「ズファジラン」⑪(isoxsuprine)の胎児・新生児に 及ぼす影響 国立小児病院未熟児新生児科 内 藤 達 男 rズファジラン」③(Duvadilan⑧)(is。一 一st imu lant sの流早産防止剤の一として,世 考えられている。また,ISXは,アプガールス コア・新生児死亡率長期の追跡調査の結果(I SXのlong−term effect)には影響を及ぼ 界的にも広く用いられている。しかし,意外にも, さないとされている。 xsupr ine,以下,I S Xと略す)は,現在,β 胎児・新生児に対する影響については,ほとんど 以上,要するに,現時点では,I S Xの胎児・ 研究されていないのが現状のようである。 新生児に及ぼす影響に関しては,B razy一派の 今回,.われわれは,(1)「ズファジラン」が胎児 研究を越えるものはなく,今後は,彼らの成績を ・新生児に与える影響に関する文献的考察,(2〉主 追試する意味をも含めて,より広い検討の必要性 に一般産科医院で「ズファジラン」がどの程度使 が示唆されたQ われているかのアソケート調査,および(3)某病院 産科で「ズファジラン」がどのように投与され, 皿.「ズファジラン」⑧が早期陣痛発来防止の目 出生した新生児がどのような状態であったかの retrospectiveな検討等を行ったので報告す 的で・現在どの程度使われているか・またその新 生児への影響に関するアンケート調査: るo 目 的 「ズファジラン」③魁東京都内外の極く限ら 1.「ズファジラン」⑪が胎児・新生児に及ほす れた地域ではあるが,どの程度投与されているか, 影響に関する文献的考察: また,妊娠中に「ズファジラン」を投与されたに 1979年に,Brazy一派がISXの胎児・ もかかわらず出生した新生児がどのような状態で 新生児に与える影響に関するretrospectiveな あったかをアンケートで調査すること。 検討の結果を発表するまで,文献上の報告の多く は,I SXによる母体の頻脈や低血圧に伴なう胎児 対 象 の頻脈に関するものであったQ Brazyらは, 東京都内外(世田谷区,渋谷区,目黒区,杉並 1981年には,母体血中および贋帯血中のI S 区が中心で,これに横浜,川崎,埼玉県の極く一 X濃度と新生児の合併症の発生率の相関を,Pro− 部の施設が加わる)の産科施設,一・般産科医院 spectiveに詳細に検討し,I SXの駕%oxi− 159施設(89%),一般病院産科20施設 c i ty”としての可能性として,低血圧,低血糖 (11%),計179施設を対象とした(アンヶ 症,低カルシウム血症,および腸閉塞などの新生 一ト回収率278施設中64%)。 児の合併症を重視した(表1.)。ふり返って本邦 では,極く最近(1981年)松田らが,「ズフ 結果およぴ結論 ァジラン」の大量療法の新生児への影響について 東京都内外の極く限られた施設に対するアンヶ 検討し,Brazyらの研究の追試を行っているの 一ト調査なので,断定的なことは言えないが,概 が唯一の報告のようである。 ね以下のようなことが判明した。(1)「ズファジラ I S Xの胎児・新生児に及ぼす影響は上記合併 症の他に,(1)肺サーファクタント生成促進の可能 ン」は,昨年,同様の対象でアンケート調査した 「インダシン」⑰よりもかなり広く使われている 性(今のところ動物実験の域),(2)特発性呼吸 こと(約70%の施設)(表2)。 窮迫症候群の発生率の減少,(3)胎児発育促進等が (2)投与方法は,点滴静注と経口投与の組合せが多 一42一 鳶 い。(3)「ズファジラン」投与が無効に終った経験 らの合併頻度は不明であったが,少なくとも,け を50%の施設がもっていた。(4)「ズファジラン」 いれんなどの神経症状を呈したものはなく,また 投与による未熟児・新生児への悪影響の経験また 腸閉塞症状を起こした例もなかった。また,「ズ は,印象はほとんどなかった。以上のようなこと ファジラン」投与例の児に,死産や生後間もなく から,「ズファジラン」が,児にとって安全な薬 の死亡が多いようにみえるが,これは,古い年次 剤であると解釈することができるが,またその悪 の症例であることを考えると,新生児管理の問題 影響が深く認識されていないとも解釈され得る。 が主因で,「ズファジラソ」による死亡率の増加 さらに,文献にあるような投与方法(すなわち, ではなさそうである。今後,より詳細な検討が必 相対的大量投与法)をとっていないためとも考え 要であると思われた。 られるQ今後,これらの点についてさらに細かい w.結語: 検討が必要であろう。 流早産防止剤として母体に投与された「ズファ 皿.某病院産科での「ズファジラン」⑪の投与状 ジラン」⑲(i s。xsupr i ne)は,母体血中濃度 況と新生児の出生時の状態; に比例して経胎盤性に胎児に移行し,結果的に rug−free interva1”が短かくて出生し 目 的 「ズファジラン」について,それが実際にはど てしまった未熟児や成熟児(正期産児)に,ある ヒq のように投与されているかを.某病院産科での昭 一定の贋帯血中濃度(2ng溜)以上で,直接的 和49年から昭和55年の7年間の病歴よりre− trospectiveに調査したのでその結果を報告 ないしは間接的に関与して,低血圧,低血糖症, 低カルシウム血症,腸閉塞などの合併症をより多 するo くひきおこし得ることが,最近のBrazyらの一 連の詳細な研究で明らかにされてきた。しかし, 調 査事 項 これらの成績を追試し,その妥当性を証明するよ (1)「ズファジラン」の投与方法および投与量。 うな研究は今のところ皆無に近く,今後に残され (2)「ズファジラソ」の投与例数の年度別推移とそ た課題であろう。 の結果。(3)妊娠月齢別投与例数。(4)rズファジラ 一方,本邦でも,現在,実地医家の間で,「ズ ン」投与例における未熟児・成熟児の出生数と新 ファジラγ」の投与がかなり普及していることを 生児の状態。 今回のアンケート調査である程度知ることができ た。今後,「ズファジラン」が,流早産防止薬と 結果および結論 この病院の産科では,比較的「ズファジラン」 して,今まで通り,広く使われていくとするなら ば,産科医と小児科医の共同で,投与量をも考慮 がよく使われている(5年間で,371例に投与) しながら,Brazyらの結果を追試していく必要 が,その投与量は文献にある量よりも比較的少な があろう。このことは,今後増えていくであろう く(点滴静注量10∼30μg/分,または,経口 投与量30∼60庵/日),そのためか,「ズファ perinatal eenterの一つの役目でもあると 考える。Brazyらが,使用上のガイドラインの ジラン」投与後48時間以内に娩出された新生児 中で示している如く,(1)「ズファジラン」投与中 28例(早産児25例,正期産児3例,平均出生 体重19049,平均在胎週33週)に悪影響を与え することはもちろん,(2)投与法によらず,「ズフ た様子は,過去7年間になかったと推測される ァジラン」療法を受けて出生した新生児(とくに (表3)。低血糖症・低カルシウム血症,低血圧 未熟児)に対しては,おこり得る合併症を予測し, などの児の合併症は・実際には,血糖や血清カル 直ちに治療され得るように出生後直ちに小児科医 シウム,血圧が測定されていなかったので,これ にみせるべきであることを強調したい。 は,母体に副作用が起こらないかを注意深く監視 一43一 (表1.)1 母体のI S X投与による未熟児・新生児の合併症 合併症 頻 脈 発 生 機 序 多分,I SXの心筋への直 作用 母体血中または膀帯血中 コ メ ン ト ISX濃度との関係 (点滴静注量が0,25噸nin 越えると胎児に頻脈が る) 33週未満の未熟児はI S 贋帯血中濃度と発生率が正 低 血 圧米 末梢血管拡張 体の低血圧からの二次的 の血圧降下作用を受けや い。この低血圧は死因に 相関。 0ng/薦以上では89% も関係あり・Q に出現。 低血糖症来 <40綱4) I SXによる肝の糖新生促 による肝グリコゲンの枯 低Ca血症来 I SXによる副甲状腺機能 <75鰯d4) 腸 閉 塞米 特発性呼吸※ 迫症候群 必ずしも母体の頻脈や低血 に伴って来るとは限らな 下? I SXの腸管への直接的な 緩作用 肺サーファクタントの肺胞 の遊離(放出)の増加? I S Xの贋帯血中濃度と相 35週未満で出生した未熟 に有意に多い。 せず。 母体の血中Ca濃度には変 麟帯血中濃度〉10ng/認 100%に出現。 なし。 壊死性腸炎ではない。 膀帯血中濃度とは相関せず。 S X投与中止後,48時 以上経過してもおこる。 膀帯血中<2ng溜では稀。 0ng∠磁を越えるとかえ て発生率増。 今のところ,データはすべ 動物実験による。 米 B razy,」。E,,(1979,1981)の報告による。 注〕 I SXの投与法(Brazy,J.E・,et aL) 最初,10ading doseとして,I SX5mgを,5∼15分以上かけてゆっくり静注 し,その後O,5解/inin.のスピードで点滴静注。2∼4時問後に子宮の収縮が減弱 または消失した時には,0,25確/min・とスピードを半減し,さらに,20∼22時間 続行し,その後36∼38週まで経口投与〔20解を4時間毎,または30雁を3時間 毎)を続ける。なお,点滴静注時に,①母体の頻脈(〉120/分),②低血圧(拡張期 圧が15㎜Hg以上低下),③胎児モニターで〉161ン分の頻脈またはdeceleration が出現した時は中止または半減Q (表2.) 「ズファジラソ」⑧の投与経験に関する (参考)「インダジソ」⑬の投与経験 アソケート結果 (昨年度研究) 項 目 1)現在使っている 2)以前は使ったが 現在は使っていない 3)使用した経験はない 4)今後使ってみたい 施 設 数 施 設 数 122 (68%) 16 で13%) 32 (18%) 10 ( 8%) 23 (13%) 97 (78%) 2 ( 1%) 1 ( 1%) 一44一 (表3.) rズファジラン」投与例と新生児 症 滋 氏名 点滴静注 μ創分) 経 口 囎/日) 新 在胎週 生 児 出生時体重 〔9) 分姪前まで「ズフ 7ジラン」 を投与していた症例 51 1 2 3 4 5 6 7 53 8 9 54 10 50 11 37 ? 山O 伊o 丸O 一 戸 O 渚Q 10 10 10 20 石Q 鳥o 加0 小O 杉O 10 20 20 20 20 ︸36 49 50 30 32 28 24 36 30 30 60 34 35 33 36 2400 2200 童670 1350 死産児 550 590 2750 死産 2董00 2700 2000 2750 小腸閉鎖 死産 特発性呼吸窮迫症候群 「ズファジラン」中止から分娩までの間隔が48時問以内の症例 12 13 5: 14 15 16 17 】8 52 53 54 19 20 21 22 23 24 25 26 遠○ 北o 都o 高o 原O 松o 石o 田O 島o 川o 竜o 川O 山O 増o 小o 新o 10 10 10 10 20 10 20 30 20 20 20 20 20 30 30 28 35 37 32 一 60 24? 27? 30 30 35 36 35 38 36 } 28 27 60 60 60 31 36 36 1100 2450 2900 1700 680 780 死亡(生後11時間) 死産 死産 2370’ 2650 2350 2500 2900 900 1000 1000 1820 2350 2600 死亡(日齢7) 死産 中止後,48時間以上経過して分娩に至らた症例 49 50 51 ■ ゆ 「ズ」投与法・量 例 年慶 27 28 29 30 31 52 53 54 32 33 34 35 加0 鹿o 白O 善O 岡O 本O 藤o 蓑o 神o 20 10 10 10 20 20 20 20 20 30 30 30 30 60 29 27 29 36 30 37 27 一 37 37 一 一 一45一 ゾ 1600 1300 2250 2300 1850 2150 1100 2350 3100 死亡(生後11時間) 死産(羊水過多,母体シ”ク) 口蓋裂
© Copyright 2024 ExpyDoc