いわき市郊外山域のチョウ類群集に おける成虫の食物資源様式

最優秀賞(高等学校
個人研究の部)
いわき市郊外山域のチョウ類群集に
おける成虫の食物資源様式
福島県立勿来高等学校
3年
Ⅰ
飯塚日向子
はじめに
福島県いわき市は東北地方最大の広域都市として、福島県太平洋側南端部に位置する。
い わ き 市 で は 110 種 の チ ョ ウ 類 が 確 認 さ れ て い る ( 松 崎 , 1981, 1984) 。 筆 者 は 、 現 在
の い わ き 市 の チ ョ ウ 類 群 集 の 特 徴 を 把 握 す る た め に 、2005 年 4 月 か ら 11 月 ま で 福 島 県 立
勿来高等学校理研部の部活動として、福島県いわき市郊外山域のチョウ類群集の多様性に
つ い て 研 究 を 行 な っ た ( 福 島 県 立 勿 来 高 等 学 校 理 研 部 , 2005) 。 そ の 結 果 、 調 査 地 域 で あ
る市内の石森山・水石山・仏具山の 3 地域のチョウ類群集の多様性は高く、チョウ類群集
にとって良好な環境であることが確認された。一方、群集の多様性と資源利用様式の関係
をみるために、成虫の食物資源利用様式についても併せて調査を行なったが、年度途中の
一 部 の 報 告 の み し か で き な か っ た 。そ こ で 今 回 、2005 年 に 行 っ た 成 虫 の 食 物 資 源 利 用 様 式
の 調 査 結 果 を 初 め て 3 地 域 ご と に 報 告 し 、併 せ て チ ョ ウ 類 群 集 の 多 様 性 と 成 虫 の 食 物 資 源
利用様式の関係を解明し、最後に成虫の食物資源利用様式からみたチョウ類群集の保全の
在り方について考察することを試みた。
Ⅱ
調査地および調査方法
1. 調 査 地 の 概 要
いわき市は福島県太平洋側の南端部に
図 1
位置し、阿武隈山地の東縁部にあたり、
調査地域の位置
水石山
東北地方最大の広域都市である。調査地
石森山
は、いわき市内の東部、中央部、南部を
調 査 す る た め に 3 つ の 地 域 を 選 ん だ( 図
1) 。 以 下 、 各 地 域 の 詳 し い 記 載 は 前 報
仏具山
( 福 島 県 立 勿 来 高 等 学 校 理 研 部 , 2005)
で行っているので、ここでは概要のみ述
べる。
(1) 石 森 山
石森山は福島県いわき市の中心部から
北 へ 約 6km に 位 置 し 、 標 高 224.8m で あ る 。 石 森 山 一 帯 は 保 全 林 と し て 市 の 指 定 を 受 け 、
管 理 の 良 く 行 き 届 い た 典 型 的 な 里 山 で あ る 。 調 査 は 総 延 長 約 2.9km の ル ー ト を 行 な っ た 。
頂上付近以外の調査ルートは舗装され、小さな広場や空地が点在し、ツツジ等が沿道に植
-1-
栽されている。またルート全体の植生はコナラを主とした二次林となっており、落葉樹、
灌木類、常緑針葉樹など多様である。
(2) 水 石 山
水 石 山 は 市 中 心 部 か ら 北 西 へ 約 16.5km に 位 置 し 、 阿 武 隈 山 地 の 東 端 に 位 置 す る 標 高
735.2m で あ る 。 調 査 ル ー ト は 総 延 長 約 2.1km で あ る 。 水 石 山 は 県 立 公 園 の 一 部 に な っ て
いて、道路は整備され舗装されている。山頂付近の植生は大きな自然のシバ草原になって
いて、適度に草刈等の管理をされ、多くの草本植物がみられる。それ以外の調査区間はコ
ナラ等の落葉樹が主の植生で、空地もあり、針葉樹等も点在し、多種多様な植生である。
(3) 仏 具 山
仏 具 山 は 市 南 部 の 茨 城 県 境 に 近 い 田 人 町 南 大 平 に あ り 、 標 高 670.5m で 、 県 立 公 園 の 一
部 に な っ て い る 。調 査 ル ー ト は 総 延 長 約 2.0km で あ る 。山 頂 の 一 部 以 外 は ほ と ん ど 舗 装 さ
れていない道路で、沿道の草刈等の管理も山頂の一部以外はあまり行なわれていない。空
地はあまりないが、林縁部のソデ群落は発達し、多くの吸蜜植物がみられる。また、森林
の構成種はヤシャブシ、コナラ等の落葉樹を主とし、スギ林もある多様な植生である。
2. 調 査 方 法
調 査 期 間 は 、2005 年 4 月 ∼ 11 月 で あ る 。各 調 査 地 域 原 則 と し て 月 2 回( 2005 年 4 月 と
11 月 は 1 回 ) 、 ト ラ ン セ ク ト 法 ( 矢 田 , 1996) を 用 い て 行 っ た 。 原 則 と し て 晴 天 微 風 の
日 の 午 前 10 時 ∼ 午 後 3 時 の 間 に 調 査 ル ー ト を 歩 き 、 調 査 者 の 前 方 、 左 、 右 、 高 さ そ れ ぞ
れ 約 5m の 範 囲 内 で 目 撃 し た チ ョ ウ の 種 名 お よ び そ の 個 体 数 を 記 録 し た 。 成 虫 の 食 物 資 源
利 用 は 、 調 査 ル ー ト 左 右 約 5m 以 内 で チ ョ ウ 類 の 餌 資 源 利 用 を 観 察 し た 場 合 、 餌 資 源 の 種
類と利用成虫の種および利用回数を記録する方法で調査した。尚、スジグロシロチョウと
ヤマトスジグロシロチョウ、サトキマダラヒカゲとヤマキマダラヒカゲについては野外で
の同定が困難であったので,それぞれ 1 種として扱い、スジグロシロチョウ類、キマダラ
ヒカゲ類として扱った。
3. デ ー タ の 解 析
デ ー タ の 解 析 に つ い て は 、北 原( 1999,2000)に 従 っ て 行 っ た 。そ の 詳 細 に つ い て は 前
報 ( 福 島 県 立 勿 来 高 等 学 校 理 研 部 , 2005) に 示 し た 。 た だ し 、 蜜 源 植 物 相 の 解 析 に は 、
そ の 種 数 お よ び 利 用 回 数 に 占 め る 在 来・帰 化 植 物 の 割 合 の ほ か 、平 均 多 様 度 に は Shannon
- Wiener 指 数 H' と 相 対 多 様 度 に は Pielou( 1969)の 均 衡 度 指 数 J' を 用 い た 。こ れ ら の
計算式は以下の通りである。
H'
J'
= − Σ ( n i / N ) ・ log 2 ( n i / N )
=
H' / log 2 S
た だ し 、 ni, i 番 目 の 種 の 利 用 回 数 ; N, 全 利 用 回 数 ; S, 総 種 数
つ ぎ に 帰 化 植 物 ・ 在 来 植 物 の 区 分 に つ い て は 、 上 村 ( 2004) の 区 分 と 同 様 に 、 清 水 健 美
編( 2003)に 従 い 、安 土 桃 山 時 代 以 降 に 定 着 し た 植 物 種 を 帰 化 植 物 種 と し て 扱 っ た 。そ れ
以前に日本に定着したと考えられている植物群(史前帰化植物)については、解析上在来
植物として扱った。
-2-
Ⅲ
結果
1. 成 虫 の 利 用 食 物 資 源
表 1 に 、各 調 査 地 域 ご と の 、全 調 査 期 間 を 通 じ て 確 認 さ れ た 成 虫 の 餌 資 源 の 項 目 と そ れ
らを利用していたチョウの種数および利用回数(全チョウ種込みの値)を示した。3 地域
全 体 で は 、 成 虫 の 利 用 餌 資 源 が 47 種 類 確 認 さ れ た 。 そ の 内 、 45 種 類 ( 95.7% ) が 植 物 で
あり、クヌギの樹液利用以外はすべて訪花(花蜜の利用)であった。残りの 2 種は、路上
の水と昆虫等の死骸の液体利用であった。
調 査 地 域 ご と に み る と 、 石 森 山 で は 22 種 類 の 餌 資 源 が 確 認 さ れ た 。 そ の 内 21 種 類
( 95.5% ) が 植 物 で 、 残 り 1 種 類 ( 4.5% ) が 路 上 吸 水 だ っ た 。 利 用 さ れ た 21 種 の 植 物 の
内 訳 は 、草 本 が 16 種( 85.7% )、木 本 が 3 種( 14.3% )で 、草 本 の 内 、一 年 草 が 4 種( 19.0% )、
多 年 草 が 14 種( 66.7% )、木 本 の 内 、低 木 が 2 種( 9.5% )、高 木 が 1 種( 4.8% )で あ っ
た。5 種以上のチョウの利用が確認された餌資源は、クヌギ、シロツメクサ、アザミ類の
3 種類で、クヌギ以外は草本植物であった。一方、4 種以下のチョウの種の利用が確認さ
れ た 餌 資 源 は 18 種 類 で あ り 、 そ の 内 の 3 種 類 以 外 は す べ て 草 本 植 物 で あ っ た 。 つ ぎ に チ
ョウの利用回数の多い餌資源をみると、多くのチョウの種に利用されていた餌資源とほぼ
同じで、クヌギ、シロツメクサ、ヒメジョオンの順だった。上位 8 種類の内、クヌギと路
上吸水以外はすべて草本植物であった。
水 石 山 で は 27 種 の 餌 資 源 が 確 認 さ れ 、そ の 内 の 25 種 類( 92.6% )が 植 物 で 、残 り 2 種
類 ( 7.4% ) が 路 上 の 水 と 昆 虫 等 の 死 骸 の 液 体 利 用 で あ っ た 。 利 用 さ れ た 25 種 の 植 物 の 内
訳 は 、草 本 が 19 種( 76.0% )、木 本 が 6 種( 24.0% )で 、草 本 の 内 、一 年 草 が 3 種( 12.0% )、
多 年 草 が 16 種 ( 64.0% ) 、 木 本 の 内 、 低 木 が 4 種 ( 16.0% ) 、 高 木 が 2 種 ( 8.0% ) で あ
った。5 種以上のチョウの利用が確認された餌資源は、オカトラノオ、アカツメクサ、ア
ザ ミ 類 、ヒ メ ジ ョ オ ン 、シ ロ ツ メ ク サ 、チ ダ ケ サ シ の 6 種 類 で 、す べ て 草 本 植 物 で あ っ た 。
一 方 、4 種 以 下 の チ ョ ウ の 種 の 利 用 が 確 認 さ れ た 餌 資 源 は 19 種 類 で あ り 、そ の 多 く も 草 本
植物であった。つぎにチョウの利用回数の多い餌資源をみると、多種のチョウに利用され
ていたオカトラノオが最多で、ヌマトラノオ、アザミ類、シロツメクサ、ヒメジョオンの
順番になり、上位 5 種類が全て草本植物だった。
仏 具 山 で は 28 種 の 餌 資 源 が 確 認 さ れ 、 そ の 内 の 26 種 類 ( 92.9% ) が 植 物 で 、 残 り 2
種 類 ( 7.7% ) が 路 上 の 水 と 昆 虫 等 の 死 骸 の 液 体 利 用 で あ っ た 。 利 用 さ れ た 26 種 の 植 物 の
内 訳 は 、草 本 が 19 種( 73.1% )、木 本 が 7 種( 26.9% )で 、草 本 の 内 、一 年 草 が 2 種( 7.7% )、
多 年 草 が 17 種 ( 65.4% ) 、 木 本 の 内 、 低 木 が 5 種 ( 19.2% ) 、 高 木 が 2 種 ( 7.7% ) で あ
った。5 種以上のチョウの利用が確認された餌資源は、イヌザンショウ、オカトラノオ、
アザミ類、ノコンギク、リョウブの 5 種類で、その内 3 種類が草本植物であった。一方、
4 種 以 下 の チ ョ ウ の 種 の 利 用 が 確 認 さ れ た 餌 資 源 は 21 種 類 で 、そ の 多 く は 草 本 植 物 で あ っ
た。つぎにチョウの利用回数の多い餌資源をみると、多くのチョウの種に利用されていた
資源とほぼ同じであった。ヒメジョオンが最多で、オカトラノオ、イヌザンショウ、アザ
ミ類、ユウガギクの順で、イヌザンショウ以外は草本植物だった。
-3-
表 1
各調査地域で観察された成虫餌資源とそれらを利用していたチョウの種数と利用
回数(全チョウ種込みの値)
石森山
成虫餌資源名
クヌギ
シロツメクサ
アザミ類
ハナニガナ
ヤマハギ
路上吸水
ヒメジョオン
アカツメクサ
クルマバナ
ユウガギク
キツネノマゴ
ゲンノショウコ
ニガイチゴ
ヤマハッカ
カタバミ
カントウタンポポ
キリンソウ
コウゾリナ
コセンダングサ
シラヤマギク
ネジバナ
ヒメオドリコソウ
類型 1)
T
P
P
P
S
O
A
P
P
P
A
P
S
P
P
P
P
P
A
P
P
A
*
*
*
*
*
水石山
餌資源
を利用し
利用回数
たチョウ
の種数
8
29
6
12
5
6
3
7
3
4
3
7
2
11
2
5
2
2
2
2
2
4
1
1
1
2
1
1
1
5
1
1
1
2
1
1
1
2
1
1
1
1
1
1
成虫餌資源名
オカトラノオ
アカツメクサ
アザミ類
ヒメジョオン
シロツメクサ
チダケサシ
ノコンギク
ヌマトラノオ
ハナニガナ
ゲンノショウコ
イヌザンショウ
クサギ
クリ
路上吸水
ヤマハッカ
ミゾソバ
マルバハギ
クルマバナ
ニガイチゴ
リョウブ
キツネノボタン
動物死骸
ハルジオン
ウツボグサ
ウマノアシガタ
ナギナタコウジュ
ミヤコグサ
類型 1)
P
P
P
A
P
P
P
P
P
P
S
S
T
O
P
A
S
P
S
T
P
O
P
P
P
A
P
*
*
*
*
仏具山
餌資源
を利用し
利用回数
たチョウ
の種数
10
49
7
9
6
41
6
21
5
23
5
11
4
11
4
44
3
4
3
3
3
4
3
7
3
5
2
5
2
2
2
6
2
14
1
4
1
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
3
1
2
1
1
1
1
成虫餌資源名
イヌザンショウ
オカトラノオ
アザミ類
ノコンギク
リョウブ
ヒメジョオン
チダケサシ
ミゾソバ
シシウド
ヤマハギ
エゴノキ
ユウガギク
クルマバナ
ニガイチゴ
カナウツギ
カワラナデシコ
キンミズヒキ
ゲンノショウコ
路上吸水
動物死骸
シロツメクサ
ハナニガナ
キツネノボタン
ハルジオン
キジムシロ
スイカズラ
ハタザオ
アカツメクサ
類型 1)
S
P
P
P
T
A
P
A
P
S
T
P
P
S
S
P
P
P
O
O
P
P
P
P
P
S
P
P
*
*
*
*
餌資源
を利用し
利用回数
たチョウ
の種数
6
15
5
24
5
14
5
10
5
7
4
34
4
8
4
4
4
4
3
7
3
3
2
12
2
4
2
3
2
2
2
2
2
2
1
4
1
4
1
3
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1) A:一年草 P:多年草 S:低木 T:高木 O:その他 *:帰化植物
表 2
餌資源の利用が観察されたチョウ種とそれらの利用していた餌資源の種類数と利
用回数(全利用餌資源込みの値)
石森山
成虫の
利用
利用回数
チョウ種名
餌資源
の種数
ベニシジミ
8
21
ヤマトシジミ
7
20
スジグロシロチョウ類
7
9
キタキチョウ
5
7
キアゲハ
3
3
イチモンジセセリ
2
4
ダイミョウセセリ
2
3
アカタテハ
1
9
キマダラヒカゲ類
1
6
ルリタテハ
1
5
ウラギンシジミ
1
4
オオムラサキ
1
4
ミヤマセセリ
1
2
クロヒカゲ
1
2
ルリシジミ
1
1
モンキチョウ
1
1
ヒカゲチョウ
1
1
クモガタヒョウモン
1
1
ヒオドシチョウ
1
1
カラスアゲハ
1
1
キタテハ
1
1
ヒメウラナミジャノメ
1
1
水石山
成虫の
利用
利用回数
チョウ種名
餌資源
の種数
ジャノメチョウ
12
73
スジグロシロチョウ類
11
14
ヒメキマダラセセリ
5
23
ベニシジミ
5
15
モンキチョウ
5
14
ウラギンヒョウモン
4
31
コチャバネセセリ
4
21
イチモンジセセリ
4
20
キタキチョウ
4
4
ウラギンスジヒョウモン
3
16
ダイミョウセセリ
3
5
ツバメシジミ
3
4
ヒメウラナミジャノメ
3
3
クモガタヒョウモン
2
5
キアゲハ
2
2
オオウラギンスジヒョウモン
1
4
カラスアゲハ
1
4
キタテハ
1
4
キマダラセセリ
1
3
ヒメアカタテハ
1
2
ミヤマセセリ
1
2
ルリシジミ
1
2
イチモンジチョウ
1
1
ギンイチモンジセセリ
1
1
クロアゲハ
1
1
クロヒカゲ
1
1
ミヤマカラスシジミ
1
1
-4-
仏具山
成虫の
利用
利用回数
チョウ種名
餌資源
の種数
スジグロシロチョウ類
14
66
キアゲハ
5
5
サカハチチョウ
4
10
ダイミョウセセリ
4
9
ウラギンスジヒョウモン
4
7
ヒメキマダラセセリ
3
10
ベニシジミ
3
9
キタテハ
3
6
イチモンジセセリ
3
5
ルリシジミ
3
5
クモガタヒョウモン
3
4
カラスアゲハ
3
3
ミドリヒョウモン
2
12
コミスジ
2
2
ツマキチョウ
2
2
メスグロヒョウモン
2
2
イチモンジチョウ
1
3
コチャバネセセリ
1
3
アオバセセリ
1
2
アサギマダラ
1
1
キタキチョウ
1
1
ツバメシジミ
1
1
テングチョウ
1
1
ヒメアカタテハ
1
1
ミヤマセセリ
1
1
モンキアゲハ
1
1
モンキチョウ
1
1
モンシロチョウ
1
1
2. 成 虫 の 食 性 幅
表 2 に 、各 調 査 地 域 で 餌 資 源 利 用 が 確 認 で き た チ ョ ウ 種 と そ れ ら の 利 用 し て い た 餌 資 源
の種類数および利用回数(全利用餌資源込みの値)を示した。5 種類以上の利用餌資源が
確認できた成虫は、石森山ではベニシジミ、スジグロシロチョウ類、ヤマトシジミ、キタ
キチョウの 4 種類であった。水石山では、ジャノメチョウ、スジグロシロチョウ類、モン
キチョウ、ヒメキマダラセセリ、ベニシジミの 5 種類であった。仏具山では、スジグロシ
ロチョウ類、キアゲハの 2 種類であった。つぎに各地域とも餌資源の利用回数の多いチョ
ウ種は、前記の多くの種類の餌資源を利用していた種とほぼ同じであった。したがって、
これらのチョウ種は当地では成虫期の広食性種と考えられる。
3. 成 虫 餌 資 源 と し て 確 認 さ れ た 帰 化 植 物
3 地 域 全 体 で 餌 資 源 と し て 利 用 が 確 認 さ れ た 蜜 源 植 物 は 45 種 類 で 、 そ の 内 の 6 種 類
( 13.3% ) が 帰 化 植 物 だ っ た ( 表 1) 。 各 調 査 地 域 別 で は 、 石 森 山 で 21 種 、 水 石 山 で 25
種 、 仏 具 山 で 26 種 が 蜜 源 植 物 と し て 確 認 さ れ 、 そ の 内 、 帰 化 植 物 は 石 森 山 で 5 種 、 水 石
山 で 4 種 、仏 具山 で 4 種 含ま れ て い た 。餌 資 源 の利 用 が 確 認さ れ た 植 物相( 種 類 数 )に お
い て 帰 化 植 物 の 占 め る 割 合 は 、 石 森 山 で 23.8%、 水 石 山 で 16%、 仏 具 山 で 15.4%の 順 だ っ
た 。つ ぎ に 餌 資 源 と し て の 利 用 回 数 で 帰 化 植 物 へ の 依 存 割 合 を み る と 、石 森 山 で 29.0%( 31
回 ) 、 水 石 山 で 19.6%( 54 回 ) 、 仏 具 山 で 21.3%( 37 回 ) だ っ た 。 餌 資 源 と し て 確 認 さ
れた 6 種類の帰化植物の内、3 地域とも共通して見られた帰化植物はヒメジョオン(一年
生草本)、シロツメクサ(多年生草本)、アカツメクサ(多年生草本)の 3 種で、ハルジ
オン(多年生草本)は水石山と仏具山で利用が確認され、コセンダングサ(一年生草本)
とヒメオドリコソウ(一年生草本)は石森山でのみ確認された。
Ⅳ
考察
1. 成 虫 の 利 用 食 物 資 源 に つ い て
今回の福島県いわき市郊外山域における調査結果から、チョウ類の成虫は、多年草など
の草本植物を餌資源としてよく利用していることが定量的に実証された。類似の調査結果
は 、 富 士 山 北 麓 ( 北 原 , 2000) な ど か ら も 得 ら れ て お り 、 今 回 認 知 で き た 成 虫 の 餌 資 源 利
用様式は、かなり普遍性を持ったパターンであることが示唆された。さらに、成虫の餌資
源利用様式からみると、多年草などの草本植物がよく生育できるような生息環境の維持・
管理が、チョウ類群集の多様性保全ためには重要であることが支持された。
次 に 、 各 調 査 地 域 の 利 用 食 物 資 源 の 特 徴 を み る と 、 石 森 山 で は 22 種 類 の 成 虫 餌 資 源 の
利 用 が 確 認 さ れ 、 そ の 内 16 種 類 ( 85.7% ) が 草 本 植 物 で あ り 、 多 種 の チ ョ ウ に 利 用 さ れ
て い る 餌 資 源 が 多 か っ た 。チ ョ ウ の 餌 資 源 の 利 用 回 数 に お い て も 、観 察 さ れ た 107 回 中 65
回 ( 60.7% ) が 草 本 植 物 で あ り 、 成 虫 の 主 要 な 餌 資 源 は 草 本 植 物 で あ る こ と を 示 唆 し て い
る 。 他 の 2 地 域 と 比 較 す る と 、 木 本 植 物 の 利 用 が 35 回 ( 32.7% ) と 高 い の が 石 森 山 の 特
徴である。これは 3 地域の中で唯一、調査ルート上に樹液の出ているクヌギがあったこと
と、森林に占めるクヌギの割合が他の 2 地域よりも高いために、種数および利用回数にお
いて最多のチョウ類がクヌギを利用していたことに起因していると考えられる。一方、ク
ヌ ギ 以 外 の 木 本 植 物 の 利 用 は ヤ マ ハ ギ と ニ ガ イ チ ゴ し か 確 認 さ れ ず 、森 林 地 帯 で は あ る が 、
路上吸水を除いてすべて草本植物の利用だった。これらの草本植物は、森林の林縁部、広
-5-
場や空地の草地で利用が確認された。
水 石 山 で は 27 種 類 の 成 虫 餌 資 源 の 利 用 が 確 認 さ れ 、そ の 内 19 種 類( 76.0% )が 草 本 植
物であり、多種のチョウに利用されていた上位 6 種類もすべて草本植物だった。これは調
査ルートの山頂部分が大きな自然のシバ草原の環境構成だったことが一因と考えられる。
チ ョ ウ の 餌 資 源 の 利 用 回 数 は 、 3 地 域 の 中 で 最 多 の 276 回 が 観 察 さ れ 、 そ の 内 237 回
( 85.9% ) が 草 本 植 物 の 利 用 で あ っ た 。 こ れ ら の こ と は 成 虫 の 主 要 な 餌 資 源 は 水 石 山 に お
いても草本植物であることを示唆している。
仏 具 山 で は 林 縁 部 の ソ デ ・ マ ン ト 群 落 が 発 達 し て お り 、 最 多 の 28 種 類 の 成 虫 餌 資 源 の
利 用 が 確 認 さ れ た 。 そ の 内 草 本 植 物 は 19 種 ( 73.1% ) で 、 多 種 の チ ョ ウ に 利 用 さ れ て い
た。森林地帯であるが、多種のチョウに利用されていた上位 9 種類の内、7 種類が草本植
物 だ っ た 。チ ョ ウ の 餌 資 源 の 利 用 回 数 は 、観 察 さ れ た 174 回 中 129 回( 74.1% )が 草 本 植
物であり、成虫の主要な餌資源は草本植物であることを示唆している。餌資源として利用
された草本植物の大部分はソデ群落が発達した森林の林縁部でみられた。
2. 各 種 の 成 虫 の 食 性 幅 と 関 連 特 性
今回の結果から、成虫の食性幅(餌資源の種類数)は、種間によりかなり異なっている
ことが分った。このことは、幼虫期同様成虫期にも、1地域個体群の中に特殊な資源利用
をする種と様々な資源を利用する種が混在することを示唆していると考えられる。
3. 餌 資 源 と し て の 帰 化 植 物
今回の調査では、3 地域で確認された全餌資源の内、6 種類が帰化植物であった。その
内、3 地域で共通に確認された帰化植物はヒメジョオン、シロツメクサ、アカツメクサの
3 種であった。石森山ではシロツメクサが種数、利用回数においてクヌギに次ぐ 2 番目に
多 く の チ ョ ウ に 利 用 さ れ た 。水 石 山 で は こ れ ら 3 種 の 帰 化 植 物 は 5 種 以 上 の 多 種 の チ ョ ウ
に 利 用 さ れ 、仏 具 山 で は ヒ メ ジ ョ オ ン が 利 用 回 数 で は 最 多 の チ ョ ウ に 利 用 さ れ た 。 他 の 調
査 例 と 比 較 す る と 、浅 羽 ビ オ ト ー プ( 上 村 ,2004)で は 蜜 源 植 物 と し て ヒ メ ジ ョ オ ン が 種
数 、 利 用 回 数 と も 最 多 の チ ョ ウ の 利 用 が 確 認 さ れ て い る 。 富 士 山 北 麓 ( 北 原 , 2000) で は
ヒメジョオン、シロツメクサ、アカツメクサが 5 種以上のチョウに利用され、利用回数に
お い て も 上 位 の 利 用 が 確 認 さ れ て い る 。荒 川 千 住 新 橋 緑 地( 瀬 田 ,2006)で は ア カ ツ メ ク
サ が 種 数 、利 用 回 数 と も 2 番 目 に 多 く の チ ョ ウ の 利 用 が 確 認 さ れ て い る 。以 上 の こ と か ら 、
ヒメジョオン、シロツメクサ、アカツメクサの 3 種の帰化植物は、今回の調査地域及び他
の調査例地域においても、いずれかの種が餌資源利用の上位になっている。したがって、
こ れ ら 3 種 は 、様 々 な 地 域 の チ ョ ウ 類 群 集 を 維 持 す る た め の 重 要 な 成 虫 餌 資 源 と し て 位 置
づけられると考えられる。
川 村 ら( 2002)は 、チ ョ ウ 類 の 蜜 源 植 物 に 関 し て 、中 山 間 地 未 整 備 水 田 で は 在 来 種 へ の
依 存 度 が 高 く( 帰 化 植 物 へ の 依 存 率 28.8% )、市 街 地 基 盤 整 備 水 田 で は 帰 化 植 物 へ の 依 存
率 が 高 く な る( 帰 化 植 物 へ の 依 存 率 61.5% )こ と を 報 告 し て い る 。さ ら に チ ョ ウ 類 群 集 の
多様性については、在来種への依存率の高い中山間地未整備水田の方が、帰化植物への依
存率の高い市街地基盤整備水田より高かったことも報告している。つまり、都市化するに
つれ、チョウ類の蜜源植物は帰化植物への依存率が高まり、チョウ類群集の多様度が低下
する傾向があることを指摘している。今回調査したいわき市郊外山域の帰化植物への依存
率 は 、 石 森 山 で 29.0%、 水 石 山 で 19.6%、 仏 具 山 で 21.3%と 川 村 ら ( 2002) の 中 山 間 地 未
-6-
整 備 水 田 の 値 ( 28.8%) と ほ ぼ 同 じ か そ れ よ り も よ り 低 い 値 を 示 し た 。 ま た チ ョ ウ 類 群 集
の多様度 H
は 石 森 山 で 4.18、水 石 山 で 3.97、仏 具 山 で 4.26 で 、 J’ も 石 森 山 で 0.83、水
石 山 で 0.80、仏 具 山 で 0.84 で あ り 、川 村 ら( 2002)の 市 街 地 整 備 水 田 の H が 2.72,J’ が
0.63 と 比 較 す る と 各 地 域 共 に 相 対 的 に 高 く ,川 村 ら( 2002)が 指 摘 す る 傾 向 を 支 持 す る 結
果 が 得 ら れ た 。 次 に 蜜 源 植 物 の 多 様 度 H’ と 帰 化 植 物 へ の 依 存 率 の 関 係 に つ い て 、 今 回 の
調 査 結 果 と 他 の 地 域 の 結 果 を ま と め た と こ ろ 、帰 化 植 物 へ の 依 存 率 と 蜜 源 植 物 の 多 様 度 H’
は 有 意 な 負 の 相 関 関 係 が あ る こ と が 判 明 し た ( r=− 0.9211, P< 0.05) ( 図 2) 。 つ ま り 、
成虫が利用する蜜源植物の多様性の低下もしくは単純化は、成虫が蜜源を帰化植物に依存
す る 率 を 高 め る 結 果 に な る こ と が 示 唆 さ れ た 。そ し て 、人 為 的 撹 乱 や 環 境 改 変 等 を 通 じ て 、
蜜源植物の多様性の低下もしくは単純化が生じると共に、それと並行してチョウ類群集の
多様性も低下するのだと推測され
蜜 源 植 物 の 多 様 度 H’ と 帰 化 植 物 へ の 依 存
図 2
る。
率の関係について
今回調査を行ったいわき市内の
3 地域では、相対的に蜜源植物の
90
多様性が高く、帰化植物への依存
80
このことは、これら3地域が成虫
の餌資源環境の視点から見た場合
には、かなり好適な環境が保持さ
れていることを示唆しており、現
況のチョウ類群集の多様性維持・
保全のためには、同じく現況の成
70
帰化植物への依存率
率が低いという結果が得られた。
浅羽(上村, 2004)
荒川(瀬田, 2006)
富士山 (北原, 2000)
石森山
水石山
仏具山
60
50
40
30
20
10
0
0
1
2
3
4
5
蜜源植物の多様度(H' )
虫餌資源環境の維持・管理が極め
て重要な要素であると考えられる。
[謝 辞 ]
本研究を行うにあたり、貴重なご助言を頂いた山梨県環境科学研究所動物生態学研究室
室長の北原正彦主任研究員をはじめとする諸氏に厚く御礼申し上げます。
[主 な 参 考 文 献 ]
福 島 県 立 勿 来 高 等 学 校 理 研 部 (2005)
福島県いわき市の蝶類群集の多様性と成虫の食物
資源利用様式(日本学生科学賞出品作品)
北 原 正 彦 (2000)
昆
富士山北麓森林地帯のチョウ類群集における成虫の食物資源様式. 環動
11: 61-81.
矢 田 脩 (1996)
トランセクト調査のすすめ.昆虫と自然
[指 導 者 ]
永田斉寿
-7-
31(14): 2-4.