第 54 回日本神経学会学術大会 (平成 25 年 5 月 - 近畿大学医学部

第 54 回日本神経学会学術大会(平成 25 年 5 月,東京国際フォーラム)で寒
川
真先生,濱田征宏先生,桑原
基先生(口演),宮本勝一先生(口演)がそ
れぞれの研究内容について発表しました.
大会 HP: http://www.congre.co.jp/neuro54/
一般演題(口演・ポスター)
No.100407
抗galactocerebroside抗体陽性Guillain-Barré症候群の臨床的・電気生理
学的検討
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○寒川 真 (さむかわ まこと)、濱田 征宏 、桑原 基 、鈴木 秀和 、高田 和男 、三井 良之 、
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楠進
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近畿大学病院 神経内科
【目的】
Guillain-Barré症候群(GBS)の一部では急性期血清中にgalactocerebroside(Gal-C)に対す
る抗体が検出される.Gal-Cは中枢および末梢の髄鞘の主要な構成成分であり,動物実験
では脱髄因子であることが示されている。
今回,我々は抗Gal-C抗体陽性GBSを臨床的・電
気生理学的に検討した.
【方法】
2006年6月から2012年6月の間に当科にGBS病名で抗糖脂質抗体検査依頼があり,抗Gal-C
抗体が陽性であった48例 (男:女=25:23,平均年齢 48歳)のアンケート調査を実施し
臨床的特徴を検討した.また,詳細な電気生理学的所見が得られた40例でHaddenの基準
(Ann Neurol.1998)およびHoの基準(Brain.1995)を用い電気生理学的に検討した.対照
群として免疫性神経疾患に関する調査研究班のGBS疫学調査における188例のデータを用
いた(同調査研究班平成23年度報告書).
【結果】
臨床所見ではGal-C抗体陽性群と対照群では有意差のある所見は認めなかった.電気生理
学的検討においてHaddenの基準では陽性群でaxonal 3例,demyelinating 22例,equivocal17
例,normal 0例,対照群axonal 19例,demyelinating 86例,equivocal 69例,normal 14例で
あった.一方,Hoの基準では陽性群でAMAN 6例,AIDP 20例,unclassified 16例,normal
0例,対照群でAMAN 34例,AIDP 79例,unclassified 75例,normal 0例でありどちらの基
準でも両群間で有意差は認めなかった.Gal-C抗体陽性群の中で他の抗糖脂質抗体も陽性
であった症例が8例認められたが,単独陽性群と比較して臨床的,電気生理学的に差は認
めなかった.
【結論】
抗Gal-C抗体陽性GBSの電気生理学的分類に関しては対照群と比較して統計学的有意差は
認めず,既報告と同様で脱髄型が多いことが確認された.一方,Gal-C抗体陽性で軸索障
害を来す機序に関してはさらなる検討が必要と考えられた.
(演題名)
IgM パラプロテイン血症を伴うニューロパチーにおける HNK-1 抗体活性と臨床特徴の
関連
氏名:〇濱田征宏 1、寒川真 1、桑原基 1、藪野景子 2、森瀬譲二 2、高田和男 1、
宮本勝一 1、岡昌吾 2、楠
進1
所属:1 近畿大学医学部神経内科、2 京都大学大学院医学研究科人間健康科学
[目的]IgM パラプロテイン血症を伴うニューロパチーは、約半数で IgM M 蛋白が HNK-1
エピトープをもつ複合糖質である MAG および SGPG に対する抗体活性を示す。緩徐進
行性で難治性のニューロパチーとされているが、IVIG やその他免疫抑制剤などに治療反
応性を示す症例も存在する。神経系には MAG・SGPG 以外にも HNK-1 エピトープをも
つ複合糖質が存在するが、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの Phosphacan もその
ひとつである。本研究では、HNK-1 エピトープに対する抗体陽性の IgM パラプロテイン
血症を伴うニューロパチーを対象として、MAG と Phosphacan に対する相対的な抗体の
反応性の強さと、治療反応性を含めた臨床特徴との関連を検討した。
[方法]平成 17~23 年に当科に測定依頼があり、MAG および SGPG に対する抗体活性
が認められた抗 MAG 抗体関連ニューロパチー36 例について、臨床経過、治療内容を各
医療施設にアンケート形式にて調査を行った。回答が得られた症例において HNK-1 エピ
トープをもつ MAG、Phosphacan に対する抗体活性を ELISA 法にて測定した。
[結果]男性 20 例、女性 4 例の計 24 例の回答が得られた。そのうち、1 例はフォロー期間
が 1 カ月と非常に短く、3 例は免疫治療の施行なし、1 例は複数のガングリオシドに対す
る IgG クラスの抗体も陽性であった。それらの 5 例を除いた計 19 例を対象とした。対象
症例で施行された免疫療法は以下の通りであった:IVIG
ブ
4 例、ステロイド
17 例、PE
3 例、リツキシマ
8 例、シクロフォスファミド 1 例、タクロリムス 1 例、MP 療法
1 例。
この 19 例において MAG、
Phosphacan に対する抗体活性を ELISA にて測定した。
MAG 抗体活性および Phosphacan 抗体活性と、抗体測定時の INCAT スコア、血清 IgM
値、髄液蛋白、治療後の INCAT スコア、スコア変化に関連は認めなかった。
次に MAG と Phosphacan に対する抗体価の比(M/P 比)に注目した。M/P 比と INCAT
スコア上昇度には負の相関を認め、M/P 比 1 未満群は1以上群に比べて INCAT スコア上
昇が優位に高かった。また、免疫治療開始時期と最近の INCAT スコアにも相関がみられ、
発症から治療開始までが 3 年未満と 3 年以降の 2 群間では INCAT 変化度に有意差を認め、
3 年以降群において INCAT スコアが優位に上昇していた。
[結論]抗 MAG 抗体関連ニューロパチーにおいて、HNK-1 抗体の M/P 比が低い症例、お
よび発症から治療開始までが長い症例で、神経症状の悪化する傾向がみられた。
一般演題(口演・ポスター)
No.100434
Guillain-Barré症候群及びFisher症候群におけるGQ1bと交差反応を示す
抗GM1/GD1a抗体
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○桑原 基 (くわはら もとい) 、Laura Mauri 、濵田 征宏 、寒川 真 、高田 和男 、Sandro
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Sonnino 、楠 進
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近畿大学 神 経 内 科 、 Department of Medical Chemistry, Biochemistry and Biotechnology,
University of Milan
【目的】Guillain-Barré症候群(GBS)では2種のガングリオシドを混合した抗原(GSCs)に対
する抗体がみられる事がある。GM1とGD1aの混合抗原(GM1/GD1a複合体)に対する抗体
はGBSの2割弱に陽性であり、比較的陽性頻度が高い。最近我々はGSCsの解析のために作
成したGM1-GD1a hybrid dimer(GM1とGD1aを結合させた化合物)に対する抗GM1/GD1a
抗体陽性GBS患者血清の反応を検討したところ、多くはGM1/GD1aとほぼ同等の反応を示
した。しかし一部に反応のみられない血清があり、それらはGQ1bにも抗体活性を示し、
GM1/GD1a複合体とGM1-GD1a dimerには微細な構造上の違いが示唆された。そこで我々は
GQ1bに交叉反応を示す抗GM1/GD1a複合体抗体についてさらに検討した。
【方法】抗GQ1b抗体陽性のGBS及びFisher症候群(FS)における抗GM1/GD1a抗体の頻度を
調べた。そして抗GQ1b抗体陰性かつ抗GM1/GD1a抗体陽性血清と抗GQ1b抗体陽性かつ抗
GM1/GD1a抗体陽性血清を用いてGM1-GD1a hybrid dimerに対する反応を検討した。GQ1b
とGM1/GD1a両者に対する抗体陽性血清でGQ1bとGM1/GD1aでの吸収試験を行い交差反
応の有無を調べた。
【結果】抗GM1/GD1a抗体は抗GQ1b抗体陽性のGBSでは169例中18例(11%)、FSでは100例
中3例(3%)で認めた。GM1-GD1a hybrid dimerに対する抗体活性は、抗GQ1b抗体陰性かつ抗
GM1/GD1a抗体陽性の血清では8例中8例で認めたが、抗GQ1b抗体陽性かつ抗GM1/GD1a抗
体陽性の血清では8例中2例のみにみられた。吸収試験の結果、GQ1bとGM1/GD1a両者に対
する抗体陽性血清はGQ1bとGM1/GD1aに交差反応を示した。
【結論】GQ1bとGM1/GD1aは、立体構造上の類似点があることが示唆された。抗GQ1b抗体
陽性のGBSの一部では、
GM1/GD1aに対する反応性を併せ持つことが、四肢麻痺の病態に関
連する可能性が考えられる。
一般演題(口演・ポスター)
No.101220
多発性硬化症に対するフィンゴリモド導入スケジュールについての検
討
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○宮本 勝一 (みやもと かついち)、高田 和男 、三井 良之 、楠 進
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近畿大学病院 神経内科
【目的】 2011年末に承認されたフィンゴリモドは多発性硬化症に対する初の経口薬であ
り、治療効果もインターフェロンβよりも強い可能性があることから大変注目されてい
る。しかし、注意すべき副作用も多い薬剤であることから十分に準備を整えた上で導入す
る必要がある。我々はフィンゴリモドの種々の副作用を考慮し、より安全でかつ現実的な
導入スケジュールについて検討した。
【方法】 フィンゴリモドの特に注意すべき有害事象である、
徐脈、リンパ球減少、肝機能障
害、感染症、黄斑浮腫、催奇形性について、導入前、導入後に分けて、チェックすべき項目、中
止すべき基準、観察期間について、これまでの知見および我々の導入経験からリストアッ
プした。
導入方法(期間)は、
外来、
1泊2日、
2泊3日あるいはそれ以上について検討した。
【結果】 導入前に血液検査にて抗AQP4抗体および各種自己抗体、麻疹、風疹、水痘などの
ウイルス抗体価をチェックし、眼科受診などを済ませておくことが入院日数の短縮につな
がった。服薬開始後ほぼ必発の徐脈は当初服薬後6時間まで注意すればよいとされていた
が、その後の睡眠中の方が顕著になる傾向があった。よって最短でも24時間の監視が必要
であることから外来での導入は不可能であり、出来れば2泊3日入院での導入が望ましい
かったが、入院ベッドが混雑していることから当院では1泊2日入院での導入スケジュール
を選択した。リンパ球減少や肝機能障害については、導入直後よりもその後の経過中で注
意する必要があった。
妊娠の有無は毎回受診時に確認し、
眼科受診も3ヵ月毎とした。
【結論】フィンゴリモドの安全な導入と、入院ベットの混雑現状から、1泊2日入院での
導入スケジュールとした。現在のところ安全に導入できているが、今後の症例の蓄積に
よって、
さらなる改善が必要である。
男女共同参画への近畿大学神経内科の取り組み
宮本 勝一 (近畿大学医学部神経内科)
【目的】近年、多くの大学病院は慢性的にマンパワー不足であり、医局制度の崩壊とともに地域医
療へも深刻な影響がでている。近畿大学附属病院においても、関連病院への医師派遣はおろか、
大学病院での業務を維持するのも困難な診療科がでてきている。
大学病院のマンパワー不足には女医の増加が理由の一つとして指摘されている。女医が退職す
るタイミングは結婚と出産が多く、特に後者の比率が目立つ。しかし、その多くは出産後の復職を
希望しているが、就労条件が合わないため止むを得ず退職している。最も多い理由は保育園不
足であるが、仮に保育園が見つかったとしても保育時間を超える勤務はできないため、当直を含
めた正規業務への復職は難しい。そこで、正規よりも少ない勤務時間であってもマンパワーを確
保したい大学病院側と、少ない時間であっても産後すぐに大学病院で働きたい女医との思惑が一
致した就労形態「特別就労形態に関する規定」を新設することになった。
【方法】この規定は、育児のための一定時期に限り、職員はその身分を失うことなく、勤務時間を
緩和した特別形態での就労を認めることを定めたものである。対象者は、小学校在学中までの実
子もしくは養子を養育する者で、産後休暇終了日の翌日から開始可能とする。期間中の身分は、
医学部助教 B(臨床助教)とし、個人研究費は配分しない。期間中の就労時間は、1週あたり30
時間(1週あたり4日以上)勤務しなければならない。業務は、原則として日勤帯の業務とし、当直
を免除する。また、この規程とは別に大学病院敷地内に保育園を設置した。
【結果】この規程は、平成 22 年4月1日から施行され、神経内科の女医が第一号となった。この就
労形態は、当科だけではなく病院全体に利用されており、出産後女医の大学への復職者が増え
た。当科では、最近2年間で5名、のべ 6 名の女医が出産しているが、そのうち4名、のべ5名が
大学に復職しており、医員マンパワー不足に対して大いに貢献している。
【結論】勤務条件を緩和した就労規程の導入により産後、大学病院へ復職する女医が増えた。し
かし、院内の保育園は病児保育を扱っていないため、子供が病気の場合に仕事に出るためには
親やベビーシッターに頼らざるをえない。女医の勤務支援にはソフト面と並行して、ハード面のさら
なる充実も必要である。