VR FORUM 2012講演・パネルディスカッションの - ビデオリサーチ

特 集
VRフォーラムを終えて
Summaries of forum
メディア・コミュニケーション
メディア・コミュニケーション効果に対する
ビデオリサーチの課題と展望
ソリューション推進局
メディア・コミュニケーション事業推進部
布川 英二
「メディア接触と、その結果生じるココロの動
・デフレ化…景気動向と連動するように、給与
き(コミュニケーション効果)の測定・価値化支
生活者の平均給与は 40 万円減少(’
92 年~
援の領域について、ビデオリサーチが考えている
ことは何なのか?」をお伝えしたのが筆者のセッ
ションでした。
’
11 年)
。
・意識の変化…当社 ACR データからは衣・食・住・
買物関連の意識面において「身の丈にあった」
「こじんまりとした」
「ムリしない」などへの変
化が見られる。
この 20 年で、何が変わったか
2)メディアの変化
・インタラクティブメディアの急速な普及…90
まずは、まだインターネットが普及していな
年代後半から 2000 年代の初めにかけて、パ
かった 20 年前と現在を、いくつかの観点で俯瞰
ソコン・携帯電話の所有率が伸び、それにつれ
してみました。
てインターネットの利用経験率も大きく上昇。
(ACR データより)
1)生活者の変化
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・メディアの拡張・拡散・多様化…BS 放送チャ
・少子高齢化…総人口が 1 億 2,000 万人台で横
ンネル数、雑誌出版点数、インターネット利用
ばいの中、
20 代以下が 4,700 万人から 3,600
者の 10%以上が利用しているドメイン数はい
万人に減少し 60 歳以上が 2,500 万人から
ずれも伸びており、生活者のメディア接触の選
4,000 万人へ(’
95 年~’
12 年)
。
択の幅は広がり続けている(=多品種化)
。
・
「家族」の多様化…世帯数が 1,000 万世帯以上
・マス 4 媒体接触時間量は横ばいだが、クチコ
増加。なかでも単身・核家族が増加。また、結
ミ・インタラクティブ系メディア消費時間量は
婚件数が減少する一方、毎年 20 万件以上が離
倍増。ただし、大半はネット・メールの増分が
婚(’
92 年~’
11 年)
。
寄与。
(MCR データより)
Video Research Digest 2013.2
3)広告の概念変化
結果、オーディエンスが顧客に変わる → 顧客
・印刷メディア時代のモデルである AIDMA が長
をファンにする」という一連のプロセスにおい
年参考にされてきたが、2000 年代からイン
て、それぞれがその次のプロセスに対してどの
ターネットの検索性、ソーシャルメディアの共
ような役割や効能を担保しているのかを明確に
有機能に着目した新概念が登場。
示していく必要があるということだと思います。
目標達成指標(売上高など)の手前に、中間指
2) 短期プロモーション(効果の把握)が中
心になっているが…
標(KPI)としてブランドの想起率・認知率・
・POS データの定着や景気動向を反映する形で
欲求度、広告認知率、商品購入率などを設定し、
「短期的プロモーションと、その効果把握」が
広告の刺激に対してこれらの KPI がどう反応
趨勢になっていますが、短期決戦的なプロモー
したのかを管理することが一般的に。
ションによる顧客の刈り取りと同時に、何らか
て広告効果把握が複雑化する中、経営上の重要
VR FORUM
・KPI マネジメントの定着…ネットの出現によっ
の中間指標によってブランド力自体が時系列的
4)購買行動把握の変化
にどう変化しているのかも把握しながら、
「短
・従来の通販・顧客会員組織を超えた規模で購買
期的な成果」と「中長期的なブランディング戦
行動の把握が実現…電子マネーや複数の業態に
略」という、いわば「クルマの両輪」で管理し
またがる顧客ポイント管理、さらにはそれらを
ていくことが重要ではないでしょうか。
用いてネット通販とリアル店舗とのプロモー
ションの連携などが実現
3) 良好な広告コミュニケーションのために
は…
以上の環境変化が、メディアプランニングや広
・
「広告によって、どのぐらいメッセージが届い
告コミュニケーション効果の把握にもたらしてい
たかだけでなく、
『何をどう感じてもらえたか』
る課題・問題を次に整理しました。
が知りたい」という声をいただくことがありま
す。
問題提起
~いま語られている課題を俯瞰する~
・そのためにも、広告コミュニケーション効果の
手前にある「メディア接触・到達」というステッ
プにおいて「媒体やビークル配分をどうするか、
1) 説明責任(アカウンタビリティ)の増大
クリエイティブ戦略をどう考えるか」という、
・
「広告の刺激とレスポンス(究極的には売上)
」
「届けるまでの工夫」
「届けるための工夫」も大
の関係といった、ダイレクトなアカウンタビリ
事になってくると思います。
ティが求められています。
ルにどのくらいの到達パワーがあるのか」とい
4) いわゆる「枠売り」にとどまらない広告
メディアの価値化
うアカウンタビリティも求められます。
「到達ボリューム」というマス媒体ならではの
・また、
「広告が掲載される各メディアやビーク
・さらに「生活者やオーディエンスに、どのくら
強みを売買することは今後も重要ですが、それに
いの購買力が備わっているのか」という点も従
加えて…
来以上に重視されてきています。
・
「広告の枠と枠、メディアとメディアがつながっ
・これは突き詰めると、
「人がメディアに接する
→ そこに特徴的なオーディエンスが形成され
る → そのメディアに出稿された広告に接した
オーディエンスに心の動きが生まれる → その
た総体的な枠」を価値化する。
・ローカル市場を念頭に「エリアという枠」を価
値化する。
・新聞のような媒体では「単なる到達力だけでな
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く読者との間に構築された高い信頼」を価値提
には、性年齢・職業といったデモグラフィック
示する。
的な要素に加え、彼らの金銭感覚、育ってきた
・雑誌のようなセグメント性の強い媒体では「絞
社会環境、行動半径・生活リズム、さらには価
られたターゲットにここまで届く、あるいは
値観のようなサイコグラフィック的な側面の強
ターゲットの含有率」自体を価値化する。
化も重要になってくると考えています。つまり
・さらに、インタラクティブ広告では既に実践さ
「生活者が見えにくくなった」のであれば、
「見
れていますが、
「オーディエンスを個人単位で
るツール」を充実する必要があるという考え方
価値化する」ということまで、今後はデータで
です。
も見据えて行く必要があると思います。
・そして「生活者の包括的な理解」のためには、
「データ自体をどのような人達から収集するの
5)「川上(商品開発)から川下(店頭・購買)
まで」のベースに ・・・
か?」という点がポイントになってきます。
・
「生活者全体の中で1割にも満たないネットリ
・広告主の方々が統合的マーケティング活動の観
サーチモニターから収集する情報」と、
「特定
点で「商品開発から店頭・購買までを一気通貫
層から、いわば半自動的に大量に蓄積される
的に捉える管理」の喩えとして「川上から川下
ビッグデータ」が注目されている今だからこそ、
まで」という表現をなさることがありますが、
市場全体・生活者全体の正確な把握・推計が可
その大前提として、やはり実は「生活者全体、
能なデータ整備が、改めて重視されているので
すなわち市場全体」こそが「本来の川上」であ
はないでしょうか。
ることを意識しなければいけないシチュエー
・これらのデータはもちろん使い分けが肝要です
ションが、これまで以上に重視されていくもの
が、生活者理解・メディアの普及・到達・コ
と思っています。
ミュニケーション効果の領域では「世の中全体
がキチンと推計できる、代表性のある調査」で
以上の課題を踏まえながら、これまでの当社の
実施されるべきであり、これは当社設立からの
取り組みを総括しました。
DNA として、
今後も大事にしたいと思います。
VR の総括
2)
「メディアプランニングデータ」の領域
・1976 年開始の ACR では、生活者を「オーディ
エンス」と「コンシューマ」の両面から捉える
1)
「生活者」の領域
という、当時としては先進的なコンセプトでの
・
「現在のオーディエンス」や「購入者(コンシュー
データ整備が開始されたと思います。
マ)
」は、生活者全体の一部(一断面)にすぎ
・一方で、最近の 10 年余りにおいては、各メディ
ません。
「メディアに接していない人・買って
アの特性やセールスポイントを意識した単媒体
いない人」も含めて、はじめて「生活者」の把
ごとのプランニングデータの整備にも取り組ん
握が可能だと考えます。
・ただ、開始から 30 年以上を経た ACR は、そ
部分的なデータ分析だけでなく、過去のオー
の調査コンセプト・測定コンセプトに大きな変
ディエンスや、未来のコンシューマを含めた包
更を加えてきませんでしたので、
「生活者やメ
括的な「生活者起点のデータ整備」を私達は意
ディアの多様化、広告活動の変化」について、
識する必要があると感じています。
今でも十分に対応できているかという点で、課
・今後も多様性を増していく生活者を捉えるため
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できました。
・直近の読者やユーザーのプロフィールといった
題があるというのが正直なところです。
Video Research Digest 2013.2
3)
「広告コミュニケーション効果」の領域
VR がこれから取り組むこと
・当社はこれまで
「テレビ CM 出稿量と CM 認知・
ブランド考慮」を中心にデータを整備してきま
した。
以上の総括を踏まえ、当日は以下の具体策3点
・テレビでは 24 時間・365 日分の出稿統計が
をお伝えしました。 な効果が精緻に分かる」という性格が強いもの
1)新たな生活者シングルソースデータ
(図表1参照)
『New ACR
(仮称)
』
の開発 になっています。
・サンプルの代表性を保ちながら、7 地区合計で
ロの動き」の関係が把握できますが、
「事後的
・その意味では「PDCA」活動の「C(チェック)
」
VR FORUM
ありますので、日々変動する刺激の量と「ココ
1 万人規模に拡充します。
というステップには厚みがありますが、
「P(プ
・関東地区では 50km 圏にエリア拡大し、1年
ラン)
・D(ドゥ)
・A(アクション)
」の部分
間の長期パネルを構築。その上でメディア接触
でどんなお手伝いができるか、していくべきか
を年 2 回測定。さらにブランド浸透
(認知・欲求・
が今後の課題だと考えています。
利用)を年 4 回測定します。
・生活行動時間の測定を強化すると同時に、新た
4)
「業界標準データ」としての役割。
「頻度・
スピード」の課題
にサイコグラフィックによる生活者の分類属性
・ これまで「第三者調査機関による業界標準デー
・顧客独自テーマに対応する追加質問のオプショ
を付与します。
タ」としてご利用いただくシーンが多く、当社
ンサービスも予定しています。
もその役割を自覚しながら、定型化した定点調
・調査からデータ提供までをスピードアップし、
査を、安定的に提供してきましたが、その一方
ブランド浸透とメディアプラン双方に立脚した
でユーザーの皆さまからは、様々な視点でのカ
PDCA を回せるようにするべく、調査票を電
スタマイズのご要望をいただいてきました。
・「これからの業界標準」としてVRデータの位
子化します。
・すなわち、New ACR では…
置づけや提供スタイルをどうしていくべきか、
○「全体推計が可能な代表性」をコアの価値に
新たな対応を始めたいと思っています。
据えながら、
・あわせて「生活者の変化速度に対応し、
旬なデー
○カスタム質問によってフレキシビリティを高
タを旬なうちにご利用いただく」ための工夫も
め、
求められていると認識しています。
○スピーディに収集したデータを、スピーディ
【図表1】
「New ACR」の開発意図・ソリューションイメージ
多様化に
対応
説明力の
向上
顧客化の
支援
ファン化の
支援
顧客管理
購買
レスポンス・
効果
コミュニケーション
プロフィール把握
メディア接触・
生活者の把握力強化
すべてのベースとなる、
これまでの守備範囲
これからの守備範囲
商材のブランディングに加え、メディア・コンテンツのブランディング支援も目指します。
【提供から提言まで】
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に・簡単に分析・ハンドリングできる次世代型・
クラウド型のシステムソリューションによっ
しています。
・今後はそれぞれのプロセスごとに、例えば「戦
略立案」であれば New ACR や、過去の時系
てご提供し、
○併せてユーザーごとのカスタム分析メニュー
列データを元にしながら生活者と市場の理解を
お手伝いしたり、表現・クリエイティブ面では
開発にも対応していく計画です。
○そしてこの New ACR を含む当社ならびに当
絵コンテ・テストや候補素材のオフエア・テス
社グループのデータ、さらにはユーザーの保
ト、そして New ACR によるプランニング立
有データを有機的につなぎ、新たな価値を提
案など、全般にわたる業務支援をさせていただ
供していくためのハブとして位置づけ、それ
らを駆使した「提言型のサービス」を目指し
きたいと思います。
・最終的には、コミュニケーション活動を通して
ブランドに関するマインドシェアがどのように
たいと考えています。
※「New ACR」に関しては、別号にてあらため
高まるのか、そして、たとえば流通 POS デー
て詳しくお伝えいたします。
タと GRP を絡めた店舗分析までへとつなげる
ご提案をしていきたいと考えています。
2)テレビ広告を中心としたコミュニケー
ション効果領域の強化 (図表2参照)
3)テレビ以外のメディアについて ・これまではCM出稿後の「事後評価」として、
(図表3参照)
「CM カルテ」で得られた認知率と出稿 GRP
・これまで当社では、ラジオ・新聞・雑誌・屋外
の関係であるとか、
「Mind-TOP」によるブラ
などの各媒体について、媒体到達とオーディエ
ンド想起率などとのモデル分析などにより、
「刺
ンスのプロフィールデータの整備と、その業界
激とココロの動き」を説明する取り組みを重ね
標準化に向けて取り組んできました。
てきました。しかし、実際のコミュニケーショ
・現在は媒体到達の次のレベル、すなわち広告の
ン計画の際には、
「戦略をどう組み立てるか」
、
到達状況や、インタラクティブ時代における媒
「表現・クリエイティブをどうするか」
、
「作品
体価値の再定義という領域についてもチャレン
案のうち戦略に合致する効果が期待できるのは
ジを続けています。
どれか」
、
「そして適切な出稿計画は?」という
・例えば新聞広告については、新聞社や広告会社
ように、出稿前にも検討すべきプロセスが存在
の協議によってスタートした「新聞広告共通調
【図表2】テレビ広告を中心としたコミュニケーション効果領域の強化
①戦略立案
切り口 / 強化するイメージの選定
生活者研究・市場理解(生活者シングルソースデータ(New ACR)、ロングレンジデータ)
②表現開発
絵コンテ・テスト
切り口の魅力は?
狙ったイメージをまとっている?
そもそもブランド名は残る?
③作品案の選定
フィルム・テスト
④プランニング
New ACR(仮称)
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オンエア後
⑤事後CM評価
切り口の伝達度 購入喚起度 CMイメージ ブランド名想起
⑥ブランド評価
ブランド連想
マインドシェア(&イメージ)
⑦購買動向チェック
(GRP)
流通POSで店舗分析
Video Research Digest 2013.2
査プラットフォーム J-MONITOR」の運営パー
トナーとして参画しています。
・ さらにラジオについては、
「radiko」や「らじ
る★らじる(NHK)
」に代表される IP サイマ
・同様に、雑誌広告・鉄道広告についても業界全
ル放送によって、放送波とデジタル送信による
体で活用いただける広告効果の共通指標整備に
相乗的な媒体価値がどのように示せるのかにつ
向けて、関係者の皆さまと協議を重ねていると
いて、当社としても研究を始めたいと思います。
VR FORUM
ころです。
【図表3】テレビ以外のメディアについては…
•メディアごとに、各業界関係者と連携しながら支援活動を強化。
広告効果指標の整備
媒体価値の再定義
新聞 :J-MONITOR
雑誌 :日本雑誌協会・日本雑誌広告協会との協議
OOH :日本鉄道広告協会と協議
ラジオ :IPサイマル放送による
ラジオパワー研究
広告メディアの価値を、どう可視化すべきか、可視化できるか、
今後もチャレンジを続けます。
最後に
ション効果についても説明力を向上させ、
◆そのブランドとコンシューマの絆づくりをサ
ポートさせていただく。
これから当社が取り組むことを整理しますと…
ということになります。
◆メディアプランニングの領域、広告コミュニ
ケーション効果の領域を、それぞれ分け隔てす
そのためには、お客さまとのお付き合いを深め
ることなく、
るために、データ整備の面だけでなく、我々自身
◆生活者起点を意識しながら、
の仕事のスタイルも改めて見つめ直しながら、サ
◆多様化するメディア接触とオーディエンスプロ
ポート領域を「真の川上である生活者から顧客管
フィールの把握を充実し、
◆そのメディアに出稿された広告のコミュニケー
理のプロセスにいたるまで」拡げていけるよう、
研鑽を重ねたいと思います。
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