ヘイトウシンカイヒバリガイの鰓上皮細胞内から検出された原生生物 ○野口文哉(東京海洋大学大学院) , 河戸勝・吉田尊雄・藤原義弘・藤倉克則・瀧下清貴(海洋研究開発機構) 化学合成生態系における真核微生物(原生生物)に関する研究は、これまであまり行 われていない。真核微生物は、真核生物の多様性の大部分を占めている事を考慮すると、本 生態系を理解する上で、真核微生物と原核生物や多細胞動物との関係(被・捕食、寄生、共生) に関する情報は重要である。本研究では、相模湾初島沖のメタン湧出域を調査域とし、そこ で代表的な多細胞動物に寄生する真核微生物の探索を行った。 相模湾初島沖のメタン湧出域に生息するシロウリガイ類とヘイトウシンカイヒバ リガイの鰓の一部から抽出した DNA 及び RNA、さらにその周辺の底泥から抽出した DNA を用 いて、PCR 法により寄生種を多く含むアルベオラータ生物(繊毛虫類,渦鞭毛藻類,アピコ ンプレクサ類等の原生生物が含まれる系統群)の 18S rRNA 遺伝子を特異的に増幅した。その 結果、シロウリガイ類からはアルベオラータに由来する遺伝子配列は得られなかったが、ヘ イトウシンカイヒバリガイからはアルベオラータに由来する遺伝子配列が得られた。得られ た遺伝子配列を分子系統解析に供した結果、検出された遺伝子配列はマリンアルベオラータ グループⅡ(Marine Alveolate GroupⅡ:以後、MAGⅡ)に属することが判明した。また、こ れまでに報告されている MAGⅡの遺伝子配列の中で今回得られた遺伝子配列に近縁なものは 存在しなかった。ヘイトウシンカイヒバリガイの鰓における MAGⅡ生物の局在を確認するた めに、得られた遺伝子配列情報を基に作成した DNA プローブを用いて、whole mount in situ hybridization を行い、該当の MAGⅡ生物が宿主の鰓上皮細胞内に存在することを確認した。 本研究により、RNA レベルでも該当の遺伝子配列が検出されたため、ヘイトウシン カイヒバリガイの鰓上皮細胞内において,得られた遺伝子配列に由来する生物は代謝的に” active”であることが示唆される。MAGⅡの中で実体の判明している生物は全て寄生性であり, したがって、得られた遺伝子配列に由来する生物も寄生性である可能性が高い。また,この 遺伝子配列に近縁な生物は MAGⅡ内に見つかっていないため、新奇な生物に由来する遺伝子 配列であることが示唆される。
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