様式 試験研究成果普及情報 部門 資源管理・増養殖 対象 普及・研究 課題名:カイヤドリウミグモの生態解明とアサリの新たな生産対策 [要約]東京湾の貝類漁場では、寄生性節足動物カイヤドリウミグモ( 以降ウミグモ) の被害でアサリの放流がほぼ全面的に停止している。そこで、アサリの放流生産を再開 するため、ウミグモの少ない場所と時期を予測してアサリを放流する手法を開発した。 フリーキーワード 実施機関名 アサリ、カイヤドリウミグモ、病虫害対策、放流 主 査 協力機関 実施期間 水産総合研究センター・東京湾漁業研究所 (独)水産総合研究センター、東京大学、京都大学 2010 年 度 ~ 2012 年 度 [目的及び背景] ア サ リ を 中 心 と し た 貝 類 漁 業 は ノ リ 養 殖 と 並 ん で 東 京 湾 の 基 幹 漁 業 で あ る 。し か し 、木 更 津 ・ 富 津 地 区 で は 平 成 19 年 度 以 降 ウ ミ グ モ ( 写 真 1) に よ る ア サ リ の 大 量 死 亡 が 発 生 して生産が激減した。このため、関係水産業界からはアサリ生産の再開につながるウミ グモ対策の手法開発が強く望まれていた。そこで、ウミグモが寄生していないアサリ稚 貝の移殖放流(導入)によってウミグモの寄生被害を回避あるいは軽減しつつアサリ生 産を行う手法を開発することを目的として研究を実施した。 [成果内容] 1 新しい研究手法の開発 ・蛍光色素を用いた微小なウミグモ幼生の鋭敏で簡便な検出法を開発した 。 ・網袋を用いたアサリの現場飼育実験方法を開発した。 ・こ れ ま で 不 明 だ っ た ウ ミ グ モ 幼 生 の 発 育 段 階 区 分 を 明 確 化 し 、さ ら に 実 用 的 な 区 分 に 簡素化した。 ・以 上 を 現 場 調 査 に 応 用 し 、寄 生 が 発 生 し や す い 場 所 と 季 節 な ど を 信 頼 性 高 く 判 定 し た 。 2 ウミグモの寄生が発生しやすい場所と季節の判定 ・ 東 京 湾 で は 、ウ ミ グ モ は ふ 化 直 後 に ア サ リ に 寄 生 し 、寄 生 生 活 を し た 幼 生 は 成 体 と な ってアサリの外に出て産卵するというウミグモの生活史が明らかになった。 ・ ウ ミ グ モ の 寄 生 開 始 時 期 が 5~ 7 月 と 10~ 11 月 の 年 2 回 あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 こ れ ら の う ち 5~ 7 月 に 寄 生 し た ウ ミ グ モ は 6~ 7 月 に ア サ リ の 死 亡 を も た ら す こ と 、 10~ 11 月 に 寄 生 し た ウ ミ グ モ は 翌 年 5 月 以 降 の 次 の 世 代 の 寄 生 を も た ら す こ と が 判 明 した。 3 アサリの新しい放流生産方法の開発 ・ア サ リ の 実 証 放 流 実 験 に よ っ て 、寄 生 が 多 い 場 所 に 寄 生 盛 期 前 に 放 流 し た ア サ リ は 生 き 残 り が 約 20% だ っ た の に 対 し 、寄 生 が 少 な い 場 所 に 寄 生 盛 期 後 に 放 流 し た ア サ リ は 約 50% の 生 き 残 り を 維 持 す る こ と が で き た ( 図 1)。 ・ 以 上 の 結 果 か ら 、ア サ リ の 新 し い 生 産 方 法 と し て 、本 研 究 で 開 発 し た 方 法 で 現 場 調 査 を 行 い 、寄 生 の 発 生 し に く い 時 期 と 場 所 を 特 定 し た 上 で ア サ リ を 放 流 生 産 す る 手 順 を 提示した。 [留意事項] ウ ミ グ モ の 寄 生 動 態 は 年 変 動 が あ り 、海 域 に よ っ て も 異 な る 。ア サ リ の 放 流 に 当 た っ て は、あらかじめウミグモの寄生実態を把握しておくことが重要である。 [普及対象地域] 三番瀬から富津までの東京湾のアサリ漁業が行われている海域 [行政上の措置] [普及状況] 関 係 漁 業 協 同 組 合 と 系 統 団 体 を 対 象 に し た 会 議 を 定 期 的 に 開 催 し 、本 成 果 を も と に ア サ リの漁場管理および放流生産について情報提供と技術指導を行った。これを受けて多く の漁協ではウミグモ成体の駆除作業が実施され、一部の漁協ではアサリの放流が行われ た。 [成果の概要] 放流 放流 100 ア サ リ の 生 き 残 り ( % ) 1 cm ウミグモの少ない 場所(予測) 80 58% 60 40 の 多 発 期 20 カイヤドリウミグモ ウ ミ グ モ 23% 0 5月 6 写真1 ウミグモの 多い場所 図1 7 8 9 10 11 12 1 2 3 ウミグモの多い場所と少ない場所 に放流したアサリの生き残りの比較 [発表及び関連文献] 平 成 22 ~ 24 年 度 新 た な 農 林 水 産 政 策 を 推 進 す る 実 用 技 術 開 発 事 業 研 究 報 告 書 課題 名 :「 カ イ ヤ ド リ ウ ミ グ モ の 寄 生 被 害 を 回 避 軽 減 す る た め の ア サ リ 放 流 生 産 手 法 の 開 発 」 千葉県水産総合研究センター・愛知県水産試験場・福島県水産試験場・独(水産総合研 究 セ ン タ ー )・ 東 京 大 学 ・ 京 都 大 学 、 平 成 25 年 3 月 。 [その他] 本研究は、農林水産技術会議所管「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」 によって実施した。
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