A-8 抗がん剤ブレオマイシンとシスプラチンの

電子情報工学専攻
藤畑 貴史
磁界の生体への影響に関する研究がなされている
磁界曝露を併用することにより抗がん剤や放射線の生体への作用が変化する
抗がん剤治療において磁界の積極的な応用を目指している
抗がん剤治療
がん細胞が増殖し、正常細胞や生体機能を圧迫
:抗がん剤
抗がん剤を投与
がん細胞を攻撃し、抗がん作用を得る
正常細胞
正常細胞へもダメージを与える
がん細胞
磁界曝露によって副作用を軽減できる可能性がある
正常細胞
深刻な副作用を引き起こす
抗がん剤マイトマイシンCの場合
交流磁界によってマイトマイシンCの作用を大きくするという結果がある
非磁界曝露(Control)
:マイトマイシンC
磁界曝露(Exposure)
マイトマイシンCの量を減らせる
少ない量でもControlと同様の効果
磁界曝露
正常細胞へのダメージを少なくできる
正常細胞
がん細胞
正常細胞
がん細胞
磁界曝露により副作用を軽減することができる
正常細胞
正常細胞
マイトマイシンCの作用を2.5倍増強でき、投与量を60%減少できる
交流磁界曝露によりマイトマイシンCの作用が増強した
抗がん剤治療で数多くのがんに有効性を示すシスプラチンにおいても
交流磁界曝露により作用が1.5倍増強した
・ 他の抗がん剤における報告が少ない
・ 作用メカニズムの解明がなされていない
研究目的
この増強における知見が少ない
(1) 抗がん剤ブレオマイシンの作用への影響評価
(2) DNA修復機能への影響評価
(3) うず電流の影響評価
(1) 抗がん剤ブレオマイシンの作用への影響評価
(2) DNA修復機能への影響評価
(3) うず電流の影響評価
交流磁界の影響でマイトマイシンC、シスプラチンの作用が増強された
他の抗がん剤での効果があるか解明されていない
ブレオマイシンにおいて交流磁界の影響がある
交流磁界によってどれだけ作用を増強できるかは分かっていない
交流磁界によるブレオマイシンの作用の増強率の算出を行った
交流磁界曝露条件は2つの抗がん剤においてもっとも効果があった磁束密度50 mT、
周波数60 Hzで行った
ブレオマイシン(Bleomycin:略号BLM)
分子量:1487.47
主な特徴
・ がん細胞のDNA鎖を切断することで細胞増殖を抑制
・ 反応過程に鉄イオンが関係している
・ 交流磁界による影響がある
ヒトの細胞 (×2/day)
100 mm
大腸菌 (×248/day)
1 mm
参考:http://www.pref.hiroshima.lg.jp
参考: http://www.bdj.co.jp
大腸菌細胞を使用する理由
・増殖サイクルが早く扱いやすい
・人の細胞と同様に抗がん剤によりDNAダメージを受ける
大腸菌液
実験領域
鉄心
鉄心
実験領域
コイル
コイル
磁束密度が50 mT出力可能
:大腸菌
LB溶液(培養液)
:抗がん剤
非磁界曝露
(Control)
磁界曝露
(Exposure)
抗がん剤により大腸菌死滅
磁界曝露
一定時間経過
コロニー
大腸菌
プレーティング
一晩培養
固形培地
生きている菌はコロニー形成
ControlとExposureのコロニー数を比較
抗がん剤における交流磁界の影響を評価
実験条件
磁束密度:50 mT
ブレオマイシン濃度:3、6、12 mg/ml
交流磁界周波数:60 Hz
実験回数:6回
交流磁界曝露時間:1h
※ BLM:ブレオマイシン
MF:Magnetic fields
実験条件
磁束密度:50 mT
ブレオマイシン濃度:3、6、12 mg/ml
交流磁界周波数:60 Hz
実験回数:6回
交流磁界曝露時間:1h
0.5時間目
0.89
Exposureの生菌数
存在比=
Controlの生菌数
*
*
0.79
0.61
値が1より小さい
=
濃度が6、12 mg/mlにおいて交流磁界の影響でブレオマイシンの作用が増強された
磁界によりブレオマイシンの効果増強
*:p < 0.05
※ BLM:ブレオマイシン
MF:Magnetic fields
ブレオマイシンの作用がどれくらい増強されているかを算出する
3 mg/ml
0.5時間目の生菌数
減少率=
0時間目の生菌数
3 mg/ml + MF
6 mg/ml
Controlの減少率から近似線を引く
6 mg/ml + MF
12 mg/ml
12 mg/ml + MF
ブレオマイシンの作用が交流磁界
によってどれだけ増強したかを算出
Bleomycin
concentration (mg/ml)
3
6
12
Bleomycin concentration of
exposure on approximate curve
(mg/ml)
Rate of increase the potency of
bleomycin
3.87
7.01
15.12
1.29
1.17
1.26
ブレオマイシンの作用増強率は1.2倍
交流磁界によるブレオマイシンの作用増強における濃度の依存は認められなかった
(1) 抗がん剤ブレオマイシンの作用への影響評価
(2) DNA修復機能への影響評価
(3) うず電流の影響評価
磁界の影響で抗がん剤の作用が増強
磁界の影響がどこに影響しているかがいまだ解明されていない
・ 細胞膜
・ 抗がん剤自体
・ DNA修復機能
交流磁界によってDNA修復機能が弱まったという報告がある
本研究における抗がん剤の作用の増強もこの現象が関係している可能性がある
交流磁界のDNA修復機能への影響を評価するため2種類の大腸菌を使用した
・ W3110
・ JE5595
野生株の大腸菌
DNA修復機能の1つrecAが欠如している
※recAはDNA修復機能の代表的なものである
磁界の影響で抗がん剤の作用が増強
DNA修復機能への影響によるものかは分からない
Viable cell
W3110のControl
DNA修復機能への影響があることになる
:抗がん剤効果>修復機能
:抗がん剤効果<修復機能
この2種類の大腸菌の抗がん剤投与後の増殖曲線を比較することにより交流磁界の
DNA修復機能への影響を評価した
JE5595のControl
W3110のExposure
・ 交流磁界曝露条件は磁束密度50 mT、周波数60 Hzで行う
・ 抗がん剤は多くのがんに有効性があり、効果の確認されているシスプラチンを使用した
Reaction time
シスプラチン(Cisplatin:略号CDDP)
H3N
分子量:300.05
Cl
Pt
H3N
Cl
主な特徴
・ 数多くのがんに有効性があり広く使われている
・ がん細胞のDNA鎖に架橋結合することにより細胞増殖を抑制
・ 交流磁界により細胞毒性作用が上昇
実験領域
コイル
実験条件
大腸菌:W3110
交流磁界曝露時間:24 h
磁束密度:50 mT
シスプラチン濃度:40 mg/ml
交流磁界周波数:60 Hz
実験回数:6回
※ CDDP:シスプラチン
MF:Magnetic fields
6時間目においてExposureの生菌数がControlの生菌数の50%になった
6~24時間目までにおいてControlとExposureの増殖曲線に違いはなかった
実験条件
大腸菌:JE5595
交流磁界曝露時間:24 h
磁束密度:50 mT
シスプラチン濃度:2.5 mg/ml
交流磁界周波数:60 Hz
実験回数:6回
※ CDDP:シスプラチン
MF:Magnetic fields
6時間目においてExposureの生菌数がControlの生菌数の20%になった
6~24時間目までにおいてControlとExposureの増殖曲線に違いはなかった
W3110
JE5595
DNA修復機能が主として働いている時間でのどちらの大腸菌における増殖曲線
のControlとExposureに大きな違いはない
交流磁界の抗がん剤投与後のDNA修復機能への影響はあまりない
(1) 抗がん剤ブレオマイシンの作用への影響評価
(2) DNA修復機能への影響評価
(3) うず電流の影響評価
交流磁界を曝露することにより抗がん剤の作用が増強
交流磁界による何が影響しているか?
交流磁界によって誘導されるうず電流が生体へ影響を与えたという報告がある
抗がん剤の作用の増強においてもうず電流が関係している可能性がある
うず電流差を生み出すプレートを作製し抗がん剤の作用におけるうず電流の影響を評価した
・ 交流磁界曝露条件は磁束密度50 mT、周波数60 Hzで行った
・ 抗がん剤は多くのがんに有効性があり、効果の確認されているシスプラチンを使用した
実験領域
うず電流検討用プレート
実験領域
鉄心
コイル
鉄心
コイル
K
うず電流検討用プレートにおいて一様な磁界が曝露されている
Inner ring
うず電流密度理論式
J   f r
径の違いを利用しうず電流差を作り出す
実験条件
周波数:60 Hz 磁束密度:50 mT
導電率:1.6 S/m
Average of current
density[A/m2]
Ratio to
inner ring
Inner ring
3.77×10-2
1.0
Middle ring
27.1×10-2
7.2
Outer ring
57.3×10-2
15
Inner ringとのうず電流差が最大で15倍
Middle ring
Outer ring
Inner ring Middle ring Outer ring
実験条件
磁束密度:50 mT
シスプラチン濃度:2.5 mg/ml
交流磁界周波数:60 Hz
実験回数:6回
交流磁界曝露時間:3 h
Exposureの生菌数
存在比=
Controlの生菌数
0.38
0.45 0.46
値が1より小さい
=
磁界によりシスプラチンの効果増強
各ringにおいても交流磁界の影響でシスプラチンの効果が増強されている
交流磁界による抗がん剤の作用においてうず電流の影響は少ない
まとめ
ブレオマイシンの作用
・ 交流磁界を曝露することにより、ブレオマイシンの作用が1.2倍ほど上昇した
・ この効果の濃度への依存性はなかった
交流磁界の曝露することでブレオマイシンの投与量を20%減少できる
マイトマイシンC、シスプラチンにおいても同様の傾向であり、この効果が
患者ごとの抗がん剤の投与量の違いにも対応できることを示唆している
DNA修復機能への影響評価
・ 抗がん剤投与後のDNA修復機能への交流磁界の影響は小さかった
抗がん剤の効きはじめに交流磁界の影響がある
うず電流の影響評価
・ 交流磁界によって誘導されるうず電流の抗がん剤作用の上昇への影響は少ない
今後の課題
・ 他の抗がん剤での検討
抗がん剤それぞれの作用機序や分子量の違いからメカニズムの解明につなげる
・ 作用メカニズムの解明
DNA修復機能以外への影響に関する評価
・ 最適磁界条件の検討
周波数、磁束密度を変化させての評価
・ ヒト培養細胞での検討
臨床応用のためよりヒトに近い細胞での評価
完
Anticancer drugs
Rate of increase the
potency
Molecular weight
Bleomycin
1.2
1487.47
Cisplatin
1.4
300.05
Mitomycin C
2.3
334.327
W3110
JE5595
時間
CDDP only
CDDP+MF
時間
CDDP only
CDDP+MF
6-12
0.179943
0.350396
6-12
0.068217
-0.02417
12-18
0.826673
0.76704
12-18
0.147324
0.210822
18-24
0.240606
0.22734
18-24
0.28165
0.307649
W3110
JE5595
W3110
JE5595
CDDP only
CDDP+MF
W3110
0.4568
0.4801
JE5595
0.1639
0.1694
増殖曲線の近似線の傾きに違いがないことからもDNA修復機能への影響は少ない
磁界なし
DNA修復機能
W3110
recA1
H3N
Pt
H3N
A
T
G
C
T
A
G
C
A
T
A
T
recA1
磁界あり
recA1
DNA修復機能
JE5595:recA1が欠如
W3110
recA1
H3N
Pt
H3N
A
T
G
C
T
A
G
C
H 3N
Pt
H 3N
磁界の影響でDNA修復機能の一部が機能しなくなる
A
T
A
T
交流磁界がDNA修復機能に影響を与えることになる
A
T
G
C
T
A
G
C
A
T
A
T
ブレオ
マイシン
がん細胞
DNA
ブレオマイシンが細胞内へ
細胞内の鉄イオンを結合
O2
Fe2+
交流磁界の影響を他の抗がん剤より受ける可能性がある
DNAに結合
酸素を活性化
DNA鎖を切断
細胞増殖阻害
シスプラチン
細胞内に入る
H3N
Cl
Pt
H3N
細胞内の水分子と水和反応
Cl
H 2 O+
H 2 O+
がん細胞
A
T
G
C
DNA
DNA鎖に架橋結合
複製を妨害
T
A
G
C
A
T
A
T
細胞の増殖を抑制
曲線がゆるやかになっている
=
抗がん剤の効果が弱まっている
抗がん剤の効果がはっきりしている時間での検討が必要
Inner ring Middle ring Outer ring
実験条件
磁束密度:50 mT
交流磁界周波数:60 Hz
シスプラチン濃度:2.5 mg/ml
実験回数:6回
交流磁界曝露時間:6 h
Inner ring
Middle ring
Outer ring
※ CDDP:シスプラチン
MF:Magnetic fields
Inner ring Middle ring Outer ring
実験条件
磁束密度:50 mT
交流磁界周波数:60 Hz
シスプラチン濃度:2.5 mg/ml
実験回数:6回
交流磁界曝露時間:6 h
*
Exposureの生菌数
存在比=
Controlの生菌数
値が1より小さい
=
磁界によりシスプラチンの効果増強
*:p < 0.05
他の抗がん剤での検討
・ 他の抗がん剤でのこの効果の有効性
・ 抗がん剤のそれぞれの作用機序や分子量の違いからメカニズムの解明につながる
最適磁界条件の検討
・ より抗がん剤の作用が増強される磁界条件を検討し、臨床応用につなげる
メカニズムの解明
・ どこに交流磁界の影響があり抗がん剤の作用が増強されるのかの検討し、この効
果の有効性や安全性の実証
臨床応用に向けて
・ 大腸菌で得られたデータをもとにヒト培養細胞への影響の検討