GB 積補償による RC アクティブフィルタの周波数特性改善 The

Rep. Fac. Sci. Engrg.
Saga Univ.
32-1 (2003)
Reports of the Faculty of Science and Engineering,
Saga University, Vol. 32, No.1, 2003
GB 積補償による RC アクティブフィルタの周波数特性改善
石川洋平*・深井澄夫**
The Frequency Response Improvement of RC Active Filter
by GBP Compensation
By
Yohei ISHIKAWA and Sumio FUKAI
Abstract: This paper describes the improvement technique of frequency response by the finite Gain
Bandwidth product (GBP) compensation for the 3rd order Sallen-Key active filter and the 3rd order RC
active filter with transmission zero based on the Friend's circuit. The Influence of finite GBP of operational
amplifier is compensated easily by adding only one element. Validity of the proposed circuits are
confirmed by computer simulation and experiments.
Key words: RC active filter, finite GBP, operational amplifier
1.は
じ
め
に
近年、エレクトロニクス分野におけるシステムの
高機能・高周波数・高集積化が進んでいる。これら
に用いられている重要な回路技術にアナログ・デジ
タル信号処理技術がある。集積回路に適した回路構
成の研究として信号処理の重要ブロックであるフィ
ルタ回路が研究されてきた(1)(2)。所望する周波数帯
域の信号を抽出するフィルタ回路は、あらゆるシス
テムのキーテクノロジーとして重要な位置を占めて
いる。
集積回路に適したフィルタの構成方法の一つとし
て能動フィルタが研究されている。しかし、能動
RC フィルタで用いるオペアンプの有限 GB 積(3)の影
響により、使用帯域が制限されるという欠点を持っ
ている。通常、汎用オペアンプを用いる場合有限
GB 積の 1/100 程度(オーディオ周波数帯域)の利
用が限度とされている。
本論文では汎用オペアンプの有限 GB 積を補償す
る方法を提案し、利用周波数帯域を従来の有限 GB
積の 1/100 から 1/10 程度まで改善できることを示
す。代表的な 2 つの特性(無極形(4)・有極形(5))を
持つフィルタの補償方法を示し、その設計方法と補
償効果をシミュレーションおよび実験により確かめ
ている。
平成 15 年 6 月 1 日受理
*工学系研究科システム生産科学専攻
**理工学部電気電子工学科
©佐賀大学理工学部
2.無
極
形
フ
ィ
ル
タ
無極形フィルタとして、Sallen-Key3次低域通過
フィルタを検討する。本構成は能動フィルタとして
一般的に用いられている代表的な回路である。回路
図を図 1、伝達関数を式(1)に示す。
C5
Vi
R2
R1
R3
C6
C4
Vo
K
−
K:Gain
Fig.1The 3rd order active filter
based on the Sallen-Key circuit
T (s ) =
K
R1 R2 R3 C1C 2 C 3 s 3 + {(1 − K ) R1 R2 C1C 2 + R3 ( R1 + R2 )C 2 C 3 + R1 ( R2 + R3 )C1C 3 }s 2
+ {R1C1 + (1 − K )( R1 + R2 )C 2 + ( R1 + R2 + R3 )C 3 }s + 1
(1)
2-1.有
限
GB
積
の
影
響
能動フィルタで用いる汎用オペアンプの開ループ
利得は一般に式(2)のように一次近似することがで
きる。
A( s) =
A0
f
GB
≈ A0 1 ≈
1 + jf / f1
jf
s
但し
(2)
A0:直流利得,f1:第1極
石川洋平,深井澄夫
図 2 に示す正相増幅器において、有限 GB 積の影
響を含んで閉ループ利得を求めると式(3)となる。
T (s) =
K0
R1 R 2 ( R3' + R6 )C 4 C 5 C 6 s 3
Vi
+
K=
+ {C 6 ( R1 + R 2 + R3' + R6 ) + R1C 4 + C 5 (1 − K 0 )( R1 + R 2 )} s + 1
(5)
R2
R1
Fig.2
+ { R1 ( R 2 + R3' + R6 )C 4 C 6 + ( R3' + R6 )( R1 + R 2 )C 5 C 6 + (1 − K 0 ) R1 R 2 C 4 C 5 }s 2
Vo
−
提案回路 Type1 の伝達関数(式(5))がもとの伝
達関数(式(1))の R3→ R3’ +R6 と置き換えた形に
なっているため、他のパラメータを再設計する必要
がない。
Noninverting Amplifier
V0
A( R1 + R2 )
K0
=
=
Vi
R1 + R2 + AR1 1 + ( K 0 / GB ) s
但し
(3)
GB
R
A=
, K0 = 1 + 2
s
R1
式(3)で表される利得を図1の K に適用すること
により、式(1)の分母に 1 + ( K 0 / GB ) s がかかり分母
が 3 次から 4 次へと昇次してしまい実現したいフィ
ルタ回路の理想的な特性と異なってくる。その影響
は、周波数帯域が高くなればなる(有限 GB 積の値
に近づく)ほど大きくなる。
この昇次をキャンセルし所望する伝達関数に戻す
ために、分子に分母と独立な 1 次の補償項を導入す
ることにより有限 GB 積の補償を行うことが可能と
なる。
2-3.補
償
回
路
Type2
有限 GB 積の補償回路 Type2 を図 4、その伝達関
数を式(6)に示す。
C5
Vi
R1
R2
R3
C4
C3
K
C6
C3 =
Vo
K0
R3 ⋅ GB
Fig.4 Compensated Type2 circuit
T ( s) =
Ko
R1R2 R3C4{C5 (C6 + C3 ) + C3C6 }s 3
+ {(1 − Ko ) R1R2C4C5 + R1R3C4 (C6 + C3 ) + R3C5 ( R1 + R2 )(C6 + C3 )
2-2.補
償
回
路
Type1
+ R1R2C4C6 + R3C3C6 ( R1 + R2 )}s 2
+ {R2C5 (1 − Ko ) + R1C5 (1 − Ko ) + C6 ( R1 + R2 ) + R1C4 + R3 (C3 + C6 )}s + 1
(6)
補償回路 Type1 の回路図を図 3 に示す。
C5
Vi
R3 '
R2
R1
R6
C4
C6
Vo
K
−
R6 =
K0
C6 ⋅ GB
Fig.3 Compensated Type1 circuit
2-4.補償結果および素子値表
図 3 は、基本回路(図1)の C6 を R6,C6 の直列接
続に置き換えた構成となっており、式(4)の条件を
満足する時の伝達関数は式(5)となる。
K 0 C6
=
GB G6
K=
K0
1 + (C 6 / G6 ) s
図 4 中に示す条件を満足するコンデンサ C3 を付
加することにより、式(6)のように伝達関数が 3 次
へと戻されている。この回路の伝達関数における素
子の含まれ方が図 1 の基本回路と異なるため素子値
設計を新たに見直す必要があるが、オペアンプの入
力容量(6)をコンデンサ C6 に含めて考えることがで
きる特徴をもっている。
(4)
無極形フィルタとして汎用オペアンプ TL082(GB
積 3.5 MHz)を用いたリップル 0.5 dB のチェビシェ
フ低域通過フィルタの設計を行う。表 1 にそれぞれ
の補償回路での素子値を示す。また、図 5,図 6 に
それぞれのシミュレーション結果と実験結果を示す。
GB 積補償による RC アクティブフィルタの周波数特性改善
(a) Simulation results
(a) Simulation results
(b) Experimental results
(b)Experimental results
Fig.5 Compensated Type1 Circuit
(fc=350 kHz)
Fig.6 Compensated Type2 Circuit
(fc=350 kHz)
図 5,図 6 より fc=350 kHz の場合 Type1,Type2 共
に補償効果が得られている。ここでの遮断周波数は
有限 GB 積の 1/10 として設計を行った。実験結果の
誤差については使用したオペアンプの入力容量の影
響や温度による GB 積の変動および特性の 1 次近に
よる第 2 極の影響によるものと考えられる。
R1[Ω]
1000
R1[Ω]
1000
3.有
R2[Ω]
5000
R2[Ω]
1000
R3’[Ω]
3099
R3[Ω]
1000
R6[Ω]
1901
C3[pF]
45.47
C4[nF]
0.8878
C4[nF]
1.044
C5[nF]
0.4068
C5[nF]
3.119
C6[pF]
23.92
C6[pF]
20.55
K
1.000
K
1.000
極
形 フ ィ ル タ
有極形フィルタは無極形フィルタに比べ伝達関数が
複雑になってしまうことから補償法についても提案
が少ない。図 7 に提案回路を示す。提案回路は 2 次
の Friend の回路をもとにした 3 次有極形フィルタ
構成となっており、1次のブロックと2次の
Friend の回路を縦属接続した構成となっている。
Table 1
Element values
Type1
Type2
fc = 350 kHz
fc = 350 kHz
石川洋平,深井澄夫
提案回路では通常の1次のフィルタとは異なりフ
ィルタの直流利得の調整のため新たに抵抗を分割し、
さらに補償用コンデンサを付加した形となっている。
有極形フィルタの場合も無極形フィルタと同様に有
限 GB 積の影響を考慮する場合、分母の次数が 1 次
昇次してしまい、所望の特性を得ることができない。
よって、この昇次を抑えることができればさらに高
周波数での利用が可能となり無極形フィルタの場合
に比べ、より急峻な特性を持つフィルタが実現可能
となる。オペアンプの開ループ利得を式(2)で近似
した時の提案回路の伝達関数を式(7)に示す。
① 定数項を1に正規化した形で3次連立チェ
ビシェフフィルタの伝達関数を求める。
S 2 + n0
d 3 S + d 2 S 2 + d1 S + 1
(8)
3
② 図 7 より A(s)=GB/s とした場合の伝達関数
を求める。
( S 2 + n0 )(1 + C1S )
dd 4 4 dd 3 3 dd 2 2 dd1
S +
S +
S +
S +1
dd 0
dd 0
dd 0
dd 0
(9)
③ 式(8)と式(9)の伝達関数を用いて等式を立
てると(1+C1S)を両辺の分母にかけること
により、分母の次数を等しくすることがで
きる。
Fig.7
S 2 + n0
a 4 S 4 + a3 S 3 + a2 S 2 + a1S + 1
The 3rd order RC active filter
with transmission zero
( S 2 + n0 )(1 + C1 S )
a4 = C1d 3 , a3 = C1d 2 + d 3
但し
1
R3 R6 C 2 (C1 + C 2 )
GB
S4
2− K



 R 
1 
2 1
+ 2 − K  + C (C1 + C 2 ) 2 R3 1 + 6  + R6 
 R3 R6 C 
GB 
 3

 R3

 R7 
S
+
2− K
1

R3 R6 C 2  (1 − K ) + 2 − K  + 2 R3C (C1 + C 2 )
 R3


  R 

 R6 
1 

 + R6  + 1 + 6 (C1 + C 2 + 2C )
(
)
2
2
1
K
C
R
+
−
+

 3

GB 
  R7 

 R7 
 2
S
+
2−K

 1

R  1  R6 
1 +
(2 − K )
2 R3C  + 2 − K  + C1 + C − KC  2 + 6  +
R7  GB  R7 

 R3

+
S +1
2−K
R3 R6 C 2 (C1 + C 2 ) +
④
(10)
a2 = C1d1 + d 2 , a1 = C1 + d1
式(9)と式(10)の伝達関数の分母関数の各
係数により誤差関数を定義する。
S4 の係数における誤差は
(7)
K=
dd
dd
=
但し
K
R6
1
R9 =
R7 =
2
(
n
C
R
−
1
)
(
1
−
K)
0
6
 R  R 
1+ 2 3 1− 6 
 R6  R7 
償
方 法
通常の設計では、各ブロックごとの伝達関数を求
め合成するが、本手法においては全体の伝達関数式
(7)の分母多項式それぞれの係数より誤差関数を定
義し、最適な補償コンデンサをプログラムにより求
めている。以下に、補償コンデンサを求めるための
伝達関数及び、誤差関数の導出アルゴリズムを示す。
4
− a4
0
a4
=
dd 4
−1
dd 0 a 4
(11)
同様に S3,S2,S の係数における誤差を計算
し、式(12)の誤差関数を定義する。
2
3-1.補
手計算値―目標値
目標値
誤差 =
2
2
 dd 4
  dd 3
  dd 2
  dd1

en = 
− 1 + 
− 1 + 
− 1 + 
− 1
 dd 0 a4
  dd 0 a3
  dd 0 a2
  dd 0 a1

2
・・・・(12)
関数 en の値が 10-6 より小さくなるように素子値
をコンピュータープログラムにより決定する。この
誤差関数 en は数値計算の精度から目安値としてい
る。
GB 積補償による RC アクティブフィルタの周波数特性改善
3-2.補
償
結 果
汎用オペアンプのデータとして第1極 30 Hz,第 2
極 3 MHz,GB 積 3 MHz とし、3-1 で示した補償法を
用いて求めたフィルタの素子値を表 2、表 3 に示す。
導出した素子値を基にリップル 0.1 dB,遮断周波数
fc=100 kHz で設計した場合、図 8 から分かるように
ほぼ完全に補償されていることが確認できた。
更に遮断周波数 fc=300 kHz で設計した場合、図 9
より、fc=100 kHz の場合に比べると補償の効果が少
ないが補償なしの場合と比べると特性が改善されて
いることが確認できた。fc=300 kHz の場合の理想と
のずれは、オペアンプの開ループ利得の第 2 極の影
響によるものと考えられる。
Table 2
R
R11
R12
R3
R6
R7
R8
R9
Table 3
R
R11
R12
R3
R6
R7
R8
R9
Fig.9 Simulation results (fc=300 kHz)
Element values (fc=100 kHz)
(kΩ)
1.399
3.509
1
14.15
10.79
1
3.061
C
C1
C2
C3
C4
(F)
45p
2.883n
400p
400p
Element values (fc=300 kHz)
(kΩ)
1.2010
5.9744
1
13.9542
16.7799
1
3.8093
C
C1
C2
C3
C4
(F)
34p
865p
119p
119p
4.ま
と
め
本論文では無極形フィルタ及び有極形フィルタの
回路構成について、有限 GB 積補償による使用可能
周波数帯域拡大に関する提案を行った。
代表的な無極形フィルタとして 3 次 Sallen-Key
回路、有極形フィルタとして 2 次の Friend 回路を
基にした 3 次有極形フィルタを検討した。本補償法
を用いることにより、有限 GB 積の 1/10 程度までの
帯域拡大が可能となった。この事により、汎用オペ
アンプを利用した場合でも中間周波数帯域までの利
用が可能となる。さらに、高周波用汎用オペアンプ
AD847(GB 積 50MHz)を用いることにより、ビデオ
帯域フィルタへの応用が可能となっている。
5.謝
辞
本研究を行うにあたり、ご指導いただいた石川弘
文名誉教授、ご協力いただいた大学院生永家孝一氏
(現ルネサステクノロジ)に深く感謝します。
参
Fig.8 Simulation results (fc=100 kHz)
考
文
献
(1) M.E.VANVALKENBURG:“AnalogFilter Design”,
Holt-Saunder International Editions(1987)
(2) 矢崎銀作,武部幹:伝送回路網およびフィルタ,
電子情報通信学会 ISBN 4-88552-009-6
(3) 深井澄夫,石川弘文:「能動イミタンス共振回路を
用いた演算増幅器 GB 積の簡単な測定法」 電子
回路研究会資料,ETC-93-8
(4) 永家孝一,深井澄夫,石川弘文:「Sallen-Key3 次
能動フィルタの設計」平 13 電気学会電子回路研
究会資料,ETC-01-78
(5) 石川洋平,深井澄夫:「3 次有極形能動 RC フィル
タにおける有限 GB 積の補償について」平 13 電
気学会電子回路研究会資料,ETC-01-79
(6) 沖根光夫、藤井信夫:「演算増幅器の有限 GB 積と
入力容量の影響を補償した能動多重帰還回路」,
電 子 情 報 通 信 学 会 論 文 誌 , VOL.J74-A
NO.12(1991-12)