毛穴の開大と角層のカルボニル化タンパクの関係 - 株式会社 ニコダーム

毛穴の開大と角層のカルボニル化タンパクの関係
○山下由貴1)、大林恵1)、岡野由利2)、正木仁2)
1)ニッコールグループ
〒541-0052
大阪市中央区安土町 1-6-14
2)ニッコールグループ
〒174-0046
㈱ニコダームリサーチ
㈱コスモステクニカルセンター
東京都板橋区蓮根 3-24-3
1.緒言
近年、毛穴の開大は美容上の問題として注目されており、毛穴の開大の要因およびメカニ
ズムについて解明が試みられている。毛穴の開大の因子としては、これまでに知られている
過剰な皮脂や角栓などに見られる毛穴の汚れの他に、加齢による皮膚変化も影響を及ぼして
いることが明らかにされている1)。
加齢による皮膚変化には紫外線照射により発生する酸化ストレスが強い影響を及ぼすこと
はよく知られている。そこで、角層の不全角化度、酸化ストレスの指標としてカタラーゼ活
性およびカルボニルタンパク等の角層状態の指標となる因子と、開大した毛穴との相関の有
無を検討した。その結果、毛穴の開大と角層のカルボニル化タンパク量との間に相関がある
ことが確認された。カルボニル化によるタンパクの変性は、近年、皮膚内部のみならず角層
おいても観察されること、また紫外線照射により角層タンパクのカルボニル化が亢進される
ことが報告されている2)。
本研究では、酸化ストレスの指標として角層のカルボニル化タンパクに着目し、毛穴の開
大との関係について調査を行い、知見を得たのでこれを報告する。
2.実験
2-1
被験者および測定項目
22∼61 才の被験者 90 名(20 代:20 名、30 代:27 名、40 代:22 名、50 代:20 名、60
代:1 名)を対象に、毛穴の開大の目視判定、マイクロスコープによる毛穴拡大画像取り込
み、セロハンテープを用いた角層採取を行った。測定部位は、顔面において毛穴の開大が目
立つ上頬部および目立ちにくい下頬部の 2 ヶ所とした。
2-2
毛穴画像の解析
各部位の毛穴拡大画像より、画像解析ソフトScionImageを用いて 1cm2当たりの毛穴個数、
開大毛穴個数、毛穴総面積、毛穴平均面積、平均楕円率を算出した。
2-3
不全角化の指標としての有核細胞率・多重剥離度の算出
角層をスライドグラスに固定し、ブリリアントグリーン(BG)を用いて染色を行い、得ら
れた角層画像より、有核細胞率、ゴースト率、多重剥離度の算出を行った。
2-4
角層のカタラーゼ活性の測定
角層を採取したテープを 6mm 径に切り抜き 1mM 過酸化水素と一定時間反応させ、過酸化
水素の消去量を指標としてカタラーゼ活性を測定した。
2-5
カルボニル化タンパクの染色
角層をスライドグラスに固定し、Fluorescence-5-thiosemicarbazide (FTCZ)を用いてカル
ボニル化タンパクの染色を行った。染色画像における角層部分の平均輝度はPhotoshopを用
いて算出し、カルボニル化タンパクレベル(SCCPレベル)とした1)。
3.結果
3-1
毛穴計測結果の相関分析
毛穴計測結果(毛穴個数、開大毛穴個数、毛穴総面積、毛穴平均面積)はいずれも下頬と
比較して上頬で有意に大きい数値を示した。さらに、目視判定結果とも有意な相関を示した
ことより、マイクロスコープ取り込み画像を用いた毛穴計測により毛穴状態が解析可能であ
ることが確認された。次に、年齢と毛穴計測結果の相関分析を行ったところ、毛穴計測結果
は年齢と有意な相関を示し、年齢と共に毛穴の開大が進行する傾向を示した。
3-2
不全角化の指標と毛穴計測結果の相関
有核細胞率、ゴースト率、多重剥離度について毛穴計測結果との相関分析を行った結果、
上頬でゴースト率と毛穴平均面積で有意な相関を示した。
3-3
酸化ストレスの指標と毛穴計測結果との相関
カタラーゼ活性、および SCCP レベルについて毛穴計測結果との相関分析を行った結果、
上頬においてカタラーゼ活性は開大毛穴個数および毛穴総面積と有意な相関を示した。一方、
SCCP レベルは毛穴計測結果と有意な相関を示さなかった。
3-4
周辺角層のカルボニル化
毛穴周辺の角層について FTCZ 染色画像を詳細に観察したところ、開大した毛穴の辺縁部
で強い蛍光を示す例が認められた(Fig.1)。このことから、SCCP レベルの上昇は開大毛穴
周辺で局所的に起こる現象である可能性が示唆された。そこで被験者毎のカルボニル化の程
度をより明確にするために、下頬の SCCP レベルに対する上頬の SCCP レベルを SCCP レベ
ル比として算出し、各々の測定値との相関分析を行った。その結果、上頬部において開大毛
穴個数の多い被験者では SCCP レベル比が有意に高いことが示された(Fig.2)。さらに、年齢
ともに SCCP レベル比が有意に増加することが確認された(Fig.3)。
Fig.1
毛穴周辺の FTCZ 染色画像
2.50
2.00
1.50
1.00
2.50
SCCPレベル比(上頬/下頬)
SCCPレベル比(上頬/下頬)
r=0.219*
r=0.276**
2.00
1.50
1.00
0.50
0.50
0.0
20.0
40.0
60.0
80.0
20
100.0
30
40
Fig.2
SCCP レベル比と開大毛穴個数との相関
50
60
年齢
開大毛穴個数(上頬部, 個)
Fig.3
SCCP レベル比と年齢との相関
4.考察
画像の解析の結果、得られた毛穴の計測結果(毛穴個数・毛穴面積)は目視判定の結果と
有意な相関を持ち、見た目の印象を十分に反映するものであった。また、本試験の計測結果
においても毛穴の開大が年齢により進行する傾向が認められた。さらにSCCPレベル比を算
出したところ、上頬部の毛穴の計測結果とSCCPレベル比は有意な相関を示し、毛穴の目立
つ被験者において毛穴周辺の角層タンパクのカルボニル化が進行している、すなわち酸化ス
トレスによる角層へのダメージが毛穴の開大に関与している可能性が示唆された。また、
SCCPレベル比は年齢とも有意な相関を示し、年齢と共に毛穴の目立つ部位でタンパクのカ
ルボニル化が進む傾向が示された。また、本試験においては、SCCPレベルは有核細胞率と
も相関を示した。開大した毛穴の周辺では不全角化が認められることが既に報告されており3)、
角層タンパクのカルボニル化も毛穴の開大に影響を及ぼしていることが示唆された。
5.引用文献
1) 水越興治ほか、日本化粧品技術者会誌、41, 262-268 (2007)
2) Fujita H. et al., A simple and non-invasive visualization for assessment of carbonylated
protein in the stratum corneum. Skin Res Technol, 13, 84-90 (2007)
3)飯田年以ほか、Fragrance Journal, 3, 41-47 (2004)
Relationship between enlargement of facial pores and carbonylated protein
in stratum corneum
○Yuki Yamashita1), Kei Obayashi1), Yuri Okano2), Hitoshi Masaki2)
1): NIKKOL GROUP Nikoderm Research Inc.
1-6-14, Azuchimachi, Chuoku, Osaka, 541-0052
2): NIKKOL GROUP COSMOS TECHNICAL CENTER CO.,LTD.
3-24-3, Hasune, Itabashiku, Tokyo 174-0046
Enlargement of facial pores is one of the most serious problem at a point of beauty for
many women, and investigating on facial pores including enlargement mechanisms and
improvement methods is getting popular for cosmetic scientists. In this study, to identify
the enlargement mechanisms, we focused the relationship between parameters on facial
pore and markers of oxidative stress such as catalase activity and protein carbonylation
of stratum corneum (SC). We conducted human volunteer test using following conditions
(measurement site; upper and lower cheeks of 90 female volunteers (22-61 years old)) and
parameters (for skin pore: number of pore, area of pore, for biological conditions of SC:
nucleated cell ratio and oxidative stress marker such as catalase activity and SCCP
(protein carbonylation of SC) level) The number and area of facial pores showed
significant correlation with age but not with SCCP level. But the fluorescence originated
from SCCP was observed at peripheral region of enlarged pores. So we defined the ratio of
the SCCP level of upper cheek or lower cheek as a SCCP ratio. It was found that SCCP
ratio significantly correlated with number and total area of facial pores in upper cheek
and also age. These results suggested the possibility that protein carbonylation of SC was
responsible for enlargement of facial pores.