レタスビッグベイン病の総合防除 - 日本植物防疫協会

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レタスビッグベイン病の総合防除
レタスビッグベイン病の総合防除
いわもと
兵庫県立農林水産技術総合センター農業技術センター
は じ め に
I
ゆたか
あい の
まさたか
岩本 豊 ・相野 公孝
レタスビッグベイン病について
農業生産現場から解決策を求められる生産障害要因の
本病の病原ウイルスについては長らく,1983 年
多くは病害に関するものであり,農業生産において大き
KUWATA et al. により発病レタスから棒状のウイルスが分
な比重を占めている。元来,自然生態系においては,特
離され(LBVV),これがビッグベイン病の病原体であ
に土壌中には,植物病原菌に対して寄生,競合,捕食等
ると信じられてきたが,2000 年に新たなウイルスが発
のなんらかの干渉力を与える微生物が存在し,生態系の
見され,ミラフィオリレタスウイルス(MiLV)と名付
均衡を保っていた。しかし,農業を行うようになった耕
けられ(ROGGERO et al., 2000),これが本病の原因ウイル
地では単一作物を栽培する傾向にあり,それによって微
スであると報告された(LOT et al., 2002)。日本でも同様
生物バランスが崩れ,さらに長期の連作や圃場への化学
の報告があり(石川,2002;前川ら,2002),国際ウイ
物質施用が拍車をかけ,その結果,一部の病原菌が増殖
ルス分類委員会において学名が変更されることになり,
し,農作物の生産過程における大きな障害として表面化
LBVV は LBVaV(Lettuce big ― vein associated virus),
してきた。兵庫県においても,長期の連作が要因となっ
MiLV は MLBVV(Mirafiori lettuce big ― vein virus)と
て土壌病害が顕在化してきている。なかでも,兵庫県の
呼ばれるようになった。さらに,前述の棒状の LBVaV
淡路島南部を中心としたレタス産地におけるレタスビッ
とひも状の MLBVV は,ともに伝染方法として糸状菌
グベイン病の発生は,その典型的な一例である。
によって唯一媒介されるが,いずれのウイルスも土壌中
植物防疫
レタスビッグベイン病は,1934 年にアメリカのカリ
に生息する Olpidium brassicae によって媒介されると考
フォルニアで JAGGER and CHANDLER が最初に報告してい
えられていたが,これらのウイルスを媒介する Olpdium
る。発病当初は,病原体が不明のままで,土壌伝染する
菌については,その性質から非アブラナ科系統の
ウイルス病様の病害と考えられていた。その後,ヨーロ
O l p i d i u m 菌という報告があり(小金澤ら,2004),
ッパ諸国およびオセアニアで相次いで報告されている。
Olpidium virulentus とされている。
我が国で最初に発生が報告されたのは和歌山県で,
レタスビッグベイン病の症状は,葉脈付近の緑色が退
1978 年ころが初発生とされている(岩木ら,1978)。その
色し,白色の葉脈が太くなったように見える。退色した
後,西南暖地の冬春レタス産地を中心に全国に広がった。
部分と緑色の残った部分は非常にはっきりとし,葉縁の
兵庫県でも 1994 年ころから淡路島南部の南あわじ市
縮れは健全株に比べ顕著になる。外葉では網目状にくっ
阿万で初発生が確認されている。発生当初は,散発して
きりと病徴が観察されるが,結球部分では不明瞭であ
いたが,年々発病圃場は増加し,島内レタス栽培面積
る。本病害は,株を枯死させることはないが,生育不良,
(約 1,300 ha)の約 30%に拡大している(図― 1)。しか
結球不良を引き起こし,結果として収量が減少する。
し,ここ 4 ∼ 5 年は,ビッグベイン病発生面積拡大割合
レタスビッグベイン病病原体の病原性は乾燥状態の汚
の伸びは鈍化し,発生程度別に見ると甚発生圃場の割合
染土壌および乾燥したレタス根内部で長期間保持され
は,2004 年には 13.8%と高かったが 09 年の調査では
る。これはウイルス粒子が Olpidium virulentus(以下,
5.9%に低下しており,この間に技術開発してきた発病
Olpidium 菌)の休眠胞子内に取り込まれ,外界環境か
抑制技術が徐々に普及・定着し,一定の成果が上がりつ
ら保護されることによると考えられる。このように取り
つあることが伺える。本稿では,これまでに開発してき
込まれたウイルス粒子が Olpidium 菌の休眠胞子から発
た技術の組み合わせにより本病を防除しようとする総合
芽した遊走子の内部に移り,レタスに感染することによ
防除について紹介する。
り,レタス体内に侵入しビッグベイン症状を引き起こ
す。圃場間での伝搬は,罹病苗の移動や農機具への付着
Control of Lettuce Big ― Vein Disease by Integrated Control.
By Yutaka IWAMOTO and Masataka AINO
(キーワード:レタス,ビッグベイン病,Olpidium,総合防除)
によって起こる。Olpidium 菌単独では連作しても作物
に大きな影響は与えないが,一度 LBVaV や MLBVV の
ウイルスを獲得した Olpidium 菌の場合は異なる。連作
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