PLANT INVADER 帰化植物の分布 - 長野県教育情報ネットワーク

PLANT INVADER 帰化植物の分布
研究者
指導者
小幡美哉 上原誉之
鈴木笑美 松原舜
森本真衣
清水加奈先生
研究の動機
日本に帰化植物が多く侵入してきていると聞いた。木曽は森林が9割を占めており都市部とは
かけ離れた環境である。そんななか、木曽郡にはどのくらい分布しているか、また、どの様なと
ころに分布しているか知りたかったから。
本研究では木曽郡における帰化植物の種や分布、 侵入、増殖等の実態について調査することを
目的とした。一方、木曽郡は広大であり多くの植物種について分布を調べるの は困難である。そ
こで本研究では実験Ⅰとして木曽郡木曽町に位置する本校における植物種と帰化率を調べる。さ
らに、実験Ⅱでは背が高く遠くからでも 特定可能なオオアワダチソウとセイタカアワダチソウの
分布を調べ、木曽郡における帰化植物の増殖経過について考察する。
帰化植物とは
帰化植物は、
「 人 力 に よ っ て 、意 識 的 に せ よ 、無 意 識 的 に せ よ 、一 つ の 植 物 が 本 来 の 生 育 地 か ら 、
そのものが自生していない新しい地域にもたらされて、野生化して繁殖し、その植物の歴史を知
ら な け れ ば そ の 土 地 本 来 の 自 生 種 と 一 見 区 別 の つ か な い よ う に な っ て い る 状 態 を い う 。」と 定 義 さ
れている。過去 1600 年ほどの、記録のある時代に持ち込まれて野生化した植物が帰化植物とな
る が 、一 般 的 に は 明 治 維 新( 1 8 6 8 年 )前 後 か ら の も の を 帰 化 植 物 と 扱 っ て い る 。ま た ヨ ー ロ ッ パ
諸 国 と の 交 流 が 始 ま っ た 安 土・桃 山 時 代 か ら の も の を 帰 化 植 物 と 扱 う 、と い う 見 解 も あ る 。現 在 、
日 本 で は 1 5 0 0 種 を 超 え る 帰 化 植 物 が 知 ら れ て お り 、こ れ は 日 本 で 見 ら れ る 植 物 全 体 の 2 0 % を 超
える数字となっている。
実験Ⅰ
~身近な帰化植物~
《目的》
どんな種類の帰化植物が私たちの身の回りに生えているのか調べる。また、身近に ある植物の
種数のうち、帰化植物の種数の占める割合(帰化率)を調査する。
帰化率について
ある地域に生息している植物の種数のうち帰化植物の種数の割合のこと。在来種と帰化植物の
種数を調べ他地域と比較することで、その地域にどれくらい帰化植物が 侵入してきているかわか
る。
《仮説》
帰化率の値は、調査地点によって差があり、高い地域と低い地域がある。 木曽郡は山間部であ
るから、帰化植物の侵入が尐ないと考えられる。したがって、帰化率は、他地域と比べて低いと
予想した。
6 ― 1
《調査方法》
木曽青峰高校の敷地内で発見した草本を採取し、図鑑などで、それらの種名と、帰化植物か在
来植物かを調べる。
帰化率の計算方法は(帰化率=帰化植物の種数÷全植物の種数×100)であるから、採取した植
物の種数を数え、この計算式で帰化率を計算する。
《結果》
調査場所
調査日
木曽青峰高校敷地内
2011 年 10 月 4 日(火)
確 認 し た 植 物 の 種 は 、下 の 表 - 1 の 通 り で あ る 。○ は 帰 化 植 物 、× は 在 来 植 物 を 表 す 。高 校 の 敷
地内で確認できた 42 種の植物のうち、13 種が帰化植物だった。
表-1
番号
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
名前
ハルジオン
イノコヅチ
ウシハコベ
オオヨモギ
ヨモギ
マルバルコウ
アオミズ
ハナタデ
アレチノギク
イヌタデ
ヒメジョオン
シロツメクサ
アカツメクサ
ノコンギク
ナギナタコウジュ
クサノオウ
ツリガネニンジン
コウゾリナ
ナンテンハギ
エゾンギシギシ
フジ
実験Ⅰにより確認された植物
帰化植物
○
×
×
×
×
○
×
×
○
×
○
○
○
×
×
×
×
×
×
○
×
番号
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
名前
イヌワラビ
ワラビ
ボタンヅル
ヘクゾカズラ
カントウヨメナ
アカネ
ゲンノショウコ
ノゲシ
アキメヒシバ
エノキグサ
カタバミ
ニシキソウ
チチコグサ
オオアレチノギク
シロザ
アズマネザサ
ススキ
セイバンモロコシ
ノビル
エノコログサ
キンエノコロ
帰化植物
×
×
×
×
×
×
×
○
×
×
×
×
○
○
○
×
×
○
○
×
×
表-1 より 13÷42×100≒30.95 よって 帰化率:31.0%である。また、この表の中に含まれ
る植物のうち、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 侵入生物データベースの国内
移入分布が「ほぼ全国」となっている植物を、下に 挙げた。
エゾノギシギシ
シロツメクサ
ヒメジョオン
ハルジオン
6 ― 2
《考察》
木曽青峰高校敷地内の帰化率について考察するため、他の調査地点の帰化率を文献により調べ
た。他地域の帰化率を以下に記す。
《他地域の帰化率》
秋田県 男鹿市 羽立
秋田県 大館市 平滝
53.1%
38.0%
千葉県
千葉県
浦安市
市川市
29.6%
23.7%
秋田県 秋田市 山王
30.7%
千葉県
船橋市
21.9%
神奈川県 相模原市
17.5%
愛知県
尾張旭市
34.1%
岐阜県 各務原市
16.3%
和歌山県 橋本市 橋本中学校
40.9%
岐阜県 恵那市
岐阜県 高山市
11.4%
8.1%
和歌山県 紀伊大島
11.7%
岐阜県 多治見市
6.1%
今回の調査で得られた帰化率は 31.0%であり、本校は山間地に位置するにもかかわらず、
長野県に隣接する岐阜県の調査地点と比べて非常に高い。 このことは木曽青峰高校が、国道近く
に位置し、生徒が広い地域から通っており、帰化植物の種子が運ばれてきやすい ためであると考
えられる。
全国の校庭などに一般的にみられるエゾノギシギシやハルジオン などの帰化植物が木曽郡にも
侵入してきていることから、木曽郡の帰化植物の侵入が進んでいると考える。
以上から青峰高校内には多くの帰化植物が侵入していることがわかった。次に、実験Ⅱではさ
らに木曽郡ではどのくらい帰化植物が侵入しているのか調べた。
実験Ⅱ
《研究の目的》
木曽郡内では帰化植物はどの様なところに生えているか知る。そして、なぜそのような分布に
なるのか考察する。
《仮説》
車等に種子が付着して運ばれてくることがあり、車通りが多いところに たくさん生えているの
ではないか。また川の近くに生えやすいという性質 から川の近くに多く分布しているのではない
か。
《研究方法》
分 布 の 調 査 の 対 象 を 、背 が 高 く 、見 つ け や す い「 セ イ タ カ ア ワ ダ チ ソ ウ 」、
「オオアワダチソウ」
に絞った。そして木曽郡内の国道と県道、川沿い、線路沿い、中心に 歩行、車内から、電車内か
ら 、自 転 車 に 乗 り な が ら な ど で 個 体 群 を 探 し 、そ の 場 所 と 個 体 数 を 調 べ る 。結 果 を 地 図 に ま と め 、
分布の傾向を読み取る。今回の調査は時間が限られているので、国道と県道、川沿い、線路沿い
を中心に調べた。
6 ― 3
図-1
個体群について
個体群について
セイタカアワダチソウにはいくつかの個体が、集まって生える性質がある。オオアワダチソウ
も大群落になることはないが、ややその性質が見られる。ある集団がほかの集団と 10 メートル
以上離れているときに、その集団を 1 つの個体群とみなして、調査することにした。また、個体
数が 1 から 49 までのものを小個体群、50 から 99 までのものを中個体群、100 以上のものを大
個体群とした。
《セイタカアワダチソウ》
キク科
花期
高さ
10 月~11 月
1m~2.5m
原産
北アメリカ
特徴
空き地や河川敷、温暖地を好む。
種子と地下茎で繁殖する。
《オオアワダチソウ》
キク科
花期 7 月~9 月
高さ 0.5m~1.5m
原産 北アメリカ
特徴
やや湿ったところを好む。
大群落を作ることはない。
6 ― 4
結果
実 験 Ⅱ の 調 査 結 果 を 地 図 上 に 示 し た ( 図 - 2 )。
R1 9
開田
宮ノ越
王滝
セイタカアワダチソウ
オオアアワダチソウ
上松
●
●
●
大桑
☆ 土砂の移入が認められた地点
野尻
調査した国道
その他の調査した道路
三留野
田立
図-2
セイタカアワダチソウおよびオオアワダチソウの分布
上の図から、セイタカアワダチソウとオオアワダチソウは 国道のような主要な道路沿いに多い
ことがわかった。
セイタカアワダチソウについては国道沿いの地域の中でも、木曽町宮ノ越 駅、上松駅、南木曽
町田立駅に分布が集中している。田立駅周辺では、大型の個体群が多数見られた。
オオアワダチソウは、セイタカアワダチソウが生えていない 開田のような寒い地域にも生えて
いた。南木曽町ではオオアワダチソウは確認できなかった。
6 ― 5
個体群の数が多かったセイタカアワダチソウについて、地域ごとの個体群サイズ、生息地から
国 道 ま で の 距 離 、 お よ び 生 息 地 か ら 河 川 ま で の 距 離 を グ ラ フ 化 し た ( 図 - 3 , 4 )。
図-3
図-4
6 ― 6
考察
地図上で、個体数が特に多かった宮ノ越、上松、南木曽町の個体群の割合 (図-3)によると、
セイタカアワダチソウは木曽郡においても温暖な 南方の地域や川沿いを好んで生息し、寒い地域
に は あ ま り 定 着 し な い と 考 え ら れ る 。 さ ら に 、 川 の 近 く で は 大 個 体 群 の 割 合 が 高 い ( 図 - 4 )。
南に行くにつれて大個体群の割合が増えているのは、大型の個体群が集中する地域が、他地域
よりも比較的早い時期に、植物が侵入した地域だからだと考えられる。そのため、木曽郡では、
宮 ノ 越 、上 松 、田 立 な ど の 地 域 か ら セ イ タ カ ア ワ ダ チ ソ ウ が 侵 入 し 、分 布 を 広 げ た と 推 測 さ れ る 。
またセイタカアワダチソウは河川付近に大型の群落をつくる傾向があることから 、侵入後は河川
に近い水分に富んだ地域を中心に爆発的に増殖すると考えられる。
セイタカアワダチソウとオオアワダチソウが国道などの主要な 道路沿いに多く分布しているの
は、車などが種子を運んでくるからと推測される。宮ノ越、上松駅、南木曽町田立は、土木工事
な ど に よ る 土 砂 の 出 し 入 れ が 行 わ れ て い た ( 図 - 5 )。 工 事 や 整 備 等 が 確 認 さ れ た 場 所 を 図 1 の 地
図上の星印で示す。そのため、土砂や工事の車などに混ざり、ほかの地域から種子が運ばれてき
たことが、多くの個体群が集中して分布していた原因と考えられる。
図-5
まとめと今後の課題
木曽にも他地域と同じように帰化植物が分布を拡大している。一方帰化植物の 侵入場所は、土
砂の入れ替えのある一部の地域に限定される。そのため木曽郡には着実に帰化植物が 侵入してお
り今後も帰化植物が緩やかに分布を拡大していくと推測される。
今回の研究では、木曽郡全体という広い範 囲を特に制限なく調査したが、分布の集中の原因を
確実に特定するためには、地域を絞ってその地域内でくまなく分布を調査することが有効だと考
えている。
6 ― 7
謝辞
こ の 研 究 に あ た っ て 、ご 指 導 し て く だ さ っ た 清 水 加 奈 先 生 を は じ め 、ご 協 力 し て く だ さ っ た 方 々
にお礼申し上げます。
参考文献・参考 URL
清水矩宏/森田弘彦/広田伸七 編・著 「日本帰化植物写真図鑑 Plant invader 600 種」 全国
農村教育協会 2001 年 388、389 ページ
国土地理院地図
国土地理院地図
国土地理院地図
木曽福島
2003 年
伊那
2003 年
上松 1990 年
国土地理院地図
妻籠
2008 年
岩瀬徹/中村俊彦/川名興 著
校庭の雑草
全国農村教育協会
1998 年
46、47、89 ページ
木曽森林組合
木曽谷流域森林・林業活性化センター
http://www.jawic.or.jp/riyou/ryu_iki/hokuriku/067.html
かがやき(総合的な学習の時間)
帰化植物が増えている
http://www.geocities.co.jp/NeverLand/5537/sougou.htm
各務原市「環境まなびサイト」
各務原市の帰化植物
http://www.city.kakamigahara.lg.jp/manabi/shokubutu/sho_05.html
千葉県浦安市公式サイト
浦安の自然
調査報告 植物相の概況
http://www.city.urayasu.chiba.jp/menu3751.html
恵那野生植物探索の会 恵那の植物
http://tansaku.enat.jp/99_blank.html
紀伊大島植物目録
http://fserc.kyoto-u.ac.jp/oshima/inspection/pdf/1.pdf
維管束植物 目次 - NIES 侵入生物 DB
http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/toc8_plants.html
6 ― 8