組織の形態および組織に含まれる核酸の安定性保持に良好な骨組織脱

組織の形態および組織に含まれる核酸の安定性保持に良好な
骨組織脱灰法の検討
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○伊藤亮祐 ,尾﨑充彦 ,八島正司 ,板木紀久
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鳥取大学 技術部医学系部門
鳥取大学 医学部病態生化学分野
1.はじめに
動物の骨をつくる骨組織は石灰沈着をともなう最も硬い組織の一つであり 1),光学顕微鏡用の組織標本作製には,脱
灰液による脱灰操作を必要とする.脱灰液は,強酸性と中性に大別できるが,強酸性の脱灰液は,迅速な脱灰が可能な
半面,染色性の低下および核酸の断片化などの悪影響を及ぼす.他方,中性の脱灰液は組織への損傷が少なく,核酸の
安定性保持が期待される一方,脱灰に長時間を要する.本研究では,骨組織に対し良好な染色性とその組織から抽出し
た核酸の保持を兼ね備えた骨組織脱灰法を構築する目的で,骨組織を強酸性および中性脱灰液に浸し,カルシウム塩の
溶出効果を高めるとされる超音波(ultrasonic;US)処理をおこない,それらの有用性を検討した.
2.方法
マウスの大腿骨を対象標本として,強酸性の迅速脱灰液であるプランク・リクロ液および K-CX 液(ファルマ製)
,そ
して中性脱灰液である EDTA-2Na 液の3種類の脱灰液を準備し,複合型超音波迅速処理装置である Histra-DC2)(図1)
使用の有無でそれぞれ脱灰処理をおこなった.プランク・リクロ液および K-CX 液
については,脱灰時間を6時間,12時間,24時間に設定し,EDTA-2Na 液につ
いては72時間(3日)
,96時間(4日),120時間(5日)とした.脱灰後に
大腿骨の横断面を薄切面としたパラフィン包埋ブロックを作製して,組織学的解析
用のために3μm 厚の染色用切片による HE 染色をおこなった.同じく1サンプル
につき10μm 厚×5枚の核酸抽出用切片を用意し,脱パラフィン後フェノール・
クロロホルムによる DNA 抽出をおこなった.HE 染色で脱灰液による影響を骨髄細
胞核および細胞質の染色性から判定し,PCR 反応で DNA 増幅産物検出の有無を確
認して,US 処理による脱灰効果と組織および核酸に対する影響を評価した.
図1
Histra-DC
3.結果
HE 染色による判定では,プランク・リクロ液(図2)および K-CX 液(図3)の両脱灰液において,US 処理標本で
はヘマトキシリンによる核の染色性は問題無く,細胞質との対比も良好であった.US 未処理標本では,24時間脱灰
後ですべてヘマトキシリンの染色性が低下し,エオジンの染色性が強調された.EDTA-2Na 液(図4)では,US 処理の
有無に関わらず染色性は良好であった.PCR 反応では,プランク・リクロ液および K-CX 液においては超音波処理の有
無,脱灰時間に関わらずバンドは検出されず,他方,EDTA-2Na 液の脱灰処理標本では,すべてのサンプルに目的のバ
ンドが検出された(図5).
US(+)
US(-)
P N
図2
HE 染色
プランク・リクロ液,脱灰 24 時間,対物×100
US(+)
US(-)
図3
HE 染色
US(+)
K-CX 液,脱灰 24 時間,対物×100
US(-)
図4
HE 染色
EDTA-2Na 液,脱灰 120 時間,対物×100
4.まとめ
強酸性脱灰液では,超音波処理装置の使用によって組織の染
色性が安定し形態の維持が認められ,組織学的には有用である
ことが再確認された.核酸については,強酸性脱灰液の使用に
より超音波処理に関係なく6時間程度でも酸による断片化が生
じたため,PCR 産物が検出できなかったと考えられた.中性脱
灰液では,超音波処理の有無に関わらず PCR 産物が検出されて
おり,超音波処理は,核酸を対象とした解析に影響しないこと
が確認された.以上より,骨等の硬組織に対して中性脱灰液と
超音波処理を組み合わせた脱灰操作が,形態学的解析および核
酸を対象とした分子生物学的解析の両者に有用であることが示
された.超音波処理は固定,脱脂や脱灰など病理組織学の分野
で活用されているが,今回の研究結果により分子生物学的解析
へも応用可能であることが示唆された.なお,本研究は日本学
術振興会平成24年度科学研究費補助金(奨励研究 24931004)
の交付により実施したものである.
(24) 72 96 120h
US(-)
図5
(24) 72
96 120h
ポジ
コン
ネガ
コン
US(+)
PCR 反応
EDTA-2Na 液
参考文献
1)牛木辰男,入門組織学,南江堂,1989
2)迅速脱灰・脱脂・固定装置 Histra-DC,〈http://www.pathology.jp/device/dc.html〉,株式会社 常光,2013 年 12 月 16 日