春夜 宴 二 桃李 園 一 序

1
レ
スル
二
ニ
一
春夜宴
桃李 園
序
李太伯
スモヽ
シ
ノ
ブ
ス
マコトニ
レ
ヲ
ル
ユヱ
ゾ
﹄
ト リ
レ
タ
ニ
シヨクヲ
若 夢、 爲 懽 幾 何、古 人 秉 燭 レ
レ
第一大
夜 、 良 有 以 也、 段
なり、
訓義 ︹ 旅︺ は ふるなり、旅は客なり、旅店を
旅と曰ふ、
︹ 客︺ 行の旅客、
︹浮生︺人間のはかない
ツ
一生、
︹懽︺ 快、
︹古人秉燭︺秉は取ると訓ず、あかり
ノ ヲ
ク ム
キニ
ソ ル
ツテ ヲ バ
を 點 けること、古詩十九首の中に云ふ、生年 不
滿
百、
レ
レ
ニ ク
講題 春の夜に、李太伯が諸從弟と、桃や 李 の花
常 懷 二千歳 憂、
晝短 苦 夜
長、
何 不 秉
燭 と
、
︹良︺誠
一
二
一
二
レ
一
ノ
園に宴會を開きたる有樣を叙 べたるものなり、
にと訓ず、實以てなり、
︹有以也︺以は故なり、理由あ
ると云ふこと、
字の樂 みとを 合せたる こ
夫れ天地と云ふものは、其間に來る
大 旨 骨 肉 の 樂 み と 、
とを言ふ、
講
あり、丸で萬物の 宿 屋 である、又光陰と云ふもの
あり、去
大段落 凡そ分つて三大段となす、第一大段は篇
る
アカリ
トモ
理あることである、
スニ
レヲ
テス
クワイ
んだ
快を
つてゆく旅客である、而して人
ヤド ヤ
首より﹁良有以也﹂に至る、人世の樂まざるべか
ガハ
は、百代も 更 る 更 る
カハ
らざる理由を說く、第二大段は﹁況陽春召我以烟
間の浮世に生きて居るのは夢のやうで、其間に
のは、實際
ヤ
法 題中の夜の字を點出す、
ヲ
晝間だけでは物足らないで、 燈火 を 點 して夜も
ド
景﹂より﹁序天倫之樂事﹂に至る、好時 に應じて
するのは 何 の位であるか、幾らもありはせぬ、古人が
ゲキ
學的娯樂を爲すべきを言ふ、
樂むを言ふ、第三大段は﹁群季俊秀﹂より篇尾に
至る、花月の良夜に
ハ
シテ
、 客
而 浮 生
天 地 萬 物 之 夫 旅、光
ハ
陰 百 代 之
レ
二
一
陽 春 況 召 我 以 烟 景、大 塊 2
カスニ
レニ
ス
假 我 以
レ
ニ
テス
二
ヲ
シ
二
ヲ
章、 會 桃 李 之 芳
一
ハ
リ
ハヅ
二
ニ
一﹄
第三大段の第一小段な
詠 歌、 獨 慚 康 樂、 り
、己れと諸從弟との
章の優劣
を言ふ、
一﹄
第二大
園 序 天 倫 之 樂 事、 段
なり、
訓義 ︹群季︺諸從弟を謂ふ、
︹俊秀︺萬人の秀を俊と
二
訓義 ︹陽春︺ 溫 き春と云ふこと、
︹烟景︺春は霞など
曰ふ、秀は才子の美稱、
︹惠 ︺宋の謝惠 也、十歳に
一
より、春の景色を烟景と曰
アタタカ
立ち籠めて、のどかなる
學的 能 力 を 指 す 、 章 あ る 毎 に 惠
ナ
に對するときは、 輙 ち佳句を得と、嘗
スナハ
して能く を屬す、族兄の靈 、之を嘉賞して云ふ、篇
章︺
ふ、
︹大塊︺天地なり、莊子齋物篇に出でたる字面、
︹假︺
﹁加ふるに﹂と云ふが如し、︹
て永嘉の西堂に於て詩を思ふ、
日 就 らず、忽ち惠
︹序天倫之樂事︺天倫は人倫と云ふが如し、骨肉關係を
く群 書 に 渉 る 、
は 晉 の將 軍 玄 の 孫 、
章の美、顔延之と共に江左第一と
大勢の徒弟等は俊秀の才子であつて、何れも今
稱せらる、
講
、康樂
を見たれば、卽ち池塘 生
春
一の句を得て、大に以て
二 草
めて、言ふに言は
侯に封ぜられたるを以て云ふ、靈
謂ふ、序は次第、今從兄弟と宴會をなすことなれば、長
は、烟や霞の立て
ばなければならぬのに、まして今は
工となす、︹吾人︺自身を謂ふ、︹康樂︺謝靈
只さへも
幼共に樂むことを謂ひたるなり、
講
陽春の好い時
章を
ば ず に 居 られ よ
れぬ景色を以て、我等を へ、天地は又我等に
授け給ひたる事であるから、何とて
ウタタ
シ
イテ
は自 己 の 拙 を
である、然るに自分の詠歌は、康樂侯に比
日の謝惠
カンバ
き亂れて、花の香の 芳 しき庭園
う、そこで桃や李の
マ
は諸從弟の才を褒め、下
ダ
レ
二
幽 賞 未 已、高 談 轉 淸、 開 瓊
言す、
法 上
すれば慙づかしい、
ノ
の中に會合を催し、長幼打揃つて、骨肉の快樂を盡す
わけである、
リ
一
法 題中の春の字、桃李の字、園の字を點出す、
二
群 季 俊 秀、皆 爲 惠 、吾 人 3
ヲ
テ
シ
レ
ニ
バシテ
二
シヤウヲ
一
フ
レ
ニ
﹄
筵 以 坐 花、 飛 羽 觴 而 醉 月、
一
第三大段の第二小段な
講
る
此の面白い宴會に善い詩を作らなければ、何と
は、罰として酒三觴を課せり、
詩が出來なんだら、之を罰することゝして、罰杯の數
り、宴會の光景を敍す、
して風流思想を發揮することが出來ようや、されば折
ナガメ
訓義 ︹幽賞︺物靜かなる花の眺 、
︹高談︺脫俗の談論、 角の風 も甲斐がないから、一つ規則を立てて、若し
︹轉︺次第になり、︹瓊筵︺瓊は美玉、立派なる敷物を
は、金谷園の例に依ることとしよう、
餘說
謂ふ、︹羽觴︺雀の形をしたる杯、
講 物靜かに花を賞美しつゝ興味の盡きざる中に、高
ベン
二
ノ
ヲ
一
ニ
モシ
︵﹃漢籍國字解全書﹄第二十七巻﹁續文章軌範﹂
︶
なり、
宜 首の二句は理趣 然、其人口に膾炙するは
淸 麗に
春夜宴桃李園とは、題已に雅致あり、行
ノ
淸らかであつて、立派な敷物を 展 尙 風流 の 談 話 は 益
して、花香月影を筆端に現じ、極めて題に切なり、
ラン
一﹄
アウ
べて花の影に坐を占め、羽觴を飛ぶやうに廻はして、月
特に
ハ
二
ウベ
を看ながら醉ひ樂む、
一
ゾ
法 前の一小段は﹁大塊﹂の句を承け、此の小段は
ラ
二
﹁陽春﹂の句を承く、
ンバ
ラ
不 有 佳 作、 何 伸 雅 懷、 如 詩
レ
ンバ
レ
第三大段の
不 成、 罰 依 金 谷 酒 數、 第
三小段な
り、 章
︵古へは詩も亦 章と
謂ふ︶
を發揮すべきことを言ふ、
訓義 ︹佳作︺好き作品、︹雅懷︺風流思想、︹金谷酒
數︺金谷は、晉の石崇と云ふ人の園の名、洛陽に在り、
石崇嘗て賓客を會して、園中に宴を設け、詩の出來ざ
4
化した。
PDF
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●本 PDF
は、 LAT X2e
で組版し、 dvipdfmx
で
E
●訓点付漢文は﹁漢文の部屋﹂
で