福岡教育大学紀要,第63号,第3分冊,91 97(2014) 遠賀川河川敷におけるセイタカアワダチソウ群落の立地と成長 Distribution and growth of Solidago altissima L. in Nakashima, Onga river. 福 原 達 人 清 水 桃 子 村 口 未 来 Tatsundo FUKUHARA (福岡教育大学教育学部 Momoko SHIMIZU Miki MURAGUCHI (福岡教育大学教育学部) (福岡教育大学教育学部) 理科教育講座) (平成25年 9 月30日受理) 遠賀川中流の中島(福岡県中間市)において,(1)高水敷掘り下げによりできた裸地へのセイタカアワダ チソウの侵入・生育状況と(2)セイタカアワダチソウ-オギ群落の生産構造と地上部刈り取りの影響を調 査した。平水位からの比高 0.8 ~ 1 m よりも低い掘り下げ地でセイタカアワダチソウの発芽・生長・開花が 抑制される傾向があった。セイタカアワダチソウとオギが強く優占する群落における 6 月の地上部刈取りは, オギによる被陰を解消することを通じて,オギとセイタカアワダチソウの競合において相対的にセイタカア ワダチソウに有利にはたらいたことが示唆された。 1.序論 北米原産の多年草セイタカアワダチソウ (Solidago altissima L.)は,国内のさまざまな草 地生態系,特に耕作などの利用・管理が放棄され た立地や造成地で蔓延しており,在来種との競合 を通じて生物多様性に負の影響を与えている(清 水ら 2001; 清水 2003; 環境省・要注意外来種リス ト)。 河川の高水敷はセイタカアワダチソウの生育に 適した適湿かつ窒素分に富んだ土壌であることが 多く,しばしば大群落を形成する。セイタカアワ ダチソウは多年生在来種オギとの混合群落として 図 1 .調 査区の平面図及び断面 図。断面図の点線は計測 時の水位を示す。 92 福 原 達 人 ・ 清 水 桃 子 ・ 村 口 未 来 図 2 .発 芽 2 年目のセイタ カアワダチソウ個 体。 草 姿(A) と 掘 り出した別個体(B)。 矢印で前年の枯れ 茎,楔形で今年の新 茎を示す。 存在することも多く,遷移の進行とともにセイタ カアワダチソウ群落→セイタカアワダチソウ─オ ギ群落→オギ群落と移行するとされる。 高水敷のセイタカアワダチソウを制御する方策 としては,地上部刈り取りが最も頻繁に行われて いる。多大な労力を要するが,セイタカアワダチ ソウを判別して根茎ごと抜き取る「選択的抜き取 り」が最も有効と考えられ,住民参加による事業 が成果を上げたケースも報告されている(西廣ら 2004)。地盤の掘り下げによる湿地化は,地下部 の完全除去と冠水による芽生えの枯死をもたらす 効果がある(石井ら 2011)。 本研究では,国土交通省による高水敷掘り下げ が行われた遠賀川中流の中島(福岡県中間市)に おいて,以下の 2 点について調査を行った。 (1)高水敷掘り下げにより生じた裸地へのセイタ カアワダチソウの侵入・生育状況 (2)セイタカアワダチソウ-オギ群落の生産構造 と地上部刈り取りの影響 2.高水敷掘り下げによりできた裸地へのセイタ カアワダチソウの侵入・生育状況 調査地(北緯 33°48′31″東経 130°42′6″付近) は元の地表面から 1 ~ 3.5 m 掘り下げられてでき た裸地で,セイタカアワダチソウの地下茎は残存 していなかった。2010 年 5 月の掘り下げ完了後, 6 月初めから下旬にかけて種子由来の個体が出現 し(4 m × 12 m の調査区に 7 個体),その一部は 高さ 50 ~ 70 cm に達して晩秋に開花した。福岡 県では,刈取りで背が低くなったセイタカアワダ チソウの茎はしばしば枯れずに越冬するが,調査 地では全ての茎が枯れ,地下茎から出たロゼット で越冬した。 2.1.2010 年秋から 2011 年初夏にかけての栄養 繁殖 翌 2011 年に調査区を 8 m × 28 m に広げた(図 1)。6 月 1 日及び 8 日には調査区内に 51 個体があっ た。それらのうち,37 個体は越冬個体と推定され, 1 ~ 4 本の枯茎(前年茎)の周囲を取り巻くよう に 1 ~ 6 本の新しい茎(当年茎)が直立しており(図 2A,矢印が前年茎,矢尻が当年茎を指す),それ らは地表近く~地中約 10 cm の深さを横に伸び る地下茎でつながり合っていた(図 2B)。前年茎 の本数と当年茎の本数の関係を図 3 に示す。前年 茎が 1 本の 28 個体では,当年茎も 1 本に留まる 個体が 9 個体で,残る 19 個体では当年茎 2 ~ 6 本に増えていた。前年茎が 2 本以上の 18 個体で は,全ての個体で当年茎の本数が前年茎を上回っ た。平均すると,前年茎の本数は 1.38 ± 0.76(平 均±標準偏差で示す),当年茎の本数は 3.08 ± 1.74 で前年茎のおよそ 2 倍だった。 残る 14 個体は前年茎がなく,晩秋以降に種子 から由来した個体と推定された。 2.2.2011 年初夏から 2011 年秋にかけての栄養 繁殖・開花 2011 年 6 月 29 日に調査区の半分(図 1 の上段 1 ~ 14)でセイタカアワダチソウを地下茎も含め て除去した(除去区)。約 5 ヵ月後の 11 月 10 日 遠賀川河川敷におけるセイタカアワダチソウ群落の立地と成長 に非除去区・除去区の両方で,セイタカアワダチ ソウの茎の本数・茎の高さ・開花の有無を記録し た。11 月 10 日には茎の密度が高くなっており, 個体どうしの境界を認識するのが困難なケースが 多くなっていたため,個体の識別は行わなかった。 開花している茎については,非開花の茎と比較で きるよう,花序の直下の葉がついている部分まで の高さを「茎の高さ」とした。 6 月の除去直後と 11 月の再調査時のセイタカ アワダチソウの茎数を区画ごとに示したのが図 4 である。非除去区では茎数が 6 月の 55 本から 266 本(うち 38 本は開花)に増加し,除去区で も新たに 147 本の茎が出現した。 茎の出現・成長・開花の状況は区画によって大 きな差があった。水際に近い区画 12 ~ 14 では新 個体の侵入は見られず,区画 10 ~ 11 でもごくわ ずかだった。また,開花個体が多く見られたのは 区画 4 ~ 6 のみで,区画 1・3・7 ではごく少数の 開花のみが見られ,他の区画では全く開花が見 られなかった。区画ごとの茎の高さと開花 / 非 開花の関係を見ると(図 5),おおむね茎の高さ 90 cm で開花 / 非開花が分かれており,茎が多い 93 図 3 .調査区内 51 個体における前年茎数と当年茎 数の関係。数字は個体数を示し,丸で囲ま れた数字は新たに発芽した個体数を示す。 図 4 .6 月 29 日・11 月 10 日のセイタカアワ ダチソウの茎数。A ──非除去区,B ─ 除 去 区。6 月 29 日 については,枯れた 前年茎と新しく伸 長した当年茎の両 方 を 示 す。11 月 10 日については,開花 茎と非開花茎を色 分けして示す。 94 福 原 達 人 ・ 清 水 桃 子 ・ 村 口 未 来 図 5 .非 除去区における茎の高 さ の 分 布。 ● ─ 開 花 茎, +─非開花茎。 にもかかわらず開花が見られない(あるいはごく わずかな)区画では,茎の成長が抑制されていた。 3.セイタカアワダチソウーオギ群落の生産構造 と地上部刈り取りの影響 中島中央部の掘り下げ域外にあるセイタカアワ ダチソウ─オギ混合群落において層別刈り取りを 行った。樹木等に被陰されていない平坦地の群落 を選んで 2 m × 2 m の方形区を設定し,群落最 上部から地表面の 20 cm 上まで 20 cm 毎に刈り 取った。地表面から上 20 cm までは,地表の凹 凸と枯茎・枯葉が堆積しているため,刈取ること ができなかった。 刈取りは春に 1 ヶ所,秋に 2 ヶ所,延べ 3 回行っ た。 (1)春季群落(2012 年 5 月 30 日・6 月 6 日) (2)秋季群落(2012 年 11 月 5 日) (3)秋季再生群落(2012 年 10 月 19 日) (1) と (2) は互いに近接しており(北緯 33°48′32″ 東経 130°42′7″),日照や土壌の条件も大きな差 がない。(3)は(1)と同じ方形区で,刈り取り 4 ヵ 月後に再生した群落で行った。 刈り取った植物体は研究室に持ち帰って熱風乾 燥し,オギ・セイタカアワダチソウ・その他の種 に分け,さらに茎・葉・花序・枯死部に分けて重 量を測定した。なお,オギの葉鞘は形態学的には 葉の一部だが,茎に巻きついて葉を支える機能を 持つため,本研究では茎に含めて扱った。 各刈取りにおける総重量(枯死部を除く)の内 訳を図 6 に示す。 春季群落ではオギとセイタカアワダチソウの重 量は拮抗していた(オギの重量 / セイタカアワダ チソウの重量= 1.07)が,秋季群落ではオギの重 量はセイタカアワダチソウの約 2.87 倍にのぼっ た。これは,セイタカアワダチソウの重量が春季・ 秋季でほとんど変わらないのに対して,オギは 秋季が春季の約 2.65 倍あることを反映している。 秋季再生群落では春季群落と同様に両種の重量は 拮抗していた(オギの重量 / セイタカアワダチソ ウの重量= 1.2)。 オギでは,春季・秋季・秋季再生の間で葉の重 量に大きな差がなかった(春季 : 秋季 : 秋季再生 = 1 : 1.07 : 0.99)。つまり,春季と秋季の総重量 の違いは,茎の重量の違いによる。 オギとセイタカアワダチソウ以外の植物は,春 季には総重量の 3.8%(ヘクソカズラ・ノイバラ・ ホソバイラクサ・サンカクイなど),秋季では 2.8% (ノイバラ・ホソバイラクサ・センニンソウなど) だったが,秋季再生では 0.05% 未満(ヘクソカズ 遠賀川河川敷におけるセイタカアワダチソウ群落の立地と成長 95 図 6 .遠賀川中島におけ る 2 m×2 m 方 形 区から刈り取られ たオギ・セイタカ アワダチソウ・そ の他の植物の乾燥 重量。上から,春 季群落・秋季群落・ 秋季再生群落。葉・ 茎(オギでは葉鞘 も含む)・花序の 内訳を色分けで示 す。 図 7 .遠賀川中島におけ る 2 m × 2 m 方 形区から刈り取ら れたオギ・セイタ カアワダチソウ・ その他の植物の乾 燥重量の高さ階級 (20 cm 毎 ) 別 の 分布。上から,春 季群落・秋季群落・ 秋季再生群落。葉・ 茎(オギでは葉鞘 も含む)・花序の 内訳を色分けで示 す(凡例は図 6 と 同じ)。 96 福 原 達 人 ・ 清 水 桃 子 ・ 村 口 未 来 ラなど)に留まった。 高さ階級別の重量の分布を図 7 に示す。春季・ 秋季・秋季再生に共通するのは次の 2 点だった。 (1)オギ・セイタカアワダチソウとも葉群が群落 の上部に偏る垂直構造を示した。(2)オギの葉群 分布はセイタカアワダチソウよりも高いところに 分布する傾向があった。 の比高 0.8 ~ 1 m よりも低い掘り下げ地でセイタ カアワダチソウの発芽・生長・開花が抑制される 傾向がある。ただし,2011 年には 40 cm 未満の 低い茎しかなかった区画 8・9 では,2012 年には セイタカアワダチソウの生育が良く被覆率・開花 率とも高かった。年ごとの降水や水位変動によっ て抑制に十分な比高が変動する可能性がある。 4.考察 調査地では,種子から発芽したセイタカアワダ チソウは,一部が 1 年目秋に開花した。圃場での 栽培実験ではセイタカアワダチソウは発芽年の秋 に開花・結実することが報告されている(榎本・ 中川 1977)。1 年目の調査地は他の植物の被覆率 が小さく地表が多く露出した条件であった。他種 との競合や被陰がなく土壌条件が良好なときに は,セイタカアワダチソウは 1 年目に開花・結実 すると考えられる。また,1 年目には茎高 50 ~ 70 cm で開花したが,2 年目は茎高は花序を除い て最大 190 cm に達し,90 cm を超える茎の多く は開花した(図 5)。東広島市の空き地のセイタ カアワダチソウ群落でも開花茎と非開花茎は高さ 1 m で分かれている(中島ら 2000)。 水路へ向かう緩斜面沿いに設置された調査区 で,水路に近い区画ほど発芽・生長・開花が抑 制される傾向があった。平水位から 0.8 m 以下の 区画 10 ~ 14 では,新しく発芽した個体はゼロ かごくわずかだった。区画 13・14 は背が高いヨ シ・オギが密生しているが,区画 10 ~ 12 は植物 の被覆率は 33.5% ~ 60% で,地表は十分に露出 していたため,セイタカの侵入がないことを他種 との競合だけで説明することはできない。中島掘 り下げ地の 1 m × 1 m メッシュ毎の植生データ と比高データを解析した研究では,平水位から比 高 0.8 m 以下ではセイタカアワダチソウの繁茂が 抑制されていることが報告されており(眞間ら 2013),発芽個体の有無はこの傾向とほぼ一致し ていた。 開花個体は平水位から 1 m 以上高い区画 1 ~ 7 に限られ,多数個体が開花したの区画 4 ~ 6 のみ であった。前後の区画より茎数・茎高・開花数が 落ちる区画 2・3 は,平水位から 2 m 近く高いに もかかわらず,斜面の傾斜が変わる凹部にあたる ために渇水期以外は斜面から滲出した水によって 土壌が湿っている。比高の違いによる冠水頻度に 加えて微地形による土壌の乾湿もセイタカアワダ チソウの抑制に関与していると考えられる。 以上をまとめると,中島においては平水位から セイタカアワダチソウ群落に対する地上部刈取 りの効果は,回数・時期・競合種の組成によっ て異なる(服部ら 1993; 富沢・鷲谷 1998; 田中ら 2004)。淀川高水敷のセイタカアワダチソウ群落 では,地上部刈取りは刈取り頻度が増すに従っ てセイタカアワダチソウの優占度の低下と種数 の増加をもたらしたが,年 1 回(6 月)の刈取り では無刈取り区とほとんど差がなかった(服部 ら 1993)。田中ら(2004)のモデル解析(両種の 成長パラメーターの実測値に基づく)では,セイ タカアワダチソウ・オギの混合群落において,地 上部刈取りがない場合はセイタカがオギに被陰さ れて 3 年後に消滅するが,7 月に 1 回の刈取りが 行われる場合はセイタカがオギに対して優位とな る,と予測した。 中島のセイタカアワダチソウ─オギ群落では, この 2 種で重量比 95% 以上を占めており,セイ タカアワダチソウは上方に葉を広げるオギによっ て被陰されている。刈取りがない場合,秋季には オギは茎の伸長に多くの資源を費やしてセイタカ より高く葉を広げている。この結果,春季にはほ とんど差がなかった地上部の重量が,秋季にはオ ギがセイタカアワダチソウの 3 倍近くにのぼる。 6 月に刈取りを行った場合は,秋季になってもオ ギとセイタカアワダチソウの地上部重量における 差は小さい。 セイタカアワダチソウとオギが強く優占する群 落における 6 月の地上部刈取りは,オギによる被 陰を解消することを通じて,オギとセイタカアワ ダチソウの競合において相対的にセイタカアワダ チソウに有利にはたらいたことが示唆され,田中 ら(2004)の予測とほぼ一致していた。また,2 種以外の植物は刈取りによって強く抑制され,群 落レベルの多様性が低下した。 5.謝辞 掘り下げ裸地における生育状況は清水の 2011 年度卒業研究,セイタカアワダチソウ─オギ群落 の生産構造は村口の 2012 年度卒業研究に基づい ている。中島の管理者である国土交通省遠賀川河 遠賀川河川敷におけるセイタカアワダチソウ群落の立地と成長 川事務所には,調査の許可とともに各種の情報を 提供いただいた。中島自然再生研究会事務局(応 用生態工学会福岡支部内)には調査の進行に関し て各種の便宜を図っていただいた。 6.引用文献 石井潤・橋本瑠美子・鷲谷いづみ.2011.渡良瀬 遊水地の湿地再生試験地における初期の植 生発達.保全生態学研究 16: 69-84 榎本敬・中川恭二郎.1977.セイタカアワダチソ ウに関する生態学的研究.雑草研究 22: 202208 環境省.セイタカアワダチソウ(要注意外来生 物 リ ス ト : 植 物 )http://www.env.go.jp/ nature/intro/1outline/caution/detail_sho. html#4 清水建美(編).2003.日本の帰化植物.平凡社. 東京. 清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七.2001.日本帰化 植物写真図鑑.全国農村教育協会.東京. 田中規夫・湯谷賢太郎・北上裕規・浅枝隆.2004. 生長期における刈り取りがオギの翌年の成 長ならびにセイタカアワダチソウとの競合 関係に与える影響について.土木学会論文 集 761: 95-100 富沢美和・鷲谷いづみ.1998.フジバカマとセイ タカアワダチソウの夏季における地上部喪 失に対する反応─復元植生の管理計画を立 てるために─.保全生態学研究 3: 57-67 中島克己・根平邦人・中越信和.2000.セイタカ アワダチソウ個体群に対する刈り取りの 影響.広島大学総合科学部紀要 IV 理系編 26: 81-94 西廣淳・西口有紀・西廣(安島)美穂・鷲谷いづ み.2007.湿地再生における外来植物対策 : 霞ヶ浦の湖岸植生帯再生地における市民参 加型管理の試み.地球環境 12: 65-80 服部保・赤松弘治・浅見佳世・武田義明.1993. 河川草地群落の生態学的研究 I.セイタカ アワダチソウ群落の発達および種類組成 におよぼす刈り取りの影響.人と自然 2: 105-118 眞間修一・遠山貴之・山下健作・石坪昭二・原 田佐良子・梅田真吾・柴田みゆき.2013. 遠賀川中島自然再生のモニタリング成果 と 順 応 的 管 理 の 試 案. 河 川 技 術 論 文 集 19 http://www.yachiyo-eng.co.jp/case/ papers/pdf/2013_13_mama.pdf 97
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