229 レタスビッグベイン病の総合防除 レタスビッグベイン病の総合防除 いわもと 兵庫県立農林水産技術総合センター農業技術センター は じ め に I ゆたか あい の まさたか 岩本 豊 ・相野 公孝 レタスビッグベイン病について 農業生産現場から解決策を求められる生産障害要因の 本病の病原ウイルスについては長らく,1983 年 多くは病害に関するものであり,農業生産において大き KUWATA et al. により発病レタスから棒状のウイルスが分 な比重を占めている。元来,自然生態系においては,特 離され(LBVV),これがビッグベイン病の病原体であ に土壌中には,植物病原菌に対して寄生,競合,捕食等 ると信じられてきたが,2000 年に新たなウイルスが発 のなんらかの干渉力を与える微生物が存在し,生態系の 見され,ミラフィオリレタスウイルス(MiLV)と名付 均衡を保っていた。しかし,農業を行うようになった耕 けられ(ROGGERO et al., 2000),これが本病の原因ウイル 地では単一作物を栽培する傾向にあり,それによって微 スであると報告された(LOT et al., 2002)。日本でも同様 生物バランスが崩れ,さらに長期の連作や圃場への化学 の報告があり(石川,2002;前川ら,2002),国際ウイ 物質施用が拍車をかけ,その結果,一部の病原菌が増殖 ルス分類委員会において学名が変更されることになり, し,農作物の生産過程における大きな障害として表面化 LBVV は LBVaV(Lettuce big ― vein associated virus), してきた。兵庫県においても,長期の連作が要因となっ MiLV は MLBVV(Mirafiori lettuce big ― vein virus)と て土壌病害が顕在化してきている。なかでも,兵庫県の 呼ばれるようになった。さらに,前述の棒状の LBVaV 淡路島南部を中心としたレタス産地におけるレタスビッ とひも状の MLBVV は,ともに伝染方法として糸状菌 グベイン病の発生は,その典型的な一例である。 によって唯一媒介されるが,いずれのウイルスも土壌中 植物防疫 レタスビッグベイン病は,1934 年にアメリカのカリ に生息する Olpidium brassicae によって媒介されると考 フォルニアで JAGGER and CHANDLER が最初に報告してい えられていたが,これらのウイルスを媒介する Olpdium る。発病当初は,病原体が不明のままで,土壌伝染する 菌については,その性質から非アブラナ科系統の ウイルス病様の病害と考えられていた。その後,ヨーロ O l p i d i u m 菌という報告があり(小金澤ら,2004), ッパ諸国およびオセアニアで相次いで報告されている。 Olpidium virulentus とされている。 我が国で最初に発生が報告されたのは和歌山県で, レタスビッグベイン病の症状は,葉脈付近の緑色が退 1978 年ころが初発生とされている(岩木ら,1978)。その 色し,白色の葉脈が太くなったように見える。退色した 後,西南暖地の冬春レタス産地を中心に全国に広がった。 部分と緑色の残った部分は非常にはっきりとし,葉縁の 兵庫県でも 1994 年ころから淡路島南部の南あわじ市 縮れは健全株に比べ顕著になる。外葉では網目状にくっ 阿万で初発生が確認されている。発生当初は,散発して きりと病徴が観察されるが,結球部分では不明瞭であ いたが,年々発病圃場は増加し,島内レタス栽培面積 る。本病害は,株を枯死させることはないが,生育不良, (約 1,300 ha)の約 30%に拡大している(図― 1)。しか 結球不良を引き起こし,結果として収量が減少する。 し,ここ 4 ∼ 5 年は,ビッグベイン病発生面積拡大割合 レタスビッグベイン病病原体の病原性は乾燥状態の汚 の伸びは鈍化し,発生程度別に見ると甚発生圃場の割合 染土壌および乾燥したレタス根内部で長期間保持され は,2004 年には 13.8%と高かったが 09 年の調査では る。これはウイルス粒子が Olpidium virulentus(以下, 5.9%に低下しており,この間に技術開発してきた発病 Olpidium 菌)の休眠胞子内に取り込まれ,外界環境か 抑制技術が徐々に普及・定着し,一定の成果が上がりつ ら保護されることによると考えられる。このように取り つあることが伺える。本稿では,これまでに開発してき 込まれたウイルス粒子が Olpidium 菌の休眠胞子から発 た技術の組み合わせにより本病を防除しようとする総合 芽した遊走子の内部に移り,レタスに感染することによ 防除について紹介する。 り,レタス体内に侵入しビッグベイン症状を引き起こ す。圃場間での伝搬は,罹病苗の移動や農機具への付着 Control of Lettuce Big ― Vein Disease by Integrated Control. By Yutaka IWAMOTO and Masataka AINO (キーワード:レタス,ビッグベイン病,Olpidium,総合防除) によって起こる。Olpidium 菌単独では連作しても作物 に大きな影響は与えないが,一度 LBVaV や MLBVV の ウイルスを獲得した Olpidium 菌の場合は異なる。連作 ―― 17 ――
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