「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」 H23 年度 平成 22 年度採択研究代表者 実績報告 山内 美穂 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所・准教授 (北海道大学触媒化学研究センター・准教授) 高選択的触媒反応によるカーボンニュートラルなエネルギー変換サイクルの開発 §1.研究実施体制 (1)九大グループ ① 研究代表者:山内 美穂 (九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所、准教授 (北海道大学触媒化学研究センター、准教授)) ② 研究項目 ・高選択的ナノ合金触媒の開発 (2)北大グループ ① 主たる共同研究者:竹口 竜弥 (北海道大学触媒化学研究センター、准教授) ② 研究項目 ・高選択的酸化を可能とするアルカリ形燃料電池の開発 ・光触媒系による高効率燃料再生システムの構築 (3)理研グループ ① 主たる共同研究者:加藤 健一 ((独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター、専任 研究員) ② 研究項目 ・放射光による固体触媒の高分解能構造評価 (4)東北大グループ ① 主たる共同研究者:尾澤 伸樹 (東北大学大学院工学研究科附属エネルギー安全科学国 際研究センター、助教) ② 研究項目 ・計算科学的手法によるナノ合金触媒の機能評価及び設計 1 ・アルカリ形燃料電池における化学反応過程の計算科学的解析 2 §2.研究実施内容 (文中に番号がある場合は(3-1)に対応する) 本研究では、環境中にある材料(アルコール、アンモニア)を媒体としてエネルギーのハイブリッド 利用(光)により、二酸化炭素を環境中に排出しない“カーボンニュートラル(CN)”サイクルを提案し、 それを実現するために、液体燃料を選択的にカルボン酸に酸化するあるいはカルボン酸あるいは 窒素を還元して燃料を再生するための触媒および関連材料の開発を行っている。本年度は、ナノ 合金触媒の開発とエチレングリコール(EG)を燃料とするアルカリ形燃料電池(アルカリ形ダイレクト グリコール燃料電池)への適用を試み、生成物の同定に成功した。また、作動条件を最適化するこ とで、非白金触媒によるアルカリ形ダイレクトグリコール燃料電池としては最高出力を達成した。触 媒の EG 酸化特性あるいは固体電解質中の水酸化物イオンの伝導メカニズムを調べるために、量 子化学計算を実施した。また、固体電解質中の OH-イオンの伝導メカニズムを解明するため材料 の放射光を用いた蒸気圧可変 in-situ XRD 測定および量子化学計算による解析を開始した。 また、燃料再生系の開発においては、材料探索の結果、卑金属系酸化物電極において、シュウ 酸が高選択的に還元されるうることを見出し、さらにナノ構造制御を施すことにより、最大で約90% の選択性でシュウ酸を還元できる新規な電極系の開発に成功した。 ・高選択的ナノ合金触媒の開発 Fe, Co, Ni から構成されるカーボン担持ナノ触媒(FexCoyNi(100-x-y)/C)を作製した。TEM 測定 により直径 10-30nm のナノ合金が担体上に均一に分散したナノ触媒が得られたことがわかった。 ナノ合金触媒の XRD パターンは単一相からのものであったことから、原子レベルで固溶したナノ 合金が生成していることが確かめられた。ナノ合金触媒の ICP-AES 測定を行うと、作製したナノ合 金の組成は出発原料の組成と一致したことから、原子レベルで固溶した二元および三元ナノ合金 触媒が調製されたことが明らかとなった。作製したナノ合金触媒をもちいてアルカリ条件下におい て定電位酸化を行ったところ、電解質溶液にエチレングリコールを添加した場合にのみ酸化電流 の増加が確認され、作製したナノ合金がエチレングリコールの酸化触媒として機能することを確認 した。一定時間後の反応生成物の分析を行った結果、同条件においては Co-Ni ナノ合金をもちい た場合に酸化物の生成量が最も多いことがわかった。次に、作製した Co-Ni ナノ合金触媒をアル カリ形燃料電池のアノード電極に適用し、エチレングリコールを燃料として発電を試みたところ、電 気を取り出すことに成功した。生成物の同定を試みたところ、グリコール酸とともにシュウ酸の生成 が確認された。以上のように、本年度は、エチレングリコールを燃料とするカーボンニュートラルサ イクル実現の可能性をみいだすことができた。 ・計算科学的手法によるナノ合金触媒の機能評価及び設計 エチレングリコール(HOCH2CH2OH)からシュウ酸((COOH)2)への部分酸化触媒材料の開発 を支援するため、第一原理計算を用いてシュウ酸への部分酸化反応に有効な金属触媒のスクリー 3 ニングを行った。まず、シュウ酸への部分酸化反応の反応素過程である HOCH2CH2O- から HOCH2CHO2-への酸化反応における C-H 結合の解離に有効な金属触媒のスクリーニングを行っ た。ここでは、平坦な Fe(001)、Ni(111)、Co(0001)、Pt(111)、Cu(111)表面上の金属原子に C-H 結合を近づけ、構造最適化計算を行った。実際の表面構造は格子欠陥及びステップ構造を有す ることから、上記の金属表面におけるステップ構造に対して、C-H 結合の反応性を解析した。その 結果、ステップ構造を有する表面上でのみ、C-H 結合が伸長した。これは、この C-H 結合の解離 はステップ構造で起こることを示している。次の反応素過程である HOCH2CHO2-から HOCH2CO3への C-H 結合の解離に有効な金属元素のスクリーニングを行った。その結果、ステップ構造を有 する Fe(001)表面上において、C-H 結合の解離が確認された。一方、ステップ構造を有する Pt(111)表面の場合は、C-H 結合ではなく、C-C 結合を解離することが明らかになった。同様に、 HOOCCH2O-から HOOCCHO2-、HOOCCHO2-から HOOCCO3-への酸化過程で起こる C-H 結合の 解離に有効な金属触媒をスクリーニングした結果、前者の反応に対しては Co、後者の反応に対し ては Co と Ni が有効であることが明らかになった。以上の結果より、エチレングリコールからシュウ 酸に部分酸化させる高選択性を持った触媒材料には Fe、Co、Ni を中心とした合金触媒が有効 であることが示された。 ・高選択的酸化を可能とするアルカリ形燃料電池の開発 図 1 に、NaCo2O4 電解質を用いた固体塩基酸 化物燃料電池による各種アノード触媒のエチレ ングリコール酸化特性を示す。カソードは無触媒 でアノード触媒の種類にかかわらず、開回路電 圧(OCV)は、0.5 V 程度である。アノード触媒が Pt/C のとき、最大 OCV の 0.62 V を示し、電流 密度 130 mA/cm2 で、最大出力 40 mW/cm2 を 示した。NaCo2O4 電解質を用いると、起電力は、 電子伝導性により、それほど高くならなかったた 図 1.LaSr3Fe3O10 電解質を用いた固体塩基 酸化物燃料電池による各種アノード触媒の エチレングリコール酸化特性. め、LaSr3Fe3O10 電解質を用いた固体塩基酸化 物燃料電池で発電を行った。アノード触媒の種 類にかかわらず、OCV は 0.6 V 程度であり、これは、NaCo2O4 電解質を用いた場合より高い。アノ ード触媒が Pt/C のとき、最大 OCV の 0.75 V を示し、電流密度 80 mA/cm2 で、最大出力 32mW/cm2 を示す。アノード触媒が卑金属の Fe-Co-Ni/C のときでも、電流密度 90 mA/cm2 で、 最大出力 27mW/cm2 を示した。 ・放射光による固体触媒の高分解能構造評価 4 NaxCoO2 電解質における焼結処理及びその 後に行われる水処理がその結晶構造に与える NaxCoO2 放射光 影響を原子レベルで明らかにした。実験は、 水蒸気+水素 SPring-8 の BL44B2 のデバイシェラーカメラを 用いて行った。最初に、790℃で焼成した粉末と 排気 それを 900℃で焼結したペレットの回折データを 加熱装置 測定した。それぞれのデータを空間群 P63/mmc でフィッティングしたところ、焼成体粉 図 2. in-situ 水素雰囲気下温湿度制御装置 末については一部、指数のつかない反射が観 測された。そこで、空間群の再検討を行ったところ、格子定数 c が P63/mmc に対して約 3 倍の 32.8Å となる R-3c であることがわかった。また、焼結により Na 比 x が 0.65(1)から 0.80(1)に増加し ていることがわかった。また、焼結処理後の試料を実験室であらかじめ水処理したデータの測定を 行ったが、水処理相を特定することはできなかった。そのため、図 2 のように、内径 1mm 以下のガ ラスキャピラリーの中に水素ガスを含んだ水蒸気をフローさせる開放型の水素雰囲気下温湿度制 御装置を開発した。この装置を利用して in-situ で水処理を行ったところ、非水処理相とは層間距 離が異なる水処理相を見いだした。また、実験室での水処理条件と同様に、280℃で 30 分以上保 持すると、水素還元による Co 酸化物が生成されることが明らかになった。 ・NaCo2O4 固体電解質におけるアニオン伝導プロセスの解明 NaCo2O4 電解質におけるアニオンの伝導メ 初期構造 カニズムを明らかにするため、水和した H2O NaCo2O4 における H2O 分子の挙動を、シミュ H2Oから 生成したH+ レーションにより検討した。計算モデルとして H2Oから 生成したOH- シミュレーション後 CoO2層 NaCo2O4・3H2O を用いて分子動力学計算を ●:Co ●:O ●:Na ○:H 行った結果、NaCo2O4 の層状構造中に含まれ 図 3. NaCo2O4・3H2O におけるアニオン伝導シ る H2O 分子の一部が H+と OH-に解離した。ま た、CoO2 層の O 原子に、解離した H+が結合し、 ミュレーション結果 CoO2 層間に OH-が生成した(図 3)。この結果より、NaCo2O4 の層間では CoO2 層に H2O 分子の H+が結合することで、H2O から伝導キャリアとなり得る OH-が生成することが明らかとなった。また、 H2O 及び OH-の O 原子の拡散係数は 12.97 [10-10 m2/s]、Na 原子の拡散係数は 2.95 [10-10 m2/s]となった。H2O と OH-の拡散係数が Na+よりも大きいことから、NaCo2O4・3H2O はアニオン 伝導体であることを確認した。また、その拡散メカニズムを理論的に明らかにした。 ・光触媒系による高効率燃料再生システムの構築 燃料電池においてエチレングリコールの酸化生成物として生成するシュウ酸を、再びエチレングリ コールへと還元再生するための、電極材料の探索を進めた結果、ほとんどの貴金属や金属酸化物 5 では水の還元が優先的に進行してしまうものの、ある種の卑金属系酸化物を用いると、水中におい てもシュウ酸の還元が高選択に進行しうることを見出した。電気化学的反応を行った際の、外部回 路を流れた電子数と生成物の比から求めた。電流効率は当初20%程度であったが、この卑金属 酸化物電極にナノ構造制御を施すことによって、その選択性は最高で90%程度まで顕著に向上し た。 6 §3.成果発表等 (3-1) 原著論文発表 ●論文詳細情報 1.Tatsuya Takeguchi, HidekazuArikawa, Miho Yamauchi, and Ryu Abe, “Selective Ethylene Glycol Oxidation Reaction for Carbon Neutral Energy Cycle System”, ECS Transactions, vol. 41, No. 1, pp. 1755-1759 (2011). 7
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