Gd を可燃性毒物として含む軽水炉体系の核特性 千葉豪 平成 25 年 8 月 26 日 1 背景 Gd を可燃性毒物として含む軽水炉体系の核特性を理解するため、簡易的な体系に対して 数値計算を行い、種々のパラメータの挙動を整理する。 2 計算体系 本検討では、Maeder の燃焼ベンチマーク問題 [1] をベースとし、3wt%の Gd2 O3 を含む U-235 濃縮度 3wt%の UO2 燃料ピンを、Gd を含まない UO2 燃料ピンが正方配置状に取り 囲む問題を計算対象とした。Fig. 1 に、衝突確率法を用いた固有値計算における計算メッ シュで分割した体系を示す。中心の Gd を含む燃料ピンは燃料領域を 8 分割、それ以外のピ ンは燃料領域を 3 分割している。 なお、集合体平均の線出力は 179W/cm とした。 1 2.5 2.0 1.5 1.0 Y [cm] 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 -2.0 -2.5 -2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 X [cm] 1.0 Fig. 1: Problem specification 2 1.5 2.0 2.5 3 計算方法 計算は全て汎用炉物理コードシステム CBZ を用いて行った。 多群断面積は JENDL-4.0 に基づく 107 群構造の CBZLIB を用いて計算した。各ピンセル について、無限配列を仮定し、Dancoff 係数を用いた等価原理により背景断面積を計算し、 共鳴自己遮蔽効果を考慮した。燃焼を扱う際には、Gd を含む燃料ピンは径方向にいくつか の領域に分割し、それぞれの領域で数密度を管理している。この場合の各領域の実効微視的 断面積は、燃料ピンの体積平均の数密度からなる仮想的な燃料ピンに対して計算し、全ての 燃焼領域で流用することとした。 固有値計算は衝突確率法により行った。 燃焼計算には SRAC の 100 強の核種からなる燃焼チェーンを用いた。燃焼ステップ分割 は 0.125GWd/t とし、各々の燃焼ステップをさらに 10 のサブステップに分割した。なお、 Predictor-corrector 法は用いていない。 3 4 未燃焼体系における核分裂生成反応と吸収反応 はじめに、未燃焼体系に対して固有値計算を行い、核分裂中性子生成反応、中性子吸収反 応の媒質毎寄与を計算した。結果を Table 1 に示す。なお、括弧内には燃料ピン1本あたり の値を示している。Gd を含む燃料ピンの寄与を含まないピンの寄与と比較した場合、中性 子生成反応については 3 分の 1 程度であるが、中性子吸収反応については 2 倍強程度となっ ていることが分かる。 Table 1: Medium-wise contribution to neutron generation and absorption Region Fuel (w/o Gd) Fuel (w Gd) Clading Water Generation 0.958 (0.120∗ ) 0.042 ∗ Absorption 0.724 (0.090) 0.225 0.011 0.040 Per one pin. また、Gd を含む燃料ピン内の中性子生成反応率、吸収反応率の相対空間分布を Fig. 2 に 示す。生成、吸収反応率ともに、燃料ピン表面でもっとも大きな値をとる。これは、燃料ピ ンの内部に進むに従って、Gd 同位体の中性子吸収により中性子束レベルが低下していくた めである。空間依存性は吸収反応率の方が顕著に現れているが、その理由については後ほど 考察する。 1.0 Relative reaction rate [AU] 0.9 Absorption Generation 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 Positioin from center [cm] 0.4 0.5 Fig. 2: Spatial distribution of reaction rates in Gd-bearing fuel pin なお、Gd を含む燃料ピンの最外周領域における核種毎の吸収反応率毎の寄与は、U-235、 U-238 がそれぞれ 4%弱程度で、Gd-155 が 17%、Gd-157 が 76%程度と計算された。Gd を 4 含む燃料ピンにおけるそれらの核種の多群断面積を Fig. 3 に示す。さらに、Gd-155、-157 の捕獲反応率のエネルギースペクトルを Fig. 4 に示すが、熱エネルギー領域の寄与が支配 的であることが分かる。 106 U-235 fission U-238 capture Gd-155 capture Gd-157 capture 5 Cross section [b] 10 104 103 102 101 100 10-1 10-2 10-1 100 101 102 103 104 Neutron energy [eV] 105 106 107 Fig. 3: Multi-group cross sections in Gd-bearing fuel rod Reaction rate per lethargy [AU] 3000 Gd-155 capture Gd-157 capture 2500 2000 1500 1000 500 0 10-3 10-2 10-1 100 101 102 103 104 105 106 107 Neutron energy [eV] Fig. 4: Capture reaction rate energy spectra in peripheral region of Gd-bearing fuel rod 最後に Gd を含む燃料ピンにおける中性子束エネルギースペクトルを被覆管領域でのもの と併せて Fig. 5 に示す(図中「Ring 8」が燃料ピン最外周に対応する)。燃料ピンの内部であ るほど、Gd-155、-157 の熱中性子捕獲反応により、熱中性子束レベルが小さくなっていくこ とが分かる。Fig. 3 に示されているように、熱中性子エネルギー領域における Gd-155、-157 5 の捕獲断面積のエネルギー依存性は U-235 核分裂断面積等と比べて格段に大きいため、熱 中性子束レベルの減少は Gd-155、-157 捕獲反応率に対して極めて影響が大きい。これが、 Fig. 2 において、中性子吸収反応率分布に顕著な空間依存性が観察された理由である。 Neutron flux per lethargy [AU] 0.35 0.30 0.25 Cladding Ring 8 Ring 7 Ring 6 Ring 5 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 10-2 10-1 100 101 102 103 104 105 Position from center [cm] 106 107 Fig. 5: Neutron flux energy spectra in peripheral region of Gd-bearing fuel rod 6 5 U-238 の共鳴自己遮蔽効果 Gd を含む体系での U-238 の共鳴自己遮蔽効果について評価するため、未燃焼状態での U-238 実効捕獲断面積について、Gd を含まない体系(Gd を含まない燃料ピンのみからな る体系)での値に対する差異を計算した。なお、計算は SRAC2006/PEACO により行った。 結果を Fig. 6 に示す。図中「Pin 1」とあるのが Gd ピンと隣接していないピン、「Pin 2」 が隣接するピンの結果を示す。 0.06 Gd-pin Pin 1 Pin 2 0.05 Relative difference to Ref. 0.04 0.03 0.02 0.01 0 -0.01 -0.02 -0.03 -0.04 -0.05 1 10 100 1000 Neutron energy [eV] 10000 100000 Fig. 6: Difference in U-238 capture cross section between Gd-bearing system and non-Gdbearing system (Gd enrichment is 3wt%) この結果より、以下の点を指摘することができる。 • Gd を含んだ体系では、全てのピンについて実効断面積が大きくなる傾向が見られる。 これは、Gd を含むピンでは U-238 の含有量が低下する(2.16308e-2 から 2.09819e-2) ため、同一の組成から構成される体系よりも背景断面積が大きくなることに起因する と考えられる。またその影響は、Gd ピンと隣接するピン 2 のほうがピン 1 と比べて 大きい。 • ピン1、ピン2における実効断面積の変動量は最大でも 3%程度である。 • Gd を含むピンでは、実効断面積の変動量は 6%以内である。 同様の計算を、Gd の濃縮度を 9wt%として行った。結果を Fig. 7 に示す。Gd を含むピ ンでは、実効断面積の変動量は 3 倍程度まで大きくなった。一方、それ以外のピンでの変動 量は、Gd の濃縮度が 3wt%の場合と比べて大きな差異は生じなかった。 7 0.2 Gd pin Pin 1 Pin 2 Relative difference to Ref. 0.15 0.1 0.05 0 -0.05 -0.1 1 10 100 1000 Neutron energy [eV] 10000 100000 Fig. 7: Difference in U-238 capture cross section between Gd-bearing system and non-Gdbearing system (Gd enrichment is 9wt%) 8 6 燃焼挙動 燃焼に伴う無限増倍率の推移について Fig. 8 に示す。 Infinite multiplication factor 1.20 1.15 1.10 1.05 1.00 0 2 4 6 Burnup [GWd/t] 8 10 Fig. 8: Burnup dependent infinite multiplication factor 次に、Gd ピン各領域における Gd 同位体数密度の燃焼度依存性について Fig. 9 から 14 に示す。熱エネルギー領域に大きい吸収断面積を有する Gd-155、-157 は、燃焼に伴い、ピ ンの外周領域から急激に数密度が減少していく。一方、これら Gd-155、-157 の中性子吸収 により生成される同位体 Gd-156、-158 は、燃焼に伴いピンの外周領域から数密度が増加し ていく。また、Gd-154 は燃焼に伴い僅かに減少し、Gd-160 はほとんど変動していない。 9 Number density [/cm/barn] 0.000025 0.000020 0.000015 0.000010 0.000005 0.000000 0.0 Ring 8 Ring 7 Ring 6 Ring 5 Ring 4 Ring 3 Ring 2 Ring 1 2.0 4.0 6.0 Burnup [GWd/t] 8.0 10.0 Fig. 9: Burnup dependence of Gd-154 number density in Gd-bearing fuel rod 0.00016 Ring 8 Ring 7 Ring 6 Ring 5 Ring 4 Ring 3 Ring 2 Ring 1 Number density [/cm/barn] 0.00014 0.00012 0.00010 0.00008 0.00006 0.00004 0.00002 0.00000 0.0 2.0 4.0 6.0 Burnup [GWd/t] 8.0 10.0 Fig. 10: Burnup dependence of Gd-155 number density in Gd-bearing fuel rod 10 Number density [/cm/barn] 0.0004 0.0003 0.0002 Ring 8 Ring 7 Ring 6 Ring 5 Ring 4 Ring 3 Ring 2 Ring 1 0.0001 0.0000 0.0 2.0 4.0 6.0 Burnup [GWd/t] 8.0 10.0 Fig. 11: Burnup dependence of Gd-156 number density in Gd-bearing fuel rod 0.00016 Ring 8 Ring 7 Ring 6 Ring 5 Ring 4 Ring 3 Ring 2 Ring 1 Number density [/cm/barn] 0.00014 0.00012 0.00010 0.00008 0.00006 0.00004 0.00002 0.00000 0.0 2.0 4.0 6.0 Burnup [GWd/t] 8.0 10.0 Fig. 12: Burnup dependence of Gd-157 number density in Gd-bearing fuel rod 11 0.00045 Number density [/cm/barn] 0.00040 0.00035 0.00030 0.00025 Ring 8 Ring 7 Ring 6 Ring 5 Ring 4 Ring 3 Ring 2 Ring 1 0.00020 0.00015 0.00010 0.00005 0.00000 0.0 2.0 4.0 6.0 Burnup [GWd/t] 8.0 10.0 Fig. 13: Burnup dependence of Gd-158 number density in Gd-bearing fuel rod Number density [/cm/barn] 0.00025 0.00020 0.00015 Ring 8 Ring 7 Ring 6 Ring 5 Ring 4 Ring 3 Ring 2 Ring 1 0.00010 0.00005 0.00000 0.0 2.0 4.0 6.0 Burnup [GWd/t] 8.0 10.0 Fig. 14: Burnup dependence of Gd-160 number density in Gd-bearing fuel rod 12 参考文献 [1] C. Maeder, P. Wydler, ‘International comparison calculations for a BWR lattice with adjacent gadolunium pins,‘ NEACRP-L-271 (1984). 13
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