第48回日本理学療法学術大会(名古屋) O-A運動-269 シンスプリントを有するスポーツ選手の足圧分布 木下 和勇 1,2), 岡田 恭司 1), 若狭 正彦 1), 斉藤 明 1), 木元 稔 1,3), 斎藤 功 1,4), 高橋 祐介 1,5), 瀬戸 新 2) 1) 秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻 , 2)山王整形外科医院リハビリテーション科 , 秋田県医療療育センター , 4)羽後町立羽後病院リハビリテーション科 , 5) JA 秋田厚生連秋田組合総合病院リハビリテーション科 3) key words シンスプリント・足圧・動的アライメント 【はじめに・目的】 明らかな疲労骨折がなく、脛骨後内側縁の遠位 1/3 に、放散痛と不快感を伴う運動時痛がみられる病態を、シンスプリ ントと呼んでいる。シンスプリントは陸上競技やバスケットボールなど、下肢を酷使するスポーツで発生頻度の高い疾患 であり、その発生要因は諸説ある。しかし、その中でも足関節の過回内により、長趾屈筋・長母趾屈筋・後脛骨筋に頻回な 伸張ストレスが加わるためであるとする報告は多い。ところが、これらの報告は下腿踵骨角やアーチ高率などの足部の静 的アライメントを指標としており、シンスプリントの症状発現場面である動的環境では検討されていない。 そこで本研究では足部の静的アライメントの他に、簡便に測定が可能で、下肢のアライメント異常の推定が可能とされ ている歩行時の足圧分布を測定し、シンスプリントを有するスポーツ選手と、シンスプリントが見られない選手間で比較 検討することを目的とした。 【方法】 対象は、本学の運動部に所属しているもののうち、シンスプリントがみられた成人 6 名(シンスプリント群、男性 4 名 , 女性 2 名、平均年齢 20.7 ± 3.4 歳、平均体重 58.8 ± 8.2kg)の 10 脚と、シンスプリントが見られない成人 5 名(対照群、男 性 2 名 , 女性 3 名、平均年齢 19.0 ± 1.1 歳、平均体重 58.2 ± 5.3kg)の 10 脚とした。シンスプリント群、対照群ともに、対象 者は 1 回 3 時間以上の練習に、週 3 回以上参加しているものであった。 被験者に F-scan2(ニッタ社製)の足底シートを挿入した靴で、前後に 3m の助走路を設けた 10m の段差のない歩行路を 快適速度で歩行してもらい、足圧分布を計測した。測定靴には、足のサイズに適した運動靴(新日本教育シューズ社製、パ ワーシューズクレープソール)を使用した。足圧中心軌跡の湾曲の程度を表す指標として、足圧中心軌跡の開始点と終了点 を結んだ線と、足圧中心軌跡との最大距離を足幅で除して最大振幅率を算出した。足底部を踵・ミッドフット・第 1 中足 骨・第 2 中足骨・第 3 中足骨・第 4 中足骨・第 5 中足骨・母趾・第 2 趾・第 3 趾・第 4,5 趾の 11 領域に細分し、それぞれ の領域で計測された荷重圧を、各領域の面積とそれぞれの体重で除し、領域別の接触圧力を算出した。なお計測は 3 回行っ て平均値を採用した。また、片脚起立時の下腿踵骨角も計測した。シンスプリント群と対照群の統計学的分析には、MannWhitney の U 検定を使用し、危険率 5% 未満を有意とした。 【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は秋田大学倫理委員会の承認を得て実施した。またヘルシンキ宣言に従い、被験者には事前に本研究の目的、方 法について十分な説明し、所定の書面にて研究参加の同意を得た。 【結果】 シンスプリント群の足圧中心軌跡は、対照群に比べ直線状で足部内側にあり、最大振幅率は、シンスプリント群で対照 群に比べ有意に低値であった(7.47 ± 1.91% vs 11.53 ± 2.91%, p<0.01)。領域別の接触圧力はミッドフットで、シンスプリ ント群が対照群に比べ、有意に低値であった(0.64 ± 0.18kg/cm2vs 0.93 ± 0.35 kg/cm2, p=0.02)。第 1 中足骨部では、シン スプリント群が対照群に比べ、有意に高値を示した(1.65 ± 0.3 kg/cm2vs 1.27 ± 0.34 kg/cm2, P=0.03)。その他の領域の接 触圧力は、両群間で有意差は認められなかった。また、片脚立位時の下腿踵骨角にもシンスプリント群と対照群で有意差 は認められなかった。 【考察】 シンスプリント群では対象群に比べ、接触圧力が第 1 中足骨部で有意に高値となり、ミッドフットで有意に低値となる ことで、足圧中心軌跡が内側に変移して直線状となり、最大振幅率が有意に低値を示していた。この一因として、歩行時の 足関節の過回内が考えられる。その一方で、静的アライメントの指標である片脚立位時の下腿踵骨角には有意差が認めら れなかった。このことから、シンスプリントを有するスポーツ選手では、静的アライメントで異常がなくとも、歩行時には 足関節の過回内が生じていることが示唆された。 【理学療法研究としての意義】 シンスプリントでは動的なアライメントの評価が重要であり、簡便にアライメントも評価可能な足圧分布の測定は、臨 床的に有用な方法だと思われる。シンスプリントを生じやすい競技者では、症状がなくても足関節の過回内に留意し、イ ンソールやテーピングなどで矯正すれば、シンスプリントの発症を予防する効果が期待される。
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