擁壁工指針における浅層地盤改良の検討方法は不適当である

擁壁工指針における浅層地盤改良の検討方法は不適当である
題 - 1
V=100kN
Df=0.50m
例
鉛
直
力
V
kN
100.0
水
平
力
H
kN
40.0
偏 心 量
e
m
0.150
tanθ
-
0.400
θ
度
21.80
傾
斜
角
H=40kN
e=0.15m
名 称
B=2.00m
根 入 れ 長
単位 根入れ地盤 支持地盤
Df i
m
支持地盤:砂質土
単 位 体 積 重量
γi
kN/m
支持地盤の N 値 = 10
せん断抵抗角
φ
度
粘
推定せん断抵抗角
着
力
c
kN/m
3
2
0.5
0.0
19.0
19.0
-
27
-
0.0
f = 15N + 10 @ 27°
以上の条件で支持力を計算する
tan q =
H
= 0.40 ®
V
Nc = 9.95
Nq = 5.07
Qu = Ae(a × k × c × Nc × Sc + k × q × Nq × Ns +
形状係数を連続とすれば
α=1.0
根入れ効果・補正係数を無視する
有効載荷幅
1
b × g 1 × Be × Nr × Sr )
2
,
β=1.0
k=1.0
,
Sc=1.0
,
Sq=1.0
,
Be=B-2e=2.00-2x0.15=1.70m
単位m当りの有効載荷面積
載荷重
Nr = 1.50
Ae=Be・1.0=1.70m2
q=γ2・Df=19.0x0.50=9.5kN/m2
Qu = 1.70 ´ (0 + 9.5 ´ 5.07 +
長期許容支持力
Qa =
1
´ 19.0 ´ 1.0 ´ 1.70 ´ 1.50) = 123.1kN
2
Qu 123.1
= 41.0 kN
=
Fs
3
支持力が不足するので、地盤改良を行なう
<
V = 100.0 kN
out
Sr=1.0
擁壁工指針より
B
sz =
p
p
æzö
1 + 2ç ÷ tan q
èBø
p=
V
B
σz:地中の鉛直応力
Z
θ
p:擁壁基礎底面の平均鉛直荷重強度
θ
σz
z:擁壁基礎底面からの深さ
B:擁壁基礎底面幅
θ:地中の荷重分散角度
V:擁壁基礎底面の鉛直作用荷重
以上の検討方法が擁壁工指針に記載されているが、具体的な方法論は示されてない。
本例の擁壁基礎底面の平均鉛直荷重強度
p=
V 100
=
= 50kN / m 2
B 2.0
支持力式は明示されてないのが図から解釈すると、地盤改良をする場合は偏心を考慮しなく
てもよいと解釈される。従い、支持力係数は水平力を考慮しない支持力係数を使用して検討す
ればよいことになる。
H=0 より
tan q =
H
=0 ®
V
Nc = 23.14
Nq = 13.20
Nr = 10.28
水平力を考慮しない支持力は有効載荷面積を乗じなければm2 当りの支持力で支持力の評価が
可能となる。ここで、水平力を考慮しない場合の擁壁底面における支持力を計算する。
q u = a × k × c × Nc × Sc + k × q × Nq × Ns +
= 0 + 9.5 ´ 13.20 +
長期許容支持力
合力で評価すれば
qa =
1
b × g 1 × Be × Nr × Sr
2
1
´ 1.0 ´ 19.0 ´ 2.00 ´ 10.28 = 320.7 kN / m 2
2
q u 320.7
= 106.9 kN/m2
=
Fs
3
Qa = qa・B = 213.8 kN
>
>
p = 50 kN/m2
ok
V = p・B =100 kN
この結果、水平力の影響を無視すれば地盤改良の必要性はなくなる。つまり、均しコンクリ
ートを地盤改良と見なせば地盤改良をしなくてもよいのである。
道路橋下部構造編での支持力は水平力の影響を考慮した支持力式である。しかし、擁壁工指
針(P.112)に記載された検討法は水平力を無視して解説している。
理論的に考えれば、ある程度の深さがあれば、擁壁工指針の検討方法は問題ないと思われる
が、浅い地盤改良に対しては明らかに無意味である。従い、擁壁工指針の方法論では、浅層地
盤改良に対する支持力検討は「何に対して何の検討をしているのか」意味が解らなくなる。
浅層地盤改良の検討方法
擁壁工指針は支持力を道路橋下部構造編に準拠するが、土中応力分布をボストン・ビルディ
ング法で考えている。これでは、支持力の連続性が保てなくなるので矛盾が生まれる。
道路橋下部構造編との整合性を保つには下記の方法で検討を行なえば矛盾が解消される。
V :擁壁底面からの鉛直荷重
B
Vo:地盤改良体の重量=γ0・Bo・Z
Be
γ0:地盤改良体の単位体積重量
Df
e
Bo:改良幅=Be+2・Z・tanθ
H :擁壁底面からの水平力
V
Z :地盤改良深さ
Z
Vo H
θ
ΣV:地盤改良底面に作用する鉛直荷重
θ
θ:地中の荷重分散角度=30°
ΣV=V+Vo
Bo
概略説明
地盤改良幅は有効載荷幅(Be)を基準に荷重が分布すると仮定
Bo=Be+2・Z・tanθ
地盤改良体の重量(Vo)を求めると、改良体底面に作用する鉛直荷重は
Vo=γ0・Bo・Z (γ0:地盤改良体の単位体積重量) となる
有効載荷幅は Be=B-2e の関係にあるので、地盤改良体の荷重合力は擁壁底面に作用する鉛
直力の軸線上(地盤改良中心軸)に作用する。従い、地盤改良体の有効載荷幅は低減する必要は
ない。
載荷重
q = γ1(Df+Z)
tan q =
H
より改良体底面の支持力を求めればよい。
åV
例
題 - 2
基本的な条件は例題-1 とする
Be
改良体の単位体積重量
γ0 = 19 kN/m3
地盤改良の深さ
Z=0.50m
Df=0.50m
支持地盤の強度は一定とする
Z = 0.50 m
ΣV
Bo
H
地盤改良幅
Bo = Be + 2Z・tanθ=
地盤改良体の重量
V = γ0・Bo・Z = 19 x 2.277 x 0.5 = 21.63 kN/m
改良地盤底面の鉛直荷重
2.277 m
ΣV = V + Vo = 100 + 21.63 = 121.63 kN/m
q =γ1(Df+Z) = 19 x ( 0.50 + 0.50 ) = 19 kN/m2
載荷重
tan q =
1.70 + 2 x 0.50 x tan30°=
H
40
=
= 0.329 ®
å V 121.63
Nc = 11.98
Nq = 6.37
Nr = 2.35
1
b × g 1 × Bo × Nr × Sr )
2
= 2.277 ´ 1.00 ´ (0 + 19 ´ 6.37 + 0.5 ´ 19 ´ 2.277 ´ 2.35) = 391.8kN
Qu = Ae(a × k × c × Nc × Sc + k × q × Nq × Ns +
許容支持力
Qa =
Qu 391.8
=
= 130.6kN
Fs
3
安全率
Fs =
Qu
391.8
=
= 3.22 > 3.0
å V 121.63
> ΣV = 121.63 kN
ok
ok
改良深さと安全率の関係
改良深
z(m)
0.00
0.10
0.20
0.30
0.40
0.50
鉛直荷重
tanθ
ΣV
100.0
103.4
107.3
111.7
116.4
121.6
0.400
0.387
0.373
0.358
0.344
0.329
支持力係数
Nc
Nq
Nr
9.95 5.07 1.50
10.31 5.31 1.64
10.70 5.57 1.79
11.12 5.83 1.96
11.54 6.10 2.16
11.98 6.37 2.35
許容支持力
Qa
123.1
161.3
206.3
259.3
321.2
391.8
安全率
Fs
1.23
1.56
1.92
2.32
2.76
3.22
3.50
3.00
安全率 (Fs)
2.50
2.00
1.50
1.00
地盤改良をしない場合
0.50
0.00
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
地盤改良深さ (m)
以上の検討方法で計算すれば安全率は連続的に変化するし、境界となる擁壁底面の支持力と
の整合性は保たれる。
補
足
この計算例は N 値からせん断抵抗角(φ)を推定し、粘着力を無視している。砂質土は小さい
が粘着力を持っている。擁壁背面土に使用する砂質土の粘着力は無視するのが普通である。理
由は変位の影響や含水比の増大で粘着力を期待できない場合があることによる。
しかし、支持地盤の粘着力は比較的安定していると考えられるので、粘着力が確認できれば
粘着力を考慮しても問題ないと判断している。
地盤の単位体積重量は一律に 19kN/m3 を仮定しているが、支持地盤の単位体積重量は自然状
態の値を用いる必要がある。
補正係数等は無視しているが、基礎幅が小さいと影響も少ないと思われるので、安全率に含
ませてもよいと考えたことによる(今後の課題ではあるが)。
改良深さが深い場合は改良体が横拘束を受けると推定されるので、擁壁工指針の検討方法を
使用することに問題はないと考える。
本計算例は改良体内のすべりに対する検討は省略しているが、時間に余裕ができれば追加す
る予定である。