学位記番号 理博第 2 4 5 2号 [ノノ - 東北大学

ほりえさちこ
氏名・(本籍)
堀 江 佐知子
学位の種類
博 士(理 学)
学位記番号
理博第2 4 5 2号
学位授与年月日
平成20年訂月25日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
研究科,専攻
東北大学大学院理学研究科(博士課程)生物学専攻
学位論文題目
Evolutionary study on a hybrid zone of Epimedium dlPhyllum and
_‥__- -.----
・一一一一
E. sempervirens var. nLgOSum (Berberidaceae)
(バイカイカリソウとトキワイカリソウ(メギ科)の交雑帯に関する
進化学的研究)
論文審査委員
(主査)
教 教 准
授 授 授
河 中 牧
田 静
雅 雅
圭 透 之
教
Contents
General lmtroduction
chapter I. Quantitative morphologicalanalyses of the populations inthe hybrid zone of E・ diphyllum
and E. sempervirens var・ nLgOSum
chapter 2・ Molecular phylogenetic analyses of Epimedium in Japan
chapter 3・ Reproductive isolation mechanisms in E・ diphyllumand EI SemPerVirens var・ rugosum in
special reference to nowenng phenology'Pollen germination and pollen tube competition ・・・・- 58
chapter 4.Analyses of the genetic structure of the hybrid zones between E・ d,bhyllumand
E・ sempeTVirens var・ yugosum using cytoplasmiCand nuclear markers -・・・-・・・・…‥…・・…・… 77
chapter 5・ Characterization of microsatellite loci for Epimedium dl'phyllum andtheir crossISPeCies
amplific ation
chapter 6・ Genetic constitutions within hybrid populations revealed by molecular hybrid index using
Microsatellite markers
9 1 1 1
日‖ = =
General discussion
Acknowledgments
References
-367-
8 1 3 4
論 文 内 容 要 旨
種間交雑は植物では頻繁に見られる現象であり,近年進化生物学的に注目されてきている.
メギ科イカリソウ属のバイカイカリソウ(Epimedium diphyllum (C. Morr. et Decne.) Lodd.)とトキ
ワイカリソウ(E. sempervirens van nLgOSum (Nakai) K. Suzuki)は外部形態的にははっきりと区別で
きるが,中国地方中部において,交雑に由来すると考えられる集団が多数存在する.本研究では,これら
2種間の交雑帯の形成,維持機構の解明を試みた.
第1章「バイカイカリソウとトキワイカリソウの交雑帯における外部形態変異の定量的解析」
バイカイカリソウとトキワイカリソウの交雑帯に見られる外部形態の多型性とその地理的構造を知るこ
とを目的として,外部形態変異の定量的解析を行った.バイカイカりソウとトキワイカリソウの交雑帯に
おける外部形態の集団間変異は大きく,バイカイカリソウとトキワイカリソウの中間的な外部形態を示す
個体を含む集団が多数見られた.しかし,交雑帯の中心に位置しながら集団内の変異性が低く,外部形態
的にはバイカイカリソウに類似した個体のみから構成されている集団やトキワイカリソウに類似した個体
のみから構成されている集団も存在した.
第2章「日本産イカリソウ属(メギ科)における分子系統学的解析」
日本産イカリソウ属植物9分頬群(4種5変種)および外群として用いたVancouveria chrysanthaにつ
いて,葉緑体DNAのイントロンと遺伝子間領域および核DNAのITS領域とETS領域の塩基配列に基づ
き,分子系統樹を構築した.今回得られた分子系統樹からバイカイカリソウとトキワイカリソウは異なる
クレードに位置し,第1章で見られたバイカイカリソウとトキワイカリソウ間に見られる変異は種内変異
と考えるより, 2種が一度系統的に分化した後に二次的接触を起こし,その後の交雑によって形成された
ものであると考えられる.
第3章「バイカイカリソウとトキワイカリソウにおける生殖的隔離に関する解析」
バイカイカリソウとトキワイカリソウの交雑集団における生殖的隔離を明らかにすることを目的として,
現地集団での開花調査および人工授粉実験を行った.野外調査の結果, 2種間で開花期に違いは見られる
ものの,完全には季節的隔離が生じていないことが明らかとなった. 2種間で交互の人工授粉実験を行っ
たところ,異種間と同種間の受粉による花粉管伸長速度や結実率には有意な差が見られず,受粉後の隔離
も十分に働いていないことが示された.
第4章「葉緑体DNAと核DNAマーカーを用いたバイカイカリソウとトキワイカリソウの交雑帯におけ
る集団遺伝的構造に関する解析」
バイカイカリソウとトキワイカリソウの交雑帯の集団遺伝的構造を推定することを目的とし,葉緑体
DNAの遺伝子間領域と核DNAのETS領域についてPCR-RfLP解析を行った.典型的なバイカイカリ
ソウ個体においては,葉緑体DNAでは3つの切断片に,核DNAでは2つの切断片に分離した.ここで
は便宜上,制限酵素処理によって切断されたバンドパターンを示すものをcytotype I,ribotype Aとし,
切断されなかったバンドパターンを示すものをcytotypeII,ribotype Bとした.また,核DNAでは二つ
のバンドパターンをあわせもっものが存在し,それらはribotype Hとした.葉緑体DNAでは,九州のバ
イカイカリソウ集団の個体は全てcytotype Iを示し,中国地方の集団では典型的なトキワイカリソウ集団,
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交雑帯中の集団の個体も全てcytotype IIを示した・一万・核DNAでは,九州のバイカイカリソウ集団の
個体は全でribotypeAを示し・典型的なトキワイカリソウ集団の個体はribotype Bを示した.交雑帯中
の集団の個体はribotype Bかribotype Hを示す個体が存在し,ribotype Hが高頻度で出現する集団も見ら
れることが明らかとなった.
第5, 6章「マイクロサテライトマーカーを用いたバイカイカリソウとトキワイカリソウの交雑帯におけ
る集団遺伝的構造に関する解析」
第1章と第4章より,中国地方中部ではバイカイカリソウとトキワイカリソウの交雑集団が広く存在す
ることが明らかとなった.それらの交雑のレベルを明らかにすることを目的としてマイクロサテライトマー
カーの開発を行い,それを用いて雑種集団の分子雑種指数を推定した.交雑帯内の集団は2種間のFl個
体やFl以降の雑種個体,戻し交配による個体などによって構成されていた.しかし,浸透性交雑は対称
的に起きておらず,トキワイカリソウからバイカイカリソウの方向へ非対称的に起きていることが示唆さ
れた.
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論文審査の結果の要旨
堀江佐知子氏の博士論文について, 3名の論文審査担当者により,本提出論文の意義,方法の妥当性,
得られた結果に関する記述,考察の妥当性などについて検討が行われた.
本論文は,バイカイカリソウとトヰワイカリソウの交雑帯の維持機構について,形態学的,生態学的,
遺伝学的観点から解析を行ったものである.形態学的観点からは,従来の定性的な解析を越えて,花色,
葉型について定量的解析を行った.このような解析を交雑帯に関して行った研究は限られている.続いて,
本論文では日本産のイカリソウ属植物の分子系統を葉緑体DNAと核DNAの両方の情報を用いて明らか
にした.日本産のイカリソウ属は古くから分類学者の関心を強く引いているグループであるが,今回の解
析によりイカリソウ属の系統関係が明らかにされた.この成果は,植物分類学的および植物系統学的に大
きな意味がある.交雑帯の形成要因としては,両親種の生殖的隔離の程度が重要であるが,本論文では生
殖前隔離および生殖後隔離のしげれにおいても,バイカイカリソウとトキワイカリソウの間で隔離が弱い
こと,トキワイカリソウの受精効率がバイカイカリソウに比べて高いことを明らかとした.このような繁
殖の非対称性は交雑帯を形成する植物間でも報告例が少数見られるが,この現象が2種間の交雑帯の維持
におよぼす影響を考察した点は意義深い.最後に,超変異的分子マーカーを用いて,交雑帯内部の集団の
遺伝的構造を明らかにした.その結果,遺伝子流動はトキワイカリソウからバイカイカリソウへ生じやす
いことが明らかとなった.形態学的解析とあわせると,トキワイカリソウとバイカイカリソウの交雑帯に
関して,中立的遺伝子は交雑帯を越えてトキワイカリソウからバイカイカリソウへと浸透していくのに対
して,自然選択にかかる遺伝子は交雑帯を越えての浸透を起こしにくいことが予測された.以上のような,
交雑帯に関する総合的な研究はこれまでに例が少なく,植物進化生物学上重要な貢献をしたと認めうる.
以上のことは,堀江佐知子氏が自立して研究活動を行うに必要な高度の研究能力と学識を有することを
示している。したがって,堀江佐知子氏提出の博士論文は,博士(理学)の学位論文として合格と認める。
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