柔粘性結晶電解質を用いる全固体リチウム電池の創製

The Murata Science Foundation
柔粘性結晶電解質を用いる全固体リチウム電池の創製
Preparation of All-Solid-State Lithium Batteries with Plastic Crystal Electrolytes
H23助自52
代表研究者 林 晃 敏 大阪府立大学 大学院工学研究科 応用化学分野 准教授
Akitoshi Hayashi
Associate Professor, Department of Applied Chemistry,
Graduate School of Engineering, Osaka Prefecture University
Development of all-solid-state rechargeable lithium batteries attracts much attention because
they have high safety and reliability with high energy density. To realize all-solid-state
batteries, superior solid electrolytes with high ionic conductivity and appropriate plasticity
are needed to ensure favorable electrode-electrolyte solid-solid interfaces. Ionic plastic
crystals are one of promising solid electrolytes for all-solid-state battery application. In this
study, N,N-ethylmethylpyrrolidinium bis(trifluoromethanesulfonyl)amide (P12TFSA) was
used as a plastic crystal. Lithium ion conductivity was achieved by dissolution of lithium
bis(trifluoromethanesulfonyl)amide (LiTFSA) to P12TFSA. Thermal and electrochemical
properties of the plastic crystals were examined. ICP analysis and Raman spectroscopy revealed
that lithium ions were doped into neat P12TFSA from a lithium metal electrode by galvanostatic
cycling or only storage at 40 oC of the symmetrical Li / neat P12TFSA / Li cells. The composites
prepared from a NASICON-type oxide solid electrolyte Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3 (LATP) and
the P12TFSA-LiTFSA plastic crystal showed a lower resistance than a powder-compressed
pellet of LATP. The composite of 60wt% LATP and 40wt% P12TFSA-LiTFSA exhibited the
conductivity of 1 × 10-4 S cm-1 at 25 oC. Grain-boundaries and voids among LATP particles
largely disappeared by adding the plastic crystal. All-solid-state Li/LiFePO4 cells with the
composite electrolyte were fabricated. The cells functioned as rechargeable batteries at 40 oC
under current density of 0.064 mA cm-2 and exhibited about 60 mAh per gram of LiFePO4 at the
first discharge process. The use of plastic crystal electrolytes is effective in forming solid-solid
interfaces and decreasing grain-boundary resistance in all-solid-state batteries.
二次電池の開発が急務である。現状のリチウ
研究目的
ム二次電池には、有機電解液が主に用いられ
低炭素社会実現にむけて、高エネルギー密
ているが、これを固体電解質に置き換える“電
度を有する蓄電池の需要が高まっている。太
池の全固体化”によって、電池の安全性を抜本
陽光発電や風力発電によって生み出された自
的に改善することが可能となる。電池の全固
然エネルギーを無駄なく利用するため、また、
体化を実現するためのキーマテリアルが、高い
二酸化炭素排出を大幅に抑制可能なプラグイ
リチウムイオン伝導性を示す固体電解質材料
ンハイブリッド自動車や電気自動車を普及さ
である。これまでに真性ポリマー電解質や無機
せるためには、安全性、信頼性の高いリチウム
固体電解質など、様々な材料系において研究
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Annual Report No.27 2013
開発がなされており、全固体電池への応用が
塑性を持つため、イオン伝導性を示す柔粘性
模索されているが、まだ実用化には至っていな
結晶を電解質に用いることによって、全固体
い。固体電解質に求められる要件としてはいく
電池における電極/電解質固体界面の物理的
つかあるが、まずは室温付近における高い導電
接触を容易に実現できる可能性がある。また
率が挙げられる。また全固体電池においては電
柔粘性結晶を酸化物系固体電解質粉末と複合
極と電解質の界面が固体同士の接触となるた
化することによって、酸化物の粒界抵抗を大
め、良好な界面接合に適した成型性を有する
幅に低減できれば、この複合系材料についても
ことが望ましい。
全固体電池への応用が期待できる。本研究で
イオン性柔粘性結晶は液体と結晶の中間の
は、イオン性柔粘性結晶としてN,N-エチルメ
構造を有しており、構成イオンは位置に関する
チルピロリジニウムビストリフルオロメタンス
長距離秩序性を保ちながらも回転・配向の自
ルホニルアミド(以下P12TFSAと呼称する)を用
由度を持つため、液相に近い高温相について
いた。これにリチウム塩としてLiTFSAを加え
は比較的高いイオン伝導性を示すことが報告
て作製した電解質を作製し、その熱的性質や
されている。また特徴的な構造由来の可塑性
電気化学特性について調べると共に、金属リ
を持つことから、固体界面接合に有利であると
チウム電極/P 12 TFSA界面の評価を行った。ま
考えられる。例えば柔粘性結晶を酸化物系固
たリチウムイオン伝導性酸化物微粒子と
体電解質粉末と複合化することによって、酸
P 12 TFSAを複合化して得られた粉末成型体を
化物の粒界抵抗を大幅に低減できる可能性が
作製し、導電率について評価した。作製した
ある。そこで本研究では、イオン性柔粘性結
固体電解質を用いた全固体リチウム電池を構
晶に対して、リチウム支持塩の溶解やリチウム
築して、その充放電特性について調べた。
イオン伝導性酸化物微粒子を複合化すること
P12 TFSAにリチウム塩としてLiTFSAを加え
によって、イオン伝導性と成型性を兼ね備え
た電解質を作製し、その熱分析を行った。そ
た電解質の作製に取り組んだ。得られた電解
の結果、共晶温度である30 ℃以下の温度では
質の熱的、電気的特性や、金属リチウム電極
P12TFSAと2P12TFSA·LiTFSAの2つの結晶の混
との界面について調べた上で、この電解質を
合物であり、30℃以上で液相線以下の温度で
用いた全固体リチウム電池を構築し、二次電
は、P12TFSA結晶と2P12TFSA·LiTFSA液体との
池として作動させることを目的とした。
混合物として存在することがわかった。次に柔
粘性結晶の電気化学的評価を行った。P12 TFSA
概 要
を電解質として用い、これを2枚のリチウム金
全固体リチウム電池は、安全性と高エネル
属で挟み込んだリチウム対称セルに対して、
ギー密度を両立する次世代蓄電池として、そ
40℃で定電流サイクル試験を行った。繰り返
の開発が期待されている。この電池を実現す
し測定を行うにつれてセル抵抗が小さくなり、
るためには、導電率が高く、電極活物質との
作動電位が低くなる挙動が見られた。測定中
固体界面接合に適した成型性に優れる固体電
に一定の電位を保持することから、リチウム塩
解質の開発が必要である。本研究では、この
を添加していないP12TFSAを電解質に用いてい
固体電解質の候補として柔粘性結晶に着目し
るにも関わらず、可逆的にリチウムの析出・溶
た。柔粘性結晶はその特徴的な構造由来の可
解が繰り返し行えていることがわかった。また
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電気化学的操作を行わず、リチウム対称セル
を40℃で保持するだけで、セル抵抗が徐々に
低減することも明らかになった。ICP発光分析
と顕微ラマン分析の結果から、金属リチウム負
極と接触させて40℃で保持することによって、
リチウムがP12 TFSA中にLiTFSAの形で取り込
まれることがわかった。また金属リチウム負極
と電解質は密着している様子が観察された。
またリチウムイオン伝導性酸化物として
NASICON型Li1.4 Al0.4Ti1.6(PO4)(以下、
LATP)
3
を用い、柔粘性結晶との複合体を作製した。
L AT P 粒子をプレス成型することによって得
られた粉末成型体中では粒子界面に空隙が
多数観察されるのに対して、LATPと20 mol%
LiTFSA-P 12 TFSAを重量比60:40の比で混合
して得られた複合系電解質の粉末成型体中で
は、LATP粒子界面で見られた隙間や粒界が大
幅に低減していることがわかった。粒界の減
少に伴って粉末成型体の抵抗は大きく減少し、
複合体電解質は室温で1 × 10 -4 S cm -1 の導電率
を示した。
次に作製した柔粘性結晶 酸化物複合系固
体電解質を全固体電池へ適用した。正極には
LiFePO4活物質、固体電解質、アセチレンブラッ
クの混合物を用い、負極には金属リチウム箔
を用いて全固体電池を構築した。LATPのみを
電解質に用いた全固体電池では、セル抵抗が
大きいために充放電させることが困難であっ
た。一方、柔粘性結晶と複合化した電解質を
用いた電池では、抵抗が約4桁減少することが
わかった。これは、柔粘性結晶の優れた成型
性により、電解質層および電極−電解質界面
の抵抗が減少したためと考えられる。この全固
体電池を40℃、電流密度0.064 mA cm -2 で作動
させたところ充放電が可能であり、LiFePO 4 の
重量あたり約60 mAh g-1の放電容量が得られた。
−以下割愛−
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