝ a1 ⎠
=
(a
2
1
⎧⎪ ⎛
⎛ b ⎞ ⎞⎫⎪
⎛b ⎞
+ b12 a22 + b22 × exp ⎨i⎜⎜ tan −1 ⎜⎜ 1 ⎟⎟ + tan −1 ⎜⎜ 2 ⎟⎟ ⎟⎟⎬
⎪⎩ ⎝
⎝ a2 ⎠ ⎠⎪⎭
⎝ a1 ⎠
)(
)
⎡
⎧
⎧
⎛ b ⎞ ⎫⎤
⎛ b ⎞ ⎫⎤ ⎡
= ⎢ a12 + b12 exp ⎨i tan −1 ⎜⎜ 1 ⎟⎟⎬⎥ × ⎢ a22 + b22 exp ⎨i tan −1 ⎜⎜ 2 ⎟⎟⎬⎥
⎢⎣
⎝ a2 ⎠⎭⎥⎦
⎝ a1 ⎠⎭⎥⎦ ⎢⎣
⎩
⎩
(
となり,
)
(
s1 × s 2 = A1e iθ1 × A2 e iθ 2 = A1 A2 e i (θ1 +θ 2 )
の形になっていることがわかる。
- 52 -
)
(4.17)
これを複素空間で表すと右図の
ように,それぞれの角度が加算さ
れる。
(b1+b2)
Im
s 2 = (a2 + ib2 )
θ1+θ2
なお,除算は次式となる。
(各自確認してみよう)
A1A2
s1 A1e iθ1
=
s 2 A2 e iθ 2
A2
(4.18)
⎛A ⎞
= ⎜⎜ 1 ⎟⎟e i (θ1 −θ 2 )
⎝ A2 ⎠
A1
θ2
s1 = (a1 + ib1 )
θ1
0
(a1+a2)
Re
ただし,(4.16)式のような形で計算するには以下の工夫が必要である。
s1 (a1 + ib1 ) (a1 + ib1 )(a2 − ib2 ) (a1a2 + b1b2 ) + i (a2 b1 − a1b2 )
=
=
=
s 2 (a2 + ib2 ) (a2 + ib2 )(a2 − ib2 )
a22 + b22
(4.19)
ここで, (a 2 − ib2 ) のことを (a 2 + ib2 ) の共役複素数という。
■三角関数 sin と cos の指数関数表記
先の Euler の公式を用いると,三角関数 sin x,
すなわち,
(ix )
( − ix )
+e
2
(ix )
e − e (−ix )
sin x =
2i
cos x =
e
cos x が指数関数 e x の関数で表すことができる。
⎫
⎪⎪
⎬
⎪
⎪⎭
(4.20)
三角関数の公式は多彩で覚えるのも大変だが、指数関数に置き換えることによって、公式を用い
なくても式の誘導が可能になるので、是非覚えておきたい。
- 53 -
第10回
5.フーリエ変換(応用数学1)
時間軸上で変化(変動)する任意の関数(時系列)を,多くの sin, cos の三角関数の密度に表現でき
るとし,連続的に変化する周波数の sin, cos の振幅密度とその位相とに変換する。すなわち,連続
したスペクトルに変換する。もちろん,これを時間軸上に戻す(逆変換)も可能である。
5.1 フーリエ級数
時間軸上で変化(変動)する任意の関数(時系列)を,幾つかの sin, cos の三角関数の和で表現でき
るとし,周波数に対する三角関数に級数展開する。三角関数の係数は,三角関数の積分特性(周
波数の選択性)を利用して求めることができる。
例えば,下図のような矩形波(長方形波)の場合,定数項(0 次)を含め,sin, cos の和として表現
することができる。逆に言えば,矩形波(長方形波)は幾つかの sin, cos に分解することができる。
これを「フーリエ級数に展開」するという。フーリエ級数は,一般に次式で表現される。
f (t ) =
a0 ∞
+ ∑ (a k cos kt +b k sin kt )
2 k =1
(5.1)
任意の関数
t
=
0
+
t
t
1
+
2
t
+
t
3
+
:
フーリエ級数に展開する場合,(5.1)式の係数をどのようにして求めるかが重要になる。ここでは,
三角関数の定積分の性質(周波数の選択性)を活用することになる。
1) -π ∼π の区間で定義される関数のフーリエ級数
(5.1)式の係数を求めるに際して,-π ∼π の時間区間で定義される関数を取り扱ってみよう。
まず, f (t ) = cos mt の場合を考えると,これはもともと三角関数であるから,(5.1)式に展開し
た場合は,次式のようになることが必要である。
am = 1
a 0 ~ a m −1 , a m +1
b1 ~ b∞ = 0
⎫
⎪
~ a ∞ = 0⎬
⎪
⎭
(5.2)
- 54 -
ここで三角関数の定積分の性質を活用すると、
+π
+π
1
∫ (cos mt ⋅ cos kt )dt = ∫ 2 {cos(m + k )t + cos(m − k )t )}dt
−π
−π
+π
=
∫ {cos(m + k )t + cos(m − k )t )}dt
0
π
⎡ 1
⎤
1
=⎢
sin (m + k )t +
sin (m − k )t ⎥ = 0
(m − k )
⎣ (m + k )
⎦0
(m ≠ k ) の場合
=∫
(m = k ) の場合
π
0
π
{cos(m + k )t + 1}dt = ⎡⎢ 1 sin (m + k )t + t ⎤⎥ = π
⎣ (m + k )
⎦0
+π
+π
−π
−π
1
∫ (cos mt ⋅ sin kt )dt = ∫ 2 {sin (m + k )t − sin (m − k )t )}dt
(5.3)
(5.4)
=0
また, f (t ) = sin mt の場合を考えると,これも三角関数であるから,(5.1)式に展開した場合は,
次式のようになることが必要である。
a0 ~ a∞ = 0
bm = 1
b1 ~ bm −1 , bm +1
⎫
⎪
⎬
~ b∞ = 0⎪⎭
(5.5)
この場合も三角関数の定積分の性質を活用すると、
+π
+π
1
∫ (sin mt ⋅ sin kt )dt = ∫ 2 {− cos(m + k )t + cos(m − k )t )}dt
−π
−π
+π
=
∫ {− cos(m + k )t + cos(m − k )t )}dt
0
π
⎡
⎤
1
1
sin (m + k )t +
sin (m − k )t ⎥ = 0
= ⎢−
(m − k )
⎣ (m + k )
⎦0
(m ≠ k ) の場合
+π
(m = k ) の場合
=
π
⎡
∫ {− cos(m + k )t + 1}dt = ⎢−
⎤
1
sin (m + k )t + t ⎥ = π
⎣ (m + k )
⎦0
0
+π
+π
−π
−π
1
∫ (sin mt ⋅ cos kt )dt = ∫ 2 {sin (m + k )t + sin (m − k )t )}dt
(5.7)
=0
となるので,(5.1)式の係数を次式とすれば,(5.2)式や(5.5)式を満足することができる。
ak =
bk =
1
π
1
π
+π
⎫
−
⎬
⎪
⎪
⎭
∫π f (t ) ⋅ cos ktdt , (k = 0, 1, 2,L)⎪⎪
+π
∫π f (t ) ⋅ sin ktdt , (k = 1, 2,L)
−
- 55 -
(5.6)
(5.8)
【数学の復習】三角関数の積の公式
1
{cos(m + k )t + cos(m − k )t )} ⎫⎪
2
⎪
1
cos mt ⋅ sin kt = {sin (m + k )t − sin (m − k )t )} ⎪
⎪
2
⎬
1
sin mt ⋅ sin kt = {− cos(m + k )t + cos(m − k )t )}⎪
⎪
2
⎪
1
sin mt ⋅ cos kt = {sin (m + k )t + sin (m − k )t )} ⎪
2
⎭
cos mt ⋅ cos kt =
(5.A)
は次の補助公式から導入できる。
sin (a ± b ) = sin a ⋅ cos b ± cos a ⋅ sin b⎫
⎬
cos(a ± b ) = cos a ⋅ cos b m sin a sin b ⎭
しかし,これも Euler の公式 e
ix
= cos x + i sin x を使えば容易に導くことができる。すなわち,
e ikt + e − ikt
+e
⋅
2
2
imt ikt
imt −ikt
e e + e e + e −imt e ikt + e −imt e −ikt
=
4
i ( m + k )t
−i ( m + k )t
e i (m − k )t + e −i (m − k )t ⎫
1 ⎧e
+e
= ⋅⎨
+
⎬
2 ⎩
2
2
⎭
cos mt ⋅ cos kt =
e
imt
− imt
1
{cos(m + k )t + cos(m − k )t )}
2
e imt + e − imt e ikt − e − ikt
⋅
cos mt ⋅ sin kt =
2
2i
imt ikt
imt − ikt
e e − e e + e −imt e ikt − e −imt e −ikt
=
4i
i ( m + k )t
− i ( m + k )t
e i (m − k )t − e −i (m − k )t ⎫
1 ⎧e
−e
= ⋅⎨
−
⎬
2 ⎩
2i
2i
⎭
=
=
1
{sin (m + k )t − sin (m − k )t )}
2
e imt − e − imt e ikt − e − ikt
⋅
2i
2i
imt ikt
imt −ikt
e e − e e − e −imt e ikt + e −imt e −ikt
=
−4
i ( m + k )t
−i ( m + k )t
e i (m − k )t + e −i (m − k )t ⎫
1 ⎧ e
+e
= ⋅ ⎨−
+
⎬
2 ⎩
2
2
⎭
sin mt ⋅ sin kt =
1
{− cos(m + k )t + cos(m − k )t )}
2
1
sin mt ⋅ cos kt = {sin (m + k )t + sin (m − k )t )}
2
=
- 56 -
f (t )
フーリエ級数展開の例(1)
(− π
⎧ 0,
⎪
f (t ) = ⎨ π
⎪⎩+ 4 ,
< t < 0)
π
4
(5.9)
(0 < t < π )
-π
0
t
π
a k , bk を(5.8)式で計算すると,
+π
0
⎫
1⎧
⎛π ⎞
a k = ⎨ ∫ (0 ) cos ktdt + ∫ ⎜ ⎟ cos ktdt ⎬
4⎠
π ⎩ −π
0⎝
⎭
+π
1 ⎛π ⎞
= ⎜ ⎟ ∫ cos ktdt
π ⎝4⎠0
ここで,k=0 の場合は,
+π
1
a0 =
4
1
∫ (1)dt = 4 [t ]
π
0
0
=
π
4
また,k=1 以上の場合は,
π
1 ⎡1
⎤
ak = ⎢ sin kt ⎥ = 0
4 ⎣k
⎦0
+π
0
⎫
1⎧
⎛π ⎞
(
)
+
0
sin
kt
dt
⎜ ⎟ sin ktdt ⎬
⎨∫
∫
4⎠
π ⎩ −π
0⎝
⎭
bk =
+π
=
1 ⎛π ⎞
⎜ ⎟ sin ktdt
π ⎝ 4 ⎠ ∫0
+π
1
= ∫ sin ktdt
4 0
π
=
1⎡ 1
⎤
− cos kt ⎥
⎢
4⎣ k
⎦0
=
1
(1 − cos kπ )
4k
これらを(5.1)式に代入すると,
π 4
∞
⎧
⎫
⎛ 1 − cos kπ ⎞
+ ∑ ⎨0 × cos kt + ⎜
⎟ sin kt ⎬
2
4k
⎠
⎝
k =1 ⎩
⎭
∞
π
⎛ 1 − cos kπ ⎞
= + ∑⎜
⎟ sin kt
8 k =1 ⎝
4k
⎠
⎞
⎛
1
1
1
π 1
⎟⎟ sin (2n − 1)t + L
= + sin t + sin 3t + sin 5t + L + ⎜⎜
8 2
6
10
⎝ 2(2n − 1) ⎠
f (t ) =
=
π
∞
⎞
⎛
1
⎟ sin (2n − 1)t
+ ∑ ⎜⎜
8 n =1 ⎝ 2(2n − 1) ⎟⎠
----- (5.10)
- 57 -
フーリエ級数展開
の結果
1
f(t)
0.8
k ≦2
0.6
0.4
0.2
0
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
t
1
2
3
4
t
1
2
3
4
t
1
2
3
4
t
1
2
3
4
t
-0.2
1
f(t)
0.8
k ≦3
0.6
0.4
0.2
0
-4
-3
-2
-1
0
-0.2
1
f(t)
0.8
k ≦5
0.6
0.4
0.2
0
-4
-3
-2
-1
0
-0.2
1
f(t)
0.8
k ≦11
0.6
0.4
0.2
0
-4
-3
-2
-1
0
-0.2
1
f(t)
0.8
k ≦21
0.6
0.4
0.2
0
-4
-3
-2
-1
0
-0.2
- 58 -
f (t )
フーリエ級数展開の例(2)<演習問題の解>
⎧ π
⎪⎪− 4 ,
f (t ) = ⎨
⎪+ π ,
⎪⎩ 4
第11回
π
4
(− π < t < 0)
(0 < t < π )
-π
a k , bk を(5.8)式で計算すると,
+π
⎫
1⎧ ⎛ π⎞
⎛π ⎞
⎨ ∫ ⎜ − ⎟ cos ktdt + ∫ ⎜ ⎟ cos ktdt ⎬
4⎠
π ⎩ −π ⎝ 4 ⎠
0⎝
⎭
+π
0
⎫
1 ⎛ π ⎞⎧
= ⎜ ⎟⎨− ∫ cos ktdt + ∫ cos ktdt ⎬
π ⎝ 4 ⎠⎩ −π
0
⎭
+π
+π
⎫
1 ⎛ π ⎞⎧
= ⎜ ⎟⎨− ∫ cos ktdt + ∫ cos ktdt ⎬ = 0
π ⎝ 4 ⎠⎩ 0
0
⎭
0
+π
⎫
1⎧ ⎛ π⎞
⎛π ⎞
bk = ⎨ ∫ ⎜ − ⎟ sin ktdt + ∫ ⎜ ⎟ sin ktdt ⎬
4⎠
π ⎩ −π ⎝ 4 ⎠
0⎝
⎭
0
+π
⎫
1 ⎛ π ⎞⎧
= ⎜ ⎟⎨− ∫ sin ktdt + ∫ sin ktdt ⎬
π ⎝ 4 ⎠ ⎩ −π
0
⎭
+π
+π
⎫
1 ⎛ π ⎞⎧
= ⎜ ⎟⎨+ ∫ sin ktdt + ∫ sin ktdt ⎬
π ⎝ 4 ⎠⎩ 0
0
⎭
0
ak =
−
t
π
0
π
4
π
+π
=
1
sin ktdt
2 ∫0
=
1
(1 − cos kπ )
2k
=
1⎡ 1
⎤
− cos kt ⎥
⎢
2⎣ k
⎦0
これらを(5.1)式に代入すると f (t ) のフーリエ級数が得られる。
⎫ ∞ ⎛ 1 − cos kπ ⎞
0 ∞ ⎧
⎛ 1 − cos kπ ⎞
+ ∑ ⎨0 × cos kt + ⎜
⎟ sin kt ⎬ = ∑ ⎜
⎟ sin kt
2 k =1 ⎩
2k
2k
⎠
⎠
⎝
⎭ k =1 ⎝
∞
1
1
1
⎛ 1 ⎞
⎛ 1 ⎞
= sin t + sin 3t + sin 5t + L + ⎜
⎟ sin (2n − 1)t
⎟ sin (2n − 1)t + L = ∑ ⎜
1
3
5
⎝ 2n − 1 ⎠
n =1 ⎝ 2n − 1 ⎠
f (t ) =
π
⎛π ⎞ π
⎟ = であることから,上式で t = を代入すると,
2
⎝2⎠ 4
1 1 1 1 1
π
⎛ 1 ⎞
n −1
= 1− + − + − +L+ ⎜
⎟(− 1) + L
4
3 5 7 9 11
⎝ 2n − 1 ⎠
さてここで, f ⎜
(5.11)
となり,これを 4 倍すると π を正確に数値計算することができる。これが有名なライプニッツ
級数である。
この計算例の f (t ) はもともと奇関数であるから,級数に展開しても奇関数である sin の係数
⎛1⎞ π
は前述の(5.10)
⎝2⎠ 8
bk しか存在しないこと。また,時間軸上でも容易に計算できるが, f (t ) × ⎜ ⎟ +
式になることも同時に理解しておこう。
- 59 -
2) 複素フーリエ級数
フーリエ級数(5.1)式、(5.8)式を更に Euler の公式を使って次のように拡張する。Euler の公式は
10 頁の(2.E)式に示したように,
e ix = cos x + i sin x
e + ix − e − ix
e + ix + e − ix
, cos x =
。これを (5.1)式に代入すると,
2i
2
∞ ⎧
⎛ e ikt + e − ikt ⎞
⎛ e ikt − e − ikt ⎞⎫
a
⎟⎟ + bk ⎜⎜
⎟⎟⎬
f (t ) = 0 + ∑ ⎨a k ⎜⎜
2 k =1 ⎩ ⎝
2
2i
⎝
⎠
⎠⎭
であり,これから, sin x =
=
a 0 ∞ ⎧⎛ a k bk ⎞ ikt ⎛ a k bk ⎞ −ikt ⎫
+ ∑ ⎨⎜ + ⎟e + ⎜ − ⎟e ⎬
2 k =1 ⎩⎝ 2 2i ⎠
⎝ 2 2i ⎠
⎭
=
a 0 ∞ ⎧⎛ a k − ibk
+ ∑ ⎨⎜
2 k =1 ⎩⎝
2
⎞ ikt ⎛ a k + ibk
⎟e + ⎜
2
⎠
⎝
a 0 ∞ ⎛ a k + ibk ⎞ −ikt ∞ ⎛ a k
+ ∑⎜
⎟e + ∑ ⎜
2 k =1 ⎝
2 ⎠
k =1 ⎝
∞
∞
⎛ a + ibk ⎞ −ikt
⎛ a − ibk
= ∑⎜ k
⎟e + ∑ ⎜ k
2 ⎠
2
k =1 ⎝
k =0 ⎝
=
⎞ −ikt ⎫
⎟e ⎬
⎠
⎭
(5.12)
− ibk ⎞ ikt
⎟e
2 ⎠
⎞ ikt
⎟e
⎠
一方,(5.8)式も Euler の公式を使用すると,
+π
⎛ e ikt + e − ikt ⎞
⎟⎟dt ,
a k = ∫ f (t ) ⋅ ⎜⎜
π −π
2
⎝
⎠
+π
− ikt
ikt
⎛e −e ⎞
1
⎟⎟dt ,
bk = ∫ f (t ) ⋅ ⎜⎜
π −π
2i
⎝
⎠
1
⎫
(k = 0, 1, 2,L)⎪
(k = 1, 2,L)
⎪
⎬
⎪
⎪
⎭
であり,これより,
⎧
⎛ e ikt + e − ikt
⋅
f
t
(
)
∫−π ⎨ ⎜⎜⎝ 2
⎩
a k + ibk
1
=
2
2π
+π
1
2π
+π
a k − ibk
1
=
2
2π
+π
1
=
2π
+π
=
∫π ( f (t ) ⋅ e )dt ≡ c
ikt
⎞
⎛ e ikt − e − ikt
⎟⎟ + if (t ) ⋅ ⎜⎜
2i
⎠
⎝
⎞⎫
⎟⎟⎬dt
⎠⎭
⎞
⎛ e ikt − e −ikt
⎟⎟ − if (t ) ⋅ ⎜⎜
2i
⎠
⎝
⎞⎫
⎟⎟⎬dt
⎠⎭
−k
−
⎧
⎛ e ikt + e −ikt
⋅
f
(
t
)
∫ ⎨ ⎜⎜⎝ 2
−π ⎩
∫π ( f (t ) ⋅ e )dt ≡c
(5.13)
−ikt
k
−
とあらわせ,(5.12)式が次式で簡潔に表現できる。
∞
∞
f (t ) = ∑ c − k e −ikt + ∑ c k e ikt =
k =1
1
ck =
2π
+π
k =0
±∞
∑c e
ikt
k
k = 0 , ±1, ± 2
∫π ( f (t ) ⋅ e )dt
−ikt
(5.14)
(5.15)
−
これを複素フーリエ級数展開と言う。先のフーリエ係数 a k , bk は実数であったが,複素フーリエ
係数 c k は(5.20)式で記述されるように複素数となる。
- 60 -
5.2
フーリエ変換
1)フーリエ変換の導入
時間軸上で変化(変動)する任意の関数(時系列)を,多くの sin, cos の三角関数の密度に表現でき
るとし,連続的に変化する周波数の sin, cos の振幅密度とその位相とに変換する。
前節の複素フーリエ級数展開式(5.14)式,(5.15)式より, f (t ) は次式で表せた。
f (t ) =
+π
∫π ( f (t ) ⋅ e )dt ⋅ e
±∞
1
∑
k = 0 , ±1, ± 2 2π
− ikt
ikt
−
ここで,積分区間 ± π を ± (T 2 ) に変換すると、 t = (2π T )τ (ここでτ は新しい時間軸)となるの
で、上式の複素フーリエ級数は次式となる。
+T
−ik ⎜
1 2 ⎛⎜
⎝ T
⋅
f (τ ) = ∑
f
(
t
)
e
∫
⎜
k = 0 , ±1, ± 2 T −T
⎝
±∞
⎛ 2π ⎞
⎟τ
⎠
2
⎛ 2π ⎞
⎞
ik ⎜
⎟τ
⎟dτ ⋅ e ⎝ T ⎠
⎟
⎠
(5.16)
k は 1, 2・・・・であり,フーリエ級数に展開した時の sin, cos の角振動数は ω = k (2π T ) となっ
ている。これを微分(微小に分解)すると, dω = (dk )(2π T ) となり,(2.25)式の
±∞
∑
×1 の記号
k = 0 , ±1, ± 2
は
+∞
∫ (T
−∞
2π )dω に変わり,(5.16)式は次式に変形される。
⎧ +T
⎫
⎪
⎛ 1 ⎞⎪ 2
⎛ T ⎞
−iωτ
f (τ ) = ∫ ⎜ ⎟⎨ ∫ f (τ ) ⋅ e
dt ⋅⎬e iωτ ⎜
⎟dω
T ⎠⎪−T
⎝ 2π ⎠
− ∞⎝
⎪
⎩ 2
⎭
+∞
(
)
(5.17)
⎫
1 ⎧⎪
⎪
−iωτ
=
dt ⎬ ⋅ e iωτ dω
⎨ ∫ f (τ ) ⋅ e
∫
2π −∞⎪−T
⎪⎭
⎩ 2
T
+∞ + 2
(
)
更に,積分区間を ± (T 2 ) を ± ∞ に拡張し、時間軸を t に表記し直すと次式が得られる。
1
f (t ) =
2π
⎧
⎫ ω
ω
∫ ⎨⎩ ∫ ( f (t ) ⋅ e )dt ⎬⎭ ⋅ e dω
+∞ +∞
−i t
i t
(5.18)
−∞ −∞
この式で,{ }中をフーリエ変換と言い,このフーリエ変換を ω で積分したものをフーリエ逆変換
と言う。すなわち,
フーリエ変換:
F (ω ) =
+∞
ω
∫ ( f (t ) ⋅ e )dt
−i t
(5.19)
−∞
フーリエ逆変換:
1
f (t ) =
2π
+∞
∫ F (ω )⋅ e
i ωt
dω
−∞
- 61 -
(5.20)
2)フーリエ変換のスペクトル表示
(5.26)式を実数と虚数に分けて表記する。すなわち,
F (ω ) = Re(ω ) + Im(ω )
このフーリエ変換の複素空間を考えると,実数部 Re(ω ) と虚数部 Im(ω ) で作られる距離と角度
(いずれも実数)はそれぞれ,
A(ω ) = Re(ω ) 2 + Im(ω ) 2
(5.21)
⎛ Im(ω ) ⎞
⎟⎟
⎝ Re(ω ) ⎠
ε (ω ) = tan −1 ⎜⎜
となるが,これを ω あるいは,周波数 f = ω (2π ) に対して表示したものをスペクトルと呼び,
f (t ) の周波数空間への変換になる。ただし, A(ω ) は sin, cos の振幅ではなく,振幅の密度関数
となるところが,フーリエ級数と異なる。
フーリエ変換の例(1)
⎧
⎪ 0,
⎪
⎪
f (t ) = ⎨+ 1,
⎪
⎪
⎪ 0,
⎩
f (t ) 1
1⎞
⎛
⎜− ∞ < t < − ⎟
2⎠
⎝
1⎞
⎛ 1
⎜− < t < ⎟
2⎠
⎝ 2
⎛1
⎞
⎜ < t < ∞⎟
⎝2
⎠
0
-1/2
t
1/2
F (ω ) を(5.26)式で計算すると,
F (ω ) =
+1
2
∫ (1)e
−1
1
−iωt
⎤ 2
⎡ 1
= ⎢− e −iωt ⎥
⎦ − 12
⎣ iω
dt
2
1
1
i ω ⎞
⎛ 1 ⎞⎛ −i ω
= ⎜ − ⎟⎜⎜ e 2 − e 2 ⎟⎟
⎝ iω ⎠⎝
⎠
⎛ 2 ⎞e
=⎜ ⎟
⎝ω ⎠
1
i ω
2
−e
2i
1
−i ω
2
⎛ 2 ⎞ ⎛1 ⎞
= ⎜ ⎟ sin ⎜ ω ⎟
⎝ω ⎠ ⎝ 2 ⎠
1
F (ω ) = ∫ 12 1 ⋅ (cos ωt − i sin ωt )dt
0.0
1
= 2∫ cos ωt dt
2
0
0.6
0.2
2
1
F (ω )
0.8
0.4
あるいは,別の方法として,
−
1.0
⎡1
⎤ 2
= 2⎢ sin ωt ⎥
⎣ω
⎦0
⎛ 2 ⎞ ⎛1 ⎞
= ⎜ ⎟ sin ⎜ ω ⎟
⎝ω ⎠ ⎝ 2 ⎠
- 62 -
-0.2
-0.4
0
10
20
30
40
ω
50
この場合の振幅密度関数と位相は,
2
⎧⎛ 2 ⎞ ⎛ 1 ⎞⎫
⎛ 2 ⎞ ⎛1 ⎞
A(ω ) = ⎨⎜ ⎟ sin ⎜ ω ⎟⎬ + 0 2 = ⎜ ⎟ sin ⎜ ω ⎟
⎝ω ⎠ ⎝ 2 ⎠
⎩⎝ ω ⎠ ⎝ 2 ⎠⎭
⎛
⎞
⎜
⎟
0
−1 ⎜
⎟ = 0, 180°
ε (ω ) = tan
⎜⎛ 2 ⎞ ⎛1 ⎞⎟
⎜ ⎜ ⎟ sin ⎜ ω ⎟ ⎟
⎝⎝ω ⎠ ⎝ 2 ⎠⎠
であり,振幅密度関数をリニアスケールで表記すると,
1.0
A (ω )
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
10
20
30
40
ω
50
また,対数スケールで表示すると下図のようになる。
0.1
1.0
10.0
1.000
A (ω )
0.100
0.010
0.001
- 63 -
ω
100.0
フーリエ変換の例(2)
⎧
⎪ 0,
⎪
⎪
f (t ) = ⎨+ r ,
⎪
⎪
⎪ 0,
⎩
f (t ) r
1 ⎞
⎛
⎜− ∞ < t < − ⎟
2r ⎠
⎝
1⎞
⎛ 1
⎜− < t < ⎟
r⎠
⎝ r
t
0
-1/2r
⎛ 1
⎞
⎜ < t < ∞⎟
⎝ 2r
⎠
f (t )
r
F (ω ) を(5.26)式で計算すると,
F (ω ) =
+1
1
2r
∫r ⋅e
−1
1/2r
−iωt
dt
2r
⎡ r
⎤ 2r
= ⎢− e −iωt ⎥
⎣ iω
⎦ − 12 r
1
1
i ω ⎞
⎛ r ⎞⎛ −i ω
= ⎜ − ⎟⎜⎜ e 2 r − e 2 r ⎟⎟
⎝ iω ⎠⎝
⎠
⎛ 2r ⎞ e
=⎜ ⎟
⎝ω ⎠
i
1
ω
2r
−e
2i
−i
1
ω
2r
t
⎛ 2r ⎞ ⎛ 1 ⎞
= ⎜ ⎟ sin ⎜ ω ⎟
⎝ ω ⎠ ⎝ 2r ⎠
-1/2r
0 1/2r
f (t )
r
あるいは,別の方法として,
F (ω ) = ∫
1
2r
1
−
2r
= 2r ∫
1
0
r ⋅ (cos ωt − i sin ωt )dt
1
2r
cos ωt dt
⎡1
⎤ 2r
= 2r ⎢ sin ωt ⎥
⎣ω
⎦0
⎛ 2r ⎞ ⎛ 1 ⎞
= ⎜ ⎟ sin ⎜ ω ⎟
⎝ ω ⎠ ⎝ 2r ⎠
t
ここで rÆ∞の状態を考えると,
-1/2r
⎛ 2r ⎞ ⎛ ω ⎞
lim⎜ ⎟ sin ⎜ ⎟ = 1
r →∞ ω
⎝ ⎠ ⎝ 2r ⎠
0
1/2r
となる。このような関数 f (t ) をデルタ関数と言い,
記述される。
⎧∞,
⎩0,
δ (t ) = ⎨
(t = 0)
(t ≠ 0)
(5.22)
∞
デルタ関数をフーリエ変換したものは1であるか
ら,振幅密度関数は全ての周波数に対して1,位
相は 0 となることから,white (白色)スペクトル
になる。また,その関数形状は右図のようになり,
衝撃関数とも呼ばれる。
t
0
- 64 -
第12回
フーリエ変換の例(3)<演習問題の解答>
⎧
⎪− 1,
⎪
f (t ) = ⎨
⎪+ 1,
⎪⎩
f (t )
⎛ 1
⎞
⎜ − < t < 0⎟
⎝ 2
⎠
1⎞
⎛
⎜0 < t < ⎟
2⎠
⎝
1
-1/2
0
-1
F (ω ) を(5.26)式で計算すると,
F (ω ) =
1
0
∫ (− 1) ⋅ e
−1
−iωt
dt +
2
t
1/2
2
∫ (1) ⋅ e
1
0
−iωt
dt
0
⎡ 1
⎤
⎡ 1
⎤ 2
= − ⎢− e −iωt ⎥ + ⎢− e −iωt ⎥
⎣ iω
⎦ − 12 ⎣ iω
⎦0
1
1
i ω
−i ω
⎞
⎛ 1 ⎞⎛
= ⎜ − ⎟⎜⎜ − 1 + e 2 + e 2 − 1⎟⎟
⎝ iω ⎠⎝
⎠
1
1
−i ω
⎫
⎧ i ω
⎪ ⎛ 2 ⎞⎧ ⎛ 1 ⎞ ⎫
⎛ 2 ⎞⎪ e 2 + e 2
= ⎜ i ⎟⎨
− 1⎬ = ⎜ i ⎟⎨cos⎜ ω ⎟ − 1⎬
2
⎝ ω ⎠⎪
⎪ ⎝ ω ⎠⎩ ⎝ 2 ⎠ ⎭
⎭
⎩
あるいは,別の方法として,
F (ω ) =
1
0
2
∫ (− 1) ⋅ (cos ωt − i sin ωt )dt + ∫ (1) ⋅ (cos ωt − i sin ωt )dt
−1
0
2
1
0
⎡1
⎤
⎡1
⎤ 2
= − ⎢ (sin ωt + i cos ωt )⎥ + ⎢ (sin ωt + i cos ωt )⎥
⎣ω
⎦ − 12 ⎣ ω
⎦0
⎛1 ⎞ ⎫
⎛ 1 ⎞⎧
⎛1 ⎞
⎛ 1 ⎞⎫ ⎛ 1 ⎞⎧ ⎛ 1 ⎞
= −⎜ ⎟⎨i + sin ⎜ ω ⎟ − i cos⎜ ω ⎟⎬ + ⎜ ⎟⎨sin⎜ ω ⎟ + i cos⎜ ω ⎟ − i ⎬
⎝2 ⎠ ⎭
⎝ 2 ⎠⎭ ⎝ ω ⎠⎩ ⎝ 2 ⎠
⎝ ω ⎠⎩
⎝2 ⎠
⎛ 1 ⎞⎧
⎛1 ⎞
⎛1 ⎞
⎛1 ⎞
⎛1 ⎞ ⎫
= ⎜ ⎟⎨− i − sin ⎜ ω ⎟ + i cos⎜ ω ⎟ + sin⎜ ω ⎟ + i cos⎜ ω ⎟ − i ⎬
⎝ ω ⎠⎩
⎝2 ⎠
⎝2 ⎠
⎝2 ⎠
⎝2 ⎠ ⎭
⎛ 2 ⎞⎧ ⎛ 1 ⎞ ⎫
= ⎜ i ⎟⎨cos⎜ ω ⎟ − 1⎬
⎝ ω ⎠⎩ ⎝ 2 ⎠ ⎭
この場合の振幅関数と位相は,
2
⎡⎛ 2 ⎞⎧ ⎛ 1 ⎞ ⎫⎤
⎛ 2 ⎞⎧
⎛ 1 ⎞⎫
A(ω ) = 0 + ⎢⎜ ⎟⎨cos⎜ ω ⎟ − 1⎬⎥ = ⎜ ⎟⎨1 − cos⎜ ω ⎟⎬
⎝ ω ⎠⎩
⎝ 2 ⎠⎭
⎣⎝ ω ⎠⎩ ⎝ 2 ⎠ ⎭⎦
2
⎛ ⎛ 2 ⎞⎧ ⎛ 1 ⎞ ⎫ ⎞
⎜ ⎜ ⎟⎨cos⎜ ω ⎟ − 1⎬ ⎟
⎜ ⎝ ω ⎠⎩ ⎝ 2 ⎠ ⎭ ⎟
ε (ω ) = tan −1 ⎜
⎟ = −90°
0
⎜
⎟
⎜
⎟
⎝
⎠
- 65 -
振幅密度関数をリニアスケールで表記すると,
1.0
A (ω )
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
10
20
30
40
ω
50
また,対数スケールで表示すると下図のようになる。
0.1
1.0
10.0
1.000
A (ω )
0.100
0.010
0.001
- 66 -
ω
100.0
6.ラプラス変換とその応用(応用数学2)
前章のフーリエ変換の(5.26)式で iω = s と置き換え,時間積分の区間を 0Æ∞の半分にしたのが,
ラプラス(Laplace)変換である。
∞
Laplace 変換:
 f (t ) = ∫ f (t ) ⋅ e −st dt
(6.1)
0
Laplace 変換は,時間領域の現象を s と言う複素平面への変換操作であり,したがって,フーリエ
変換とラプラス変換はよく似た操作を行っていることになる。
ただし,フーリエ変換では時間積分
∫
∞
−∞
f (t )dt が有限なことが必要条件であるのに対し、ラプラ
ス変換は積分区間が 0Æ∞であるため f (t ) = 1 あるいは cos β t といった tÆ∞で零でない関数で
も変換できる利点がある。ここでは,Laplace 変換について要点を説明する。
●Laplace 変換のメリット
1)複雑な微分方程式(運動方程式,電流方程式…)が簡単な代数方程式に置き換えられる。
38 頁の(4.10)式(部分積分の公式で f 1 = e
∞
− st
f2 =
,
[
]
df (t )
と置くと、
dt
∞
(
)
∞
df (t ) ⎞
⎛ df (t ) ⎞ − st
− st
− st
⎛⎜
⎟ = ∫
⎜
⎟e dt = e f (t ) 0 − ∫ − se f (t )dt
⎝ dt ⎠ 0 ⎝ dt ⎠
0
∞
= − f (0) + s ∫ f (t )e − st dt =
( f (t ) ) −
(6.2)
f (0)
0
⎛ d 2 f (t ) ⎞
df (t ) ⎞ df (t )
 ⎜⎜ 2 ⎟⎟ = s ⎛⎜
⎟−
dt
dt t =0
dt
⎝
⎠
⎝
⎠
df (t )
= s{s f (t ) − f (0)} −
dt t =0
= s 2 f (t ) − sf (0) −
df (t )
dt t =0
⎛ d 3 f (t ) ⎞
df (t )
d 2 f (t )
3
2
⎟
s
f
t
s
f
s
(
)
(
0
)
=
−
−
−

3
⎟
dt t =0
dt 2 t =0
⎝ dt ⎠
 ⎜⎜
(i −1)
n
⎛ d 3 f (t ) ⎞
f (t )
n
( n −i ) d
⎜
⎟
=
−
(
)
s
f
t
s
 ⎜ dt 3 ⎟ 
∑
(i −1)
dt
i =1
⎝
⎠
t =0
(6.3)
(積分についても同様)
f (t )
 (∫ f (t )dt ) =  s − ∫ f (t )dt
0
(6.4)
0
※ここで初期値が零の場合,上式はいずれも第1項のみとなり,極めて簡単になる。
2)線形性が保たれる。
 (a1 f1 (t ) + a 2 f 2 (t ) ) = a1 f1 (t ) + a 2 f 2 (t )
- 67 -
(6.5)
Laplace 変換の例(重要な式)
f (t )
 f (t )
1
s
1
s2
①
1
e-α t
②
t
e-α tt
③
tn
e-α ttn
④
sinβt
e-α tsinβt
⑤
cosβt
e-α tcosβt
n!
1
s +α
1
(s + α )2
1
s
n!
n +1
(s + α )n +1
β
β
(s + α )2 + β 2
s +β
s
2
s +β2
2
1
2
s +α
(s + α )2 + β 2
①の確認
∞
− st
 (1) = ∫ (1)e dt
0
∞
⎡⎛ 1 ⎞ − st ⎤
1
⎛ 1 ⎞
= ⎢⎜
⎟(0 − 1) =
⎟e ⎥ = ⎜
s
⎣⎝ − s ⎠ ⎦ 0 ⎝ − s ⎠
①’の確認
∞
 (e ) = ∫ (e )e
−αt
−αt
− st
dt
0
∞
(
=∫ e
− (α + s )t
0
∞
⎡⎛
⎞ −(α + s )t ⎤
1
1
⎟⎟e
dt = ⎢⎜⎜
⎥ =
⎣⎝ − (α + s ) ⎠
⎦0 s + α
)
②の確認
∞
 (t ) = ∫ (t )e
− st
dt
0
∞
∞
⎡ ⎛ 1 ⎞ − st ⎤
⎛ 1 ⎞ − st
= ⎢t ⎜
⎟e dt
⎟e ⎥ − ∫ (1)⎜
⎣ ⎝ − s ⎠ ⎦0 0 ⎝ − s ⎠
∞
⎛ 1 ⎞⎛ 1 ⎞ 1
⎛1⎞
= (0 − 0 ) + ⎜ ⎟ ∫ e − st dt = ⎜ ⎟⎜ ⎟ = 2
⎝ s ⎠⎝ s ⎠ s
⎝ s ⎠0
③の確認
∞
 (t n ) = ∫ (t n )e − st dt
0
∞
∞
⎡ ⎛ 1 ⎞ − st ⎤
n −1
= ⎢t n ⎜
⎟e ⎥ − ∫ nt
−
s
⎠
⎣ ⎝
⎦0 0
(
)⎛⎜ −1s ⎞⎟e
∞
⎝
− st
⎠
dt
∞
⎛1⎞
⎛1⎞
= (0 − 0 ) + n⎜ ⎟ ∫ t n −1 e − st dt = n⎜ ⎟ ∫ t n −1 e − st dt
⎝ s ⎠0
⎝ s ⎠0
∞
∞
⎛ 1 ⎞
⎛ 1 ⎞
⎛ 1 ⎞
= n(n − 1)⎜ 2 ⎟ ∫ t n − 2 e − st dt = (n(n − 1)K1)⎜ n −1 ⎟ ∫ te − st dt = n!⎜ n +1 ⎟
⎝ s ⎠0
⎝ s ⎠0
⎝s ⎠
- 68 -
④の確認
∞
∞
0
0
 (sin βt ) = ∫ (sin βt )e − st dt = ∫ ⎛⎜⎜ e
( iβ t )
⎝
− e (− iβt ) ⎞ − st
⎟⎟e dt
2i
⎠
∞
∞
⎞
⎛ 1 ⎞⎛
= ⎜ ⎟⎜⎜ ∫ e −( s −iβ )t dt − ∫ e −( s +iβ )t dt ⎟⎟
⎝ 2i ⎠⎝ 0
0
⎠
1 ⎞ ⎛ 1 ⎞⎛ 1
1
⎛ 1 ⎞⎛ 1
⎟⎟ = ⎜ ⎟⎜⎜
= ⎜ ⎟⎜⎜
−
−
⎝ 2i ⎠⎝ s − iβ s + iβ ⎠ ⎝ 2 ⎠⎝ si + β si − β
β
−β
=
= 2
2
2
−s −β
s +β2
⎞
⎟⎟
⎠
⑤の確認
∞
∞
0
0
 (cos βt ) = ∫ (cos βt )e − st dt = ∫ ⎛⎜⎜ e
(iβt )
⎝
+ e (− iβt ) ⎞ − st
⎟⎟e dt
2
⎠
∞
∞
⎞
⎛ 1 ⎞⎛
= ⎜ ⎟⎜⎜ ∫ e −( s −iβ )t dt + ∫ e −(s +iβ )t dt ⎟⎟
⎝ 2 ⎠⎝ 0
0
⎠
1
⎛ 1 ⎞⎛ 1
+
= ⎜ ⎟⎜⎜
⎝ 2 ⎠⎝ s − iβ s + iβ
⎞
⎟⎟
⎠
s
⎛ 1 ⎞ 2s
= 2
=⎜ ⎟ 2
2
s +β2
⎝2⎠ s + β
以上の知識を基に,Laplace 変換を用いて2章に示した運動方程式を解いてみよう。
①[物体の自由落下運動]
⎛ dv ⎞
⎟ + av = −mg
⎝ dt ⎠
運動方程式: m⎜
x
質量:m
----- (2.1.4’)
この運動方程式(微分方程式)を,初期値 v=0 として Laplace
変換で解法する。ここで,
⎛ dv ⎞
1
⎜⎝ dt ⎟⎠ = sv , (1) = s
⎛1⎞
⎝s⎠
であるから, msv + av = −mg ⎜ ⎟
(6.6)
これより
重力=重さ:W
v(ms + a ) = −
v(t)
mg
s
すなわち,
t=0
t
t=T
⎛ mg ⎞⎛ 1 ⎞
−⎜
⎟⎜1 − ⎟
⎝ a ⎠⎝ e ⎠
⎛ mg ⎞
−⎜
⎟
⎝ a ⎠
m ⎫
− mg
⎛ mg ⎞⎧ 1
= −⎜
⎟⎨ −
(ms + a )s ⎝ a ⎠⎩ s ms + a ⎬⎭
⎫
1
⎛ mg ⎞⎧ 1
= −⎜
⎟⎨ −
⎬
⎝ a ⎠⎩ s s + (a m ) ⎭
v =
これを逆変換すると,(2.3.6)式と同じになる。
63.2%
⎛a⎞
−⎜ ⎟ t ⎞
⎛ mg ⎞⎛⎜
⎝m⎠ ⎟
−
v = −⎜
1
e
⎟
⎜
⎟
⎝ a ⎠⎝
⎠
- 69 -
(6.7)
第13回
②[バネに付けた物体の運動]
空気抵抗を考えない場合。
運動方程式: m
バネの抗力
d 2x
+ kx = 0
dt 2
------
(2.1.5)
この運動方程式(微分方程式)を,初期値 x=x0 として
Laplace 変換で解法する。
質量:m
⎛ d 2x ⎞
2
 ⎜⎜ dt 2 ⎟⎟ = s x − sx0
⎝
⎠
x
であるから,(2.1.5)式を Laplace 変換すると
(
)
m s 2x − sx0 + kx = 0
(6.8)
これより,
(ms
2
)
+ k x − msx0 = 0
すなわち,
msx
x = ms 2 +0 k
= x0
s
s
= x0
s + (k m )
s2 + k m
(
2
)
2
これを逆変換(⑤を使用)すると,(2.3.16)式と同じ解が得ら
れる。
k
t
m
1 2π
m
周期= =
= 2π
f
k
ω
x = x 0 cos
x
(6.9)
→固有周期
x0
t
空気抵抗を考えた場合。
運動方程式: m
d 2x
dx
+ a + kx = 0
2
dt
dt
------- (2.1.6)
この運動方程式(微分方程式)を,初期値 x=x0 として Laplace
変換で解法する。(2.1.6)式を Laplace 変換すると
(
)
2
m s
x − sx 0 + a(s x − x0 ) + k x = 0
これより,
(ms
(6.10)
)
+ as + k  x − (ms + a )x0 = 0
すなわち,
(ms + a )x0
(s + a m )
x = ms 2 + as + k = x0 s 2 + (a m )s + (k m )
(s + a 2m ) + (a 2m )
= x0
(s + a 2 m ) 2 + k m − a 2 4 m 2
(a 2m )
(s + a 2 m ) +
k m − a 2 4m 2
2
2
k m − a 4m
= x0
2
(s + a 2 m )2 + k m − a 2 4 m 2
2
(
)
(
- 70 -
)
これを逆変換(④,⑤を使用)すると,2章と同じ解が得られる。
x = x0 e
⎛ a ⎞
−⎜
⎟t
⎝ 2m ⎠
2
cos
k
a
−
t
m 4m 2
⎛ a ⎞
x0 ⎜
⎟
⎛ a ⎞
k
a2
2m ⎠ −⎜⎝ 2 m ⎟⎠t
⎝
+
−
sin
e
t
m 4m 2
k
a2
−
m 4m 2
(6.11)
ここで a が十分小さい場合,a2/4m2→0
x ≅ x0 e
x
⎛ a ⎞
−⎜
⎟t
⎝ 2m ⎠
cos
k
t
m
(6.12)
k
a2
m
1 2π
周期= =
= 2π
−
≅ 2π
2
f
m 4m
k
ω
x0
t
【高校の数学の復習】部分分数へ変換
逆変換するに際しては前述の基本型が使えるように Laplace 変換式を上手く変形することがで
きる。
[例 1]
[例 1’]
[例 1”]
[例 2]
[例 3]
[例 4]
κ1s + κ 2
a1
a2
=
+
(s + α 1 )(s + α 2 ) s + α 1 s + α 2
κ n −1 s n −1 + κ n − 2 s n −2 + Lκ 0
an
a1
a2
=
+
+L+
(s + α 1 )(s + α 2 )L (s + α n ) s + α 1 s + α 2
s +αn
an
κ n −1 s n −1 + κ n − 2 s n − 2 + Lκ 0
a
a2
= 1 +
+L+
n
2
s + α (s + α )
(s + α )
(s + α )n
κ 2 s 2 + κ 1 s + κ 0 b1 s + a1
a
= 2
+ 2
2
2
2
(s + β )(s + α ) s + β s + α
κ 3 s 3 + κ 2 s 2 + κ 1 s + κ 0 b1 s + a1 b2 s + a 2
(s 2 + β12 )(s 2 + β 22 ) = s 2 + β12 + s 2 + β 22
κ 4 s 4 + κ 3 s 3 + κ 2 s 2 + κ 1 s + κ 0 b1 s + a1 b2 s + a 2
a
= 2
+ 2
+ 3
2
2
2
2
2
2
(s + β1 )(s + β 2 )(s + α ) s + β1 s + β 2 s + α
以上のように,部分分数にすることによって,複数の基本型に展開でき,Laplace 逆変換が可能
になる。
- 71 -
③[浮体の上下運動]
下図のように,水線面積 Aw を持つ柱状の浮体が水面に浮かんでいる場合を考えよう。浮体の
重心と浮心が鉛直方向に上下方向に一致している場合,上下方向だけの釣り合いになる。浮体が
静止している状態では,浮体の重力 W と浮力が釣り合っているので,以下の関係にある。
W = mg = ρgAw d
(6.13)
浮力
すなわち,浮体の質量 m は ρAw d と表される。
ここで,浮体が z だけ沈下した場合を想定す
ると,浮体の喫水は z 増加するので,浮力は
F = ρgAw (d + z )
(6.14)
G
z
B
質量:m
となり,浮力の増分は ρgAw z になる。
したがって,この浮体に∆m の荷物(質量)を搭載
した場合,喫水の増加は次式で表され,この増
加は水の密度と水線面積 Aw の値だけで決まる。
重力=重量:W=mg
∆W = ∆mg = ρgAw z
z=
∆m
ρAw
(6.15)
初期状態からの運動
浮体の重心を原点,下方に z 軸をとる。浮体の運動はニュートンの運動方程式を使うが,浮体
(
に働く上下力は,浮体が座標軸の方向(下方側)に運動 [変位 z,速度 (dz dt ) ,加速度 d z dt
する状況を考える。すなわち,
浮体の重力:質量が変化しないので一定で,(3.1)式より
浮体の浮力:(3.2)式より F =
ρgAw (d + z )
2
2
W = mg = ρgAw d ある。
したがって
⎛ d 2z ⎞
m⎜⎜ 2 ⎟⎟ = W − F = ρgAw d − ρgAw ⋅ (d + z )
⎝ dt ⎠
すなわち,
⎛ d 2z ⎞
m⎜⎜ 2 ⎟⎟ + ρgAw ⋅ z = 0
⎝ dt ⎠
(6.16)
これを,初期値 z=z0 からの運動を計算するには,上式を Laplace 変換で解法する。すなわち,
⎛ d 2z ⎞
2
 ⎜⎜ dt 2 ⎟⎟ = s  z − sz 0
⎝
⎠
であるから,
(
)
2
m s
z − z 0 s + ρgAw z = 0
これより,
(ms
2
)
+ ρgAw z − msz 0 = 0
すなわち,
- 72 -
)]
z =
msz 0
s
= z0 2
= z0
ms + ρgAw
s + (ρgAw m )
s2 +
2
(
s
ρgAw m
)
2
これを逆変換(⑤を使用)すると,
z = z 0 cos
z
ρgAw
m
t
(6.17)
周期=
1 2π
m
→固有周期
=
= 2π
f
ω
ρgAw
z0
t
- 73 -
第14回
④[振り子の運動]<演習問題の解答>
下図の振り子の運動について振れ幅が大きくない時の運動を考える。
位置 :x 下図の水平方向を正にとる。
(x だけ右に変位したと仮定する)
速度 :dx/dt (位置:x を時間:t で微分した量)
加速度:d2x/dt2
物体に作用する力:重力=W=mg (鉛直方向のみ)
張力 T= mg cos θ ( sin θ = x L )
L
鉛直方向成分=mg
⎛x⎞
⎟
⎝L⎠
θ
水平方向成分= − mg tan θ ≅ − mg ⎜
T = W cos θ = mg cos θ
⎛ d 2x ⎞
⎛x⎞
m⎜⎜ 2 ⎟⎟ = − mg ⎜ ⎟
⎝L⎠
⎝ dt ⎠
⎛ d 2x ⎞ ⎛ g ⎞
⎜⎜ 2 ⎟⎟ + ⎜ ⎟ x = 0
⎝ dt ⎠ ⎝ L ⎠
運動方程式:
すなわち
x
質量:m
(6.18)
この運動方程式(微分方程式)を,初期値 x=x0 として
Laplace 変換で解法する。
(6.13)式を Laplace 変換すると
(s x − sx ) + ⎛⎜ gL ⎞⎟x = 0
2
0
重力=重さ:W=mg
⎝ ⎠
(6.19)
これより,
⎛ 2 g⎞
⎜ s + ⎟x − sx 0 = 0
L⎠
⎝
すなわち,
sx
x = s 2 + (g0 L ) = x0 2
s +(
s
g L
)
2
これを逆変換(⑤を使用)すると,
x = x0 cos
x
周期=
g
t
L
(6.15)
g
1 2π
=
= 2π
f
L
ω
→固有周期
x0
t
速度(dx/dt)に比例する 空気抵抗がある場合は(6.12)式
と同様な方法で,近似的に以下のようになり,その
時間的変化は上図の点線のようになる。
x ≅ x0 e
⎛ a ⎞
−⎜
⎟t
⎝ 2m ⎠
- 74 -
cos
g
t
L
(6.16)