Contents - 東京大学グローバルCOEプログラム 都市空間の持続再生学

Sustainable Urban Regeneration
Road-Side Based Compact City
Vol. 31_2013_03
Center for Sustainable Urban Regeneration
The University of Tokyo
序論:ロードサイド型コンパクトシティの着想
人口減少時代において効率的な都市構造の
も中心市街地への都市集約は効率的であると
ている.一見すると容易な作業であったかの
お手本としてマスタープランに組み込まれる
判断される可能性は高い.しかし,歴史的景
ようなデザインであるが,各人の専門的視点
ことの多いコンパクトシティ論.人々の日常
観保全なども同時進行することも多い中心市
からコンセプトをどう解釈し,表現するかは
生活圏を限定し,道路や上下水道など社会イ
街地において(土地所有問題も含めて)再開
非常に難しい調整を経た結果であることをご
ンフラの維持・管理コストの削減,人口集積
発する難しさ,戸建住宅居住者がマンション
理解いただければ幸いである.
による地域活性化,徒歩移動環境整備や公共
等の共同住宅での生活環境の変化への抵抗(例
交通の高いサービスレベル提供による移動権
えば,共同住宅内の上下移動は,今後増加す
最後にコンパクトシティをいかに導入する
の保障,さらには脱自動車依存による環境問
る高齢者にとって大きな負担)などを考慮し
かを検討し,実践していくことが我々世代の
題解消が期待される都市システムである.今
ながら都市集約に対する合意形成と実施が必
使命との考えから,具体的な評価指標を整理
後の持続可能な社会における都市構造として,
要となる.
し,簡易な評価モデル(コスト計算)の構築
とその考えに従った計算シートの作成と北関
まさに理想的なシステムである.
コンパクトシティの導入は今後の持続可能
東への適用を行っている.さらに現時点での
今後の課題について述べる.
ここで日常生活圏の集約先として中心市街
な社会を目指したバックキャスティングを行
地があげられることが多い.多くの都市 / 交通
えば,どの都市でも必要不可欠となろう.時
問題の元凶は自動車であるとされ,寂れた中
間的制約がある中,都市構造の変化はただで
本冊子はグローバル COE プログラム「都市
心市街地の再生にコンパクトシティが目玉政
さえ時間を要するため,より現実的で多様な
空間の持続再生学の展開」に特任教員として
策として謳われている.しかし,鉄道網が発
都市像を提示すことが必要ではないだろうか.
参画した十数名の若手研究者の共同研究の成
達している大都市圏内の都市や県庁所在都市
ここで地方都市の現状,導入プロセスを考慮
果をとりまとめたものである.都市持続再生
では中心市街地に都市機能集約を行う選択肢
したコンパクトシティの集約先の 1 つとして,
学をどう展開していくか,との大きな課題に
は大いにありうるが,その他の人口規模が決
ロードサイド店舗を活かした幹線道路沿いに
して大きくはない地方都市では,教科書的な
注目した.
対し,今後の都市像として確立されつつある
「コンパクトシティ」計画論を1つの具体的
な対象とし,各人の専門分野の視点から意見
集約手法の適用がイメージできなかった.私
本冊子では,はじめにコンパクトシティの
を主張し合い,融合を図るべく福井恒明先生
必要性を人口動向やインフラ維持管理費の増
を中心に議論を重ねてきた.まだまだ議論が
地方都市の現状はどうであろうか.戸建て
大,中心市街地の現状の整理から示すととも
足りず,また第 3 者からの厳しい意見に対応
住宅に住み,世帯に複数台の自動車を保有し,
に,中心市街地活性化と同義で扱われる従来
しているわけでもなく,新たな計画論として
どこに行くにも自動車を利用する生活スタイ
のコンパクトシティ論に対し,生活実態の考
詰めが甘いことは承知している.色々とご批
ルが定着している.中心地市街地は衰退して
慮や郊外地域の活用の重要性を示す.
判等はあるかと思うが,専門が異なる特任教
が地方都市出身であるためであろうか…
おり,それを助長させた郊外大規模施設には,
続いて,ロードサイド型コンパクトシティ
大規模な駐車場を完備しており,出入口で発
(Road-Side based Compact City, 以下 RSCC) の
生する渋滞に巻き込まれることもあるが,一
コンセプトを示す.既に生活利便性の高い地
度施設に入れば,日常必需品の買い物だけで
域である大規模小売店舗が並ぶ幹線道路沿い
なく,天候に関係なくウインドウ・ショッピ
に居住地を集約し,日常必需品の買い物や通
ングができ,多数の店舗から好みの食事を選
院には循環バスにて移動を援助する住居地区
べ,医療や文化サービスまで受けることがで
の連担した地域を設定し,教科書的な中心市
き,一日過ごせる生活空間である.このよう
街地への集約化よりも効率性は下がるかもし
な施設は市場原理,つまり人々のニーズや生
れないが,導入期間が短く,同程度の QOL(生
活スタイルに即して供給されている.このよ
活の質)を提供できることを期待している.
うな生活空間・機能を衰退した中心市街地に
また,歴史的な街道の宿場町の機能を振り返
取り戻すためには,どれほどの時間を要する
り,ロードサイド活用のヒントを探る.
のだろうか?
ケ ー ス ス タ デ ィ で は, 北 関 東 を 走 る 国 道
50 号沿線を対象としており, 一定の選定基
政策導入の是非の判断材料として経済モデ
準に基づいて選定された候補地であることを
ルの適用があり,限られた人間活動・行動を
示す.また,ロードサイド型コンパクトシティ
説明したモデルにて政策の With/Without の状
のコンセプトの具現化として,沿道型近隣生
況を再現し,導入効果を把握する.ただし,
活圏と沿道居住区を示している.本研究では
多くのモデルでは転居に伴う心理的負担,施
コンセプト提示にとどまらず,具体的なケー
設建て替えなどの導入プロセスを考慮するこ
ススタディを行っている点が特徴であり,苦
とは難しく,現状では郊外化した地方都市で
労した融合研究の1つの成果の示し方と考え
002
員の議論の途中結果として読み進めていただ
ければ幸いである.
( 金森 亮 )
Part
I
地方都市の縮退と
ロードサイド型コンパクトシティ
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1. コンパクトシティ論再考
1-1 都市縮小のアーバンデザイン
用途混在で歩行者中心のヒューマンスケール
境的持続性のひとつの形態的応答として議論
集約型都市構造の実現に向かう都市政策
の都市空間,それが提供する多様な交流機会
が進んだのが CC である.公共交通の導入によ
いまやコンパクトシティ(以下,CC と略記
やコミュニティへの帰属意識などである.こ
る自動車交通量の削減と歩行者空間の創出(ス
する)は国レベルで大々的に推進される都市
れらは,J. ジェイコブスが『アメリカ大都市の
トラスブールなど),見捨てられていた公共空
政策である.国土交通省は今後の都市政策の
死と生』において示した「用途の混在」「交叉
間の回復(デュッセルドルフの河川空間の再
基本方針として《一定程度集まって住み,そ
点間隔の短い街区」「建設年代の違う建造物の
生など),郊外の有効な土地コントロールによ
こに必要な都市機能と公共サービスを集中さ
共存」「高密度居住」という都市構成の四原則
る自然環境の保護は,都市再生運動初期の事
せ,良好な住環境や交流空間を効率的に実現
を理念的下敷きとしていることは明白だ.
例に共通する政策のボキャブラリーだ.また,
1. コンパクトシティ論の系譜
する「集約型都市構造」》を掲げ,CC とエコ
富山市の CC 政策が示す「団子と串」を例に
経済的持続性の軸となるのは,脱工業化社会
シティをひとつにまとめたエコ CC の概念を提
とれば,中心市街地は比較的大きな「団子」
における内発的な地域経済の発展である.近
唱している.こうした集約型都市構造は,都
であり,その周囲にちらばる旧集落を核に発
年盛んな創造都市論はこの経済的持続性の枠
市機能が集積する複数の集約拠点とその他の
展したような市街地は比較的小さな「団子」
内に位置づけられよう.
地域とが公共交通を基本に有機的に連携され
である.この小さな「団子」において,ジェ
公共交通と公共空間を軸とする初期の CC 論
ている拠点ネットワーク型のスタイルをとる.
イコブス的なまちなかの再生の風景は,果た
は,特に欧州諸都市の都市政策のモデルとなっ
パイロット事業的な存在である富山市の CC 政
して反復的に応用されるべきものだろうか?
た.中心市街地の疲弊に直面していたこうし
策を形容する「団子と串」は,政策モデルと
そもそも,政策的対応の歴史の長い中心市街
た都市において,市民のための空間が取り戻
しての CC の像を象徴している.
地と異なり,計画的対応がなされぬまま宅地
され,生活の質が明確に向上したことは,ま
化が進行したロードサイドは,積極的な対応
ちなか再生の有効性を世界に印象づけた.
(1) 都市政策のパッケージとしての CC
がなされにくい.CC のかけ声だけでは,中心
しかし,現在われわれが対処すべきエリア
都市環境の悪化が決定的となった 1960 年代
市街地の再編は進めど,「小さな団子」の再編
は中心市街地だけではない.中心市街地の外
に,フォーディズムの仕組みと機能主義的近
は進まぬまま,ということになりかねない.
「小
側にスプロール上に際限なく広がった宅地や
代都市計画の限界—すなわち単機能ゾーニン
さな団子」の縮小・再編が自律的に進むよう
ロードサイドの商業集積も政策の対象である.
グやそれが助長するモータリゼーションの進
な政策への転換が求められている.ロードサ
CC は環境の側面からサステイナビリティに
展,かつて市民の創造力の源泉だった「まち
イド型 CC(RSCC)は,それらを統合するひと
接近する方法論のひとつであるが,より市民
なか」の衰退などーが明らかとなった.都市
つの仮説である.
に響く都市政策として成立するためには,現
計画の機能主義に対する批判は,J. ジェイコブ
スや C. アレグザンダーの論説に代表されるよ
実の居住者にも納得のいくビジョンをもつ必
要がある.この観点から見ると,現実にサバー
2. サステイナビリティの三相
うに,地域の歴史的文脈の読み取りとまちの
ここで,コンパクトシティの母体とも言え
ビアにいきる人々にとって,中心市街地活性
魅力としての多様性の許容を軸に展開されて
る都市・地域におけるサステイナブルシティ
化および大規模店舗立地規制とほぼ同義であ
いく.
の概念を再確認しておこう.
る現在の CC 政策は,決して心に響く政策にな
CC 論の第一人者である海道清信の一連の著
持続可能性を高めるには,
「環境」
「経済」
「社
り得ていないのではないだろうか.郊外に生
作は,CC の基本戦略が「(商店街を中心とする)
会」の三つのアプローチをバランスよく統合
き続けなければならない人々が,郊外だから
中心市街地の活性化」「都心居住の促進」「(歴
した政策が求められる(図 1).
こそ生き続けられるという存在理由をいかに
史的環境保全を含めた)既存ストックの有効
東京大学 cSUR 編『世界の SSD100』が示す
活用」「郊外の土地利用コントロール」「自然
ように,主に 1990 年代以降,世界中のさまざ
有効な形態として産み落とすことができるか.
コンパクトシティ論の再構築は,アーバンデ
環境の保全」にあることを示している.よう
まな都市において人間らしい環境を取り戻そ
ザインの今日的課題でもある.
するに,「都心—郊外—自然環境」の維持保全
うとする「都市再生」運動が展開された.環
ならびに活性化という,長年都市計画が格闘
してきたテーマを,改めて歯切れの良い言葉
でパッケージし,かつ,これまでの都市計画
により広域的な視点を付与することで「都市
環境
経済
environmental
圏」という新たな計画対象の必要性を浮上さ
economic
せたのが CC である,といえそうだ.
コンパクトシティ
創造都市
(2) 集約型都市構造における生活者像の不在
とはいえ,そこで展開される生活のイメー
ジは必ずしも明確でない.CC 論において「ま
社会
social
ちなか」が決定的に重要な存在であることは,
あらゆる論者が指摘しているところであり,
ゆえに「まちなか」における生活像は比較的
明確に位置づけられている.すなわち,高密度・
004
図 1 サステイナビリティの三相
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い都市像としてかねてから盛んに議論されて
3. 縮小都市の計画・デザイン手法
(2) 都市資源の過剰化と産業の空洞化
21 世紀の新たな都市類型:縮小都市
きた CC 論を,より現実的な政策アプローチと
グリッド状の計画的市街地や郊外部の板状
して再認識させる.都市構造を,緑,水,土
景観工学は何ができるのか.まず認識する必
の住宅団地が 20 世紀拡大成長期における都市
地を浪費する拡散型から,住宅,土地,社会
要があるのは,既存の都市資源が過剰化する
の基本類型だとすれば,21 世紀におけるそれ
インフラなど過剰化する都市資源を再編し,
という状況である.極端な例をひくと,米国
は縮小する都市になる.グローバル化に伴走
集約型構造に転換するチャンスと捉えること
のデトロイトでは,市域の 1/4 が空き地(住宅・
する産業構造の転換や出生率の低下が都市縮
が,以前にも増して容易になるからだ.
工場跡)である.工場や学校といった施設を
小の主要因である.世界の都市(人口 10 万人
以上)の 1/4 が人口を減らし,都市縮小という
現実を突きつけられ,都市政策の基本概念の
再構築を迫られている.
20 世紀型近代都市の理念なき都市計画は,
開発や成長を当為のものとし,農地や緑地を
都市縮小時代に建築やアーバンデザイン,
含め,こうした「過剰化する」資源を譲与資
(1) 縮小手法の追求
源として再生することが急がれる.
CC 論が縮小都市の中で大きな政策的柱と
都市の「かたち」は,産業構造の転換を受
なっている昨今,すでに低密度に広がった市
けて,そのたびに大きな思想的・空間的転換
街地をそのように再編するかが大きな課題と
を遂げてきた.近代では,重厚長大産業が都
なっている.
市の空間形成論理を規定してきた.近代都市
食いつぶしながらスプロール開発を繰り返し
饗庭伸ら(2007)は,計画的縮退化のシナ
計画の主課題は,流入する工場労働者に対す
てきた.特に中心市街地と郊外の間,すなわ
リオをアーバンデザインの手法から示してい
る住宅の供給であり,交通インフラの整備で
ちフリンジにおける規制は一般的に緩く,か
る.ここでは,縮退への弱い誘導と住環境の
あり,適切な都市発展の誘導であった.
つ土地も安いため,各地域におけるフリンジ
維持を両立する「維持住宅地(延命市街地)」
の間で産業や新規住宅の開発需要を奪い合っ
と,計画的な誘導のもとに縮退させ住環境の
間の形成論理に影響を与えてきた「産業」の
てきた.結果,緑地がつぶされるだけでなく,
悪化をできるだけ抑制する「計画的縮退住宅
関係が問われている.都市の縮小と産業の育
公共投資の無駄が露呈し,環境負荷の増大に
地」をコアに,縮退のデザイン手法の体系化
成を統合的に政策化しようとしているのが先
つながった.
を試みている.林良嗣ら(2009)は,土地利
にも触れたデトロイトである.都市を創造的
人口減少が顕著な状況下,これまでに蓄積
用の集約化とストック化の実現手法の導出を
に縮小するにあたり,最も基本となる単位が
してきた都市施設の新陳代謝が大きな課題と
目的に,既成市街地への再集住や利便性の向
未利用のまま放置された区画である.こうし
なる.近代型都市計画のもとでは,古いもの
上,交流機会の創出等を促進し,最終的に高
た寂れた空地は都市内に幅広く存在している.
を新しいものに代替することが即,新陳代謝
い生活の質 [QOL] を生み出すための単位として
こうした土地をめぐって,都市農業を展開し,
脱工業化の現在,「都市」と伝統的に都市空
ということになった.都市縮小の時代には, 「クオリティ街区」を設定し,具体的な縮小の
農業をキーワードに定住者を呼び込もうとす
その新陳代謝の方法論こそが問われざるを得
る動きが活発だ.市内最大の Eastern Market と
ない.都市縮小時代の到来は,今後の望まし
シナリオを描こうとしている.
も連動しながら,都市の外縁部に発生した剰
図 2 交通の再編と美術館の整備により再生したビルバオ(スペイン)
:脱工業化時代におけるサステイナビリティ実現の可能性を「環境」「経済」の両面で示した
005
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図 3 スプロール地帯に放置されたままの旧小学校(デトロイト)
図 4 過剰化した都市資産を統合的に再生する
(SHAR 財団提供)
余地の再生が図られている.
図 5 空地の土地利用パターンブック(クリーブランド)
(出典:ttp://reimaginingcleveland.org/)
縮小社会の到来に伴い,いよいよ本格的な
どのような価値を見いだし,地域再生の資源
デトロイト同様に都市縮小と産業の空洞化
CC 政策の展開が必要となる.CC 論は建築家や
として「再発見」していくのか.CC 論の正否
に悩むクリーブランドでも同様に,人の活動
プランナーによる形態論に留まってはならな
は,その点に眠っているように思う.
が見られず空地化した茫漠な土地を農地利用
い.環境や福祉,教育等の各種政策課題に応
を軸に再生していくべく,アイデア集を作成
じて,柔軟に近隣自治体と連携することで初
し,まちづくりのきっかけとしている.
めて,形態論としての CC が生きてくるはずだ. [参考文献]
( 阿部 大輔 )
Dolores Hayden は 写 真 集 も 兼 ね た エ ッ セ
4. 都市間競争から City Region の形成へ
イ ” A Field Guide to Sprawl” (Norton, 2006) に
これまで,各都市は「よそにあるものはう
おいて,アメリカにおいてスプロール化した
ちにも欲しい,あるべきだ」と躍起になり,
サバービアが悪者となってきた歴史に触れた
施設やインフラを整備してきた.今後は,「出
上で,その風景を「アメリカの大いなる日常
し抜き型」都市間競争をやめ,近接する都市
風景」と表現した.洋の東西を問わず,有効
が連但することで単一よりも有効な主体とな
な土地利用規制がなされることなく低密に郊
ることが求められる.EU では City Region 論と
外に広がった市街地は,近代都市計画の一種
して知られる都市間協働である.
の「負の遺産」である.こうした負の遺産に
006
饗庭伸ほか『都市縮退時代の都市デザイン手法に
関する研究』平成 19 年度国土政策関係研究支
援事業研究成果報告書,2007
海道清信『コンパクトシティの計画とデザイン』
学芸出版社,2007
林良嗣ほか編『都市のクオリティ・ストック―土
地利用・緑地・交通の統合戦略』鹿島出版社,
2009
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1-2 中心市街地と郊外
サステイナブル・シティや,アメリカのニュー
役割は限定的であった.一方,中心市街地で
アーバニズムといった都市像の主要な語彙も
は一部地域においてのみ霞ヶ関ビル(1968 年)
きわめて大雑把にではあるが,都市像と都市
既にここに認められる.そして,これはコン
のような大規模再開発が進み,その他の大多
の歴史を振り返り,ロードサイドコンパクト
パクトシティの議論につながるものである.
数の地域では個別建替えによる再開発が進ん
1. 中心市街地と郊外の議論の系譜
本稿では中心市街地と郊外という観点から,
シティの位置づけを考えてみることにしたい.
現在のコンパクトシティの議論の直接の源
中心市街地と郊外,都市のどの部分を開発
流は,オックスフォード大学教授だったマイ
日本で中心市街地の活性化が叫ばれるよう
ク・ジェンクスほかによる『コンパクトシティ』
になったのは,主として 1990 年代以降である.
し,投資を振り向けるかという都市像の議論
で行く.
は 古 く か ら 行 わ れ て き た. 近 代 都 市 計 画 で
(1996 年),
『持続可能な都市形態の達成』
(2000
既にインナーシティ問題など衰退が叫ばれて
言えば,古くは E. ハワードが提唱した田園都
年)らに認められる.後者の報告書は持続可
いた欧米の都市に対し,日本の中心市街地は
市が有名である.これは大都市の周囲に,①
能な都市形態の共通原則として,①都市形態
地方都市を含めて,少し遅れて同様の局面を
職住近接,②適正規模(人口約 3 万 2 千人な
のコンパクトさ,②混合用途と適切な街路の
迎えたのだった.日本ではここにきてようや
ど)
,③周囲を囲む農業地帯,④土地の公有化
配置,③強力な交通ネットワーク,④環境の
く(地方都市を含めた)中心市街地の議論が
もしくはトラスト化といった特徴を備えた小
コントロール,⑤水準の高い都市経営を掲げ
本格的になされることになった.
都市を建設しようとする構想である.その後,
ている.ただ,必ずしも郊外か中心市街地か
ここまで中心市街地と郊外,二つの地域の
1924 年のアムステルダム国際都市計画会議に
という二者択一ではなく,分散的な集中開発
観点から都市像の議論を見てきた.これらは
おいて,グリーンベルトで母都市を取り囲み,
など,様々な座持続可能な都市形態が探求さ
いずれもスプロールを防ぎつつ開発,投資先
外側に衛星都市を配置する大都市圏計画とし
れるべきと述べている点は注目に値する(海
を限定するための議論であり,そのなかで,
て確立され,とくに都市計画家(プランナー)
道清信(2001)).
その先を中心市街地と郊外に重点を置くかと
たちの間で共有されていく.郊外のスプロー
次に日本の事情を見てみよう.郊外か中心
いう議論の系譜として捉えることができる.
ルを防ぎつつ,いかに計画的に郊外の開発を
市街地かという議論に関し,海外での都市像
その意味ではロードサイドコンパクトシティ
誘導していくかを主眼とするものであった.
の議論は,日本にも大きな影響を与えてきた.
の議論も,昔から続く議論の一つということ
一方で,中心市街地を対象にしたものとし
田園都市の影響は戦前から多くの郊外住宅地
もできるだろう.
て代表的なものに,ル・コルビジェによる『輝
に明らかであるし,グリーンベルトの計画は
2000 年代以降の人口減少期を迎え,中心市
く都市』などの構想がある.都心部を超高層
東 京 緑 地 計 画(1939 年 ) や 首 都 圏 整 備 計 画
街地だけでなく郊外の縮退も問題になるなど,
ビルで建て替え,周囲に緑地などオープンス
(1956 年)として実際に策定されてきた(本研
現在の日本の都市は,新たな都市像の議論が
ペースを作ろうとするものであった.その後,
究の対象地でもある太田大泉地区は,この時
必要になりつつある.これまで日本で叫ばれ
1933 年の CIAM(近代建築国際会議)第 4 回会
にグリーンベルト外側の市街地開発区域に指
てきた都市像は,欧米の都市との発展段階の
議において,アテネ憲章として集大成される.
定され,開発が進んでいく).また,アテネ憲
違いが若干の時間差をもたらしながらも,大
これは都市を住居・労働・余暇・交通など機
章は丹下健三による「東京計画 1960」などに
きくは欧米の都市像を輸入し,それをいかに
能別に捉えるとともに,中心市街地を高層ビ
つながっていく.
適合させるかという観点から議論されてきた
ルで再開発し,太陽と緑,空間を確保しよう
とくに高度経済成長が始まった 1950 年代半
ように思われる.その意味ではロードサイド
とするものだった.モダニズム建築家やとく
ばから 60 年代にかけて,都市部への大量の人
コンパクトシティの議論は,欧米から輸入さ
に 1960 年頃までのスラム・クリアランスなど
口流入を背景に,日本の建築・都市計画界で
れた都市像ではなく,郊外を改めて本格的に
で共有されていく.
は都市像の議論が盛んになされていた.これ
議論しようとするものでもある.
これに対し,両者を批判したのが,ジェー
は大きく言うと,増加する都市人口を,郊外
そして,都市像と都市の実態の関係から言
ン・ジェイコブスによる『アメリカ大都市の
も含めた新規開発で受け止めるか,市街地の
うと,当たり前ではあるが,中心市街地と郊外,
死と生』(1961 年)だった(注1).ジェイコ
再開発で受け止めるべきかというものであっ
どちらか一つを中心とする都市像が実現する
ブスは歴史の文脈や多様性が都市の魅力をも
た(森村道美(1998)).広大な郊外を開発し
というよりは,これらの都市像を組み合わせ
たらすことを示し,中心市街地の緩やかな改
て道路や上下水道など新たなインフラ整備を
ながら,都市が形成されてきた.今後の都市
善を目指した.そして,都市を機能別に捉え
行うのと,既にある程度のインフラ整備のな
についても同様であり,郊外か中心市街地か
ようとする近代都市計画を批判し,①混交用
されている既成市街地を稠密なレベルに開発
という二者択一ではなく,ロードサイド型コ
途,②小規模街区,③古い建物,④密集といっ
するのと,どちらの効率がよいかが論点となっ
ンパクトシティも,多様な都市像を担う一つ
た要素を掲げた.この背景には,アメリカ都
た.当時の建設省では,実際に後者のシナリ
の類型として位置づけられるだろう.
市の中心市街地の衰退と,それに対する都市
オも検討されている.しかし,土地権利関係
再開発が既存都市の文脈を破壊してしまうと
の調整の問題などから,その具体策を打ち出
いう背景があった.いずれも中心市街地を重
すには至らなかった(注2).
視するものだが,その都市像は対照的である.
結果的には,その後の日本都市は既成市街
2. 中心市街地と郊外の歴史と現状
ここまで都市像の議論の系譜を見てきたが,
中心市街地と郊外の実態はどのように変化し
現在の都市計画界が描く都市像は,前二者を
地の高層化・再開発というより,郊外で開発
てきたのだろうか.本研究の対象地でもある,
踏まえながら,直接的にはこのジェイコブス
が進んでいくのは周知の通りである.1968 年
足利市,太田市,桐生市を対象に概観してみ
の議論を下敷きにしているといっても過言で
には新都市計画法が施行され線引き制度が導
ることにしよう.
はないだろう.近年,EU圏で叫ばれている
入されるものの,スプロール防止に果たした
そもそも,三市の成り立ちは全く異なる.
007
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足利は,山と平地の接点に中世以来の武家の
り商店主が不動産業者に転換することによる
出すための試みとして位置づけられる.そし
町として発展してきた.中心部には足利学校
商業活力の衰退,職住の分離によるコミュニ
て,アイデンティティが見出せるとしたら,
や鑁阿寺(ばんなじ)といった,中世以来の
ティの不在といったことが挙げられる.
それを適切にエイジングさせていくこと,そ
れがこれまでの都市像の議論にも新たに答え
核を持ち,その周囲に市街地が広がっている.
近世期以降は,絹織物の町としても栄えてき
た.
太田は平地に広がる大光院の門前町であり,
3. ロードサイドにアイデンティティを見出せ
しさを主張できるのかという疑問,提出され
道の宿場町として発達した.駅の北側には旧
てきている.例えば「ファスト風土」とう言
街道に沿って線的に町が広がる.しかし,太
葉が発明され(三浦展(2004)),日本の風景
田はむしろ大正期以降に発展した工業都市と
が均一化し,地域の独自性が失われるととも
して有名かもしれない.そして,戦後には駅
に,共同性が失われ,犯罪率も上がるという
の南側で地元商店主が中心となり区画整理事
議論もなされている.そして,それに対し,
業が行われ,かつて水田が広がっていた場所
中心市街地の有効性が叫ばれることもある.
に 1969 年に防災建築街区造成事業による共同
こうした見方は,都市計画家の間でもなされ
建築が完成している.この建築は当初の意図
ることは多い.
ていく.
しかし,実際に郊外に生まれ育ち,現在も居
住している人の前で,こうした議論を行って
桐生はやはり山と平地の接点に,1600 年頃
も話はすれ違うばかりだろう.既に高度経済
に桐生天満宮を基点として桐生新町が形成さ
成長期以降に開発された郊外が存在し,そこ
れた.以後,近世・近代を通じて絹織物業の
に何らかの理由で住み着いている多数の人々
盛んな在郷町(近世期に商品生産の発展など
が存在しているのであり,そういう地域の未
にともない農村地域にありながら実質的に町
来像を積極的に考えていかなければならない.
となっているもの)として発展していく.近
しかし,都市像の議論を見てきてもわかるよ
世末には既にマニファクチャ制が成立してい
うに,中心市街地に比べ,郊外についての議
たとも言われ,京都の西陣と並ぶ絹織物の町
論はまだ手薄だと言わざるをえない.今,必
として知られていく.桐生新町は約 6 間 ×40
要なのは一般論ではなく,個別の事例を精査
間の当時としてもとくに細長い短冊形の地割
して方策を考え,そこから都市像を見出して
と,商家や土蔵,鋸屋根の織物工場など歴史
いくような作業であろう.
的建造物が多数残っている.2012 年には重要
例えば,同様な趣旨からかつて建築学会誌
伝統的建造物群保存地区に指定された.また
『建築雑誌』(2010 年 4 月号)誌上で「郊外で
駅に近い中心部では一部道路を拡幅して,防
くくるな」という特集がくまれたことがある.
災建築街区造成事業による共同建築が建設さ
ここではステレオタイプなイメージにとどま
れている.
らない郊外の様々な側面が指摘されている.
このように三都市は,それぞれの成り立ち
大野秀敏・福川裕一・藻谷浩介による鼎談では,
の違いを反映して中心市街地の構造やそれを
成熟する郊外とそうでない郊外の仕分けが一
構成する要素(地割や建築物など)も異なっ
つの論点となっている.戦後の郊外の開発で
ていた.しかし,こうした違いとは関係のな
も,開発者や土地所有者がある程度自己抑制
い開発が進んだのが高度経済成長期である.
し,共有部分などに配慮がなされた町は比較
前述したように,この地域は高度経済成長期
的残る一方で,個別の土地所有者が金儲けに
に首都圏整備計画において,市街地開発区域
走ってできてしまったような住宅街は,そこ
に指定される.以後,郊外の区画整理と工業
を愛する人も見当たらず,サバイバルが難し
団地造成などを通じて,近世期以来,この時
いといった発言がなされている.
期まで残っていたと思われる郊外の農地は
この特集でも指摘されるように,そもそも
次々と開発されていく.そして,1978 年に新
郊外を対象にこれまでその歴史から現状まで
たな国道 50 号線が開通して以来,その周囲に
が詳細に調べられたことはあまりないように
は,ショッピングセンターが開発されていく.
思われる.一見,均質にも見えるロードサイ
1990 年代以降は,郊外化とモータリゼーショ
ドに本当に多様性と歴史性を見出せないのだ
ンにより,中心市街地の空洞化が進んで行く.
ろうか.逆に言えば,著者のような歴史の立
一般的な要因としては,後継者不足のため商
場からは,ロードサイド型コンパクトシティ
店主が店を閉め,その店を賃貸に出す,つま
とは,郊外にそうしたアイデンティティを見
008
( 初田 香成 )
こうした状況に対し,郊外ではその都市ら
近世期に朝廷からの勅使が通る日光例幣使街
とは異なり,その後,風俗街として有名になっ
ることになると考えている.
るか?
[ 補注 ]
1 他にクリストファー・アレグザンダーの『パタ
ン・ランゲージ』,ケビン・リンチ『都市のイメー
ジ』などもそうした動向を反映するものであ
るが,ここではひとまずジェイコブスに代表
させることとする.
2 初田香成(2011)
『都市の戦後』7 章「用語「都
市再開発」の誕生と変容」を参照のこと.
[ 参考文献 ]
大野秀敏・福川裕一・藻谷浩介・伊藤俊介・饗
庭伸(2010)「郊外の仕切り方 : 捨てずに縮小
するための方法論を考える」『建築雑誌』125
(1603)
海道清信(2001)『コンパクトシティ』学芸出版
社
初田香成(2011)『都市の戦後雑踏のなかの都市
計画と建築』(東京大学出版会)
簑原敬ほか(2000)『街は要る!中心市街地活性
化とは何か』(学芸出版社)
三浦展(2004)『ファスト風土化する日本 - 郊外化
とその病理』洋泉社
森村道美(1998)
『マスタープランと地区環境整備』
学芸出版社
Sustainable Urban Regeneration
Road-Side Based Compact City
Center for Sustainable Urban Regeneration
Vol. 31_2013_03
The University of Tokyo
2. 都市の縮退に向けた論点
2-1 人口と都市構造の実態
人間に寿命があるため死亡数も増加していき,
2030 年代には減少),今後,様々な視点からの
数-死亡数 <0)が記録され,人口減少社会に
2005 年,ついに減少傾向にある出生数と増加
議論が必要となる.
突入した.人口変動は出生,死亡,移動(転入・
傾向にある死亡数の差がマイナスとなり,自
転出)の 3 要素で説明ができ,将来人口予測手
然減少が確認された.
我が国では 2005 年に人口の自然減少(出生
2. 都心回帰の要因
法の 1 つであるコーホート要因法は基本的にこ
人口置換水準は現状の人口を維持するため
れらの要素の仮定値を用いて人口投影するも
に必要な出生率であり,現在は死亡率の低下
一般的には “公共交通にて日常生活を送ること
のである.国立社会保障・人口問題研究所に
から 2.07 で安定している 3).人口減少は合計特
ができる地域の人口密度を高め,都市空間を
1)2)
コンパクトシティの厳密な定義は難しいが,
によ
殊出生率が人口置換水準を下回らなければ生
集約すること” を目標とする.一方,バブル
ると,総人口は 2048 年に 1 億人を割り,2060
じないが,日本では 1956 年に下回り,第二次
経済崩壊後の低地価・低金利などを背景とし
年には現在から 3 割以上減少する 8,700 万人程
ベビーブーム期に回復するものの,その後大
た分譲マンションの大量供給による居住人口
度になる.また 65 歳以上の高齢者数は現在よ
きく下回っている.現在の合計特殊出生率は1.2
の都心回帰現象がみられた.図 2 は江崎 5)によ
りも多くなり,その割合も 4 割弱となる.さら
~ 1.3 程度と人口置換水準の 6 割強であり,大
る東京都特別区の人口増減と自然増加・社会
に核家族化で総人口よりは遅いが 2015 年以降
規模な人口減少をもたらす要因となっている.
増加の推移を示したものであるが,都心回帰
は世帯数自体も減少過程に入り,世帯主が高
ここで,何かしらの政策によって合計特殊出
は自然増加(出生数-死亡数)の影響はなく,
齢者である世帯の急増,特に 75 歳以上の単独
生率が人口置換水準に回復・維持されるとし
社会増加(転入-転出)の回復現象であるこ
よる全国の将来人口・世帯数の推計値
3)
をみると,ベ
とが確認できる.この社会増加の要因として,
世帯は 2030 年には現在の 2 倍以上と推計され
た場合の将来人口の試算結果
ている.
ビーブームによる人口増加が一時的に確認さ
性別年齢階層別の社会増加数を算出すること
人口減少社会,少子高齢化社会にて懸念さ
れるものの,10 年後にはやはり人口減少が始
で 20 ~ 30 歳代(持ち家取得年齢層,高学齢化
れているのが国内消費者数減少,労働力減少,
まり,減少傾向が収まるのは 2070 年以降とな
による大学院在学者など)の影響が特に大き
税収減少,社会保障費の増大などであり,効
る.つまり,人口モメンタムによって,今後
いことを定量的に示した清水 6) の分析事例が
率性向上が大きな目標となっている.一方,効
50 年間,人口減少社会は避けられない状況に
ある.また,都心部のマンション購入者属性は,
率性指標では評価が難しい居住環境やコミュ
ある.
国土交通省の調査 7) によると,特別区内から
より現実的な出生率,死亡率を仮定した将
の移動が 75%,賃貸マンション等に住んでい
環境問題対策や交通弱者対策としても,今後
来人口推計結果は図 1 の通りである.先に述
た割合が 58% を占めている.また,特別区外
の望ましい都市構造として提唱されているコ
べた通り,2050 年には総人口が 1 億人を割り,
からは持家からの住み替えが 46%,65 歳以上
ンパクトシティに注目することは意味があろ
15 歳未満の年少人口割合は 10%,65 歳以上の
は 14%となっている.
う.
老年人口割合は 39% と超少子高齢化社会とな
ニティのあり方も大いに議論すべきであり,
る.地域への土着性が強い
4)
年少・老年人口
東日本大震災で東京圏の人口動態は大きく
変化したと想像するが,総人口や世帯数が減
割合は半数近くとなり,今後数十年間で地域
少していくなか,過度の集中は考えにくい.
日本の総人口は国際間人口移動が非常に少
への関わり方や新たなコミュニティのあり方
また,団塊世代の定年退職により,都心回帰
ないため,出生数と死亡数の差が人口増減と
を考えていく必要性は高い.特に高齢者の単
現象が一段落する可能性も高く,その後は高
なる.戦後直後の第一次ベビーブーム期の出
独世帯の急増は大きな課題であり,都市政策
齢者世帯の増加が急速に顕在化していくこと
生数急増は第二次ベビーブームをもたらした
やまちづくりに福祉的な視点,福祉政策に空
となる.
が,その後,出生数が減少する少子化が始まる.
間的な視点を導入する必要性は高い 4).
1. 今後の日本の人口動向
一方,医療技術の進展による死亡率の低下に
一方,人口減少到来の前兆である少子化(出
より平均寿命は高くなり,よく見かける人口
生数の減少),高齢化(平均寿命の伸長)は
直近のパーソントリップ調査結果 8) による
ピラミッドは山形からつぼ型に変遷し,年齢
日本以外の先進国でもみられ,人口減少,少
と, こ の 10 年 間(1998 年 → 2008 年 ) の 地
構成は徐々に高齢化に向かってきた.ただし
子高齢化は日本固有の問題ではなく(中国も
域別トリップ数(移動数)は,東京特別区で
3. 高齢者の活動状況・居住意識
140,000
50%
45%
120,000
40%
100,000
35%
30%
25%
60,000
20%
15%
40,000
10%
20,000
5%
80
19
85
19
90
19
95
20
00
20
05
20
10
20
15
20
20
20
25
20
30
20
35
20
40
20
45
20
50
75
0%
年次
19
70
65
19
60
19
55
19
19
19
19
50
0
図 1 時空間パスによる表現
割合
人口(千人)
80,000
0∼14歳
15∼64歳
0∼14歳割合
65歳以上割合
65歳以上
図 2 都心部の自然増加・社会増加の推移
009
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Vol. 31_2013_03
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10%以上増加,埼玉県や千葉県内の都市圏外
[ 参考文献 ]
縁部で減少となり,人口増減と同様の傾向が
みられる.また,高齢者 1 人当たりのトリッ
プ数は大きく増加しており,活動的な高齢者
像が伺える.ただし,郊外部では自動車に依
存した生活スタイルが定着していると思われ
るため,自分で運転できなくなった際の対処
(自由な移動の確保)は検討が必要となる.高
齢者世帯の居住地変更は,住宅の老朽化,家
族との近接居住,日常生活の利便性が高い居
住への立地志向を理由として増加傾向にあり,
転居先は公的借家が相対的に多い,という鈴
木・宮崎 9) の調査結果がある.また鈴木・沖
田 10) は,親子の年齢と世帯構成に着目し,郊
外戸建住宅での親の呼び寄せは,親の加齢(要
介護・補助)や単身化が契機となっているた
め同居期間は短いことを報告している.要介
護者の親の呼び寄せなどによる世帯再拡大の
傾向は全国調査 11)でも確認されており,今後,
高齢者単独世帯の増加につれて,郊外部では
転居先として老人ホームなどの施設の他,子
供世帯の居住先付近も多くなる可能性がある.
4. 望ましい都市構造とは
今後数十年に渡って人口減少,少子高齢化
が不可避であり,今後の時代に即した都市構
造を議論し,早急に実現していく必要がある.
コンパクトシティは都市集約によって人や物
の移動や,社会インフラ維持・管理を効率化
できる都市構造であり,自動車に依存しない
都市構造は環境問題や移動権保障への対応と
もなる.ただし,大都市部でみられた都心回
帰のような都市集約化が適用できる都市は限
定的であり,都心部集約以外のコンパクトシ
ティ実現化手法を議論する必要がある.つま
り,コンパクトシティを実現するための多様
な選択肢を多く設定することが求められてい
る.自動車依存度が高く,核となる中心市街
地が衰退し,人口減少,少子高齢化が既に顕
在化している地方都市ではどうすべきである
か.富山市のように LRT 導入と公共交通サー
ビス充実による都市集約化はあくまで 1 つの選
択肢である.今後の人口動向も注視しながら,
相対的にコミュニティへの依存度が高くなる
時代における地方都市のコンパクトシティへ
の現実的な実現手法の議論が重要となる.
( 金森 亮 )
010
Center for Sustainable Urban Regeneration
1)国立社会保障・人口問題研究所(2012)日本
の将来推計人口(平成 24 年 1 月推計)-平成
23(2011) 年~平成 72(2060) 年-
2)国立社会保障・人口問題研究所(2008)日本
の世帯数の将来推計(全国推計)- 2005(平
成 17)年~ 2030(平成 42)年-
3)京極高宣・高橋重郷(2008)日本の人口減少
社会をと読み解く-最新データからみる少子
高齢化,中央法規
4)広井良典(2009)コミュニティを問いなおす
-つながり・都市・日本社会の未来,ちくま
新書
5)江崎雄治(2006)首都圏人口の将来像-都心
と郊外の人口地理学,専修大学出版局
6) 清 水 昌 人(2007) 東 京 都 お よ び 特 別 区 に お
ける年齢別社会増加数の推移,人口問題研究
63-4,pp.28-39
7)国土交通省(2001)「都心回帰」現象の実態把
握調査
8)東京都市圏交通計画協議会(2010)第 5 回東
京都市圏パーソントリップ調査 人の動きから
見える東京都市圏,東京としけん交通だより
Vol.22.
9)鈴木博志・宮崎幸恵(1997)住居移動による
世帯構成の変化と高齢者の住生活課題(第 1 報)
-中京大都市圏における世帯構成の類型化,
移動要因,居住水準の変化,日本家政学会誌
Vol.48 No.5,pp.415-426
10)鈴木佐代・沖田富美子(2003)郊外戸建住
宅地における居住者のライフステージ進行と
世代間居住の動向-中高年層の老親との世帯
形成と相互関係,日本家政学会誌 Vol.54 No.9,
pp.757-767
11)国立社会保障・人口問題研究所(2004)第 5
回世帯動態調査 結果の概要
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2-2 インフラの維持管理
1) 構造物
経済・社会の発展において社会基盤施設の
このような社会基盤施設を基として,今や
る い は 停 滞, 人 口 面 で は 少 子 高 齢 化 が 急 速
拡充が重要な位置を占めることは,インフラ
わが国は今や経済大国として先進国の一員と
に進んでいるという状況にある ( 図 3).現在
の父と呼ばれるローマ帝国以降の歴史が証明
しての地位を確固たるものとするに至った
の予想では生産年齢人口は 2055 年において,
している.自然の脅威から身を守り,食料を
が,これらの社会基盤施設をいかに維持管理
1995 年の半分の人数に落ち込むことが予想
生産し,時には必要な物資を交換し合えるよ
していくかが今大きな問題となっている.先
されている.高齢化の進行に伴い社会保障費
うな安定した環境の整備は,様々なバックグ
述のように我が国の社会基盤施設の多くは,
が総予算に占める割合はさらに増大すると見
ラウンドを持った人と人との共生をも可能と
高度経済成長期に大量に集中して建設された
込まれ,社会基盤施設の維持管理にかけられ
し,社会の更なる発展をもたらしてきた.
ものである.今後老朽化は急速に進む ( 図 1).
る予算はますます厳しい状況になっているこ
わが国の歴史においても各時代・各地域の
図 2 は,50 年以上経過する橋梁の割合を示
発展の影には用水路や堤の整備など何らかの
したものであるが,現在(2009 年)と 20 年
社会基盤施設の整備が行われている.特に今
後を比較すると,道路橋(約 8 %→約 51%),
況 と 近 い 状 況 を 経 験 し て い る.1980 年 代 に
日のわが国の繁栄を直接的に支える社会基盤
水門等河川管理施設(約 11%→約 51%),下
お い て,1930 年 代 の ニ ュ ー デ ィ ー ル 政 策 で
施設は戦後復興,高度経済成長期に整備され
水道管きょ(約 3 %→約 22%),港湾岸壁(約
作られた大量の道路構造物が一挙に高齢化を
たものであり,代表的な例として東海道・山
5 %→約 48%)などと急増し,今後,維持管
迎えたのである.この当時,アメリカ経済は
陽 新 幹 線, 全 国 高 速 道 路 網 な ど が 上 げ ら れ
理費・更新費が増大することが予想されてい
オイルショックの影響を受け停滞しており,
る.急速な経済成長の中で,大量の人やモノ
る.特に今後は高齢化した社会基盤施設が急
維 持 管 理 に 投 資 で き る 余 裕 が な く,1979 年
の高速移動を実現すること,労働力として都
速に増えていくことから,従来に比べて重大
の時点においては 1968 年の半分の水準にま
市に集中する人と情報を収容する建物を建設
な損傷が発生する可能性は急激に高くなるこ
で 低 下 し た. 維 持 管 理 が 行 き 届 か な く な っ
することが当時の社会ニーズであり,社会基
とが懸念される.
た結果,1983 年には 45 パーセントの橋梁に
盤整備もそのニーズに見事に応え,それ以降
社会資本がこのような厳しい状況を迎えよ
の日本のさらなる発展を支える礎となった.
うとする一方で,わが国の経済成長は安定あ
とが予想される.
かつてアメリカは現在の日本が置かれた状
欠陥があることが発見されることとなった.
ウィリアムズバーグ橋はニューヨークの大動
図 1 日本の橋梁の経年別分布状況 (2004 年 )
平成 16 年度 国土交通省道路重点施策より転載・抜粋
図 2 建築 50 年以上の橋梁の推移
平成 16 年度 国土交通省道路重点施策より転載・抜粋
図 3 日本の人口ピラミッド
( 上:2010 時点,下 2050 年時点 )
011
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2) 上下水道
脈であったにも関わらず,封鎖されるという
「むかしむかし,あるところに,おじいさん
事態に到り,暴動が発生するまでに至ってい
とおばあさんが住んでいました.おじいさん
る.この時代の教訓を経て,アメリカでは維
は山へ芝刈りに,おばあさんは川へ洗濯に行
その中で,日本などの先進国が直面してい
持管理の重要性が認識され,予算も確保され
きました.」日本昔話「桃太郎」は,こんな記
る少子高齢化は,適正規模への縮退を促す要
るようになったが,かつて維持管理がなされ
述から始まる.川で洗濯を行うことは,現在
因となりつつある.都市インフラとしての上
なかったことの影響は大きく,アメリカは未
の日本ではほとんど見られないが,過去にお
下水道は,適切な人口予測の基に計画を行う
だにその影響を引きずっている状況にある.
いては,これが伝統的な水利用風景であった
ことが重要である.その人口の将来予測は,
と考えられる.
従来は右肩上がりで増大する予測であったも
このように人手も予算も時を経るごとに少
なくなっていく中で,現在の大量の社会基盤
現在でも,我々が発展途上国へ旅をすると,
めていることから,適切な更新を促すことも,
現在の上水道が直面する課題である.
のが,徐々に「それほど変わらない」という
施設の機能を維持していくことは,今日の生
川の水を直接利用する伝統的な水利用の風景
予測へ,さらには徐々に減少するという予測
活ばかりでなく次世代の社会発展を支える意
を目の当たりにする.我々が目にする風景は,
へ変わりつつある.この中で,拡大を指向し
味でも重要な事項である.
急速な都市化にインフラ整備が追いついてお
てきた,従来型の日本の「都市水システム」
このような状況に鑑み,ソフト面において
らず,それゆえに問題を抱えている事例が多
は大きく影響を受けると考えられる.
は “予防保全” 思想に基づいたライフサイク
い.一方で,昔話からうかがえるように,人
水システムに限らず,都市インフラ全般と
ル コ ス ト の 縮 減 が 図 ら れ た り, 維 持 管 理 業
口が集中していない地域においては,伝統的
して,高度経済成長期といわれる 1960 年代前
務の省力化を図るモニタリングシステムの開
水利用を行っても,実際には問題が少ない場
後に整備されたものが多い.このため,法定
発,維持管理業務支援システムの開発が進め
合も多い.
耐用年数である 40 年を超えた施設の増加が問
られたりしてきている.直轄国道における道
安定的な水利用においては,水量と水質を
題となっており,例えば,平成 21 年度の水道
路橋は,5 年に 1 回の点検を実施し,長寿命
確保することが欠かせない.人口が分散して
統計によれば,配水管のおよそ 10% 弱がその
化修繕計画に基づく予防保全を実施してい
いる場合には,要求される水量が少ないため,
ような管であるとされている.これらの耐用
る.また,地方公共団体においても,計画の
その確保が容易である.また,汚染源として
年数が来たインフラを効率的に更新していく
策定が 4 分の 1 程度の橋梁で進んでいるとと
の人が少なく,少量の汚染であれば河川の自
ことが,今後の都市において取り組むべき課
もに,計画を策定するための点検を約 4 割の
浄作用によって浄化されるために良好な水質
題であることは疑いがない.
地方公共団体で実施しているところである.
が保たれる.従って,人口が集中していない
一方,財源面を考えた場合には,総括原価
しかしながら,一部の地方公共団体において
農村部においては,このような伝統的水利用
方式であること,特に中小都市では一般会計
は,資金,技術力,人材の不足などが原因で,
が行われてきた.
からの繰り入れによる場当たり的な対応が常
橋梁の点検等が進んでいないところもある.
一方,人口が集中する地域においては,水
態化している,などの課題がある.これらの
量の不足や水質の悪化が容易に起こりやすい.
問題に対して学術的見地から持続可能性につ
料劣化メカニズムの分析,劣化進行予測手法
特に人口の集中によって衛生状態が悪化した
いての議論を提示することは非常に有効であ
の開発,低コストで高い効果を発揮できるよ
地域では,糞便等に由来する水系感染症が蔓
ろうと考える.
うな補強工法の開発が進められてきた.
延した.1850 年頃のロンドンでは,地下水を
本研究では,これからの時代にふさわしい
全世界的な趨勢としても,大量生産大量消
汲み上げる浅井戸と屎尿の廃棄場所が近接し
都市の一形態として,ロードサイド型コンパ
費の時代は終焉を迎え,持続的開発・環境共
ていたために感染症が蔓延した.1890 年頃ド
クトシティ (RSCC) について論じている.行政
生を旗印とした新たな時代が到来しつつあ
イツで発生したコレラのアウトブレイクでは,
コストを最小化しようとした場合,上下水道
る.今あるものをより長く使い続けるという
砂ろ過処理を行っていた Altona 市と行わずに
インフラにおける管路は地下に埋設されるこ
単純な原則がこれからの時代を語るひとつの
沈殿処理のみで済ませていた Hamburg 市の間
とから,その維持更新に多額の費用がかかる
キーワードであり,維持管理技術の開発はま
で死亡率に差が見られた.これらの事例を通
と考えられる.従い,コンパクトシティにつ
さしく新時代の基礎技術として重要になると
じて,近代水道の技術が確立されていった.
いて,上下水道の観点から見たコストについ
ハード面ではより耐久的な材料の開発,材
考えられる.
日本における上水道は,1887 年にイギリス
( 千々和 伸浩 )
て考慮しながら論ずることが重要である.
人技師パーマーによって横浜に設立されたも
水道施設のコストは,二つの点で都市の形
のに端を発する.それ以降,特に 1960 年代の
態に影響を受けると考えられる.一つは,配
高度経済成長期を中心に急速に整備が進み,
水管路の延長,もう一つは配水時の圧力水頭
1980 年以降は全国で 90% 以上の普及率を誇っ
である.老朽管の更新を見れば分かるように,
1) 平成 21 年度 国土交通白書
ている.一方で日本を含めた先進国が直面し
地下に埋設した配水管路は,耐用年数が来た
2) 藤野陽三・野口貴文 編著 ,『アーバンストック
の持続再生−東京大学講義ノート』, 技報堂出
版 , 2007
ている少子高齢化は,これまで拡大の一途を
場合や突発的な故障の際には,布設替えを行
辿ってきた都市及び都市インフラの適正規模
わなければならない.配水管路が長い都市で
3) 藻谷浩介 ,『デフレの正体 - 経済は「人口の波」
で動く -』, 2010, 角川書店
への縮退を促す要因となりつつある.また,
あれば,それに応じて更新距離が長くなって
1960 年代に急速に整備された都市インフラが,
コストがかさむこと,また故障する確率が大
2000 年代頃から一気に法定耐用年数を迎え始
きくなる可能性が指摘される.上水道では,現
[ 参考文献 ]
012
Sustainable Urban Regeneration
Road-Side Based Compact City
Center for Sustainable Urban Regeneration
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在,布設替えのための管路更新費として,お
られている状況を想定した場合には,その装
よそ数万円~ 10万円/m程度のコストがかかっ
置の絶対数が膨大になることから,必然的に
ている.このため,行政コストを最小化しよ
維持管理の行き届かない装置や,それらが故
うとした場合には,できるだけ管路長の短い,
障する確率も上昇すると考えられる.それら
コンパクトな形態の都市が望ましいと考えら
の故障の発生確率とかかりうるコストをきち
れる.
んと計算することが必要となる.
一方,都市においては垂直方向へ高密度化
「桃太郎型」の対極に位置するのが,現在の
する形の都市形態がありうる.そのような建
集約型の上水道システムであると考えられる.
物では,垂直方向へ水を輸送するためのエネ
水源から浄水処理までを集中的に管理し,浄
ルギーが大きく必要とされる.そのため,垂
水を管路で配管している.このような場合に
直方向に非常に高密度な都市では,そのエネ
は,確かに管路の維持管理コストはかかるが,
ルギーについても考える必要がある.
水源の水質の変動を平滑化できること,浄水
下水道施設も同様に都市の形態,特に下水
管路延長に影響を受けると考えられる.一方
処理工程での処理装置の絶対数が少なくなる
ために故障への対応が容易である.
で上水道整備と下水道整備において最も大き
これらを併せて,ある都市を対象に考えた
く異なる点は,上水道では水の安定供給とい
場合,管路の維持管理更新コストと浄水処理
う事項が加わる点であろう.下水道における
工程における故障に対応するコストを考慮す
下水管路では,汚水・雨水の遮集の機能のみ
ると,どこかでそれらの均衡点が存在し,最
が要求されるため,管路内管路などの形での
適な規模のインフラシステムが存在しうるは
管路規模の縮小や更新が比較的容易である.
ずである.この問題を具体的に考える一例と
一方で,上水の配水管路は,水道水質基準を
して,国道 50 号を中心としたロードサイド型
満たす水を一定の圧力をもったまま水質を悪
コンパクトシティ (RSCC) の構想は興味深い事
化させることなく供給することが加えて要求
例であろう.ロードサイドに集約を行うこと
される.従って,後で述べる故障などの事象
で,配水管路網が相対的に単純になり,管路
に対する変数が大きく異なってくると考えら
の維持管理コストを抑えることができる可能
れる.
性も考えられる.本号の後半で提示される都
少子高齢化を念頭においた次世代の都市形
市の形態に対し,上下水道インフラとして実
態及びその中での上下水道のあり方を考える
際の対応をどのように取ることができるか考
上でもう一つ鍵となりうる事項は,分散・集
えたい.
約の度合いであろうと考えられる.
(酒井 宏治)
例えば,上水道において分散の最も極端な
事例としては,各戸が独自に地下水などの水
源を持ち,その水を適切な処理をして利用す
ることが考えられる.このような水供給を行
うのであれば,管路施設は不要となる.従っ
て,配水管路の布設,維持管理コストを気に
することなく自由な都市の形態・設計が可能
となる.冒頭の「桃太郎」型水利用は,まさ
にこれにあたる.ただし,この伝統的水利用は,
水源の水量及び水質が安定していることを前
提としている.従って,今日の都市水システ
ムに用いるためには,いくらかの改良が加え
られなければならない.特に,多少の水質変
動にも耐えうる処理技術が確立されることが
望まれる.また,このような極端な分散型シ
ステムを想定した場合,管路整備のコストは
確かに減少するが,他方で井戸の汚染,処理
装置の故障などといった突発的な事故への対
応が必要となる.各戸に処理装置が備え付け
013
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2-3 人口減少に伴う都市の縮退と集積
1. 人口分布と経済活動
2. 空間経済システムのモデル化
現在我が国では,少子高齢化と人口減少が
人口の分布は経済活動に影響を与える要因
ところで,NEG 理論の研究は,高度に抽象
急速に進行しており,特に中山間地や過疎地
であると同時に,経済活動レベルも人口移動
化された都市空間を想定したものがほとんど
域において種々の社会問題の源として注視さ
をもたらす要因となる.前者について,空間
であり,例えば,2 都市のみから成る経済シス
れている.一方,人口減少は都市部における
における人口分布は,都市間における交易や
テムとして空間を表現したモデルを用いた解
中心市街地の空洞化の要因にもなり得る.都
通勤の量に影響を及ぼす.多くの人口が集ま
析的研究が,その中心をなしている.これは,
市における産業活動に対する絶対的な需要規
る地域が大規模な消費地・居住地であること
都市の形成や集積・分散のメカニズムについ
模や労働資源が縮小することで,必然的に都
は自明である.後者に関して,経済活動の結
て,本源的な要因とその影響を分析するとい
市中心市街地の産業において淘汰が進行する.
果として実現する各地域の豊かさに,空間的
う研究目的のためであるが,現実世界におけ
本研究では特に,労働力資源の減少という視
な不均一性がある場合には,人々はより魅力
る複雑な都市空間システムとの乖離について
点で,人口減少の影響を考える.
度の高い地域へと居住地を移す誘因を持つ.
も否定することはできない.
その結果,地域間の人口移動が生じ,新たな
また,興味深い現象として,現在,我が国
理論研究においては,一次元空間や円環状
の大都市部では,都市圏全体としては人口減
の空間など,一様な仮想的空間を前提として,
少が顕在化していないものの,個別の都市に
都市の集積や分散のメカニズムが説明される.
よっては人口減少が見られるところもある.
存関係は古くから認識されていたものの,そ
近年,Akamatsu et al.(2012) のように,一般化
その結果,中心市街地の縮退が進んでいると
のメカニズムを厳密な理論に基づいて説明で
された二次元空間において,階層化された都
ころもあれば,周辺都市からの需要の吸い上
き る 段 階 に 至 っ た の は,1990 年 代 後 半 に 確
市規模システムの創発を理論的に説明する研
げによって都市の経済活動の集積が進んでい
立 し た New Economic Geography(NEG: 新
究が発展している.しかし,現実世界の地理
るところもある.都市の集積化と縮退化を分
経済地理学)の登場以降のことである.NEG
空間において,どのように都市集積が形成さ
かつ要因は何か,そうした多都市システムに
は,Krugman(1991) に よ り 提 案 さ れ Fujita et
れているかを解明することは,いまだ達成さ
おいてどの都市へ集積しどの都市が縮退へ向
al.(1999) により彫琢された,財市場の独占的競
れていない.
かうのか,これらの問題は,今後の少子高齢化・
人口分布パターンへと移行することとなる.
このような,人口分布と経済活動の相互依
争性と財の地域間輸送における輸送抵抗が都
NEG 理論は,静的な多地域一般均衡理論と
人口減少という人口構成変化フェイズにおけ
市集積.分散の主要因となりうることを説明
人口移動ダイナミクスとによって,空間的な
る都市政策検討にとって非常に重要な論点で
した理論である.
都市集積を表現したものである.このうち,
ある.
交通条件が有利,すなわち他の都市や地域
多地域一般均衡モデルは,都市間の輸送抵抗
そこで本研究は,経済理論に基づく定量的
との移動に際して所要時間や輸送費用が小さ
(交通費用や所要時間)と独占的競争を反映し
な空間経済分析モデルを北関東地域へ適用し,
い地域は,他の条件が同じであるような地域
た空間経済分析モデルであり,人口分布所与
今後予想される人口減少,すなわち労働資源
に対して,特に交易面において優位になる.
のもとで,どのような経済状態が実現するか
の減少が,大都市圏の外縁部における都市経
つまり,輸送の一般化費用が小さいため,他
がモデル化される.
済活動の集積と縮退に対してどのように影響
地域での財をより安く調達できる,自地域で
このモデル単体については,一般的には,
を及ぼすかについて検討する.
生産される財をより安い需要者価格で消費地
多都市空間の経済状態変化を分析するために
に提供できるというメリットがある.その結
活用される.その多くは,税制政策や環境政
果,交易財を生産する産業の競争力が高まり,
策の効果,交通整備効果などの評価を目的と
本分析では,群馬,栃木,埼玉の北部関東
生産額規模や地域の分配所得が大きくなる.
している.石倉 (2012) は,この多地域一般均
地域の 3 県を対象に,これらの県内に属する全
そして,居住地の選択が可能な人々は,生活
衡を応用し,人口分布の変化がもたらす,経
139 市町村(平成 19 年度現在)を単位地域と
水準が高い地域へと移動し,また新たな人口
済活動の集積や衰退への影響を分析している.
した.分析に用いたモデルの詳細は石倉 (2012)
分布パターン,経済活動の空間的状態が形成
多地域一般均衡モデルの分析では,家計の居
を参照されたい.
されるというダイナミクスが生じる.雑駁な
住地選択により,地域間の人口移動ダイナミ
本分析は,人口減少局面に転換した我が国
表現ではあるが,このようなメカニズムによっ
クスは表現されていないが,基準時点におけ
の,大都市圏と中山間地の間にある地域を対
て,都市の人口集積・分散,経済活動の状態
る人口分布状態のもとで,将来どのような地
象に,人口増加地域と人口減少地域が混在す
が説明される.
域が集積魅力度を持つことになるかを考察す
るところで,どのような経済的変化が生じる
ロードサイド型コンパクトシティ (RSCC) の
ることができる.石倉 (2012) から得られた知
かに着目する.したがって,人口変化が進ん
大きな特徴は,都市間を結ぶ幹線道路に近接
見も,ロードサイド型コンパクトシティの候
だ近い将来を想定して,現在の経済状態から
しているという点にある.これは,道路交通
補となりうる地域の経済的ポテンシャルを考
どれだけの変化があるかを推定する.想定す
という側面からみると,交通条件が比較的有
える上で,有益な情報となることが考えられ
る将来状態のシナリオは,二つ用意する.一
利な地理的特性を持っていると解釈すること
る.そこで,以下では,石倉 (2012) の概略に
つは,2005 年から 2010 年への市町村別人口増
ができる.このため,大規模な交通システム
ついて述べることとする.
減のパターンが今後も継続すると仮定し,さ
改善を行わなくても,経済活動が集積しやす
い素養を持つ土地であり,そこへコンパクト
シティを形成するという考え方も,一種の合
理的発想と言える.
014
(2) 人口減少による都市集積・縮退への影響分析
らに 10 年経過した時点での社会経済を想定し
3. 人口減少がもたらす経済活動の集積・衰退
に関する分析
(1) 人口減少による経済活動への影響
たものであり,これを基本ケースとする.も
う一つは,都市規模が中規模以下の市町村に
おいてより人口減少が進んだことを想定し,
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2005 年現在で人口 20 万人未満の市町村におい
茨城県と栃木県の県境部など,中山間地域に
て人口変化率(減少率)を 2 倍として同様に
おいて負便益が大きく変化している.
10 年後の人口状態を設定した仮想的な人口減
[参考文献]
いずれの分析結果においても見られる特徴
少加速シナリオである.
A k a m a t s u , T. , Ta k a y a m a , Y. a n d I k e d a K . :
Spatial Discounting, Fourier, and Racetrack
Economy: A Recipe for the Analysis of Spatial
Agglomeration Models, Journal of Economic
Dynamics and Control, forthcoming, 2012.
は,都心近郊を除くと,国道 4 号線や国道 17
各シナリオにおける人口分布を与件とした
号線,東北自動車道や関越自動車道など,高
ときに想定される経済状態の評価指標として,
規格幹線道路に沿った地域において,正の便
Bröcker(1998) と同様に,要素所得あたり便益
益が生じる都市が多いという点である.これ
を用いている.これは,各市町村における経
は,都市間交通の利便性が高い都市ほど,人
済的な豊かさ(の現在からの変化)の指標と
口減少下において,経済的豊かさの水準が相
して解釈できるものである.
対的に高くなるということを意味している.
図 1 と図 2 は,それぞれ,基本ケースと人口
Bröcker, J.: How would an EU-membership of the
Visegrád- countries affect Europe ‘s economic
geography?, The Annals of Regional Science,
vol. 32, no.1, pp91-114, 1998.
人口分布に関して,生活質水準の差により,
減少加速シナリオにおける,各市町村の要素
一般的に,負の便益が見られる地域から正の
所得あたり便益の分布を示したものである.
便益の地域へと人口移動が生じる力がはたら
基本ケースの結果を見ると,埼玉県内で東
く.したがって,主要道路沿線は,元来,人
京都に近い地域や,栃木県・群馬県の高速道
口集積地となるための素地を備えていること
路および幹線国道沿いの一部の都市では正の
を,経済理論に基づいた本モデル分析の結果
便益が生じているものの,全体として負の便
も支持している.
Krugman, P.R.: Increasing returns and economic
geography. Journal of Political Economy, 99:
483–499, 1991.
石倉智樹 : 人口減少に伴う都市の縮退と集積に関
する基礎的定量分析 , 都市計画論文集 , vol.47,
no.1, pp.68-73., 2012.
益である地域が多い.人口の減少は経済活動
しかし,主要道路沿いであることが自動的
の縮小をもたらす要因の一つであるが,集積
に都市集積をもたらす要因となるわけではな
の経済性がもたらす効果によって,衰退へ向
い.例えば,ここでの分析結果では,国道 50
かう都市や地域はより衰退化し,一部の集積
号線沿い(北関東自動車道沿い)の地域では,
都市への経済力の集中が加速すると予想され
今後の人口減少によって負便益がもたらされ
る.
る都市が多くみられる.これらの地域では,
そして,中規模以下の都市でより人口減少
Fujita, M., Krugman, P.R., Venables, A.J.: The Spatial
Economy; Cities, Regions, and International
Trade, MIT Press, 1999.
既存中心市街地と主要幹線道路が離れており,
が進んだ,人口減少加速シナリオの結果(図
かつ既存中心市街地の衰退が見られるという
2)を見ると,よりそうした効果が顕著である
市町村が少なくない.こうした地域でこそ,主
ことがわかる.結果の全体的な傾向は基本ケー
要な幹線道路沿いであるという交通面のメリッ
スと類似しているが,人口減少の幅が拡大し
トを生かしたまちづくりの対策が望まれる.
ているため負の便益が拡大しており,特に新
( 石倉 智樹 )
潟・長野と群馬の県境部,秩父山麓や赤城山麓,
那須町
那須町
那須塩原市
大田原市
片品村
みなかみ町
那須塩原市
大田原市
片品村
みなかみ町
矢板市
日光市
矢板市
日光市
塩谷町
塩谷町
那珂川町
川場村
六合村
中之条町
高山村
草津町
嬬恋村
東吾妻町
長野原町
那須烏山市
宇都宮市
桐生市
渋川市
鹿沼市
みどり市
榛東村吉岡町
西方町
桐生市
都賀町
佐野市
前橋市
栃木市
富岡市
吉井町
甘楽町
藤岡市
南牧村
神流町
野村
小鹿野町
大泉町邑楽町 館林市
里町
東吾妻町
長野原町
桶川市 蓮田市
川島町
尾市 奈町
坂戸市
ときがわ町 鳩山町
越生町
飯能市
日高市
春日部市
松伏町
川越市
さいたま市
越谷市吉川市
ふじみ野市
富士見市志木市
三芳町
戸田市蕨市 草加市三郷市
朝霞市
八潮市
川口市
所沢市
新座市和光市
図 1 基本ケースの結果
宇都宮市
桐生市
渋川市
下仁田町
富岡市
吉井町
甘楽町
佐野市
神流町
野村
小鹿野町
-0.0050 - -0.0025
栃木市
下野市
大泉町邑楽町 館林市
里町
ときがわ町 鳩山町
越生町
坂戸市
飯能市
日高市
入間市
20
30
益子町
二宮町
藤岡町
野木町
千代田町 明和町 板倉町
北川辺町
羽生市
熊谷市
大利根町
神川町
行田市
加須市 栗橋町
長瀞町
寄居町
騎西町 鷲宮町
滑川町
皆野町
鴻巣市
幸手市
嵐山町
菖蒲町久喜市
東秩父村小川町
吉見町
東松山市
北本市
白岡町 杉戸町
美里町 深谷市
桶川市 蓮田市
尾市 奈町
川島町
春日部市
40
km
松伏町
川越市
さいたま市
越谷市吉川市
ふじみ野市
富士見市志木市
三芳町
戸田市蕨市 草加市三郷市
朝霞市
八潮市
川口市
所沢市
新座市和光市
狭山市
5 10
真岡市
小山市
太田市
毛呂山町 鶴ヶ島市
秩父市
0
三川町
岩舟町大平町
勢崎市
横瀬町
0.0000 - 0.0025
0.0050以上
壬生町
本庄市
藤岡市
-0.0050未満
市貝町
茂木町
都賀町
足利市
南牧村
-0.0025 - -0.0000
芳賀町
西方町
桐生市
玉村町
0.0025- 0.0050
みどり市
前橋市
高崎市
二宮町
便益/所得
鹿沼市
富士見村
榛東村吉岡町
藤岡町
那須烏山市
高根沢町
昭和村
安中市
野木町
千代田町 明和町 板倉町
北川辺町
羽生市
熊谷市
大利根町
神川町
行田市
加須市 栗橋町
長瀞町
寄居町
騎西町 鷲宮町
滑川町
皆野町
鴻巣市
幸手市
嵐山町
菖蒲町久喜市
東秩父村小川町
吉見町
東松山市
北本市
白岡町 杉戸町
毛呂山町 鶴ヶ島市
40
km
嬬恋村
益子町
美里町 深谷市
入間市
30
高山村
小山市
太田市
狭山市
20
下野市
真岡市
中之条町
草津町
本庄市
横瀬町
秩父市
三川町
さくら市
沼田市
市貝町
岩舟町大平町
勢崎市
玉村町
5 10
壬生町
足利市
安中市
0
芳賀町
茂木町
富士見村
下仁田町
六合村
高根沢町
昭和村
高崎市
那珂川町
川場村
さくら市
沼田市
便益/所得
-0.0100未満
-0.0100 - -0.0050
-0.0050 - -0.0025
-0.0025 - -0.0000
0.000 - 0.0025
0.0025- 0.0050
0.0050以上
図 2 人口減少加速シナリオの結果
015
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3. ロードサイド型コンパクトシティ
3-1 ロードサイド型コンパクトシティのコンセプト
1.ロードサイド型コンパクトシティの原則
明治期に陸蒸気を嫌って鉄道駅を遠ざけ衰
(1) 主要幹線道路沿いの徒歩距離内に居住地を
に広がる街のように,津々浦々までバス路線
集約する.
をひく必要がなく,ロードサイドの立地を生
退した宿場町,高度成長期に混雑緩和のため
居住地に対して個別に物流・インフラを供
かした,高速度で高効率な運行が期待できる.
にバイパス道路を作りシャッター通りと化し
給するのではなく,他の目的で整備される物
た中心市街地の商店街.これらは,人と荷物
流・インフラの設備に寄り添うように居住地
が行き交う場所に賑わいは生じることを物語
を配置する,ということである.これによっ
を核として,多機能集約化を図る.
るようである.今後人口が減少し,街が歯抜
て,物流・インフラの効率的な供給が実現でき,
小規模拠点であればコンビニ・物販店・飲
けのようにスカスカになっていくとき,元の
人口が減少しても効率性の名の下に供給が途
食店・郵便局・農協,大規模拠点であればショッ
中心市街地を核に都市の再凝集を図るという
絶える危険性は少なくなる.
ピングモールや既存中心市街地など,既存の
方策が考えられている(いわゆるコンパクト
シティ).しかし,通過交通を遠ざけ,疲弊し
(5) 各生活拠点は既存のロードサイド商業施設
社会基盤や地域施設を効率よく活用できる.
(2) 徒歩圏の「沿道居住区」を設定し,小規模
きった中心市街地には,既に人も物も流れて
な生活サービス拠点を配置する.
は来ない.その上,新しい核を担えるように
徒歩圏を生活基本領域とした「沿道居住区」
(6) 道路から離れる方向への徒歩移動で,自然
環境を楽しみ利用することを実現する.
街に手を加えることは,既存のしがらみや歴
では,その中で日々の生活が一応完結できる
居住者の生活の質(QOL)にとって,人間
史的・文化的な背景もあり,そう簡単には進
よう,食糧・福祉・交通などの必須のサービ
的な生活や自然環境を享受できることは,都
まない現状がある.また,郊外に住む住民に
スを提供する小規模な拠点を整備する.これ
会的な利便性と同等な極めて重要なものと位
とっても,行政の一方的な都合で慣れ親しん
により,自家用車を使用できない人々にも,
置づけるべきである.縮退した跡地である市
だ住処を捨て,便利ではあるが随分離れたよ
最低限の生活利便性を提供することに応える.
街地外縁には,公園・農地・里山などを配置
く知らない街の真ん中に転居を促されるのは
抵抗感が強い.
そこで,既存中心市街地型コンパクトシティ
して,徒歩で往き来できるようにし,郊外的・
(3) 頻度の少ないサービスは「沿道型近隣生活
圏」内で賄う.
田園的暮らしの魅力を強化する.
これまでの平面的に均等に広がった都市に
のオルタナティブとして,私たちが提案する
頻度の少ないサービス(嗜好品販売や余暇
対し,密度を維持する軸と密度を減じる軸と
のが,現に存在し人も物も流れていて比較的
サービス等を含む)を「沿道居住区」ごとに
に分離することで,都市の利便性を確保しつ
元気のあるロードサイドの店舗群と郊外に拡
用意するのは,収益性の点から難しく,街の
つ,田園生活の豊かさも享受できるのが大き
散した住宅地を活用した「ロードサイド型コ
維持コストの増大を招く.近隣の小規模拠点
な特徴である.
ンパクトシティ」である.
の相互補完や大規模拠点への集約など,「沿道
一言で言うと,ロードサイド型コンパクト
型近隣生活圏」の中で適正な配置を行い,自
なお,これらロードサイド型コンパクトシ
シティとは,都市間を結ぶもしくは都市を迂
律的な事業として成立することを目標とする.
ティの原則は,以下の4つの基本的な考え方
回する幹線道路沿線に位置し,徒歩圏の幅を
持った線状の都市形態である.この形態が魅
力的な都市として成り立つ条件を,「ロードサ
を背景に持ったものである.これらについて
(4)「沿道型近隣生活圏」を円滑に移動するた
は2.で解説する.
めの公共交通機関を充実させる.
イド型コンパクトシティの原則」としてまと
自家用車を使えない交通弱者に交通権と利
めると,以下の6項目となる(図1もあわせ
便性を保障するためである.同時に車利用は
2:物流の効率化を中心に据えた考え方
て参照).
許容しつつも,徒歩およびバス等の公共交通
3:生活者の側に立った論理を重視
機関利用への転換も促す狙いがある.平面的
4:持続可能な仕組みを織り込む
図 1 ロードサイド型コンパクトシティの模式図
016
1:現状を追認する社会的受容性の高い方策
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2.ロードサイド型コンパクトシティの考え方
受容性の高い都市形態を志向している.
イド型コンパクトシティ(以下,RSCC)の合
理性について,背景にある4つの基本的な考
え方に基づいて考察してみよう.
(1) 現状を追認する社会的受容性の高い方策
届けられる.ならば,面的に広がる都市が縮
退するときに,全方向で均等に縮むのではな
では,前記のような原則に則ったロードサ
(2) 物流の効率化を中心に据えた考え方
くある軸方向に選択的に縮退すれば,都市は
人々が集まって暮らし,協働や分業など関
線状の形態に近くなり,物資の搬送の効率性
わりを持つことで大きな利便性が得られるの
は低下しない.これが線状に都市が展開する
が都市である.人口が減少するとき,放って
RSCC に合理性がある理由のひとつである.
おけば隣人との距離は開いていくが,生活の
RSCC を俯瞰してみると,幹線道路のネット
利便性を落とさないようにするためには,あ
ワーク上に小規模拠点が連続する市街地の形
る適切な距離を維持せねばならない.これは
これまでのコンパクトシティ論は,行政の
状が見えてくる(図 2 の i 参照).小規模拠点を
都市間にも同じことが言え,街と街のつなが
視点からのインフラの供給や行政サービスの
コンビニエンスストア,大規模拠点をショッ
りもまた維持していく必要がある.
提供の効率化を動機として語られることが多
(3) 生活者の側に立った論理を重視
一方,冒頭に述べたように,人と物の行き
く,生活者の立場からは十分には考えられて
地と見れば,この形態は現代日本においては,
交う場所が繁栄を享受できる.マーケットと
いなかった印象がある.RSCC では,生活者の
既に実在している構造である.これまで無秩
ともに都市は発展し,大規模なマーケットほ
視点を重視し,生活の質を考慮した住民本位
序な開発の産物として否定的に語られること
ど多様な人・物が集積する魅力的な場所とし
の街の実現を図るものである.
の多かった郊外のロードサイドへの商業空間
て機能していた.居住者にはマーケットへの
の展開を積極的に活用しようというのが,本
距離が近いことが重要であり,一極集中型の
論の大きな特徴である.
都市形態が合理的であった.しかし,情報社
都市を再凝集する際に,住民にとって最も
RSCC はネットワーク型コンパクトシティの
会の発達によって,どんな流通量の少ないも
影響が大きいのは,居住地の移転であろう.
一種であり,既存中心市街地型コンパクトシ
のでもネットで検索・注文し,宅配便などの
生まれ育ち長年暮らしてきた地域は離れ難い.
ティを否定するものではなく,並立が可能で
小口輸送を通して自宅まで届けられるように
何キロも離れた滅多に行かない中心市街地へ
ある.RSCC は,既存市街地の単極に集約する
なっている.いまや,マーケットの優位性は
の転居を躊躇する人でも,日常的に利用する
のではなく,ロードサイドの小さな多極も含
現物が確認できること位しかなくなってきて
街道筋のバス停や商店の隣に転居するならば,
めて集約を図ることで,中心市街地への負担
おり,マーケットを中心とした都市形態も同
元の住居に毎日通うこともでき,移転の抵抗
を減らし,歴史・文化的資産を維持しつつ再
様にその意味が薄れつつある.その他,一極
感は低くなると考えられる.
開発を行う時間的な余裕を創出することも可
集中型の都市には外敵や自然の脅威からの防
能となる.
御性という利点もあったが,現代においては
ピングモール・複合商業施設・既存中心市街
①移転抵抗感の軽減
②選択肢の確保
また,既存の中心市街地型コンパクトシティ
一部を除いて都市の防御性は既に重視する必
線状に供給される物資の特性については先
は一見理想的,新しい施設が既に集積してい
要はなく,この点でも一極集中型都市の妥当
に触れたが,宅配会社間の競争や電力自由化
る郊外のロードサイドをどうするのかについ
性は減退している.
問題でも明らかなように,単にラインの末端
てはほとんど言及がない(図 2 の ii).地域の現
結局,現在の都市の利便性とは,物資の搬
にぶら下がるのではなく,複数から供給が得
状をできるだけ活用した方策のほうが,変化
送のしやすさ(コスト)と深く関係すると言
られる冗長性と多様性があって,選択と競争
が少ないためにハードルが低く,実現性が高
える.搬送の際,ライフラインやロジスティッ
が産まれることが大事である.冗長性では全
いはずである.RSCC はこの点において社会的
クなルートなど,物資は線状の形態を通して
方位的に広がる既存都市にはかなわないが,
■ 宇宙の泡構造と RSCC の類似性について
ところで,網目状に連なる市街地の姿は,
「宇宙の泡構造」(銀河団の配置の構造)と
よく似ていると感じる.やや突拍子もない
連想に聞こえるかもしれないが,ビッグバ
ンから宇宙が膨張を続け密度が薄くなって
いく様は,人口減少によって居住密度が減
少していく様相と似ている.星同士のつな
がり(重力)を保ちながら密度が減ってい
くと,こういう形になるのだろうか.宇宙
の泡構造の成立要因はまだ明らかになって
いないが,何らか必然性のある自然な形で
あることは間違いない.RSCC の妥当性を直
接証明するものではないが,その意を強く
ⅰ.ロードサイド型コンパクトシティ
ⅱ.既存中心市街地型のコンパクトシティ
させるような事柄である.
図2 コンパクトシティの形態の違い(生活拠点数・市街地面積は同じにしてある)
017
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市場縮小の中で同業者が合併するように,選
道路から離れるのは好ましくないが,ヒュー
択肢が多すぎるのも不効率と言える.RSCC で
マンスケールとして健康な人間が徒歩で行き
は,少なくとも 2 方向,幹線道路の交わる付近
来できる範囲に収まるのが妥当である.
では,3 方向や 4 方向の選択肢も得られること
になる.
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②小規模生活拠点が沿道居住区を支える
小規模生活拠点には常時人がいて,ホテル
やマンションのコンシェルジェ的役割を果た
し,生活相談や各種手配・行政サービスを提
(4) 持続可能な仕組みを織り込む
供する.ネットや大規模拠点で買物した品を
一度手にした多様性や選択権がなくなるこ
RSCC が持続可能な都市であるためには,単
運んでもらえれば,わざわざ自家用車で出か
とは,生活環境の利便性と満足感に大きな影
に機能の配置やゾーニングだけでなく,その
ける必要もなくなる.拠点機能はロードサイ
響を与える.縮退の局面では,冗長な多様性
地域が自律的に経営されていく仕組みが必須
ド店舗とサービス提供の契約を結ぶなどして
もまた縮小せざるをえないが,RSCC はその中
である.そのためには,まず第一に居住者の
確保する.店舗側も地元貢献になり,顧客の
でも必要な選択肢を維持することで,生活の
自助共助で,自分たちのことは自分たちで決
囲い込みにもつながる.
利便性の保証が可能である.
められることが重要である.そのコストは,
また,小規模拠点は公共交通への接続点で
管理費のような形で居住者が一様に負担する
あり,バス待ちの時間は,沿道居住区内の人
こともあり得るが,ロードサイドに位置する
達とコミュニケーションを図り,情報を得る
原則 (6) の「道路から離れる方向への徒歩移
ことを利用して,何か収益になるものを各拠
機会となる.加えて,高齢者・乳幼児・障碍
動で,自然環境を楽しみ利用することを実現
点が創意工夫し,できるだけ補助金等の公的
者のための福祉施設を併設・隣接させれば,
する.」は,選択的に規模を減じた道路直交軸
支援に頼らずに自活できるのが理想的である.
送迎や面会などがしやすく地域で孤立しない
③利便性とは異なる生活価値の実現
に積極的な役目を期待するものである.
小規模拠点を委託する店舗・交通機関・収
社会を作ることができる.
密度が高いことは生物のストレスの要因と
益事業などに対しては,沿道居住区として何
なる.人間とは贅沢なもので,利便性や刺激
らかの形で経営に関与し,自分たちの生活を
を求めて周密な都市に集まるにも関わらず,
支えるものに対して,運命共同体として愛着
先に示した自然とふれあうロハス的な生活
ある程度満たされると,のんびりしたいとか
をもって盛り上げていく仕組みをつくる必要
には,「自給自足」や「地産地消」といった概
広い部屋に暮らしたいとか言い出す.心理学
があるだろう.居住者が当事者意識を持つた
念も入り込んでくる.元来,野生の自然と都
的な実験では,自然溢れる風景と刺激的な都
めにも街の単位は小さい方が望ましく,徒歩
市空間の間には,田園や里山的な人間に管理
市的風景のうち,自然の風景を好む人は疲れ
圏という大きさは適当と言える.
された半自然空間があり,そこでの生産物が
やすい傾向にあるという.また,自然の風景
はたとえ絵や写真でも,ストレス緩和効果が
③地域で生産し流通させる仕組み
これらの空間を管理し,治山治水等の地域環
①交通手段の確保
境を守っていくモチベーションとなっていた.
あることがわかっている.つまり,緊張と弛
物流の要である幹線道路は,同時に居住者
沿道居住区内の生産物は,優れたものなら
緩のバランスが,人間らしい豊かな生活には
の移動の動線にもなる.しかし,車社会の現
他の地域の人々に買ってもらえ,利益は小規
必要なのである.
代日本では,運転免許を持たない子どもや高
模拠点が担うサービスの原資にあてることが
上記のような弛緩のニーズについては,反
齢者の移動は極めて困難な状況がある.ドア
できる.生産物は幹線道路を通して出荷して
近代都市的な流れから,ヒューマンスケール・
to ドアを自由に往き来できる自家用車の利便
もよいし,幹線道路には多くの人が行き交い
自然生態系保全・コミュニティ・多様性・文
性・魅力は否定できないが,車利用への偏重
大きなポテンシャルがあるので,通過交通を
化・愛着などのキーワードで代表されるよう
によってバスをはじめとする公共交通の利用
効率的に捕らえて販売することも可能である.
に,都市において重要なものという共通認識
者が減り,経営が成り立たないという二極化
これは,すでに高速道路の SA や道の駅など多
が既にある.ただし,それらを具現化する公
が起こっている.強制的に車利用を制限する
くで試みられるモデルであり,ロードサイド
園やトランジットモールといった方策は,一
のは得策ではないが,車利用からバス利用へ
店舗が発達してきた一番の要因である.都市
極集中型で利便性や経済性という一元的な価
の転換を促し,バス経営の安定化を図り,移
と田園・里山が近い RSCC の空間構造は,これ
値しか志向していなかった既存都市に,補完
動手段を確保することが重要である.
らのモデルとも相性が良い.
的なものとして挿入されるにとどまっている
この問題に対して,RSCC は居住地を幹線道
感がある.対して,RSCC では,道路方向軸が
路の徒歩圏に集約するので,バス交通も幹線
幹線道路を利用して流通させるという意味で
都市的な刺激のある緊張を与え,“疎” な道路
道路(もしくはその近辺)に集約が可能となる.
は,第一次産業やその加工品だけでなく,鉱
直交軸が弛緩の役割を分担する.つまり,弛
バスの運行速度を上げることで,運用を効率
物資源や精密機械そして観光資源などに関し
緩のニーズを,利便性と伍する重要な価値観
化し,公共交通として競争力を高め,自家用
ても同様の考え方が成り立つ.RSCC の沿道居
として空間的に位置づけることが可能である.
車利用からの転移を促すことも期待できる.
住区はこれら生産やサービス拠点の “門前町”
この点がコンパクトシティ論を含む既存の都
市論とは決定的に異なる点といえる.
弛緩の軸とは,やすらぎ・落ち着き・休息・
リフレッシュであり,優しい自然に触れあえ
バス停までは原則徒歩で行くことになるが,
目的的に訪れる人だけでなく,できるだけ多
ルモビリティ等の供与で解決を図る.
くの立ち寄り客も獲得したほうが効果的であ
また,(3) ②「選択肢の確保」にも関連して,
近隣の拠点に容易に足を伸ばせるように,自
行動,レクリエーションの場である.なので,
転車道の設置も必要であろう.
018
として位置づけることも可能である.その際,
援助が必要な人には送迎サービスやパーソナ
るスローな生活であり,体を動かす人間的な
道路直交軸の都市の幅は,利便性からも幹線
さらに,街の後背地で生産されたものを,
り,そのために街は人が行き交う動線から外
れないことがやはり重要なのである.
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3.ロードサイド型コンパクトシティと都市
的機能のあり方の可能性
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が沿道居住区に必須とは言い難い.近隣生活
らの転移は進まず,結局,福祉バス的に赤字
圏で連携し適正に配置することが求められる.
を補填して運行される事例がほとんどである.
一方,RSCC におけるバス交通は,これとは一
RSCC はまだ議論の端緒についたばかりで,
一方,日常生活へのサービスである福祉施
我々の間でも議論の余地がある項目も多い.
設は基本的に沿道居住区ごとに必須なものと
線を画し,薄い需要を集約して収益性を高め,
ここでは,成立要件ではないものの,RSCC の
考えられる.家庭的な生活を営める場として
その分利便性向上を図ることで,新たな需要
あり方に関連深い項目について,可能性と選
は,障碍者なら 5・6 名,認知症高齢者なら 9 名
を喚起するという考え方である.具体的には,
択肢を言及しておく.次章のケーススタディ
の小規模なグループホームが一般的なので,
コミュニティバス・都市間バス・送迎バスな
は,これらの可能性の中のひとつの解を,対
それらが各拠点にあることが望ましい.街が
どに分散する需要をまとめることである.郵
象地域の特性に合わせて検討したものである.
小さければ,混合施設でもよい.通所・短期
便や新聞などと人荷兼用を考えてもいい.こ
入所・保育・学童の施設などとも隣接・複合
れは,小規模拠点に機能を集約するからこそ
するとなおよいだろう.
可能な方策である.また,利便性については,
(1) 沿道居住区の規模
頻度向上・速達性の追究・きめ細かな経由地
徒歩圏とは,自転車を使わずに済む距離,体
が弱った高齢者が手押し車でも歩こうと思え
る距離までであろう.小規模拠点までは 300m
(4) 教育施設
近隣住区論や既存校舎の活用を考えると,
などが魅力となるが,速達性と経由地を同時
に実現できるのは,ロードサイドに集約した
からに他ならない.
程度となり,沿道居住区の大きさはいわゆる
小学校で 3-4 居住区に1校,中学校はその 2-3
近隣住区より小規模なものとなる.人口は,
倍となり,同じ居住区の子どもが同一校に通
もちろん,大きな需要があれば,居住区内
中心市街地型コンパクトシティの数万人より
うことで一体感を醸成できる.ただし,地域
で拠点以外にも細かくバス停を設けるコミュ
ももっと小さな単位での成立を意識している.
を担う人材を育てる意味では,現制度や常識
ニティバスと幹線道路を高速で進む急行バス
できれば数百人規模でも成立させたいが,コ
に捕らわれず,発達に合わせて役割・集団の
に分けることも可能となる.
ンビニの商圏は半径 500m・人口 3000 人とい
大きさ・通学距離等を調整してもよいだろう.
また,車利用の抑制については,例えば駐
われるので,多店連携・地域互助・他の収益
例えば小学校では,居住区外への通学の抵
車場を集約し,居住区内の自動車の通行を原
事業などのさらなる工夫が必要と思われる.
抗感が大きく,転居先も同一校区を重視する
則制限する方法も考えられる.その場合,現
他方で,小規模拠点周辺を高層化することで,
ので,1居住区に1校を原則としてもよいの
行法では公道を走行できないパーソナルモビ
人口を増やすこともできる.この高さ方向は,
ではないか.子どもを通じて地域のつながり
リティの活用・普及を図ることも可能になる.
道路方向の都市的利便性軸,道路直交方向の
を強め,地域全体で子ども育てるという環境
田園生活軸とともに,都市集約軸という第3
を具現化できる.明治初期に地元有志が校舎
の軸として位置づけることもできる.
を用意し教師を招聘したように,学校は地域
ライフライン・ゴミ処理・消防・救急・警
のもので生涯教育や地域活動の核とすべきと
察等の公共サービスは,まずは居住区内で第
の意見は根強くある.教育方法も進歩してい
一次対応を行い,そこから行政等の広域サー
2.(3) に述べたように,少し足を伸ばして(2
るので,社会性が保たれる人数なら学年混合
ビスにつなげていくのが基本となるだろう.
〜 3km)他の拠点に徒歩や自転車で行くこと
学級で問題ない.分校形式にして,高学年は
に対して抵抗とならないように,沿道型近隣
バスで本校に通うという形態もありうる.
(2) 沿道居住区の配置
(6) 公共サービス
ライフラインは遠くから運ぶより居住区内
で調達し消費し処理するほうが望ましい.例
生活圏において沿道居住区は連続していくこ
中学生は心身能力も向上し,少し大きな行
えば,上水道は居住区内の川や井戸から賄い,
とが望ましい.これは,2.(2) の都市間の関係
動範囲の中で多様な社会と触れ合い,視野を
合併処理槽で浄化し放流する.電力も,太陽光・
を切らないことにも関連する.居住区の辺縁
広める必要があるので,中学校は複数の居住
風力・小水力などの自然エネルギーの地産地
では,道路直交方向の幅を優先的に小さくし,
区で連携して設置するのが望ましい.その際
消を進めるなどが考えられる.居住区間を結
都市の連続性を保つ.また、バス停を考える
には,中学生は単なる庇護の対象ではなく,
ぶ幹線道路にあるインフラ設備は,余剰や不
と幹線道路の横断への配慮は必要である.信
居住区間をつなぐ人材・労働力として,社会
足分のやりとりに活用することができる.
号制御による横断歩道でも問題ない場合もあ
的役割を担い,活躍してもらうとよい.
ゴミは,居住区内で集約・分別を行い,再
れば、 道路の幅や交通量によっては , 居住区
高校以降は広域で設置されるので,公共交
資源化できる物は回収・売却しながら,焼却
を幹線道路の片側にまとめ,バス路線を幹線
通の利便性を高め,自宅から通える範囲を広
や最終処分までを自分たちで行う.迷惑施設
道路から外す選択肢もありうる.
げて,地域から若い人を離さないようにした
として遠くに追いやるのではなく,生活に必
い.これは,バス利用数の確保にもつながる.
須な施設として当事者意識をもって対処する
居住地と居住区・小規模拠点が1:1であ
ことが,持続可能な生活の実現につながる.
る必要はない.居住密度が高い場合は,拠点
間隔も小さくなり,居住区に対応した拠点と
いう強い関係性よりは,複数拠点から選択し
て利用できる利便性が勝るだろう.
(3) 医療・福祉施設
(5) 交通機能
消防は消防団の組織化,救急は福祉施設等
2.(4) ①で述べたように,移動手段を確保
に常駐する看護婦によって,消防・救急が到
するには,車からバス利用への転換を促し,
着するまでの初期対応を図る.また,警察機
バス経営の安定化を図ることが重要である.
能に関しても小規模拠点の人の常駐や夜回り
コミュニティバスは,街に深くに入りこむ
ホームドクターが各居住区にいると安心だ
が路線がわかりにくく,まわり道・狭い道・
が,診療科ごとに需要に差があり,医療施設
右左折が多く速度が遅い.これでは車利用か
による防犯効果など,居住区内でもできるこ
とは多いと思われる.
(古賀 誉章)
019
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3-2 ロードサイド型コンパクトシティの位置づけ
1) 続「線状都市論」:ロードサイド型コンパクトシティの計画論的意義
1. 負の遺産としてのロードサイド
自動車依存のロードサイドビジネスは,常
に中心市街地の衰退,特に商店街の深刻な疲
サイド空間をどのように価値づけし,実践的
える CC 論を展開するにあたり,ひとつの仮説
に縮小していくかについて明確な方策を示し
として,現存するロードサイドに沿った市街
ているわけではない.
地を今後も用いる資源と捉え,その再編のシ
弊の大きな要因となってきた.ロードサイド
の戦略なき土地利用やその三次元的結実とし
ての景観の乱れは,日本の都市計画制度およ
ナリオを提示することが RSCC のもくろみであ
2. ロードサイド型コンパクトシティ
る.つまり,近代都市計画の負の遺産として
ロ ー ド サ イ ド 型 コ ン パ ク ト シ テ ィ( 以 下
産み落とされた環境悪化地区の地域価値をど
RSCC)は,縮小都市の「かたち」を支える方
のように回復していくか,というきわめて現
都市計画的には,ロードサイド空間は常に
法のひとつである.ロードサイドの茫漠とし
代的な命題を RSCC は内包しているのだ.
「悪」であり,ジェイコブスの都市論により
た空間は,近代都市計画の対象から意識的・
その趨勢は決定的となった.つまり,ジェイ
無意識的に外されてきた,いわば「残余地」
コブスが良い都市の条件とするヒューマンス
であった.
び意思決定の未成熟の象徴であった.
3. Linear City Revisited
バルセロナの土木技師 I. セルダは,新たな交
ケールの空間や多様な活動の存在は,ロード
富山市の「団子と串」モデルを再び参照す
通手段の出現と工業の発展を予見し,113m 四
サイドの存在とは根本的に相容れないもので
ると,
「団子」には大きな団子(歴史的な空間
方の敷地を都市造成の基本ユニットとして設
あった.とはいえ,皮肉にも,ロードサイド
の履歴を容易に発見できる中心市街地)と小さ
定し,それを反復していくことで,成長・拡
に建設されるアウトレットモールの内部空間
な団子(ロードサイド等の裏手に並行的に宅地
大する近代都市のプロトタイプを示した.
には,用途の混在や多様な建築様式といった
化している,歴史的価値が必ずしも明白では
同様に 20 世紀にマドリードでは,A. ソリア・
ジェイコブスの理念が反映されている場合が
ない小規模な市街地)がある.これまで,政
イ・マータが「線状都市」[Linear City] の構想
多い(図1).まちなかの衰退に応じる形で,人々
府や民間のもっぱらの関心や実質的な投資先
を発表した.これも「パターン」の「反復」
は擬似的まちなか体験も兼ねて,ロードサイ
は
「大きな団子」
に集中してきた.
「小さな団子」
による都市の形成を示している.ソリアの線
ドのショッピングモールに外出する.ある種
にも集約するような仕組みづくりが欠かせな
状都市では,軌道 500m の土地の中央部に幅員
の地方都市にとって,「まちなか体験」とはも
い.つまり,理想としての集約型都市構造に,
40m の道路を通し,路面電車を走らせ,これ
はやフィクションに過ぎなくなってさえいる.
現実としての分散型都市構造をうまくすり寄
に直行する形で幅員 20m の街路を引いた.そ
現在の CC 政策の法的基盤はまちづくり三法
せ,都市像の新たなレイヤーを構築する必要
うして生み出される敷地 4 〜 6ha のスーパーブ
に負うところが大きい.都市縮小時代に突入
がある.その際,
RSCC に至る過程を担うステー
ロックが宅地化された.公共交通が線状に市
する中,既存の中心市街地を活性化し,郊外
クホルダー(利害関係者=政府,企業,大学,
街化を誘導する,まさに団子と串のような関
の大規模小売店舗の立地を規制する意図があ
機関,
NPO など)の間の関係性(社会システム)
係性をソリアの線状都市は示している.
るが,これらはいずれも「これからの/将来の」
を明らかにすることも重要となろう.
地方都市の移動ベースの生活の現状を踏ま
土地利用や活性化の方策であり,すでに形成
桑子敏雄は,ある空間を構成する地形や文
えれば,縮小に対するより細かな段階設定が
されてしまい現実のものとして存するロード
化,歴史,生態系等に加え,そこに生きる人々
求められる.RSCC は,ロードサイドに沿って
がその空間をどのように捉え,しぶとく活用
延びる市街地の社会的存在価値を踏まえなが
してきたかという「対応」の部分にも着目し
ら,より現実な政策の実装として,交通ネッ
てこそ,空間の価値が分かると指摘する.こ
トワークを踏まえたひとつの「都市のたたみ
の「空間の履歴」は,政策立案者がすべから
方」である.
く読み取るべきものであろう.都市縮小を支
図 1 郊外のショッピングモールの景観:モール内の風景はま
さにジェイコブス的である.中心市街地で求めている賑わい
の像がある.
020
( 阿部 大輔 )
図 2 ソリアの線状都市
既成市街地(図の両端)間を軌道電車がつなぎ,その線状の都市構造が新たな市街地を誘導する
(Terán, Fernando de, Historia del Urbanismo en España III. Siglos XIX y XX, Madrid: Ediciones Cátedra, 1999, p.132)
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2) 宿場町とロードサイド型コンパクトシティ
従来の日本の集落では,街道を挟んだ両側
が同じ町内として展開し,「町」は「道」を含
んだ領域であった.大きな通りを境にして市
C.P.ツュンベリ−『江戸参府随行記』
(1775 〜 1776 年日本滞在)
「この国の道路は一年中良好な状態であり,
2. 宿場町の規模と機能
主要五街道のうち北関東を抜けるのは中山
道,奥州道中に日光道中となる.このうち中
町村域などが設定され行政区分されてしまう
広く,かつ排水用の溝を備えている.…さら
山道の宿場町の形態を,分間延絵図を用いて
ことの多い現代よりも,道そのものに町が寄
に道路をもっと快適にするために,道の両側
東海道の宿場町と比較した解説 * がある.それ
り添っていたといえる.本稿では,前近代に
に灌木がよく植えられている.…里程を示す
によれば中山道の街並みでは,城下町以外で
おける「ロードサイド」である「街道沿い」
杭が至るところに立てられ,どれほどの距離
は街区を持つところは木曽福島のみで,東海
に発展した集落である宿場町から,ロードサ
を旅したか示すのみならず,道がどのように
道の宿場町よりも町場の発達は弱かったとさ
イド型コンパクトシティの今日的意義を考察
続いているかを記している」
れる.特に江戸の近域では宿場町は中山道道
「街道沿いには最高四時間の間隔で宿駅があ
筋だけの街並であったという.通過交通の量,
り,そこには道路の難渋さと距離に見合った数
自然条件等の影響もあり,近世においては主
の馬と人が常にいて人々の運搬に当たる.…
要街道沿いといえど大きな発展は少なく,小
その整備は慶長 6 年 (1601),宿駅制度の制
道路は広く,かつ極めて保存状態が良い.そ
規模な宿場町が多かった.そんな宿場町で人
定により進められ,宿場町は,近世において,
してこの国では,旅人は通常,駕籠に乗るか
馬の用立てを賄えないときには,周辺集落が
江戸を中心とした五街道が代表する交通体系
徒歩なので,道路が車輪で傷つくことはない」
その補填を課される助郷と呼ばれる制度も生
した.
1. 近世の宿場町
まれた.
の中に位置づけられる.街道には一里塚が築
かれ,沿道には並木が植えられるなど景観も
ツュンベリ−の記録した通り,各街道の宿
宿場町の一般的な構成を見ると,街道を挟
考慮され,交通網整備の中で整えられてきた.
場町には旅人やその荷物を運ぶ輸送業務を担
んで両側に宿屋,商家が並んでいる.宿の中
江戸時代の宿場を抜ける街道が実によく整
う人足や馬が用意され,旅行者のための宿泊
心には公用の宿泊施設としての本陣,脇本陣,
備されていたことは,当時の外国人による長
場所が提供された.しかし宿場町は街道沿い
公用人馬継立の問屋場,高札場,用水,木戸
崎出島からの江戸参府の記録などに残されて
の旅行者の必要に応じた商いのみで成立する
などの諸施設・設備が整えられた.宿の置か
いる.17 〜 18 世紀の記録から紹介する.
のではなく,宿駅としての任務が課され,道
れる主要目的は幕藩体制の基盤となる年貢米
中奉行を通じて幕府の支配下に置かれていた.
輸送と参勤交代であり,それを満たす施設が
間口規模,石高に応じた伝馬役や人馬継立に
設置され,そこで働く人々がいた.旅籠や茶
(1690 〜 1692 年日本滞在)
おける賃銭が設定され,問屋を頂点とする宿
屋などの休憩宿泊のほかにたとえば,ある程
エンゲルベルト・ケンペル『江戸参府日記』
小田原宿の描写:
「町の外側には門と番所が
役人が任命されていたなど,単に旅籠屋,休
度の規模の町には,御用旅行者のための髪結
あり,両側にはきれいな建物がある.町筋は
憩所としての茶屋,種々の商売などの集合集
がいるなどした.
清潔でまっすぐに延び,そのうちの中央の通
落であるというばかりでなく,公用の輸送機
りは特に道幅が広い.外郭の町々を含めると,
能を果たすために,人馬を提供する義務を負
半時間では通り過ぎることが出来ない.およ
担する宿駅として,整備が行き届いていたの
型コンパクトシティ
そ百戸くらいの家々は小さいけれども,小奇
である.
近世の宿場町は,一般的には明治 5 年 (1873)
麗で大抵白く塗られていた…」
3. 現代における宿場町としてのロードサイド
の宿駅制度の廃止後,整備される鉄道や国道
図 3 中山道倉賀野宿の街並(現群馬県高崎市倉賀野)「中山道分間延絵図」東京国立博物館所蔵
021
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Vol. 30_2013_02
が旧宿場を通らないところでは衰えていく.
交通手段の変化・進化により都市のありかた
までが左右されるのは現代に至るまで変わら
ぬ流れであるが,一方で,幹線道路/街道沿
いに自動車交通に即した郊外型大型店舗が集
合し,賑わいを見せる光景には,通過量の多
い交通網に寄り添って繁栄する宿場町以来の
図式が変わらずあるとも言える.また宿場町
が,各街道沿いの一定の距離間隔を考慮する
と同時に,自然地形,そして元来そこにあっ
た集落の機能を活かして設置,形成されたよ
うに,既存施設の整備と活用,周辺市街地と
の適正な距離をもった最適な規模が設定され
ることは,今回考えるロードサイド型コンパ
クトシティへ共通する考え方となるだろうか.
現代の一般的な住宅地では,宿場町のよう
に役割を担い,そのかわりに保護を受ける,
もしくは自立可能な産業を持つ,などという
ことは少ない.RSCC に期待されるのは,公共
交通を利用し,他と繋がる存在になることで
あり,必要となるのは通過する旅客向けの旅
籠や髪結業にあたるものだけではなく,助郷
に頼らなくとも,そこに住む人たちに向けた
基本的な都市機能が整備された街として成立
することだろう.
( 栢木 まどか )
[ 参考文献 ]
* 深井甚三 (1990)「中山道の宿場町」(pp.178-179)
「宿と町」(pp.125-143)『 日本都市史入門Ⅱ町』
東京大学出版会
宇佐美ミサ子 (2005) 『宿場の日本史』吉川弘文
館
ケンペル・斎藤信訳 (1977) 『江戸参府旅行日記』
東洋文庫・平凡社
C.P.ツュンベリ−・高橋文訳 (1994) 『江戸参
府随行記』東洋文庫・平凡社
022
Part
II
ロードサイド型コンパクトシティ
の空間イメージ
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1. ロードサイド型コンパクトシティ導入対象地域の検討
第1部で提示したロードサイド型コンパク
県の都市であり,人口減少が緩やかながら確
トシティ ( 以下 RSCC) の概念,幹線道路沿道に
実に進行する一方で,自家用車保有台数の絶
市街地の変遷と幹線道路の状況を概観した.図
上記の条件を満足する都市を抽出するため,
市街地を集約することで,自動車に依存しな
対数,世帯当たり台数ともに高くモータリゼー
3 は,市街化の概況として人口集中地区 DID の
い都市空間の形成を図るとともに人口減少社
ションが進行した地域といえる.
変遷 ( 国土数値情報:1965 年,1985 年,2005
会において行政サービスの効率化される,と
実際に通勤時の交通手段を概観すると,東
年 ),道路網として高速道路,一般国道,主要
いう都市像が適用可能な都市を人口動態や移
京を中心とした 30 ~ 50km 圏では自動車の分
地方道 ( 国土数値情報 ) を重ねて表示したもの
動手段,都市の立地状況に基づいて抽出する.
担率が 60% 以下の地域が広範囲に連坦してい
である.
る一方,北関東の 3 県では自動車の分担率が
1. 地域:人口動態とモビリティーから
1965 年時点で一定規模の DID が形成されて
80% を超える地域が大半を占めている.また,
いることで (1) の条件である既存市街地の存在
国立社会保障人口問題研究所の人口将来推
両毛都市圏 (1989 年 ) や前橋・高崎 (1993 年 ) の
を判定し,次に 2005 年時点の DID の周縁部を
計 (2007 年 5 月 ) によると,2005 年から 2035 年
パーソントリップ調査によると,鉄道と路線
一般国道または主要地方道が通過することで
にかけて日本の総人口は 13% 強減少するとさ
バスの分担率の合計は 1 割に満たず,自動車の
(2) の条件を判定した.1965 年時点では DID に
れている.この期間で人口が増加するのは東
分担率は通勤や私用をあわせて 6 ~ 8 割を示し
含まれず 2005 年の DID には含まれる地域は市
京都と沖縄県に限られ,1 割減に留まるのも神
ていることから,日常生活の大部分で自動車
街地が空間的に拡大した地域に該当すると考
奈川県,千葉県など少数である.大都市圏の
が利用されている地域といえる ( 図 2).
えられる.最後に (3) については地図などを用
都道府県の大半は 2 ~ 3 割の急激な人口減少に
以上より,本研究で提案する RSCC の概念が
いて大型商業施設,量販店,公共施設などの
直面すると推計されており,対策が急務であ
適用できる地域が北関東に多く立地している
立地を検証し,対象都市の絞り込みを行った.
る.対して,北関東の群馬県,栃木県,茨城
と想定される.
関東平野北部では埼玉県北部,群馬県南部,
県では 30 年間の人口減少幅が 13 ~ 18% であ
り,大都市圏ほど人口は維持されないものの
栃木県南部に跨る利根川流域と渡良瀬川流域
に比較的規模の大きな市街地を形成している
2. 都市:都市構造と立地条件
地方部ほど急激な人口減少にも直面しないた
ロードサイド型コンパクトシティの特長の
め,人口減少に呼応して都市構造の再構成が
一つである,短期間・低コストでの都市の集
図れる地域と考えられる ( 図 1).
約の観点から,今回のケーススタディーでは,
都市が連坦しており,それらの都市を国道 17
号,50 号,122 号などが連絡している.
先 述 し た 条 件 (1) ~ (3) に 基 づ き RSCC の 適
特に群馬県,栃木県,茨城県では 2011 年度
(1) 一定規模の中心性を持つ既存市街地が存在
用候補地となりうる都市を挙げると,国道 17
の世帯当たり自家用車普及台数は1.6台を超え,
すること,(2) 市街地が拡大している周縁部を
号 ( 熊谷バイパス ) では熊谷市,国道 50 号では
各々全国 3 位,6 位,9 位と高い (1).同協会が公
幹線道路が通過していること,(3) 幹線道路沿
の桐生市,足利市,佐野市,小山市,水戸市,
表している「都市別の自家用乗用車の普及状
道に一定の商業集積が認められることを適用
栃木県道 3 号では宇都宮市などが挙げられる.
(2)
況」では,上位 50 都市中 13 都市 が北関東3
の条件と設定した.
図 1 関東地方における人口増減率(2000 年 / 2005 年 )
( 国勢調査より作成 )
024
この中で,特に条件に一致する地区として
図 2 関東地方の通勤における自動車分担率
( 国土数値情報 ( 交通流動量 ) より作成 )
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[ 補注 ]
国道 50 号沿いの桐生市,足利市が挙げられる.
当該地域では,既存市街地が概ね 10km 程度の
間隔で立地しており,国道 50 号が多くの区間
(1) 自動車検査登録情報協会「都道府県別の自家
用乗用車の普及状況表」ただし,茨城県より
上位の福島県と岩手県は東日本大震災の影響
で分母である世帯数が県内全世帯数ではない
ため実質的には茨城県が 7 位
でこれらの市街地の周縁部を経由するバイパ
ス路線となっている.このバイパス区間では
沿道にスーパーやホームセンターなどの商業
施設が概ね 2km 程度の間隔で立地している.
(2) 筑西市 (1 位 ),伊勢崎市 (4 位 ),太田市 (7 位 ),
那須塩原市 (11 位 ),栃木市 (15 位 ),佐野市 (17
位 ),前橋市 (23 位 ),古河市 (28 位 ),足利市 (35
位 ),桐生市 (37 位 ),小山市 (42 位 ),ひたちな
か市 (45 位 ),高崎市 (49 位 )
これらの沿道商業施設の立地を詳しく見る
と,既存中心市街地に至る道路とバイパスで
ある幹線道路とが交差する地点など,道路交
通において広域的にアクセス性の優れた地点
となっていることからも,RSCC の候補地とし
ての要件を満たす地域と考えられる.
( 相 尚寿 )
宇都宮市
関越自動車道
東北自動車道
前橋市
高崎市
桐生市
伊勢崎市
北関東自動車道
栃木市
太田市
足利市
佐野市
国道 50 号
小山市
国道 17 号
図 3 関東平野における DID 地区の分布・変遷と主要幹線道路
( 国土数値情報 ( 標高傾斜度・道路・人口集中地区 ) より作成)
025
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2. ケーススタディ
2-1 対象地の概要
2)自然条件
前章の検討より,複数のケーススタディー
の対象適地が比較的近接している国道 50 号沿
化が進展している 1).
道の群馬県桐生市と栃木県足利市に注目し,
気候
具体的に,桐生・みどり地区(岩宿駅周辺の
桐生市は群馬県東部に位置し,東側で栃木県
商業集積から東邦病院を経由し,国道 50 号と
足利市と隣接している.2005 年に編入した新
とから,内陸性で日格差・年格差が大きい.
国道 122 号が分岐する付近まで)と足利・太田
里村および黒保根村の村域は旧桐生市域と接
新潟と群馬の県境の山岳地帯により,夏は太
地区(国道 50 号と国道 122 号の只上交差点か
しておらず市役所のある旧市域とはみどり市
平洋側からの風から雷雲が発生し,冬は日本
ら問屋団地入口交差点まで)の2箇所を対象
を挟んだ大規模な飛び地となっている.2012
海側で雪を降らせた空気が山岳地帯を越え,
地とした.
年 7 月末時点で 12 万人強の人口を有しており,
乾燥した冷たい風となって吹きおろす.この
市町村合併による増加分を除くと 1975 年以降
特徴的な気候は,
「雷銀座」「かかあ天下と空っ
の国勢調査では人口減少傾向にある 2).
風」などと表現され,当該地区での名物とし
本章では,これらの対象地とその周辺地域
の概要について,人口動態,交通・土地利用,
足利市は栃木県南西端に位置しており,佐
歴史,自然環境について述べる.
対象地の気候は関東平野北部に位置するこ
て知られている.
野市以外の隣接自治体は全て群馬県に所属す
る.1962 年を最後に市町村合併は行われてい
1) 人口動態
地形
ない.室町幕府将軍家である足利氏ゆかりの
対象地は関東平野の北端となる足尾山地の
地であり,国の史跡である足利学校が所在す
南縁部,北西から南東に流れる利根川水系の
ることでも知られる.2012 年 8 月初頭時点で
一級河川渡良瀬川の右岸に位置する.岩宿駅
館林市 ( 群馬県 ),佐野市 ( 栃木県 ) など人口 10
の人口は 15 万人強 3) であり,1995 年の国勢調
周辺は扇状地,阿左美沼東部の台地から八王
~ 20 万人規模の都市が連立している.この栃
査以降は人口減少に転じている.
子丘陵の北麓傾斜面は火山斜面,南側は溜池
桐生市と足利市の周辺では,太田市(群馬県),
木県と群馬県の県境の地域は両毛地域と呼ば
(相 尚寿)
れ,古くから文化・経済的な交流が盛んであ
を有する谷底低地,八王子丘陵と金山丘陵の
北側は渡良瀬川の扇状地である.これらの丘
る.前述した都市を含む 11 市町は県を跨いで
[ 参考文献 ]
陵をぬけて足利に入ると,浅間山など円丘状
両毛広域都市圏総合整備推進協議会を組織し
の丘陵がわずかに分布するほかは,渡良瀬川
ており,公共施設の相互利用を進めているほ
1) 両毛広域都市圏総合整備推進協議会
http://www.sunfield.ne.jp/ryoumoukouiki/)
か,近隣 6 県が相互に他県隣接学区の高等学校
2) 桐生市 http://www.city.kiryu.gunma.jp
への入学を認めており越県通学が可能となっ
3) 足利市 http://www.city.ashikaga.tochigi.jp
の氾濫平野が広がる平坦な地形となっており
(渡良瀬低地),氾濫平野より 1-2m 高位の地形
面で矢場川など中小河川や旧可道による自然
ているなど,制度面でも生活圏としての一体
堤防が分布している.
桐生市
▲大間々頭工
足尾山地
桐
生
川
新沼(東貯水池)
早
川
広沢
阿左美沼
川
みどり市
▲太田頭工
松
足利市
田
川
川
岡
八王子丘陵
登
渡
用
水
良
瀬
用
水
川
川
牧草地・芝地
浅間山
谷
用
袋川
水
動
八瀬
栗
不
川
三
谷
堀
高寺
樹林地
川
堀
大
金山丘陵
泊
堀
矢場
休
堀
新田
太田市
長
名
草
畑地
蛇
市街地
川
渡良瀬低地
緑の多い宅地等
韮
解放水面
川
多々
良川
図 4 対象地と渡良瀬川上流域(桐生〜足利区間)における地形・水路網と土地利用(自然環境保全基礎調査 植生調査植生図より作成)
026
水田
河川
用水路
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水系
業として,桐生市から館林市に至る農業用水
的に宅地化され,農用地としてまとまりが失
われつつある.
渡良瀬川は,陸上交通が発達する以前は東
の取水堰が3つの頭工に合口され,上流・中流・
京からの主要な交通,物資輸送の手段であり,
下流の3つの土地改良区により管理されるよ
足利・桐生市の基幹産業であった織物業の仕
うになった.岡登用水は上流の大間々頭工か
上げの工程に利用されるなど,近代までの両
ら,中流の太田頭工からは前述の新田堀用水,
毛地域の生活を支える河川であった.一方で,
矢場川,三栗谷用水に分水されている.
による洪水の発生など,長期にわたり流域の
渡良瀬川左岸に位置する桐生,足利の市街 A
地は足尾山地に三方をかこまれた土地である.
山地部は桐生川,名草川上流の清流と山の緑
明治に発生した上流の足尾銅山の鉱毒は,渡
良瀬川を介し,農作物への被害や土砂の堆積
利用
植生
対象地の北側は,足尾山地の南端となる低
と自然を楽しむ場として市民に多く利用され ,
渡良瀬川河川敷では複数の河川公園が整備さ
山部では,クヌギ - コナラ,クリ - コナラ,ヤ
れている.平野に分布する小 規 模 な 丘 陵 は,
マツツジ - アカマツの二次林,スギヒノキの植
浅間山の浅間神社や阿左美沼の浅海八幡宮な
ある中小河川と渡良瀬川からの灌漑用水との
林地,八王子丘陵は主に頂部がアカマツ植林,
どの社寺地となり,地域の信仰の歴史を伝え
ネットワークが形成されていることである.
その他はクヌギ - コナラで,南側の比較的緩や
る場となっている.
桐生市とみどり市にかかる扇状地では 17 世紀
かな斜面はゴルフ場,岡登用水の流れる谷底
後半に開かれた岡登用水が,阿左美沼の水を
低地は水田として利用され,丘陵麓に集落が
[ 参考文献 ]
取り入れながら八王子丘陵の西を流れる.阿
立地している.また阿佐美池や浅間山等の小
左美沼は湧水起源の自然沼であるが,桐生競
規模な丘陵,段丘崖では,クヌギ - コナラも
群馬県 (1997) 国土調査 土地利用分類基本調査 桐
生及び足利 5万分の1,P.47
艇場として利用されている新沼は昭和 12 年に
しくはスギ・ヒノキなどの樹林地が見られる.
完成した新田堀用水等への補給用溜池である.
低平地における市街化前の基本的な土地利用
新田堀は八王子丘陵の小河川からの水集めな
は,桐生市とみどり市の八王子丘陵の西斜面
がらその麓を流れた後,金山丘陵の西を南流
から扇状地にかけては畑地,渡良瀬川扇状地
する.渡良瀬川扇状地・低地においては,こ
と低地には主に水田で,自然堤防上に集落と
の新田堀,矢場川,三栗谷などの幹線となる
畑地である.現在もまとまった農地について
用水から所々で分水され,韮川,多々良川な
は農振農用地と指定されており,足利市・太
ど中小河川の流路に接続しながら東西に流れ
田市では,自然堤防上の畑地では宅地化が進
ている.1970 〜 80 年代前半にかけて草木ダム
んでいるが,特に 50 号周辺から南側が水田地
の開発に併せ,国営渡良瀬川沿岸農業水利事
帯となっている.みどり市では,農地が蚕食
市町村に甚大な影響を与えている.
当該地の水系の特徴は,渡良瀬川の支流で
写真 1 国道 50 号線高架から八王子丘陵をのぞむ
写真 3 渡良瀬川と渡良瀬橋.写真右側が足尾山地と足利旧市街地,左側の小丘陵が浅間山
(片桐 由希子 )
群馬県 (1991) 国土調査 土地利用分類基本調査 深
谷 5万分の1,P39
栃木県 (1986) 国土調査 土地利用分類基本調査 深
谷・古河・小山 5万分の1,P44
全国モーターボート競走施行者協議会 (1970) 競艇
沿革史
環境省(2001) 1/25,000植生図(足利南部,足利北部,
大間々,桐生 )
利根川水系農業水利協議会群馬県支部 (2010) 渡良
瀬川沿岸地域の渇水事例 ,p13
写真 2 阿左美池と浅海八幡の小丘陵
写真 4 集落内を流れる農業用水路
027
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3) 歴史的経緯
足利・太田・桐生三市の都市形成
桐生・みどり地区
足利・太田地区
桐生市,みどり市,太田市,足利市にまた
対象地については市史にもあまり記載がな
足利・太田地区は,やはり田や畑が多くを
がる対象地は,両毛地域として知られ,古く
いため,明治 10 年代に作成された陸軍測量部
占め,その中で山田郡植木野村,堀米村,福
から国境・県境を超えた交流で知られてきた.
による二万分一迅速測図という,日本で最初の
居町といった集落名が見られる.
(なお以下ではみどり市については市史がない
こともあり取上げていない).
実測図から読み取れることを中心に記述する.
このうち福居町は,日光例幣使街道の宿場
当時,この地域は新田郡,山田郡にまたが
町として栄えた町である.天保 14 年(1843)
桐生は桐生川が足尾山地から関東平野に流
る地域で,ほとんどは荒神山や茶臼山の北麓に
の「宿村大福帳」によると人口 542(男 222,
れ出す山際の地点に形成された町である.付
広がる田,畑,桑畑からなっていた.そのな
女 320),戸数 96,そのうち本陣一軒(建坪 83 坪,
近では古代から養蚕業・絹織物業が営まれて
かでごく一部に阿佐美村,広沢村字中島,広
門構玄関付)
,旅籠屋 19 軒で,脇本陣はなかっ
いたと言われるが,1600 年頃に桐生天満宮を
沢村字才ノ神といった集落名が見られる.こ
た.戸数 96 軒の内 32 軒に飯盛女を置き,この
基点として桐生新町が形成された.以後,近
れらは対象地の北側を北西―南東方向に結ぶ
8割が越後出身者で,彼女らの歌う新発田の
世・近代を通じて絹織物業の盛んな在郷町(近
旧道(現県道 67 号)と,対象地の西側を南北
口説き節が八木節の原型だという.その旅籠
世期に商品生産の発展などにともない農村地
に結ぶ旧道(現県道 69 号)から伸びる不定型
建築について考察した松崎茂(1956)によれ
域にありながら実質的に町となっているもの)
な道沿いに広がっており,周囲に広がる農地で
ば,江戸中期以降の特色として,妻入,塗家造,
として発展していく.中心部には当時の地割
働く農民が住んでいたと思われる.近世末か
間取りは表の構え,中の構え,奥の構えの三
と建築が残っており,2012 年には重要伝統的
ら続くと思われるこうした風景は,基本的に
つに区分され,それぞれ来客,勝手,家族の
建造物群保存地区に選定されている.
戦後の高度経済成長期まで続いていただろう.
スペースにあたる点などを挙げ,本陣よりむ
なお,本節執筆後,太田稲主(1911)『上野
しろ庶民向けの宿場町としての性格が強かっ
太田は北側の渡良瀬川,南側の利根川に挟
まれた地域であり,中世までは新田荘と呼ば
國新田郡史』,山田郡教育會(1939)
『山田郡誌』
れていた.その後,近世に京都からの勅使が
といった史料の存在を知ったが,これらを用
通る日光例幣使街道が設定され,その宿場町
いた分析は今後の課題としたい.
たと述べている.
また,現在の南大町交差点付近にあった植
木野村は,明治初年頃には 72 戸ばかりの村落
として発達した.
であり,昭和 30 年頃までは米,麦,養蚕を中
足利は足尾山地の山際,渡良瀬川の北側に
形成された町で,中世から有力武士の足利氏
の発祥の地として栄え,足利学校が設置され
たことでも知られる.近世・近代を通じて織
物業が発展した町でもある.
これらの三市が大きく変貌したのが第二次
桐生天満宮
世界大戦後の高度経済成長期だった.とくに
両毛地域では,首都圏整備法(1956)により
市街地開発区域の指定がなされ,農地の開発
桐
生
川
が急速に進んでいく.例えば,土地区画整理
事業は足利市で 29 ヶ所,太田市で 17 ヶ所が
桐生新町
施行され,工業団地は足利市で9ヶ所,太田
市で 11 ヶ所が設置された.とくに太田市では
1970 年に農地転用のピークを迎えている(一
方,桐生市ではこうした大規模な郊外の開発
阿左美池
は両市に比べれば少ない).
阿佐美村
らにしばらくしてから三市の中心市街地の衰
渡良
比呂佐和神社
瀬川
大雄院
▲荒神山
広沢村
字才ノ神
▲茶臼山
退が叫ばれるようになっていく.
図 5 明治前期の桐生・みどり地区
( 陸地測量部作成の2万分の1迅速測図「桐生新町・廣澤村・国定村・阿佐美村」,, 明治 18 年 )
028
号
ドショップが新国道沿いに立ち並び始め,さ
現
県
道
69
号
67
している.以後,1980 年代頃からロードサイ
字中島
愛宕社
道
国道(現国道 50 号)が渡良瀬川の南側に開通
県
線が主要な交通路だったが,1978 年に新たな
現
もともとは渡良瀬川の北側で桐生市と足利
市の中心部近くを東西に結ぶ現在の県道 67 号
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心とする百戸余りの純農村であった.昭和 40
歴史性を補うことができると考えられる.
社殿も,もともと極彩色彫刻の桃山風の装飾を
年頃に県企業の入居する当部工業団地造成と
例えば,桐生・みどり地区では近傍に阿左
持つものだったが,損傷が著しかったのを氏
相まって,国道 50 号線開通,市街化区域編入
美池に面した愛宕社,茶臼山山麓の大雄院(伝
子一同が憂え,
「復元して先人の意志を後世に
などにより急速に開発が進展したという(雀
1583 年建立),比呂佐和神社(伝 1590 年建立)
継承することが責務と信じ」
,植木野住民や区
神社の石碑より).
などが存在する.
外の人々から寄せられた浄財によって,復元・
対象地の歴史・文化資源
ピングセンター駐車場に隣接して雀神社が存
この他にも対象地の近くには多数の歴史的
ロードサイドコンパクトシティを形成する際
在する.植木野村の氏神として崇められてきた
遺産がリストアップされている(桐生市教育
に,欠けがちなコミュニティ形成の契機となる
同社は,社伝によると 1063 年に創建されたと
委員会(1997)など).こうした資源を活用し
のが寺社などの文化的資源であり,また対象地
いう.そして,商業施設開発に伴い,事業者に
ていくことも重要な方策となるだろう.
にある歴史的建造物を保全・活用することで,
より 2000 年に境内整備が行われている.また
また,足利・太田地区の対象地内には,ショッ
修理がなされている(前出雀神社の石碑より)
.
( 初田 香成 )
写真 5 足利・太田地区内の雀神社
図 7 八木宿『中山道例幣使道分間延絵図』より
[ 参考文献 ]
現県道 67
桐生市教育委員会(1997)『桐生のまちと近代化
遺産桐生市近代化遺産保存対策報告書』
号
足利町
渡良
瀬川
桐生市史編纂委員会(1958-71)『桐生市史』
足利市史編さん委員会(1975-)『近代足利市史』
鑁阿寺
太田市(1978-1997)『太田市史』
東京美術(1989)『中山道例幣使道分間延絵図』
矢場
松崎茂(1956)「例幣使街道本陣の考察その4八
木宿とその旅籠建築について」
『日本建築学会
関東支部第 19 回研究発表会』
川
植木野村
雀神社
福居町
日光例幣使街道
堀込村
図 6 明治前期の足利・太田地区
( 陸地測量部作成の2万分の1迅速測図「足利町・福居町・龍舞村・吉澤村・大田町」, 明治 18 年 )
029
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4) 交通
道路網
山で東北新幹線や東北線に接続している.両
いずれも市によるコミュニティバスが運行さ
対象地の主な幹線道路として,まず国道 50
毛線は対東京の直通輸送を行っていないもの
れているに留まる.中心市街地など本数の多
号は 北 西に伊勢崎,前橋方面, 南 東に佐野,
の,東武鉄道が渡良瀬川右岸に伊勢崎線足利
い区間では 1 時間 1 本程度の頻度が確保されて
小山方面に通じている.国道 50 号は桐生〜佐
市駅,桐生線新桐生駅を設置しており,特急
いる場合もあるものの,各路線末端部では 1 日
野間ではバイパス化により片側 2 車線が確保
列車が東京都内と直通輸送を展開する.この
数本程度の本数に留まっており,必ずしも利
されているほか,主要交差点での立体交差化
ほかに桐生市の中心市街地から旧新里村の地
用しやすいダイヤとはなっていない.このた
も行われている.
域を経由して前橋市を結ぶ上毛電気鉄道,両
め,バスによる移動では運行ダイヤが利用者
毛線桐生駅から旧黒保根村の地域を経由して
の行動計画の大きな制約条件となっている.
国道 122 号は埼玉県内から館林市,桐生市,
旧黒保根村地域を経由して栃木県日光市に至
栃木県日光市の間藤駅を結ぶ,わたらせ渓谷
る.近年は北関東自動車道も整備され,足利
鐵道が運行している.なお,間藤駅は旧足尾
市 内 か ら は 太 田 桐 生 IC と 足 利 IC, 桐 生 市 内
町であり,日光駅方面とは鉄道での連絡は行
からはやや距離があるものの太田桐生,太田
えない.また,両市内の主要鉄道駅が各々左
藪 塚, 伊 勢 崎 の 各 IC が 利 用 可 能 で あ る. 北
岸と右岸に分散して立地していることから域
関東自動車道は,関越自動車道,東北自動車
内の鉄道路線は比較的多いにも関わらず相互
道,常磐自動車道と連絡しており,東京をは
の乗換利便性が高くなくネットワークとして
じめ全国の高速道路網に接続している.
機能しにくいという問題点がある.
( 相 尚寿 )
桐生市と足利市はともに渡良瀬川左岸に旧
市街地が立地しており,これを主要地方道桐
移動手段の選択肢
生岩舟線が連絡している.中心市街と右岸の
道路の整備状況はよく,日常生活において
国道 50 号は複数の道路で連絡されており,相
重要な商業施設や医療機関が幹線道路沿道に
互往来の利便性は高い.
立地している点,鉄道がネットワークとして
機能しにくい点を背景に,桐生市や足利市を
含む両毛地域は全国的にみても自動車利用の
鉄道網
渡良瀬川左岸には JR 東日本両毛線が敷設さ
れており,伊勢崎や前橋を経由して高崎で上
多い地域となっている.
両市での民営バス路線は全て撤退しており,
越新幹線や高崎線,佐野や栃木を経由して小
写真6 東武桐生線 浅草から新桐生まで直通の特急りょうもう
図8 国道 50 号周辺地域の交通網 ( 国土数値情報 ( 道路・高速道路・鉄道 ) より作成 )
030
写真 7 上毛電気鉄道
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5) 都市構造
桐生市,足利市ともに古くから繊維産業で
栄えた町であり,旧市街地は足尾山地の裾,
渡良瀬川左岸に発展した.この2都市を繋ぐ
桐生市
のが JR 両毛線である.一方,川を挟んで右岸
側が市街地として発展したのは高度成長期以
降であり,国道 50 号や東武鉄道の駅が整備さ
れ市街化が進行した.図 9 は桐生市と足利市の
国道 50 号沿道を中心とした区間の DID 変遷を
示したものである.DID の時系列的な変遷から
足利市
桐
線
道
国
生
50
の南限である.
武
行したことが読み取れる.国道 50 号は概ねそ
東
も,渡良瀬川の左岸から,右岸に市街化が進
号
国道 50 号以南は桐生市内の一部に丘陵地
佐野市
が あ り 森 林 が 広 が る ほ か は, 主 に 農 用 地 と
なっており,既存の集落や開発された住宅団
渡良
地が混在する. 国道 50 号沿道や各中心市街
地との連絡道路の沿道に大型商業施設,量販
店が進出している他, 国道 50 号沿道には広
瀬川
東
太田市
武
域的なアクセス性を考慮した病院,ビジネス
伊
勢
JR 両毛線
崎
線
ホ テ ル な ど も 立 地 し て い る. 太 田 桐 生 IC 周
辺には高速道路へのアクセス性の高さから
工業団地が立地している.
図 9 足利市,桐生市,太田市における DID の変遷
写真 8 わたらせ渓谷鐵道 大間々駅付近
写真 9 足利市生活路線バス
地元タクシー業者によって受託運行されている
写真 10 国道 50 号線の商業集積
031
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■桐生・みどり地区
地区別に見ると,まず桐生・みどり地区では,
新桐生駅周辺まで市街化が進行しており,南
限にあたる国道 50 号では,隣接するみどり市
岩宿駅周辺に商業集積,桐生市とみどり市の
境界付近に総合病院が立地している.国道 50
号南側では,岡の上団地などまとまった規模
の宅地開発が見られる.
国道 122 号分岐から東武桐生線交差部までの
国道 50 号南側沿道には丘陵地の森林,みどり
市役所の近くにも岩宿遺跡,渡良瀬川等,自
然や地域の歴史に触れられる資源が国道 50 号
から数百メートルの圏内に位置している.
みどり市内では市役所や図書館などの公共
施設や小中学校が国道 50 号沿道に集積してい
る.JR 両毛線との交差部付近には岩宿駅があ
り,商業施設や公設市場が立地する.
桐生ボートレース場周辺では,国道 50 号の
沿道には商業施設や病院が立地しているほか,
県道 68 号と桐生大橋を介して桐生市役所や中
心市街地と連絡する動線との交差部となって
いる.また,県道 68 号と国道 122 号の交差点
付近には鉄道駅も立地し,小売や飲食の店舗
が集積している.国道 50 号と国道 122 号との
図 10 桐生・みどり地区の都市構造 *
分岐部にも小売店が立地しており,渡良瀬川
対岸へと続く橋にも近い.
道路網からみると,渡良瀬川左岸に立地す
る,桐生市役所や文化会館,病院や高校など
の主要施設へのアクセスも,桐生駅の北側に
広がる既存市街地と比較しても遜色ない水準
が確保されているといえる.
■足利・太田地区
足利・太田地区でも市街化の南限は概ね国
道 50 号付近となっており,南側は水田を中心
とした農用地となっている.国道 50 号では,
約 1km ごとに東武線足利市駅周辺から放射状
に発達した主要道路,或は橋を介して対岸の
両毛線足利駅や中心市街地に連絡する道路と
接続する.国道 50 号の商業集積はこれらの道
路との交点を中心とし,複合商業施設,スー
パーマーケット,量販店,ビジネスホテルな
どが立地している.
本地域における国道 50 号は既存市街地と隣
接していることから,沿道に立地する商業施
設はこれらを主たる誘致圏としていると考え
られる.特に南大町交差点には複合商業施設,
小売店舗,飲食店の集積,工業団地が立地し,
至近を東武伊勢崎線が通過している.
( 相 尚寿 )
032
図 11 足利・太田地区の都市構造 *
* 国土数値情報 ( 道路・高速道路・鉄道 ) +基盤地図情報 ( 道路縁・
建築物 ) +自然環境保全基礎調査 植生調査植生図より作成
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桐生・みどり地区現況
写真 11 桐生市中心市街地
写真 12 ノコギリ屋根の繊維工場
写真 14 上毛電気鉄道 西桐生駅
写真 15 新桐生駅付近の住宅地
写真 13 国道 50 号沿いの総合病院 ( みどり市)
写真 16 丘陵地の宅地造成地(岡の上団地 )
足利・太田区現況
写真 17 鑁阿寺(足利市)
写真 18 国道 50 号南に開発された堀里ニュータウン )
写真 19 大規模商業施設(コロナワールド)と周辺集落
写真 20 足利市中心市街地
写真 21 矢場川
写真 22 コロナワールド付近の住居と農地が混在する集落
033
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2-2 沿道型近隣生活圏の空間イメージ
1. ロードサイド型コンパクトシティにおける
生活圏の考え方
図 2,3 は,桐生・みどり市,足利・太田地区
の沿道型近隣生活圏の構想図である.
生活圏の拠点である大型商業施設や病院
を,ロードサイドの生活圏から既存の中心市
本研究におけるロードサイド型コンパクト
両地域とも国道 50 号のロードサイド延長約
街地,都市間移動(桐生〜佐野)への移動の
シティ (RSCC) では,主要道路と道路沿いの施
3-4km の間に,居住区と緑地地域を交互に配
乗り換え地点とし,生活圏内での利便性とと
設を基軸としながら,徒歩と公共交通で日常
置し,居住区と拠点とを環状のバス路線で繋
もに生活圏同士の広域的な連携にも寄与する
生活に必要なサービスを受けられる生活圏を
ぎながら生活圏を形成するものとした.
ことを想定している.
形成するものとした.この生活圏を沿道型近
隣生活圏とする.
各地区の構想の内容については図キャプ
ションにて記述し,本文では,沿線型近隣生
(2) 緑地帯・緑地地域
ニュータウンの空間計画では,近隣住区論
活圏を成立させるための拠点への移動,生活
RSCC の生活圏では,地形や水系などの自然
に基づく施設配置と歩車分離によって,徒歩
圏の環境基盤となる緑地帯,緑地地域の考え
条件,かつての集落形態や田園地帯など自然・
及び自転車での移動を基本とした生活圏を実
方について述べる.
文化的な要素から居住区の範囲を規定するこ
とで,スプロールの再発を避けるとともに,
現してきた.図 1 は,都市計画公園の配置方
針として模式化された近隣住区にもづく都市
(1) 沿道型近隣生活圏内の移動
生活圏の環境基盤としてこれらの要素を取り
構造である.基礎単位である 400 〜 500m 圏
沿道型近隣生活圏のサービスとして,居住
入れることができることを目標とする.構想
の近隣住区には小学校とコミュニティーセン
区を単位として日常生活をまかなう小店舗,
図ではこの考えに基づいて,緑地帯,緑地地
ター,商業施設,近隣公園が配置され,さら
生活圏内に大型商業施設など既存施設を利用
域を提案している.
に 200 〜 250m 圏の街区を幼年のこどもたち
した生活拠点,集会施設や診療所,デイケア
緑地帯は,RSCC における環境の軸となる水・
の遊び場や保育所といった利用者の移動距離
施設など1つの居住区では提供できない機能
緑であり,河川・農業用水路など,既存の線
が限られる施設の誘致圏とする,階層的な空
が配される.また,居住区内では通過交通を
的な緑に沿って設定した.緑地地域と居住区,
間構成である.これに対し,RSCC では主要道
排除,住民の駐車場を域内に集約し,徒歩優
幹線道路をつなぐネットワークであり,居住
路へのアクセスを担保するため,この最小単
先の路上空間をデザインするものとした.
区内では路上空間から個々の住宅の緑,オー
位となる街区を空間計画の基本単位,沿道居
生活圏内の交通機関は,交通弱者の視点か
プンスペースに連続する日常的な緑として生
住区とし,近隣住区の単位で計画されていた
らこれらのサービスを容易に利用できること
活空間の細部につながるようデザインされる
サービスへのアクセスは,コミュニティーバ
を目的としたものである.ケーススタディー
(居住区内の空間計画の考え方,コミュニティー
スなどの公共交通機関によって補うものとし
では,生活圏での自家用車によらない移動を
の形成の詳細については次項,居住区の空間
た.より小さなスケールで居住区を計画する
支えるものとして,コミュニティーバスの導
イメージにて論じる).
ことが可能となり,立地条件や地域の歴史・
入を検討した.図 2,3 の構想図の黒い線がバ
緑地地域とは,戦後の都市計画においてグ
文化的な文脈に沿いながら,インフラの効率
スの路線,黒丸がバス停を示している.路線
リーンベルトとして指定された,低密度な居
や自然的環境との関わりを検討する自由度が
を設計するにあたり, 最多で 20 分に一本の
住と農地・樹林地からなる地区の名称である.
高まると考えられる.
運用が可能な路線を検討した.双方とも環状
RSCC においては,居住区からの身近な緑であ
そ こ で, 沿 道 型 近 隣 生 活 圏 の ケ ー ス ス タ
のバス路線とし,一周 35 分,全長 10km 程度
り,生活圏への農業生産物の供給,災害時の
ディーでは,生活拠点としての既存施設の利
を2台で運行することとし,居住区内ではバ
避難・被害拡大の防止等に寄与するものとし
用と交通網の整備とともに,森林,田園地帯
ス停間の距離を短く,それ以外では国道 50 号
て設定した.当該地においては農地,農村集
など自然的環境と近接するロードサイドの立
をとおり,バス停の間隔を長くすることで調
落を主とした地域であり,農業振興のために
地上の利点を積極的に生活圏に取り込むこと
整した.進行方向が単一のため,目的地がバ
農業の継続の意思のある農家の支援策,農村
を検討した.
スの進行方向にあると遠回りになることから,
的なライフスタイルを好む人などを誘導,生
路線を鎖状に設計し途中乗り換え可能とする
活圏と隣接した立地を活かした市民農園など,
ことでこの問題を解決した.
緩やかなに農地・集落としての環境・景観を
2. 沿道型近隣生活圏の構想
ケーススタディーにおける 緑地帯・緑地地域の候補地
図 1 都市公園の配置の考え方 ( 国土交通省資料 )
034
写真 1 桐生・みどり地区:住宅地内,小学校や保育園などの
公共施設にそって流れる小河川
写真 2 足利・太田地区:国道 50 号の南側に広がる田園地帯.
背後に見えるのは金山丘陵
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維持するための管理を行う.また,現状にお
いて農住が混在する地域に対しては,インフ
ラの維持管理からの撤退と居住区への移動の
助成などを組み合わせながら,RSCC としての
生活圏の効率化をはかる.
足利・太田,桐生・みどりの2地区に見る
ように,都市のフリンジに位置するロードサ
イドは幹線道路と行政界を挟んで,土地利用
現況や都市計画上の位置づけが大きく異なる
地域が隣接する場所となっている.ケースス
タディーではこれらの地域に対し,道路ネッ
トワークを基礎としながら,日常生活を支え
る各種サービス,ライフラインや緑地帯など
の環境基盤の受益地域としての生活圏の連携
を空間として示した.
ここで提示した構想図は都市郊外部での計
画であるが,都市の縮退の方向性によっては,
ロードサイドを実質的な中心とした都市構造
図 2 足利・太田地区における沿道型近隣生活圏構想図
への転換もあり得る.RSCCから新たなスプロー
対象地は,栃木県足利市と群馬県太田市の境界であり,行政界と国道 50 号により住宅地,田園集落,工業団地と土地利用を異
にする地区となっている.ケーススタディーでは,沿線沿いの2つの商業集積地を生活圏の拠点,50 号をはさんで交互に沿道居
住区とし,この間を公共交通機関で結んだ沿道型近隣生活圏を形成するものとした.特に南大町交差点には複合商業施設の至近
を東武伊勢崎線が通過していることから,新駅を設置 , バス等の公共交通機関により足利市駅や太田駅との連絡を強化して商業集
積地,地域の生活拠点,交通結節点として重点的に整備するものとした.居住区として設定したのは,これらの拠点の周辺,及
び 50 号南側の住宅団地,山辺中学校より東武鉄道までの既存の市街地である.現状で沿線から 500m 前後で複数の小中学校が立
地しており,前述の生活圏の拠点や居住区内の拠点に行政機関の出張機能が追加されれば,既存施設を生かしながら徒歩を基本
とした生活圏を形成していけるものと考える.田園地域と居住地とが空間・生態的に連続した環境とする地区を形成するため,
北側の農村集落を含む水田地域と比較的低密度な地区を緑地地域,三栗谷用水や矢場川などの農業用水にそって緑地帯を設定し
ている.居住区の面積は約 160ha.人口密度が 75 〜 150 人 /ha,3割が公共用地とすると,8475 〜 16,950 人規模の生活圏が形成
される.
ルが再生しないよう,都市インフラの持続性
とともに,周辺の自然環境との関わりもふく
めたライフスタイルに立脚した,都市ビジョ
ンと都市の経営方針がステイクホルダーの間
で共有されることが重要と考える.
(片桐 由希子 )
写真 3 桐生・みどり地区:50 号をはさんで住宅地,住農の混
在地域,背後に丘陵の緑が広がる.
図 3 桐生・みどり地区における沿道型近隣生活圏構想図
写真 4 桐生・みどり地区:丘陵麓には昔ながらの農地と集落
が残る
桐生・みどり地区では,既存の市街化を中心とした居住区,低密度な農住の混在地域については緑地地域と設定し,足利・太田地
区と同様に幹線道路に沿って南北交互に配置,この間を公共交通機関で結ぶ沿線型近隣生活圏を検討した.拠点としたのは,西側
から岩宿駅と隣接する商業施設,公設市場,病院と桐生市内の国道 122 号との分岐部に立地する小売店である.公共交通のルート
上では,それぞれ桐生の中心市街地への乗り換え地点とした.本地域については,小売や飲食の店舗,鉄道駅が立地している県道
68 号と国道 122 号をあわせて,環状に生活圏を展開するシナリオも考えられる.東武鉄道西側の居住区はかつての集落を南限とし,
これより南の農住の混在する地区は緑地地域に生活圏の広がりを設定した.桐生・みどり地区の生活圏の緑地帯は,岡登用水にそっ
た低地の農地,広沢川,八王子丘陵からの小河川を軸とし,阿左美沼周辺に指定された風致地区,八王子丘陵の農地・樹林地と居
住区とを繋ぐものとした.桐生・みどり地区では,生活圏内の農用地の維持をはかるため,公共交通のルートが緑地地域内を通し,
居住区と既存の農家の生活環境との間に大きな格差を生じさせないものとした.阿左美沼と岡登用水を中心とした農業地域と,渡
良瀬川から市街地への景色の広がりをのぞめる八王子丘陵の北斜面は,生活圏に対する食料供給地であるとともに,地域の自然・
文化的環境の成り立ちを体感することができる身近な農業観光地として展開するものとした.
035
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2-3 沿道居住区の空間イメージ
本章ではロードサイド型コンパクトシティ
① ボイド
( 以下,RSCC) の生活圏の最小単位である沿道
まず,他地域から住民が移転するための開
居住区の規模に適した地区計画を提案する.具
発可能な空間,つまり移転可能領域(V:空地
体的なプランニングを行うことで空間フレー
=ボイド)を把握するために,既存の住居な
ムを定め,縮退後の RSCC の規模を算出する.
らびに水路に対してバッファーを設け,ボイ
更に,他地域からの人口流入によって,段階
ドを顕在化させる.以下は,既存市街地のボ
的に形成されるコンパクトシティ化の過程に
イドを導き出す手順である.
おいて必要とされる社会システムは,コミュ
-- ステップ 1:既存の各住居(図 1)に対し,
ニティの域内活動が主体となることから,そ
最低限必要とされる燐棟間隔としてバッ
れを促進させるためのデバイスを提案する.
ファー(幅:Bw, 奥行き:Bd)
(図 2)を設ける.
-- ステップ 2:水路に対してオフセット(Oc)
を設ける.
1) 空間フレームの検討
1. 地域の社会ビジョン
まず,国道 50 号によって分断される社会を
考慮し,本ケース・スタディでは幹線道路に
対して片側のみに形成されるコミュニティを
想定する.次に,コミュニティの軸となるコ
ミュニティ道路を確保する.この道路には,
RSCC の生活圏である沿道型近隣生活圏を巡回
するコミュニティ・バスなどの公共交通機関
が通り(2-1 参照),そのために沿道居住区で
は不足されるサービスを住民は容易に受ける
ことが可能となる.また,コミュニティ道路
にはバス以外の通過交通(特別車両は除く)
を排除することで,歩行者にとっての安全性
を確保する.これにより,住民の駐車スペー
スは沿道居住区内の数ケ所に集約される.
対象地域の地域性として,町のいたるとこ
ろにその形跡が見られる農業用水路を積極的
に活用し,高密度化と同時にオープン・スペー
スを確保する.土地が持つ潜在能力と調和を
図るような空間が形成される.調和という意
味において,古くから町並みを形成している
既存住宅の規模とのバランスを勘案し,本ケー
ス・スタディの対象地域は低層住宅による居
住区を想定する
2. 段階的なプランニング
年月を重ねて徐々にコミュニティの風景が
生成される過程には,計画し過ぎない程度に
秩序を設定する必要があるだろう.そこで,
住民が他地域から対象地に移転する過程に,(1)
で述べた 3 つの社会ビジョンを考慮し,段階的
な空間計画の手続きを設定する.計画条件は,
地域内に存在するボイドの把握 ( ① ) から始ま
り,地域全体(グローバル)に共通するルー
ル(②)と個々の場所性(ローカル)に応じ
て異なるルールを設ける.
036
-- ステップ3:バッファーとオフセットに沿っ
図 1 既存の各住居
て輪郭を抽出し,ボイド領域を顕在化させ
る(図 3, 4).
②ルール
次にボイドの開発段階で適応されるルール
に関して説明する.図 5 が示すフロー図にそっ
て,4 つの区分がなされ,それらに 2 つのシン
プルなルール(グローバルとローカル)が適
応され,具体的な土地利用が決定する.
まず,ある街区(D)に対して,その内部に
①で抽出されたボイド,またはプロパティ(P:
住居等)があれば既存市街地,そうでなけれ
ば更地に区別する.それぞれのボイドについ
図 2 バッファー(実線:Bw,点線:Bd)
ては,道に面した領域(S1)と,接していない
領域(S2)に区分される(図 6).区分するに
あたっては,道に対して一定距離のオフセッ
ト(Os)を設定し,道に面していない部分は
S2 として扱う(図 4).
次に,S1 と S2 に閾値(Si min: i=1, 2)を設け,
その面積に見合った開発を実施する.この操
作によってフロー図から4つのタイプに区分
(S1 Small: S1 < S1 min, S1 Big: S1 > S1 min, S2 Small: S2 <
S2 min, S2 Big: S2 > S2 min)することができ,それぞ
れに対してグローバル・ルールまたはローカ
ル・ルールが適応される.ここでは,コンパ
図 3 ボイド領域
クトシティの空間フレームを決定するものを
グローバル・ルールとし,個々の空間の特性
を生かしながらコミュニティに多様性をもた
らすものをローカル・ルールと設定した.
グローバル・ルール
-- S1 Small: S1 < S1 min : ポケットパーク
-- S1 Big: S1 > S1 mi : 敷地をおおよそ S1min に
分割してから低層住宅あるいはカフェや小
規模店舗
-- S2 Small: S2 < S2 min : アクセス道路を設けたえ
うでコミュニティ・ガーデン
図 1 S1 と S2 に分割された領域
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ローカル・ルール
-- S2 Big: S2 > S2 min Center for Sustainable Urban Regeneration
沿道居住区規模では,計画の度合いが重要
応させることで空間フレームを形成しながら,
な課題となる.過剰な計画・ルール設定はごく
ローカル・ルールによって開発段階に自由度
うでミニ開発(3 ~ 4 階建中層マンション,
一部のコンパクトシティ推奨派住民には歓迎
を設け,地域や変化への順応性を考慮した.
集会場や診療所等のコミュニティ施設)
されるが,多くの住人にとっては受け入れ難い
ここで導き出された人口は本ケース・スタ
ものである可能性がある.こうなると,コン
ディで設定した諸条件に対して名目的に算出
プランニングを経てルールを当てはめると,
パクトシティは単に縮退を目的とした高密度
されたものであり,バッファーやオフセット
沿道居住区としての規模(おおよその総人口)
都市ないしは過密都市となり,また,長期計
等の値を変えれば当然結果は異なる.また,
が算出される.本ケース・スタディで使用し
画という観点からはフレキシビリティの欠如
ローカル・ルールにおいて,集合住宅かコミュ
た パ ラ メ ー タ は,Bw {3m},Bd {4m},Oc {2m},
により,将来の社会変化に対応不可能な非サ
ニティ施設を設けるかの判断によっても地域
Os {12m},S1 min = S2 max {120m2 (10×12m)} と し た
ステイナブル・シティと化してしまうだろう.
の規模は左右される.
ため,流入可能な人口は 5,000 人程度(約 1,950
一方,ルールなしの計画だと沿道居住区の空間
いずれにしても,それを決定するにあたっ
世帯)
,地域の居住人口のキャパシティおおよ
は,無秩序な高密度地域になる可能性がある.
て縮退後を考慮した地域の社会ビジョンを提
: アクセス道路を設けたえ
そ 6,500 人となる ( 図 7).
そこで,本章ではケーススタディーとして
地域全体に影響するグローバル・ルールを適
示することが必要不可欠である.
( 田村 順子)
図 5 プランニングを示したフロー図
S1:道に面した領域 S2:道に接していない領域
図 6 S1 と S2 の領域を示した図
図 7 段階的プランニングよる沿道居住区のケーススタディー(■:新たに計画された建物 ●:バス停)
037
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墓地
国道50号
農業用水路
既存市街地
拠点:
マツモトキヨシ
現状
拠点:
本ケース・スタディ対象地には,
沿道居住区の拠点としてポテン
シャルがあるカンケンプラザや
マツモトキヨシ等を中心に地域
が決定されている
未利用地
現状の諸施設を積極的に有効
利用させ,低コストを実現さ
せる
既存市街地からのプランニング
拠点であるカンケンプラザ等
の駐車スペースの一部を住民
用の駐車場として確保する
縮退後
バス停
本計画地域内に新設する
駅のための駅前広場
未利用地からのプランニング
図 8 ケーススタディー対照地区の現況と段階的プランニングに基づく沿道居住区の考え方
038
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2)コミュニティの再考
ロードサイド型コンパクトシティにおいて
が必要不可欠となることが予測される.コン
車社会で日常生活を送ってきた住民に対し
車社会を代替するコミュニティ・バスと徒歩
パクトシティ化への過程では,古くから住み
て,積極的にバスや徒歩の利用を促すための
へのモーダル・シフトは重要な役割を果たす
続けている住民と,他地域から移転してくる
ファシリテータが空間に組み込まれていなけ
だろう.しかし,このコンセプトの中枢とな
新参者がいかに共存していくかが重要であり,
ればモーダル・シフトは極めて非現実的な計
るバス・徒歩社会が非現実的であれば,破綻
コミュニティの在り方を今一度考え直さなけ
画になり兼ねない.バス停+とは,言葉の通
する可能性が高い.軸となるコミュニティ道
ればならない.つまり,必要とされるのは単
りコミュニティ・バスの停留所としての機能
路から単に住民の自家用車を排除し,歩車分
位としてのコミュニティではなく,社会シス
に加えて,住民が地域内活動を促すためのプ
離を実現させたところで歩行を基盤とする社
テムとしての「コミュニティ」であり,具体
ログラムが付随されている場である.
会システムの構成要素が空間に盛り込まれて
的には地域内活動を促すためのプログラムと
いなければ,ロードサイド型コンパクトシティ
運営に住民が関与することを指す.
の持続性は損なわれてしまうのである.
一方,都市の持続性を考慮した場合に,対
象とされる地域においてコミュニティの関与
バス停+の立地は,現状の諸施設を積極的
に有効利用させ,場所によっては新設させる
上記2つの観点を考慮し,実用に向けて歩
ことで低コストを実現させる.なお,付随さ
行を促進させるデバイスとして「バス停+(プ
れる機能としては,コンビニ,各種物販,カフェ
ラス)」を地域全体に埋め込むことを提案する.
等の飲食店が想定される.
(田村 順子)
コミュニティクリニック
オープンリバー
バス停+
8
シェアガーデン
バス停+
8
緑の集合住宅
バス停 +
ポケットパーク
Incremental Planning の考え方
BUS
BUS
BUS
BUS
BUS
BUS
BUS
BUS
Incremental Planning 01
Incremental Planning 02
Incremental Planning 03
Incremental Planning 04
バス停に +α のスペースを計画
住民の様々な活動をサポートする多
需要に応じてキオスク等も出店,バ
さらに需要が増えるとカフェの出店
目的広場として活用
ス停が地域の生活インフラとなる
など,地域商業の拠点ともなる
039
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オープンリバー
コミュニティクリニック
8
街路沿いに効率よく宅地を分配した街区中央の,空き地になりがちなスペースに
農業用水路を修景して親水空間を計画し,街路沿いに心地のランドスケープを展
診療所や高齢者のためのケア施設等を計画する.複数の路地からアクセス可能な,
開する.ある場所は広場として,ある場所は住民の居場所となり,街路に人々が
街の新しいコミュニケーションスペースともなる.
集まるきっかけとなると同時に,地域の生態系の維持・回復ともなる.
8
8
緑の集合住宅
8
シェアガーデン
8
8
街路沿いには低層の住宅を展開すると同時に,街区の中側には中層の集合住宅を
住戸のセットバックによるシェアガーデン:各住宅には街路からのセットバック
計画し,ロードサイドエリアのコンパクト化を促すために地域全体の人口密度を
をガイドライン化し,前庭を半パブリックな空間として計画する.
上げる.また緑地や空地を適切に計画し,密度感を感じさせない計画とする.
ポケットパーク
バス停 +
街区のところどころに通り抜け可能な路地とポケットパークを計画し,緑溢れる
地域内の車は原則的にバスや介護タクシーとすることで,バスの有効な運用を促
空地作りを行う.結果的に点在する緑を楽しむために窓を開いたり,屋上の有効
し,バス停 + スペースの有効活用を促す空間構成とする.結果的に街路沿いに人
な利用を促す環境を整備する.
が集まり易いような,エリア全体の整備を段階的に行っていく.
( 中村 航 )
040
Part
III
ロードサイド型コンパクトシティ
実現に向けた検討
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1. ロードサイド型コンパクトシティ実現に向けた検討項目
1-1 検討の視点
ロードサイド型コンパクトシティ (以下
specific issues)
RSCC) の実現のためには,それを多面的に評
OECD のコアセット指標は環境に特化したも
価し有用性を証明する必要がある.しかし都
のであり,特に都市域に限定せず,社会と環
市の評価は非常に多岐にわたる事項を総合的
境の持続可能性に主眼を置く.
も,国内外で都市を対象とした多くの評価指
標が提案されている.各指標のレビューにつ
いては中口・森口 4),高橋ら 5),などが詳しい.
上述の評価指標が政策決定のために作成,
Urban Audit 都 市 の 持 続 可 能 性 に 特 化 し
利用されており主に専門家向けであるのに対
指標の確立には至っていないのが現状である.
た 指 標 と し て は, 欧 州 委 員 会(European
し,国内に於いては東洋経済新聞社が毎年発
本節では様々な都市の評価指標について概観
Commision) の 地 域 政 策 総 局(the
表している「住みよさランキング」が一般に
し,RSCC 実現に向けた検討項目を整理する.
Directorate-General for Regional Policy) と 統
広く知られている.住みよさランキングでは
計 局(Eurostat) に よ る” Urban Audit” が 挙
以下の 5 分野 14 指標について評価される 6).
に取り扱う必要があるために,未だ決定的な
1. 都市の評価
3)
これまで提案された都市の評価指標は環境
の 観 点 か ら 作 成 さ れ た も の が 多 い. そ の 契
機 は 1992 年 に ブ ラ ジ ル の リ オ・ デ・ ジ ャ ネ
げられる .Urban Audit では以下に示す 9 分
野 25 領域,計 336 項目により評価される.
1 安心度
1.1 病院・一般診療所病床数(人口当たり)
1 人口統計 ( Demography)
1.2 介護老人福祉施設・介護老人保健施設
イロで開催された,「環境と開発に関する国
1.1 人口 (Population)
定員数(65 歳以上人口当たり)
際 連 合 会 議(United Nations Conference on
1.2 国籍 (Nationality)
1.3 出生数(15 〜 49 歳女性人口当たり)
Environment and Development, UNCED)」 に
1.3 世帯構造 (Household structure)
おいて「アジェンダ 21(Agenda 21)
」
1)
が採
2 社会面 (Social aspects)
択された事が大きい.全 40 章 351 ページに及
2.1 住宅 (Housing)
ぶ行動計画の中,第 40 章「意思決定のための
2.2 保健 (Health )
情 報(Information for Decision-Making)
」で
2.3 犯罪 (Crime)
持 続 可 能 な 発 展 に 関 す る 指 標(Indicators of
3.1 労働市場 (Labour market)
述べられている.アジェンダ 21 の採択以降,
3.2 経済活動 (Economic activity)
持続可能性に重点を置いた都市の環境評価指
3.3 所得格差と貧困
経 済 協 力 開 発 機 構(Organisation for
OECD)はある社会の環境情報を体系的に整理
4.2 地方行政 (Local administration)
し指標化するための概念的枠組みとして「PSR
5 訓練と教育 (Training and education)
荷),State(環境の状態),Response(社会に
よる対応)の枠組みで捉える事を目的とする.
3.1 公共下水道・合併浄化槽普及率
3.2 都市公園面積(人口当たり)
3.3 転入・転出人口比率
3.4 新設住宅着工戸数(世帯当たり)
4 富裕度
(Income disparities and poverty)
4.1 市民参加 (Civic involvement)
の活動と環境の関係を Pressure(環境への負
2.2 大型小売店店舗面積(人口当たり)
3 快適度
4.1 財政力指数
4 市民参加 (Civic involvement)
Economic Co-operation and Development,
モ デ ル 」 を 提 唱 し た 2).PSR モ デ ル は, 人 間
2.1 小売業年間商品販売額(人口当たり)
3 経済面 (Economic aspects)
Sustainable Development)の開発の必要性が
標が多数提案された.
2 利便度
4.2 地方税収入額(人口当たり)
4.3 課税対象所得額(納税者 1 人当たり)
5 住居水準充実度
5.1 住宅延べ床面積(世帯当たり)
5.1 教育と訓練の提供
5.2 持ち家世帯比率
(Education and training provision)
5.2 教育の質 (Educational qualifications)
6 環境 (Environment)
住みよさランキングで用いられる指標の数
は 14 と,Urban Audit の 336 項目と比較して圧
OECD のコアセット指標では,以下の 14 項目
6.1 気候 / 地理 (Climate / geography)
倒的に少なく,住民に取っての住みやすさに
に対して負荷,状態,対応の組み合わせで評
6.2 空気質と騒音 (Air quality and noise)
限定し簡素化された指標である.
価する.
6.3 水 (Water)
1 気候変動 (Climate change)
2 オゾン層破壊 (Ozone layer depletion)
3 富栄養化 (Eutrophication)
4 酸性化 (Acidification)
5 毒物汚染 (Toxic contamination)
6 都市環境 (Urban environment quality)
7 生物多様性 (Biological diversity)
8 景観 (Landscape)
9 廃棄物 (Waste)
10 水資源 (Water resources)
11 森林資源 (Forest resources)
12 漁獲資源 (Fish resources)
13 土壌荒廃 (Soil degradation)
14 特定の問題に起因しない一般的な指標
(General indicators, not attributable to
042
6.4 廃棄物管理 (Waste management)
2. 都市の総合評価指標の試案
6.5 土地利用 (Land use)
6.6 エネルギー消費 (Energy use)
7 旅行と輸送 (Travel & Transport)
7.1 旅行パターン (Travel patterns)
8 情報化社会 (Information society)
8.1 ユーザとインフラ
(Users & infrastructure)
これまでに紹介した都市の評価指標の一方
で,都市を構成する建築物に着目した評価手
法として日本では環境性能を評価し格付け
す
る CASBEE(Comprehensive Assessment
System for Built Environment Efficiency, 建 築
環境総合評価システム)が国土交通省の支援
の下で開発された 7).建築物の環境評価指標
8.2 地方の電子政府 (Local e-Government)
としては英国では BREEAM (Building Research
8.3 情報通信技術部門 (ICT sector)
Establishment Environmental Assessment
9 文化と娯楽 (Culture and recreation)
Method) が, 米 国 で は LEED (Leadership in
9.1 文化と娯楽 (Culture and recreation)
Energy & Environmental Design) が 開 発, 運
9.2 観光 (Tourism)
用されている,それらと CASBEE の違いとし
て「建築物の環境品質(Quality, Q)」の評価
OECD コアセット指標や Urban Audit 以外に
のみでは無く,「建築物の環境負荷(Load, L)」
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をも同時に評価する点に特徴がある.CASBEE
で は 環 境 性 能 効 率(Building Environmental
Efficiency, BEE)は環境品質 Q を環境負荷 L で
除する事により求める.環境品質 Q と環境負
荷 L についてはそれぞれ以下の 3 項目に分けて
評価を行う.
Q1. 室内環境
Q2. サービス性能
The University of Tokyo
af8c19ba48d/page/5/
No. 11, Vol. 3, pp.277-287.
5) 高橋美保子 , 鵜木千里 , 出口敦 , 2007: サステナ
ブル・ディベロップメントの概念と都市のサ
ステナビリティ評価手法に関する基礎研究 , 都
市・建築学研究 九州大学大学院人間環境学
研究院紀要 , No. 11, pp.31-44
6) 東洋経済オンライン, 2012年8月29日アクセス:
http://www.toyokeizai.net/business/regional_
economy/detail/AC/9de7bd2ea53ac06135577
Q3. 室外環境(敷地内)
L1. エネルギー
CASBEE の概念を応用し試作した都市の評価
指標について以下に説明する.評価項目につ
いて表 1 に示す.提案した指標では,これら
大項目
Q1
中項目
小項目
自然度
緑被率 [%]
大気環境
SO2 濃度 [ppm]
環境・衛生
NOx 濃度 [ppm]
衛生環境
各項目について様々な都市のデータを収集し,
行政機能
項目,中項目,大項目毎にそれぞれ重み付け
住宅面積 [m2/ 人 ]
詳細は省略するので,実際の採点基準や採点
住居機能
結果については文献 8 を参照のこと.
考慮している点が特徴である.しかし一方で,
機能・サービス
いては一切検討出来ていない点が課題である.
商業機能
小売店舗数 [ 店 /1,000 人 ]
交通機能
道路総延長 / 通過交通量
福祉機能
死活問題と言え,今後人口が減少する一方で
RSCC の様な新たな価値観を持ち込む場合に
地震
既存不適格件数率 [%]
火災
火災発生件数 [ 件 /1,000 人 / 年 ]
消防署員数 [ 人 /1,000 人 ]
Q3
風水害
安全・安心
3) European Communities, 2004: Urban Audit
Methodological Handbook 2004 edition.
4) 中口毅博 , 森口祐一 , 1998: 日本の地域環境指標
の特徴分析–国際比較を中心に–, 環境科学会誌,
交通事故発生件数 [ 件 /1,000 人 / 年 ]
交番・派出所数 [ 所 /1,000 人 ]
(川本 陽一)
2) OECD, 1993: OECD Core Set of Indicators for
Environmental Performance Reviews – A
synthesis report by the Group on the State of
the Environment.
被害件数 / 被害時総雨量
犯罪発生件数 [ 件 /1,000 人 / 年 ]
犯罪・事故
本節がその議論のベースとなる事を願う.
1) United Nations Sustainable Development,
1992: Agenda 21.
福祉施設数 [ 件 /1,000 人 ]
都市公園面積 [m2/ 人 ]
ある日本の都市に於いては検討が必要だろう.
[ 参考文献 ]
小学校教員数 [ 人 /1,000 人 ]
公共交通分担率(鉄道・バス)[%]
これらの問題は縮退する地方都市に於いては
価指標も提案する必要があるのかもしれない.
図書館蔵書数 [ 冊 / 人 ]
教育機能
幼稚園数 [ 園 /1,000 人 ]
トの問題や,税収の元となる雇用の問題につ
地がある.新たな価値観に合わせた新たな評
電化率 [%]
情報化率 [%]
Q2
本指標ではインフラの維持管理に関するコス
客観的にどの様に評価するか,未だ検討の余
人口増加率 [%]
財政力指数
をして採点する形式とした.紙数の関係から
QOL)のみでなく,都市生活による環境負荷も
人口 100 人に対する感染症患者率
下水道普及率 [%]
平均値と分散から 5 点満点でランクに分け,小
提案した指標では生活の質(Quality Of Life,
8) 大岡龍三 , 安岡善文 , 須崎純一 , 遠藤貴宏 , 川本
陽一 , 中井秀信 , 中嶋まどか , 瀬戸島政博 , 船橋
学 , 岡田敬一 , 2006: 持続可能な都市形成のた
めの都市環境総合評価指標の提案 , 生産研究 ,
No.58, Vol.3, pp.328-331
表 1 RSCC 実現に向けた評価項目
L2. 資源・マテリアル
L3. 敷地外環境
7) 村上周三 , 岩村和夫 , 坂本雄三 , 野城智也 , 坊垣
和明 , 佐藤正章 , 伊香賀俊治 , 遠藤純子 , 2004:
建築物総合環境性能評価システムの開発 , 日本
建築学会技術報告集 , No.20, pp.199-204
病床数 [ 床 /10,000 人 ]
電気
L1
ガス
エネルギー
電気使用量 [MJ/ 人 / 年 ]
都市ガス使用量 [MJ/ 人 / 年 ]
プロパンガス使用量 [MJ/ 人 / 年 ]
その他
灯油使用量 [MJ/ 人 / 年 ]
L2
水資源
上水使用量 [ton/ 人 / 年 ]
資源
物質
家庭ゴミ排出量 [ton/ 人 / 年 ]
産業廃棄物排出量 [ton/ 人 / 年 ]
L3
広域環境
CO2 排出量 [ton/ 人 / 年 ]
大気
SO2 排出量 [ton/ 人 / 年 ]
NOx 排出量 [ton/ 人 / 年 ]
その他
廃棄物量のうち系内未処理量 [ton/ 人 / 年 ]
043
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1-2 ロードサイド型縮退効果の試算 ―コンポストによるごみ処理による焼却炉の置換による効率化評価 ―
日本国内の人口 10 万人~ 30 万人クラスの中
堅都市は,少子高齢化,若年層の大都市流出が
ため,差分である CO2 排出原単位,および化
×10-3トン/年・人は,0.23%の削減効果となり,
石燃料消費原単位の算出が必要である.
民生セクターベースで換算すると0.78%の削減
効果となる.また,必要な補助燃料を重油消
激しく,過去 10 年間の間に,毎年平均 1% ~
3% 程度の人口減少を続けている都市が多い.
2. 群馬県の焼却炉の補助燃料原単位の試算
費量に換算すると 7,976 トン (9,384 kilo liter) が
こうした都市は,人口のピーク時に整備されて
焼却炉の補助燃料原単位の試算を行うため
必要であり,A 重油価格を 60,000 円 /kilo liter 8)
しまっているために現在,広大な都市域に低密
に,環境省・一般廃棄物処理実態調査結果の
とすると,コストにして,563,040,000 円が削
度で住民が生活し,過度に投資された公共サー
群馬県のデータを厨芥 1kg( 含水状態 ) の焼却
減可能と試算される.平成 21 年度の群馬県歳
ビス施設(上下水,交通,エネルギー,消費,
処分に必要な補助燃料エネルギー原単位およ
出 787,697,000,000 円なので,これが削減でき
廃棄)が配置された状態になっている.各地方
び CO2 排出原単位を算出する.
るとなると,約 0.071%の歳出削減となる.
行政は,人口に見合った効率のよい行政サービ
計算対象:環境省の生活ごみ分類のうち「厨
スを目指すため,例えばサービス施設の休廃止・
芥」( 含水状態 )1kg について,それぞれ次の
統廃合を選択的に進めることで,都市域の「縮
ように推定される.
4. ごみ焼却施設の集約化,コンポスト化によ
る CO2 排出量評価
仮に人口分布が現状とは異なり,次で定義
退戦略」の一つ方法にしている行政も少なくな
い.ここでは,ロードサイド型の縮退の一例と
Eg(kJ):厨芥の水分蒸発エネルギー
して,住民へのサービス低下をなるべくおこさ
( 潜熱 ):
された集約的分布を持っていると仮定する.
この分布は現在,人口の多いところに縮退
2)
ないで,行政サービスの縮小を実現する戦略と
2031.75[kJ] = 0.903( 含水率 ) ×1000g
することを想定した縮退後の人口分布モデル
その効果を環境負荷の観点から明らかにするた
×2.25KJ/g(100℃,1 気圧の蒸発潜熱 )
であり,群馬県の場合,主要道路を中心とした
ロードサイド型縮退に近い状態となっている.
め,人口減少している都市を多くもつ北関東圏
に位置する群馬県を対象に,ごみ処理焼却施設
Ee(kJ):焼却炉の余分な排熱量の平均値
の休廃止をすると同時に,低コストで管理でき
排熱率:
るコンポスト施設を設置することによって得ら
540kcal/kg - 一般廃棄物 =2268KJ/kg
P0 : 群馬県の総人口
G (kJ):厨芥低位発熱量:
Pi (k) : 集約指数 k の時の地域メッシュ j の人口
𝑝𝑝! !
∙ 𝑃𝑃!
!
! 𝑝𝑝!
Pj : 地域メッシュ j の人口
れる費用便益効果および CO2 排出量削減効果の
比較を試みた.
𝑝𝑝! (𝑘𝑘) =
295.5KJ/kg=1000g×(1- 含水率 0.903)
1. 縮退に伴う「焼却炉→コンポスト」移行シナ
× 絶乾低位発熱量 (1.5KJ/g)3)
ロードサイド型縮退が可能であると考えられ
る都道府県を中心に検討するため,,群馬県お
よび隣接する栃木県佐野市,足利市のごみ処理
この場合,同じ人口でも集約度が高い場合
の厨芥処分にかかる CO2 排出量を,マルチエー
リオに関するデータ類の整備
ここで,補助燃料:Es(KJ) とおくと,
ジェントモデルによる資源循環シミュレー
Eg + Ee = Es + G の関係が成り立つため,補
ター ecoma 9) を用いて試算した.
助燃料によるエネルギー Es は
施設の推定稼働率について文献値 1) から算出し
た結果,全焼却炉が連続運転 300 日していると
Es=2031.75+2268-295.5
仮定した稼働率は,平均 63%を示している.今
=4004.25[KJ/kg- 含水厨芥 ]
後人口が小さくなっていく中で統廃合が進めら
5)
れていくものと考えられる一方で,広がって住
ここで,文献 より,補助燃料および厨芥
んでいるために,休廃止された焼却炉周辺の住
を焼却するのに必要な燃料用ごみを A 重油起
民のごみを代替の焼却炉へ運搬するコストが増
源とした場合,A 重油の発熱量は,39.1 MJ/
大する可能性が指摘される.この場合,その地
kg-A 重油なので,1kg の含水厨芥燃焼には,
域にコンポストを設置することで,焼却コスト
4.0MJ の補助燃料が必要である.従って,表 1
とそれにかかる CO2 排出量を削減することが縮
のような原単位の試算結果を得る.
表 1 群馬県のごみ処理統計からみる厨芥1kg( 含水状態 ) の焼
却処分に必要な補助燃料エネルギー原単位,補助燃料原単位
および CO2 排出原単位
項目
補助燃料原単位(A 重油)
0.1023 kg/kg
補助燃料原単位(A 重油)
0.1204 kilo liter/ kg
CO2 排出原単位(A 重油)
0.252 k g-CO2/kg
- 含水厨芥
- 含水厨芥
- 含水厨芥
- 含水厨芥
焼却炉で生活ゴミを焼却する場合と,コンポ
ンポスト移行シナリオに関する CO2 および
コスト試算
れる炭素源を放出することに関しては同じであ
文献 1,文献 および上節の原単位試算より,
るが,燃焼炉は,含有する水分を気化させなが
平成 20 年度の群馬県の厨芥量は 77,976 トンと
ら CO2 を放出して燃焼させる処理方法であるの
推定され,この処分のために補助燃料や燃料
に対して,コンポストは微生物の好気性反応を
用ごみから排出される CO2 排出量:19,650 ト
利用して炭素源を CO2 にまで分解して放出する
ン/年であると推定される.これをコンポス
ため,含まれる水分の気化熱に必要な燃料がい
ト化すると,ゼロからそれに近い値にまで削
らない.このため,水分の潜熱エネルギー分と
減されると考えられる.群馬県は一人あたり,
しての補助燃料だけ余分なエネルギーがかかる
8.26トン/年・人CO2を排出 7) しているので,9.8
044
表 2 ケーススタディの水準
3. 群馬県から排出される厨芥の焼却処分→コ
ストで分解する場合では,ごみにもともと含ま
単位
4004.25 kJ/kg
退プロセスを合理的に進める上で,重要である
と考えられる.
数値
補助燃料エネルギー原単位
項目
Case 1
人口集約指数
Normal,
コンポスト施設
なし
1.5,2.0,
Case 2
2.5,3.0
Normal,
Case1 の処理実績下位 5 施設
1.5,2.0,
を廃止し,人口最小メッシュ
2.5,3.0
30 箇所にコンポスト処理施
設を設置
この場合,同じ人口でも集約度が高い場合
の厨芥処分にかかる CO2 排出量を,マルチエー
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ジェントモデルによる資源循環シミュレー
が可能であるが,集約化を進めると,分散化
ター ecoma 9) を用いて試算した.検討したケー
させたコンポストにも収集メリットが下がっ
ススタディは表 2 の通りである.但し,ゴミ
てくると考えられるので,住民の満足度を下
のトラック輸送の CO2 排出原単位は 0.174kg-
げず,都市としての運営効率をあげるベスト
CO2/t.km とする 10). この結果,補助燃料にか
ミックスの検討が必要であると考えられる.
( 北垣 亮馬 )
かるエネルギーが,輸送にかかるエネルギー
よ り も 極 め て 大 き く, 輸 送 は 全 体 の % し か
0.43%占めないため,人口が集約した場合で
[ 参考文献 ]
も,厨芥焼却処理にかかる CO2 排出量は輸送
1) 環境省編:一般廃棄物処理実態調査結果・平
成 20 年度調査結果
の影響をほとんど受けない.つまり,ごみ焼
却施設を集約化しても輸送距離増大による環
境負荷増大の影響がほとんどないため,人件
費,操業効率などのメリットを考えると,集
約化すればするほど便益が向上すると言える.
また,Case2-normal では,現状に比べて 8.3%
の CO2 削減効果が見られた.ただし人口集約
化が進むにつれて,広域に分散したコンポス
ト施設で処分するメリットが小さくなるため,
削減効果はスプロールした都市状態ほど大き
いと考えられる.
5. まとめ
ロードサイド型縮退のインフラ面での効果
を検証するために,群馬県の厨芥処分のコン
ポスト化移行を行った場合,最大効果として
見込める効果は簡易試算結果として,年間コ
ストが最大で 5 億削減が可能.CO2 が最大で 2
万トン削減可能であると簡易試算された.但
し,コンポスト設備導入によるコストや CO2
がかかるともう少しこの数値は下回るものと
考えられる.ごみ焼却サービスの提供範囲を
狭めながらも,コンポスト型の低コスト・低
環境負荷の代替施設を設置することによって,
都市全体のコストと CO2 排出量を下げること
2) 群馬県編:群馬県バイオマス総合利活用マス
タープランの概要
3) 財団法人 エネルギーセンター編:工場群の排
熱実態調査研究要約集
4) 戸敷ほか:大都市における一般廃棄物を用い
た廃棄物発電の可能性の分析と評価,MACRO
REVIEW,Vol.20,No.1・2,pp.29-40,2007
5) 資源エネルギー庁編:エネルギー源別標準発
熱量表,2007
6) 群馬県編:群馬県循環型社会づくり推進計画(仮
称)
7) 群 馬 県 環 境 森 林 部 環 境 政 策 課 編: 県 内 の
二 酸 化 炭 素 排 出 推 計 量 と 森 林 整 備 面 積,
http://www.pref.gunma.jp/cts/PortalServlet;jsessionid
=3DEF0742F0014A33D8793B883014BB3C?DISPLAY_
ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_
ID=68898,2010/11/16 取得
8) 石油情報センター編:A重油価格情報,http://oilinfo.ieej.or.jp/price/price.html,2010 年 11 月 16 日 取
得
9) 藤本ほか:マルチエージェントシステムを応
用した資源循環シミュレーション手法による
コ ン ク リ ー ト 関 連 廃 棄 物 の 動 向 予 測, 日 本
LCA 学会誌,Vol.2,pp.222-228,2006
10) 国 土 交 通 省 資 料:http://www.mlit.go.jp/
seisakutokatsu/freight/H16youryouCO2.pdf
図 1 ケーススタディごとの CO2 排出量の比較
045
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Vol. 31_2013_03
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2. ロードサイド型コンパクトシティ実現のためのコスト試算
自治体が,居住地域の縮退を計画的に検討
そのレベルの行政官や人間がいる必要はある
ら,様々な仮定をおいた情報や複雑なモデル
する際に,居住民の自由意志に基づく転居を
が現状の日本のステークホルダーにそれは期
で精緻に候補地を決定するのではなく,現時
促進するための政策実行に成功したとしても,
待できないだろう.
点の都市形態から,将来そうなりたいと考え
縮退にかかるコストが計算できなければ効率
今,どこに居住民が移動するかを詳細に予
られる凡その既知の縮退後の都市形態に変化
的な縮退にはならない.また,コストを試算
測することは,多様な因子と個人の自由意志
するのにかかるコストと年限を簡易にケース
するために,空間経済モデルを援用すること
によるから予測困難であると保留しておくと
スタディできる試算モデルがあると有益であ
は不可能ではないが,自治体で活発に議論す
しても,都市経営の観点から,どこに縮退し
るはずである.
るためには,モデルの概念を行政担当者,政
て移住すべきか,あるいは現時点の移住傾向
そこで,本稿では,現在のわが国の縮退す
治家,都市計画に係わる人材が共有しなけれ
から,どこが将来の都市における活発地域に
べき都市の状態を前提におきながら,それを
ばならないはずであるが,1 章にて NEG モデル
なるか,その候補地域の凡その「アタリ」は
既知の市街 B 地域へ縮退させる場合にかかるコ
に基づき試算した石倉らのような広域的な比
経験的についているはずである.
ストと年限を,1 章で示されたよりも,少し小
較を除き,ステークホルダーが自分たちの住
そして,その候補地域は有限個であり,か
さいメソな空間スケール(1km ~数 10km の
む特定地域について,縮退がどうあるべきか,
つ規模がそれほど大きくないと考えられる.
スケール)で,かつ静的な観点から,述べる
を詳細に検討することは極めて困難であると
つまり,予想される全部の縮退候補地域につ
こととし,特に,RSCC への移行を想定した便
思われる.それは空間経済モデルの中味から
いて簡単なケーススタディをする程度である
益を試算する方法について述べる.
して到底困難であると思われる.本来ならば
ならばそれほど労力はかからないであろうか
2-1 試算モデルの構築
1. 仮定条件
道路周縁が最も転居に際して効率が良くなる.
があることが知られており,政策を打つ場合
(1) 地域への流出入,地域内転居の仮定
ただし,本当に高い便益が市街 B に認められる
には,将来的に効率化され充実するだろう市
のであるならば,市街 A の住民全体がここに
街 B 地域を予測して事前に選ばなければならな
個人の所得を確保できず,かつ生活コストも
移り住む動機を有する可能性もあるだろうし,
い.しかし,この集積と淘汰を予測すること
下げられない状態が生じてしまったと仮定す
また,全く異なる地域に高い便益が得られる
は極めて困難であるから,選ぶべき集積円弧
る.ここを「市街 A」と呼称すると,市街 A の
都市がある場合にはそちらに「流出」する場
の市街 B 地域の個数については,実務上,なる
周辺にはその地域よりも,個人の所得を確保
合もあるだろう.
べく妥当な個数でかつそれぞれの距離が遠く
今,過去に機能していた都市地域が衰退し,
し,かつ生活コストも下げられる地域が存在
本稿では,都市の縮退コストを簡易に試算
なるように選ぶしかない.ただし,そうはいっ
してくるものと考えられる.そうすると,個
するという目的から,域外への流出について
ても,これらの市街 B 地域は,それ自身の活性
人は資産を確保するために転居する動機が生
は年齢別人口比率から簡易に与えるものとし,
状態から,分布と個数が,通常は自明である
まれる.転居先はどこかわからないが,市街 A
また域外からの流入についてはゼロとみなす.
と思われる.また,今後,発展しそうもない
を原点とした極座標系において,同心円状に
そして,徐々に減りゆく残りの人口に対して,
地域に無理な市街 B 地を設定することは,よほ
現れるものであると想定できる.ここで,こ
結婚,出産,入学,就職,介護などを理由に
どの投資効果がない限りありえない.そこで,
の移転先となる地域を「市街 B」と呼称するこ
地域内転居が生まれるものとする.
市街 A の住民にとって,市街 B の集積円弧地域
の分布と個数は既知であり,かつ適切な分布
とにし,古い都市形態に住むあらゆる人の転
居にかかるコストと集積によるメリットを総
合的に考えると,市街 B は,この極座標系にお
いて市街 A の外側に同心円状に分布するような
(2) 市街 B の分布と発生に関する仮定
次に,集積円弧の市街 B の発生について仮定
を置く.
と個数に設置されている.このため,市街 A 居
住者にとって,どの市街 B 地に転居したいか,
あるいは転居するのが効率的かは,例えば勤
道路を中心軸とし,かつその中でも,さらに
域内の市街 A から市街 B の転居に伴う個人の
効率の良い一部の「円弧」に集積しやすいと
便益については,市街 B となる集積された円弧
務状況,通学状況,介護状況から自明である
仮定する(ここに主道路,副道路と入れたのは,
地域の分布と個数によって変わると考えられ
都市が生成する一例として入れてある).これ
るが,市街 A の衰退と市街 B の発生はおそらく
は実際の郊外住宅や郊外ロードサイドショッ
同時に進むことになるため,市街 B への転居を
市街 A 地域の中には,その公共性や移転コス
プの分布に頻繁に見られる傾向であるため仮
促進させる政策を検討する際には,市街 B の候
トの増大という観点から移転が困難な施設が
定として妥当であると考える.
補地の分布と個数は凡そ自明になっていると
ある.例えば,上下水道施設,寺社仏閣など
と仮定する.
(3) 重要な公共施設の非移転の仮定
そして,この集積しやすい市街 B となる円
考えられる.また,FKV モデルでも見られるよ
の文化財などがある.これらは決して移転し
弧が従前に特定できたとして,ここに移り住
うに,市街 B が発生する過程において,新旧と
ないと仮定する.
む可能性がある市街 A の住民は,円弧と市街 A
わず「市街地」というものは,集積と淘汰を繰
中心を結ぶ扇形に囲まれた部分か,接続する
り返しながらその分布を変化させていく傾向
046
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まず,人口密度関数 ρt については,地域メッ
(4) 効率的市街 A 地域の非移転の仮定
市街 A 地域の中には,例えば列車やバスの
ターミナル周辺地域,繁華街周辺地域など,
t+1 年目の人口密度分布関数について
𝜌𝜌!!! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔 + 1
シュ人口を使えば初期値は容易に得られる.
これは位置ベクトル x と年代 g の関数である.
但し
市街 A でありながら居住民の個人の所得を確保
次に,ある年 t に,市街 B への移転する人数
でき,かつ生活コストも上がらない効率化さ
分布 φt について,本来は所得や便益を詳細に
れている地域がごくわずかに残るものと考え
試算して転居を詳細に見るものであるが,行
られる.これらの地域に居住し勤務するいわ
政側から公共サービスの削減・停止と転居費
ゆる市街 A 中心部の職住近接地域については移
用や転居先住居の提供やローン優遇などの「ア
転をしなくてもよいはずである.この地域の
メとムチ」の政策を通じて,個人の自由意志
選定については,ターミナルや繁華街を中心
に基づきつつも,計画された転居人数を達成
に,都市計画用途地域と同様にきめておくだ
するものとして,所与であるとする.
Ω(𝑔𝑔) :域内転居の割合
Φ(𝑔𝑔) :域外流出の割合
とする.域内転居は通常はほとんどないは
本来は転居は世帯単位で行われるものである
る人数分布 ωt についても,年代別構成割合に
が,世代は年数を減るごとに変化するので,
よって係数を与えて行うものとする.
ここでは簡単のために転居を単に年齢の確率
また,上下水,道路,住居・施設密度関数
(1) 概要
𝜙𝜙! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔 = Φ(𝑔𝑔)𝜌𝜌! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔
価格改正・廃止などを通じて誘導を実現し,る.
また,ある年 t に時間によって域外に流出す
2. モデル
𝜔𝜔! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔 = Ω(𝑔𝑔)𝜌𝜌! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔
ずであるが,転居誘導政策と公共サービスの
けでよく,試算のケーススタディに応じて範
囲を調整するものとする.
= 𝜌𝜌! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔 − {𝜔𝜔! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔 + 𝜙𝜙! (𝑥𝑥, 𝑔𝑔)}
分布で表すものとする.
上記の説明に基づき,図 1 のように,市街 A
については,行政の保有する情報や人口密度
この結果,新市街地 y の t+1 年目の人口につ
から隣接都市の中間距離まで人口密度 ρ で広く
から重み付けするなどの推定に基づき得られ
いて,t 年目の x からの域内転出人数総数に対
居住する現在の都市形態に住む一部の住民が,
るものと仮定する.(実際,多くのシミュレー
して,均等分布しながら y に転入するものとす
弧長 L,市街 B 中心線 K の周りに幅 W の市街 B
ションではそのように与えることが多い)
る.(関数をいれてもいいがとりあえず均等分
布する)よって,
に転居することを考える.この際,非移転と
なる市街 A の効率的市街地域を一個与える.
(3) モデルの構成則
𝜌𝜌!!! 𝑦𝑦, 𝑔𝑔 + 1
①人口密度分布について
任意の転出が多い地域 x について,t 年後の
(2) 各種パラメータの入力について
図1の中の数値について説明する.
状態が決まっているとして t+1 年目の状態を記
これは,ある年 t の状態をあらわしている.
述する.
= 𝜌𝜌! 𝑦𝑦, 𝑔𝑔 +
!,!
𝜔𝜔! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔
𝑦𝑦
dk
旧市街地から転居する
道路 I までの距離
dS
最低限変えない
効率的市街地 A の半径
dm
隣接する別の市街地 A
との中点距離
最外周縁 M
市街地 A 中心線 K
弧長
L
市街地 B 幅
W
市街地 A
中心 O
人口密度関数ρt(x,g)
新市街移転人数密度関数φt(x, g)
域外流出人数密度関数ωt(x, g)
上水管密度関数 pt(x,water)
道路 I
下水管密度関数 pt(x,sewage)
道路 II
道路密度関数 pt(x,road)
図 1 地域内転居モデル
047
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② インフラ関係のコスト
表 1 各変数の初期値,境界条件入力のために用意するべき資料
t +1 年目の新市街 y の label(上水,下水,道
B!!! 𝑥𝑥, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙
路,住居建物施設)のインフラの投資コスト
It+1 (y,label) について
I!!! y, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 =
!, !!""
B!!! 𝑦𝑦, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙
𝐶𝐶!"#$! {𝑘𝑘!"#$! ∙ 𝜌𝜌!!! 𝑦𝑦, 𝑔𝑔!""
−!! (!, !"#$!)}
−𝑝𝑝! (𝑦𝑦, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙)}
Ǜ#
{*FOudoưª!!"#$!
𝐶𝐶!"#$! : 単位密度あたりの
label インフラ建築コスト
= F!!! 𝑦𝑦, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙
− O!!! y, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙
初期値からこのように求める.
!!"#$!
− O!!! x, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙
− I!!! y, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙
但し,一人あたりイン
フ ラ 密 度 k label は
7ßÂūE
6D5ü@G
!! (!, !"#$!)
=
!! !, !!""
= F!!! 𝑥𝑥, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙
となる.通常,転出が増える地域 x は B>0 と
なり,転入が増える地域 y はインフラ投資が増
えて B<0 となるが,B を地域全体で総和した∑
B については,徐々にマイナスからプラスに転
とする.
じてくることで地域の行政経営状態が改善す
t+1 年目の新市街 y の label のインフラ密度に
るという意味になる.ここで,B は,すべて人
口密度分布 ρ に依存して決定する.このことか
ついて
𝑝𝑝!!! 𝑦𝑦, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 = 𝑘𝑘!"#!" ∙ 𝜌𝜌!!! 𝑦𝑦, 𝑔𝑔!""
次に,t+1年目の label の旧・新市街の1年間の
供用コスト 𝑥𝑥, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 ,O!!! y, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 について
O!!! 𝑥𝑥, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 = 𝐾𝐾!"#$! (𝑝𝑝!!! (𝑥𝑥, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙))
O!!! y, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 = 𝐾𝐾!"#$! (𝑝𝑝!!! (𝑦𝑦, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙))
ら,Ω(g) あるいは,Φ(g) の入力によって ρ が決
定される.つまり,従前に与える Ω(g) あるい
は Φ(g) さえ与えれば,何年後にどのように変
化するのかが凡そに決定でき,転居と行政コ
ストの発生挙動をコントロールできる.
また,地域 x と地域 y のメッシュの位置と場
所であるが,図 1 にあるように,旧市街 x は,
隣接する別の旧市街との中間地域から算出さ
あたりの供用コスト関数.密度がゼロに近
れる.また,新市街地 y は弧長 L と幅 W から定
づくと急激にコストが下がる関数をあらかじ
義できるため,これらはケーススタディのパ
め与えるものとする.
ラメータとして利用する.
次に,t+1 年目の label の旧・新市街の 1 年間
要道路のネットワーク状態から凡その値が
の料金収F!!! 𝑥𝑥, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 ,F!!! y, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 について
現状に応じて決定されるとかんがえられるた
F!!! 𝑥𝑥, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 = 𝐻𝐻!"#$! ∙ 𝜌𝜌!!! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔!""
F!!! 𝑦𝑦, 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 = 𝐻𝐻!!"#$ ∙ 𝜌𝜌!!! 𝑦𝑦, 𝑔𝑔!""
め,ケーススタディの数も必要に応じて少な
くなると思われる.
以上より,ここまでに述べた変数や関数が
統計情報から既知であれば,域内移動におけ
る転居と行政コストが容易にできるものとな
但し,一人あたりインフラ密度:label イン
る.よってこれを調べれば良い.また,下記
フラの料金単価とする.ここで,t+1 年目の新・
に変数と入力方法についての凡その見通しを
旧市街 x,y の財務状態を Bt+1+1 とすると,
記す.
確率分布
20 40 80 年齢
図 2 年齢と転出確率関数
048
図 3 インフラ密度と供用コスト関数
変数
Ω 𝑔𝑔 , Φ(𝑔𝑔)
入力方法
あらかじめ年齢ごとの確率分布
関数として与える
𝜌𝜌! 𝑥𝑥, 𝑔𝑔 , 𝜌𝜌! 𝑦𝑦, 𝑔𝑔
0 年目の各地域メッシュデータよ
𝑝𝑝!
𝑝𝑝!
𝑝𝑝!
𝑝𝑝!
密度.行政データあるいは人口
𝑝𝑝!
𝑝𝑝!
𝑝𝑝!
𝑝𝑝!
𝑥𝑥, 𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤
𝑥𝑥, 𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠
𝑥𝑥, 𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟
𝑥𝑥, 𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏
𝑦𝑦, 𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤
𝑦𝑦, 𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠
𝑦𝑦, 𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟𝑟
𝑦𝑦, 𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏
𝐶𝐶!"#$%
𝐶𝐶!"#$%"
𝐶𝐶!"#$
𝐶𝐶!"#$%#&'!
𝐾𝐾!"#$%
𝐾𝐾!"#$%"
𝐾𝐾!"#$
𝐾𝐾!"#$%#&'
𝐻𝐻!"#$%
𝐻𝐻!"#$%"
𝐻𝐻!"#$
𝐻𝐻!"#$%#&'
り与える
上水,下水,道路,建物施設の
密度から与える.それぞれのデー
タは様々な精度ががあるが簡易
試算モデルであるから,ある程
度簡易なデータを入力する.
地域 x と同じ.
積 算 資 料 な ど か ら 上 水, 下 水,
道路,施設建設単価を設定する.
積算資料や料金表などから参照
にしてシグモイド関数のように
して供用コストを与える.
積算資料や料金表などから単価
を与える.状況によっては供用
コスト K から利益率を上乗せし
て算出することになるか,ある
いは料金表から H を簡易にもと
め,その後 K を設定することに
なるかもしれない.
( 北垣 亮馬 )
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2-2 モデルの実装とシナリオの検討
きない諸条件を反映し,また自治体の長期ビ
人口密度に達すると仮定しているため,既存
ロードサイド型コンパクトシティの計画案の
本節では,前節のモデルの条件を整理し,
ジョンやマスタープランなどの上位計画によ
市街地と縮退する市街地に関して人口増減率
設定条件から予算的な事業の実現可能性を議
る方針との整合を図ることが可能である.入
を指定する.ただし,縮退する市街地に関し
論できる計算シートを実装する.
力した計画案に基づく将来人口分布が②に表
ては既存市街地からの距離によって差異があ
具体的な手順としては,入力データとして
示され,計画事業期間の参考値である,新規
ると考えられるため,別に設定する基準の距
の人口分布と,変数として設定が可能な縮退
開発コストと負担が軽減される維持管理費と
離によって 2 段階の設定が可能である.これら
や集約先の想定人口密度,縮退や集約に伴う
が均衡する年数が⑥に出力される.
の項目もシナリオに応じて設定を変更する.
集約先の候補地を提案する.提案をもとに次
2. 入力データと変数設定項目
(4) 既存市街地からの距離に応じた設定
の入力データとして,マスタープランに該当
(1) 現状人口分布の入力
単位コストを与えることでシステムが縮退と
既存市街地からの距離は本シートによる縮
する縮退と集約先の配置を与えると,市街地
本シートの入力データは,人口分布の現況
が縮退することによって負担が軽減される各
である.人口は既存市街地の抽出,集約先の
入力データとしては,試算の対象とする地域
種の維持管理コストおよび集約に伴う新規開
提案,維持管理コストの算出に利用される.
の既存市街地からの距離および先述した人口
発コストが計算され,新規開発コストが,負
本システムは空間を南北および東西方向に分
増減率が変化する既存市街地からの距離を設
担が軽減された維持管理コストの何年分に相
割されたセルで表現するため,本稿では足利
定可能である.試算の対象とする地域は隣接
当するかを出力する.これは計画事業期間の
市周辺の 2005 年国勢調査の 4 次メッシュ集計
する他の都市までの距離に基づき 5km に設定
参考値とすることが可能である.
人口を入力データとして用いる ( 図 2).
する.これは他の都市までの距離の半分であ
計算シートは自治体関係者が利用する
場合でも操作性に優れたものとするため
退と集約先の提案における重要な要素である.
り,概ね都市域の半径に該当する.
(2) 人口密度の設定
MicrosoftExcel のワークシートを基本に実装し
人口密度に関する変数の設定は 3 種類であ
た.大半の計算はワークシート関数を利用し
る.第 1 に既存市街地抽出の基準となる人口密
縮退によって負担が軽減されるコストおよ
ており一部に Visual Basic for Application を用
度であり,これを上回る人口密度を持つセル
び集約によって必要な新規開発コストも変数
いた独自ワークシート関数を開発した.デー
は既存市街地とみなす.第 2 は縮退の基準とす
として設定する.これらはセルすなわち単位面
タ入力,各種変数設定,結果である事業期間
る人口密度であり,既存市街地以外でこれを
積あたり均一であるもの,人口密度によって
の計算値の出力は全て同一のワークシート上
下回る人口密度のセルは縮退させるべきセル
変化するものや既存市街地からの距離によっ
で行うため,各種シナリオを検討する際には,
として提案し,これ以上のセルは集約先の候
て変化するものが考えられる.本シートでは,
画面を見ながら柔軟な試行錯誤が可能である.
補として提案する.第 3 はロードサイド型コン
前節で列挙した項目の中から以下に挙げたも
パクトシティをはじめとする集約先の計画人
のを考慮する.
(5) 縮退および集約によるコスト
口密度である.シート後半のコスト計算にお
1. 計算シートの基本構成と操作手順
図 1 に計算シートの基本的な構成を示す.①
いては,集約先に指定された地域は計画人口
に現状の人口分布を入力し,⑤に維持管理費
密度に達するものと仮定する.これら人口密
や計画人口密度など後述する変数を設定する.
度の設定はシナリオに応じて変更する.
これらをもとに④に縮退および集約先の案が
提示される.利用者は実際の配置計画を検討
(6) 道路関連のコスト
初めに道路関連のコストについて設定する.
市街地を縮退する場合,当該地域内の道路お
よび当該地域と既存市街地とを連絡する道路
(3) 人口増減率の設定
の一部で維持管理が不要となり,この維持管
して,③に入力する.この段階で,地形など
人口密度と同様に,縮退事業期間中に想定
理コストが軽減される.他方,新しく集約先
の自然環境条件,道路網や鉄道路線などの交
される人口増減率も指定する.先述の通り集
として市街地を開発する場合には前述と逆に
通システム条件といったシートに直接入力で
約先の人口密度は入力データに関わらず計画
新たな維持管理コストが発生する.当該地域
図 1 縮退計算シートの構成
図 2 入力データとしての現状人口分布
049
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内の道路維持管理コストはセルあたり均一で
は同等として想定する.ただし,既存水道管
あると想定し,セルの面積,道路率,道路単
路網との連絡が不要になることによって軽減
本シートでは最初に入力データであるセル
位延長あたりの維持管理コストをもとに設定
される維持管理費の期待値は上記の 10% とす
ごとの人口をもとに既存市街地を抽出して縮
する.セルの面積は設定済みであり,道路率
る.これは当該連絡用管路が他の地域への連
退および集約先の提案を行う ( 図 3).設定さ
は 8% であると想定する.一般に整備された市
絡も担っていることが大半であり,特定の地
れた既存市街地抽出基準の人口密度をもとに,
街地では道路率は 20% を上回るものの,今回
域を縮退しても必ずしも連絡用管路を撤去で
これ以上のセルを抽出するほか,このセルに
議論する地域は郊外部でありセル全域が必ず
きるとは限らないことを反映させている.
隣接するセルのうち人口密度が既存市街地抽
しも宅地化してはいないこと,宅地化されて
いても都心部と比較して郊外部宅地は道路率
3. 縮退および集約先の提案
出基準の人口密度と縮退基準の人口密度との
(8) 公共サービス関連コスト
平均を上回るものも既存市街地に含めて抽出
が低い傾向にあること,Ai(2012) で農地や郊外
前項までに紹介したようなインフラ関連以
住宅地における道路率が 10% 未満であると報
外の公共サービスとして,学校や出張所の設
次に,既存市街地に含まれないセルについ
告されていることを踏まえた.道路単位延長
置,ごみ収集・処理などの費用が発生してい
ては最寄りの既存市街地セルまでの距離を算
あたりの維持管理コストは国土交通省道路局
る.学校や出張所などの施設については従前
出する.これらのセルについては,人口密度
および都市・地域整備局による「費用便益分
に再配置が行われ,すでに縮退予定の地域に
が縮退基準の人口密度以上であれば集約先候
析マニュアル(案)」に参考値が記載されており,
は立地していないと想定することとし,関連
補地 ( 図 3 中のセル P) として提案し,それ以外
このうち市道 48 万円 /km を採用する.実際に
コストの増減は 0 とする.ごみ収集・処理に関
の地域は縮退させるセルとして提案する.た
はセルの面積と道路率の積を道路幅員 (6m) で
しては住民 1 人あたりの原単位が約 12,000 円
だし,人口増減率が既存市街地からの距離に
除したものを地域内道路延長と想定する.一
~ 15,000 円であるものの空間的な住民の分布
よって異なると考えられるため,別に指定し
方,既存市街地と連絡する道路も一部は維持
が関連する運搬費は全体の 2 ~ 3 割を占めるに
た距離によって 2 分類する.図 3 中のセル C が
管理が不要となるものと考えられる.道路延
過ぎず,大半は処理費用であるため,本稿で
既存市街地近傍,O が遠方である.これはシー
長は既存市街地と当該地域との距離で与えら
は議論の対象外とした.人口増減に伴い当然
トからの提案であり,地理条件,交通ネット
れ,費用は「費用便益分析マニュアル ( 案 )」
ごみ発生量が変化し,その処理費用にも変化
ワーク,マスタープランなど上位計画との整
に示された県道 270 万円 /km を採用する.維持
が生ずるものと考えられるものの,居住地の
合性を加味して計画案を利用者側が入力する.
管理費用の差は道路幅員や交通量の差に起因
空間的分析に関連しない人口増減に伴う各種
入力された計画案をもとに既存市街地,縮
するものと考えられる.ただし,これらの道
変数 ( 住民税収入や医療費など ) は本稿では簡
退する市街地ごとに設定した人口増減率をも
路はさらに遠方の他の市街地や隣接都市への
単のため議論の対象としていないためである.
とに将来人口を計算する.計画案をもとに縮
連絡道路としての役割を果たしている可能性
もあるため,縮退地域対既存市街地における
実際に軽減される維持管理コストの期待値と
する ( 図 3 中のセル D).
退による維持管理費の軽減分を計算し,同時
(9) 集約先の市街地整備コスト
に集約のために新規に道路や水道などのイン
市街地を集約するために,集約先で新たな
フラを整備するための費用を計算する.イン
道路や水道の整備,区画整理などの費用負担
フラの整備は初期の一時的なものであり,対
が生ずる.すなわち,新たな道路の建設,宅
して維持管理費の削減分は毎年効果をもたら
地造成,水道管路の敷設など当該地域の整備
す.また,新規に整備したインフラに対して
において一時的に発生する費用である.また,
維持管理費が新たに発生する.ここで両者を
の管路の維持管理費およびそれらを既存の管
これまでに紹介した道路と水道の維持管理コ
比較することで縮退を開始して何年経過すれ
路網に接続させるための管路の維持管理費で
ストが新たに発生する.前者については区画
ば維持管理費の削減により市街地集約のため
ある.水道管は基本的には道路の地下に埋設
整理事業の事業費を参考に 2.5 億円 /ha と設定
の整備費用を捻出できるかを算出することが
されていると考えられるため,前項の道路延
した補注.しかし,この数値は各地域にどれほ
長をもとに管路長を算定する.なお,管路に
ど新規整備が必要かによって変動すると考え
は上水道,下水道,雨水管があり,本稿では
られるため,事業開始時点の人口密度と計画
このうち上水道と下水道の管路の維持管理費
人口密度とを比較した差分によって事業費を
が削減されると想定するため,前項の道路延
減額することとした.具体的には事業開始時
長を 2 倍したものを管路長として用いる.管路
点で計画人口密度の 1/2 の人口密度を有する地
長あたりの維持管理費は厚生労働省「水道事
域の事業費は上記数値の 1/2 とし,3/4 の人口
業の費用対効果分析マニュアル」における老
密度を有していれば事業費は 1/4 とする.既存
朽管の破損事故に伴う補修・復旧費,漏水調
市街地からの距離に応じて新規開発コストに
査等の費用として記載されている 150 万円 /km
変化を持たせられるように本シートは設定さ
を用いる.これは老朽管を用いることにより
れているものの,新規開発コストは一過性の
発生する維持管理費であるため集約先で新規
ものであり,その影響は事業開始時点の人口
に整備された水道管については維持管理費を
密度による影響と比較すれば軽微であると考
計上しない.水道に関しては当該地域内およ
えられるため,本稿での試算では無視した.
しては上記で算出された値の 10% とする.
(7) 水道関連のコスト
水道関係のコストについては,当該地域内
び既存水道管路網との連絡部分の維持管理費
050
図 3 計算シートによる提示案
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でき,事業期間を設定することが可能となる.
図るシナリオである.既存市街地と連絡する
の総人口が大きく増えることは想定されない
事業期間が過度に長い結果になってしまう場
道路沿いにも市街地の集約を図ることで既存
ため,現状で人口密度が比較的低く,交通利
合,縮退させるセルが不足しているか,整備
市街地と連坦した市街地が形成される.計算
便性の低い地域については既存市街地に含ま
するセルが過多なことが要因であると考えら
シートによる縮退および集約先の提案を鑑み
れていても縮退させるように設定した.
れるため,計画案を再検討する必要がある.
ながら既存市街地と効果的に連坦させること
推定結果では人口は約 2 万人減少し,縮退の
Y  C dev Cclose Copen 
ができる沿道を集約先の候補として計画する.
ための新規整備による費用負担を維持管理費
このシナリオでは国道 50 号沿道の一部と,
の軽減で回収できるまで 50 年を要する.これ
ここで Y : 事業期間 ( 年 ),Cdev : 新規開発イン
50 号と既存市街地を結ぶ複数の道路沿道を中
は既存市街地を活用した集約先であっても新
フラ整備コスト ( 円 ),Cclose : 縮退による年間維
心に集約先を指定した.結果として足利市駅
規整備コストは他の地域と同等であると計算
持管理費削減 ( 円 / 年 ),Copen : 新規開発による
と国道 50 号に囲まれた領域に既存の新市街が
している影響があると考えられる.すでに一
年間維持管理費増加 ( 円 / 年 ) である.
拡張された市街地が形成された.推定結果で
定の基盤整備や人口集約が図られている地域
は人口は約 2 万 3 千人減り,縮退のための新規
での重点的な整備に必要なコスト計算につい
整備による費用負担を維持管理費の軽減で回
ては再考の余地がある.
以下では実際に計算シートを用いて栃木県
足利市でのケーススタディを行う.
(相 尚寿)
収できるまで 39 年を要する.
[ 参考文献 ]
(1) シナリオ① 広域ロードサイド型
第 1 のシナリオは広域ロードサイド型であ
(3) シナリオ③ 既存市街地再興併用型
AI, Hisatoshi(2012), Land use pattern
categorization and population analysis of local
districts in Tokyo metropolitan area, paper
presented at the International Symposium on
Urban Planning 2012, Taipei, TAIWAN.
る.バイパス区間を中心とした幹線道路沿道
第 3 のシナリオは既存市街地再興併用型であ
に比較的長距離にわたって市街地集約を図る
る.これまでのシナリオでは既存市街地とし
シナリオである.幹線道路は既存市街地の外
て抽出されたセルは計画案でも既存市街地と
縁を通過しているため,多額の新規開発コス
して維持され,人口密度の増減は制御,誘導
トが必要である反面,比較的人口密度が高い
しないこととしていた.( 注:他のシナリオで
既存市街地も縮退の対象地にするため維持管
は自然減として 1 割減を見込む ) しかし,本シ
理費の削減効果も大きい.表 1 に将来人口予測
ナリオでは既存市街地においても空地の有効
と試算結果を示す.D は維持する既存市街地,
活用や高度利用を進め,一部の地域での人口
厚生労働省 (2007)「水道事業の費用対効果分析
マ ニ ュ ア ル 」 第 IV 編 算 定 事 例,http://www.
mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/
hourei/jimuren/jimuren.html
C は縮退する地域のうち既存市街地に近接した
密度を高め活性化を促す.ロードサイド型コ
地域,O は縮退する地域で既存市街地から遠隔
ンパクトシティの議論とはやや異なるものの,
新潟市環境部 (2012)「平成 23 年度版清掃事業概要」
の地域,R は集約先の地域である.X は隣接都
歴史性のある既存市街地の再興を図りつつ,
市など分析の対象外とするセルを表す.
郊外部に拡散した人口を既存市街地と限定さ
推定結果では人口は約 2 万 5 千人減り,縮退
のための新規整備による費用負担を維持管理
費の軽減で回収できるまで 44 年を要する.
(2) シナリオ ② 新旧市街連坦型
れた集約先候補地に誘導する政策は十分に検
討に値すると考えられる.
このシナリオでは足利市駅と国道 50 号とに
国土交通省 (2003)「費用便益分析マニュアル ( 案 )」
柏市環境部(2010)
「平成21年度版柏市清掃事業概要」
[ 補注 ]
鉄道新線つくばエクスプレス沿線における周辺
市街地との一体的な住宅地および都市基盤整備を
行っている千葉県流山区画整理事務所が所管する 2
囲まれた比較的新しい市街地では道路基盤が
事業を参照した.これらの事業計画の概要を参照
整備されていることに着目し,この地域内の
し,支出額のうち調査費,事務費,その他を除いた
第 2 のシナリオは新旧市街連坦型である.バ
既存市街地でも人口の集約を図る.この過程
イパス区間やバイパスと既存市街地を連絡す
で既存市街地でも人口密度が最大で 2 倍程度に
る道路を中心に幹線道路沿道で市街地集約を
上昇する地域が存在する.他方,地域全体で
額を事業対象地面積で除すと約 2.5 億円 /ha となる.
( 参 考 URL: http://www.pref.chiba.lg.jp/cs-nagare-k/
jigyoukeikakugaiyou/jigyoukeikakugaiyou.html)
表 1 シナリオ別の将来人口分布の比較
シナリオ①広域ロードサイド型
人口:約 25,000 人減
年数:44 年
シナリオ②新旧市街地連坦型
人口:約 23,000 人減 年数:39 年
シナリオ③既存市街地再興併用型
人口:約 20,000 人減 年数:50 年
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まとめ:ロードサイド型コンパクトシティの生活像
本冊子のまとめとして,ロードサイド型コ
利用する.そこでスタッフと話をしたり,
ンパクトシティにおける生活がどのようなも
本を読んだり,併設のデイサービスに来て
• 模擬店は準備が少し大変だが,他の場所か
のになるのか,世代別にイメージしてみたい.
いる近所のおばあちゃんの顔を見ることも
ら越してきた新しいお父さんやお母さんは
ある.小腹が空いたら買い食いするのが楽
この仕事をきっかけに地元の人たちと仲良
しみなようで,子供も家に一人で待ってい
くなる.最近はおやじの会の活動も活発で,
るよりは楽しいようだ.
力仕事やバーベキュー系はお父さんの仕事.
小学生以下の子供とその親の生活
(平日)
• 沿道居住区内の幼稚園,小学校に毎朝徒歩
で通園・通学している.なにしろ家から近
いので体調が悪いとか,地震があったとか,
ておしゃれするのが恒例.
そのおかげで近所にお父さんの知り合いが
(週末)
増えてきた.
• 買い物はバスで近隣生活圏内のスーパーま
• 地元農家の即売コーナーもあり,顔が見え
何かあっても安心なのが何よりもいい.
で出かけてまとめ買い.帰りは重い荷物を
る安心感が好評ですぐに売り切れとなる.
• 降園後や放課後は,沿道居住区外縁の公園
持たずに,バス停プラスまでの配送サービ
即売会を常設化してほしいとの声が多く,
でのびのびと遊ぶか,お母さんの買い物に
スを使う.バス停プラスまで取りに行くの
バス停プラスへの出店が検討されている.
つきあいがてら,バス停プラスのそばの遊
はお父さんの仕事.生鮮品だけは心配なの
具のある広場で遊ぶ.広場かお店の玩具コー
で,手持ちで帰る.ネットスーパーでの注
ナーにはたいがい顔見知りの子が誰かしら
文も楽だが,外食もしたいし,子供がお店
いるので楽しい.
で本や文具,おもちゃや洋服を見たいとい
• 習い事は,習字やピアノなら沿道居住区内
うので,あえて出かける.
中学生高校生の生活
(平日)
• バスに乗って通学している.朝はバスの中
で友達としゃべりながら行くのが日々の楽
に先生がいるので歩いて通える.プール,
• 季節がいいと近所の家族と少し歩いて公園
バレエやダンス等は近隣生活圏のショッピ
まで出かける.アウトドアランチが気持ち
しみ.放課後,部活のない日は近隣生活圏
の商業拠点のファーストフードで友達と
ングセンターに併設されているのでそこま
いい.子供は走り回ったりサッカーしたり
しゃべったり,本屋で立ち読みをする.試
でバスで通っている.通園のバスは専用で
でたいてい汗だくになっている.
験前にはグループで試験勉強する.中学生
はなく普通のバスで特定の時間が指定され
• 年に1,2回東京ディズニーランドに行くの
はバス停プラスの共有スペースで勉強する
ている.バス停プラスまで親に送ってもら
が楽しみ.前から維持している車がフルに
子が多いけれど,高校生は家から少し離れ
い,友達と一緒に行く.顔なじみのバスの
活躍するのはこのときくらい.今度の車検
運転手が乗車を確認してくれる.降車停留
が来たら,もっと小さい車か,パーソナル
• 高校生のアルバイトは近隣生活圏のファー
所には習い事先のスタッフが待っていて,
電気自動車にして,遠出用はレンタカーに
ストフードや店員が多いけれど,沿道居住
引き取ると親の携帯に到着確認のメールが
移行しようかと思っている.
区のバス停プラスのサポートスタッフは結
届くようになっている.帰りは同じように
出発メールが届き,バスの位置はネットで
た場所を好むようだ.
構条件がいい.スーパーから配送されて来
(特別な日)
た商品を注文した高齢者のお宅まで届けた
把握できる.どうしても迎えに行けないと
• 夏祭りには都会のようにテキ屋のおじさん
り,親の帰りが遅くなった小学生を預かっ
きはバス停プラスのスタッフに電話をする
は来ない代わりに,地区内で企画した模擬
て相手をしたり.時には福祉センターのお
と,一時預かってくれるので万全.
店が出る.子供のニーズを的確に把握して
手伝いもする.家から近くて知っている人
• 幼稚園・学校に行っている間に親は仕事や
いるので毎年行列の出る賑わいで,他の沿
ばかりなので,お手伝い気分でできるうえ,
買い物に行く.遅くなってしまうときには
道居住区から噂を聞いて遠征してくる子供
地区内の人の役に立っている実感があって
バス停プラスの子供一時預かりサービスを
もいる.特に女の子はこのときに浴衣を着
やりがいがある.
052
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• 塾は近隣生活圏内にバスで通っている.塾
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よかったというので買ってみたら,普段使
子がいつの間にかお姉ちゃんになっていて,
終わりは 21 時すぎだけれど,バスに乗って
いはこれで十分だった,ただ大型トラック
福祉センターのスタッフとして行き帰りの
帰るので親の迎えは家のそばのバス停プラ
の多い国道を走るのはちょっと怖いので,
お世話をしてくれたのはちょっと嬉しかっ
スまで.
近隣生活圏のスーパーより遠くに行くこと
た.
はない.
(休日)
• 月に一度くらいは友達ともっと大きな
• 遠くのアウトレットモールや大きなショッ
ピングセンターには普通は車で行くけれど,
まとめ
このように物語的に考えてみると,生活体
ショッピングモールに行って服を見たり,
休日の午後は駐車場が混んで空き待ちで苦
験の豊かさとしては,沿道生活圏の範囲内で
フードコートでなんとなく時間を過ごす.
労する時間がもったいないので,出足が遅
行われる活動量を増やし,範囲外への拡散を
行きはバスを乗り継いで行く.行き帰り自
れたときには思い切ってバスで行く.食事
防ぐこと,かつそうした活動が一連のまとまっ
転車でがんばっていくことが多い.幹線道
やお茶をするとバスの割引券をもらえるの
た場で行われ,その場が世代を超えて共有さ
で,時間調整にはちょうどよい.
れる仕掛けをつくることが重要だと考えられ
路沿いの歩道を走ると結構早い(本当は歩
道は自転車が走っていけないことになって
• 体力維持のために,クロスバイクを買って
る.また,交通問題としては,住民のトリッ
いるが,歩行者が全然いないので).天気が
近場の移動はこれで済ませている.天気が
プとしてはかなりの割合を占めると考えられ
悪いと親に車で送ってもらうか,バス代を
よければ川沿いを走ったり,ひばりのさえ
る通勤(を含む)トリップをどうやって公共
もらって来ることが多い.
ずりを聞きながら田畑を走ったり,郊外の
交通にシフトさせるかが課題となることが浮
よさを満喫している.
かび上がってくる.この点はここまでの研究
では十分に解けていないが,企業の立地など,
子供に手がかからなくなった親世代や単身者
の生活
(平日)
高齢者(要介護者等)の生活
• 単身で住んでいる.心臓に持病があるので
• 勤務先は工業団地で近隣生活圏のバスルー
心配しながら暮らしているが,家に閉じこ
トから外れているため軽自動車で通ってい
もっているのもよくないと思って,できる
る.仕事帰りに買い物するパターンも多い
だけ外に出るようにしている.バス停プラ
ので,車は手放しにくい.でも同僚に1人
スまで行って,福祉センターのスタッフと
乗りパーソナル電気自動車にする人が増え
挨拶して,お店を覗いて一人分の食材を買っ
てきた.
て,調子がよければ水路沿いを一周して帰っ
• ほしいものが決まっているときは,たいが
いネットショッピングで済ませる.宅配便
地域の雇用のありようによって条件が変わっ
てくると考えられるため,今後引き続き検討
していきたい.
(福井 恒明)
てくるのが日課である.小学校帰りの子供
たちとすれ違うと賑やかでいい.
はバス停プラス留めにすると割引になるの
• 昨年脳卒中で倒れて,しばらく入院してい
で,重いもの以外は取りに行くことにして
た.病院でのリハビリにひと段落ついたの
いる.
で,現在は家でのリハビリに取り組んでい
る.外を歩くとよい,と医者に言われたので,
(休日)
うちの近くの水路沿いの緑道をゆっくり散
• 休日の買い物は駐車場が混むのがいやなの
歩している.かかりつけ医がバス停プラス
で,車では出かけずにできるだけ沿道居住
のそばに開業しているので,週に一度はそ
区の店で済ませている.
こまで歩く.体調が不安なときや天気が悪
• 自転車で少し走ると自然の中で風を切って
いときは,バス停プラスの福祉施設のサポー
走れるのが気持ちいい.パートナーと一緒
トに電話をして,医者までの送り迎えをお
に季節の移り変わりを見つけて,ブログに
願いすることもある.
アップしている.ただ,日が暮れるとまち
なか以外は真っ暗になるので怖い.
• 自分の趣味にあった店は近隣生活圏にもな
• 前は週に2回,バス送迎でデイケアセンター
に通っていたが,息子世帯と共にここに引っ
越してきてからは,100m ほど先のバス停そ
いので,遠出をしなければならない.とは
ばの福祉センターまで通っている.はじめ
言っても月に1度くらいなので,レンタカー
は息子世帯のミニバンで送ってもらってい
やカーシェアの方が割安感があると考えて
たが,最近出た2人乗りのパーソナル自動
いるところ.
車に乗せていってもらうようになった.前
は年寄りばかりのバスに乗るのが恥ずかし
リタイアした世代(健常者)の生活
かったけれど,今はそんなこともなくてい
• 車は,遠出をするときやいざというときに
い.福祉センターはバス停に近いので,老
は使うと思って維持している.友人が2人
人だけでなく子供たちやいろいろな人が通
乗りのパーソナル電気自動車に乗り換えて
る.小さい頃世話をしてあげた近所の女の
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おわりに
グローバル COE プログラム「都市空間の持続再生学の展開」の拠点活動は,社会基盤学,建築学,
都市工学の3専攻の「融合」を図ることが,そのミッションのひとつである.
では,融合とは何をもって達成されるのだろうか.具体的な場所における課題に対し,それぞ
れの専門分野の知見を持ち寄って解決を図る,というようなフィールドスタディは,総合的な視
点による問題解決ではあるが,融合という概念とは少し違うのではないか.そんな疑問をずっと
持っていた.
本拠点では研究活動の幹事役として,30 歳代前半を中心とした若手研究者を特任教員として雇
用してきた.専門の異なる 10 名あまりの特任教員は,それぞれの研究部会等で研究活動を進める
と同時に,次第にチームとしてのつながりを見せるようになってきた.拠点リーダーの藤野陽三
教授はその雰囲気を察知してか「特任教員の共同研究で外部資金を取れるといいな」とつぶやいた.
それに呼応する形で,当時 cSUR に常駐していたメンバーを中心に生まれたのがロードサイド型
コンパクトシティというアイデアである.このキーワードを発案したのは社会情報マネジメント
(C)部会を担当していた金森亮さんだった.批判されがちなロードサイドを逆手に取って,人口
減少時代における効率の良い郊外の姿を考えよう,というのは,わかりやすいコンセプトだった
が,そこへのアプローチを容易に構想できる分野とそうでない分野があり,かなりの温度差があっ
たことを覚えている.特にこれまで郊外やロードサイドを積極的に評価してこなかった,私を含
む計画系分野(拠点リーダーはこの分野を「ムード系」と命名した)のメンバーにとっては,こ
れまでの発想や着眼がロードサイドでは使いにくいことから,戸惑いを禁じ得なかった.しかし,
幸運にも財団法人鹿島学術振興財団の研究助成に採択されたことで,本腰をいれて取り組む状況
が生まれる.
鹿島学術振興財団の研究助成をいただいたことで,フィールドとして選んだ北関東地域への現地
調査・ヒアリング合宿や,縮退の最先端とも言える北海道夕張市へのヒアリング,合宿でのワーク
ショップ的コンセプト検討など,メンバーは多くの時間を共有した.これは大変貴重な時間だった.
時には対立しながら,妥協のない真剣な議論が繰り広げられた.ここで行われたのは,自らの
専門分野における思考の存立基盤を問い,相手の分野のそれを問いかけながら,両者の間に存在
する溝を注意深く観察し,両者合意の上で埋めていく作業だった.これにより自らの専門分野に
おける暗黙の前提や,普段は捨象している部分に改めて意識を向け,また,他の分野に対して同
様のことを意識していくことができた.
気がついてしまえば当たり前のことである.だがそれを丁寧に実感を得られる形で獲得し,自
らの専門性への取り組み姿勢を問うていくことで本質的な「融合」に近づけるのではないか.ひ
とり合点がいっているだけではだめで,相手がいなければ融合はできない.
今回はそれが可能になった理由は,特任教員のグループが愚直さが許される若手世代で構成さ
れていたこと,分野や組織を負わないひとりの研究者として主体的に振る舞える状況だったこと,
そして率直に議論できる人間関係がすでに築かれていたことであると考えている.
本号は,グローバル COE プログラムの活動期間が残りわずかとなったことから,現時点での成
果をまとめたものである.多くの時間を費やしたものの,ひとつの新しい都市モデルを十分に検
討することは難しく,現時点では中間報告的な内容であることは否めない.継続して検討を進め
る場を持てることを期待している.
最後に,ヒアリングにご協力くださった太田市・桐生市の皆様,夕張市役所の皆様,また研究
助成を頂いた財団法人鹿島学術振興財団に心より感謝申し上げます.
2013 年 3 月
福井 恒明
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参加メンバー
相 尚寿 Ai, Hisatoshi
栢木 まどか Kayanoki, Madoka
首都大学東京都市環境学部自然・文化ツーリズム
コース助教.1982 年生まれ.cSUR 特任助教を経て
2012 年より現職.博士 ( 工学 ).対象地や周辺の各
種地理情報および統計情報を収集し,現状把握の
ための基礎分析,計画規模の検討,将来計画提案
ではバス計画を中心に担当.
東京大学都市持続再生研究センター特任助教 . 1975
年生まれ. 博士 ( 工学 ).専門は日本・東アジア
近代建築史,都市史.RSCC を歴史分野から考える
ということで,ロードサイドに広がる近世宿場町
について執筆.
阿部 大輔 Abe, Daisuke
川本 陽一 Kawamoto, Yoichi
龍谷大学政策学部准教授 . 1975 年生まれ . 博士(工
学). cSUR 特任助教を経て 2011 年より現職.専門
は都市計画・都市デザイン.都市計画・都市デザ
インの視点から,コンパクトシティ論の整理を担
当した.
九州大学大学院芸術工学研究院助教.1979 年生ま
れ.cSUR特任助教を経て2012年より現職.博士(工
学 ).建築・都市環境工学を専門とする立場から,
都市の評価指標の提案を担当.
千々和 伸浩 Chijiwa, Nobuhiro
北垣 亮馬 Kitagaki, Ryoma
東京大学都市持続再生研究センター特任助教.
1979 生まれ.博士 ( 工学 ).
コンクリート工学の視点から,次世代社会を支え
るインフラ整備やその維持管理の在り方の分析を
担当.
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻講師.1978
年生まれ.博士 ( 工学 ).cSUR 特任助教を経て 2011
年より現職.専門は建築材料学.都市空間の縮退
と分布変化を見るため,材料における反応で用い
られる空間占有に関する考え方を援用して都市空
間の縮退に関する簡易モデルを構築,提案.
福井 恒明 Fukui, Tsuneaki
古賀 誉章 Koga, Takaaki
法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科
准教授.1970 年生まれ.cSUR 特任准教授を経て
2012 年より現職.博士(工学).都市や公共施設の
景観・デザインの視点からロードサイド型コンパ
クトシティ研究全体のディレクションととりまと
めを担当.
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教.
1968 年 生 ま れ. 博 士 ( 工 学 ). 一 級 建 築 士.cSUR
特専門分野は,建築環境心理学,視環境,光環境,
高齢者施設計画.総合的な視点から,RSCC の論理
的合理性・基本コンセプトを担当.
初田 香成 Hatuda, Kosei
中村 航 Nakamura, Ko
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教 . 1977
年 生 ま れ. 博 士 ( 工 学 ). cSUR 特 任 助 教 を 経 て
2012 年より現職.専門は都市史,建築史.ムード
系として中心市街地と郊外,対象地の歴史的経緯
を担当.
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教 . 1978
年生まれ.博士 ( 建築学 ).一級建築士. cSUR 特任
助教を経て 2012 年より現職).居住区をロードサ
イドに集約しながらも,快適な生活を可能にする
空間的アイディアの提案部分を担当 .
石倉 智樹 Ishikura, Tomoki
朴 乃仙 Park, Naesun
首都大学東京都市環境学部准教授 .1974 年生まれ.
博士 ( 情報科学 ).cSUR 特任講師,同特任准教授を
経て 2011 年より現職.専門は土木計画学.交通利
便性と経済活動の相互作用によって都市機能が集
積・分散するメカニズムをモデル化し,RSCC 候補
となりうる地域の経済集積力評価を担当.
韓国海洋科学技術院国際協力室室長.1974 年生ま
れ.cSUR 特任助教を経て2012年より現職.博士(工
学 ).専門分野は都市・地域計画で,特にアーバン・
フォームと公共交通サービスが得意.RSCC のコン
セプト形成,RSCC の公共交通を含めた都市サービ
ス,アーバン・フォームを検討.
金森 亮 Kanamori, Ryo
酒井 宏治 Sakai, Hiroshi
名古屋工業大学大学院特任准教授.1975 年生まれ.
博士 ( 工学 ). cSUR 特任助教を経て 2011 年より現
職. 専門分野は交通計画学.人口減少・少子高齢
化,情報化時代における人々の活動・移動状況を
理論的モデルでの評価や時には楽しく妄想しなが
ら,持続可能な都市像の必要性を整理.
東 京 大 学 都 市 持 続 再 生 研 究 セ ン タ ー 特 任 助 教.
1981 年生まれ. 博士 ( 工学 ).
上下水道を中心とした水環境,水処理技術の視点
から,持続可能な上下水道に関する議論の整理を
担当
片桐 由希子 Katagiri, Yukiko
田村 順子 Tamura, Junko
東 京 大 学 都 市 持 続 再 生 研 究 セ ン タ ー 特 任 助 教.
1977年生まれ.博士(学術).緑地計画・ランドスケー
プデザインの視点からロードサイドコンパクトシ
ティの環境基盤の可能性や計画手法を検討,SUR の
編集とりまとめを担当.
東 京 大 学 都 市 持 続 再 生 研 究 セ ン タ ー 特 任 助 教.
1977 年生まれ. 博士 ( 工学 ).都市の様相を理解す
るため,アーバン・シミュレーションの手法を用
いた RSCC のデザイン,コミュニティの持続可能性
を考慮した計画手法の提案を担当.
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S_31
SUR Vol. 31_2013_03
発行日
2013年3月29日
発行
東京大学・都市持続再生研究センター
[email protected]
企画
著者
編集
©2013 Center for Sustainable Urban Regeneration, The University of Tokyo
都市持続再生研究センター
相 尚寿 阿部大輔 石倉智樹 片桐由希子 栢木まどか 川本陽一 金森 亮 北垣亮馬 古賀誉章 酒井宏治 田村順子 千々和伸浩 中村 航 初田香成 福井恒明
片桐由希子
デザイン 新目 忍
印刷
056
PRINT BANK, Inc.
Center for Sustainable Urban Regeneration
The University of Tokyo