第26 回 iSUC 福岡大会 Session Speaker Interview セッションタイトル「組織が成長するコーチング ∼個人の成長が企業の成長」 組織の価値は、働く人たちが、強みと成長を 手に入れられると実感できた時に決まる 昨年のiSUCで「ベストスピーカー賞」 に輝いた伊藤美紀氏が、今年もiSUCでセッションをもつ。人本来の姿を見いだすコー チングの手法を基に組織の成長を解説する。 伊藤 美紀氏 88 株式会社アイ・ラーニング 研修本部 人財開発グループ グループリーダー/シニア・ラーニング・プロフェッション i Magazine(以下、i Mag) 伊藤さんのキャリアのスタート 乗って行動する時は、その人が本来もっているパワーを出しき は研究職だったそうですが、どのような経緯で人材開発の道 ることができません。その人自身の本来の姿や、もっている価 に進まれたのですか。 値観を大事にしているときに、最もパワーを発揮できるんです。 伊藤 昔から、私は自分で話すことにストレスがなくて、むし そのことを私自身が体験し深く理解できてから、自分自身への ろ話がストレートすぎて疎まれるくらいでした。その一方で、話 向き合い方や人との関わり方が大きく変わりました。 していることが理解されない、自分の思いが伝わらないという i Mag 伊藤さんご自身がコーチングを受けたのですか。 もどかしい気持ちを、研究の仕事を続けながらずっと感じてい 伊藤 はい。最初はコーチングを学ぶ講習の中で、私がクラ ました。そして、相手にわかるように話せないのは、人として イアントになってコーチングを受けました。 致命的な欠陥なのではないかとか、それが改まらないと、こ i Mag それはどういう体験ですか。 の先どのような仕事に就いても続かないだろうと、思い悩むこ 伊藤 その時は「人の目を見るのがこわい」というテーマで とがありました。 コーチングを受けました。それは、私自身が長く解決できずに それで、自分を変えるきっかけをつかみたいと思い、当時 抱いてきた感覚でした。しかし、コーチとのやり取りを続けて 所属していた会社の人材開発部へ異動させてもらったんで いる中で、突如として、私自身が人と真剣に向き合うことを避 す。そこから私の人材開発というキャリアが始まっています。 けていることと、自分の中に素直になれていない自分があるこ i Mag ご経歴の中で、何か転機はありましたか。 とに気づかされたんです。それは、何とも言えない、からだ 伊藤 一番大きかったのは、コーチングを学んだことです。 が震えるような体験で、自然と涙が出てきました。自分の弱さ 人がその人らしくあるために、それを手伝う役割としてのコー を見いだしたことによって、逆に力が湧いてくるというような不 チングです。人は、誰かに強制されたり、他人の仕掛けに 思議な変化でした。大したことではないのに、思い込みによっ 2015.11•12 088-089_15imag11_iSUC02_FIX.indd 88 2015/10/08 20:34 U 研・ 発見! て自分を小さくしていたことに気づき、本来の自分を取り戻し ていくように、人が発する言葉には熱意や思いがあり、その ていくような感覚がありました。 熱が伝わっていくイメージです。メールや SNS が普及して便 i Mag コーチングというのは、目標に向かって進むための 利になった半面、熱が伝わるようなやりとりが減ってきています。 方法を、対話によって教えることだと思っていました。 時には、フェースtoフェースで、熱意や思いを込めて話し合 伊藤 そういうコーチングもありますが、私が大切にしている うことが必要です。 のは、人がその人らしく、 どうありたいかを知るコーチングです。 i Mag お話をうかがっていると、研修に対するイメージが変 わりますね。 伊藤 知識を教えるという昔ながらの研修は、今なお必要で 果に焦点を合わせるのではなく、人が本領を発揮できることに すが、相対的に減ってきています。知識だけなら、今はさま 焦点を合わせていると言えます。 ざまな方法で入手できるからです。そのため、研修は、体験 i Mag 人材開発とは、そもそも何なのでしょうか。 とか人と語り合うといった、集合形態でしか行えないことに特 伊藤 人材開発とは、その人自身が変化し、成長していくプ 化していくと思います。 ロセスです。本来、人間は変化するものではないでしょうか。 また世の中が複雑化し、なかなか「正解」がわかりにくく しかし、思うように変化していない、あるいは変化できない状 なっています。特に、やってみないと、それがよかったかどう 態があるのは、何らかのブレーキがかかっているからだと考え かもわからないことがあります。そこで造語になりますが、 「納 ています。ブレーキの種類はいろいろありますが、自分自身に 得解」を得ることが重要になっていると感じています。納得 対する認知の偏りや思い込みにより、変化や成長を妨げてし 解とは、数式のように「正解」が得られない場合に、深い まうこともあります。そのままでは、いくらアクセルを踏んでがん 探究や対話の末に、本人が「こういうことだろう」と理解し、 ばっても変わりません。ましてや人に自分のアクセルを踏まれて 納得を伴う答えのことです。正解かどうかわからなくても、自 も、うれしくありません。研修の主体は受講者です。その人 分が納得している答えを見いだせれば、人は行動を変えるこ のブレーキを外すきっかけを提供したり、 変化を促すのをサポー とができると思っています。 トするのが、私たちの役割です。 i Mag 納得解を得るポイントは何ですか。 i Mag それは会社においても上司と部下の間でも、常に 伊藤 まず、見える化です。人は思っていても、うまく認知し 求められていることですね。 ていないことがたくさんあります。見える化の方法はいろいろ 伊藤 そうです。だから、研修を受講される方の上司にお ありますが、たとえば、思っていることを書き出してみる、書 願いするのは、部下の「変化」をポジティブに捉えて、まず いたものを人に話してみる、思っていることをテーマに人と話 受け入れてくださいということです。研修で学んだことを実践 し合ってみる、というのが有効な手段です。特に、人と対話 しようと思ったら、自然に「変化」が生まれます。その変化 することで自分の考えに気付いたり、人の意見に違和感を覚 が、周りの人に認められたり受け入れられると自信につながり えたり、逆に同意を感じたりすることが、いろいろ出てきます。 ますし、よいスキルや習慣を主体的に継続する力となります。 いろいろな意見と照らし合わせることで、自分自身が本当に腑 i Mag 部下の変化を見極めるポイントは何ですか。 に落ちるかどうか、確認できるのではないでしょうか。 伊藤 日頃より、部下の人となりや考えていることについて、 i Mag 今年のセッション(「組織が成長するコーチング」 上司が興味をもち理解していることがベースとなります。それ 〜個人の成長が企業の成長)では、何を伝えたいですか。 なしに、部下の変化に対して表面的なメッセージを発しても意 伊藤 組織の価値とは、そこで働く人たちが、自分の強みと 味はないでしょう。日頃より部下に興味・関心をもち、それに 成長を手に入れられると実感できることだと思っています。つ まり、働く人たちが「自分の価値が高くなる」「成長できる」 化や考えていることが、自ずから見えてくるのではないでしょう と思えることで活き活きとし、結果として組織自体が成長して か。その意味では、普段からのコミュニケーションが非常に いきます。そのためには、働く人たちの個々の強みを理解し、 重要です。 仕事の中で変化することに意味と達成感をもってもらう必要が i Mag 若い人とコミュニケートできないと悩んでいる上司も あります。人それぞれの強みと変化に価値を見い出し、それ 多いのですが。 を相互に認め合う場を大事にしたいと思っています。 伊藤 コミュニケーションとは熱伝導である、という言葉を、 その1 つの方策として、コーチングの考え方と手法が非常 私は実感しています。コミュニケーションの語源にそういう意 に有効だと思っているので、そのことをセッションでお話しした 味があるそうですが、つまり、物と物が触れ合って熱が伝わっ いと考えています。 伊藤 美紀 氏 ついてやり取りをすることが多ければ、部下のちょっとした変 S ess i on S pea k er I nt er v i ew◉ 誰かの意によって動かされるのではなく、その人自身の意志 で行動することを応援します。コーチングとは、目標達成や成 http://www.imagazine.co.jp/ 088-089_15imag11_iSUC02_FIX.indd 89 89 2015/10/08 20:34
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