装置運転からみたこれからの工場安全 ―その考え方・進め方 “工場安全” 工場安全”へのソリューション へのソリューション 安全計装システム 安全計装システムの システムの最新動向 ~PST ソリューションと ソリューションと統合ソリューション 統合ソリューション 横河電機 西 田 純 (1)PST とは 1.はじめに 昨今の産業事故に対するビジネスリスクの増大によ り,プラントの安全を守る安全システムへの要求はま すます高まっている。当社は2005年2月に,第三者 認証機関に認証され,安全関連系に関する国際規格 IEC61508 に適合した安全計装システム「ProSafe-RS」 を発表した。以来ユーザから高い評価を得ており,国 内外で多くのシステムを受注している。 今回,安全計装一ステムの最新の動向と当社の安全 計装システム「ProSafe-RS」の最新の機能強化につい て紹介する。 一般に SIS は,通常時バルブは全開状態で保持され, プラントに異常が発生しないかぎり,バルブが作動す ることはない。したがって,たとえばバルブが全開状態 で固着しており,緊急時に作動しない状態にあったと しても,その状態を検知することが難しい。このような 故障を検知するために SIS では,プルーフテストと呼 ばれるオフラインでの全閉テストを定期的に行う必要 がある。プルーフテストを実施すべき間隔は,バルブ を含む SIS の各安全ループの故障率と,当該安全ル ープの安全レベル(SIL)から決定される。したがって, 求められる安全性を確保するためには,要求されるプ ルーフテストの間隔で全閉テストをすることが義務付 2.安全計装システム 安全計装システムの システムの最新動向 けられる。 2.1 Partial Stroke Test 全閉テストをするためには,当該バルブが閉まっても *1) 安全計装システムでは定周期でプルーフテスト を プラントがシャットダウンしないようにするために,バイ 行う必要があり,そのための保守メンテナンス費用が パスラインをあらかじめ用意しておくか,プラントを停 かかる。この保守メンテナンス費用の削減に,海外で 止する定期点検時に実施するかしなければならない。 は最近 Partial 一方,PST は,バルブを全閉する代わりに,少 しだけ作動させてその弁の初動動作を確認する テストであり,これにより全閉によるプルーフ テストの間隔を大幅に延長することができる。 つまり PST は,SIS の安全性を維持したまま, バイパスバルブの設置コストや,プラントの停 止にかかるコストを低減するために非常に有効 である。 (2)PST の有効性 図1に,典型的な安全ループの構成例を示す。 Partial Stroke Test(以下 PST と略 す)が話題となっている。 PST は,緊急遮断弁の初動動作をオンラインで確認 するもので,SIS(Safety Instrumented System: 案 z 年計装システム)において注目されているソリューショ ンの一つである。本節では,PST の有効性と ProSafeRS における PST ソリューションの方向について概説 する。 -------------------------------------------*1)プルーフテスト:SIS の故障を検出するために行う, 図 1 典型的な 典型的な安全ループ 安全ループ 2006 vol.49 No.11 定期的なオフラインの検査のこと。 1/4 図 2 SIS における典型的 における典型的な 典型的な故障率の 故障率の割合( 割合(例) 図3 PST で検出可能な 検出可能な故障率( 故障率(例) セ ン サ ー か ら の 信 号 に 従 い , ProSafe-RS の SCS 図4は,バルブの PFD*2)と時間の近似的関係を示 (Safety Control Station)がシャットダウンロジックを実 している。バルブが閉まらない故障は一定の確率で 行し,その出力によってバルブを全閉する。 常に発生しうると考えると,時間の経過とともに,その このような構成の安全ループの場合,故障部位は, 故障が発生している可能性(PFD)は上昇する。 センサー,安全コントローラ,アクチュエータ(バルブ) このとき PFD の平均値が,そのバルブの全体としての の3つに大別されるが,各部位の故障率は,図 図2のよ うな分布をしていることが多いといわれている。つまり, 安全度を意味する。 全故障率のうち約半分がバルブの故障である。 故障が発生しているかどうかが検知できる。したがっ プルーフテストによってバルブの全閉テストを行うと, したがって,バルブの故障を診断する機構は,安 て,故障が発生していた場合は修理をして PFD を0 全ループ全体の故障診断に大きく寄与することになる。 にできるし,検査の結果故障が発生していないことが SIS のバルブにおける典型的な故障は,バルブが わかった場合も,PFD を0と考えることができるため, 閉まらない故障である。PST は全閉テストではないの プルーフテストのみを実施した場合の PFD の時間変 で,バルブの故障を100%検知することはできない。 化と PFD の平均値は図 図4上の図のようになる。 しかし,多くの故障が PST で検知できるという報告が なされている。PST はオンラインで実施可能なので, 図4下の図は,プルーフテストだけでなく PST も実 施した場合を示している。PST を実施するたびに,約 PST をプルーフテストよりも短い間隔で実施することに 70%の故障が検知されるとすると,PST を実施する より,プルーフテストで検知すべきバルブの故障率を たびに,約70%の故障分だけ PFD が下がるため,全 実質的に下げることができ,そのため,安全レベルを 体としての PFD の上昇率はなだらかになる。結果とし 低下させることなく,コストのかかるプルーフテストの間 て,PFD の平均値を変更せずに,プルーフテストの間 隔を延ばすことができる。 隔を延ばすことができる。 たとえば図 図3のように,PST で検出可能な故障が全 閉テストで検出可能な故障の70%だったとすると,7 (3)PST ソリューションの動向 コンセプトとして PST は新しいものではないが,近年 SIS 導入の必要性が広く認知されてきていることに伴 い,通常状態では動作しない緊急遮断弁のオンライ ンでの有効な診断技術として,欧米や中東の多くの ユーザが標準的に導入し始めている。 -------------------------------------------*2)PFD: Probability of Failure on Demand。 安全計装で重要な意味をもつ数値で,バルブの場 合には,プラントをシャットダウンするためにバルブ を閉める信号を受信したにもかかわらず,バルブの 故障により閉まらないという事象が発生する確率を 意味する。 割の故障は PST で検知され,修理や交換が促される。 このため,プルーフテストで検知すべき故障は全体の 約3割,つまり約3分の1に軽減される。したがって, PST の実施頻度にも依存するが,この場合,最長で プルーフテストを約3倍の長さに延ばすことができるこ とを意味する。つまり,低コストで実現できる PST を比 較的頻繁に行うことで,コストのかかるプルーフテスト (全閉テスト)の頻度を下げ,トータル保守コストを低減 する効果が期待できる。 2006 vol.49 No.11 2/4 図4 バルブの バルブのPFDと PFDと時間の 時間の関係 国内でも,高圧ガス保安協会から,部分作動検査の 2) CENTUM CS3000 がもつプラント階層の概念 導入を可とする指針が出されており,国内でも急速に (プラントを論理的な階層に分けて管理するため 注目され始めている。 の機能) 近年の機器のインテリジェント化の流れに伴 い,PST の実行と結果データの蓄積などをバル ブポジショナ自身が行うことが可能になってき ている。ProSafe-RS を用いてこのようなインテ リジェンスをもった機器と連携し,PST ソリュ ーションを提供することが必要と考えている。 また,CENTUM CS3000 HIS を ProSafe-RS の HMI としても使用するソリューションは,CENTUM CS3000 HIS 自身の進化に伴い,ProSafe-RS のオペレーショ ン環境も自動的に進化するという特性を持っている。 つまり,CENTUM CS3000 HIS の新機能のメリットを ProSafe-RS のユーザも享受できるのである。 現在2007年問題と言われているように,熟練オペ 2.2 DCSDCS-SIS 統合ソリューション 統合ソリューションの ソリューションの最新動向 レータの退職にともなう技術の伝承とオペレータ教育 ProSafe-RS の基本コンセプトの一つである,DCS- の 必 要 性 が ま す ま す 高 まっ てき てい る 。 今 後 は , SIS 統合ソリューションはユーザから高い評価を得て CENTUM CS3000 のコントローラのシミュレーション機 いる。この統合ソリューションを進化させるべく,当社 能と高度に連携し,DCS と SIS 全体をシミュレーション の DCS である「CENTUM CS3000」が持つ以下のよう した,オペレータのための訓練環境ソリューションを提 な機能を ProSafe-RS でもサポートし,よりシームレス 供するなど,DCS-SIS 統合環境でなければ実現でき な統合ソリューションを展開してきている。 ないソリューションが必要になってくると考えている。 1) CENTUM CS3000 HIS (DCS と SIS の統合化さ れた HMI)から安全に手動操作をするてめの機 能強化 2006 vol.49 No.11 3/4 図5 リモート I/O のスター型 スター型構成例 構成例 3.「ProSafe .「ProSafeProSafe-RS R1.02.00」 R1.02.00」の概要 られていた。本 A/O モジュールは SIL3 認証を受け ProSafe-RS R1.02.00 では,ユーザからの要求に対 て使用することが可能になる。 。 ているため,アナログバルブをシャットダウン用途とし 応し,機能強化を図っている。今回紙面の関係で,以 下の機能について紹介する。 3.1 リモート I/O ProSafe-RS の I/O ノードを,光リピータを使って 4.おわりに 安全システムの今後の動向と,ProSafe-RS R1.02.00 の新機能について概観した。ProSafe-RS は,安全計 装 シ ス テ ム と し て 機 能 す る だ け で な く , CENTUM CPU モジュールから遠く離れた場所に設置するため CS3000 やフィールド機器などとの連携により,より幅 の機能である。ProSafe-RS R1.01.00 では,二つの の広い安全ソリューションの提供を目指している。安 CPU モジュール間で制御バスを経由してセーフティ 全計装システムが普及してきている中で,客先ニーズ 通信を実現する機能がすでにサポートされていたが, に合わせたソリューションを提供し,安全重視の企業 リモート I/O を使用すると,一つの CPU モジュール 活動に貢献できれば幸いである。 でコントロールする I/O モジュールを,CPU モジュー ルから遠く離れた場所に設置できるため,パフォーマ ンス面でより優れたリモートコントロールが可能となる。 また,リモート I/O は図 図5に示すようなスター型接続も でき,より柔軟な構成が可能となっている。 <参考文献> 1) ISA EXPO2005 Technical Conference 資料 3.2 アナログ出力 アナログ出力モジュール 出力モジュール ProSafe-RS から 4~20mA のアナログ信号を出力す る A/O モジュール(Analog Output Module)を追加し た。ほとんどの安全アプリケーションは,プラントのシャ ットダウンが目的であるため,ON/OFF の DO(Digital Output Module が多く使われる。しかし,使用数は少 ないが,A/O モジュールがどうしても必要なアプリケ ーションがあることから,本機能はユーザから強く求め 2006 vol.49 No.11 ニシダ・ジュン 横河電機(株) IA 事業部システム事業センター 安全システム部 〒180-8750 武蔵野市中町 2-9-32 4/4
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