チョウの生物学

チョウの生物学
Ⅰ 種と多様性
第1章 系統と種分化
1.1分類の現状
分類階級
界(kingdom)
門(phylum)
綱(class)
目(order)
科(family)
属(genus)
種(species)
たとえば
動物界、植物界、モネラ界・・・
脊椎動物門、ミドリムシ植物
哺乳類、両生類、爬虫類、・・・
霊長目、食肉目、偶蹄目、・・・
ヒト科、ネコ科、イヌ科、・・・
Homo
sapiens
亜綱(subclass)
上目(superorder)
目(order)
亜目(suborder)
下目(infraorder)
区(division)
上科(superfamily)
科(family)
階級に上(super-) 、亜 (sub-)、 下(infra)をつけることもある。
・チョウとガの区別は古くからされているが分類学上区別はない。
・チョウとガの区別点は多数ある。
1.1分類の現状
チョウ目(鱗翅目、Lepidoptera )
日本にはいないガ亜目
コバネガ亜目(原始的なガの仲間)
Glossata 亜目
Heteroneura 下目
Bombycina 亜節
カイコガ上科
ヤガ上科
アゲハチョウ上科ーアゲハチョウ科、シロチョウ科、
シジミチョウ科、タテハチョウ科
・・・
セセリチョウ上科ーセセリチョウ科
シャクガモドキ上科ーシャクガモドキ科
1.1近年の分類の話題
ヒマラヤのテングアゲハ(Teinopalpus imperialis )
アゲハチョウ属か
アオスジアゲハ属かで議論
→アゲハチョウ属に(1987)
生態型(ecotype)
食草、生息環境での差異、平地型と山地型
1.1
カナダトラフアゲハ(左) トラフアゲハ(右)
アメリカキアゲハ Papilio zelicaonのmountain ecotype下
サトキマダラヒカゲとヤマキマダラヒカゲ
1.2遺伝と種間関係
多化性の種では、春型・夏型は同種でも見た目が違うが
同時期ではほとんど変わらない
同時期に発生する種は異種でも似ているものが多く、
集団を作っていることもある
→同種の異性と認識した個体と交配し、異種の異性と認識すると交配
しない
ギンボシヒョウモン♂
ウラギンヒョウモン♂
オオウラギンヒョウモン ♂
下:後翅裏面の斑紋の違い。チョウは目がいいわけですが(11章)まさかこれを飛んでる状態でわかることはないよね・・・というより紫外線見えるとはっきり区別できるのでしょうか
♀比べなきゃ意味なくない?というのもそうですが、 ♀も似ています。食草はスミレ類なわけですが、ギンボシはクリンユキフデ(タデ科)も食べます。
1.2遺伝と種間関係~染色体数
発生期にかかわらず、染色体数と核型は種によって一定である。
Robinson(1971)によりチョウ目1000種の染色体数を調査した。
チョウの染色体数(n) (Robinson,1971改変)
染色体数(n)
科名
調査種数 最少 最大 モード★
セセリチョウ
53
13
58
31
シジミチョウ
160
10 151
24
タテハチョウ
160
13
57
31
アゲハチョウ
42
20
62
30
シロチョウ
94
12 104
31
ジャノメチョウ
126
8
52
20
★最大頻度
n=31がもっとも多い → n=31が祖先型? Beliajeff(1930)
染色体数変異は染色体の重複、融合、切断、種内変異での
過剰染色体が研究されている。
ちなみにサトキマダラヒカゲはn=46、ヤマキマダラヒカゲはn=28.
1.3種の定義、進化学説、系統の解析
チョウの翅の斑紋による進化の研究
翅の基部より外側へリング状に斑
紋が広がり、それぞれの斑紋に変
化が起こる日浦(1980)
♂ F2
×
♂ F1
♀ F2
♂テンジクアゲハ
♀ナガサキアゲハ
斑紋がリングの層ごとにどちらか
の形質が別々に現れる
♀ F?>5
♀ F1
♀ F2
1.3 単一型(monomorphic)と多形型(polymorphic)ミミック
アオジャコウアゲハは、擬態のモデルとしてアメリカの研究者の間で盛
んに研究されている
アオジャコウアゲハ ♂♀
トラフアゲハ ♂:上♀:下(黒色型)
メスのみが擬態しているパターン。
クスノキアゲハ ♂♀
オスメスともに擬態しているパターン。
多形型 polymorphic:同種内で擬態をしている型と擬態をしていない型の両方が存
在する。トラフアゲハの♀には、擬態をしていない雄と同じ黄色型と、アオジャコウア
ゲハに擬態する黒色型の2型がある。
単一型 monomorphic:♂♀の違いはあるが、羽の模様が変わらない。クスノキアゲ
ハなど。
1.3
Polymorphicの別の例
オスジロアゲハ♂♀
アフィニスカバマダラ (有毒)
進化の経路が同じで、毒草を食べる種と食べない種になったのか、
別の進化の経路で、擬態により形態が似ているのか(←ほとんど
遺伝的に調べる必要がある
1.3同種?別種?
有尾型は無尾に対して優性らしいですが ・・・
パラワンアゲハ♀(フィリピン)
ナガサキアゲハ♀有尾型
日本では別種
Clarkeら(1968)は同種
ナガサキアゲハ雌雄同体
型?!
ナガサキアゲハ♀シメルー島
1.3 系統分類
形質を祖先から受け継いできた祖先形質と、それから変わっ
た新しい形質に分けて、集団ごとにまとめ、新しい形質を共
有する集団は同じ系統に属する単系統群として系統の進化
を把握する。
ー→チョウ類では進んでいる!
チョウは雑種(交雑)をつくる⇒形質が連続となってしまうが、
F1世代までしか自然界では発見されていない(in Japanね)
一方テンジクアゲハ×ナガサキアゲハの共通の分布域、ベ
ンガル地方では自然交雑種が多数発見され、実験室ではF2
も生じる
1.3自然界での交雑~オオアメリカモンキチョウとアメリカモンキチョウ
アメリカモンキチョウ オオアメリカモンキチョウ
北米大陸全土
かつてはロッキー山脈東麓
食草は共にマメ科の草本類
自然界でも数%の頻度
でF1が存在する
20世紀初頭、牧畜が拡大&密に行われ
るようになりオオ~は分布域を拡大した
ところがF2は存在しない。
仮に異所性の集団間で、人工的にF2が作れたとしても、自然
環境で両集団(別々の地域のアメモンとオオアメモン)が接
触し、交雑が起こらなければ完全に生殖隔離されているの
で、同種とは言えない
1.4 種の形成、種の分化
異所的種分化
A
生息地の分断化
A1
A2
遺伝子に突然変異が生じ、蓄積され雌雄間の認識・交尾が不可能とな
り生殖的隔離→分化
B
C
集団の生息地が同じになっても交雑はしない
B
C
カラスアゲハの様に細長く分布していると分断化されなくても分化する
1.4種の形成、種の分化
同所的種分化
昆虫の中には、 1日の限られた時間にのみ交尾する種がいる。
→交尾時間を決める遺伝子に突然変異が起こり、同所性集団中に異
なる交尾時間を持つものがあらわれたとき、集団内で生殖的隔離が起
こる。
ミドリシジミの仲間(正確じゃないですが笑
ミドリシジミ
テリトリーに侵入した他個
体を追飛する。
活動時間帯は夕方。
オオミドリシジミ
テリトリーに侵入した他
個体を追飛する。
活動時間帯は午前10
時前後と夕方。
ヒロオビミドリシジミ
占有性をもちテリトリー
に侵入した他個体を追
飛する。
活動時間帯は午前10時
〜午後5時。
ウラジロミドリシジミ
占有性はなく、植樹の周り
を激しく飛翔。活動時間帯
は夕方(早朝も?)
1.4 種の形成までの時間
フィリピンー台湾、地理的隔離
台湾
ナミアゲハ
バシー海峡:100万年前
フィリピン
ベンゲットアゲハ
ちょっと丸い
毒チョウに擬態か
1.4 分布域
ナガサキアゲハとクロアゲハとカラスアゲハ
第三紀
6430万年前から180万年前
その後(2000年ぐらい前でしょ
うか)温暖化前。
現在2009年
1.4 系統図
「雑種ができやすいほど近縁」(阿江、1988)
受精率、孵化率、最終到達齢、羽化率、性比を数値化して近縁関係を
調べた。
→従来の方法の結果とよく一致。
⇒カラスアゲハ類はDNAを用いた場合とも一致した。
分化指数をもとにしたカラスアゲハ群の系統関係(阿江、1990)
ミトコンドリアDNA(ND5)の塩基配列解析によるカラスアゲハ群の系統関係(Yagi、2006)
1.5擬態と地理的変異、種内の多様化と進化
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