たつ りゅう 辰(竜)にまつわる民話 薬王寺の上り竜と下り竜(岐阜県) むかしむかし、帷子(かたびら)というところ が毎日の日照り続きで、村人たちは困って いました。 そこで村人たちは、来る日も来る日も薬師 堂にこもって、雨ごいのお祈りをしていたの です。 そんなある日の事、一人の老人が、ふ 1 薬王寺の上り竜と下り竜(岐阜県) と上を見上げて、高梁(たかばり)に彫られた 竜を見つめました。 「ほう。さすがは名人といわれた林市衛門と 玉置吉兵衛が作っただけの事はあるのう」 すると、ほめられたのがうれしかったのか、 下り竜の舌がペロペロと動き、上り竜の尾が ピクピクと動いたのです。 それを見た老人は、思わず竜に手を合わ せて言いました。 「竜よ、心あるなら聞いておくれ。この 2 薬王寺の上り竜と下り竜(岐阜県) 村はな、もう一ヶ月も雨が降らんのじゃ。もう、 何もかも枯れてしまい、このままでは村は全 滅じゃ。お前たちが本当に水を呼ぶ事が出 来るのなら、どうか雨を恵んでくだされ」 すると不思議な事に、晴れ渡っていた空に 黒雲がひろがって稲妻が光ると、いきなり、 ものすごい雨がザーザーと降り出したので す。 「おおっ、雨だ! 竜が雨を降らせてくれた ぞ!」 薬王寺の上り竜と下り竜(岐阜県) 3 村人たちは飛び上がって喜びましたが、今 度はその雨があまりにも振り過ぎたために、 大水で田畑が流されそうになったのです。 するとあの老人は、また薬師堂へ行って竜 に手を合わせました。 「いくら雨が欲しいと言っても、これでは田畑 も家も大水に押し流されてしまう。どうか、雨 をやませて下され」 すると、たちまち雷鳴はおさまって、空は青 く晴れ渡ったのです。 薬王寺の上り竜と下り竜(岐阜県) 4 この大雨のおかげで、死にかけていた田 畑は生きかえりました。 そこで村人たちは、再び薬師堂にお礼の お参りをしたのです。 そして、ふと高梁の竜を見上げてみると、 不思議な事に下り竜の片目がつぶれていた ということです。 おしまい 福娘童話集許可転載<http://hukumusume.com/douwa/> 薬王寺の上り竜と下り竜(岐阜県) 5
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