医療と経済成長戦略(奥 保彦) - 長崎県医師会

之0亘4
新春寄
医療と経済成長戦略
長崎市医師会会長奥
私の所属する日本循環器学会は、昨年は大変な
厄年であった数々のマスコミ報道がなされた為
にご存じの方も多いと'思うが、高血圧治療剤バル
サルタン(デイオバン)の臨床研究をめぐる不正
論文問題である。公立や私立の有名大学の、しか
も学会では権威ある研究者と思われていた人物に
よる不正論文だけに、国内は無論であるが外国か
らも厳しい叱責の声が挙がった。欧米諸国に比ベ
て貧困と言われる臨床研究体制の、さらなる日本
のその脆弱さを暴露した事件でもあった。日本で
行われる臨床研究論文の偏頼性の失墜と共に、今
回の研究結果が「L帥Cet という国際的に有名
な医学雑誌に掲載された事もあり、今後は欧米一
流医学雑誌ヘの日本からの投稿の困難性を生じさ
せる可能性も老えられる事件として、日本の医学
界に与えた影響は大きいものであろう
日本医学会は、今後の医師主導臨床研究対策と
してのガイドラインの改定を「日本医学会利益相
反委員会」に委託して公表したそれでは、臨床
試験の実施から論文発表に至るまでの全ての段階
で研究の透明性を担保するために開示基準を強化
するというものであった
.
しかし、不正論文問題を考えるに、開示基準を
強化するだけで解決する問題であろうか。今回の
不祥事は、単に研究者のデータ解析ヘの無知や、
結果分析ヘの責任感の欠如だけでなく、最も重要
な要因は、関与した大企業の営利追求主義ではな
いだろうか。
研究者は、自分自身が自覚せぬままに企業の製
品拡大販売のための手段として利用されていただ
けではないのだろうか。「専門馬鹿」(その純粋さ
に畏敬の念を含めて言わせてもらう)の研究者を、
奨学寄付金などという高額の資金提供で、企業の
利潤追求のための臨床研究に誘導することなどは、
保彦
らゆる分野に及んでおり、医疫もその範疇から逃
れることは出来ないであろう
安倍政権の医療政策をみても、「一般用医薬品
のネット販売」や「保険外併用療養の拡大」なと
国民の安全性や医療制度の崩壊などを顧みること
なく、単に経済成長戦略の為のみに規制緩和政策
などに猛進している様にも思える。政府の「骨太
方針での医療分野においても、再生医療の推進
が挙げられているこの中で再生医療の市場規
模は2030年には約 1兆円に拡大する」として、「市
場投入を安全かつ円滑に進める」としている。し
かし、再生医療の中心をなすipS細胞の研究者の
中には、日本は基礎研究の成果を実用につなげる
体制が弱かうたが、この反省から政府が実用化に
多額の予算を組むことに感謝はするが、このため
に基礎研究が疎かに成らぬようにしなければなら
ないと警告している。山中伸弥京都大学教授の
ノーベル賞受賞の世界に誇れる研究成果を、単な
る経済成長戦略や企業の営利主義の為に、今同の
高血圧治療薬臨床研究の様な、'世界に恥をかく臨
床研究や実用化にはしたくないものである安倍
内閣の医療政策が、医療を市場原理に委ねて、単
に経済成長戦略の手段とするようなことがあれぱ、
国民の医療を守る立場にある我々医師は、断固と
してそれを阻止する覚悟が必要であろう
県医師会からは、新寿にふさわしい寄稿をとの
依頼であったが、安倍内閣の最近の不安と不満の
交差するトップダウンでの医療政策に、新年号に
似つかわしくない原稿となったことをお詫びしま
す。
新年が、会員皆様とご家族に幸多き年でありま
すことを、心、よりお祈り申し上け'ます
大企業にとってはいとも簡単な事ではなかったろ
うか
さて今、安倍内閣は、その存在意義を我が国の
経済成長に賭けている感があるその手段は、あ
艮崎県医師会報第816号平成26年1月
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