高麗青銅貨海東通寶(ヘドントンボ)の金属組織と - 日本金属学会

日本金属学会誌 第 74 巻 第 1 号(2010)30
35
高麗青銅貨海東通寶(ヘドントンボ)の金属組織と
不純物の微細構造
崔 禎 恩
北田正弘
東京芸術大学大学院美術研究科
J. Japan Inst. Metals, Vol. 74, No. 1 (2010), pp. 3035
 2010 The Japan Institute of Metals
Microstructure and Impurities of Bronze Coin, Headongtongbo, Fabricated in the Korai Period
(11th Century)
Jung Eun Choiand Masahiro Kitada
Graduate School of Arts, Tokyo University of the Arts, Tokyo 1108714
The microstructure of the bronze coin, Headongtongbo, circulated around 1097 and fabricated in the Korai period (10~14th
centuries) has been investigated. The coin is 23.4 mm in diameter and 1.7 mm in thickness with weight of 4.75 g. Transmission
electron microscope, Xray diffraction, scanning electron microscope, and electron dispersive Xray analyses are used to determine the structure of the specimen. The composition of the specimen is Cu6.1 massSn1.4 massPb0.5 massS. aCu, Pb
and Cu2S grains are observed using an optical microscope. The Cu2S phase has been observed in a Korai bronze mirror, as reported in the previous paper. The aCu phase shows a recrystallized polygonal structure. In some part of the aCu grains, twins and fine
twinlike lines are observed. Cu2S particles are dispersed in aCu grains and the grain boundary. In aCu grains near the surface,
grain boundaries and the twin boundary are corroded preferentially. The Cu2S grains retain their original shape and remain in the
corroded layer. aCu corrodes from Cu2O to CuO, and then to Cu2CO3(OH)2.
(Received July 24, 2009; Accepted September 24, 2009)
Keywords: ancient bronze coin, Headongtongbo, copper, tin, lead, chalcopyrite, copper oxide, malachite, corrosion
通寶などの銅銭が製造され流通した.この時期に製作された
1.
緒
言
青銅貨は高麗時代の首都である開京(ケギョン)を中心に流通
し,流通促進のため,当時の公務員に使用を奨励したと伝え
朝鮮半島の高麗時代(10~ 14 世紀)には,宋,契丹,アラ
られている3).
ビアなど様々な国家との貿易が盛んになり,流通のための貨
韓国での貨幣に関する材料科学的研究は Kang らによる
幣の必要性が高くなった.高麗時代初期の 996 年には鉄銭
Cu13.3 massPb6.0 massSn の海東通寶や朝鮮通寶(ジ
が製造されたが,腐食等の問題があり, 1002 年に生産が終
ョソントンボ)に含まれる鉛同位元素比での産地同定を行っ
了した.その後, 1097 年に銅銭を製造し始め1) ,高麗にお
た研究4,5) がある.しかし,金属組織などの材料科学的な研
ける青銅貨の使用が開始された.銅を貨幣の材料として使用
究はない.
したのは,金や銀のような貴金属を使用すると蓄財手段にな
本研究の目的は 11 世紀に発行された高麗青銅貨の金属組
り,貨幣本来の価値基準と流通機能を喪失すると考えられた
織および表面腐食を観察し,高麗時代の銅精錬技術,青銅貨
ためである2).
製造技術および腐食機構などに関する基礎データを得ること
高麗青銅貨は中国の宋の貨幣に習って作られたと伝えられ
である.
ている.高麗時代に製作された最初の銅銭は宋と同名の乾元
重寶(コンオンジュンボ)であるが,宋の貨幣と区別するた
2.
実
験
方
法
め,裏面に中国の東にある国という意味の‘東国(トングッ
ク)’という字を入れた.しかし,裏面に字を入れたにも関
本研究で用いた試料を Fig. 1 に示す.用いた試料は高麗
わらず宋銭との区別が難しくなり,これを区別する目的で
時代に製作された貨幣の海東通寶(ヘドントンボ)である.
‘東国’字を表に入れた東国重寶(ドングックジュンボ),東
Fig. 1 に見られる試料の文字が不鮮明なので,その周辺に海
国通寶(ドングックトンボ)が製造された3) .高麗の肅宗(ス
(ヘ)東(ドン)通(トン)寶(ボ)を漢字で示した.試料は円形
クジョン,1054~1105)時代には本格的な国家貨幣製造機関
で,中央部分には一辺約 5.0 ~ 5.5 mm の四角の穴がある.
である鋳銭図官が設置( 1097 年)され,海東重寶および海東
この試料の直径は平均 23.4 mm で,重さは 0.0048 kg ( 4.8
東京芸術大学大学院生(Graduate Student, Tokyo University of
the Arts)
g )である.表面は緑色の腐食物に覆われているが,割れな
どの大きな傷は見られない.
第
1
号
Fig. 1
高麗青銅貨海東通寶(ヘドントンボ)の金属組織と不純物の微細構造
Photographs of Korean ancient coin, Headongtongbo, used as specimen, the Chinese letters indicate ``Headongtongbo''.
Fig. 3 Crosssectional optical micrographs of Korai bronze coin. The letters a and b show observation sites, and c, d, e and f indicate
aCu, Pb, Cu2S and surface corrosion layer, respectively.
Fig. 11 Optical micrograph shows near Korai bronze coin
surface. Arrow A indicates black corrosion area and arrow B
indicates ghost line. The dotted circle indicates preferential
corrosion of twin boundaries.
Fig. 13 Optical micrograph shows near surface corrosion area
of Korai bronze coin. A indicates black corrosion area and Cu2S
grain remaining in grain boundary. M indicates malachite layer.
31
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第
日 本 金 属 学 会 誌(2010)
74
巻
試料の組成分析は研磨した地金面を 1 mm 角の EDS 面分
つの相が観察される.c はマトリックスの aCu,d は最大径
析で 20 ヵ所行い,その平均値を求めた.また,内部と表面
10 mm の円に近い暗く見える粒子,e は約 3~15 mm の明る
腐食層の結晶構造の解析には XRD を用いた.金属組織の現
く見える円形粒子である.e の円形粒子は上述の d で示した
出には塩酸に塩化鉄()を溶かした水溶液6)で行い,組織お
粒子の周辺に存在するか,あるいは単独で存在している. f
よび表面腐食層は光学顕微鏡および SEM で観察した.試料
は試料表面に生じている腐食層である.(a)部では双晶およ
内部に見られる微細な不純物粒子の構造を観察するため
び多数の細い線状組織が見られる.ここで見られる双晶は焼
FIB(日立,FB2100)法で薄膜試料を作製し,TEM(日立,
鈍双晶と考えられる.試料表面に近い(b)で示す領域に見ら
H9500)で観察した.
れる結晶粒の大きさは 70~200 mm である.双晶は見られな
いが,(a)と同様に aCu マトリックスに Cu2S 粒子が分散し
結果および考察
3.
3.1
組
ている.
中国の宋( 960 ~ 1277 )の影響を大きく受けた高麗の銅銭
成
は,一般的に鋳造で製作されたと思われる8).しかし,本試
海東通寶試料の代表的な EDS スペクトルを Fig. 2 に示
料の金属組織観察の結果では,鋳造組織ではない再結晶組織
す.用いた試料の平均組成は Cu 6.1 mass  Sn 1.4 mass 
が観察された.したがって,素材を鋳造したのち加工,熱処
Pb 0.5 mass  S で あり ,痕 跡量 レベ ルの As が検 出さ れ
理などが施された可能性がある. 1728 年出版された日本の
た . 前 報 で 述 べ た 高 麗 鏡 の 組 成 ( Cu 15.2 mass  Pb 9.3
鋳銭図解によると,製作された鋳放銭を‘床焼き’と呼ばれ
と Sn の量は少な
る焼きなまし作業を行い,貨幣の表面を綺麗に仕上げた9).
く,S はほぼ同量検出された.一般に,銅鏡に比較して銅銭
高麗時代の貨幣に熱処理を施したと言う文献は見当たらない
massSn0.5
massS)7)に比較して,Pb
の Pb 含有量は低く,その傾向と一致する.海東通寶の組成
が,本試料の金属組織から,銅銭製作の仕上げ段階で加工,
は S を除けば中国,日本などの銅銭と同様な組成である.
熱処理を行った可能性が高い.その理由は現在のところに不
しかし,この試料においては前報で述べた高麗鏡と同様に S
明であり,今後も検討を続ける.
が多く検出された.銅銭を作る工程で S を添加することは
上述の Fig. 3 ( a )の c, d および e で示した部分の EDS 分
考えにくく,銅製錬等の中間生成物である硫化銅などの成分
析結果を Table 1 に示す.c で示す aCu マトリックスの組成
が完全に還元されずに残留したものと思われる.
は Cu6.9 massSn で,痕跡量レベルの As が検出された.
3.2
組織観察
Cu に非固溶である Pb と前述の不純物粒で検出された S は
検出されていない.d で示す粒子は Pb3 mass Cu で, As
試料の断面略図と観察した代表的な金属組織を Fig. 3(a),
が痕跡量レベルで存在している. Pb は Cu と非固溶系とい
(b )に示す.試料は全体的に粒径 70~ 450 mm の結晶からな
われ,aCu 中の Pb は単独粒子として存在し,aCu からは検
っており,直径 3~10 mm の円形に近い粒子が数多く存在す
出されない.一方,Pb 粒子中からも Cu が検出された. Cu
る.これらの円形粒子は粒内,粒界および双晶粒界等と強い
と Pb は非固溶系で Cu と Pb はお互い固溶しないと言われ
相関も持たず,全体的に無秩序に分散している.Fig. 3 で示
ているので,Cu 中の Pb は固溶状態ではなく,Pb 粒子とし
したように,本試料では,高麗鏡などに見られるような鋳造
て存在すると考えられ,これについては後述の TEM 観察で
によるデンドライトが全領域にわたって観察されず,多角形
述べる. e で示す粒子の EDS 分析による組成は Cu 32.5
状の結晶粒からなる典型的な再結晶組織である.(a)で示す
mol  S 2.0 mol  Fe である. Cu  S が約 2  1 であること
領域の結晶粒の大きさは 200~ 450 mm で, c~ e で示した 3
から,前報で述べた高麗鏡8) の内部に見られる Cu2S と同様
の硫化銅粒子と考えられる.高麗鏡の場合,マトリックスは
鋳造組織で,その中に観察された Cu2S 粒子の形は楕円形や
多角形状のものが多かったが,本試料で観察される Cu2S 粒
子の大部分は円形に近い.前報で述べた高麗鏡の場合7) は
Pb の濃度が高く( 15 mass  Pb ), Cu2S 粒子の多くは Pb 粒
子の周辺に存在していた.本試料では Pb 粒子に隣接してい
る状態も若干見られるが,多くは単独で全体に無秩序に分散
している.
試料の XRD スペクトルを Fig. 4 に示す.aCu は原子半径
Table 1
Fig. 2
EDS spectrum obtained from Korai bronze coin.
Compositions of phase c~e shown in Fig. 4.
(mass)
Cu
Sn
Pb
S
As
Fe
c
92.8
6.8
―
―
tr
―
d
3
―
97
―
tr
―
e
(mol)
78.7
(65.6)
―
―
20.4
(33.6)
―
0.9
(0.9)
1
第
号
高麗青銅貨海東通寶(ヘドントンボ)の金属組織と不純物の微細構造
の大きい Sn が固溶しているため,純 Cu のピークより低角
度側に若干シフトしている.また,Pb は明確なピークを示
す.その他の小さいピークのいつくかは Cu2S のピークと一
致する.
3.3
微細構造
上述のように,高麗銭には Cu と S からなる化合物粒子が
存 在 す る . こ れ ら の 粒 子 は Cu  S の mol 比 が ほ ぼ 2  1
で,前報7) と同様 Cu2S と考えられる.この粒子の詳細を知
るために TEM で観察した.Fig. 5 に CuS 系の粒子を含む
領域の TEM 像を示す.EDS 分析によれば,aCu および Pb
の他に A および B で示す結晶が観察される.この領域で A
は aCu と,B は Pb と隣接して存在する.
上述の粒子 A の EDS スペクトルを Fig. 6 に示す.粒子
A の組成は Cu31.7 molS0.9 molFe であり,前述の光
学顕微鏡で観察された Cu S 系粒子の EDS による分析値と
Fig. 6
EDS spectrum obtained from grain A shown in Fig. 5.
Fig. 7
EDS spectrum obtained from grain B shown in Fig. 5.
ほぼ一致する.0.9 massFe の検出は黄銅鉱(CuFeS2)を中
間生成物の Cu2S にする際に Fe が完全にスラグとして除去
されずに残されたためと思われる.前報では Cu2S 粒子中に
Pb と Zn が微量元素として検出されたが,本試料の Cu2S と
みなされる粒子では検出されなかった.Pb 領域は複数の粒
Fig. 4
Xray diffraction pattern of Korai bronze coin.
Fig. 5 Transmission electron micrograph of Korai bronze
coin. A and B indicate Cu2S and PbO compounds, respectively.
Fig. 8 Magnified transmission electron micrograph of grain A
shown in Fig. 5. The arrow in aCu indicates twin contrast.
33
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日 本 金 属 学 会 誌(2010)
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巻
子からなり, Pb 結晶粒の寸法は 100 ~ 200 nm である. Pb
を Fig. 10 に示す.隣接部からこの格子像をフーリエ変換し
粒子の上方には B で示す 200~ 500 nm 厚さの明るい領域が
て解析結果, PbO ( JCPDS5 0561 )にほぼ一致した.しか
見られる.B 領域を EDS 分析した結果を Fig. 7 で示す.こ
し,前述の EDS の結果では Cu がかなり含まれており,
の領域組成は Pb35 molO10.1 molCu であり,Pb 酸化
Fig. 10 でも明るさの異なる領域があり,今後,更に詳細を
物系粒子である. Fig. 7 に示される Al のピークは試料台か
検討する.
らのものである.
上記の Fig. 5 で示した Cu2S(A 部分)と aCu 粒子を含む領
域の高倍率 TEM 像を Fig. 8 に示す. aCu 粒子内部には矢
印で示す双晶が見られる.これは光学顕微鏡で観察された組
3.4
表面腐食
前述のように試料表面は全体的に黒色と緑色の腐食生成物
で覆われている.
織と同様である.双晶とみなされる像は Cu2S 粒子内部にも
先ず,表面に黒色腐食生成物が存在する領域の光学顕微鏡
多数観察される.これらの幅は 20~120 nm である.この領
による観察結果を Fig. 11 に示す. Fig. 11 の表面に存在す
域の格子像とこれをフーリエ変換して得た再生電子回折図形
る黒色腐食物は aCu の粒界に沿って矢印 A で示す aCu 表面
を Fig. 9 に示す.上部に領域 1 のフーリエ変換図形を,下
から 200~ 300 mm の深さまで達している.また,腐食され
部に領域 2 のフーリエ変換図形を示す.1 と 2 の電子回折図
た aCu の旧粒界は矢印 B で示すようにゴーストラインとし
形を解析した結果,これらは Cu2S ( JCPDS33 0490 )に一致
て残っている.さらに,点線で示した中に見られる双晶境界
した.前述の EDS による組成分析と合わせると,この粒子
は周囲の領域より腐食が進んでおり,双晶境界も腐食されや
は Cu2
S7)
である.
前述の Fig. 5 の Pb O 化合物と見られる B 部分の格子像
すいことを示している.粒界に沿って存在する黒色腐食物領
域の内部には,Cu2S 粒子が腐食されずに残されている.
Fig. 9 Lattice image of grain A shown in Fig. 8. The Fourier transforms electron diffraction patterns agree with that of Cu2S
(JSPDS No. 33
0490).
Fig. 10 Lattice image of grain B shown in Fig. 5, and Fourier transform electron diffraction pattern. The pattern agrees with that of
PbO (JCPDS No. 50561).
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高麗青銅貨海東通寶(ヘドントンボ)の金属組織と不純物の微細構造
Fig. 12 Xray diffraction pattern of black corrosion area of
Korai bronze coin.
上述の Fig. 11 で示した黒色表面の腐食生成物を同定する
35
Fig. 14 Xray diffraction pattern of green corrosion area of
Korai bronze coin.
Sn 1.4 mass  Pb 0.5 mass  S で痕跡量の As と Fe が含ま
ため, XRD で分析した. XRD スペクトルを Fig. 12 に示
れる.
す.黒色腐食部からは亜酸化銅( Cu2O ),酸化銅( CuO ),酸


海 東 通 寶 で 観 察 さ れ た 金 属 組 織 は aCu, Pb お よ び
化錫( Sn2O )および弱い塩基性炭酸銅(マラカイト Cu2CO3
Cu S 系粒子の 3 相であり, Cu S 系粒子は TEM 観察等の
(OH)2)のピークが検出された.
結果 Cu2S であった. Cu2S は前報での高麗鏡と同様,銅精
次に,表面の緑色腐食生成物が存在する領域の光学顕微鏡
錬の残留物であると思われる.
像を Fig. 13 に示す.緑色腐食物も Fig. 11 の黒色腐食物と


aCu は 70 ~ 450 mm の多角形の再結晶組織をしてお
同様, aCu の粒界に沿って進入している.緑色腐食生成物
り,この中に 3~10 mm の円形に近い形をした Cu2S が無秩
と aCu の境界には矢印 A で示すように黒色の腐食生成物が
序に分散している.


観察される.また, Fig. 11 で観察された黒色腐食生成物の
黒色腐食部分では aCu の粒界に沿って内部まで腐食
内部と同様,矢印 B で示すように表面および粒界の緑色腐
が進んでおり,腐食層の中には Cu2S が腐食されずに残って
食生成物内部に Cu2S が腐食されずに残留している.
いる.黒色腐食部分は Cu2O, CuO, SnO2 と少量の Cu(OH)2
試料表面を覆っている緑色腐食生成物層の XRD スペクト
CO3 が検出された.
ルを Fig. 14 に示す.この領域では,塩基性炭酸銅(Cu2CO3


緑色腐食部分からは, Cu2O, CuO, SnO2 が検出され
( OH)2)のピークが最も強く, CuO と Cu2O がその次に強く
た.この腐食層の aCu 近傍では黒色腐食層が見られ,緑色
検出され, SnO2 のピークも存在する.これらの結果から表
腐食は Cu ( OH )2 CO3 である. Cu ( OH )2 CO3 の生成は Cu2O
面部の緑色腐食生成物は塩基性炭酸銅( Cu2CO3( OH )2 )が主
から始まり,その後 CuO になり Cu(OH)2CO3 に変化したと
であり, aCu に隣接した部分の黒色腐食生成物はその色と
考えられる.
XRD の結果から CuO とみなされる. XRD で検出された
Cu2O は黄色の半透明な物質であり,微細なためか,Fig. 13
一般的に屋外の銅腐食では始めに Cu2O が生成し,これが
プールベイ図10) でも示されているように
本研究を進めるにあたり,ご助言戴いた東京芸術大学の桐
野文良准教授,透過型電子顕微鏡の観察にご協力くださった
では確認できなかった.
CuO あるいは Cu2
株 日立ハイテクノロジーズの多持隆一郎氏,佐藤高広氏,格

子像解析にご協力戴いた永田文男博士に深謝する.
CO3 ( OH )2 に 変 化 す る こ と が 知 ら れ て い る . 25 °
C, 44
ppmCO2 濃度での Cu CO2 H2O のプールベイ図によると,
文
献
CuO は 高 pH 領 域 , Cu2CO3 ( OH )2 は 低 pH 領 域 で 生 成 す
る.本試料の緑色腐食層の XRD 分析からは,Cu2O と CuO,
れる腐食の生成は先ず Cu2O が生成し,次に CuO になり,
1)
2)
3)
4)
さらに水分と大気中から取り込まれた CO2 が関与して pH
5)
Cu2CO3 ( OH )2 が検出されている.そのため,本試料に見ら
が変化し Cu2CO3(OH)2に進んだものと考えられる.
結
4.
言
高麗時代の 12 世紀に造られた青銅貨・海東通寶の金属組
織観察および微細構造について検討し,下記の結果を得た.


用いた試料である海東通寶の組成は Cu 6.1 mass 
6)
7)
8)
9)
10)
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